ネクオロでした
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零の使い魔。 ~聖十字の騎士~ 第二話
2008-08-17 Sun 14:17

「トリステインの未来がかかっているのですよ。何故そのような余裕の態度を」
 学院長室の窓から外を見つめていたアンリエッタは、振り返ると少し苛立たしげにそう言った。
 コルベールの話では、チェルノボーグに囚われていたフーケが何者かの手引きによって脱獄したらしい。
 それはつまり、城内に裏切り者がいることを意味していた。
 アンリエッタの表情が曇る。
 ルイズたちの旅―――その真の目的にもその未知なる敵は勘付いているのかもしれない。
 道中、彼女の大切な友達の身に危険が及ぶかもしれない。
 いくら魔法衛士隊の隊長を護衛に就けたとは言え、不安はそう簡単には拭えなかった。
 ほぅと嘆息を漏らすトリステインの姫。
 それを眺めていたのは、机に座り鼻毛を抜いていた学院長・オスマンであった。
「すでに杖は振られたのですぞ。我々に出来ることは待つ事だけ。違いますかな?」
「そうですが……」
「なあに、彼ならば道中どんな困難があろうとも、やってくれますでな」
 オスマンの言葉にアンリエッタは首をかしげた。
 元帥の息子であるギーシュか、それとも自分が就けたワルド子爵の事を指しているのか。
 そう尋ね返せば、そのどちらにも否定の言が返ってくる。
「ならば、ルイズの使い魔のあの青年が? ご冗談を、彼はただの平民ではありませんか」
 昨晩、ルイズの部屋にいた使い魔の青年を思い出す。
 この国では珍しい、黒髪黒目という風貌を備えた不思議な使い魔。
 その眼光は鋭く、様々な人間を目にしているアンリエッタも一瞬、背筋に氷の塊を放り込まれたような寒気に襲われた。
 しかし、言ってしまえばそれだけだ。
 彼は平民、どう足掻いてもメイジには敵わない。
 それは自身も腕の立つ魔法使いであるアンリエッタにはよく判っていた。
「ふむ。まあ、姫がそう思われるのも仕方ないとは思いますがの……」
 自慢の顎鬚をさすりながら、言葉を選ぶようにオスマンがゆっくりと告げる。
「彼はなにぶん特殊な使い魔でしての。詳しいことは申せませんが……姫は始祖ブリミルの伝説を御存知ですかな?」
「通り一遍のことなら知っていますが」
 困惑しながらも答えるアンリエッタに、オスマンはにっこりと笑った。
「では『ガンダールヴ』のくだりは御存知か?」
「始祖ブリミルが用いた最強の使い魔のこと? ……まさか彼が」
 オスマンは喋りすぎてしまったことに、今更ながら気が付いた。
 黒衣の使い魔・ダンケが伝説の使い魔であることは自分の胸一つに収めている。
 アンリエッタのことが信用できないわけではないが、王室に話すにはまだ時期が早すぎる。
 そう、オスマンは考えていたのだ。
 ……仮にその過程で彼の主の身になにか起きた場合のことを考えると、老齢の魔法使いの背筋を冷たい汗が通っていった。
 そうだ、王室に伝えるのは早い。出来ることなら、一生伝えたくないほどに。
「えー、おほん。兎に角、彼は伝説のガンダールヴ並みに使えると、そういうことですかな。いやはや、ことヴァリエール嬢を守ることに関しては、ひょっとしたらガンダールヴ以上に使えるかもしれませんがのぅ。正直、ワシも怖いし」
「はい……?」
「いやいや、何でもないですじゃ」
 とぼけるオスマン。
 そんな学院長に溜め息を一つ零し、アンリエッタは視線を再び窓の外に戻した。
 思い返せば、確かに何とも形容し難い不思議な空気をまとった青年だった。
 そしてルイズはそんな彼のことを心底信頼していたように感じる。
 あの二人ならばもしかしたら……。
 アンリエッタの胸中をそんな思いが過ぎった。
 目を閉じ、手を組んで祈る。
「では、祈りましょう。その伝説が彼らを無事に導いてくれることを」
 
 ~光~ 

