ネクオロでした
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零の使い魔。 ~第十一話~
2008-03-17 Mon 02:21

……え? あ、なに!? こんな唐突に出番が回ってくることがあるの!? 先に言ってくれればもっといい服を……そ、そう……ここだけ、なの。……もういいわ、帰って寝ることにするから。

                                                 <赤い人>

俺、この買い物が終わったら……実家に帰って親父と仲直りしようと思うんだ。

                                                 <ダンケ>

それ、死亡フラグだから……。立てちゃダメ。

                                                 <青い人>

零の使い魔。 ~光~


 ……欝だ。果てしなく欝だ。
 お世辞にも広いと言えない薄暗い店内には、所狭しと剣や槍や斧や鞭や戦杖といった武器が並べられている。
 どれもこれも危なそうな物ばかり、こんなもの身に着けて歩いていたら間違いなく銃刀法違反で当局のお世話になってしまう。
 そうなのだ、俺はどういうわけか武器屋にやって来ていたのである。
「ダンケ、私は剣のことはわからないから。あなたが適当に選んでちょうだい」
 店に入るなり、ルイズは俺にそう言った。
 いや、俺だって剣のことなんてサッパリです。
 世界的に有名な剣ならいくつか知っているが、実戦で使用する真剣なんて目にした機会はほとんどない。
 強いて言うなら、テレビの歴史ドキュメンタリーで見た程度。
 あとは……お国柄、日本刀は一応知っている。
 使えないし、どれが有名だとかはやっぱりサッパリだけど。
「主……俺には武器など必要ない」
 観念して、正直に言ってみる。
 と言うか、あのちっぽけなナイフでさえあれだけの威力があったんだ。
 ここに並べてある武器の威力を考えると、背中に悪寒が走ってしまう。
 大体、戦争が起きるわけじゃないし、武器など持たなくても問題はないと思う。
 だが、ルイズは気に入らなかったようだ。
 目尻を少し吊り上げ、頬を膨らませる。
「あ、あんたが強いことぐらい知っているわよ。でも、使い魔はご主人様のステータスを映す鏡なの。安っぽい格好をしていたら、私まで安く見られちゃうじゃない」
「……わかった」
 これも貴族のプライドと言うやつか。
 彼女の涙ぐましい努力を知っている俺は、反論する口を持たなかった。
 悪運の強さは強い分類に入るんだろうか、とも思った。
 仕方なく、乱雑に並べてある剣を見つめる。
 ……あかん、まったくわからん。
 その時、店の奥からパイプを咥えたおっさんが現れた。
 店員を見かけないと思ったら、奥で休憩していたらしい。
「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売をしてまさぁ。お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」
「客」
 返答したのはタバサだった。
 ……ごめん、いるのを少しだけ忘れていた。
 この娘、俺と同じで口数が少ないからなぁ。
「こりゃおったまげた! 貴族が剣を! おったまげた!」
 このおっさん、やけにテンションが高い。
 正直、傍から見ていると引いてしまう。
「どうして?」
 今度はルイズが、腕組みしながら質問を投げかける。
 それにしても主殿はおかしなことを訊くなぁ。
「貴族には……杖があるからだ。故に剣は……力持たぬ者の牙となる」
 またしても微妙な言い回しになってしまったけど、つまりはそういうことだ。
 便利な機能をたくさん搭載した杖を持っている貴族が、わざわざ剣を振る意味がない。
 まあ、彼らは地面から銅像出したり、風の鎖出したりできるからさ。
 強盗とかに襲われても大丈夫ってわけだ。
 それを使うには、国家資格がいるみたいだけど。
「へ、へい。そのお方の仰るとおりでして! 坊主は聖具を振る、兵隊は剣を振る、貴族は杖を振る、そして陛下はバルコニーからお手をお振りになると相場は決まっておりますんで。魔法をお使いになる貴族の方々と戦うには、平民は剣でも持たないとまともに太刀打ちできやせんから、はい」
 揉み手をしながらそう言うおっさん。
 にしてもうまいこと言うな、なかなかにセンスのあるジョークだった。
 思わず笑ってしまったよ。
「どうしたの、ダンケ。あんたが鼻で笑うなんて珍しいじゃない」
「……いや」
 危ない、危ない。
 知らずの内に笑いが漏れてしまっていたようだ。
 と言うか、鼻で笑ったんじゃなくて、大爆笑だったんだけど……脳内では。
 白を通せるかと思ったが、ルイズはそう甘い性格ではなかったようだ。
