ネクオロでした
スポンサーサイト
-------- -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
別窓 | スポンサー広告
零の使い魔。 第一話
2007-06-09 Sat 18:36
 大切なものを「大切だった」と気がつくのは、大抵はそれを無くした時だ。


 大事なものであれ、大切な人であれ、無くした後に初めてその重要性に気がつく。


 そして俺が無くした「大切だったもの」……それは―――平凡な毎日だった。



零の使い魔。 第一話 <光>






「……あんた誰?」


「…………」


 見上げた先には黒いローブをまとった少女の姿があった。


 長い桃色の髪を風に靡かせ、どこか不満そうな表情で俺を見つめる少女。


 その鳶色の瞳には怒りの色さえ見え隠れしている。


 ……おかしい。


 何と言っていいのかわからないが、兎に角おかしい。


 とりあえずわかったことは、ここが俺の住んでいる国じゃないということだった。


 少なくとも―――


「きゅいきゅい」


 ―――と鳴く大きなトカゲはウチの近所にはいなかった……と思う。


 そしてその青いトカゲは大空へと巣立って行った。


 頭が危機的状況に至っている(端的に言うなら禿の)中年の男性に何やら言っている桃色少女を尻目に、周囲の光景に視線を飛ばす。


 さっきからやけに人の視線を感じるとは思っていたが、どうやらそれは杞憂などではなかったようだ。


 桃色少女と同じ格好をした少年、少女たちが意味深な笑みを浮かべながら俺のことを眺めている。


 耳を澄ますと何故か『ゼロ』という単語が頻繁に耳に届いた。


 一体何を指して「ゼロ」だと言っているのかわからないが、下手な行動を起こして彼らの怒りを買っては大変だと思い、おとなしくしていることにする。


 あぁ、それにしても前髪が鬱陶しい。


 光る鏡のような物体を潜る前、俺は長く伸びた前髪を切るために床屋に向かう途中だった。


 ついつい興味本位からあの鏡を通ってしまったが、どうせやるなら髪を切った後にするべきだったと後悔している。


 ……いや、そもそもあの鏡を通ったことが間違いだったっけなぁ。


 小さく嘆息し、人間だけでなく大中小の動物(?)たちが闊歩する広場に腰を下ろす。


 最近引きこもり気味だったのが災いしたのか、家から出て五分ほど歩いただけで俺の足はもう鈍い痛みを発し始めていた。


 こいつはさすがにやばいかもしれん……。


 まだ二十一だと言うのに、この程度の運動で疲れていてはあまりに情けない。


 家に帰ったら毎日運動するようにしようと固く心に誓う。


 まあ、俺がそれを守れる可能性は限りなくゼロに近いのだが。


 ……それにしてもここは一体どこなのだろうか?


 現実逃避はこれ以上無理だと観念し、今まで意識して考えなかった事項に頭を巡らせる。


 少し離れた位置には石で作られた建物が見える。


 この地域ではああいった建築様式が主流なのか、どことなく城のようにも見える不思議な建築物だ。


 五本の塔によって成り立っている……何と言うか、昔映画か何かで見た教会に似ている。


 日本語が通じることからしてここは日本だとは思うけど……日本だよな?


