ネクオロでした
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零の使い魔。 ~第14話~
2008-06-01 Sun 13:42
何だかそろそろ最終回っぽい雰囲気になってきたなぁ。

                                                   <ダンケ>

アンタの敗因はたった一つ。それもシンプルな答えよ。

                          ―――アンタは私の使い魔を怒らせた!

                                                   <ルイズ>

(帰って続きを読もう……)

                                                   <タバサ>

ガンダールヴってあの……!? 

                                                  <キュルケ>
 

 零の使い魔。 ~光~


「敵が来る」
 タバサがボソリと呟く。
 それと同時に、シルフィードはその身を大きく旋回させた。
 そんな中でも落ちたりしないでいられるのは、何らかの魔法が干渉しているからだろう。
 例えば……重力制御装置とかが。
 シルフィードはゴーレムの巨腕を避け、大きく羽ばたいた。
 キュルケが火の玉を放つが、土製の巨人はピンピンしている。
 ルイズが爆発させるが―――以下同文。
 まずい、このままじゃジリ貧だ。
 俺はてっきり誰かに助けを呼びに行くのかと思っていたが、彼女たちは撤退する気ないようだし。
 どうしようかと思っていると、タバサの抱えているものに目が止まった。
 ……あれって、もしかして。
「タバサ」
「……なに?」
 どうしてだろうか、彼女が微妙に不機嫌な気がするのは。
 何かあったのかと考え、すぐに納得する。
 おそらくは、自分の使い魔シルフィードの身を案じているのだろう。
 確かにいくら大きなトカゲとは言え、大きさならゴーレムの方がはるかに上だ。
 掠るだけでも大ダメージは免れない。
 ……まぁ、俺はものの見事に直撃したけどな!
 いやぁ、あの時は痛かった。死ぬかと思った。
 と、それは置いといて。
「それを……貸してくれないか?」
 タバサの抱えているものを指差しながら言う。
「あら、ダンケったら平民なのに『破壊の杖』の使い方、知っているの?」
「……『破壊の杖』?」
 思わず尋ね返してしまう。
 キュルケは一体何を言っているんだろう?
 これは誰がどう見ても『破壊の杖』なんて代物じゃない。
 と言うか、物騒レベルなら彼女が出した火の玉の方が危険だ。
 轟々と燃える火球が飛んで来るなんて、それこそ危な過ぎる。
 大体、これはこの国で開発された武器の筈だが……う~む。
「はい」
 差し出された『破壊の杖』とやらを受け取る。
 左手の甲に熱を感じたと思った直後、これの使い方が頭の中に流れ込んで来た。
 さすがは衛星受信、仕事が早いじゃないか。
「……助かる。それとタバサ……シルフィードを少し奴に……寄せてくれ」
 俺の指示にタバサはコクリと頷くと、シルフィードにそのまま伝えてくれた。
 意外なのは、この大きなトカゲが人語を解せるということだ。
 きゅいきゅいと鳴いて、シルフィードはゴーレムとの距離を詰める。
 バイオ技術の発展……恐るべし。
 と、呆けている場合じゃなかった。
 俺は俺の仕事をしなくては。
 受け取った『破壊の杖』を肩に担ぎ、照尺を覗き込む。
 命中精度が問題だけど……まあ、外した時は外した時だ。
「後ろには……立つな。……離れていろ」
 シルフィードの上で無茶を言っているのは重々承知している。
