ネクオロでした
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零の使い魔 ~第八話~
2007-12-25 Tue 03:31

痛い! 痛いからっ!

                                          <つかいま>

ま、まったくあんなこといきなり言うなんて、使い魔としての自覚が欠けてるんじゃないのかしら……も、もうっ……えへへ。

                                            <ぜろ>

あの方こそ、僕が師と仰ぐに相応しい人に違いない……!

                                           <せーどー>

……(何故だが、ちょっとむかむか)。

                                           <ゆきかぜ>

ねぇ、あたしの出番が○○○と比べて少ないような気がするのは気のせい?

                                            <びねつ>

 
ゼロの使い魔。 ~闇~

 最初こそ苦戦していたものの、ギーシュは勝利を確信していた。
 そもそも相手は目つきの悪いただの平民。
 選ばれた貴族である自分が負ける筈がない。
 震えを押し殺し、自分にそう言い聞かせた。
 しかし、その自信は使い魔の主が発した一言で呆気なく砕かれることとなる。
「ダンケ! そいつを倒しなさい!」
 ルイズの声が広場に響く。
 次の瞬間、『青銅』の二つ名を持つ彼のゴーレム・ワルキューレが、紙のように切り裂かれた。
「な―――っ!?」
 驚きの声をあげるギーシュ。
 ダンケと呼ばれた使い魔の手にあるのは、彼ら貴族が食事の際に使用する小さなナイフただ一つ。
(ま、まさか……あんなので僕のゴーレムを斬ったとでも言うのか!?)
 彼が驚くのも無理はない。
 いくらあのナイフが高級品だとは言え、所詮は料理を切り分けるために使うものだ。
 それに対して、ギーシュのゴーレムは彼の二つ名の通り青銅製である。
 どこの誰が、あのちっぽけなナイフで金属を斬れると思うだろうか?
 言いようのない恐怖がギーシュの体を縛る。
「くっ!? い、行けっ!」
 一対一では敵うわけがない。
 そう判断したギーシュは、一度に残る六体全てのゴーレムを突撃させた。
 だが、使い魔の左手が見えない速度で動いた瞬間、まるで粘土でも斬るかのようにワルキューレはただの金属屑へと成り下がった。
(か、勝てない……っ!?)
 今更ながら、自分がとんでもない化け物に喧嘩を吹っかけてしまったことに気がついた。
 ギーシュの眼前に瞬時に躍り出たダンケが拳を振るう。
 そのあまりに早い速度に、彼は腕でガードすることもできなかった。
 顔面に強烈な一撃をもらった彼は、大きく吹っ飛んだ。
 地面を滑った時に打ったのか、体の節々が悲鳴をあげている。
 だが……。
(い、生きてる……?)
 青銅製のゴーレムをナイフ一本で解体するような化け物の一撃を受けたのにも関わらず、彼は依然として顕在だった。
 反射的に殴られた顔に手をあてるが、多少腫れている以外の異常は見受けられない。
 そう言えば、あの使い魔は自分を殴る際にやけに大振りな動きを見せていた。
 まるで、これから殴るから注意しろとでも言わんばかりに……。
「―――っ!?」
 足音を捉えたギーシュは反射的に起き上がっていた。
 平行になった視界に、左手にナイフを持ったあの男が映し出される。
「―――っ!? ま、参った! 僕の負けだ!」
 ……自分の負けは誰の目から見ても明らかだった。
 唯一の武器たる七体のワルキューレは砕かれ、彼の精神力ももう残っていない。
 今、男が手にしたナイフを振るえば、自分など一瞬で殺されてしまうだろう。
 そう考えた途端、奥歯がガチガチと音を立て、体は小刻みに震え始める。