 言いなさい!、という目で俺を睨んでいる。
 ……仕方ない、ホントのことを話そう。
「おかしかった……だけだ」
「おかしいって……何が?」
 え、いや、だから。
「店主の話が……だ」
 特に陛下は~の件が最高だった。
「あ、あっしの話が……ですかい?」
 どういうわけか、おっさんまで驚いている。
 俺が笑うのはそんなに珍しいのだろうか……?
「……あなたは特別」
 横から口を出してきたのはタバサだった。
 彼女は一振りの剣をその細い両腕に抱えている。
「メイジ相手に、無手で勝てる平民はほとんどいない。だから……あなたは特別」
 そう言って、タバサは抱えていた剣を俺に差し出した。
 反射的に受け取ってしまう。
 柄があって、鍔があって、刀身に変なカバーみたいなのがあって、刃がある……但し、その刃は錆びてボロボロだった。
 だが、俺を脅かせたのはボロボロだったからじゃない。
「これは……まさか……」
 自分でも声に震えが走っているのがわかった。
 まさか……まさか、この地でこれに出くわそうとは……!
 この片刃の刀身……間違いない。
 これは形こそ違うが……。
「……『デルフリンガー』」
 ―――日本刀だ!
 ……あれ、今タバサの声と俺の心の声が被らなかったか?
 と言うか何さ、その『じぇるふりんがぁ』って。
「……おでれーた! おめぇ、『使い手』か!?」
 などと思っていると、いきなり剣が口を利いた。
 さすがはドイツ、本領発揮と言ったところか。
「それって、『インテリジェンスソード』だったの?」
 剣を指差し、ルイズが当惑した声をあげる。
 やはり家が貧しいルイズは、喋る剣を見るのは稀らしい。
 安かったら、飛行装置のついでにもっと綺麗な喋る剣も買ってあげよう。
「おうよ! にしても、おでれーた! まさか使い手に会えるたぁ、思ってもみなかった」
「そう。六千年ぶりに現れた、あなたの真の使い手」
 タバサが「剣」と会話している。
 俺は、今更剣が喋ったくらいで驚いたりはしない。
 日本にだって人と会話できるロボットがいたくらいだから。
 ドイツの技術は日本の数百年先を行っている。
 たかだか剣が口を利いたくらいで、驚いてたまるものか。
 ……若干、腰は引けていたが。
「ダンケ、その『インテリジェンスソード』と知り合いなの?」
「……いや」
 知り合いと言うのには語弊がある。
 俺はただ日本刀っぽい外見を残したこの剣にびっくりしただけだし。
「懐かしい気がした……それだけだ」
 まだ三日しか経っていないのにも関わらず、もうホームシックとは情けない。
 日常生活からかけ離れた剣を見て日本を思い出すとは、重症かもな。
「ふぅん。……これをもらうわ、おいくら?」
 興味深そうに剣を眺めていたルイズが店主に尋ねる。
 ……え、やっぱり買うの?
「へい。あれなら新金貨三十枚で結構でさ」
「あら、安いじゃない」
「こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさ」
 そう言って、おっさんが肩を竦めて見せる。
 い、いや、金貨三十枚って安くないでしょ!?
 そんな高い物は要らないと言おうとする前に、ルイズは俺の手から布袋を取ると中身をカウンターにぶちまけた。
 ジャラジャラジャラ……。
 そういった感じで転がる金貨たち。
 初めて見るその黄金の輝きに、俺はしばし目を奪われた。
 まさかルイズ……全財産持って来たんじゃなかろうな!?
「へい。確かに」
 店主が手馴れた動作で金貨の数を数える。
 彼が驚いた表情をしていないことから、平民の間でもそれなりに金が流通していることを悟った。
 ドイツでは金の価格が大暴落でもしているのかもしれない。
 だとすれば、貧乏貴族のルイズが金貨を大量に持っているのも頷ける。
 ……銅貨一枚拾って喜んでいた自分が少し寂しくなった。
 あの銅貨、一体どれくらいの価値があるんだろ。
 日本円で一円とかだろうか。
「これからよろしくな、相棒」
「……ああ」
 剣に声をかけられたので頷いておく。
 鍔がカタカタと鳴ることで喋る仕組みになっているらしい。
 家族にいい土産ができた。
 両親の驚く顔を思い浮かべると、自然と嬉しくなってしまう。
 おっさんに鞘を貰い、剣―――もとい『デルフリンガー』を背中に差す。
 ルイズにどうして腰に提げないかと訊かれたので、不便だとだけ言っておいた。
 ……言えないじゃないか、思った以上に重かっただなんて。
 武器を持つのは心底嫌だが、ルイズの体裁もあるので素直に従うことにした。
 刀身は錆びだらけだったし、まともな剣を持たされるよりはマシだろう。
 せいぜい、鈍器として使うことしかできまい……って、余計に危なくないか?
 そのまま店を出ようとした時、俺はあることを思い出した。
 そう、バイトだ……じゃなくて(いや、それも大事だが)、ナイフがほしかったんだ。
