ネクオロでした
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零の使い魔。~第13話~
2008-04-20 Sun 18:17
見せてあげるわ、最強の魔法が火の由縁を!

                                              <キュルケ>

これは少し分が悪い……。

                                               <タバサ>

……バカ。

                                               <ルイズ>

うわぁ。またお会いしましたね……。

                                                <ダンケ>

 
零の使い魔。~???~

ルイズたちは学院長の秘書を務める女性・ロングビルの操る馬車に揺られて、一路フーケのアジトに向かっていた。
 二日前、怪盗『土くれ』のフーケに学院の宝物庫から秘法『破壊の杖』が略取された。
 その現場を偶然目撃したルイズは学院長室に呼び出され、その際にフーケの拿捕及び『破壊の杖』の杖確保の任に自ら志願したのである。
 当然、魔法を使うことのできない彼女が行くことに反対した者もいたが(むしろ、その場にいた教師ほぼ全員)、ルイズの意志は固かった。
 彼女は教師たちを前にこう言い切ったのだ。
「大事な使い魔を殺されかけてジッとしていられるほど、私は我慢強くありません! 先生方がそれでもダメだと仰られるなら、私は自分の意思でフーケを捕らえに行きます!」
 ―――と。
 これにはさすがの教師陣も口を噤んだ。
 そもそも、彼らの大半はフーケを恐れて杖を掲げなかったのである。
 『土くれ』のフーケはトライアングルクラスのメイジ。
 いくら魔法学院の教師とは言え、容易に太刀打ちできるほど甘い相手ではない。
 名を上げるには確かに絶好の機会だろう。
 しかし、如何せんリスクが高過ぎた。
 その時、閉じられていた学院長室の扉がそっと開いた。
 ルイズを始めとした一同の視線が集まる中、扉を開けた人物はいつも通り、淡々とした口調でこう言った。
「私も行きます」
 その後の流れは速かった。
 若くして『シュヴァリエ』の称号を持つ彼女の参戦により、教師たちの心が傾いたのだ。
 そして同じく盗み聞きしていたキュルケが「タバサが心配だから、あたしもついていくわ」の一言によってついに彼女たちのフーケ拿捕任務が認められ、フーケのアジトの居場所がわかったと学院長室に飛び込んで来たロングビルを案内役に就けることで、ようやく彼女たちは学院を出立したというわけだった。
「あんたさ、あの使い魔の側にいなくていいの? 昨日とか危なかったんでしょ?」
「……いいの。後のことはメイドに任せてきたし。もう峠は越えたみたいだから」
 黙りこくっているルイズに疑問を投げかけたキュルケだったが、どうもいつもと雰囲気が違う彼女の様子に戸惑ってしまう。
 ルイズは馬車に乗った時からずっと俯いたまま、微動だにしないのである。
「ふーん。まあ、あんたがそう言うならいいけど。それにしてもあの使い魔、意外とだらしがないわねぇ。フーケのゴーレムにやられて、呆気なくダウンしちゃうなんてさ」
「―――っ!」
 言い返そうと顔を上げたルイズは、しかしキュルケをキッと睨みつけるだけに留めた。
 キュルケもフーケの操るゴーレムの強さはそれなりに知っているので、今のは彼女なりのジョークのつもりだった。
 それでルイズが言い返してきて、いつも通りの彼女に戻ればいいと思っていたのだが、どうやらキュルケが思っている以上にルイズの心の傷は深いようだ。
(まぁ、目の前で使い魔を殺されかけたんだもの……仕方がないか)
 助けを求めに来たルイズを真っ先に見つけたのは、何を隠そう彼女だった。
 その時のルイズの様子はひどかった。
 顔を青ざめ、ボロボロと涙を零し、恐怖と不安を一度に味わったためか呂律が回らない。
 そんな彼女を落ち着かせて何とか話ができるレベルにまで回復させるのに、キュルケは多大なる労力を費やしたのである。
 そして口ではああ言っていたが、内心、キュルケはあの使い魔のことを見直していた。
 自分の魅力もわからないような人間だが、彼は文字通り命を懸けて主を守り抜いたのである。
 タバサが前々からあの使い魔に興味を持っていたことは、彼女の親友を自称するキュルケは薄々気がついていた。
 最初は、あんな得体の知れない平民のどこがいいのかと天を仰いだものだが、なるほど、少なくともそんじょそこらの貴族よりはよほど根性があるらしい。
 チラリと横に座っているタバサに目をやる。
 本の虫の彼女はいつも通り、馬車に揺られながら紙片に目を落としていた。
 だが、タバサと付き合いの長いキュルケだけは気づいていた。
(あらら、この子までやる気になっちゃって……)
 そう、その小柄な体からひしひしと、おそらくはフーケに対する怒りのオーラのようなものが発せられていることを。
 親友が珍しくやる気になっている。
 ならば自分も覚悟を決めなくてはならない。
(今日の『微熱』は……火傷じゃ済みませんわよ)
 まだ見ぬ怪盗に、キュルケは妖艶に微笑みかけた。