 だがしかし、男の口から飛び出したのは彼が予想もしていなかった言葉だった。
「……無事か?」
 一瞬、目の前の男が何を言っているのか理解できなかった。
 やがてゆっくりと言葉が脳に溶け込んでいき、そこで初めて彼が自分の身を案じていることに気がつく。
「あ、ああ、何とか……」
「……そうか」
 ギーシュが言葉を返すと、男は心の底から安堵したように息を吐いた。
 ここに来て彼はようやく悟った。
 決闘などと言っていたが、自分は最初から「敵」として見られてはいなかったのだと。
 この男が怒りを見せたのは、ギーシュが彼の主を馬鹿にした時のみ。
 最後の一撃も見た目こそ派手だったものの、威力はそれほど大したものではなかった。
 自分は最初から最後まで、この使い魔に加減されていたのだ。
 本来ならば、貴族の誇りを傷つけられたとして怒るべきだろう。
 だが、ここまで実力の差を見せつけられてしまっては、もはやぐうの音も出ない。
 まさしく……完敗だった。
 男は何かを考えるように、彼の前で口を噤んでいる。
「ぼ、僕にまだ何か用があるのか―――い、いえっ、あるのでしょうか!?」
 途中で敬語に直したのに深い意味はない。
 一瞬交差した視線が恐かったなどということは、断じてない。
 黙考が終わりを迎えたのか、男が口を開いた。
「……複数での襲撃は……やめておけ。その才を生かす……別の道がある筈だ」
「―――っ!」
 ギーシュは息を呑んだ。
 複数での襲撃とは、自分が用いているワルキューレの一斉攻撃を指しているのだろう。
 確かにあの技は精神力を多用に消耗する。
 しかもバラバラに指令を出すこともできないため、動きが単調になってしまうという弱点もあった。
 この使い魔は……それを一見しただけで見抜いた言うのかっ!?
 彼の胸を、戦慄が駆け巡る。
「べ、別の道とは……?」
 ギーシュは震える声音で尋ねる。
 返って来た言葉は、更に彼の度肝を抜くものだった。
「銅像に……何か持たせてはどうだ? ……無手ではあまりに……稚拙だ」
 確かに土系統のメイジである自分は、物を生み出すことに特化している。
 剣や槍であっても、その材質が青銅に限定されるものの、問題なく作り出すことができる。
 そして―――ワルキューレ。
 今まではこれ単体での使用を前提して力を磨いてきた。
 しかし、それを容易く打ち破った男は無手では心許ないと言った。
 『青銅』の二つ名を有するメイジは考える。
 これ以上の数の強化が望めぬのならば、個の力を底上げするしかない。
 ならばそのもっとも簡単な方法とは何か?
 そう、それは……武器を持たせることだ。
 金属としての強度は低いものの、青銅製の武器は重量もあって中々の威力を誇る。
 膂力に乏しい自分では扱えないそれらの得物も、ゴーレムのワルキューレならば苦もなく振るうことができる筈だ。
(くそっ! 僕は今までどうしてこんな簡単なことに気づかなかったんだ!)
 ワルキューレに武器を持たせる。
 これは少し考えればわかる筈だった。
 それに今まで気づかなかったのは、自分が慢心していたために他ならない。
 生まれながらにして貴族は平民よりも優れていると、自分は驕っていたのだ。
 それを目の前の男は……いや、ダンケは身を以って気づかせてくれたのである。
「一考してみると……いい」
 それだけ伝えると、ダンケは彼に背を向けた。
 泥に汚れ、傷だらけのその背中が何故かギーシュにはとても神聖なものに映った。
 歩き出したダンケが不意に立ち止まる。
 振り返ることもなく、彼は言った。
「……もう二度と……主を愚弄するな」
 告げられた言葉は、自身の主を気遣う優しさに満ちたもの。
 強く、優しく、そして何よりも誇り高いその生き様。
 ギーシュは平民の使い魔に、自分が子供の頃に憧れていた忠義の騎士を重ねた。
「は、はい! グラモンの名に賭けて!」
 そして彼は密かに決意する。
 ダンケと名乗る謎に満ちた青年を、自分の心の師とすることを……。