 何を隠そう、使い魔の食事であるパンは硬い。硬すぎる。
 現代人の弱った顎では噛み切れないほど、兎に角硬いのだ。
 しかしルイズのナイフを借りるのも躊躇われ、俺は未だパンを食べられずにいた。
 それを打開するために考えたのが、ナイフでパンを切ろうというもの。
 本当はあの超振動ナイフでやろうと思っていたが、危な過ぎるので断念した。
 パンだけでなく、その下の皿まで真っ二つにしそうで怖い。
 剣まで買ってもらってまだ頼むのは気が引けるが、食生活の改善は最優先事項なのだ。
 心を鬼にして、ルイズにお願いする。
「……主」
「ん、どうかしたの、ダンケ」
「ナイフが……ほしいのだが」
「……ナイフ?」
 そんな物何に使うの、といった表情のルイズ。
 うっ、何だかパンを切るのに使うとは恥ずかしくて言い出せない雰囲気だ。
「敵を切るのに……使う。剣を屋内で振るうのは……無理がある」
 敵=硬いパン。
 屋内=食堂。
 剣=『デルフリンガー』。
 つまりはそういうことだ。
 さすがに喋る剣でパンを切ろうとは思わない、否、思えない。
「まぁ、いいわ。選ぶなら早くしてね」
「……感謝する」
 礼を言って財布を受け取り、再び店内を物色する。
 できるだけ小さくて、危なくないやつがいいなぁ。
 あと、超振動とかついていないのが絶対条件だ。
「……ほう。これは」
 キラキラとした剣を見つけたので、思わず手に取った。
 華やかさを失わず、しかしこう……武器らしさを残したナイフというのだろうか?
 門外漢の俺は何と言っていいかわからないが……お、これは。
「……スティレットか」
 先端の尖った見るからに物騒な武器。
 俺が口にした『スティレット』というのが、この武器の名前らしい。
 ……って、何で俺がそんなこと知ってるんだ!?
 危ない店にいるから、要らぬ電波でも受信してしまったんだろうか。
 だとしたら……あぁ、欝だ。
「へ、へい、仰る通りで。そいつは鎧や鎖帷子の隙間に差し込んで使う、殺傷用の短剣でさ。何でも達人は鎧ごと貫くこともできたとか」
 説明してくれるのはありがたい。
 ただ何故だろう、さっきからやたらと店主が俺の体を見つめてくる。
 も、もしかして……そっちの世界の住人なのか、このおっさんは!?
 い、いや、そう決めつけるのは早計だろう。
 それに人の趣味をとやかく言えるほど、俺は立派な人間じゃない。
 気を取り直して、スティレットに意識を集中する。
 そして出た結論は。
「…………」
 要らないな、これは。
 何が好きで、そんな物騒な物を持ち歩かないといけないんだ。
 と言うか、刃がついていないからパン切れないし。
 俺が元の棚に戻そうと思った直後、小柄な人影がそれを持って行ってしまった。
 人影の正体―――タバサはカウンターの上にスティレットを置くと、淡々とした口調でおっさんに訊く。
「いくら?」
「それなら金貨なら七十枚、新金貨なら―――」
「買った」
 店主が最後まで言い終える前に、タバサが懐取り出した布袋をやはりぶちまける。
 またしてもジャラジャラと転がる金貨たち。
 その理不尽な光景に、俺は軽く頭痛を覚えた。
 貴族の間で流行っているんだろうか、財布の中身をぶちまけるのが。
「はい」
 購入したスティ―――ええい、長いし、発音し難いっ!
 購入した短剣を俺に渡そうとするタバサ。
 いや、買ったのは君だから、という意味で首を振る。
 しかし、少女はグイッと俺の胸にそれを押しつけてしまった。
 こうなるともう、受け取るしか選択肢は残されていない。
 と言うか、いくら側面に刃はついていないからと言って押しつけるのは危ない。
「……感謝する」
 礼を言いつつ、腰のベルトに短剣を差す。
 見てくれだけは剣士に見えるかもしれないが、こう見えても素人だ。
 別名、銃刀法違反を体現している者とも言う。
「相棒も隅には置けねぇな!」
 鞘から中途半端に顔(刀身?)を出した剣がゲラゲラと笑った。
 頼むから俺の背中で動くのはやめてほしい。
 いくら錆びているとは言え、危ないじゃないか!
 無言のまま、剣を鞘に押し込む。
 そして気を取り直してナイフを物色しようとすると、腕を引っ張られた。
 視線をそちらに移せば、ルイズが不満そうに頬を膨らませている。
「帰るわよ」
 そのままズルズルと引き摺られる俺。
 あぁ、まだナイフを買っていないのに……。
 またあの硬いパンと生身で戦うことになるのかと思うと、気が重い。
 つか、何でそんなに不機嫌なんだろうか彼女は。
「私が買ってあげるって言ったじゃない……」
 何やらブツブツと呟く主殿。
 どうやら、彼女の不機嫌メーターはMAXに近いようだ。
 君子危うきに近づかぬ、の格言に従い、ここはそってしておこう。
 歩いている時に足にうっかり刺さらないよう短剣の位置を微調整しつつ、出口に向かう。
「毎度!」
 あのおっさんの声を背に受け、俺たちはようやく武器屋を後にするのだった。


