ネクオロでした
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零の使い魔。 第四話 ~闇~
2007-08-30 Thu 21:38

平民の中にも、あんなすごい人がいるんですね……。


わたし、少しだけ希望が持てたような気がします。


<シエスタ>



「…………」


<謎の少女>

<零の使い魔。> ~闇~






シエスタの青年に対する第一印象は幽鬼だった。


 学院に通う貴族の一人に自室の掃除を言いつけられた彼女は、真水の突き刺すような痛みと戦いながら掃除に使う水を汲んでいた。


「……?」


 ふと風の流れを感じたので、顔をそちらに動かす少女。


 そこにはいつの間にか一人の青年がバケツを持って立っていた。


 見慣れぬ黒い服を着込み、長い前髪で目を隠した黒髪の青年。


「―――ひゃっ!?」


 まったく気配を感じさせず視界に飛び込んできてしまったため、シエスタは悲鳴をあげると同時に半ばまで水が入っていたバケツを放り出してしまった。


 そのままペタンと尻餅をつく。


 バシャアッ、という景気のいい音が届いたのは、その直後のことだった。


 見ると、青年がバケツの水を被ってびしょ濡れになってしまっている。


「す、すすす、すみません!? す、すぐに拭きますから!?」


 シエスタは大いに慌てた。


 どうやら貴族ではないようだが、だからと言って罪悪感を覚えないほど彼女は心の貧しい人間ではない。


 青年は無言のまま、自分の頭にはまっていたバケツを取る。


 長い前髪が水を吸って幾つかの束になり、その隙間からシエスタと同色の瞳が彼女を射抜くように鋭い光を放っていた。


 今まで感じたことのない重圧を前に、少女の体が意図せずに震え出す。


 気づかぬ内に視界も滲み始めていた。


 それでも何とか体を動かし、側にあった布を掴むとそれで青年の顔を拭こうとする。


 普段の彼女なら、自分が今手にしている布が何かすぐに気づいたことだろう。


 だがしかし、この時の彼女はそれすら理解できないほど困惑していた。


 シエスタが腕に違和感を覚えたのは、手に持った布を青年の顔に押し当てようとした時だった。


 視線を落として……絶句する。


「あ、ああ、あの……っ」


 彼女の細い腕を、青年の腕がしっかりと掴んでいた。


 思っていたほど強い力で握られているわけではない。


 振り解こうと思えば、彼女の決して強いとは言えない膂力でも何とかなっただろう。


 しかし……。


「…………」


 青年の双眸がシエスタから抵抗の意思を奪っていた。


 動くことも口を開くこともできず、少女は自分の身に一体何が起こるんだろうと身を硬くする。


 粗相を働いた平民が、とてもじゃないが口では言えないような罰を受けたという話はシエスタも度々耳にしている。


 最悪の想像が彼女の頭を過ぎる度、彼女は身を震わせた。


 だが、いつまでも経っても青年が行動を起こす気配はなかった。


 彼は何も語らず、ただシエスタの顔を見つめている。


 一瞬、その空虚な瞳に何かを懐かしむような光が揺らいだ。


 それで少し安心したのかもしれない。


 気づけばシエスタは、


「わ、私の顔に何かついていますか!?」


 と、青年に声をかけていた。


 まあ……緊張が残っていたせいか、声が多少上擦ってしまっていたが。


「……いや」


 感情のこもっていない声が青年の口から発せられ、視線が逸らされる。


 しかしその口調とは裏腹に、彼の顔には微かに悔恨の念が見て取れた。


 シエスタはその理由を尋ねようとして、辛うじて踏み止まる。


 彼女の目に映った青年は……最愛の人を亡くしたように、その瞳に深い後悔と悲しみの色を宿していたから。


「あ、あのぉ……手を……その……」


 ずっと手を握られていたままだったことを思い出し、話を変えるのに使用する。


 青年はシエスタの思惑を読み取るように彼女の顔をしばし見つめ、小さく「すまない」とだけ呟いた。


 おそらくは、彼女が自分のことを気にかけてくれたことを悟ったのだろう。


 最初は幽鬼のように感情のない冷血な人かと思っていたが、その考えがまるで違っていたことに今更ながらシエスタは気がついた。


 この青年は彼女が思っている以上に情のある人間に違いない。


 しかし、自分が想像もできないような悲しみを経験した結果、表情が凍りついてしまったのだろう……と。


 ポタリ、と青年の前髪の先から水滴が落ちる。


 それで我に返ったシエスタは、彼の髪がまだ濡れていることを思い出した。


「い、いえ、私の方こそすいませんでした。……そ、そんなことより大丈夫ですか!? そのままでは風邪をひいてしまいます! すぐに拭かないと……あ」