 ~光~


  踏みつけようとしていた一体の銅像の足元を転がって擦り抜け、包囲網から脱出。
 震える足に力を入れて立ち上がる。
 いつの間にか、俺の手にはあのナイフ(食事用)が握られていた。
 そう言えば、返却するのをすっかり失念していたっけ。
 視線の先には驚いた顔をしているルイズ。
 目元が赤くなっているのは泣いていたからだろうか。
 その隣には、あのおかっぱ少女の姿が見て取れる。
 視線が合うと、少女は小さく頷いた。
 意味はわからないが、とりあえず頷き返しておく。
 俺の後ろから迫る銅像。
 後頭部に目がついているわけじゃないのに、どうしてか俺はそれをはっきりと感じた。
 振り向き様にナイフを一閃。
 傷だらけにも関わらず、羽のように体が軽い。
 そしてどういうわけか、この刀身では不可能は筈なのに、銅像の首から上が吹き飛んだ。
「…………」
 思わずマジマジと手の中のナイフを見つめてしまう。
 てっきり単なる食事用ナイフだとばかり思っていたが、それは俺の誤解だったようだ。
 こいつはおそらく……超振動ナイフだ。
 ゴクリと喉が鳴る。
 確か刃を振動させることで切れ味を上昇させる、というSFの産物。
 俺が持っているナイフがまさにそれだろう。
 さすがはドイツ……何と言う恐ろしいものを開発したんだ。
 おまけにこんな物騒な物を落とす人間がいようとは……。
 しかも食事用ナイフに偽装まで施してある。
 戦慄が奔るとは、まさにこのことか。
「くっ!? い、行けっ!」
 巻き髪の檄が飛び、残った六体の銅像が俺に踊りかかる。
 しかし所詮は銅像だ。
 鋼鉄すら両断するという超振動ナイフを前に、たかだか銅像が敵うわけがない。
 さして力も入れず、手にしたナイフを横に滑らせる。
 それだけで見るからに鈍重そうな銅像は、ただの銅屑に成り下がった。
 バラバラと零れ落ちる残骸を尻目に、軽く跳躍。
 一瞬で巻き髪との距離を詰める。
 自分でも驚くほどの瞬発力だ。
 ナイフで斬りつけるのは非道過ぎると思い留め、男らしく拳で語ることにした。
 無論、年下相手に拳を振るうわけだから手加減はするつもりだ。
 ギュッ、と空いた右手を握り締める。
 視界に大きく映るのは、イケメンに分類されるだろう巻き髪の顔。
 何故だろうか……またイラッとした。
 そして再び体の奥底から湧き出る不思議なパワァ。
 ブンブンと杖を振る憎き奴の顔面に向かって、俺は渾身の力でストレートを見舞いした。
 ……あっ……やっちゃったZE☆
 悲鳴を引き摺りながら吹っ飛ぶ巻き髪。
 彼はゴム鞠のように地を跳ね、転がり、芝生に甚大な被害を与えてやっと停止した。
 …………ど、どうしよう。
 ギャラリーのざわめきが嫌でも耳に入る。
 安否を確かめようと巻き髪に近づく俺。
 一瞬、スプラッタを想像した俺だったが、幸運なことに彼は五体満足だった。
 と言うか、少し頬が赤くなっている以外は異常が見受けられない。
 これも何かしらの魔法(科学)の力なんだろうか……シャツ型装甲服とか。
 俺の気配を察したらしい巻き髪が跳ね起きる。
