ネクオロでした
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零の使い魔。 ~幕間~
2008-02-29 Fri 14:17
逝くぞ、錬金王―――小石の貯蔵は十分か?


                                                      ダンケ

また……また守ってくれたのね、ダンケ。

                                                      ルイズ
 零の使い魔。~幕間~

 ~光~

硬いパンと具のないスープを胃に収めた俺は、ルイズと一緒に教室に向かっていた。
 使い魔を召喚して初の授業と言うことで、皆して何かしらの動物をお供に連れている。
 視線を巡らして見るが、人間はやはり俺だけのようだ。
 希少価値がありそうでない人間の使い魔。
 正直、少し落ち込んでしまう。
 ルイズが扉を開け、部屋の中に入って行く。
 俺も胸中でビクビクしながらそれに続いた。
 まず耳についたのは、クスクスという笑い声。
 何事かと視線を巡らせば、数人の生徒(だろう)たちがルイズと俺を交互に指差して笑っている。
 ……そ、そんなに変な格好してるかなぁ。
 ナイロン製の衣服というのは珍しいようで(おそらくは、貴族の彼らは高価なシルクやコットンしか製の衣類しか身に着けないためだろう)、どうしても人目を集めてしまう。
 しかし、そんな中でもルイズは堂々としていた。
 きびきびとした足取りで席に向かい、ノートと羽ペンを鞄から取り出すと着席する。
 さすがはルイズ、その毅然とした態度に憧れてしまう。
 俺はいそいそと彼女の隣に立つ。
 席に着かないのは、俺が使い魔という身分だから。
 点々と席に着いている生徒たちの隣には、様々な形をした使い魔たちが床に座っていたり、立っていたり、浮いていたり、飛んでいたりしている。
 大きな目が一つ体の中央についている妖怪もどきや、六本足のトカゲなんかもいるが、今更俺はそれぐらいじゃあ驚かないぜ。
 大きなトカゲが空を飛ぶのを目にし、地面の下から銅像が出現するのも見た。
 そんな俺が、あの程度の技術の結晶で驚いて堪るものか。
 ……まあ、好き好んで目を合わせようとは思わないが。
「ダ、ダンケ殿、お早うございます」
「……ああ」
 挨拶をしてきたギーシュに返事を返す。
 決闘の後、彼が謝罪してきたので俺はすべてを水に流すことにした。
 もともとは俺が勝手に貴族専用トイレを使おうとしたのが悪いんだし、反省しているのに責めるのは年配者失格だからな。
 呼称に「殿」がついていることについては、俺もよくわからん。
 最初は「様」づけだった。
 それだけはやめてくれと言ったら、今度は「殿」がついた。
 彼なりに謝罪の意を表しているのだとは思うが、こういう呼称に慣れていない俺はどうにも落ち着かないというのが本音だ。
「怪我は……大丈夫か?」
 あまりのフルボッコに我を忘れてしまい、本気で彼を殴り飛ばしてしまった俺。
 翌日にはピンピンしていたから、存外にタフなのかもしれない。
 顔の腫れだってものの見事に引いていたし。
「ええ。ダンケ殿が手加減してくださったおかげです」
「……そうか」
 これは俺に対するあてつけだろうか。
 お前のパンチなど痛くも痒くもない、あれで本気かボーイ……みたいな。
 前言撤回、この男はまったくと言っていいほど懲りていないようだ。
 オノレ、これだから甘やかされて育った生き物というのは……。
 しかもわざわざ俺の隣に座るとは……立っている俺に対する挑戦だな。
 職務熱心な少年かと思ったが、やはりこいつは俺の敵だ。
 フ○イトで言うなら、シ○ウとコ○ミネの関係だ。
 両者は決して相容れることはないという。
 例え天地が引っくり返ろうとも、俺はお前が泣くまで殴るのをやめない!
 ……そういう気分になってきた。
 よし、さりげなく奴の靴に画鋲とか入れてやろう。