 そんな俺の疑問に答えようとしてくれたのか、強い風が広場を駆け抜けて行った。


 視界の妨げとなっていた前髪が風に煽られ、持ち上がる。


 と、その時偶然あの桃色少女と目が合った。


 あの中年男性との話し合いが終わったのか、こちらに戻ってくるところだったらしい。


 俺と視線が交差した少女はわかり易いくらい身をびくりと硬直させる。


 その表情には何故か恐怖の色が見て取れた。


 ……あぁ、なるほど。


 しばし悩み、頭に手を当てたところで気づいて納得する。


 先ほどの風で前髪が持ち上がったままになってしまっているから、少女としてはそれが気に入らないのだろう。


 一つ一つの動作に気品みたいなものも感じるし、もしかしたら彼女はどこかのお嬢さまなのかもしれない。


 だとしたら、確かに身なりの悪い人間=不良という答えに辿り着いたとしても不思議はないよな……今更の感じもするが。


 特に俺は目つきが悪いらしく、数少ない友人から何度も「お前の目は人殺しの目だ」と馬鹿にされ続けていたくらいだから、怖い気持ちになるのも仕方ないか。


 まったく……虫を殺すことにさえ抵抗を感じる俺が、人を殺せるわけがないのに。


 大丈夫だからという気持ちをこめて笑いかけ、両目を前髪で隠す。


 視界がまた悪くなってしまったが、背に腹は変えられなかった。


 と言うか、ちょっと目が合っただけで泣きそうな表情になるのは堪える。


 でも、彼女も害意があってそういった表情をしたわけじゃないから責めるのはお門違いもいいところ。


 仕方なく、俺は少しションボリとした気持ちで目線を地面に落とすことにした。


 ……と言うか、本当にここはどこなんだろう? フランス村とかか?