 テンションが上がらない。
 朝っぱらから馬に鞍を付けているのだから、それも仕方ないと言えばそうなのだが。
 馬は嫌いだ、尻が痛くなるから嫌いだ……うぅ。
 おまけに俺の隣にはギーシュが居る。
 長くなるから端的にまとめてしまうが、昨日の晩、いきなりルイズの部屋にこの国のお姫様がやって来た。
 そう言えば、昨日はお姫様が学院に来るからって学院中がバタバタしていたっけ。
 その時の俺はシエスタの手伝いをするので手一杯だったから詳しくは知らないが、部屋に戻るとルイズの様子が変だった事だけは覚えている。
 女の子には色々あるからそっとしておこうと思った矢先、部屋の戸がノックされた。
 そして扉を開けると居たのが、なんとこの国のお姫様だったというわけだ。
 そこでお姫様とルイズは何か昔話の様なものをしていた様な気がするけど、はっきりとは覚えていない。
 理由は簡単。
 眠たかったからである。
 手伝いで体を動かして疲れたからだろうが、やたらと眠かった。
 だから、気付いた時には彼女達の話は終わっていた。
 あとでさり気無く聞いて判った事は、明日(つまり今日だ)どこかに行かなければならないらしい事のみ。
 おそらくは旅行だろう、個人的には温泉とかだとありがたい。
 故にこうして、いつも以上に早起きして馬の準備をしているというわけだ。
 ドイツは色々と物騒なので、一応デルフと短剣は持って来ているが……これを使う様な機会にだけは恵まれて欲しくないなぁ。
 車で行けばきっとすぐに着くのだろうけど、この国は日本以上に地球環境を考えているらしい。
 ガソリンの様な燃料を使う物はほとんどと言っていいほど無く、移動には基本的に馬を使用していた。
 徹底し過ぎだと思うが、これも未来の為だと言われれば反論のしようが無い。
 今までの便利な生活のツケが回って来たという事なのだろう。
 ルイズは嫌な顔一つせず、何やら真剣な表情で馬に鞍を付けている。
 ギーシュも似た様な表情をしている気もするが……まあ、この男の事だからどうせいやらしい事を考えているに違いない。
 油断のならない奴だ……と思っていると、ギーシュが声をかけてきた。
 さすがと言うべきか、自分が疑われている事を本能的に察したのだろう。
「ダンケ殿、一つだけお願いがあるのですが……」
「……なんだ」
 つまらない事言うと睨むぞゴラァッ! という感じの視線を送る。
 まったくもって自慢にならないが、俺の眼光は無駄に鋭い。
 そのせいで要らぬ疑いをかけられたり無闇に怖がられてたりする事も多いけど、こういう時には少しだけ役に立つのだ。
 しかし敵も然るもの。
 ギーシュは一度ビクついたものの、すぐに復活してみせた。
「私の使い魔を連れて行きたいのです」
「……好きにしたら良い」
 にべも無く言い放つ。
 そもそも、ギーシュに使い魔が居ようが居まいが俺にはまったく関係が無いのだ。
 それよりも行き先の方が気になる。
 まさか空の上やら海の中だなんて事は無いだろうが……。
「あ、ありがとうございます!」
 礼を言うギーシュに軽く手を振る事で応じ、少しでも腰に負担をかけない位置に鞍がくるように慎重に調整する。
 とりあえず今はギーシュの事を考えるのは止そう。
 正直なところ、俺の腰と尻の安否の方がよほど重要だ。
「あんたの使い魔かなんかどこにいるの?」
「ん? ここにいるさ」
 ギーシュが足で地面を叩く。
 するとその部分の土がモコモコと盛り上がり、何やら不気味な茶色の生き物が姿を現した。
 ……何だこりゃ、これもバイオ・テクノロジーとやらの産物か?
 胸中で首を傾げていると、ルイズが呆れた様に言った。
「あんたの使い魔ってジャイアントモールだったんだ」
 ……ジャイアンとモール?
 ジャイアンは国民的子供アニメに出て来るガキ大将でいいとして、モールって何だ?
 釘を抜くのは……あれはバールか、ならばショッピングモールとかと同じ意味か?