 本当なら俺が降りればいいのだろうが、踏み潰されそうで恐いのだ。
 さて、これの良いところは残段数の確認が容易だということか。
 何と言っても……弾が先っぽにくっついているのだから。
 ルイズたちが離れたのを確認してから安全装置を解除し、トリガーを引く。
 ズドンッ、という腹に響く音が木霊した。
 白い尾を引きながら、巨人の胸に命中する弾頭。
 しばし間が空き……ルイズの魔法とは比べものにならない爆音があたりに響いた。
 そのあまりの大音量に、ルイズたちは揃って耳を押さえている。
 俺は『破壊の杖』を担いでいたので、それすらできなかった。
 キーンという耳鳴りが実に不快だ。
 シルフィードもびっくりしたようで、大きく揺れている。
 やめてくれ、酔いそうだ……うっぷ。
 風が吹き、煙が晴れる。
 広がる視界に映っていたのは、上半身を失った哀れな巨人の残骸だった。
 ゴーレムは歩こうとするが叶わず、崩れ落ちるようにして元の土くれに戻っていった。
 ふ、ふぅ~、何とかうまくいったか。
 手にしていた『破壊の杖』をしばし眺め、どうしようかと頭を巡らせる。
 ル~ンの力が発動しているので言うほど重くはないが、ずっとこれを持っていたいと思うほど酔狂じゃない。
 かと言って、シルフィードの背中に置くなんてもっての他だ。
 未だ熱を持っているコレを押しつけるほど、俺はこのトカゲ殿を恨んではいない。
「ダンケ! すごいじゃない!」
 少し途方に暮れていると、キュルケが抱きついてきた。
 ……そんなにあのゴーレムを倒せたのが、嬉しかったんだろうか?
 と言うか、その「あててんのよ」攻撃は止めてほしい。
 初心な俺には、かなりきつい。
 内心でオロオロしていると、ルイズが助けてくれた。
 タバサの指示でシルフィードがスルスルと降下していく。
 地面に足が着いた直後、俺は持っていた『破壊の杖』を足元に置いた。
 どうせもうこれには何の価値もないので、問題はない。
 タバサがボソリと呟く。
「フーケはどこ?」
 ……は?
 俺からすれば「フーケって誰?」となるんだが……。
 あぁ、そう言えば、微かに記憶に引っかかっている名前だ。
 下着泥棒だったっけ、確か。
「そ、そうよ! フーケを探さないと!」
 ルイズが慌てた様子でゴーレムの残骸に走り寄り、キュルケとタバサもそれに続く。
 俺はと言うと、近くの木の幹に背を預けて佇んでいた。
「相棒は探さなくていいのか?」
「……ああ」
 病み上がりで運動したせいか、体の節々が痛いのだ。
 おまけにトカゲ酔いしてしまったらしく、気持ち悪いのも頂けない。
 頑張ったんだし、今くらいそっとしておいてくれてもいいと思う。
「あら、さすがのあなたもお疲れかしら?」
 いきなり横から女性の声が聞こえた。
 顔を動かせば、俺に洗濯場の場所を教えてくれた親切な女性が立っている。
 あれ、どうして彼女がここにいるんだ?
「ミス・ロングビル! フーケはどこからあのゴーレムを操っていたのかしら」
 キュルケが尋ねるが、女性―――ミス・ロングビルは無言のまま置いてあった『破壊の杖』を拾い上げる。
 そして、おもむろにその銃口を俺に突きつけた。
 ……一体何がしたいんだろう、この人は。
「ご苦労さま」
 そう言って、ミス・ロングビルは妖艶な笑みを浮かべて見せる。
 状況がまったくもって掴めないが、どうやら労ってくれているらしい。
「……ああ」
 とりあえず、返事を返しておく。
 女性の額に青筋が浮かんだ気がしたが……何故だろう?
「ミス・ロングビル! どういうことですか?」
 ルイズが困惑しながら叫んでいる。
 そう、さすがは俺の主人だ。
 俺もそれが訊きたかった。
「さっきのゴーレムを操っていたのは……私」
 ミス・ロングビルが眼鏡を外す。
