ネクオロでした
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零の使い魔。 ~第12話~
2008-03-22 Sat 12:24
周りは俺のことを不死身だと思っているのかもしれないが、俺は一回刺されただけで死ぬぞ!

                                                   <ダンケ>

絶対に許さない……! 

                                                   <ルイズ>

 
零の使い魔。 ~光~

結論から言おう、バイトは探せなかった。
 あの後、不機嫌なルイズの「もう帰る」という宣言により、俺の望みは呆気なく打ち砕かれてしまった。
 まあ、元々バイトはルイズに飛行機械をプレゼントするために始めようと思っていたことなので、彼女の意に反してまでやる意味はない。
 と言うか、心の奥底で働かないで済んだことに安堵している自分がいる。
 どうやら、俺は真性のニートだったらしい。
 ルイズの部屋に戻ってしばらく彼女は無言だったが、日が暮れた頃いきなり立ち上がると、魔法の練習をすると言い出した。
 別に俺にそれを止める理由はないので、そうかとだけ頷いておく。
 ただ、いくら学校の敷地内だからと言って夜に女の子一人を出歩かせるわけにはいかない。
 下着ドロにでも遭遇したら大変だしな。
「主……俺も行こう」
「べ、別にあんたはついて来なくてもいいのよ?」
「いや、そういうわけには……いかない」
「そ、そう。じゃあ、勝手にしなさい」
 というやり取りの後、揃って外に出る。
 ビビリの俺は背に大剣を担ぎ、腰に短刀を差しての完全装備だ。
 これだけの重武装、変質者が見たら一目散に逃げ出してくれるに違いない。
 ……お願いだから逃げ出してくれ。
 そしてルイズの魔法の練習が始まった。
 杖を取り出し、正面の岩目がけて詠唱―――爆発。
 詠唱―――爆発。
 詠唱―――爆発。
 延々とその繰り返し。
 さすがはルイズ、一度もミスることなく爆発させている。
 彼女の持っている杖に内蔵されているのは、『爆発』の能力。
 おそらくは固有の分子に働きかけ、振動させて爆発……とか、俺の低レベルな頭では想像することもできないような技術の結晶なのだろう。
 小石を真鍮に変えたりする先生もいたが、やはりルイズの魔法は特別だ。
 導火線も要らず、火薬も要らずに対象を爆発させるなど、他の誰にも真似できない。
 彼女の家が貧乏なのは、あの杖を製作するのに多大な労力と財力を費やしたからに違いないだろう。
 後ろでぼけっと見ているだけでは申し訳ないので、デルフリンガーを抜いて適当に振るって見る。
 左手に一瞬熱を感じたかと思うと、次の瞬間、俺の体はまたしても羽のように軽くなっていた。
 ……俺はひょっとして剣を握るとハイになる危ない人種なんだろうか?
「ん? 相棒、お前さん、実はあまり剣を使ったことがねぇだろ」
「……ああ」
 というか、「あまり」じゃなくて「一度も」の間違いだ。
 その声を聞きつけたのか、ルイズが軽く首を傾げる。
「え、でも、ギーシュと戦った時は小さなナイフをあれだけうまく使っていたじゃない」
「それは……俺の力じゃない。元より俺は……武器は使わない」
 銅像をバラバラにできたのは、あの超振動ナイフのおかげ。
 そも日本国の一般市民だった俺は、武器とは無縁の生活を送っていたのだ。
 スーパーで銃を売っているアメリカと一緒にしないでほしい。
