ネクオロでした
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零の使い魔。 第五話 ~闇~
2007-09-18 Tue 12:44

正直、もう二度と相対したくはないわね……。



<〝土くれ〟のフーケ>



 土くれのフーケ。


 トリステインを始めとした各国で広くその名を知られたメイジの盗賊の名である。


 その「土くれ」という二つ名は、防御魔法のかけられた壁を錬金の魔法で土の塊に変えてしまうところからつけられていた。


「おお、お早うございます、ミス・ロングビル!」


「え、ええ、お早うございます、ミスタ・コルベール」


 朝からやたらとテンションの高いコルベールに苦笑を漏らしつつ、フーケ―――もっとも今はロングビルと名乗っているが―――は挨拶を返す。


「と、ところでどうですかな……ミス、一緒に朝食でも?」


「いえ、まだ朝の仕事が残っておりますから。申し訳ありません」


「……そ、そうですか。では、また後ほど」


 トボトボと肩を落として歩いて行くコルベールの背を眺め、フーケは溜め息を零した。


 とある事情で貴族の名を剥奪されたフーケは、基本的に貴族という存在が嫌いだ。


 彼女が貴族の家に忍び込んで貴重なマジックアイテムを盗んでいるのも、そういった事情があるからであった。


「ふぅ……まったく、春の陽気にあてられた貴族の相手も大変だわ」


 周囲に誰もいないことを確認してから、愚痴を口にする。


 コルベールはどうやら自分に気があるようだが、生憎フーケにはそういった感情はまったくなかった。


 貴族にしては平民に威張ることなく、人柄も温厚な貴重な人種だとは思っているが。


(手間ばかりかかるわね……)


 彼女の脳裏を過ぎるは巨大な錠前を備え、重厚な扉に「固定化」の魔法を幾重にもかけられた学院の宝物庫。


 さすがは魔法学院成立以来の宝が収められている場と言うべきか。


 錬金の魔法に関しては腕に覚えのある彼女でも、それを未だ打破することができずにいた。


「……一つ訊きたい」


「―――っ!?」


 突然後方から聞こえてきた声に、フーケは一瞬で意識を浮上させられた。


 焦りの表情を瞬時に打ち消し、柔和な笑みという仮面を被って振り返る。


 完全に振り向いた時、フーケは内心で驚きの声をあげた。


 メイジかと思えば、彼女に声をかけてきたのはただの平民だったからだ。


 少なくともこの学院の生徒ではない。


 眼前の青年は制服を身に着けておらず、メイジの証とも言えるローブすら身に着けていないのだから。


 ただ……。


(……危険な人物ね)