「―――っ!? ま、参った! 僕の負けだ!」
「……無事か?」
「えっ!? あ、ああ、何とか……」
「……そうか」
 良かったぁ……。
 大怪我でもしてたらどうしようかと思った。
 そうなった場合、医療費は俺には払えないから、ルイズのところに行くだろうし……ホントに良かった。
 でも、いくら規則を破ったからと言って銅像で集団リンチはまずいだろう。
 俺は科学の進歩のおかげでどうにかなったけど、もしこれが女の子とかだったりしたら大変だ。
 何かと巻き髪少年を始めとした貴族は平民を軽視する方向にあるようだし、いい機会だ、一つ助言しておこう。
 もし彼らが外国に出向いた場合、今のような行動を起こしたら間違いなく警察のお世話になってしまうだろうから。
「ぼ、僕にまだ何か用があるのか―――い、いえっ、あるのでしょうか!?」
「……複数での襲撃は……やめておけ。その才を生かす……別の道がある筈だ」
 いやまあ、銅像一体をけしかけるのもダメなんだけどね、本当は。
 科学の力か何か知らないが、その扱い方を学ぶ学院の生徒である以上、あの銅像を生み出して動かす能力は彼が身に着けたものなんだろう。
 だったら、もっとその才能を役立てる別の道がある筈だと思う。
 大道芸としても大うけするだろうし、私刑に使うのはあまりに不憫だ……銅像が。
「べ、別の道とは……?」
 どこか呆けたような少年に頷き、再び口を開く。
「銅像に……何か持たせてはどうだ? ……無手ではあまりに……稚拙だ」
 例えるなら、お手玉やボーリングのピンなどを。
 地面から出てきた銅像がジャグリングをする。
 大通りでやればすごい反響があるに違いない。
 子供たちの心もがっちりキャッチだ。
「一考してみると……いい」
 それだけ言うと、少年に背を向けて歩き出す。
 っと、またしても大切なことを忘れるところだった。
「……もう二度と……主を愚弄するな」。
「は、はい! グラモンの名に賭けて誓います!」
 巻き髪少年の答えに満足して、再び足を進める。
 今までナイフを握ったままだったことを思い出し、慌てて腰のベルトに戻した。
 その際、ベルトが切れないか心配だったが、それは杞憂だと判明した。
 おそらくは、柄を握った瞬間に刃が振動する仕組みなんだろう。
「ダンケ! 大丈夫なの!?」
「……ああ」
 実を言うと、結構痛かったりする。
 あのナイフをベルトに戻した途端、痛みがぶり返してきたのだ。
 特に右腕の痛みなんか酷い。
 と言うか、動かそうとする度に激痛が走る。
 おかっぱ少女が俺の右腕をそっと握りながら呟いた。
「右腕、折れてる」
「う、うそっ!?」
「…………」
 ルイズが目を見開き、俺の腕を握る。
 痛い……すごく痛い……触らないでほしい……い、いててっ!
 でも、顔にはほとんど出ていない筈だ。
 何故なら、それが俺の(嫌な)クオリティだから。
 にしても腕……また折れちゃったか。
 この痛み、確かに懐かしい気がする。
「あ、あなた、そういうのは正直に言わないとダメでしょ!? 使い魔がご主人様に嘘をついてどうするの! ほら、私の部屋に行くわよ」