「って、ことは何か、相棒は武器も持たずに戦って来たってことか? こりゃ、おでれーた! 武器を使わずに戦う使い手なんて、長いこと剣やってるが初めて見たぞ!? おでれーた!」
「まあ、あんたからして見れば、そこらのメイジ倒すのに武器なんて必要ないんでしょうけど」
 大げさに声をあげるデルフリンガーと、呆れたように肩を竦めるルイズ。
 何故だろうか、いつの間にか誤解が広がっているような気がする。
 話している最中に大剣を振るうのもどうかと思い、今度は短刀を構えてみる。
 デルフリンガーは鞘に入れると話せないようなので(時折、自力で抜け出すが)、抜き身のまま壁に立てかけて置く。
 腰だめ……は鉄砲玉みたいなので止めて、漫画の世界の忍のように逆手に構えて振るう。振るう。
 突いたり、下から振り上げたり、振り下ろしたり……調子に乗って投げてみたり。
 ヒュッ、と風を切り裂く音と共に飛ぶ短刀。
 自分でも驚くほど速く、そして真っ直ぐ飛んで行ったそれは、少し離れた位置にある木の幹に突き刺さった。
 ……うそ~ん。
 しばし呆然と自分の手を眺める。
 おかしい、どうも剣を握ると体の調子が良くなるのだ。
 気のせいかとも思ったが、さすがにこうも連続して起こると気持ちが悪い。
 次いで目に入ったのは、左手の甲に刻まれた「ル~ン♪」だった。
 確か、使い魔のル~ン♪ だったか。
 楽しげで何よりだと思う。
 もしや……今まで気がつかなかったが、俺が剣を持つとハイになるのはこれのせいなのだろうか!?
 そう考えて思い返して見れば、剣を持つと必ずこれが刻まれている左手の甲が熱くなっていたような気がする。
 だとすれば……ナノマシンだな。
 微細な機械群が俺の体内に侵入し、運動神経の強化や気分の向上などを担っているのだ。
 剣を握るだけでそれの名前や使用法がわかるのも、衛星を関して何らかの情報を取得し、それを俺の脳に直接ダウンロードしているに違いない。
 そしてナノマシンを投与したという証が、この「使い魔のル~ン」というわけだ。
 牧場の名前を焼印された牛みたいで気に入らないが、これのおかげで命を救われたこともあるので無下にはできない。
 自分の体に異物が入っていると思うと気分が悪くなるけど、他の使い魔も同じ境遇にあると考えると少し落ち着いた。
 赤信号、皆で渡れば恐くない。
 と、同じ理由である。
 まあ、今のところ俺に害意はないようだし、やばい時は病院に行けば何とかなるだろうと自分を納得させておいた。
 傷が早く治ったり、病気にかかり難くなったりする付加効果もあるだろうし。
 自分でナイフを投げてしまったので、今度はデルフリンガーを振るう。
 手に持った途端、ル~ンが淡く発光し、本来ならばその重さに振り回されるだろう俺が片手で軽く扱えるようになる。
 正直、ものすごく便利な機能だと思った。
 問題は今のところ剣以外ではこの力が発動しないということか。
 できることなら、スコップやツルハシを握った時にも発動してくれるとありがたい。
 傍らでは、ボコーン、ボカーンと爆発音が断続的に響いている。
 夜中に騒音を立てるのもどうかと思うが、彼女も一生懸命なので許してやってほしい。
「なあ、相棒」
「……どうした?」
「あれ、ゴーレムじゃねぇか?」
 視線の先……と言っても、デルフリンガーは剣だからどこに目があるのかわからない。
 何となく勘で振り向いて見たところ、闇夜をバックに巨大な影が屹立していた。
 すごく……大きいです……。
 三十メートルくらいはあるだろう大きな影は、真っ直ぐ俺に向かってその拳を……拳を……って、ええっ!?