 フーケは直感でそう感じ取っていた。


 確かに一見すると多少珍しい格好をしているが、身なりは平民のそれと大差ない。


 身のこなし方も素人丸出しで、例え白兵戦を挑まれても自分ならば苦労せずに対処できる筈だ。


 だが、それがあくまで表面上のものに過ぎないことを、フーケは鍛え抜かれた観察眼から見抜いていた。


 現に、長い前髪に隠れるようにして覗く漆黒の双眸が、寸分の狂いもなく彼女を睨みつけている。


 それだけで裏の世界を知っているフーケでさえ、心臓を鷲掴みされているかのような錯覚に陥った。


 恐らくは……考えたくもないことだが、目の前の青年も自分のことをただの秘書だとは思っていないだろう。


 でなければ、わざわざ気配を消して彼女に近づこうなどとは考えない筈だからだ。


 最悪の事態を想定し、フーケは青年に気づかれないよう杖に手を伸ばす。


 しかし、それを制したのは青年の口から出た意外な言葉だった。


「……洗い場を教えてもらいたい」


「……へ?」


 知的な佇まいがトレードマークになっている彼女が思わず間の抜けた声を発してしまうほど、青年の告げた言は衝撃的なもの。


 まさか自分を呼び止めたのは、ただ単に目的地の場所を訊き出すため……。


 呆気に取られて視線を下げれば、確かにその手には洗濯物の入った籠が握られていた。


 ついつい過剰に身構えてしまった自分に胸中で苦笑し、青年に水汲み場の場所を教える。


 彼は小さく頭を下げると、彼女に背を向け歩き去って行った。


 フーケはこの後すぐに知ることになる。


 青年が学院にいる理由……そしてその本当の恐ろしさを。


 朝食を終え、自分に宛がわれた部屋に戻ろうとしていたフーケの目に飛び込んできたのは、先ほど会ったばかりのあの青年の後姿だった。


 洗濯は終わったのか、片手に提げた籠からは時折水滴が落ちている。


 一瞬しか確認できなかったが、あの籠の中身は女性ものの衣類だった。


 となると、彼は学院に雇われた使用人、もしく学院の生徒が連れてきた召使か。


 どっちにしろ、自分には関係ない。


 フーケがそう判断し、視線を外そうとした時に青年が奇妙な行動を取った。


 明らかに、彼が行きに通った道とは違う方向へ歩き出したのである。


 一瞬、また迷ったのかとも思ったが、フーケは自身の考えをすぐに否定した。


 迷っているにしては、その足取りがしっかりし過ぎている……。


 青年は進んで行く。


 何故かフーケには、彼が何かに怒りを覚えているように感じた。


(……見極める必要がありそうね)


 杖を取り出し、自分を対象にして「サイレント」を発動させる。


 途端、彼女の世界から音が消失した。


 青年から十メイルほど距離を置き、フーケは彼を尾行する。


 やがて彼が辿り着いたのは、講義室が密集している塔だった。


 あたりに人の気配はない。


 しかしそれは当然のことだ。


 講義が始まるには、まだだいぶ時間があるのだから。


 それなのにも関わらず、青年の歩調が揺らぐことはなかった。


 ここに足を運んだ明確な目的があると言わんばかりに。


(あの男は一体何を……っ!?)


 フーケが微かに人の気配を捉えたのと、前方から声が聞こえてきたのはまったくの同時だった。


(あいつは確か……『月影』とか言ったかしら?)


 彼女の視線の先では、一人の男が床に腰を打ちつけて倒れていた。


 あの顔には微かだが見覚えがある。


 一度、自分と組まないかと誘ってきたことがあるからだ。


 そう、あの男もフーケの同業者なのである。


 実際のところ、『月影』……などと大層な二つ名を持っているが、男の実力は大したことがなかったりする。


 フーケが知っている月影の情報も、風系統の魔法を得意とするラインのメイジだと言うことだけだ。


 ただ、月影には彼女ですら比肩できない特技があった。


 それは……隠行。


 元々、風系統の魔法には今フーケが使っている「サイレント」を始めとした隠密行動向けのものが多い。


 あの月影という男は、そう言う撹乱魔法に長けたメイジなのだ。


 その二つ名も、彼の気配遮断能力からつけられたとフーケは聞いていた。


 現に、盗賊としてかなり名の売れている彼女でさえ、月影の存在に気がついたのは偶然だった。


 あの青年を見失わないよう、周囲の気配を探りながら慎重に行動していからこそ、捉えることができた。


 だと言うのにあの青年は……。


 月影がぶつかった衝撃で転倒したにも関わらず、あの青年は何事もなかったかの如くその場で屹立していた。


 この位置からではよくわからないが、何を言うわけでもなくただ月影を睨んでいるように見える。


(チッ、ここからじゃよく見えないわね)


 胸中で舌打ちをし、細心の注意を払って観察し易い位置に移動する。


 再び彼女が彼らにピントを合わせた時には、月影が青年に向かって杖を突きつけていた。


 その行為自体はフーケにとって驚くべきことではない。


 目撃者は消す……と言うのが、盗賊のセオリーなのだから。


 フーケに言わせるなら、目撃者を出した時点で盗賊失格なのだが……。


 盗賊の彼が学院に忍び込んだのは、恐らくは彼女と似たりよったりの理由だろう。


 まあ、月影の二つ名を持つ男が早朝からアクションを起こしていることには呆れたが。


 大方、女遊びに使う金をすぐに工面したかったとか、そういうくだらない動機に違いない。


 しかし問題は、圧倒的優位に立っている筈の月影が恐怖に身を震わせていることだ。


 杖を持ったメイジは平民をはるかに凌駕する力を行使できる。


 それはメイジであるフーケも身をもって知っている。


 だが、現状はどうだろう。


 片手に籠を提げた平民が平然と立っているにも関わらず、杖を持ったメイジが脅えて立ち上がることもできなくなっている。


 丸っきり、攻守が逆転しているではないか!