 グイグイと俺の腕(右)を引っ張るルイズ嬢。
 痛いと口にすることもできず、そのままズルズルと引き摺られるようにして歩く。
 俺の数歩後ろを、おかっぱ少女がトコトコとついて来ていた。
 広場から建物にようやく移動。
 もうあの広場には二度と行きたくない、トイレは別の場所を使おうと心に誓う。
「……ダンケ」
 不意に立ち止まり、ルイズが俺の仮の名を呼んだ。
 俯いているので、その表情は読み取れない。
「どうした……主」
「……私、結局あなたに迷惑かけただけだった。……ごめん……なさい……っ」
 ルイズの肩が震えている。
 俯いたその顔からポタポタと涙の雫が落ちた。
 どうやら、やっと気がついてくれたらしい。
 ……さっきから俺の折れた方の腕を引っ張っていたことに。
 いやぁ……別に泣くほどのことじゃないと思うけど。
 確かに腕は痛いが、我慢できないほどじゃない。
 感情表現が苦手なおかげか、痛みにはそれなりに耐性がある。
 だから、今すぐ手を離してくれればそれでいいのに……優しい娘だなぁ、ホント。
「気にしなくても……いい。主のおかげで俺は……救われた」
 自分が機械の使用法を誤ったとは言え、男の俺を自室に入れてくれたルイズ。
 居心地が悪くならないよう俺に仕事も与えてくれたし、さっきだって危ないのに俺を助けようとしてくれた。
 家が貧乏で自分一人でさえ生活が大変なのに、俺と言うお荷物を進んで受け入れてくれた彼女には本当に頭が上がらないのだ。
 俺は……そう、俺は……。
「俺は……主に呼ばれて、感謝している」
 おお、久々に言いたいことをはっきりと完璧に言えたぞ!
 何だかすごい嬉しい。
 思わず頬が緩んでしまうほどに嬉しい。
 例えば昨日会った病弱少年に召喚された日には、毎日が欝だったに違いない。
 ルイズで良かった、本当に良かった。
 俺は本当に、
「主と出会えて……良かった」
 心からそう思う。
 可愛いし、優しいし、言うことなしだと断言できる。
 彼女をお嫁さんにもらえる男はきっと世界一の果報者だ。
 ……あぁ、いつか俺も彼女結婚式にお呼ばれするのだろうか。
 絶対に泣くだろうな、俺は。
 娘が嫁ぐお父さんの気持ちが少しわかる気がする。
「あ、ああ、あんた一体何を言っているの!? 真っ昼間から、それにこんな場所で!? そういったことはもっとムードとかある―――って、そうじゃなくて! ふ、ふざけてないで早く戻るわよ!」
 顔を上げたルイズは真っ赤だった。
 そりゃあもう、茹でたタコの如く。
 もしかして……気づかぬ内に結婚式の件を口に出していたのか!?
 そして、またしても折れた右腕を掴んだまま歩き始める主殿。
 おまけに、さっきよりも握力が増している気さえする。
 ただ、もう泣いていないことだけが唯一の救いだった。
「ねぇ……」
「……?」
「……ありがとう」
 ……そう思うなら、手を離してほしいです。
 とは口が裂けても言えない。
 いや、もういいや。
 もう痛みも感じないから……はぁ。
 それにしても……腹が減った。