「逃げろ、相棒ッ!」
 ちょ!? 言われるまでもないっって!
 大剣を持ったまま大きく後方に飛び退く。
 ギーシュの使用した銅像とは比べようもないほど大きな拳が地面に減り込み、一瞬でクレーターを形成した。
 ゴーレムはまるで親の敵の如く執拗に俺を狙って来る。
 ナノマシンで強化してあるから何とかなっているものの、生身の俺だったら間違いなく最初の一撃で潰れていたに違いない。
 いつの間にか短刀を投げつけた木のところまで下がっていたようだ。
 引き抜き、ゴーレム目がけて投げつける。
 俺の投げた短刀はゴーレムの顔(みたいな部分)に突き刺さった。
 胴体を狙ったのに、まさか顔に当たるとは……。
 でも、どっちにしろあの土人形には意味がなかったようだ。
 構わず、拳を振り下ろしてくる。
「ダンケ!? このっ!」
 ルイズが杖を振るう。
 案の定、その直後に爆発音が響き渡った。
 ……ただし、少し離れたところにある塔の壁から。
「う、嘘……」
 杖を振り下ろした体勢のまま、固着するルイズ。
 って、呆けている場合じゃないでしょ!?
「主! 逃げろっ!」
 落下してきたゴーレムの腕を掻い潜り、デルフリンガーで斬りつける。
 大してダメージを与えられないと思っていたが、俺の予想に反して土人形の肘から下が元の土に戻った。
 元々材質が土だし、強度自体は大したことがないのかもしれない。
 悲しいのは、それがまったくもって救いにならないことだが。
 振り抜いた大剣をナノマシン・パワーで無理矢理引き寄せ、今度はゴーレムの右足を斬り捨てる。
 体勢を崩しす土人形の肩に飛び乗り、その頭部目がけてヤクザキック―――を敢行しようと思ったら振り落とされた。
 調子に乗ったのがいけなかったらしい。
 落下する俺に向かって迫る大きな拳。
 咄嗟に大剣を盾にして衝撃を防ごうと試みるが、如何せん質量に差があり過ぎた。
 ガギンッ、という鉄同士がぶつかり合う鈍い音を聞いた直後、横に強い衝撃を受けて俺は……鳥になった。
 視界を埋め尽くすのは、色とりどりの星たち。
 両手を伸ばせたら掴めそうな空の宝石に思いを馳せ―――げふぅっ!?
 背にさっき以上の衝撃が走る。
 視界がチカチカ……あぁ、何だかつい最近も同じ目に遭った気がする。
 息をするのも億劫だが、なけなしの根性で立ち上がる。
 視界が定まらない、頭がやけに痛い、吐き気がする、腰が痛い。
 特に最後のが辛かった。
 それでも立ち上がる。
 迫る巨大な敵、襲われるお姫様、傷だらけになりながらも立ち上がる騎士。
 おお、何だか俺、最高に勇者してないか!
 発想の転換とはうまいことを言ったもので、そう考えるとやけにテンションが上がってきた。
 単純に、開き直ってしまったとも言う。
 そして俺は迫るゴーレムを睨みつけ……ることができなかった。
 何故なら、既に敵は退場してしまった後だったから。
 少なくとも視界に収まる範囲に、奴はいない。
「ダンケ! 大丈夫なの!? しっかりして!」
 血相を変えてやって来るルイズに、思わず苦笑いが漏れてしまう。
 俺が一生に一度あるかないかの熱血をしたというのに……まさか不発で終わってしまうとは。
 いや、まあ二人とも助かったのだからこれはいい結果なんだろうが。
 安心したのか、ナノマシンの反動がきたのか、じょじょに視界が狭くなる。
 ルイズが何か言っているような気がするが、もうほとんど聞こえない。
 とりあえず今の俺に言えることは……。
「……すま……ない……」
 気絶した俺を運ぶことになるだろう、彼女に向けての謝罪の言葉だった。


