ネクオロでした
スポンサーサイト
-------- -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
別窓 | スポンサー広告
零の使い魔。 ~聖十字の騎士~ 第一話
2008-08-04 Mon 18:24

オッス、オラ、ダンケ。 いっちょ(洗濯を)やってみっか!

                                                   <ダンケ>

……なんだろう、あの夢。それにこの不安な気持ちだって……いやだわ。

                                                   <ルイズ>
 ルイズは夢を見ていた。
 夢の舞台はトリステイン魔法学校から馬で三日ほどの距離にある、生まれ故郷のラ・ヴァリエールの領地にある屋敷。
 夢の中のルイズはまだ幼く、母親から逃げている途中だった。
 優秀な二人の姉と魔法の成績を比べられ、物覚えが悪いと叱られたのだ。
 自分を探す母親の声が間近で聞こえ、ルイズは飛び込んだ茂みの中で身を縮こませる。
 ルイズの事を不憫だと言う召使達に見付かるのを恐れ、ルイズは隠れていた茂みから逃げ出した。
 彼女が辿り着いたのは『秘密の場所』と呼んでいる、中庭の池だった。
 そこはルイズが一番安心出来る場所。
 池の周りには季節の花々が咲き乱れ、小鳥が集う石のアーチとベンチもある。
 池の真ん中には小さな島があり、そこには白い石で造られた東屋が建っていた。
 ルイズは池のほとりに停めてある小舟に向かった。
 元々は船遊びを楽しむ為の舟。
 しかし、姉が大きくなって魔法の勉強に忙しくなった今、この舟の事を気に留める者はルイズただ一人であった。
 夢の中のルイズは小舟に忍び込むと、用意してあった毛布に潜り込んだ。
 ルイズは考える。
 自分がおちこぼれだから母親は自分を叱るんだ。
 自分が優秀じゃないから、姉達と比べられてしまうんだ。
 悪いのは全部、馬鹿な自分なのだと。
(……違う。違うわ)
 その時、もう一人のルイズの声が響いた。
 その声の持ち主は夢の中の幼いルイズじゃない。
 トリステイン魔法学校に通う、大きくなったルイズの声だ。
 大きくなったルイズの声がまた響く。
(貴女は―――私はおちこぼれなんかじゃない。絶対に無い。確かに私は〝ゼロのルイズ〟で、魔法は今でも失敗してしまうけど……それでもおちこぼれなんかじゃない。だって―――)
 その口調には自信が溢れていた。
「だって……?」
 夢の中の小さなルイズが問い掛ける。
 だが、あの声が再び聞こえる事は無かった。
 その代わりに中庭の島にかかる霧の中から、マントを羽織った立派な貴族が現れた。
 歳のころは十六歳ぐらいだろうか?
 夢の中の小さなルイズよりも、十は年上に見えた。
「泣いているのかい? ルイズ」
 つばの広い、羽根つき帽子に隠れて顔が見えない。
 でも、ルイズは彼が誰だがすぐに判った。
 最近、近所の領地を相続した年上の貴族、子爵だ。
 夢の中のルイズの胸が、ほんのりと熱くなる。
 彼女にとって、子爵は憧れの人物だった。
 気高く、優しく、魔法の腕にも長ける子爵。
 そして、ルイズの父親と彼の間に交わされた秘密の約束―――。
「子爵さま、いらしてたの?」
 幼いルイズは慌てて顔を隠した。
 よりによって、憧れの人物にみっともないところを見られてしまったのだ。
 恥ずかしくて仕方が無かった。
「今日は君のお父上に呼ばれたのさ。あのお話の事でね」
「まあ! いけない人ですわ。子爵さまは……」
「ルイズ。僕の小さなルイズ。君は僕の事が嫌いなのかい?」
 おどけた調子で子爵が言った。
 夢の中のルイズが首を振る。
「ミ・レィディ。手を貸してあげよう。ほら、掴まって。もうじき晩餐会が始まるよ」
「でも……」
「また怒られたんだね? 安心しなさい。僕からお父上にとりなしてあげよう」
 島の岸辺から小舟に向かって手が差し伸べられる。
 ルイズは頷いて立ち上がり、その手を握ろうとした。
 その時、一陣の強い風が吹いた。
 思わず、ルイズが目を閉じる。
 そして彼女が再び視界を開かせた時、世界は一変していた。
「……え」
 ルイズが呆けた様な声を漏らす。
 いつの間にか、彼女は幼い姿から今の十六歳の容姿に戻っていた。
 綺麗な花に囲まれた中庭は既に存在しない。
 彼女が立っている世界は赤茶けた―――赤銅色の大地が延々と広がる荒野だった。
 風の呻り声に混じって耳に入ってくるのは、馬の蹄が大地を踏み締める音と兵士達の鎧が擦れてたてるガチャガチャという金属音。
 顔を上げたルイズの視線のはるか先。
 そこには数えるのも馬鹿らしいほどの、多くの兵士達が軍靴を鳴らして行進していた。
 ああ、これから戦争が始まるんだ。
 夢の中のルイズは他人事の様にそう感じていた。
 ここに居ては危険だ、すぐに避難しなくては。
 だが、夢の中のルイズの体は自分のであって自分のでは無い。
 動こうという意思に反して、彼女の体は指一つでさえ動かせずに居た。
 ―――その時。
 不意に、少女の視界を黒い何かが遮った。
 それは黒いマントだった。
「……あんた」
 何の前触れも無く。
 少女の眼前には彼女の使い魔たる青年が立っていた。
 荘厳な漆黒の鎧をまとい、その左手には〝デルフリンガー〟を握り、空いた右手に3メイルはある鋼鉄製の長槍を手にした青年は、いつもと同じ無表情でしかし眼光だけは鷹の様に鋭く、土煙をあげて迫る軍勢を見詰めていた。
「…………」
 青年が無言のまま、手にした長槍の穂先を大軍に向ける。
 ガキン―――ッ!
 そして十字に組む様に、長槍の柄と大剣の刃を噛み合わせる。
 二つの金属が擦れ、火花を散らした。
 槍の穂先を引き摺る様にして、大地を駆けて行く使い魔の青年。
 その先に待つのは圧倒的な物量を誇る敵軍。
 しかし、青年は怯まない。
 速度を上げ、その全てを薙ぎ払わんと四肢に更に力を込めるのが判った。
(い、行っちゃダメ―――っ!)
 ルイズの叫びは届かない。
 青年は後ろを振り返る事無く、ただひたすら駆け抜けて行く。
 このまま放っておけば、彼には〝死〟だけが待っている。
 いくら彼女の使い魔が強かろうとも、例え彼が伝説の使い魔だろうとも、数の優位性だけは誤魔化し様が無いのだから。
 何とか青年を止めようとルイズは足を動かそうとする。
 だが、両足が大地に固定されてしまったかの如く、ぴくりとも動こうとはしなかった。
(行っちゃダメ! 戻って来なさいっ! これは命令よ、だから―――)
 目に涙を浮かべながらルイズが叫ぶ。
 声無き叫びは、彼女の胸で虚しくこだましていた。
 そうしている間にも、青年はどんどんと小さくなっていく。
「だから―――戻って来て、ダンケっ!」
 その声が、彼女の使い魔に届く事は無かった―――。