 ―――ほら、お得意の魔法を唱えてみろ。


 そんな感じで青年が軽く顎をしゃくる。


 しかし、月影は動かない……否、動けない。


 青年が口許を嘲笑の形に歪ませる。


 いや違う、あれは愉悦の笑みだ。


 彼の手は真っ直ぐ男の杖に伸びていた。


(―――あれは!? ……そう、そういうことだったの)


 その手の甲にルーンが刻まれているのを見て、フーケは得心する。


 ヴァリエール家の三女が平民の使い魔を召喚したという噂は彼女も耳にしていた。


 彼女にその話を聞かせたのは、あのコルベールである。


 使い魔について語る時、彼の顔がやけに強張っていた理由が今やっとわかった。


 初見の際、彼女が青年に脅威を覚えたのはやはり間違いではなかったのである。


 月影は何とか呪文を紡ごうとしているようだが、口がうまく動かないのかそれも儘ならない。


 そしてついには、呆気なく青年に杖を奪われてしまう。


 彼の手の中で、杖が歪な方向に折れ曲がるのが見て取れた。


 この時点で既に勝敗は決していた。


 杖がないメイジは魔法を唱えることができない。


 これは平民の子供だって知っていることだ。


 視線の先では、月影が顔を青褪めながら青年に何か言っている。


 サイレントで周囲の音を遮断しているフーケにはその内容は届かない。


 ただ命乞いしているのだろうと言うことは、月影の情けない表情から窺い知ることができた。


 あとは衛兵に月影を突き出せば、全てが丸く収まる。


 あの青年は僅かながら報酬を受け、もしかしたら英雄として讃えられるかもしれない。


 相対しているのが、真っ当な精神を持った者であれば……。


「―――っ!?」


 フーケの口から短い悲鳴が漏れる。


 完全に抵抗する意思を無くしている月影の首に、青年は無慈悲にも手を伸ばそうとしていた。


 例え同業者と言えど、フーケに月影を助ける道理はない。


 むしろ、彼女はあの男を嫌っている節がある。


 だが、下手に殺人事件など起きると後々面倒になるのは明らかだ。


 ましてや、仮初とは言え今彼女は学院長の秘書を勤めている。


 月影が忍び込んでいること自体が面倒だと言うのに、これ以上ゴタゴタを起こしてもらっては堪らない。


 そう、自分に言い聞かせた。


 サイレントを解除し、風の力を行使して走力を一時的に引き上げる。


 フーケは一瞬で青年に肉薄すると、


「ミス・ヴァリエールの使い魔の方ですね? あとの始末は私がしておきますので、あなたはミスのもとにお戻りください」


 作り笑いを浮かべ、青年の手首を掴んだ。


 彼の腕は月影の顔の前あたりで静止している。


 息を吐くと同時に、フーケは胸中で先の自分の発言に失笑を禁じ得なかった。


 ……使い魔。


 ヴァリエール家の子女はこんな化け物を従えていると言うのか。


 自分の行為を妨害されたからか、フーケは青年の敵意すら感じる眼光に晒されている。


 月影のように無様に震えるような真似はしないが、百戦錬磨の盗賊の背を嫌な汗が伝って行った。


「…………」


 青年はしばしフーケを見つめ、小さく溜め息を零した。


 言葉にこそ出していないが、その独特の雰囲気から彼が不快な感情を抱いているのがわかる。


「この借りは……いつか必ず……」


 地獄の底から震えるような声音。


 その秘めたる迫力に、フーケでさえ辛うじて返事を返すのが精一杯だった。


 ついと視線を外すと、未だ震えの収まらない月影を唾棄するように一瞥してから彼らに背を向けて歩き出す。


 知らず、フーケはほっと安堵の息を吐いていた。


 青年の姿が完全に見えなくなったのを確認してから、彼女は斜め隣で腰を抜かしている男に声をかけた。