ゼロの使い魔 第一話 <闇>









 ルイズこと、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは困惑していた。


 魔法が一つも使えないことから彼女につけられた不本意な渾名『ゼロのルイズ』。


 今日の儀式、春の使い魔召還の儀はその不名誉を払拭する絶好の機会だった。


 ルイズは今日のために必死で勉強もしたし、失敗しないよう詠唱の呪文も何度も繰り返して練習した。


 そして当日、ルイズの唱えた呪文は無事に効果を発揮し、彼女には使い魔を召還することができたという確かな感触があった。


 やっと、やっとこれで周囲から認められる。


 もう誰にも『ゼロ』と馬鹿にされることなどない。


 彼女はそう信じて疑わなかった。


 そう、召還の際に発生した白煙が晴れるまでは。


 風に煙が押し流され、ついにルイズの使い魔の姿が露になる。


 その姿を視界に収めた瞬間、ルイズの胸に去来したのは深い絶望だった。


 見たこともない材質の黒い服とズボンを着込んでいる一人の青年。


 それが彼女の召還した「使い魔」だったからだ。


 平凡という言葉を擬人化したら目の前の男になるだろう。


 そうルイズが認識してしまうくらい、その青年には迫力がなかった。


 特徴という特徴もなく、強いて挙げるならやけに前髪が長いことぐらい。


 服と同じ色の髪を両目が隠れるほどの長さまで伸ばしている普通の男。


 それがルイズの抱いた青年に対する第一印象だった。


 どこか呆けた様子で周囲を見渡す青年を尻目に、ルイズは荒い足取りで担当教官のコルベールのもとに向かうと一気に捲くし立てる。


「ミスタ・コルベール! 私にもう一回召還させてください! 未だかつて平民を使い魔にしたメイジなどいません!」


 彼女が「平民」という言葉を口にした途端、周囲から彼女に対する嘲笑の声が響く。


 ルイズは緩みそうになる涙腺を強い意志の力で締め上げると、もう一度コルベールに頼みこむ。


 しかし……。


「それは駄目だ、ミス・ヴァリエール。この神聖な召還の儀式をやり直すことはできない。呼び出した以上は、彼が君の使い魔だ」


 現実は彼女に対して厳しかった。


 そもそも、この召還は彼女が何度も失敗してようやく成功させたもの。


 いくらコルベールが温和な性格をしているとは言え、これ以上の優遇を許容できる筈がなかった。


「もう諦めて儀式を続けなさい」


「……はい」


 多少同情の色が浮かぶコルベールの声を背中に受け、ルイズはトボトボと歩き出す。


 目指す先は自分が召還した平民の使い魔だ。


 その時、広場を一陣の風が吹き抜けて行った。


 ルイズは咄嗟に顔の前に手をやって突風から身を守る。


 そして風も収まり、再び目を見開いたルイズは……深淵の闇と邂逅した。


 彼女の視線の先には、あの平民の使い魔の姿がある。


 その格好も態度もルイズが召還した時と同じ。


 しかし、たった一つだけ決定的に前とは違う箇所があった。


 それは……彼の双眸。


 長い前髪によって人目を避けていたその瞳は、風の精の悪戯によって露になっていた。


 深い―――そうとしか形容できない、何よりも深い闇を湛えたその漆黒の瞳。


 その瞳が、射抜くように自分に向けられている。


 そう認識した途端、ルイズの胸に今まで感じたことのない恐怖が渦巻いた。


 恐いとか恐ろしいとか言った次元をはるかに超越した、原始的な恐怖。


 本能に刻み込まれた感情と言うのが一番適切な表現だろう。


 知らず知らずの内にルイズの膝はガクガクと震えていた。


 違う……違うっ、自分が呼んだのはただの平民なんかじゃない……っ。


 貴族という立場上、彼女は今まで多くの人間を目にしてきた。


 中には野心の渦巻いたギラギラとした目をした人間もいたし、自分の感情を押し隠しているのか表情の乏しいものも多かった。


 ……が、未だかつて、あれほど暗い闇を宿した瞳を彼女は見たことがなかった。


 此度、ルイズが召還した使い魔はどちらかと言えば後者に分類される人間だ。


 仮面のように、とまではいかないものの、感情の起伏の乏しい顔。


 最初は貴族を前にして緊張しているのかと思っていたが、ルイズはその考えがまったく違っていたことに気がついた。


 何故なら、視線の先にいる男はルイズの顔を見つめながら「哂っている」のだから。


 ここで目を逸らしちゃダメ―――っ!