 視線の先には自分が握っている布切れ―――即ち雑巾が。


 醜態を晒してしまい、シエスタは自分の顔に血が昇っていくのを感じた。


「す、すみません! わ、私ったらついうっかり……。すぐに綺麗な布巾を持ってきますから!」


 慌てて食堂に引き返そうとするシエスタ。


 だがその時、青年とは別に彼女に声をかける者が現れた。


「おい、メイド! 一体いつまで待たせるつもりだ!? さっさと部屋の掃除をしろと言っただろう!?」


 シエスタに部屋の掃除を言いつけた貴族の少年だ。


 彼の父親は地元ではそれなりに有名な地主で、大いに甘やかされて育ったらしい。


 そのせいか傲慢さが目立ち、学院で働く平民たちの印象は極めて悪かったりする。


 だが、相手が貴族だと言うことに変わりはなく、シエスタは給仕として働く平民だ。


 即ち、この少年の命令は彼女にとっては絶対である。


「あ、はい! すぐに参りますので!」


 体ごと向き直り、深々と頭を下げて詫びる。


 貴族はプライドの塊だ。


 こちらにとっての些細な行動が、彼らの誇りを傷つけるという可能性だってゼロではない。


 故に、必然的に貴族に対する態度は慎重なものとなる。


 だと言うのに……。


 チラリと斜め後ろにいる青年に視線を向ける。


 いくら自分に矛先が向いていないとは言え、普通の平民なら貴族に対して何らかの気構えをしてしまう。


 ところがこの青年は脅える様子など微塵も見せず、毅然とした態度で貴族の少年を見据えているではないか。


「俺のことは……いい。……行ってくれ」


 どうやら横目で見ていたのがバレてしまったらしい。


 シエスタにとって幸いだったのは、覗き見の動機を悟られていないことだった。


 安堵の息を吐くと同時に、彼女の胸を暖かな気持ちが満たしていく。


 シエスタの思っていた通り、青年は人を気遣うことのできる優しい心を持っていたから。


 好奇心で彼を見ていたのを、メイドの少女は少し恥ずかしく感じていた。


 そうこうしている間に、短気な少年は自分をクビにすると言ってきた。


 シエスタは知っている。


 少年がつき合っている相手は、彼の財産目当てに言い寄った女性であることを。


 そして彼の父親が治めている土地の平民たちが暴動を起こしたこともあって、目に見えて権力が減少していっているということを。


 遠からず、この少年はつき合っている貴族の少女に捨てられる。


 これは給仕を務めている者全員の意見であった。


 だが、今の彼がまだ力を残している貴族であることに変わりはない。


 確かに少年が父親に進言すれば、辺境の村からきたシエスタの首などいとも容易く飛ぶだろう。


 理不尽に感じるが、これが貴族と平民の力の差なのである。


「そ、そんな……」


 シエスタの瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちる。


 それを見て、貴族の少年は下卑た笑みを貼りつかせて哂っていた。


 楽しんでいるんだろう、自分の権力で他者の人生を狂わせることを。


 その時だった。


「……おい」


 貴族にかける言葉にしては無作法にも過ぎる言葉。


 それを青年は何の気兼ねなく、それが当然であるように少年目がけて放っていた。


 ここにきて、ようやく彼という存在を認識したのか少年の意識がそちらに向く。


 釣られるようにしてシエスタも青年に視線を移すと、彼は何ら臆することなくその場に屹立していた。


 青年の姿に覚えがあったのか、少年が笑い声を響かせる。


「ん? なんだ、何かと思ったら『ゼロのルイズ』が呼び出したという平民の使い魔じゃないか。はは、さすがは平民。どうやら貴族に対する礼儀も持ち合わせていないようだな。つくづくあの駄目ルイズの使い魔らしい」


 少年の言葉にシエスタは心の底から驚いた。


 本来、使い魔は幻獣や動物を召喚して下僕としたものだ。


 ところが少年は、この青年を指して「ルイズの使い魔」と言った。


 それはつまり、彼が召喚の儀で呼び出されたということに他ならない。


 平民を使い魔にした話など、今までシエスタは聞いたことがなかった。


「…………」


 貴族を敵に回しているというのに、青年はまったく動じていない。


 その深淵を湛えた瞳が鷹の目のように鋭く細められているのが、側にいるシエスタだけは視認することができた。


 彼の双眸を見つめた途端、言いようのない恐怖が彼女の体を縛る。


「し、躾のなっていない使い魔め、俺がルイズに代わって躾といてやる!」


 青年の放つ異様な空気を感じたのだろうか?