 判らない、さっぱり判らない。
 さすがはドイツと言ったところか、日本の常識がまるで通用しないとはな。
 ギーシュは幸せそうに茶色の生き物に頬ずりしている。
 少し……いや、かなりひいた。
「ねぇ、ギーシュ。ダメよ。その生き物、地面の中を進んでいくんでしょう?」
「そうだ。ヴェルダンデはなにせ、モグラだからな」
 ……あぁ、それはモグラだったのか。
 見れば、確かにモグラにも見えない事も無い。
 やたらと大きいので、気色悪いのは相変わらずだったが。
「そんなの連れていけないわよ。私達、馬で行くのよ」
「結構、地面を掘って進むの速いんだぜ? なあ、ヴェルダンデ」
 ギーシュの言葉に、モグラが頷いている……様な素振りをみせた。
 こいつ、このナリで人語が判るというのか!?
 さすがはドイツの誇るバイオ・テクノロジーの産物、知能指数も半端無いって事か。
「私達、これからアルビオンに行くのよ。地面を掘って進む生き物を連れていくなんてダメよ」
 ルイズがそう言うと、ギーシュは崩れ落ちた。
 モグラを抱き締め、滂沱と涙を流している。
 ……いや別にモグラくらい連れていけばいいと思うけどな、俺は。
 本人(?)が速いって言っているんだから、好きにさせてやればいいのに。
 その『あるびおん』がどこにあるかは判らないが、まさか空中や海中にあるわけじゃなし。
 それとも何か、その『あるびれお』はモグラがバテてしまうほど遠い場所にあるのか?
 だとしたら剣を二本も持っていくのはやめた方がいいかもしれないなぁ。
 デルフは連れて行くって約束しちゃったし……仕方ない、短刀を置いていく事にしよう。
 さすがに、鉄の塊を二本も装備して長時間馬に乗るのはきついもんな。
 そう考えて、腰の短刀―――スティレットに手を伸ばす。
 やべっ、手が滑った。
 まずいと思った時には、短刀が下に滑り落ちたあとだった。
 スコンと軽い音を立てて、スティレットが地面に突き刺さる。
 ふぃ~、危ない危ない。
 もう少しで俺の足に刺さるところだったぞ。
 心の中で額の汗を拭い、短刀を引き抜く。
 次の瞬間、ギーシュが俺の前で土下座していた。
「も、申し訳ありませんでした、ダンケ殿! ヴェルダンデには私がよく言い聞かせておきますので、今回ばかりはお許し下さい……!」
 ……いや、話がさっぱり見えない件について。
 あと、何故にルイズが尻餅をついているんだ?
 いつまでも土下座されているのは、相手がいくらギーシュだとは言え落ち着かない。
 とりあえず、気にするなとだけ言い、俺は短刀をベルトに戻した。
 参った、完全にこれを置いていくタイミングを逃してしまった。
「ヴェルダンデは宝石が大好物なんです。おそらく、ルイズの指輪に反応したんじゃないかと」
 そう語るギーシュの前では、大きなモグラが頭を垂れている。
 なにやら反省している様にも見えなくは無い。
 そう言われれば、昨日、ルイズが姫様から指輪をもらった様な気がするなぁ。
 ……俺にはなにもくれなかったけどさ。
 というかお姫様、基本的に俺と目を合わせようとしなかったよな、シャイなのかな。
 ―――つか、いい加減に出発しないんだろうか?
 デルフを吊り下げているバンドが肩に食い込んで、地味に痛いんだけど。
 ……位置だけでも調節しようかなぁ。
 そう思い、背のデルフを引き抜く。
 何故かルイズとギーシュがギョッとした顔をしているが……まあ彼等にも色々あるのだろう。
 デルフを地面に刺して、そっから鞘を外してっと。
 そんな風に脳内で、剣を抜いたあとの予定を立てていた時だった。
 俺の背後から男の声が聞こえてきたのは。
「待ってくれ。僕は敵じゃない。姫殿下より、君たちに同行する事を命じられた者だ」
 振り向けば、羽の付いた帽子をかぶった男が一人、朝もやの中に立っていた。
 お髭が精悍なダンディさんの登場である。
 それにしても、たかだか旅行に随分とまあ大所帯で行くんですね。
 とと、抜き身のままじゃ危ないし失礼だよな。
「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」
 帽子を取って一礼するミスター・ダンディ。
 無視するのもどうかと思い、会釈を返しておく。
 どういうわけか、ダンディの顔が引き攣った。
「ワルドさま……!」
 ルイズが震える声で言った。
 よくは判らないが、さまが付く事から判断するに偉い人らしい。
 ワルド・シシャクだっけ?