~闇~


 ブルドンネ街の武器屋は、裏路地を抜けたところにあった。
 羽扉を潜り、店内に足を踏み入れる。
 まず目についたのは、至る所に宝石をあしらった立派な甲冑だった。
 こういった店に来るのは初めてなので、少し緊張しながらルイズは店内を見渡す。
 所狭しと並べられている武器の数々。
 貴族であり、メイジである彼女は、どの武器がどうやって使われるかはまったくわからない。
 だから、この場にいる者の中でもっともそれに精通しているだろう使い魔に任せることにした。
「ダンケ、私は剣のことはわからないから。あなたが適当に選んでちょうだい」
 何たって、青銅製のゴーレムをナイフ一本で斬り捨てた男だ。
 彼以上に剣に詳しい者など、ルイズは知らなかったのである。
 しかし、彼女の使い魔の返答は予想外のものだった。
「主……俺には武器など必要ない」
 この言葉には、さすがのルイズも呆れるのを禁じ得なかった。
 確かにダンケの戦闘能力はずば抜けている。
 彼が伝説の使い魔『ガンダールヴ』だというタバサの説を否定しきれないのも、その能力の高さ故のことである。
 だが、それとこれとは話が別だ。
 主人の自分が剣を買ってあげると言うのだから、その従者である彼は素直に従えばいい。
(そ、そうじゃないとお礼にならないじゃないの……!)
 という言葉を飲み込み、ルイズは多少語気を荒らげて告げる。
「あ、あんたが強いことぐらい知っているわよ。でも、使い魔はご主人様のステータスを映す鏡なの。安っぽい格好をしていたら、私まで安く見られちゃうじゃない」
「……わかった」
 渋々といった様子で頷くダンケを横目に、内心でほっと安堵の息を吐く。
 青年が陳列してある武器を眺め出したところで、ようやく店の店主らしき男が現れた。
 男はルイズたちの格好―――正確にはマントを留めている五芒星のピンバッジを見つけると、愛想笑いを浮かべて見せた。
「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売をしてまさぁ。お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」
「客」
 淡々とした声音で告げるタバサ。
 何かを探しているのか、彼女は乱雑に立てかけられた剣を物色している。
「こりゃおったまげた! 貴族が剣を! おったまげた!」
「どうして?」
 やけに店主が驚くので、思わずルイズは訊き返した。
 だが、回答は彼女の予想だにしない方向から帰って来る。
「貴族には……杖があるからだ。故に剣は……力持たぬ者の牙となる」
 手にしていた剣を棚に戻し、ダンケは当然の如く語る。
 その声には確かな実感がこもっていた。
「へ、へい。そのお方の仰るとおりでして! 坊主は聖具を振る、兵隊は剣を振る、貴族は杖を振る、そして陛下はバルコニーからお手をお振りになると相場は決まっておりますんで。魔法をお使いになる貴族の方々と戦うには、平民は剣でも持たないとまともに太刀打ちできやせんから、はい」
 こちらの機嫌を損なわないようにしているのか、店主は揉み手をしながら営業用の笑みを浮かべている。
 彼の言うことはもっともなので、ルイズは「そうなの」と声を漏らしただけだった。
 ただ、ダンケが「力持たぬ者の牙となる」と言うのはすごい違和感があったが。
 その時、不意にルイズの耳に微かな嘲笑が入って来た。
 音源に視線を向けると、青年が僅かに口許を歪ませている。
「どうしたの、ダンケ。あんたが鼻で笑うなんて珍しいじゃない」
 実際は鼻で笑うどころか、感情を表に出すこと自体が珍しいのだが。
 尋ねると、案の定、使い魔は口を噤んだ。