 女性はいくつも顔を持っていると言うが、まさにその通りだった。
 眼鏡を外したミス・ロングビルは、一瞬で目つきの鋭い女性へと変貌していた。
 ……で、だから俺に詳しい状況説明をしてくれないか?
「え、じゃあ……あなたが……」
「そう。『土くれ』のフーケ。さすがは『破壊の杖』ね。私のゴーレムがバラバラじゃないの!」
 俺を置いて盛り上がっている面々。
 それはそうと、ようやく話の全貌が見えてきたぞ。
 フーケの二つ名は『捻くれ』ではなく、『土くれ』。
 そしてミス・ロングビルこそ、フーケの正体だったというわけだ。
 で、彼女が一体何をしたと言うんだ?
 やっぱり……下着ドロだろうか。
「ほら、あなたも向こうに行きなさい」
「…………」
 軽く足で小突かれてしまった。
 逆らうと恐そうなので、素直に従っておく。
 俺はつくづく強気な人間に弱いなぁ……。
「当然、武器はここに置いて行ってもらうわよ。いいわね? 逆らうと、あなたの大切なご主人様がバラバラになっちゃうわよ」
「……わかった」
 半ばまで歩いたところでそう言われ、デルフを足元に突き刺すと、ルイズたちの元に向かう。
 いや、もとから逆らう気などさらさらないが。
 数メートルの距離を置いて対峙するミス・ロングビルもといフーケと俺たち。
 タバサが杖を構えるが、それよりも早くフーケは言った。
「おっと。動かないで? 破壊の杖は、ぴったりあなたたちを狙っているわ。全員、杖を遠くに投げなさい」
「……くっ」
 ルイズが悔しそうに杖を放り投げる。
 い、いいのだろうか、家法の杖をそんなぞんざいに扱って。
 キュルケは溜め息を一つ零し、タバサはいつも通り無言のまま杖を捨てた。
 俺は……何を捨てればいいでしょうか? プライド?
 だとしたら、そんなものはとうの昔に空を飛んでいる大きなトカゲにあげました。
「どうしてっ!?」
 ルイズが悲痛な声音で叫ぶ。
 俺は状況についていけず、オロオロ(胸中で)するしかない。
 肩越しに振り返ると、タバサと目が合った。
 どうやら俺を心配してくれているようだ。
 年下の女の子に不安を暴露するわけにもいかず、大丈夫だと頷く。
 すると、何故か彼女は俺の背に隠れるような位置に移動してしまった。
 それを見ていたキュルケも同じ行動を取り、必然的に俺は二人を庇う形になってしまう。
 矢面に立たされるとは、正にこのことだ。
「そうね、ちゃんと説明しなくちゃ死んでも死に切れないでしょうから……説明してあげる」
 チラリと『破壊の杖』を一瞥してから、フーケは言葉を続ける。
「私ね、この『破壊の杖』を奪ったのはいいけれど、使い方がわからなかったのよ」
「使い方?」
 尋ねたのは、俺の背から顔だけを出したキュルケだ。
 ああ何と言う、人間盾。
 それとタバサ、隠れるのはいいけど、服の裾を引っ張るのはやめてくれ……伸びる。
「ええ。どうやら振っても魔法をかけても、この杖はうんともすんとも言わないんだもの。困ってたわ。持っていても、使い方がわからないんじゃ、宝の持ち腐れ。そうでしょ?」
 フーケはそう言って、『破壊の杖』を愛おしそうに撫でる。
 それはそうと……宝の持ち腐れねぇ。
 それを言うなら、今だって十分宝の持ち腐れだと思う。
「じゃあ……どうして、どうしてダンケを襲ったの!?」
 気づけば、話は俺のことに移り変わっていた。
 なるほど、確かにあのゴーレムを操っていたのが彼女なら、それはつまり俺を襲ったのも彼女だということになる。
 俺もその理由は是非とも知りたい。
「あぁ、簡単なことよ。その使い魔君はね……危険すぎるの」
 ……は?
 彼女は一体何を言っているんだろうか。
 俺が危険すぎるなど、ちゃんちゃらおかしい話だ。
 この国には足元から銅像出したり、火の玉飛ばしたりできる連中がいると言うのに。