「―――ダンケっ!」
 布団を跳ね除け、ルイズはベッドから身を起こした。
 ネグリジェが汗でベットリと濡れている。
 ひとしきり荒い息を吐き出したあと、ルイズはハッと気付いて隣に顔を動かした。
 部屋の隅。
 そこには綺麗に畳まれた布団が置かれていた。
 彼の朝は早い。
 使い魔ならば当然なのかもしれないが、主よりも早く起き、洗濯物を洗いに出かけたり、剣の素振りをしているからだ。
 それはいつも通りの光景。
 だがしかし、ルイズにはそれがすごく不安に思えてならなかった。
 今朝見た夢の様に、気付かぬ内にダンケがどこか遠いところに行ってしまう様な気がした。

†††††††

 その日の朝の授業は、ミスター・ギトーの担当だった。
 彼は生徒から人気が無い。
 長い黒髪に漆黒のマントという容姿は実に魔法使いらしいものだったが、生徒達からは不気味だと不評だったからだ。
 性格も少々……いや、少しばかり……かなり捻じ曲がっているのも人気の無い要因の一つだった。
「では授業を始める。知っての通り、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ」
 教室中がしーんとした雰囲気に包まれた。
 ……いや。
 一人だけ、たった一人だけ苦笑している者が居る。
 それは何かと話題に上がる事も多い、『ゼロのルイズ』の使い魔の平民だった―――。