 それでも目を逸らさずにいると、観念したのか溜め息を一つ零して口を開く。
「おかしかった……だけだ」
「おかしいって……何が?」
「店主の話が……だ」
 それだけ伝え、ダンケは再び剣郡に視線を戻す。
 ルイズは店主の話した内容とダンケの言葉を脳内で照らし合わせ、一つの結論に辿り着く。
 店主は、平民が武器を持たずに貴族に勝つのは無理だと断言した。
 しかしルイズは知っている。
 自分の使い魔は眼力だけでメイジを圧倒し、武器の中に位置するかも怪しいちっぽけな食事用のナイフでゴーレムを切り裂き、決闘に勝利して見せたことを。
 なるほど、確かに彼からすればおかしい話に違いない。
 だって、自分は既にそれを軽々と成し遂げているのだから。
(まあ、あいつに常識なんて言葉は通用しないもの)
 ルイズはダンケの胸中の想いを察し、クスリと笑った。
 そして、それはタバサも同様だったようだ。
「……あなたは特別」
 一本の古びた剣を抱えたタバサが呟くように言う。
「メイジ相手に、無手で勝てる平民はほとんどいない。だから……あなたは特別」
「む、無手でメイジに勝った!? おいおい、冗談だろ!?」
 店主の驚く声が耳に入る。
 自分の使い魔が褒められたような気がして、ルイズも少し機嫌が良くなった。
 胸を張り、驚愕の極地に達しているだろう店主に言い放つ。
「悪いけど事実よ。私の使い魔はそこらの幻獣よりもよっぽど強いの! この前だってナイフ一本でゴーレムを斬り捨ててしまったんだから!」
 あの時は驚いた。
 片手が使えないというハンデを物ともせず、ギーシュに圧勝して見せたのだから。
 まあ、そのハンデを作ってしまったのは自分なので、素直に喜ぶことができないのもまた事実だったが。
 兎に角、自分の使い魔の優秀さを見せつけたことで得意気なルイズ。
 だがしかし、再び視線を自分の使い魔に戻した彼女の顔は瞬時に引き攣った。
 タバサがダンケに剣を渡している。
 これはまだ許せる。
 自分には剣の鑑定眼は皆無だが、彼女はそれを持っているのかもしれない。
 そしてお眼鏡に適うものがあったから、これはどうかと思い渡したのだろう。
 だが……。
(ど、どうしてタバサが財布を取り出してんのよ!? 使い魔に物を与えるのはご主人様の役目でしょ!?)
 そう……タバサは懐から既に財布を取り出していたのである。
 誰の目から見ても、今ダンケの持っている剣をプレゼントしようとしているのは明らかだった。
 これは許すわけにはいかない。
 そもそも、タバサはルイズと同じメイジだ。
 メイジが振るのは剣ではなく、杖。
 思えば、彼女が自分たちと一緒に武器屋に入っている時点でおかしかったのだ。
 足音も荒く二人に近づくルイズ。
 文句の一つでも言ってやろうと口を開こうとした直後、
「これは……まさか……」
 という使い魔の声を聞き、呆気なくそれを閉ざした。
 古ぼけた剣を握ったダンケの声は震えていた。
 前髪から覗くその瞳が、驚きに揺れているのがはっきりと見て取れる。
 ルイズは……いや、彼女だけでなく、タバサも青年の反応に驚きを隠せないようだ。
「……『デルフリンガー』」
 我に返ったタバサが剣を見つめながら言った。
 『デルフリンガー』というのはおそらく、この剣の銘だろう。
 ルイズが『デルフリンガー』からダンケに目線を戻した時、既に彼の表情はいつもの虚無に戻っていた。
「……おでれーた! おめぇ、『使い手』か!?」
 いきなり剣が口を利いてきた。
 驚いたルイズの脳裏に、授業で習ったことのある魔剣の名が浮かぶ。
「それって、『インテリジェンスソード』だったの?」
 ……『インテリジェンスソード』。