 あとは火薬もないのに爆破させるお嬢さんや、見えない鎖で縛りつける娘もいたな。
 具体的に言うなら、俺の隣と後ろに。
「平民の癖に魔法を恐れない、それだけなら大したことじゃないわ。でもね、その使い魔君はそこらの平民とは違う。そう、『ガンダールヴ』であることを差し引いてもね」
「う、うそっ!? 『ガンダールヴ』ってあのっ!?」
 俺の背後でキュルケが驚いている。
 つか、俺に訊かれても困る。
 その『ガンダールヴ』って一体何さ。
 新しいガ○ダムの仲間か?
 このままフーケに喋らせておくと、色々と誤解を招きそうだ。
 この緊迫した場面に介入したくはないが、已むを得まい。
 仕方なく、俺は口を開いた。
「俺は……俺だ。他の……何以外でもない。ルイズの……『ゼロ』の使い魔だ」
 平和ボケした日本人だ、何か文句あっか!? アアン?
 という、ノリで言ってみた。
「……ダンケ」
 呆けたようなルイズの声が耳に入る。
 ……あ、やってしまった。
 ルイズが『ゼロ』と呼ばれるのを嫌っているのに、自分で言ってしまうとは……迂闊。
 怒っているかとびくびくしながら横目で見れば、予想は大きく外れてルイズはまったく怒っていないようだった。
 それどころか、嬉しそうな印象さえ受ける。
 はぁ……よくはわからんが、ホントに良かった。
「ふん。まあ、いいわ。あなたたちはどの道、ここで死ぬんだから。……それじゃあ、さよなら。短い間だったけど、楽しかったわ」
 フーケが『破壊の杖』の照尺を覗き込む。
 隣を見れば、ルイズが目を瞑っている。
 後ろを見れば、タバサとキュルケが目を瞑っている。
 俺はやることがないので……とりあえず、フーケに向かって苦笑してみた。
「あら。さすがは伝説の『ガンダールヴ』、勇気があるのね」
「それは……お前の方だ」
 冗談抜きでそう思う。
 短時間とは言えあれを肩に担いでいたからか、微妙に肩が痛い。
 肩を手で叩きながら、俺はデルフを取るために足を進める。
 カチリという音が響いた。
 どうやらフーケがトリガーを引いたらしい。
 無論、何か起きたりなどはしないが。
「なっ!? ど、どうして……!」
 何度も引き金を引くフーケ。
 おいおい、本当に知らないのかよ。
 笑うのを通り越して逆に呆れてしまう。
 ゲームとかやったことがないのか?
「……デルフ」
「おうよ!」
 呼ぶと応えてくれる頼もしい仲間と共に、俺はフーケに一瞬で接近した。
 視界に『破壊の杖』を投げ捨てて、杖を握ろうとする彼女の姿が映る。
 あまり女性に乱暴はしたくないんだけど……。
 さすがに斬りつけるのは気が引け、俺はデルフの柄を彼女の腹部に見舞いした。
「うっ」
 短い悲鳴をあげて、その場に崩れ落ちるフーケ。
 こんな美人さんが犯罪者とは、世も末だな。
 しかも宝だけでなく、下着まで盗む性犯罪者だ……恐ろしい。
 最初会った時は、優しくていい人だと思ったんだけどなぁ。
 人は見かけに寄らないということか。
 もう聞こえてないだろうがせめてもの手向けだ、一応説明しておくとしよう。
「これは『破壊の杖』などでは……ない。確か……『パンツァーファウスト3』と言ったか。残念だが……単発式の武器だ。……ご苦労」
 残段数0の武器を手に大見得を切っていた哀れな女性に、胸中で敬礼を送る。
 知らなかったとは言え、普通は気づくと思うがね。
 先端に弾頭がくっついているんだから。
 デルフを鞘に戻し、使用後の『破壊の杖』を拾い上げて嘆息する。
 最後の方は流されてしまって何が何だかよくわからなかったが、まあ、これで一件落着というところだろう。
 あぁ、それにしても……。
 飛びついてくるルイズを受け止めながら、俺は見失ってしまった馬に想いを馳せるのだった。
 イタタ、首絞まってるって! ちょっ!? おまっ!?