~闇~

 色々あってムシャクシャしていた私は、外で魔法の練習をすることにした。
 失敗して爆発するだけの魔法だけど、こういう時はスッキリできて少し役に立つ。
 私の少し後ろで控えているのは、使い魔のダンケ。
 イライラの原因はほぼ彼なんだけど、実際にダンケが何かしたわけじゃないから何も言えない。
 心の中のどんよりとした気持ちを押し隠すようにして杖を振るう。
 うぅ~、また失敗したぁ。
 今私が唱えたのは火の系統の初歩魔法『ファイヤーボール』。
 本当なら的代わりの石に向かって火の玉が飛ぶ筈なんだけど……ダメ。
 どうしても爆発してしまう。
 不意に風を斬る音が耳に届いた。
 振り返ると、ダンケがデルフリンガーを構えて空を斬っていた。
 ……すごい、あれだけ重そうな剣を片手で軽々と振り回してる。
 その時、デルフリンガーがカタカタと音を立てた。
「ん? 相棒、お前さん、実はあまり剣を使ったことがねぇだろ」
「……ああ」
 剣の疑問に即答するダンケ。
 ―――って、嘘っ!?
「え、でも、ギーシュと戦った時は小さなナイフをあれだけうまく使っていたじゃない」
 青銅のゴーレムをナイフでバラバラにするなんて、誰にもできる筈がない。
 だけど、私の使い魔は小さく肩を竦めて見せた。
「それは……俺の力じゃない。元より俺は……武器は使わない」
 私の脳裏に浮かんだのは、武器屋でダンケの言った自分には武器など必要ないという一言。
 あの時は遠慮しているだけかと思っていたけど違った。
 彼は今まで本当に武器を使わないで戦ってきたんだ。
 そのあまりの非常識さに、さすがの私も驚きを隠せなかった。
「って、ことは何か、相棒は武器も持たずに戦って来たってことか? こりゃ、おでれーた! 武器を使わずに戦う使い手なんて、長いこと剣やってるが初めて見たぞ!? おでれーた!」
 デルフリンガーが大げさに驚く気持ちもわかる気がする。
 剣や銃は平民が貴族に抗うために生み出したものだ。
 それはつまり、そういったものがないとメイジには敵わないということを意味している。
「まあ、あんたからして見れば、そこらのメイジ倒すのに武器なんて必要ないんでしょうけど」
 私も口ではこう言っているけど、内心ではすごくびっくりしている。
 ドットのギーシュは兎も角として、今までずっと武器もなしに戦ってきたなんて……ダンケは一体今までどういう生活を送ってきたのかしら。
 デルフリンガーを壁に立てかけると、今度はタバサが買ったあの短剣を振り始める。
 私の前でわざわざそれを使う必要ないでしょ!? とも思ったけど、私は貴族だ。
 この程度のことで一々腹を立てたりなんかしない……しないんだから……!
 ダンケは短剣を奇妙な持ち方で構えていた。
 刃の方が下にくるなんて、変わった持ち方ね……危なくないの?
 ヒュンヒュンという風を斬る音だけが聞こえてくる。
 周りが闇に包まれていることもあってか、私の目には銀色の何かがすごい速さで動いていることしかわからない。
 これで剣は使い慣れていないなんて言うんだから……ホントに『ガンダールヴ』なんじゃないでしょうね。
 修行(?)も佳境に入ったのか、ダンケは手にしていた短剣を十メイルほど離れた位置にある木に向かって投擲した。
 一瞬の後、小気味良い音を立ててスティレットが幹に刺さる。
 私から見ればどう見ても玄人の動きだったけれど、ダンケはそうは思わなかったみたい。
 自分の体を確かめるように、手を動かしている。
 むぅ、使い魔が練習しているのに、そのご主人様の私がただ黙って見ているなんてダメだ。
 デルフリンガーを手にするダンケを横目に、私も意識を集中させて呪文を唱える。
 しばらくの間そうしていると、デルフリンガーが呟くように言った。
「なあ、相棒」
「……どうした?」
「あれ、ゴーレムじゃねぇか?」
 ……え、ゴ、ゴーレム!?
 慌てて振り向くと、ダンケがデルフを構えてある一点を睨みつけている。
 私もそっちに視線を移して……絶句した。
 全長三十メイルは優にあるだろう、巨大なゴーレム。
 それがいつの間にか、私たちの背後に佇んでいたのだから。
 ―――ブォンッ!
 風が鳴る音が聞こえたかと思うと、次の瞬間、轟音が私の耳を貫いた。
 咄嗟に頭を守るようにしてその場にうずくまる。
 恐る恐る顔を上げた私の目に飛び込んで来たのは、巨大なゴーレムと戦う黒衣の使い魔の姿だった。
 ダンケはデルフを構えたまま、連続で振り下ろされるゴーレムの拳を避け続けている。
 衝撃の瞬間に拳部分を鉄にでも変えているのか、あのゴーレムのパンチはあり得ない威力をしていた。
 だって……地面に穴が開くくらいなんだもの。
 ―――って、呆けている場合じゃないでしょ!?
 私はダンケの主人だ。
 使い魔が命を懸けて戦っているのに、その主人の私が隠れて見ているなんて絶対にダメなんだから!
 恐怖を飲み込み、呪文を詠唱する。
 ダンケの放った短剣がゴーレムの頭に刺さった。