†††††††

~光~

 ―――ププッ。
 おっと、いかんいかん。思わず吹き出してしまったぜ。
 しっかし自分の事を『疾風』とか言うなんてまあ、何と言う中二病。
 そう言えば、疾風とか紅蓮とか迅雷とかいう言葉をやたらと肩書きに付けたがる人って結構居るよなぁ。
 確かにカッコいいとは思うけど、それを衆人環視の前で堂々と発表するのはどうだろう?
 仮にも教師なわけだし、教師がそんな痛い子を量産する様な授業したらダメだろう、常識的に考えて。
 ……ん?
 気のせいじゃ無ければ、先生が俺を睨んでいる様な気がする。
 どことなく教室の雰囲気もピリピリしている気もするし……誰かが何かやったのか?
 だけど、それならば俺が睨まれる理由がさっぱり判らない。
 胸中で首を傾げていると、先生が俺に向かってとんでもない事を言い出した。
「……貴族で無い者に訊くのもどうかと思うが、最強の系統は知っているか? そこの平民」
「…………」
 ……は?
 この先生はいきなり一体何を言い出すんだ?
 最強の系統……系統……系統……?
 いや、ゲーム的に考えれば闇やら光やらが最強な属性の様な気がするけど。
 あくまで胸中で困っていると、隣に座っている(俺は立っている)ルイズがボソリと言った。
(普通に考えれば『虚無』よ、『虚無』)
 おお、どうやら答えを教えてくれたらしい。
 軽く頭を下げて感謝の意を表し、ルイズに教えてもらった答えを言う。
「……虚無だ」
「フン、伝説の話をしているわけでは無い。現実的な答えを聞いているんだ。やはり平民風情に訊いたこと事態が間違いだった様だな。―――ミス・ツェルプストー、君なら判るかね?」
 いちいち癇に障る先生だなぁ。だったら最初から訊くなよな。
 憮然としつつ、俺の代わりに指名されたキュルケに視線を動かす。
 キュルケもあの先生の事が嫌いなのか、その表情には僅かながら苛立ちの色が見て取れた。
 まあ、年がら年中あんな態度をされれば、生徒の人気が無くなるのも頷ける。
「それなら、『火』に決まってますわ。ミスター・ギトー」
「ほほう。どうしてそう思うね?」
「全てを燃やし尽くせるのは炎と情熱。そうじゃございませんこと?」
「残念ながらそうでは無い。試しに、この私に君の得意な『火』の魔法をぶつけてきたまえ」
 二人の舌戦は続く。
 ……やばい、眠くなってきた。
 そもそも、魔法の授業に俺が出席する事が間違っている気がする。
 資格を取れれば就職とかに便利だとは思うけど、俺はここ(ドイツ)で働く気はサラサラないしなぁ。
 いつもは自由にしていても良いのに、今日に限って何故かルイズが一緒に授業に出て欲しいと言ってきたからここに居るわけなのだが。
 あの年頃の女の子には色々な悩みがあるだろうから、理由までは訊かなかったけどさ。
 隣をそっと窺えば、ルイズが複雑な表情をして何かを考え込んでいる。
 邪魔しちゃ悪いだろうし、仕方なく別の方へ顔を向ける。
 ギーシュ……を見ても気分が悪いだけだし、タバサは何をしているかなっと。
 タバサは最前列に座っていた。
 教科書を読む―――フリをして、その内側にセットしてある別の本を黙々と読んでいる。
 居たなぁ、同じ様な事をしている奴が学校に。
 彼女と違って、そいつが読んでいたのは漫画だったけど。
 それにしても暇だ。やる事が無い。
 ルイズには悪いけど、少しだけ席を外してこようか。
 ちょうどトイレにも行きたくなってきた事だし。
 ルイズの邪魔をしない様、そっと立ち位置を移動する。
 問題は教室を出るには、キュルケと先生の間を通っていかないとダメだという点だ。
 平民の俺が教室を出たぐらいで騒ぎ立てる輩は居ないと思うけど、ちょっぴり気まずい。