 あたかもこの機会を待っていたかの如く、俺は途中で画鋲を拾っていた。
 ご都合主義、万歳!
 その時、扉が開いて中年の女性が入ってきた。
 紫色のローブに、細長い帽子。
 どうやら彼女が先生らしい。
 中年の女性は教室を見渡すと満足そうに微笑み、言った。
「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」
 ほう、あの女性はシュヴルーズという名前のようだ。
 まあ、今の俺からすればそんなのどうでもいいが。
 それよりも、どうやってギーシュの靴に画鋲を入れるか、そっちの方が俺にとっては重要な課題だ。
「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」
 先生が驚いたように言う。
 いやいや、そんなことよりも俺は計画を優先せねば……。
 下駄箱というものがない以上、夜中にこっそりは難しい。
 となると……。
「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺歩いてた平民を―――うぁっ!?」
 煩いぞ、クソガキ。
 俺は今、ささやかな復讐計画を立てるので忙しいんだ。
 貴様のせいで、折角立てた作戦を忘れてしまったらどうする。
「……黙れ」
 喚いていた生徒の一人を睨みつける。
 靴を履いている人間の靴に画鋲を仕込む。
 俺は不可能に挑戦しようとしてるんだ、邪魔をするな!
 苛立ちを隠そうともせずに睨んでいると、不意に柔らかな感触が俺の肩に伝わった。
 首を動かせば、俺の肩に手を置いたルイズがフルフルと首を左右に振っている。
 うわっ、俺としたことがつい怒りに我を忘れてしまった……。
「ダンケ、いいの。言わせたい奴には言わせておけばいいんだから」
「しかし……」
 それだと落ち着いて計画が立てられないんだが……。
「あんたの力は私が知っている。それで十分じゃない?」
「……ああ」
 そうか。
 ルイズは俺がこの計画を遂行できると信じてくれているのか。
 だったら、その想いに応えなければなるまい!
 睨むのをやめ、再び思考に没頭する。
 手の中には古びた画鋲が一つ。
 問題はこれをどうやって奴の靴に……あれ、思考がループしてないか?
 いや、そんな些細なことは気にしちゃダメだ。
 考えろ……考えろ……考えろ……。
 ………………。
 …………。
 ……はっ!?
 まずい、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
 しかも立ったまま。
 動揺を抑えつつ周囲に視線を飛ばせば、どういうわけかルイズが前に立っていた。
 杖を振り上げ、何かぶつぶつと呟いている。
 ……と言うか、どうして他の生徒たちは机の下に隠れているんだろう。
 俺が寝ている間に避難訓練でもあったのか?
 くいくい、と誰かに袖を引かれる。
 視線を落とせば、机の下に潜り込む憎きあの野郎と視線が交差した。
「あなたも隠れた方がいい。怪我をしてしまう」
 ……怪我をする、だと?
 ふっ、それはお前の方だ。
 そういう意味を込め、笑い返してやる。
 俺がお前の靴に画鋲を仕込むその日まで、せいぜい脅えながら毎日を謳歌しているがいい……って、日本語が微妙に違っている気がする。
 そこで初めて俺は気がついた。
 手の中から画鋲の感触が消えていることに。
 ど、どこに行った!? 俺の画鋲ちゃんは!?
 探す俺の目に、キラリと何かが光を反射する。
 視線の先には……おお、愛しの画鋲ちゃんじゃないか!
 画鋲は数メートル先の床に転がっていた。
 授業中だということも忘れて、貴重な復讐パートナーである画鋲目がけてダッシュ。
 あれを喪失してしまっては、俺の計画がおじゃんになってしまう。
 駆ける、駆ける、駆ける。
 掴もうとした瞬間、指に弾かれた画鋲は軌道を変えて曲がっていく。
 だが、甘い。
 俺は既にその先を読んでいる!