 その名の示す通り、意思を持つ魔剣である。
「おうよ! にしても、おでれーた! まさか使い手に会えるたぁ、思ってもみなかった」
「そう。六千年ぶりに現れた、あなたの真の使い手」
 タバサが剣の言葉に相槌を打っている。
 一切驚いていないところを見る限り、どうやら彼女はこの剣が『インテリジェンスソード』だとあらかじめ知っていたようだ。
 そして、驚いていない者がもう一人。
「ダンケ、その『インテリジェンスソード』と知り合いなの?」
 いつもの彼女なら、たかが剣相手に「知り合い」などという言葉は使わない。
 しかし、先ほど垣間見せたダンケの表情は懐古の念に溢れていた。
 ルイズにとってはただのオンボロの剣だが、彼にとっては何か深い因縁があるのかもしれない。
「……いや」
 ダンケは一度頭を振ると、虚空を見上げながら呟いた。
「懐かしい気がした……それだけだ」 
 相変わらず謎だらけの使い魔。
 ただ、彼がこの剣を欲していることだけはルイズにも理解できた。
 ならば、彼女の取る行動はもう決まっている。
 見てくれは正直言って良くないが(むしろ劣悪)、剣の使い手たるダンケの反応を窺う限り、これは相当なものらしい。
 何より、この剣を握った途端、あのぶっきらぼうな使い魔が感情を露にしたのだ。
 それだけでも、この『デルフリンガー』を買う意味はある。
「ふぅん。……これをもらうわ、おいくら?」
 ルイズは一つ頷くと、店主に尋ねた。
 多少、ダンケの治療費で小遣いは減っていたものの、一人で全額出したわけではないのでまだ余裕はある。
 剣の価値に限らず、物の価値に基本的に疎い彼女は新金貨百枚くらいが相当ではないかと考えた。
 結果はと言うと、
「へい。あれなら新金貨三十枚で結構でさ」
 世間知らずの彼女の予想以上に安かった。
 そう、思わず拍子抜けしてしまうほどに。
「あら、安いじゃない」
「こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさ」
 そう言って、店主が肩を竦める。
 安物を使い魔に与えることに一瞬ルイズは躊躇するが、視界の端で財布を手にしたタバサが見つけると、慌ててダンケから自分の財布をひったくり中身をカウンターにぶちまけた。
「へい。確かに」
 残った金貨の詰まった袋を受け取り、ルイズは少し得意気に胸を張る。
 それが誰を対象にしているかは、彼女だけが知っていた。
「これからよろしくな、相棒」
「……ああ」
 視線の先では、ダンケとデルフリンガーが挨拶を交わしていた。
 応じる彼の声音には微かに喜びの色が見て取れる。
 値段だけは気に入らないが、自分の使い魔が満足しているようなので良しとしよう。
 店主から鞘を受け取り、それをダンケに手渡してあげる。
 礼を言ってから剣を鞘に押し込み、肩に提げる青年。
 騎士が剣を腰から提げていたことを思い出し、ちょっとした好奇心からルイズはその件について尋ねてみた。
 それに対する彼の返答は、
「いざと言う時、両手が使えないのは……不便だからな」
 という、実に実用性溢れるものだったことも明記しておく。
 買い物を終えて外に出ようとした時、不意にダンケが口を開いた。
「……主」
「ん、どうかしたの、ダンケ」
 ルイズは立ち止まり、振り返る。
 青年は言い難そうに、ボソリと呟いた。
「ナイフが……ほしいのだが」
「……ナイフ?」
 訝しげに尋ねると、ダンケは一つ頷いてから再度言葉を紡ぐ。
「敵を切るのに……使う。剣を屋内で振るうのは……無理がある」
 その何とも彼らしい頼みに、ルイズは思わず笑みを浮かべてしまった。
 直接口には出さないものの、この使い魔はあくまで主人を守るための武器がほしいと言っているのだ。