 だが悩んでいたら、いつまで立ってもトイレには行けない。
 意を決して、俺はキュルケと先生の間に歩を進めた。
 立ち止まっちゃダメだ。
 皆の関心が俺に向く前に、一気に突破する―――!
 滾る闘志が炎となり、炎は風にかき消されて尚俺に向かって飛来する―――って、はいぃっ!?
 驚いた時には既に遅し。
 先生から、俺に向かって風の塊の様なものが射出されたあとだった。
 わけが判らないとか状況を誰か教えてくれとか言い出す前に、体が動いていた。
 背からデルフを抜くと、迫る風に向かってかざす。
 俺の頼りになる相棒(兼家族へのお土産)は辛うじて風を受け止めてくれた。
 ズズズと体が少しばかり後ろに下がる。
 お、おいおい、室内でなんていうものを撃ってるんだ、あの先生は。
「―――っ!?」
 愕然としていると、先生がギョッと目を見開いていた。
 その対応を取りたいのはこちらなんだがとか思いながらも、ヘタレな俺はついつい怖気づいてしまう。
 ……やばい、教室で剣を抜いたのはさすがに拙かったか!?
 慌ててデルフを鞘に戻す。
 口で謝るのは苦手なので、目線で「申し訳ありませんでした。怒らないで下さい」と訴えるのも忘れない。
 その上で何か良い言い訳が無いかと必死に探していると、突然背中に柔らかいものが二つほど押し付けられた。
 お、俺はこの感触を知っているぞ……!
「さすがダーリン! あたしの事を守ってくれたのねっ!」
「……いや」
「もうダーリンたら、照れちゃって」
 俺はキュルケが後ろに居た事を、抱き付かれた後に初めて知ったんだが……。
 否定するも照れているとか言われ、仕方なくそれでいいやと開き直った。
 尚も抱きついて来るキュルケをやんわりと引き離す。
「す、少しは出来る様だな」
 先生がプルプルと震えながらそんな事を言ってきた。
 とりあえず無難な言葉を返しておく。
「……貴方もな」
 自分で言いながら、何が「出来る」のかさっぱり判っていなかったりするが、まあいいだろ。
 それよりもトイレだ、トイレ。
 さっきはそうでも無かったのに、変に意識してしまった今はやたらと行きたくなっている。
 これ以上何か言われて時間をとられても困るので、会話を打ち切るべくインパクトのある単語を脳内から検索する事にした。
 あー、これが無難かなぁ。
「最強は……虚無だ。……以上」
 ルイズが言っていた事だ、間違いのわけが無いだろう。
 ゲームにしろ漫画にしろ、属性攻撃の中で強いのは光闇と相場が決まっているのと同じだ。
 虚無は『0(ゼロ)』。
 反論されてもいい様に、0に何をかけても無駄なのだから最強に決まってるじゃないか、とか適当な言い訳を用意するものの、先生が何か言ってくる事は無かった。
 俺みたいな平民を相手にするのに疲れてしまったのかもしれない。
 それはそうで好都合だと、俺はいそいそと教室をあとにする。
 それにしてもいきなり風の塊が飛んで来るんだもんなぁ。
 タバサが出したのを前に見ていなかったら腰を抜かしているところだ。
 まあ、一番怖いのはやっぱりルイズの導火線無しの爆発だけどな~。
「……なあ相棒」
「……どうした?」
 突然、一言も口を利かなかったデルフが声をかけてきた。
 怪訝に思いながら尋ねると、骨董品の大剣は「う~ん」と呻っている。
 いや、だから何なんだよ……。
「いや、さっきの魔法を受けた時、何か思い出しそうな気がしたんだけどよぉ。まっ、いっか。思い出せないって事は大した事じゃないって事だしな」
 そう言ってデルフがガハハと笑う。
 最近の俺は大事な事もすぐ忘れちゃうけどなぁ。
 それにしてもつくづく前向きな剣だ。
 そのポジティブさの半分ほど分けてくれれば、俺の人生も少しくらい変わるのかもしれない……なんてな。