 ルイズは折れそうになる自分の心を叱咤し、毅然とした態度で睨み返す。


 しかし、彼女はそれと同時に気づいていた―――気づいてしまった。


 自分は睥睨しているつもりなのに、じょじょに視界が歪んでいることを。


 それでもルイズは自身が招いてしまった使い魔から視線を外さなかった。


 あの男が何者かは知らないが、ルイズには貴族の誇りがある。


 例え魔法が一つも使えなくても、自分は貴族だ。


 そのプライドだけが彼女の心を支えていた。


 そして……終幕は意外なほどあっさりと訪れる。


 何を思ったのか、男は軽く自分の頭に手を添えると前髪を下ろしたのだ。


 途端、あの双眸の拘束から解放されてルイズは自由の身となる。


 男は髪の隙間からしばし彼女のことを見つめていたようだが、ほどなくして視線を足元に落とすと再びあの「平凡」な雰囲気に一瞬で溶け込んだ。


 ―――ギュッ。


 ルイズは杖を握る手に力をこめると、ゆっくりとした足取りで使い魔のもとに向かう。


 彼女の周囲で他の生徒たちが何か言っているような気がしたが、そのようなことは今のルイズにはどうでもいいことだった。


 ルイズが青年の前に辿り着く。


 たった十数歩歩いただけにも関わらず、彼女の額には大粒の汗が顕現していた。


「ちょ、ちょっと! こ、ここ、こっち向きなさい!」


 胸中の焦りを悟られないよう、できるだけ平常を装って声をかけた……つもりだったが、言った本人にもわかるくらいその声は上擦ってしまっている。


 しまった、と思った時にはもう手遅れだった。


「おい、ルイズが平民相手に緊張しているぞっ!」


「ははっ、さすがはゼロのルイズ! コントラクト・サーヴェントもまともにできないかもしれないもんな!」


 一人の生徒が嘲笑混じりの声をあげた途端、他の生徒たちもそれに混じってルイズのことを馬鹿にし始める。


 貴族は魔法が使えて当たり前。


 そういう概念がある以上、それに適合しない者は格好の誹謗中傷の的となる。


 ましてや相手は、高慢さでは他の追従を許さない貴族たち。


 自分よりも劣る相手を愚弄することは、彼らにとって最高の遊びだった。


「…………っ!」


 彼らの罵詈雑言を、唇を噛み締めてルイズは耐える。


 いつもなら三倍返しほどで言い返すことも辞さない彼女だが、どうしてか今日に限ってそれを行おうとは思わなかった。


 もしかしたら、自分に対して言い訳をするような安い人間だと思われたくなかったのかもしれない。


 その時、不意にその言葉は広場を駆け抜けた。


「えっ……?」


 それは誰の漏らした困惑の声だったか。


 ルイズは信じられないと言った表情で男を見つめる。


 彼女が召還しただろう青年は、音もなく立ち上がっていた。


 前髪から覗くその鋭い眼光は、真っ直ぐつい先ほどまでルイズを馬鹿にしていた少年たちに向けられている。


 彼を中心として立ち込める異様な空気。


 この空気の正体が「殺気」だとルイズが知るのは、少し先のことだった。


「お、お前、平民の癖に貴族に……な、何て口の利き方を……」


 歯をガチガチと鳴らしながらも、一人の少年が声をあげる。


 今までルイズはその少年のことをただの馬鹿と思っていたが、正直少し見直した。


 いくら前髪で大部分が隠されているとは言え、あの視線を真っ向から受けてなお反論できる気力があるのは十分すごいことなのだから……。


 男は少年の貴族発言に戸惑うことも、自分に対して放たれた平民発言に怒ることもなく、ただ静かに先ほどと同じ言葉を再度紡ぐ。


 そう、それはまるで王の勅命の如く。


「彼女を……馬鹿にするなと言っている」


 それは何の力も、魔力もこめられていないただの言葉。


 だがしかし、ある域に達した者は、単なる言葉一つで敵の戦意を喪失させるという。


 最初、書物でそれを読んだ時はあり得ないと歯牙にもかけなかったルイズだったが、今になって初めてその本の内容が正しかったことを認識した。


 事実、男の視線と言葉を受けた少年たちは真っ青な顔をして震えている。


 幻滅でもしたのか溜め息を一つ吐き、男が彼らから視線を外す。


 次の瞬間、少年たちは不可視の拘束から解き放たれたようにその場に尻餅をついた。


 ……何と言うことだろう。


 手にした杖を掲げることもせず、平民にはない力を有する貴族の彼らが何の力も行使していない男に戦う前に敗北してしまったのだ。


 そのあまりに現実離れした光景に、周囲から戸惑いと畏怖のざわめきが漏れる。


 そして、それと同時にルイズはあることに気がついた。


「……あなた……まさか私を庇ってくれたの?」


「…………」


 彼女に問いかけに対する男の返答は肯定でも否定でもなく、一瞥だった。


 しかし、ルイズはその一瞬の視線の交差を見逃さなかった。


 ほんの一瞬、瞬きするよりも更に短い時間だったが、確かに男の瞳には柔らかな光が灯っていたことを。


「ミ、ミス・ヴァリエール、さあ早く契約を済ませなさい」


 男の視線に中てられたのか、額に大粒の汗を浮かべたコルベールが言う。


 彼に言われて初めて、ルイズは自分がまだコントラクト・サーヴァントを終えていないことを思い出した。


 手の甲で涙を拭い、いつも通りの少し威圧的な表情に戻ると、背伸びをして男の額に持っていた杖の先端を軽く添える。


 体格自体はひょろっとしていてどこか頼りない印象を受ける青年だが、背は軽く170を超えているのだ。


 そして手早くコントラクト・サーヴァントの呪文を唱えると、若干頬を朱色に染めながらルイズは自分の使い魔に初めての指示を出した。


「す、少し屈みなさい。じゃないと契約できないでしょう!?」


「……わかった」


「そ、そうよ! 最初からそれくらい素直だったらよかったのよ!」


 思っていた以上に素直に言うことを聞いてくれる使い魔に、ルイズは思わず笑みを浮かべてしまう。


 だが、ここで油断してしまっては使い魔に舐められてしまうと頬を引き締める。


 ……まあ、まだ微妙に緩んでいたが。


「平民のあなたにこんなこと一生ないんだから……その、ありがたく思いなさいよ」


 照れを隠すために、コホンと咳払いを一つ。


 そして彼女の顔の位置まで身を屈めた男の頭を両手で挟み込むと、ルイズは自分の唇と男のそれを静かに重ね合わせるのだった。

別窓 | 零の使い魔。 | コメント:1 | トラックバック:0
<<零の使い魔。 第二話 | 後悔すべき毎日 | 零の使い魔。>>
この記事のコメント
承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
2014-09-11 Thu 21:42 | | #[ 内容変更]
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック
トラックバックURL

FC2ブログユーザー専用トラックバックURLはこちら


| 後悔すべき毎日 |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。