 零の使い魔。 ~闇~

「敵が来る」
 タバサ呟いた同時に、シルフィードがその身を大きく旋回させた。
 風を切って放たれた拳を間一髪でかわし、翼をはためかせて再び上昇する。
 その際、ルイズはキュルケに合わせるように魔法を放つがやはりダメだった。
 あのゴーレムに魔法は効かない。
 かと言って、物理攻撃はもっと話しにならない。
 ダンケの腕を持ってしても足止めが限界なのだから。
 どうしようかと思案に暮れていると、ダンケがタバサの名を呼んだ。
「タバサ」
「……なに?」
 タバサの声色に、僅かながら怒りの色が見て取れる。
「それを……貸してくれないか?」
 ダンケが指し示したのは、タバサの抱えている『破壊の杖』だった。
 到底杖に見えない形状をしている『破壊の杖』だが、杖は杖。
 平民のダンケに使いこなせる筈がない。
「あら、ダンケったら平民なのに『破壊の杖』の使い方、知っているの?」
 キュルケが一同を代表して尋ねる。
 口にこそ出さないものの、ルイズもタバサも同じ疑問を抱えていた。
「……『破壊の杖』?」
 ダンケはそれの正体を知っているのだろうか。
 彼の口から飛び出したのは、訝しげな疑問文だった。
 その口ぶりから、あれはまるで『破壊の杖』なんかじゃないと言っているように感じてしまう。
「……助かる。それとタバサ……シルフィードを少し奴に……寄せてくれ」
 タバサから『破壊の杖』を受け取ったダンケは、おもむろにそれを肩に担いだ。
 あのロウトみたいな先端が前に来るような体勢だ。
 杖は手に持って振るうもの。
 少なくとも、肩に担いで魔法を放つ杖などルイズは見たことも聞いたこともなかった。
 ダンケの指示をタバサがシルフィードに命じる。
 きゅいきゅい、と鳴き声を響かせ、ウィンドドラゴンはその身を巨大な土人形に寄せた。
「後ろには……立つな。……離れていろ」
 杖の一部に片目をあてながら、ダンケが言う。
 そしてルイズたちが避難したのを確認した青年が、『破壊の杖』に何かしたと思った瞬間、轟音が巻き起こった。
 そのあまりの音量にルイズたちは耳を覆う。
 シルフィードもびっくりしているのか、その体がふらふらと揺れていた。
 ルイズはゆっくりと目を開く。
 最初は煙に邪魔されて見えなかったが、じきに視界が晴れてきた。
 そして……。
「う、うそ……。倒しちゃった……」
 彼女が視界に収めたのは、上半身を失って元の土くれに戻るゴーレムの姿。
 あの使い魔は平民であるにも関わらず『魔法の杖』を用い、トライアングルクラスのメイジの生み出した巨人を倒して見せたのである。
 ルイズはダンケに駆け寄ろうとして……しかし横から飛び出してきた赤い影に妨害されてしまう。
 キッと視線を鋭くして睨めば、不適な笑みを湛えたキュルケが勝ち誇ったように見下ろしていた。
 ダンケはダンケで抵抗することもなく、成すがままにされている。
 ……イラッとした。
 キュルケの腕を掴み、強引に引き離す。
 タバサの指示でシルフィードは慎重に降下していた。
「フーケはどこ?」
 地面に降り立った直後、タバサがそう口にした。
 ゴーレムにばかり目が行ってすっかり忘れていたが、元々はフーケを捕まえるために彼女たちはここまでやって来たのである。
「そ、そうよ! フーケを探さないと!」
 ルイズは慌ててゴーレムの残骸に駆け寄った。
 あれを調べれば、フーケに関する何らかの情報が得られるかと思ったからだ。
 タバサとキュルケも彼女のあとに続く。
 ただ、ダンケだけは木の幹に背を預けて動こうとはしなかった。
(そうよね……本当ならまだ休んでないといけない傷だもの。今くらい、そっとしといてあげなくちゃ……)
 これが無事に解決したら、栄養のあるおいしいものを食べさせてあげよう。
 そう密かに決め、ルイズはフーケの痕跡を探すことに意識を傾ける。
 茂みがガサリと音を立て、偵察に行っていたロングビルが姿を見せた。
「あら、さすがのあなたもお疲れかしら?」
 いつもと違う―――少なくとも馬車の上で見せたものとは違う、妖艶な笑みを浮かべるロングビル。
 彼女の視線は射抜くようにダンケに注がれていた。
 ……嫌な予感がする。
「ミス・ロングビル! フーケはどこからあのゴーレムを操っていたのかしら」