~闇~

 ルイズが何気なく隣に目を向けた時、ダンケは珍しく苦笑していた。
 何かあったのか……?
 そう思い、ルイズが青年と同じ方向に目をやるが、そこには教師のギトーしか居ない。
 彼女が胸中で首を傾げていると、ギトーがとんでもない事を言い出した。
 何を思ったのか、平民の―――しかも使い魔のダンケに質問の答えを求めたのだ。
 魔法使いで無いダンケが、当然答えられる筈が無い。
 そう考えたルイズが助け舟を出す事で何とか窮地を脱した……かに見えた。
 しかし、ここでルイズは一つ失念していた。
 授業を行っているのが普通の教師で無く、性格が捻くれている事で有名なギトーだった事を。
 案の定、教師は本来ならば正解の筈の答えを捻じ曲げた。
 次に指名されたキュルケも自称『ダーリン』を貶されたからか、若干その表情に苛立ちが見て取れる。
「―――ミス・ツェルプストー、君なら判るかね?」
「『火』に決まってますわ。ミスター・ギトー」
 どことなく陰険な響きを持った言葉。
 だが、ギトーはそれに気にした風も無く、言った。
「ほほう。どうしてそう思うね?」
「全てを燃やし尽くせるのは炎と情熱。そうじゃございませんこと?」
「残念ながらそうでは無い」
 確信を秘めたその言葉に、キュルケの眉がピクリと上がる。
 無理も無いとルイズは思った。
 自分の得意とする属性を貶されたのだから、彼女の怒りは……まあ、少しくらいは理解してやってもいいだろう。
 ふと、ダンケも得意とするもの(剣?)を馬鹿にされたら怒るのかなと気になった。
(……無いわね)
 機嫌を多少悪くする事はあるかもしれないが、その程度の事で腹を立てるほど彼は心が狭くは無い。
 というより、自分も含めた周囲の事にさして興味が無い様にも見て取れる。
 ダンケが物に反応したのだって、デルフリンガーを見た時の一回だけだった。
(女としての魅力が無いのかしら……じゃなくて!)
 ブンブンと頭を振り、浮かんだ雑念を追い払う。
 それでも恥ずかしくなり、机に突っ伏した。
 再びルイズが顔を上げた時、隣にダンケの姿は無かった。
 今朝の夢の事もある。
 慌てて使い魔の姿を探せば、いつの間にか数メイル離れた位置まで移動している。
 その時だった。
 キュルケが胸の谷間から杖を抜き、ギトーに向かって火球を放ったのは。
(え―――何が一体どうなってるの……!?)
 物思いにふけていた為、ルイズには今の状況が理解出来なかった。
 直径一メイルほどにまで膨れ上がったそれを、キュルケが押し出した。
 ギトーは避ける素振りすら見せてもいない。
 火球が間近に迫った時、ギトーが腰に差した杖を引き抜いた。
 剣を振るように杖を振るうと烈風が舞い上がり、火球を一瞬でかき消す。
 炎の玉を打ち消して尚その威力を失わない烈風は、直線上に居るキュルケに襲い掛かった。
 詠唱直後の魔法使いは無防備だ。
 キュルケは回避行動を取る事が出来ず、目を見開いて迫る風の牙をただ見詰めていた。
 ギトーも手加減くらいはするだろうが……。
 級友の吹き飛ぶ姿を幻視し、ルイズが息を呑む。
 ―――しかし。
 「…………」
 それが自然であるかの如く。
 一切の気負いも無く、ダンケはそこに居た。
 背のキュルケを守る様な立ち位置で、流れる様な仕草で鞘から大剣を抜き放つ。
 そして烈風は大剣の刃に当たり、呆気なく霧散した。
 何事も無かった様にダンケがデルフを鞘に戻す。
 だがしかし、その視線だけは鋭くギトーに向けられていた。
 物理的な圧力すら感じるそれを前に、『疾風』の二つ名を持つ魔法使いが思わずたじろぐ。
 そんな彼の背中にはいつの間にやらキュルケが張り付いていた。
 少し離れたルイズの席からも判るほど、その無駄に発達した胸をグイグイとルイズの使い魔に押し付けている。
(ぐ……ぎぎ、はは離れなさいよ……!)
 奥歯が軋むほど噛み締め、ルイズが怨嗟のこもった視線をキュルケに注ぐ。
 今朝の夢が影響しているからか、今日の彼女はいつもより強気に出られずにいるのだ。
 だが、彼女の聡明な使い魔は主の意思を汲み取ったらしい。
 ルイズの視線のさきで、ダンケがキュルケを自分の背から引き剥がしていた。
「す、少しは出来る様だな」
 そう告げるギトーの顔色は心なしか青かった。
 あのダンケの眼光をまともに浴びたのだから無理も無いが。
「……貴方もな」
 淡々とダンケが呟く。
 その口調から、そう思ってもいない事は明らかだった。
(ひょっとして……機嫌が悪いのかしら……?)
 無表情だから判らないが、どことなくイライラしている様に見える。
 何かを堪えている様な……。
 やはり怒っているのだろうとルイズは断定した。
 しかし、その理由が判らない。
 自分の答えを否定されたから?
(ダンケがその程度で怒るとは思えないのよねぇ……)
 だったら、キュルケを傷付けられそうになったから?
(無いわね。絶対に無いわね。無いったら無いのよっ!)
 それは絶対に有り得ないとルイズは首を振る。
 彼は誰でも無い、自分の使い魔なのだ。
 葛藤する彼女の思考に青年の声が飛び込んできたのは、まさにその時だった。
「最強は……虚無だ。……以上」
 反論を許さない強い口調で、ダンケは言い切った。
 はっきりとした物言いの少ない彼にしては非常に珍しい、力強いその声音。
 ―――『虚無』。
 始祖ブリミルが用いたとされる伝説の魔法。
 四系統に属さない、第0の魔法。
 ダンケの口調は実際に『虚無』の発現をその目で見たのかと思えてしまうほど、はっきりとしたものだった。
 虚無の力を知っているからこそ、最強は虚無だと断ずる事が出来る。
 そう捉えてしまっても、おかしくは無いくらい……。
(まさかね……でも、ダンケはガンダールヴだっていうらしいし……)
 始祖ブリミルに仕えたとされる伝説の使い魔・ガンダールヴ。
 まさか六千年も前に存在したとされるガンダールヴがダンケのわけが無いだろうが……。
 ルイズの脳裏を過ぎるのは今朝見た夢。
 夢の中のダンケは漆黒の鎧にデルフ、そして長槍を持っていた。
 その威風堂々とした姿は正しく伝説の使い魔―――〝ガンダールヴ〟。
(有り得ない……馬鹿げてるわ。でも……馬鹿げてるけど……だとしたらダンケは一体……)
 平民には有り得ないその戦闘能力。
 その外見年齢からは想像も出来ない豊富な実戦経験。
 そして時折見せる不可解な言動……。
 魔法の才の無い自分の事を、何の抵抗も無く主と認めてくれたダンケ。
 もしも彼が〝ブリミル〟に使役されていた本物の〝ガンダールヴ〟だったとしたら……。
 教室に突飛な格好をしたコルベールが飛び込んできたのにも気付かず。
 ルイズの思考は延々と空回りを続けていた。