 画鋲の進路を妨害するように俺は体を反転させ―――そして何か柔らかくて温かいものと接触した。
 刹那、背中に決して軽くはない―――むしろやたらと重い衝撃が走る。
 爆発音が聞こえてきたのはその直後だった。
 俺が吹っ飛ばなかったのは、おそらく奇跡だろう。
 白煙が教室に充満し、生徒たち(+使い魔)の慌てふためく声が耳に入って来る。
「けほ……けほ……え……ダン……ケ……?」
「大丈夫か……主」
 いつの間にか抱き締めてしまっていたルイズを解放する。
 ……女の子を抱き締める。
 俺はこうしてまた一つ、大人の階段を昇るのであった……じゃなくて!
 い、いきなり爆発するなんて危なすぎるだろ!?
 いくら工業系の専門学校とは言え、これはやり過ぎだ。
 硝子の割れる音が聞こえたかと思うと、あっと言う間に煙が外に吸い出された。
 視界が晴れる。
 少し離れたところで、あの先生が目を回しているのが見えた。
 ……お気の毒さま。
 これ以外の言葉が見つからない。
 視線を前に引き戻せば、何故か揃いも揃って目を丸くしていた。
 使い魔たちはお構いなしといった様子で暴れている。
 ……いや、一人だけ例外がいた。
 ギーシュだ、奴は獲物を前にしたハンターのように目をギラギラさせている。
 ちくしょう、この爆発を仕かけたのは奴なのか!?
 戦々恐々としていると、裾を引っ張りながらルイズが訊いてくる。
「ダンケ、怪我とかしてない? 大丈夫?」
「……ああ」
 実はか~な~り背中が痛かったりするが、口に出したりしない。
 女の子の前で弱みを見せる男には……なりたくねぇのさ、オイラは。
「爆発の……原因は?」
 尋ねると、ルイズは顔を引き攣らせた。
 この反応、どうやら犯人は彼女本人だったらしい。
 彼女は「おほほ」とわざとらしく笑いながら呟いた。
「ちょ、ちょっと失敗したみたいね」
「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」
「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!」
 ルイズに対して罵声を浴びせる生徒たち。
 ……いや、おかしいだろ、それは。
 だって彼女の魔法は―――
「成功……している」
「……え」
 ルイズの呆けたような声が耳に届いた。
 彼女をバカにしていた連中も、目を見開いたまま閉口している。
 何を驚いているのかは知らないが、ルイズの魔法は確かに成功している。
 それは覆しようのない事実だ。
 つか、それくらい見ればわかるだろうが。
「君たちは……爆発させることが……できるのか? 火薬も……火も用いず……彼女と同じ現象を起こすことが……できるのか?」
 火薬も起爆装置も使用せず、対象を爆発させる。
 これは冗談抜きですごい能力だと俺は思う。
 戦争で使うなり、土木工事で使うなり、これほど破壊に特化した技術はそうはないだろうし。
 国家資格とかいるだろうな、絶対。
 ルイズの家が貧乏なのはきっと、その機構を搭載した杖を製造するのに莫大な予算を注ぎ込んだからに違いない。
 そして彼女は幼い頃からその杖を使っていたから慣れてしまい、その錬金とやらの授業でもつい間違ってその機能を使ってしまったと。
 杖が多機能なのは、タバサから聞いた話で知っている。
 大方、杖のスイッチの切り替えを忘れていたとかその程度だろう。
 ルイズは低血圧だから、朝はどうしてもぼーっとしている。
 故に、ついつい「うっかり」が発動してしまってもムリはない。
 チッ、またしてもギーシュと目が合ってしまった。
 しかもさっきよりもその目つきは鋭い。
 あの野郎、ルイズの杖に目をつけやがったな……させんぞ。
 俺はその前に、貴様の靴に画鋲を入れてやる。
 そう考えていると、頬を赤く染めたルイズに礼を言われた。
 そうか、彼女もギーシュの視線に脅えていたのか。
 よりによって、人の保護者に手を出すとは。
 オノレ、外道め……っ。
 人知れず、俺は拳を握り締めるのだった。