 キュルケが問いかけるが、彼女は答えない。
 ロングビルが地面に置かれていた『破壊の杖』を手に取る。
 そしてその先端を、沈黙を保っていたダンケに突きつけた。
「―――っ!?」
 ルイズは息を呑んだ。
 あの『破壊の杖』には三十メイル以上の巨躯を誇るゴーレムを一発で再起不能にするだけの威力がある。
 いくらダンケが常人とは比べようもない技量を持っているとしても、あの距離で『破壊の杖』の魔法を浴びれば無事では済まない。
「ミス・ロングビル! どういうことですか?」
 糾弾するルイズに対して、ロングビルは涼しい顔をしている。
「さっきのゴーレムを操っていたのは……私」
 そう言って、ロングビルが眼鏡を外す。
 現れたのは今まで見せていた優しい瞳ではなく、猛禽類のように鋭い瞳だった。
「え、じゃあ……あなたが……」
 ルイズは呆然としていた。
 あのゴーレムを操っていたのが彼女だとすれば、フーケの正体は……。
「そう。『土くれ』のフーケ。さすがは『破壊の杖』ね。私のゴーレムがバラバラじゃないの!」
 苛立っていると言うよりは、『破壊の杖』の威力に恍惚としているといった声音。
 時折、その鷹の目がダンケに向けられているのは、この中で彼をもっとも危険な人物だと捉えているからに違いない。
「ほら、あなたも向こうに行きなさい」
「…………」
 軽く足で小突かれ、ダンケが肩を竦めながらこっちに歩いて来る。
 前髪に覆われたその瞳には、何故か焦りの色は一切浮かんでいなかった。
(呆れてる……の?)
 彼が何に対してそういった感情を抱いているのかはわからないが、少なくともあの使い魔はこの事態を脅威とは感じていないらしい。
「当然、武器はここに置いて行ってもらうわよ。いいわね? 逆らうと、あなたの大切なご主人様がバラバラになっちゃうわよ」
「……わかった」
 途中でフーケに指摘され、ダンケは鞘から抜いたデルフを地面に突き立てた。
 あのインテリジェンスソードが文句一つ言わないのは、それだけ今の使い手を信頼しているからに他ならない。
 ルイズは少しだけ……ほんの少しだけ彼らの関係が羨ましかった。
 ダンケが彼女たちの元に歩み寄ったのを確認すると、フーケは安堵するように小さく息を吐いた。
 どうやら、世紀の大怪盗は自分の使い魔をえらく買っているらしい。
 その隙を突いて、タバサが杖を構えて詠唱に入る。
 しかし、フーケに『破壊の杖』を向けられ、ルイズたちは渋々杖を手放した。
「どうしてっ!?」
「そうね、ちゃんと説明しなくちゃ死んでも死に切れないでしょうから……説明してあげる」
 フーケは担いでいる『破壊の杖』を一瞥する。
「使い方?」
 尋ねたのはキュルケだった。
 どういうわけか、ダンケの背中に隠れるような位置にいる。
 チラチラと青い髪が垣間見えることから、タバサも一緒にいるようだ。
 あとで問い詰めてやろうと、ルイズは心に誓う。
「ええ。どうやら振っても魔法をかけても、この杖はうんともすんとも言わないんだもの。困ってたわ。持っていても、使い方がわからないんじゃ、宝の持ち腐れ。そうでしょ?」
 フーケは『破壊の杖』を愛おしそうに撫でる。
 ようやく話が繋がった。
 フーケがルイズたちにわざわざ『破壊の杖』の在り処を教えたのも、すべては彼女たちにその使用法を明かさせるためだったのだ。
 巨大なゴーレムを一撃どうこうできるような魔法など、魔法学院の関係者とは言えそうは使えない。
 となれば、必然的に手にした『破壊の杖』に頼らないといけなくなる。
 フーケの狙いはまさにそこにあったのだ。
 だが、ルイズにはもう一つ払拭できていない疑問があった。
「じゃあ……どうして、どうしてダンケを襲ったの!?」
 あの晩、フーケの操るゴーレムは執拗にダンケを攻撃していた。
 側にいたルイズに牙を剥いたのは、彼女が巨人に魔法をぶつけた時だけ。
 それ以外はただひたすら、青年を襲わせていた。
 彼だったからこそ戦えていたが、普通平民にゴーレムをぶつけたりはしない。
「あぁ、簡単なことよ。その使い魔君はね……危険すぎるの」
 フーケは然も当然といった様子で言い切った。
 その瞳は真剣そのもので、離れた位置にいるのにも関わらず黒衣の使い魔から一瞬たりとも離されることはない。