~闇・その弐~


 ヴェストリの広場にて行われた貴族と平民の使い魔の決闘。
 これを密かに観戦していた者が、集まったギャラリー以外に存在していた。
 白髪の老人が杖を一振りすると、今まで決闘の様子を映し出していた大鏡が元の鏡に戻る。
「オールド・オスマン」
「うむ」
「あの平民、勝ってしまいましたが」
「……うむ」
「ギーシュは一番レベルの低い『ドット』のメイジですが、それでもただの平民に遅れを取るとは思えません。そしてあの動き! あんな平民見たことない! やはり彼は伝説の『ガンダールヴ』!」
 コルベールが熱い口調で言う。
 彼が口にした『ガンダールヴ』とは、始祖ブリミルが用いたとされる最強の使い魔の名前である。
 その力は凄まじいの一言で、千人の軍隊をたった一人で壊滅させることができたとまで伝わっているほどだ。
 コルベールはあの平民の使い魔の左手に現れたルーンについて不眠不休で調べた結果、それが古文書に記された伝説の使い魔『ガンダールヴ』の刻印と酷似していることを突き止めていた。
「うむむ……」
 トリステイン魔法学院の長たる、オスマンの呻り声が部屋に響く。
 コルベールは苛立ちを隠すように額の汗を拭き取ると、学院長に進言した。
「オールド・オスマン、早速王室に報告して指示を仰がないことには……」
「いや、それには及ばん」
 しかしオスマンはそれを否定した。
 首を左右に振った結果、その長く白い髭が揺れている。
 深い皺の刻まれたその顔には、並々ならぬ覇気が宿っていた。
「どうしてですか!? 現代に蘇った『ガンダールヴ』! これは世紀の大発見なのですよ!?」
「では、一つ訊くが……その青年は本当にただの人間だったのかね?」
「は、はい。ミス・ヴァリエールが召喚した際、念のために『ディテクト・マジック』で確かめたのですが、正真正銘、ただの平民の青年でした。ただ……」
「……ただ?」
「その……彼は明らかに戦闘慣れしています。相手がメイジだからと言って怯むことなく……いえ、むしろ相手がメイジの時にその本領を発揮すると言いますか……」
 自分でもうまく意見がまとまっていないのか、コルベールが頻りに額の汗を拭う。
 口にこそ出していないものの、オスマンの意見も彼に概ね賛成だった。
 あの青年は平民なのにも関わらず、魔法を恐れない。
 一つ間違えば殺されてしまうという状況にあってなお、彼は使い魔として主の命に従い、そして打倒の命が下るや否や容易く勝利を得て見せた。
 平民が傭兵になるというケースはさして珍しくないが、対メイジ戦に特化した傭兵となると話は別だ。
 魔法を使えない者は、魔法を使える者を恐れる。
 これは腕利きの傭兵であっても同じであり、彼らがメイジと戦う時は呪文の範囲に入らないよう弓矢などの遠距離兵器でまず牽制し、別働隊がその隙に接近してトドメを刺すという戦闘法を用いることが多い。
 魔法の中には白兵戦でこそ真価を発揮するものもあるので、場数を踏んでいる傭兵は決してメイジに単独で仕かけたりはしないのである。
 ところが、此度の決闘で青年が見せた戦闘法はそれとは全く逆のベクトルを有するものだった。
 牽制を挟むことも、飛び道具に頼ることもなく、その圧倒的な瞬発力を生かして距離を詰め、目標を一気に制圧する。
 確かにこれは効率的な戦闘法だが、一歩間違えば至近距離で魔法の迎撃をもらうことになる危険な賭けだ。
 少なくとも、昨日今日メイジと対峙した者ができる動きでは断じてない。
 幾多の戦場を渡り歩くことで培った戦士としての勘と、魔法の発動を見切ることができる類稀なる洞察力。
 この二つが合わさって初めて、効果を発揮する戦闘法と言えよう。
「そしてその使い魔を召喚したのは……」
「ミス・ヴァリエールですが……」
「彼女は優秀なメイジなのかね?」
「いえ、と言うか、むしろ無能と言うか……」
 言い難そうに告げるコルベールに背を向ける形で、オスマンは椅子から立ち上がる。
 そして窓の側まで歩み寄ると、静かに息を吐いた。
「ふむ。では、その無能なメイジが伝説の『ガンダールヴ』を、しかもメイジとの戦闘に慣れた平民の青年を召喚したと言うことになるかの」
 メイジの実力を測るには、まずその使い魔を見よ。
 この原則に当てはめるのならば、ミス・ヴァリエールと伝説の使い魔『ガンダールヴ』はあまりに釣り合わない。
「そうですね……」
「兎に角……じゃ、此度の件はあまりに謎が多過ぎる。何故無能と呼ばれるメイジと契約した平民が『ガンダールヴ』となったのか、そして何故、あの青年はあれほどまでにメイジとの戦闘に慣れているのか。そもそも彼が本当にただの平民なのか。……ふぅ、考えればキリがないわい」
「……ですね」
 その声音から、コルベールが苦笑しているのがわかる。
 振り返ったオスマンは、コホンと咳払いを一つしてから言った。
「この件は私が預かる。一切の他言は無用じゃ。ミスタ・コルベール。それに……」
「それに……?」
「万が一、王室に報告してミス・ヴァリエールの身に何か起こってみなさい。あの使い魔が……黙っていると思うかね?」
「…………」
 オスマンとコルベールは引き攣った笑みを見合わせた。


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この記事のコメント
超振動ナイフとくるとは思ってもおりませんでしたw

まじ光と闇の差がたまりませんw

これからもがんばってください!!
2007-12-25 Tue 04:34 | URL | いすみ #M5JS4aUA[ 内容変更]
ルイズが・・・ルイズがかわいい!?