「……で、どうしてあんたがこんなところにいるのかしら? ま、答えなくても大体見当はついているけど」


「……あ、あぁ、『土くれ』か。……あの化け物は何だ? あいつの目、ありゃあ間違いなく人殺しの目だった……哂いながら人を殺せるタイプのな。俺が言えた義理じゃないが、あいつは異常だ。メイジの杖も恐れない。まるでそれが当然の如く、俺の杖に手を伸ばしてきやがった……」


 そう語る月影の瞳には、まだ恐怖の色が濃く残っている。


「その時に魔法を撃てば良かったんじゃないの?」


「で、できるわけないだろう!? 少しでも口を開こうとした途端、あいつは俺を殺していたよ。微塵の躊躇いもなく、それも一瞬でな」


「でしょうね。……で、あんたはこれからどうするの? まだここのお宝を狙う気かしら? だとしたら私にも考えがあるけど」


「……冗談だろ。あんな化け物がうろつくようなところ、こっちから願い下げだ。頼まれたってもう二度と来るもんか」


 力なく言う月影。


 フーケは彼に背を向けると、さっさと行けと言うように後ろ手を振った。


「同業者のよしみで今回だけは見逃してあげるわ。あんたのお陰で、私がもっとも注意しなくちゃいけない奴が誰かってのもわかったしね」


「あぁ……あばよ」


 その声を最後に、男の気配が掻き消えた。


 やはり「月影」の二つ名は伊達ではないと言うことか。


 大方、予備として持ってきていた杖を使って魔法を使ったんだろう。


 フーケは憎らしいくらいに晴れている空を見上げ、嘆息した。


 変装の一つとして用いている眼鏡を外し、手の中で弄ぶ。


 今回の仕事は、どうやら一筋縄では行かないらしい。


 予想以上に強固な宝物庫、そして……あの得体の知れない使い魔。


 張り合いのない仕事もどうかと思うが、ありすぎるのもまた問題だ。


「まったく……本当に手間ばかりかかるわ」


 彼女の愚痴に答えるように、カラスが一声「カァ」と鳴いた。

別窓 | 零の使い魔。 | コメント:3 | トラックバック:0
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この記事のコメント
楽しく読ませていただきました!
 今、光ルートと闇ルートを合わせて読ませていただきました。
 なんていうか、切ないですねぇ。ダンケ君の親切心がアダとなったみたいなこの状況。やる事なす事殆ど裏目に出てますし、唯一の救いといったらルイズの勘違いくらいか?
 今回も、とても楽しく読ませていただきました。
 次回作も、頑張って下さい。応援しています。
2007-09-18 Tue 14:43 | URL | ten #8iCOsRG2[ 内容変更]
はじめましてです
 どうもはじめまして。一話から読ませていただきました。
 勘違い系のssは全般的に好きでして、こちらの小説も楽しく読ませてもらいました。勘違いに勘違いが重なって、どつぼにはまってるような状態ですね……。これからもがんばってください。
 ……フーケ、本編ではあんなに目立つ方法で強盗してたのに。『目撃者を出した時点で盗賊失格なのだが……』はどうだろうと突っ込み。
2007-09-23 Sun 21:44 | URL | k-k-k #JalddpaA[ 内容変更]
笑いがこみ上げてくる作品をどうもです!
 今、一話から通して読ませていただきました!
正直、笑いがこみ上げてきますw
 次はどんな展開でダンケに対する勘違いが生まれるのだろうと想像しているんですが、想像も付かないような勘違いで、ことごとく裏切られますww

この作品を五つ星評価するなら満点の★★★★★ですねー。この次も期待してます!
2009-07-27 Mon 03:16 | URL | 青 #-[ 内容変更]
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