「平民の癖に魔法を恐れない、それだけならたいしたことじゃないわ。でもね、その使い魔君はそこらの平民とは違う。そう、『ガンダールヴ』であることを差し引いてもね」
 やっぱり、とルイズは思った。
 半信半疑だった自分はもはや過去の記憶の中だ。
 あの手腕といい、忠義に厚いところといい、平民なのにも関わらず『破壊の杖』を扱えたことといい、これだけの要素が揃えばもう認めるしかなかった。
 しかも、とうの本人がそれを自認しているし。
「う、うそっ!? 『ガンダールヴ』ってあのっ!?」
 ダンケの背後に身を潜めたキュルケが驚いている。
 この場で驚いたのは彼女だけだった。
 そもそもルイズにそのことを教えたのはタバサだし、ダンケはあろうことか本人だ。
 驚きようがない。
 フーケはまだ言い足りないのか、再度口を開こうとする。
 しかし……。
「俺は……俺だ。他の……何以外でもない。ルイズの……『ゼロ』の使い魔だ」
 彼女の言を遮り、ダンケはそう断言した。
 ルイズにとって『ゼロ』とは忌むべき称号だ。
 だが、何故か青年が口にしたその称号は、不思議と彼女の心を温かく満たしている。
「ダンケ……」
 ルイズが使い魔の名を呟く。
 青年はそれに応えるように、彼女に視線を一度投げかけた。
「ふん。まあ、いいわ。あなたたちはどの道、ここで死ぬんだから。……それじゃあ、さよなら。短い間だったけど、楽しかったわ」
 ダンケがしたように、フーケが『破壊の杖』を覗き込む。
 反射的にルイズは目を瞑った。
「あら。さすがは伝説の『ガンダールヴ』、勇気があるのね」
 薄闇に、フーケの揶揄するような声が響く。
 瞳を閉じているので、ダンケが何をしているのかはわからない。
 ただ、ゴーレムに潰されそうになったあの時と違い、ルイズは恐怖を覚えなかった。
 ……いや、完全に恐怖がないと言えば嘘になる。
 だが、あの時とは決定的に違っていることがある。
 そう、だって今の彼女には―――
「それは……お前の方だ」
 ―――自信を持って誇ることのできる、世界一の使い魔がついているのだから。
 ドサリ、と何かが倒れる音が耳に届いた。
 意を決して、ルイズは目を開く。
 闇を脱した視界に映ったのは地に倒れ伏すフーケと……。
「これは『破壊の杖』などでは……ない。確か……『パンツァーファウスト3』と言ったか。残念だが……単発式の武器だ。……ご苦労」
 意味深なことを呟きながら、彼女を見下ろすダンケの姿だった。
 青年は軽く肩を竦めると、転がっている『破壊の杖』を拾い上げる。
 どうして魔法が発動しなかった理由とか、訊きたいことはたくさんあったが。
(が、頑張った使い魔を讃えるのもご主人様の役目だものね! そうよ、そうなのよ!)
 自分に言い聞かせるように言い訳をする。
 チラリと横目でライバルを窺えば、両手を広げて人の(ここ重要)に駆け寄ろうとしているところだった。
 そうはさせない、とルイズは地を蹴る。
 向こうと違ってこちらはムダな贅肉が前に二つもない分、瞬発力があるのだ。
 そして彼女は、穏やかな瞳で自分を見つめる使い魔に抱きついた―――。

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この記事のコメント
更新お疲れ様でした。

今回は光と闇の落差が余りありませんでしたね。
いえ、それでも十分面白かったですよ。
ああしかし、次回で最終回ですか。でも期待してます。
体調に気をつけて、頑張ってください。

追伸 私もネクオロさんのオリジナル見てみたいです。
2008-06-01 Sun 21:14 | URL | 夢幻の戦士 #62m.TDbk[ 内容変更]
更新お疲れ様です!
この話もダンケはきまってますね!
勘違い系が難しいとはいえこのレベルの作品が中編で終わってしまうのは残念な気もします。
変えられた者もこの作品もとても面白いので個人的にはもっと読みたいという気もしてしまいます!
次回で最終話ということなので期待して待たせていただきます!お体に気をつけて下さい。
2008-06-03 Tue 01:25 | URL | Alto #D4KC3.rQ[ 内容変更]
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