 ~闇~


 教室に足を踏み入れたギーシュが目にしたのは、主の少女の横に佇む黒衣の青年の姿だった。
 恐る恐る声をかけると、いくら決闘とは言え骨を折るという真似をしてしまった自分に憤ることもなく、普通に返事を返してくる。
 それどころか、自分のことを差し置いて怪我の心配までしているではないか!
 やはり、彼は器の大きい人間だとギーシュは再確認した。
 そして講師のミス・シュヴルーズが入室して授業が始まった。
「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」
 教卓から生徒たちを見渡しながらシュヴルーズが言う。
 しかしたった一人、この中に例外がいるのを彼女は見逃さなかった。
 ……そう、不幸にも。
「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」
 その口調には暢気な響きさえ感じられた。
 思えば、彼女が自分たちの授業を担当するのは初めてだ。
 噂ではルイズの名称が『ゼロ』であることを聞いているだろうが、それが彼らの間で既に浸透していることに彼女は気づかなかった。
 講師の言葉を皮切り、数人の生徒たちがルイズをなじる。
 その中でも特に目立っていたのは、二つ名が『風上』のメイジ・マリコルヌだ。
「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺歩いてた平民を―――うぁっ!?」
 『ゼロ』……彼がそう発言した刹那、教室の一点から形容するのも難い殺気が噴き出した。
 自分に向けられているわけではないのに、ギーシュの頬を冷や汗が流れていく。
 横目で窺えば、マリコルヌはへなへなと椅子に座り込んでいた。
「……黙れ」
 怒鳴ったわけではない。
 しかし、相手から逆らう気力を根こそぎ奪うような冷たい声音が静かに響く。
 一度戦った……否、対処されたギーシュは知っている。
 普段は決して荒事に自ら干渉しないこの青年だが、主を冒涜した者には剣を向けることも厭わないことを。
 彼なりに手加減はするだろう。
 現にこうして、ギーシュは未だ生を実感している。
 だが、果たして彼の物理的な威力さえ感じられるあの眼光に、常人の精神はどれだけ持つのだろう。
 自分が生きているのは、すべて青年が力をセーブしてくれたためだ。
 彼がもし本気を出して戦えば、おそらく自分のような矮小な存在は一瞬でこの命を刈り取られてしまっていたに違いない。
 彼の殺気に生徒たち全員が竦み上がっていた。
 無論、それは講師たるミス・シュヴルーズも例外ではない。
 彼女は杖を振り上げた体勢のまま、瞬きすることもできずにいる。
 不意に青年の主が立ち上がった。
 少女は彼の肩に手を置くと、首を小さく左右に振る。
「ダンケ、いいの。言わせたい奴には言わせておけばいいんだから」
「しかし……」
「あなたの力は私が知っている。それで十分じゃない?」
「……ああ」
 主人たる少女の言葉に頷き、青年は殺気を霧散させる。
 そして再び教室内に時間が戻った。
 誰もが安堵の息を吐く中、ギーシュだけは青年の……いや、忠義の騎士の本心を見抜いていた。
 主人を愚弄されて怒ったのは事実だろう。
 だが、彼がこの程度のことでここまで怒りを露にするだろうか?
 胸に痞えていたもやもやが払拭されたのは、ルイズに矛を収めるよう指摘された青年の瞳を見た瞬間だった。
 あの使い魔は、その目に安堵の色を焼きつけていたのである。
 そう、まるで少女が自分を止めてくれたことに安心したかのように。
 この時、ギーシュはすべてを悟った。
 ダンケは自分の危険性をわざと見せつけ、それをルイズが制することで彼女の力量を周囲に無意識の内に自覚させようとしたのだと。
 敢えて自分が野獣を演じることで、主人を立派な猛獣使いに仕立て上げる。
 あの青年は自分が悪役に成り下がることによって、少女を立てたのだ!
 あぁ、なんと言う忠義心だろうか!
 騎士は貴族と同じように、なにより誇りと名誉を貴ぶ生き物。
 なのにも関わらず、彼はそれさえも捨てて主人に尽くして見せた。
 やはり彼こそ、いや、彼でなければ自分の理想にはならない。