別窓 | 零の使い魔。 ~聖十字の騎士~ | コメント:13 | トラックバック:0
<<リリカル勘違い(?)&注意書き | 後悔すべき毎日 | 零の使い魔。最終話>>
この記事のコメント
一番ゲット。
一日千秋の思いで更新をお待ちしておりました。ありがとうございます。
この作品は自分の好きなSSの上位に入るので何度も全話読み返しています。
これからもがんばってください。
2008-08-04 Mon 18:44 | URL | ブレイド #XgdE/0K6[ 内容変更]
新シリーズ万歳!!
初めてカキコさせていただきます。
『零の使い魔』は私の中でのゼロ魔SSではダントツで1位なので新シリーズが始まってちょっと興奮気味です。
次回の更新も楽しみにしておりますのでお体に気をつけて頑張ってください。
2008-08-04 Mon 21:02 | URL | 41 #ZTGLyrdM[ 内容変更]
おお!?更新されている!
こんばんは、broomです。
お仕事と執筆活動、お疲れ様です。
心待ちにしていた『零の使い魔』。
早速、拝読させて頂きました。
ネクオロ様が後に記載されている様に、若干文体が変わっていますね。
しかし、面白い作品に変わりありません。
これから、ダンケ、ルイズは勿論、二人を取り巻くキャラクターがどんな活躍を見せるのか。
どのような展開が待っているのか。
実に楽しみです。