 ワルドが苗字でシシャクが名前……いや、外国は確か逆なんだっけ。
 となると、シシャク・ワルドさんになるわけだな、変わった苗字だ。
「久しぶりだな! ルイズ! 僕のルイズ!」
 ……マジかよ。
 満面の笑顔でルイズに駆け寄り、その体を抱え上げるシシャクさん。
 正直なところ、少し……いや、ものすごくひいた。
 いい歳した大人が女の子に向かって「僕のルイズ!」は無いだろう。
 爽やかなダンディが実はロリコンだったと知って、俺は少なからずショックを受けていた。
 ルイズは頬を染めてシシャクさんに抱きかかえられている。
 いやまあ、本人が喜んでいるならそれでもいいけどさ。
「相変わらず軽いな君は! まるで羽の様だね!」
「……お恥ずかしいですわ」
「彼らを、紹介してくれたまえ」
 ルイズを下ろしたシシャクさんが、俺たちに目線をやる。
 我が主はチラチラと俺の方を見ていた。
 とりあえず頷いておく。深い意味など当然ながら無い。
「あ、あの……、ギーシュ・ド・グラモンと、使い魔のダンケです」
 紹介されたギーシュが深々と頭を下げる。
 この野郎、人によって態度を変えるとは無礼千万な奴め……。
 イライラしながら、俺もシシャクさんに頭を下げる。
 どんな状況であれ、第一印象というのは大事だからな、うん。
「き、君がルイズの使い魔かい? まさか人とは思わなかったな。僕の婚約者がお世話になっているよ」
「ああ……宜しく頼む……子爵」
 さん、が抜けてしまったが、大体自分の思った通りの発言が出来た。少し嬉しい。
 嬉しさついでにシシャクさんを観察してみる。
 うむ、たくましい体つきだ。
 さすがはなんとかの隊長さん。
 これなら、ルイズのついでに俺も守ってくれるに違いないだろう。
「俺の護衛も頼めると……嬉しいのだがな」
「ぜ、善処しよう」
 おまけに良い人じゃないか!
 ちょっと顔が引き攣っていたのが気にはなるが。
 兎に角、こんな人がルイズの婚約者だというなら俺も安心だ。
 ロリコンなのが玉にキズだろうけど、奥さん(の予定)のルイズがそれを受け入れているというのなら、部外者の俺がわざわざ口を挟む必要は無いだろうし。
 結婚かぁ……俺はいつ……いや、そもそも出来るかが心配だなぁ。
 シシャクさんが口笛を吹くと、朝もやの中から黒い生き物が現れた。
 鷲の頭に獅子の胴体……もうなんでもありだな、ドイツは。
 その不思議生き物にシシャクさんは跨ると、ルイズを手招きした。
「おいで、ルイズ」
「え……でも……」
 ルイズが俺とシシャクさんの間で視線を彷徨わせる。
 ……そうか。
 俺が馬嫌いな事をどこかで知って、自分だけフカフカで座り心地の良さそうな不思議獣に乗るのを申し訳なく思っているんだな。
 さすがはルイズ、俺のご主人様兼保護者。
 なんという心の優しい娘だ。
 だけど、俺にだってプライドというものがあるんだよルイズ。
 いくらなんでも、男同士の二人乗りは避けたいんだ。
 気にしないでという意味で頷くと、ルイズは複雑そうな顔をして不思議獣に跨った。
 まだ迷っているのか、やっぱり優しい子だなぁ。
 感心しつつ、ノロノロと馬に跨る。
 あー、腰と尻が痛い。
 まだ走ってもいないのに痛いというのも不思議な感じだ。
 シシャクさんが杖を掲げ、叫んだ。
「では諸君! 出撃だ!」
 シシャクさんの鞭を受け、不思議な生き物が駆け出した。
 俺の馬もノロノロと動き出す。
 上に乗っている人間と同じ様に、テンションの低い馬らしい。
 そのあとに何かに感動した面持ちのギーシュが続いた。
 それそうと……旅行に行くだけなのに、いちいち出撃とか叫ぶ大人って……。
 彼にルイズをお任せしてもいいのか、少し不安になった今日この頃でした。

 ~闇~

 ―――この任務にはトリステインの未来がかかっています。母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風から、あなたがたを守ります様に。