~光~

 学院を出ようとしたら、親切な老人から馬を貸してもらった。
 どうやら彼は俺がルイズの使い魔だと知っているらしく、「ミス・ヴァリエールは素晴らしい使い魔に恵まれたようじゃのう」と手放しで褒めてくれた。
 理由はわからないが、褒められて悪い気はしない。
 馬に跨り、一路森へ―――と思ったところで途方に暮れる。
 目的地がアバウト過ぎる上、俺は馬に乗れないのだ。
 褒められて浮かれていたせいか、今まで失念してしまっていたが。
 どうしようと思ったが、こういう時に限ってデルフは鞘から顔を出さない。
 仕方なく、馬に任せて進むことにした。
 鞭とか野蛮なものは嫌いなので、足でちょんと馬の腹を押す。
 ……それが馬にとっては気に入らなかったようだ。
 一つ嘶くと、鬱蒼と生い茂る森の中に突っ込んでいく。
 無論、上に俺を乗せたまま。
 迫り来る木の枝を必死でかわしながら馬は進む、進む。
 目的地は彼(馬)だけが知っている。
 俺はただ振り落とされないように、掴まっていることしかできない。
 そのまま二時間ほど走り続けただろうか?
 この馬はかなりタフなようだが、そろそろ疲れが見えてきたらしい。
 目に見えてその速度が落ちてきている。
 そしてようやく止まれるかと思った直後、急に立ち止まった馬に俺は投げ出された。
 そう、慣性の法則というやつだ。
 俺の目の前には大きな木が一本。
 って、このままじゃぶつかってしまう!
 咄嗟にデルフを抜き放ち、幹に剣を突き立てる。
 その勢いを生かしたまま、大きく一回転。
 棒高跳びのような体勢で木を飛び越え……落下。
 眼下には……何故か、あの懐かしいゴーレム殿が。
 体から木とか生えていて、ちょっとお洒落になっている気がするが。
「よっしゃ、相棒! リベンジだぜ!」
 やけにテンションの高いデルフの声が聞こえる。
 いや、リベンジとかおかしいから。
 という、俺の心の声は当然ながら無視され、俺は大剣を下に突き出す形で落下していった。
 軽い衝撃が腕に走ると同時に、足が勝手にゴーレムの胴体を蹴って距離を取る。
 回転する視界に映るは、左腕を斬り落とされたゴーレム殿。
 あぁ、ごめんね……わざとじゃないからさ。
 体を丸め込み、衝撃を緩和しつつ何とか無事に着地することができた。
 本当にナノマシン様々である。
「ど、どうして……」
 背後から聞こえてくるか細い声。
 ん? この声の主はひょっとして……。
 もしやと思い、振り返る。
「どうしてあんたがここにいるのよ! ダンケ!」
 地面に座り込んだ形で怒鳴っているのは、やはりルイズだった。
 その顔には怒りや驚きを始めとした、様々な感情が渦巻いている。
「相棒、来るぞっ!」
「……知っている」
 ナノマシンの恩恵で俺の視野は格段に広がっているのだ!
 例え後ろから不意打ちされたとしても、今の俺なら対処できる。
 ……恐いものはやっぱり恐いけどさ。
 振り向き様にデルフを一閃。
 次の瞬間、俺を掴もうとしていた巨人の指はすべて根元から斬り落とされていた。
 自分でやっといてこう言うのも何だが……痛そうだ。
 しかし、敵も然る者。
 土製の巨人は、土がある限り無限に再生する卑怯能力を宿しているようだ。
 これはいいチートですね。
 ……実際に相対する俺からすれば、ちっとも良くないが。
「……主」
「な、なによ!?」
「治療の件……感謝する」
 ここに来た目的を果たすと同時に、ルイズの小柄な体を抱えて跳躍。
 刹那、俺たちが今までいた地点にゴーレムの平手が打ち下ろされる。
「乗って!」
 次をどうやってかわそうか悩んでいると、シルフィードに乗ったタバサが声をかけてくれた。
 彼女の隣には、何故かうっとりとこちらを見ているキュルケの姿も見える。
 叩きつけられる右拳をかわし、擦れ違い様に左足を斬りつける。