 でも、生物じゃないあれには物理攻撃はあまり意味を成さない。
 そしてこの場で魔法を使えるのは、私だけだ!
 呪文が発動し、いつも通り爆発が起こる。
 だけど……。
「う、嘘……」
 爆発したのはゴーレムではなく、学院の本党だった。
 最上階の少し下あたりから、黙々と煙が上がっている。
「主! 逃げろ!」
 初めて聞いたダンケの怒鳴り声に、私はハッと我に返った。
 あの爆発を脅威とでも感じたのか、ゴーレムは私に目や鼻の一切ない顔を向けている。
 逃げようと思っても体が動かない。
 視界の端では、ダンケがゴーレムの腕と足を斬り落としていたところだった。
 でも、錬金の魔法で土から精製された巨人は、すぐに再生してしまう。
 ゴーレムの腕がゆっくりと振り上げられる。
 ―――もうダメだ。
 現実を否定するように固く目を瞑り、次に来るだろう痛みに備える。
 だけど……その痛みはいつまで待っても来なかった。
 ダンケ! ダンケが助けてくれたんだ!
 間違いない、私の使い魔はすごく強いんだから、あんなゴーレム相手に負けるわけがない。
 きっとこの目を開けたら、いつも通りの仏頂面でダンケは立っているんだ。
 そう、何事もなかったかのように。
 そして私は目を見開く。
 しかし―――。
 広がる視界に飛び込んで来たのは、私を庇うようにゴーレムの拳をデルフで受け止め、木の葉のように吹き飛ばされるダンケの姿だった。
「ダ、ダンケ……」
 私の口から掠れた声が零れる。
 ドサリという鈍い音を立てて、硬い地面に打ちつけられるダンケ。
 ゴーレムは迷うような素振りを見せた後、学院の本党にその拳を打ち込み始めた。
 あの巨人の狙いはおそらく、宝物庫に納められているという秘法だろう。
 でも、今の私にはもう、あのゴーレムの目的などどうでも良かった。
 ふらふらとした足取りで、力なく地面に横たわっている彼に歩み寄る。
 私の……私のせいだ……。
 私が魔法なんて使ったから……ううん、違う、魔法を使えない癖にダンケと一緒に戦おうだなんて思ったから……。
 私のせいで彼は……ダンケは……。
 何も考えられなかった。
 ただ何かに引き摺られるようにして歩くことしかできなかった。
 私が……私が余計なことをしたから……。
「え……」
 ガッ、という何かを地面に突き刺す音が聞こえたのは、その時だった。
 視線の先―――ダンケはデルフを地面に突き立て、立ち上がろうとしている。
 傷だらけの体に鞭を打ち、懸命に身を起こそうとしている。
 何がそこまで彼を駆り立てるのか……私にはそれがわからない。
 ただ、私には貴族の誇りという捨てられないものがあるように、ダンケにもまた私と同じように―――いや、私以上に譲れないものを持っているのだということだけは、はっきりとわかった。
「ダンケ! 大丈夫なの!? しっかりして!」
 慌てて彼の元に駆け寄る。
 ダンケは私に心配をかけないように、小さく笑みを見せた。
 でも……バカ、この使い魔は本当にお馬鹿さんだ。
 そんな傷だらけで笑われても嬉しくないのに……。
 額からは血を流し、内蔵を傷めているのか息も荒い。
 だと言うのに、ダンケは大丈夫だと言うように笑っている。
 デルフを支えにしてやっと立っている状態なのに、私に心配をかけないようにしてくれている。
「バカッ! 少しは自分のことを考えなさいよ! お願いだから……少しくらい、自分のことを大切にしてよ……」
 何を言えばいいのかわからず、気づけば私はダンケに理不尽な怒りをぶつけていた。
 子供みたいに泣き声をあげながら。
「……すま……ない……」
 カクンと彼の膝が折れ、その体が前―――つまり私の方に倒れて来る。
 受け止めようとして……でも、やっぱり私の体じゃ無理だったみたいだ。
 そのまま二人して地面に倒れ込む。
「なんで……なんであんたが謝るのよ……。悪いのは私なのに……」
 揺らさないようにしながら、そっとダンケの体を横にする。
 涙が止まらない。
 拭っても拭っても、次から次へと溢れ出てくる。
 治癒魔法を使えない私にできるのは、人を呼んでくることだけ。
 ……情けない、本当に自分がイヤになる。
「デルフ、ダンケのこと頼んだわよ。私は人を呼んで来るから!」
「おう。できるだけ急いだ方いいぜ。相棒は痩せ我慢がお上手みたいだが、こりゃあ思った以上に傷がふけぇ!」
「わ、わかったわ!」
 デルフの言葉を背に受け、私は走り出す。
 横目で確認すれば、ゴーレムは丁度宝物庫に腕を突っ込んだところだった。
 その太い腕を通って、人影が宝物庫の中に入って行く。
 ……許せない。
 あのメイジは自分の欲を叶えるためだけに魔法の力を使い、あまつさえダンケに傷を負わせた。
 ……絶対に許さない。
 ただ今はあいつに構っている暇なんてない。
 一刻も早く、ダンケに治療を施さないといけないんだから。
 私は思考をリセットするために大きく頭を振ると、意識を走ることだけに集中させた。