(……もう、少しくらい自分のほしいものを言えばいいのに)
 そう思う反面、そこまで自分のことを想ってくれていることを嬉しく感じる。
 赤くなってしまった頬を隠すために顔を背け、ルイズは持ったままだった財布を突き出すようにして差し出した。
「まぁ、いいわ。選ぶなら早くしてね」
「……感謝する」
 礼を言い、財布を持って再び品物を物色するダンケ。
 元々彼はナイフを使った戦闘を得意としているのか、短剣を手に取るその目は真剣そのものだ。
(そう言えば、ギーシュと戦った時もナイフを使っていたわね)
 あの時はてっきり、用意できた武器があれだけなのかと思っていたが。
 有事の際に不備があってはいけないよう、時折ランプに刀身をかざしたり、強度を確かめるように刃を触ったりしてはナイフを取り替えている。
 ふとダンケの足が止まった。
 その手には一振りの短剣が握られている。
 柄に煌びやかな装飾をまとった短剣。
 ダンケが言うには、スティレットという名前の武器らしい。
 今更自分の使い魔が武器に詳しいことぐらいでは驚かない。
 彼はそれを食い入るように見つめていた。
 どうやら、あのナイフに決めたようだ。
 それでもまだカウンターに持って行こうとしないのは、主であるルイズの許可を待っているためだろう。
 ルイズは苦笑する。
 決闘の時もそうだったが、どうにもこの使い魔は主人の命令を重視し過ぎる傾向にある。
 まあ、主の命令を無視する使い魔よりは百倍もマシだし、主人を侮辱された時は命の有無に関わらず怒りを見せる彼のことを、ルイズは密かに気に入っているのだが。
 ―――それに決めたんなら、早く買ってきなさいよ。
 苦笑の響きを混ぜた台詞を口にしようとし、しかし彼女はそれを後一歩のところで飲み込むことになる。
 トコトコとダンケの側まで歩いていったタバサが彼の手からスティレットを奪い取り(ルイズ主観)、先にカウンターに持って行ってしまったのである。
 表情にこそ出ていないが、呆けたようにその場で突っ立っている青年を尻目に、少女は勘定をさっさと済ましてしまうと短刀を彼に手渡した。
 一度はその申し出を断ったダンケだったが、タバサの押しに負けて受け取ってしまう。
 途端、ルイズの不機嫌メーターが一気に上昇する。
 自分のプレゼントした剣より、あのちっぽけなナイフの方が高価なのも許せない。
 貴族という生き物は、何でも自分が一番じゃないと落ち着かないものなのだ。
 ダンケは礼を言うと、プレゼントしてもらったスティレットを腰のベルトに差した。
 背に大剣を担ぎ、腰に短刀を帯びた黒衣の青年。
 あとは鎧とマントでも身に着ければ、十中八九彼を使い魔と見なす者はいまい。
 どう贔屓目に見ても傭兵、見る者によっては王宮騎士団の一員と思われるかもしれない。
 だが、今のルイズにそれをゆっくり鑑賞する余裕はなかった。
「相棒も隅には置けねぇな!」
 というデルフリンガーのからかうような声が、彼女の神経を逆撫でする。
 照れているのか呆れているのかは定かでないが、ダンケは無言で剣を鞘に押し込んだ。
「帰るわよ」
 不機嫌さを隠そうともせずに使い魔の腕を掴むと、渾身の力を込めて店の出口まで引っ張って行く。
 途中までは引き摺るような形になったが、主の意を汲んですぐにダンケは自分の足で歩き始めた。
 無論、いつでも敵襲に備えられるよう、ルーンの刻まれた左手は短刀の柄にかけられている。
 チラリとそれを見て、ルイズは頬を膨らませる。
 羽扉を抜けると、強い日差しが彼女たちを照らし出した。
 目を守るために顔に手をやり、少女はそっと呟くのだった。
「私が買ってあげるって言ったじゃない……」