 貴族の少年が慌てた様子で懐から杖を取り出した。


 メイジにとって杖とは剣でもあり、また盾でもある。


 あれを持ち出した以上、少年は本気で青年を潰す気なのだとシエスタは悟った。


 平民の彼女からして見れば、メイジは絶大な力を持つ人外の存在。


 あの少年が呪文を唱えて杖を振るだけで自分を殺せるのだと思うと、顔は青ざめ、背筋を嫌な汗が滝のように流れて行く。


 錆びついてしまった体を懸命に動かし、シエスタは青年の腕にしがみついた。


 自分はもう無理かもしれないが、今すぐに謝罪すれば彼だけは助かるかもしれないと思ったから。


 しかし……青年はそんな彼女の腕をそっと解いた。


「―――っ!?」


「…………」


 困惑するシエスタに、青年は小さく―――だが力強く頷いて見せる。


 もう、彼女は彼を止めようとは思わなかった。


 青年の瞳に、強い覚悟の光が宿っているのを見てしまったから……。


 だからシエスタは自分の想いの全てをこめて、こう声をかけた。


「……無理はしないでください」


 と。


 もう一度頷くと、青年は視線を少年に引き戻した。


「ふ、ふんっ! 素直じゃないところは主人と同じらしい」


 そう告げる少年の額には、夥しい量の汗の玉が浮かんでいる。


 距離を置いているシエスタにもはっきりとわかるほど、彼の足はガクガクと震えていた。


(うそっ!? まだあの人は何もしていないのに……)


 シエスタの言葉通り、青年はまだ何もしていない。


 ただ少年に向かってゆっくりと歩いているだけだ。


 なのにも関わらず、平民の何十倍にも匹敵する力を有しているメイジが気圧されている。


 これは平民のシエスタにとっては、我が目を疑う光景と言えた。


 掲げられた杖を物ともせずに青年は距離を詰める。


 その動きには一切の淀みも感じられない。


 一歩、また一歩と、使い魔の青年と貴族の少年の距離が縮まっていく。


 案の定と言うべきか。


 先に動いたのは少年の方だった。


 杖で青年を指し示し、短く呪文を唱える。


 それに応じて虚空に顕現したのは、人の拳ほどの大きさの火球だった。


 火の系統の初級呪文である、ファイヤーボールである。


 次の瞬間、ゴウッという空気を焼く音を立てて、火球が青年へと放たれる。


 惨状を予想し、両手で顔を覆おうとするシエスタ。


 だがしかし、それよりも早く青年の体は動いていた。


 火球が彼の顔に当たる直前、クンッとその体が僅かに沈む。


 それにより標的を見誤った火球は、青年の後方に干してあったシーツに当たって燃え上がった。


 パチパチというシーツの燃える音をどこか遠くに感じながら、シエスタは呆然と青年の背を見つめていた。





 魔法を扱うメイジが平民よりも優位に立てる点、それは魔法の攻撃力が高いだけでなく、その命中率が極めて高いことに由来している。


 ましてや初歩の呪文であればあるほど命中率が高いとされ、それ故にメイジは学院で平民の盾に位置する防御魔法を習得するのだ。


 発動する前に妨害するか、発動したものを防ぐか。


 学院で教えられている魔法の対処は基本的にこの二つ。


 中には己の身体能力を高めて回避したりする者もいるが、それはかなり稀である。


 それをあろうことか、ただの平民が何の助力もなしに成し遂げた……。


「お、お前……何をした!?」


 少年メイジの声音は震えている。


 メイジにとって魔法の力は絶対、それを平民に容易くかわされれば確かに正気の一つや二つ、失ってしまっても不思議はない。


 ……その時点でメイジとして失格だが。


 それが実戦を経験したことのない、机上で魔法を習っているメイジなら尚更だ。


 すぐに次の魔法を唱えようともせず、少年は闇雲に杖を振り回している。


 魔法の威力は術者の集中力に由来する。


 仮に今の彼が呪文を唱えたとしても、先のファイヤーボールをかわしているあの使い魔ならば、集中力の欠いた魔法など目を瞑ってでもかわせるに違いない。


「彼なら……もしかして」


 魔法で手早く消火を行いながら呟く。


 少女が視線を感じて本から顔を上げると、例の使い魔の青年と目が合った。


(これだけ離れているのに、気づかれた……?)