 ギーシュは授業の後、青年に師事を請おうと決意した。
 技量も然ることながら、その生き方に彼は深い憧憬の念を抱いたのである。
 再開する授業。
 今日の内容はギーシュがもっとも得意とする『錬金』だった。
「『土』系統の魔法は、万物の組成を司る、重要な魔法であるのです。この魔法がなければ、重要な金属を作り出すこともできないし、加工することもできません。大きな石を切り出して建物を建てることもできなければ、農作物を収穫も、今より手間取ることでしょう。このように、『土』系統の魔法は皆さんの生活に密接に関係しているのです」
 シュヴルーズが得意気に巧弁を垂れている。
「今から皆さんには『土』系統の魔法の基本である、『錬金』の魔法を覚えてもらいます。一年生の時にできるようになった人もいるでしょうが、基本は大事です。もう一度、おさらいすることに致します」
 懐から小石を三つほど取り出したシュヴルーズが、手に持った小ぶりな杖を振り上げる。
 そして短くルーンを呟くと、小石が光り出した。
 光がおさまり、ただの小石だったそれはピカピカ光る金属に変わっていた。
「ゴ、ゴ、ゴールドですか!? ミセス・シュヴルーズ!」
 身を乗り出して声をあげたのはキュルケだ。
「違います。ただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです。私はただの……」
 シュヴルーズはそこで言葉を区切ると、もったいぶった咳をした。
 そして心なしか得意気に言う。
「『トライアングル』ですから……」
 スクウェア、トライアングル。
 これらは共に、魔法使いが系統を足せる数のことを言う。
 例えば『土』系統の魔法はそれ単体でも使える(現にギーシュは単体でしか使えない)が、それに『火』の属性を足せば、さらに強力な呪文になるのだ。
 例のように二系統を足せるのが『ライン』メイジ。
 シュヴルーズのように三つの系統を足せるのが『トライアングル』。
 四つの系統を足せるのが『スクウェア』のメイジで、その絶対数は少ない。
 そしてもっとも多いのがギーシュのように一つの系統しか扱えない『ドット』のメイジである。
 しかし、今の彼にとっては『スクウェア』だろうと『トライアングル』だろうと大した脅威には感じなかった。
 ギーシュはその身を以って知っている。
 真の強者は、魔法を使える数や身分などに囚われたりはしないことを。
 本当に強き者は、そんな些細な差など物ともせずに切り崩してしまうことを。
 そう……あの使い魔のように。
「それでは誰かに『錬金』をやってもらいましょう。……そうですね、では、ミス・ヴァリエール! ここにある石ころを望む金属に変えてごらんなさい」
 彼女がルイズを指名した瞬間、またしても教室内の時は停滞した。
 今度はあの使い魔は関与していない。
 主の方にその原因はあった。
 指名されたと言うのに、ルイズは立ち上がらない。
 ただ困ったようにもじもじとしている。
 そしてギーシュはその理由を知っていた。
 否、クラスにいる全員に知れ渡っていた。
「ミス・ヴァリエール! どうしたのですか?」
 シュヴルーズが再度呼びかける。
 ギーシュは、しまったと思った。
 この先生はルイズを教えるのが初めてだということを、うっかり失念していたのだ。
「やめといた方がいいと思いますけど……」
 困ったように意見したのはキュルケだ。
 彼女の意見に賛成するように、教室にいる者全員が一斉に頷く。
 ギーシュは横目でルイズの使い魔を覗き見た。
 ダンケは屹立し、俯いたまま身動き一つしていない。
 てっきり青年が何かしらの反応を見せると思っていたが、見ている限りまったく動く気配は感じられなかった。
 失敗から学ぶこともある、ということだろうか。
「ルイズ、やめて」
「やります」
 キュルケの懇願がダメ押しとなってしまったようだ。
 ルイズは立ち上がってダンケを一瞥してから、教卓に向かう。
「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮べるのです」
「……はい」
 ルイズは頷くと、手にした杖を振り上げる。
 次に起こるだろう惨劇を予想して、ギーシュは机の下に身を潜ませた。