 ルイズを抱えているために威力は少ないだろうが、図体のでかい存在は何かと足が脆いのでこれで十分だ。
 体勢を崩したゴーレムの肩に駆け上がると、大きくジャンプ。
 次の瞬間、俺たちはシルフィードの背中(だろう、たぶん)に乗っていた。
 ふぅ、何とか無事に切り抜けることができたか。
 胸中でほっと安堵の息を吐いていると、いきなり胸倉を掴まれた。
 だ、誰がこんなヤクザさんのような真似を―――って、ルイズかよ!?
「なんであんたがここにいるの!? まだ怪我が治ったわけじゃないのに……無茶ばっかりして! 死んじゃったらどうすんのよ!」
 俺の体をガクガクと揺すりながら、泣き叫ぶルイズ。
 彼女の悲痛な叫びは否応なしに俺の胸を打つが、病み上がりの体に脳内シェイク攻撃はきつい。
 意識が朦朧とし始めた頃、見かねたキュルケがルイズを止めてくれた。
「ちょっと、ちょっと! そんなことしたらダンケだって話せないでしょう? あんた、少し落ち着いた方がいいわよ」
「……大丈夫?」
「……ああ」
 心配そうに(だと思う)声をかけてくれたタバサに一つ頷く。
 視線を戻せば、ルイズはペタンと腰を落として泣きじゃくっていた。
 うぅ……よくはわからないけど、これはきっと俺のせいだろうな。
 馬から振り落とされたと思ったらゴーレムがいて、ルイズが泣いて……。
 俺は一体、どうすればいいんだろう。
 ぐぬぬ、かくなる上は……。
「えっ……?」
 ルイズが目を丸くしている。
 いや、俺だって自分のキャラじゃないことぐらいわかっているさ。
 でも、口下手な俺が自分を表せるのは行動だけで、こういった場合に有効とされる行動はこれともう一個しかなかったわけで。
「こういう時……俺は何を言えばいいのか……わからない。だが……俺が君を悲しませたというのは……事実だ。……すまなかった」
 なでなで、と。
 ルイズの頭を撫でながら言葉を繋げる。
 女の子の頭を撫でるのは生まれて初めてなので、多少動きがぎこちないのには目を瞑ってほしい。
 小説とかならば、これで撫でられた女の子は「ぽっ」とかなるんだろうが。
 と言うか……恥ずかしいなぁ、もうっ!
 こうしているだけで顔から火が出そうだ。
 でも、目だけは逸らさない、意地で逸らさない。
「ねぇ……ダンケ」
 不意にルイズが口を開いた。
 但し、顔は俯いたままだったが。
「……なんだ、主」
「私……あんたのご主人様にふさわしいかしら?」
 顔を上げるルイズ。
 その鳶色の瞳は涙で濡れていた。
 だが、それよりも俺の目を引いたのは目の下にできた隅だった。
 脳内で再生されたのはシエスタの、「二日間寝ずに看病していた」という言葉。
 乙女の肌に寝不足は大敵だ。
 だと言うのに、この娘はホントに……。
 思わず笑みを浮かべてしまう。
 あぁ、神様、この一回だけでいいです。
 ですから、俺の言いたいことをそのまま声に出させてください。
「……無論だ、主。元より俺の主は君だけだ。それ以外の主人など、俺は例え神が相手でも認めない」
 ……い、言えた。
 ちょっと誇張表現とか入ったけど、言えた。
 思わずその場で小躍りしそうになり、シルフィードの背中の上だという事実を思い出して踏み止まる。
 一方、ルイズは顔を俯かせて肩を震わせていた。
 う、あまりにも臭い台詞だったんで、笑われてしまったんだろうか?
 俺としては頑張って言った台詞だったのに……。
「……言ったわね」
 やけに重圧を伴った声が響く。
 ルイズは幽鬼のような動きで立ち上がると、俺をびしっと指差した。
 つか、シルフィードの上だってことすっかり忘れてないかい?
「私は、この耳でちゃんと聞いたんだからね! あんたは私の使い魔! 一生私の使い魔なんだから!」
 ……い、一生ですか?
 というか、どうしてそういう話になったんだろう。
 もう、わけがわからない。