はいすみませんなんか可笑しなテンションで訳のわからない事を口走ってしまいました(反省
ところでダンケカッコいい!!勘違い系の醍醐味爆裂ですがwwwこれからも是非頑張って貰いたいです!
2007-12-25 Tue 04:59 | URL | タンケ #OEZKBdis[ 内容変更]
これ骨折はやっぱり殴った時かな?w
2007-12-25 Tue 11:00 | URL | #/Amn5WiM[ 内容変更]
もう堪りませんな!
素晴らしいの一言です。

ちょ、超振動ナイフって。
彼のドイツ史観を聞きたいですね。

ルイズ可愛過ぎ。
タバサのセリフが・・・。
びねつ・・・もはや名前すら・・・。

あのオスマンの反応は初めて見ました。
オスマンすら勘違いする凄まじさ。
ブラボー。
2007-12-25 Tue 12:18 | URL | kou #8sp/3iLM[ 内容変更]
ダンケ・・・ッ!
ダンケダンケダンケダンケダンケダンケダンケダンケダンケダンケ

ケダンに見えてしまった。

待ってました、今回ダンケは喋った回数が多かったですねぇ~!

ナイフについては、多少の能力補正的なものが働いたのでしょうか?青銅を切り裂くって、DONDAKE
2007-12-25 Tue 13:47 | URL | ニトクリスの鏡 #NJsiWxd2[ 内容変更]
ドイツの印象
ドイツの科学力は世界一ィィィィーーーーッ!!!!
2007-12-25 Tue 15:40 | URL | 海淵 #8cYMrPsk[ 内容変更]
ダンケがどんな理由で自分の力を解釈するのかと思ってたらまさかの超振動ナイフw
今回も面白かったッス
2007-12-26 Wed 00:54 | URL | #-[ 内容変更]
今回も楽しく読ませていただきました。
有言実行な更新お疲れ様です。

そうか・・・心で理解できたぞ!!
ダンケの能力っ!それはっ!!
「手に持ったものを超振動させる程度の能力」
だっ!!!www
2007-12-26 Wed 08:07 | URL | NAND #BxQFZbuQ[ 内容変更]
今回もすばらしい出来でした。

なんかルイズがしっかりとヒロインをやっていますね。
それにしてもコルベールさんがダンケに対して、過剰気味に反応しているのはやっぱり過去のトラウマを思い出すからでしょうか?
2007-12-26 Wed 11:26 | URL | 夢羅 #-[ 内容変更]
超振動ナイフと聞いて、何となくEVAを思い出す私はやはりオールドタイプなのか。

しかし、ダンケの勘違いっぷりと勘違われっぷりは見ていてとても面白いw

次回も期待してます。
2007-12-27 Thu 21:38 | URL | テンテン #-[ 内容変更]
ちょ、超振動ナイフときたか…!
ダンケのボケっぷりは最高ですよ。ルイズがちゃんとヒロインしているのもグッド!

闇が多かったのが個人的に嬉しかった。
オスマンのあんな反応を見たのは初めてでした。
2007-12-28 Fri 22:27 | URL | 夢幻の戦士 #1olHiW.o[ 内容変更]
素晴らしい。勘違い系はもっと評価されるべきと思わせる一品。
2007-12-31 Mon 00:17 | URL | 通り縋り #cRy4jAvc[ 内容変更]
面白かったです。
高速振動剣といえばメックを思い出す私は老人なんでしょうか?
2008-02-18 Mon 01:58 | URL | DORAO #HFItS5Jk[ 内容変更]
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