 そのまま視線を持ち上げれば、ダンケは我関せずといった様子で動かないでいる。
「あなたも隠れた方がいい。怪我をしてしまう」
 ギーシュが声をかけるが、青年は口許に薄く笑みを浮かべるにとどまった。
 もしかして、彼はこの後に起こることを知っているのだろうか?
 ギーシュの意識が思考に一瞬だけ沈む。
 そして彼が再び視線を戻した時、そこには既にあの青年の姿はどこにもなかった。
 刹那、爆発音が響いて校舎が軽く揺れる。
 ゲホゲホと咳き込みながら体を起こせば、教室の前半分が白煙に包まれていた。
 周りから「あ~あ、またかよ」という声が漏れ始める。
 誰かの使い魔が驚いて逃げ出したのか、窓ガラスの割れる音がした。
 室内に充満した煙が吸い出され、急速に視界が晴れていく。
 途端、生徒たちが息を呑んだのがわかった。
 ギーシュは彼の行動性を他の生徒たちよりは理解しているため、驚くことはない。
 むしろ、当然だろうとさえ思った。
 自分たちに背を向ける形で立ち尽くす黒衣の青年。
 衣服の背の部分が焼け焦げているのが、ルイズの起こした爆発の規模を物語っている。
 だがしかし、目立った被害はそれだけだった。
 青年の意思の強さが奇跡でも呼び起こしたのか?
 いや……と、ギーシュは胸中で頭を振る。
 あの人のことだ、その洞察力で衝撃のもっとも少ない位置を見抜き、そこに主を抱えて体を潜り込ませたんだろう。
 使い魔たちが騒ぎ立てる中、ただ一人、彼だけは冷静でいた。
 いつでも背の少女を守れるよう、その鋭い眼光は周囲に注がれている。
 その騎士然とした佇まいに、ギーシュは尊敬の眼差しで青年を見つめる。
「ちょ、ちょっと失敗したみたいね」
 スカートのポケットからハンカチを取り出すと、冷や汗を拭うルイズ。
 彼女が傷一つなくいられるのは、使い魔たるダンケのおかげだ。
 反面、一度に二人を庇うのはさすがにムリだったらしい。
 シュヴルーズ講師は煤だらけになりながら、倒れていた。
 それでも怪我らしい怪我が見られないのは、なんらかの対策を青年が取ったからに違いない。
 黒衣の騎士の守護の恩恵を受けるのは、何もその主だけとは限らない。
 あの騎士は自分の手の届く範囲、そこにいるすべての人を救おうとする気高い存在なのだから。
「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」
「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!」
 青年の放つ空気に多少威圧されながらも、何人かの生徒たちが文句を言う。
 しかし、それを遮ったのはまたしても使い魔の青年だった。
「成功……している」
「……え」
 彼の言葉の真意が読み取れないのか、ルイズが驚きの声をあげた。
 それは彼女をバカにしていた者たちも同じで、皆一様に訝しむような視線を使い魔に注いでいる。
 ギーシュも彼のことを絶対的に信頼しているものの、今回ばかりは首を傾げていた。
 だが、そんな懸念も次に青年が発した一言で瞬く間に霧散することになる。
「君たちは……爆発させることが……できるのか? 火薬も……火も用いず……彼女と同じ現象を起こすことが……できるのか?」
 言われた瞬間、教室を戦慄の波が駆け巡った。
 通常、魔法が失敗したらなにも起きたりはしない。
 ルイズのように、爆発に変化するなど以ての外だ。
 今までは望んだ結果に至らない点ばかりを非難していたが……。
 誰もが青年の言に込められた真意に気づいたのだろう。
 シンと静まり返る教室。
 ダンケは軽く肩を竦めると、ノビているシュヴルーズを抱き起こした。
 主の不始末は使い魔の責任。
 そう言わんばかりに、お世辞にも軽いとは言えない彼女の体を顔色一つ変えずに抱き上げる。
 ギーシュは『レビテーション』をかけようと杖をとるが、それよりも早く誰かが先に浮遊呪文をシュヴルーズに施した。
 青年は軽く頭を下げると、教室を後にする。
 その背を、主人の少女が慌てて追いかけていった。
 ギーシュが師事を請うのを思い出し、彼らを追いかけるべく教室を飛び出したのはそれから数分後のことだった。