両立は大変だと思いますが、体調にお気を付けて。
それでは、次回の更新楽しみにしています。
2008-08-04 Mon 21:32 | URL | broom #-[ 内容変更]
お帰りなさい
待ってました。

相変わらずの勘違いぶりが素晴らしい。あまり負担にならない範囲でいいので頑張ってください。続きを楽しみにしています。
2008-08-04 Mon 22:59 | URL | ガル #B5NHcO6.[ 内容変更]
うぼぅあ!更新されておりますがな!
しかし、ルイズの人も妄想が酷くていかんですなぁ。
彼のフロイト氏ならいかなる夢判定を下してくれるのでしょうか。
きっとここでルイズさんの性癖が明らかになったりならなかったり。

いや、それにしても面白かったでございますよ。
もう永遠に彼の誤解が解ける事はないでしょうなぁ。
なんと言ったって使い手ならばもっとも騙す事が難しいデルフさんが既に陥落済みですからなぁ。
2008-08-05 Tue 08:59 | URL | 危機 #EBUSheBA[ 内容変更]
待ちに待った新シリーズ。
どうも、ベリウスです。遂に零の使い魔、新シリーズに突入ですね。果たしてダンケとルイズ達の行く手には何が待っているのか、そしてダンケはワルドとの戦いで本当の人間性がルイズ達にバレるのか。これからも目が離せそうに無いので、度々このサイトに来て更新されてるか見に来るのでよろしくお願いします。
2008-08-06 Wed 12:10 | URL | ベリウス #z1ZoCG82[ 内容変更]
追記
ところで、タイトルの聖十字の騎士とは何か小説本編で起きる事の伏線なのでしょうか?
2008-08-06 Wed 14:44 | URL | ベリウス #z1ZoCG82[ 内容変更]
お待ちしておりました
このシリーズの続編を待っておりました。
嬉しい限りですw

あれですね、ルイズが勘違いを重ねて、自分の内だけで虚無属性ということを知覚するフラグが立ったような気がしますw
2008-08-06 Wed 16:03 | URL | ナット #SFo5/nok[ 内容変更]
待ってました!!
待ってました。これからも微妙な食い違いを期待しています。
2008-08-08 Fri 10:21 | URL | ジバン #be3r52ZE[ 内容変更]
キタコレw
相変わらず嫌われてるギーシュが哀れwww
2008-08-08 Fri 14:47 | URL | 1さん #yxBLcR7c[ 内容変更]
祝! 新シリーズ!
続編、お待ちしていました。
『零の使い魔』はダンケの勘違いもさることながら、ルイズがちゃんと乙女乙女していて面白い。

文章が違うとのことですが、そんな違和感は感じませんでした。
次回の展開は王女様でしょうか? それとも?
今後も期待しています。
2008-08-08 Fri 22:08 | URL | 夢幻の戦士 #LOLorWpQ[ 内容変更]
ダンケってなんかその内、「俺がガンダム(ガンダールヴ)だ!」とか言い出しそうですよね、この雰囲気だと……。
2008-08-12 Tue 07:46 | URL | #-[ 内容変更]
まってました!
がんばれがんばれダーンーテー
ルイズに負けるなダーンーテー
2008-08-20 Wed 20:45 | URL | みどりさん #-[ 内容変更]
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック
トラックバックURL

FC2ブログユーザー専用トラックバックURLはこちら


| 後悔すべき毎日 |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。