~闇~

 ロングビルに案内されたのは、森の開けた場所に建てられた廃屋だった。
 元は木こり小屋だったのか、古びた煙突が一本突き出している。
 偵察に出かけたロングビルを除いた三人で、どうフーケに対処しようか相談を始める。
 そして出た結論は、一人が小屋に行って中にいるだろうフーケを挑発。
 外に誘き出した瞬間に、あらかじめ待機していた二人が攻撃魔法で一斉攻撃を仕かけるというものだった。
 小屋の中には、少なくとも巨大なゴーレムを作れるだけの土はない。
 土系統の魔法には基本的に攻撃系魔法が少ないため、確かにもっとも安全で確実な策だと言えよう。
 話し合いの結果、挑発役はルイズに決まった。
 キュルケとタバサは攻撃魔法を使えるが、彼女だけはそれが一切使えないのだから、ある意味当然の配役である。
 キュルケにとって意外だったのは、ルイズがあっさりとそれを了承したことだった。
 ルイズが緊張した面持ちで木こり部屋へと近づいていく。
 ボロボロの窓を覗き込み、彼女はこちらに向けて大きく手を振った。
 あの合図は、中に誰もいなかった時のものだ。
 キュルケはタバサと顔を見合わせると、そっと茂みから抜け出した。
 タバサが探知の魔法を使って、本当に中に誰もいないかを探る。
 結果はと言うと、
「誰もいない。……ワナもないみたい」
 というものだった。
 キュルケは少し拍子抜けしながら、小屋の中に足を踏み入れる。
 本当に誰もいない。
 何か手がかりはないかと家捜しを敢行する三人。
 室内は至るところに埃が積もり、生活の痕跡は皆無だった。
 貴族の自分としては、いつまでもこんな汚らしい場所にはいたくない。
 キュルケのその願いが通じたのだろうか。
 タバサがチェストの中から……何と『破壊の杖』を見つけ出した。
「それが『破壊の杖』なの?」
 タバサの手の中のそれを覗き込みながら、ルイズが尋ねる。
 とても杖とは思えない形状をした何か。
 細長く、先端には深緑色のロウトのようなものがついている。
 あとの部分は金属で出来ているらしく、触って見るとひんやりとした感触が伝わった。
「そうよ。あたし、見たことあるもん。宝物庫を見学した時」
 キュルケが頷いた―――その時だった。
 ミシリという音がしたかと思うと、小屋から屋根が剥がされていた。
 誰の仕業かなど考える必要もない。
 空を仰げば、逆行を背に巨大な土人形が屹立していた。
 その無骨な腕には、小屋の屋根だった部分が握られている。
 真っ先に反応したのはタバサだった。
 自身の背丈よりも大きい杖を構え、呪文を詠唱。
 トライアングルクラスの魔法『ウィンディ・アイシクル』が発動する。
 空気中の水蒸気を凍らし、数十もの矢として撃ち出す呪文だ。
 その隙にキュルケも呪文を唱え、『フレイム・ボール』をゴーレム目がけて撃ち出す。
 両者の属性の異なる魔法が巨人の胸に命中し、大爆発を起こした。
「やった!?」
 全弾命中したという確かな感触がキュルケにはあった。
 しかし……もうもうと立ち込める煙を突き破るようにして姿を見せたゴーレムを目にした途端、ひきとその表情が固まった。
「無理よ! こんなの!」
 キュルケが叫ぶ。
 ゴーレムの頭のあたりで何かが弾けるが、やはり効果はない。
 ルイズが再び呪文を詠唱しようとするが、それよりも早くタバサが呟いた。
 彼女の手には『破壊の杖』が抱えられている。
「退却」
 キュルケもそれに頷き、一目散に出口へと駆け出した。
 振り向き、ルイズに向かって叫ぶ。
「ほら、あんたも!」
「…………っ!」
 ルイズはゴーレムを睨みつけた後、顔を苦渋の色に歪ませながらキュルケたちに続く。
 外に出ると、地に足を下ろしたシルフィードが彼女らを出迎えた。
 青き竜の主たる少女は、使い魔の上からゴーレムに魔法を連続して放っている。
 しかし、トライアングルクラスの彼女の腕を持ってしても、牽制がやっとのようだ。
 魔法によって偽りの命を与えられた土人形は、どれだけ破壊しても足元の土を吸い上げて即座に修復してしまう。
「乗って。一度退く」
「それが賢明ね。……ああもう、あんなの反則じゃない」
 苛立ちを表現するように髪を振り乱し、キュルケが涙声をあげる。
 タバサも表情にこそ出さないものの、彼女と同じ意見のようだ。
 キュルケがタバサの手を借りてシルフィードの背に上がる。
 次いでルイズに手を伸ばそうとするが、そこに彼女の姿はなかった。
「あ、あれ!? ルイズは?」
「あそこ」
 タバサの視線の先、そこでは桃色の髪の少女と巨人が対峙している。
 キュルケは思わず顔を手で覆った。
「い、一体なに考えてんのよ!? あの子は!」
「助ける。掴まってて」
 タバサが言い終えた直後、シルフィードの巨体が垂直に上昇した。
 眼下では、迫り来るゴーレムに向かってルイズが魔法をぶつけているのが見て取れる。
 キュルケとタバサが高空から魔法を放つものの、やはり結果は先ほどと同じだった。
 ゴーレムから逃れるために走るルイズ。
 しかし、盛り上がった土に躓き、ついに転んでしまった。
「ルイズ! 逃げて!」
 ムダだとわかっていても叫ばずにはいられなかった。
 ゴーレムの腕がゆっくりとした動作で振り上げられる。
 あれだけの巨体から繰り出される一撃だ。
 直撃すれば、ルイズの小柄な体など容易く潰れてしまう。
 ルイズを救出すべくシルフィードが降下しているが、間に合わない。
 キュルケは最悪の結果を予想し、思わず目を瞑った。