 * 主人公はギーシュが苦手を通り越して、嫌いになってしまいました。(^_^;) まあ彼からすればいきなり銅像で私刑(リンチ)されたわけですから、苦手意識が敵対心に成長してもおかしくはないわけで……。両者の温度差は広がる一方でございます。

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この記事のコメント
更新につき感想
先日指摘した通りすがりです
この勘違いの温度差がこの作品の特異点だと思う日々
この先にある七万VS一がどう変化するのか今から楽しみな自分
バルド?ワルヂ?あ、ワルドだったか
あの髭との対決が今後でかなり楽しみにしているのでゆっくりと待つとしするのさ

次回はどういった話になるのか、ゆるりと楽しみにしてまた次回!
2008-02-29 Fri 16:45 | URL | 通りすがり #XOXaHDn2[ 内容変更]
な、なんてすごい勘違いのすれ違いだ。
そのうちギーシュはダンケを信仰する宗教団体を作るに違いない!w
2008-02-29 Fri 17:49 | URL | NAND #BxQFZbuQ[ 内容変更]
>>忠義の騎士の本心を見抜いていた。

見抜いてないw 見抜いてないよギーシュwww
2008-02-29 Fri 18:07 | URL | YOU #-[ 内容変更]
読みました♪
お久しぶりです、アルトです
すれ違い、すれ違い、どこまで行ってもすれ違い
いったいいつになったら誤解が解けるのか
というかダンケ寝てたんですね(汗
それにしても今回も面白かったです
身体に気を付けて、執筆頑張って下さい
2008-02-29 Fri 20:20 | URL | アルト #-[ 内容変更]
ご都合主義、万歳!!
ギーシュの死亡フラグが立ちそうで立たなさそう。

ルイズはもうダンケにメロメロですな。

清々しいくらいのすれ違いっぷり。
ビバ、ダンケ!
2008-03-01 Sat 00:56 | URL | kou #8sp/3iLM[ 内容変更]
平行線ですね、この二人。
まぁ、ダンケに関わった人たち全員が擦れ違っているわけですがw
しかし靴に画鋲って、ダンケ意外とせこいなw
あと闇で、キュルケ視点とい……いえ何でもございません。
毎回毎回面白いです。次回も期待して待ってます。
2008-03-02 Sun 21:13 | URL | 夢幻の戦士 #LOLorWpQ[ 内容変更]
爆弾魔はヤツだ。
ゼロ魔を読むと必ず爆発の有効活用の壁にぶち当たるんですが、やっぱりアレの危険性を誰も危惧しないってのはおかしいですよね。欠点は精密性ぐらいで一点を爆破した場合の威力は教室の備品を全滅させる・・・・最初の一発ではずれても敵さん巻き込まれて死ぬんじゃね?・・・・。至近距離でくらってルイズとシュバなんとかが無事なのは虚無のご都合主義って事なのか?・・・
ま、それはともかく面白く読ませていただきました。
これからも執筆がんばってください。期待してます。
それにしてもオハコンバンチハ・・・・・古い。
2008-03-04 Tue 18:33 | URL | げべ #wiCHBZOk[ 内容変更]
初感想
初めまして、今回初めて感想を書きます。
零の使い魔、一気に読んだんですが、すれ違いっぷりが本当におもしろいです。
しかしなぜかダンケの容姿が、ガ○ダムWのトロワとそっくりに感じるのは自分だけですかね?
2008-03-05 Wed 16:30 | URL | ノット #lICd2zaU[ 内容変更]
細かくて申し訳ないんですが・・・
闇の3,4行目

~いくら決闘とは言え骨を折るという真似をしてしまった彼に憤ることもなく~

骨を折ったのはギーシュですから、ギーシュ視点ならば、[彼]ではなく、ここも[自分]なのでは?[彼]だと第3者の視点になる気が・・・。
2008-03-06 Thu 08:26 | URL | NAND #BxQFZbuQ[ 内容変更]
No title
ある所で紹介されていたので、リンクから来てみました。

勘違い系は書くのが難しい。

そう言われていて、実際に眼にすると、かなり複雑な構成となっていて驚きました。

やはり、勘違い系で良いのは互いに考えている事が違い、そのギャップから生まれる思わず笑ってしまう場面ですね。

楽しませてもらっています。

2009-09-12 Sat 03:05 | URL | ノイン #-[ 内容変更]
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