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この記事のコメント
・・・冒頭にしか出ない赤い人、いや冒頭に出られただけいいのか?いつか光が当たることを祈っている。まぁタバサが活躍することの次くらいには、祈ってる。

でもってデルフ登場!でも背中に差してたんじゃ使いづら・・・ナイフか、背中のモノ使わずに腰のナイフでいろいろ片付けるのか?ww

どうなるにしろ、楽しみに待ってます。頑張ってください。ではではー!
2008-03-17 Mon 07:33 | URL | NAND #BxQFZbuQ[ 内容変更]
ふ、不憫な子、キュ〇ケ。
ぶっちゃけ日本刀を背負ったら抜けないんじゃ。
ダンケの居合、見たいなぁ・・・。

ますますプロ意識が高まってきたダンケ。
戦闘シーンが待ち遠しいです。

しかし、そろそろドイツと違うと気付かないん?
2008-03-17 Mon 08:32 | URL | kou #-[ 内容変更]
はじめまして。
はじめまして、ネクオロ様。
毎回、楽しく拝読しています。
これほど完成度が高い“勘違い”系に出会えたのは奇跡です。(双子オ◯マのコメントではないですよ)
所で、自分の携帯からは『零の使い魔』第5話から以前の作品が背景色と一緒になっているようで読むことが出来ません。
どうにか読むように出来ないでしょうか?
是非、第1話から読みたいのです。
よろしくお願いします。
それでは、次回の作品も楽しみにしています。
2008-03-17 Mon 13:33 | URL | broom #-[ 内容変更]
どーも^^
読ませて頂きました。一時期更新が滞ってましたので心配していたのですがまたいつもどおりに更新されていてホッとしました^-^

キュルケー!可哀想ですが、まぁ別に私的にどうでも良いのでw

タバサとルイズの勘違い&ダンケの取り合いがまたおもしろい。しかも考え付かないような勘違いを連発するダンケがかっこいいッス。ネクオロ氏、あなた天才では?ww

負担にならない程度に期待しておきますのでゆるりと、しかし途中で挫折しないように頑張ってください。応援しています。
2008-03-17 Mon 23:00 | URL | 零のキツネ #JalddpaA[ 内容変更]
ここのルイズはヤバい・・・これは俺の嫁認定したい!!!!
2008-03-18 Tue 14:34 | URL | #LD8buFXM[ 内容変更]
>>敵=固いパン
>>屋内=食堂
>>剣=デルフリンガー
ダンケ、そんな言い回しするから勘違いが深くなるんだよww
今回も面白かったです、頑張ってください。


追記 赤い人はフーケ編すら出てこないのではなかろうか(爆
2008-03-18 Tue 16:40 | URL | ノット #-[ 内容変更]
読みました♪
お久しぶりです、アルトです
今回もみんな果てなくすれ違ってますね
ですが、敵=固いパン この図式はどうかと……
積極的に行動すればするほど誤解が深まっていく、
いったいこの先どうなるのか、とても楽しみにしています
赤い人は冒頭だけでしたが……
健康に気を付けつつ、執筆頑張って下さい
それでは本日はこのあたりで
お返事お待ちしております
2008-03-18 Tue 20:05 | URL | アルト #-[ 内容変更]
積極的になっても消極的になっても、確実に勘違いされるダンケ。もう最高です!

>敵=硬いパン。
>屋内=食堂。
>剣=『デルフリンガー』
不思議だ、本人は至って平和人間なのに何で言い回しがこんなに物騒なんだw
まさかこれがガンダールヴクオリティか!

それと赤い人。ごめん、君の反応も笑えるよw
いつか良いことあるって。

フーケ編で一時完結ですか。
正直惜しいとは思いますが了解しました。それまで全力で応援させていただきます。
あと、ネクオロ様はシエスタ奪還は書かないのでしょうか?
ダンケの戦闘能力が、第三者にどう映るか非常に気になりますし。
何よりシエスタが余り出てこないのでw

体調に気をつけて、頑張ってください。
2008-03-19 Wed 22:54 | URL | 夢幻の戦士 #LOLorWpQ[ 内容変更]
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