 目の前には、今まさに振り下ろされんとする巨大な腕。
 死に対する恐怖が少女の心を蝕む。
 せめて最後くらい貴族らしく、誇り高くあろうとしたが無理だったようだ。
 視界が涙で歪む。
 圧倒的な恐怖に脅え、少女はそれを否定するかのように瞳を固く閉じた。
 しかし……。
 いつまで待っても……。
 ……彼女を傷つける者は現れなかった。
「…………」
 ルイズは恐る恐る目を開く。
 そして……一人の騎士を幻視した。
 彼女を守るように手にした大剣を構える男。
 頭に巻かれた包帯だけが静かに風になびいている。
「ど、どうして……」
 ポロポロと涙が零れる。
 喜びと怒り、安堵と不安が複雑に入り混じった涙だった。
 ルイズは叫んだ。
 本当ならベッドで寝ているだろう人物に。
 そして、あの夜と同じように自分を守ってくれたその人物に。
「どうしてあんたがここにいるのよ! ダンケ!」
 そう……。
 目を開いた先には、彼女が誰よりも信頼している使い魔が立っていた。
 振り向き、ダンケはルイズが無事なことにほっと息を吐く。
「相棒、来るぞっ!」
「……知っている」
 手にした大剣に応え、後ろを振り返らないままそれを一閃させる。
 それだけでゴーレムの指全てが切断され、元の土に戻っていった。
 ダンケはルイズの顔を見つめ、
「……主」
 静かにその名を呼んだ。
「な、なによ!?」
 自分でも声が裏返っているのがわかる。
 ダンケが無茶しないように置いて来たのに、彼が助けに来てくれてほっとしている自分がいる。
 そんな自分のことがルイズは嫌だった。
 でも……。
「治療の件……感謝する」
 一瞬、何を言われたのかわからなかった。
 ゆっくりと……スポンジに水が染み込んでいくように、ルイズの頭に先のダンケの言葉が浸透していく。
 そして、少女の頭は一気に沸点に達した。
 あろうことかこの使い魔は、ルイズのせいで死にかけたと言うのに礼を言ってきたのだ。
 本当ならば怒鳴られても、嫌われても仕方がないと思っていたのに……。
(なんで、なんでこいつはこんなにも優しいの? 私を責めてもいいのに、怒ってもいいのに、お礼を言うなんて……ホントに……バカ)
 涙が少女の頬を伝って大地に染みを作る。
 先と違う点は、今度の涙は純粋な喜びの涙だということだった。
 なんだかんだ言って、ルイズはダンケに嫌われるのを恐がっていたのだ。
 だから少しでも認められようとフーケ討伐に名乗りを上げ、あとのことをメイドに任せてここまで出向いたのだった。
 ダンケがルイズを抱えて飛び退いた。
 刹那、ゴーレムの拳が大地にクレーターを形成する。
「乗って!」
 タバサの声が降る。
 ダンケは一つ頷くと、デルフを逆手に構えてゴーレムに突っ込んだ。
 傍から見れば単なる特攻だろう。
 しかし、ルイズは不思議と恐怖は感じなかった。
 むしろそれよりも、今の自分の体勢の方が問題だ。
 だって……お姫様抱っこされているのだから。
 風のようにダンケがゴーレムの腕を擦り抜け、デルフで片足を斬りつける。
 バランスを崩して膝をつく巨人の肩に一足飛びで移動すると、さらにそこから跳躍する。
 気づいた時には、ルイズはダンケと共にシルフィードの背の上にいた。
 壊れ物でも扱うかのように、青年がそっと少女の体を下ろす。
 声が漏れそうになり、ルイズは慌ててそれを飲み込んだ。
 見ると、キュルケがダンケにやけに艶っぽい視線を向けている。
 それはまあいい……いや、良くはないが、今問題すべき点はそこじゃない。
 ダンケの頭に巻かれた包帯。
 朝見た時は真っ白だったそれが、今では一部が赤く染まっている。
 激しく動いたせいで、傷口が開いてしまったんだろう。
 それを見た瞬間、ルイズの感情が爆発した。