別窓 | 零の使い魔。 | コメント:6 | トラックバック:0
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この記事のコメント
相変わらずの勘違いっぷりだな
2008-03-22 Sat 13:20 | URL |   #-[ 内容変更]
読みました♪
お久しぶりです、アルトです
今回はそれほど激しくはすれ違ってませんね
微妙かつ確実な勘違いはいくつもありますが……
今回はダンケがかっこいいですし、見所たっぷり!
さあこのあとどうなるのか、ついに誤解が解けるのか、楽しみにしています
それでは本日はこのあたりで
お返事お待ちしております
2008-03-22 Sat 16:03 | URL | アルト #-[ 内容変更]
熱い!なぜかとても熱いっ!
ここまでやると勘違いと分かっても誰も認めないだろうなぁw

>>だとすれば……ナノマシンだな。
ダンケ、そこまでの性能の物はSFの世界にしか無いからねww

赤い人はとりあえず出るんですね?
初のまともな出番楽しみにしてます。



2008-03-22 Sat 17:06 | URL | ノット #-[ 内容変更]
COOLにな。
ダンケが熱くなってしまった。
ここはラジカセをもってCOOLに逝かないと。

クライマックスへの序章みたいな感じで、
この先が楽しみでしかたない。

2008-03-22 Sat 19:19 | URL | kou #8sp/3iLM[ 内容変更]
戦闘がアツイw
フーケ編ももう最後ですね、どんな終わり方になるのか楽しみにしています。
・・・今回の話のフーケ視点とかも楽しそうだなぁ。

零魔以外も含め、頑張って下さい!
2008-03-23 Sun 12:11 | URL | NAND #BxQFZbuQ[ 内容変更]
熱血じゃ生温いくらい、アツイっ!
でも実は、ルイズがちゃんとヒロインしているというのが、一番の驚きですw

>だとすれば……ナノマシンだな
 いつからだろう? ゼロ魔がSFになったのは?
 まぁダンケの中じゃいつもSFなんでしょうけどw

>武器も持たずに
 もうね、「忍者とは無手で相手を殺す者だ!」とダンケが言っても驚きゃしませんよ、私はw

>むぅ、時間軸的に難しいかもしれませんね。
 別に無理して合わせることもないと思いますよ。気楽に気楽に♪

 誤字かな? 永遠、ではなく延々ではないでしょうか?
2008-03-23 Sun 21:13 | URL | 夢幻の戦士 #LOLorWpQ[ 内容変更]
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