 前髪で大部分が隠れているので、その瞳から感情までは読み取れない。


 殺気を感じない以上、敵視はされていないようだが……。


 ふと興味を失ったように、青年が視線を前方に戻す。


 いつの間にか少女は手の平にベットリと汗をかいていた。


「へ、平民の癖に生意気だぞ!? 俺に楯突くということは、俺のお父様に楯突くと同じことだって知っているのか!?」


 敵わないと思ったのか、今度は父親の名前を口にするメイジ。


 無論、今更そんなものが青年の進軍の妨げになる筈がない。


 その後は圧倒的だった。


 少女の見る限り、使い魔の彼の動きは素人そのものだ。


 隙だらけで、一見するとどこからでも攻められるような気さえする。


 事実、少女もさっきまではそう思っていた。


 そう……青年が魔法の発動を見切り、ギリギリまで引きつけて避けるのをその目で目撃するまでは。


(隙があるんじゃない。自ら隙を作っている……)


 相手にわざと打ち込ませ、反しの牙で確実に敵を仕留めるために。


 何やら喚いている少年(大方、まだ父親の名を出しているんだろう)に近づいた青年が鞭のように腕を振るう。


 その一撃はメイジの手から杖を奪い取り、実に呆気なく彼の者を無効化させた。


(しかも……手馴れている?)


 もしかしたら、彼は過去にメイジと対峙したことがあるのかもしれない。


 あのような口だけの三下ではなく、幾度の死線を潜った屈強なメイジと……。


「は、はひぃぃっ!?」


 少女の意識を浮上させたのは、情けないメイジの悲鳴だった。


 彼女をよく知る者にしかわからない範囲で、不愉快そうに眉を顰める。


 少女の視線の先では、青年もどうやら呆れているらしかった。


 戦意を一瞬で霧散させるとしゃがみ込み、無様に腰を抜かしているメイジの足の上に杖を置く。


 そして……目の前の光景を享受できないのだろう、夢現と言った様子で立ち尽くしているメイドを一瞥し、再びメイジに視線を戻すと彼の頭の上に手を置いた。


 風に乗って聞こえてきたのは、


「……あまり迷惑をかけるな。……いいな?」


 という説教にも似た言葉。


 ……なるほど。


 確かに彼ほどの腕を持つ人間からして見れば、例えメイジと言えドットの学院生を相手にするくらい、赤子の手を捻るようなものに違いない。


 彼が直接動いたのも、あのメイドがあまりに忍びなかったからだろう。


 青年が腰を上げて歩き出した直後、少年はそのまま仰向けになって倒れてしまった。


 あれは彼に対する緊張と恐怖が限界を突き抜けた結果だ。


「因果応報……」


 何の感情もこもっていない目で気絶しているメイジを一瞥する。


 こちらに気づいているだろう青年は、しかし我関せずといった様子でバケツに水を汲むと学院の校舎に消えてしまった。


 どうやら相手は自分と同じ、積極的に第三者と接触を取ろうと考えるタイプではないらしい。


 孤高の狼という単語が何故か少女の脳裏を過ぎる。


「ダンケ……」


 それはあの使い魔が明かした名。


 おそらくは偽名だろうが、少女にとってそれはさしたる問題ではない。


 正気に返ったメイドが倒れ伏した貴族に駆け寄るのを見送った後、少女は静かに踵を返した。


 あの戦闘能力、敵を捉えることに特化した鋭い眼光……そして彼の左手に刻まれたあのルーン。


「彼ならもしかすると……」


 そんな少女の呟きを、風だけが聞いていた。

別窓 | 零の使い魔。 | コメント:2 | トラックバック:0
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この記事のコメント
些細な行動が人を勘違いさせる・・・GJ
いやぁすごいです
主人公自身もかなり勘違いしてますね
お互いの勘違いがさらに勘違いを深めていくのが笑えます
勘違い系は思いついた人ばかりがやっていて完結まで行かないのが多いのでがんばってもらいたいです
無理はせずにこつこつとやってください
更新楽しみにしています
2007-08-31 Fri 20:08 | URL | 山野 #-[ 内容変更]
光との差異が凄い。
勘違いの理由も行動の理由も分かりやすいのに本人達には分からないであろう所とか。
そして何気にタバサフラグ?
2007-09-01 Sat 12:49 | URL | スカサハ #d44vb1iY[ 内容変更]
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