 背を伸ばし、ダンケの胸倉を掴む。
「なんであんたがここにいるの!? まだ怪我が治ったわけじゃないのに……無茶ばっかりして! 死んじゃったらどうするのよ!」
 ずっと看病していたルイズは知っていた。
 彼の怪我は一日や二日で治るようなものじゃない。
 いくら魔法の力を借りたと言っても、最低でも一週間は安静にしてなければいけない傷だった。
 なのにも関わらず、ダンケは主人を追ってやって来た。
 彼が助けに来なければ、ルイズはゴーレムに潰されて死んでいただろう。
 それはわかっている。
 しかし、頭でそうわかっていても、感情がそれを許容してはくれない。
 頭の中を乱暴にかき回されるように、冷静な自分を熱い何かが押し流していく。
 死んだらそこで終わり、死んだらそれで終わってしまうのだ。
 話すことも、一緒に食事をすることも、手を繋ぐこともできなくなってしまうのだ。
「ちょっと、ちょっと! そんなことしたらダンケだって話せないでしょう? あんた、少し落ち着いた方がいいわよ」
 見かねたキュルケに引き離されてしまう。
 糸が切れた人形のように座り込むと、ルイズは嗚咽を漏らし始めた。
 色々な出来事が一気に起こったために、彼女は軽い恐慌状態になっていた。
 その時、不意にルイズの頭に何か温かいものが乗っかった。
「えっ……?」
 自分の身に何が起きたかわからず、当惑しながらルイズは顔をあげる。
 彼女は驚いた。
 視線の先、彼女の頭を優しく撫でる人物が、自分の使い魔だったから。
 人の頭を撫でたことがないのか、その手つきはひどくぎこちない。
 だが……そこに込められた想いは本物だった。
 目を丸くするルイズに、ダンケが穏やかな口調で語りかける。
「こういう時……俺は何を言えばいいのか……わからない。だが……俺が君を悲しませたというのは……事実だ。……すまなかった」
 違う、それは間違いだ。
 そう、ルイズは叫びたかった。
 しかし彼女の意思に反して、なかなか口は思うように動いてくれない。
 代わりに口から出たのは、
「私……あんたのご主人様にふさわしいかしら?」
 という言葉。
 ダンケの隣で、キュルケが驚きに目を見開いているのが見て取れた。
 自分でも使い魔にこんなこと訊くのはおかしいと思っている。
 普段の自分の言動を知っている彼女からすれば、昼間に幽霊を見たようなものだろう。
 それでも……訊いておきたかったのだ。
 ……ダンケの本心を。
 青年は悩むように瞳を伏せていた。
 ルイズにとっては短いようで長い時間が過ぎていく。
 傍らで見守っている少女たちも、黙って事の成り行きを見守っていた。
 そして―――青年がついにその口を開いた。
「……無論だ、主。元より俺の主は君だけだ。それ以外の主人など、俺は例え神が相手でも認めない」
 いつものような一字一句確かめるような発音ではなく、流れるような口調で。
 ダンケは……ルイズの使い魔は確かにそう言い切った。
 ルイズは泣いた。
 バレないよう、顔を俯かせて声を押し殺して泣いた。
 本当に……本当に嬉しかったから。
「……言ったわね」
 手の甲で涙を拭い、立ち上がる。
 もう泣くだけ泣いた。
 あとは自分が彼の気持ちに応えるだけだ。
 びしりと青年を指差し、ルイズは宣言した。
「私は、この耳でちゃんと聞いたんだからね! あんたは私の使い魔! 一生私の使い魔なんだから!」
 顔が熱い。
 今の自分の顔は熟れたトマトのようになっているだろう。
 ダンケの顔を直視することができず、視線は少し斜め上へ。
 チラリと使い魔の様子を窺えば、それが然も当然と言わんばかりの表情をしていた。
 少しくらい驚いてくれてもいいのに、と思ったのは彼女だけの秘密である。



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この記事のコメント
感想
相も変わらず面白い
キュルケフラグまで立てましたね。
最強の使い魔を倒したと安心していたフーケはどうしていたのかも気になります。
次回更新も楽しみにしています!
2008-04-20 Sun 20:47 | URL | アクア #9SQX8TGg[ 内容変更]
ダンケが滅茶苦茶カッコイイ!

なんかルイズ視点のダンケってこの時点で英雄とか勇者とか呼ばれる人並みのカリスマ性がありますよね。

それにしてもルイズはこのままだとヤンデレになってしまいそうな位にダンケの事が大好きですね。

フーケ編の後も原作の名シーンダンケVERだけでもいいからお願いします。
2008-04-20 Sun 21:11 | URL | 夢羅 #OR9HXcdc[ 内容変更]
ダンケのカッコ良さに惚れるうううう!

カッコイイよダンケカッコイイよ
もう早く二人のラブラブがみたいです…
2008-04-20 Sun 22:18 | URL | 忍者 #TNMEEIK6[ 内容変更]
ダンケすごいカッコいいんですけど、もはや光のダンケの考えの方が勘違いな感じになっていてどこまでいくのやらという感じですね。しかし今やってるフーケの所でこの話が終わりだと思うとさびしい限りですが最後まで楽しみにしてます。
2008-04-21 Mon 16:49 | URL | miyo #-[ 内容変更]
もうダンケ最高!!
そしてキュルケ初のまともな出番&初視点w
だんだんダンケは外見英雄になってきてますねw
次回も楽しみにしています。


2008-04-23 Wed 15:10 | URL | ノット #-[ 内容変更]
はじめまして、いつも楽しく拝見させていただいております【いち】と申します。
お馬さんナイス!!ダンケのカッコいい登場シーンを期せずして演出してくれた彼(?)の野性の本能は素晴らしいですね!
そして、相変わらずの双方の意図の食い違いに脱帽です。
ルイズが彼の内心を知ったら、【使い魔】のイメージががた崩れしますね。
ダンケがルイズの本心を知ったら大混乱でしょうし。
しかしダンケの無表情&口下手、そしてガンタールヴとしての力の発達。本当に擬態ともいえるくらい、傍から見ると完璧な使い魔ですね!
これからの食い違いっぷりも楽しみです。
2008-04-23 Wed 18:52 | URL | いち #-[ 内容変更]
ダンケ最高っ!
そして演出のアシストをした馬さんに乾杯!
ルイズのデレに、私はニヤニヤが止まりませんよ。

キュルケにフラグが立ったみたいですが、このまま行くと舞踏会で争奪戦が始まりそうなw
そうなるのも面白そう。

次回も楽しみにしております。
2008-04-26 Sat 19:44 | URL | 夢幻の戦士 #LOLorWpQ[ 内容変更]
いやぁ、向こうもある程度カタぁついたし
あとは、こっちもがんばってくれると
すんげーうれしいよ
2008-04-27 Sun 04:02 | URL | 皮肉屋のトマト #-[ 内容変更]
お初です。
勘違い振りにニヤニヤと身をよじりながら読んでいる灼(しゃく)と申します。
応援していますので、これからもがんばって下さい。
2008-04-28 Mon 01:25 | URL | 灼 #n64RtCaA[ 内容変更]
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