 昨晩聞いたアンリエッタ姫の言葉を思い浮かべ、ルイズは気を引き締める。
 アルビオンは内戦の真っ最中だ。
 トリステインの貴族である自分たちにはまだ真っ向から対立する様な行動は取らないだろうが、それでも危険な事には変わり無い。
 トリステインとゲルマニアの同盟を阻止する為、刺客を送り込んでくる可能性もあるだろう。
(ダンケがいるからなんとかなる……わよね)
 ちょっぴり不安な表情を浮かべ、信頼している使い魔に目を向ける。
 いつもと同じ変わった材質の黒衣をまとった青年は、黙々と馬に鞍を付けていた。
 その背にはデルフを背負い、腰には短刀を差している。
 今の彼が出来る最大限の装備である。
 それだけこの旅が危険なものだと言われた気がして、ルイズはゴクリと喉を鳴らした。
「ダンケ殿、一つだけお願いがあるのですが……」
「……なんだ」
 姫様の話を盗み聞きし、話の都合上同行する事になったギーシュが恐る恐るダンケに声をかけた。
 ルイズとしては彼の同行に反対だったが、アンリエッタ姫が認めてしまった以上、彼女にはどうしようも無かったのだ。
(あんまりダンケに負担かけるのもどうかと思うのよね。わ、私はご主人様だからまだいいとして!)
 胸中でそう宣言する。
 ほんの少しだけ迷惑をかけているという自覚は当然ながらあった。
 これでも魔法を使える様になる為に色々と努力はしているのだ……これっぽちも報われていないだけであって。
「私の使い魔を連れて行きたいのです」
「……好きにしたら良い」
 ダンケが即答する。
 今更お荷物一つ増えたところで気にならないのか、すぐに鞍を取り付ける作業に戻った。
 確かに伝説の使い魔の彼ならば、二人守るのも二人と一匹守るのも大した差はないだろうが。
 礼を言うギーシュに軽く手を振るダンケ。
 なにかと付きまとうギーシュを嫌ってはいないのか、その表情には負の感情は一切浮かんではいなかった。
 無愛想な顔をしているが、お人好しで優しいのがルイズの使い魔なのだ。
(でも、誰にも彼にも優しいのも考え物よね……。そのせいでキュルケやあのメイドが誤解しちゃってるわけだし。私がもっと大胆に行けば振り向いてくれるのかしら―――って、べ、別に意識してるわけじゃないんだからねっ!)
 ブンブンと頭を振り、変な方向にずれ始めた思考を修正する。
 そこで初めて、ギーシュの側に彼の使い魔らしい影が無い事に気付いた。
「あんたの使い魔かなんかどこにいるの?」
「ん? ここにいるさ」
 ルイズが尋ねると、ギーシュが得意気に地面を足で叩いた。
 その部分が盛り上がったかと思うと、そこから巨大なモグラが姿を見せる。
「あんたの使い魔ってジャイアントモールだったんだ」
 ―――ジャイアントモール。
 地中を高速で移動する事が出き、土系統のメイジと非常に相性の良いとされている動物の事だ。
 忘れてたけど、ギーシュもそう言えば土系統のメイジだったわね、とルイズは納得した。
 しかし、今回の旅の目的地はアルビオンだ。
 だからルイズは心を鬼にして言った。
「ねぇ、ギーシュ。ダメよ。その生き物、地面の中を進んでいくんでしょう?」
「そうだ。ヴェルダンデはなにせ、モグラだからな」
 ヴェエルダンデ、それがこのジャイアントモールの名前らしい。
「そんなの連れていけないわよ。私達、馬で行くのよ」
「結構、地面を掘って進むの速いんだぜ? なあ、ヴェルダンデ」
 モグラに同意を求めるクラスメイトに、ルイズは溜め息を吐いた。呆れているのだ。
 ギーシュはアルビオンに行った事がないんだろうか?
「私達、これからアルビオンに行くのよ。地面を掘って進む生き物を連れていくなんてダメよ」
 もう一度、今度は「アルビオン」を強調して告げる。
 ようやくルイズの言いたい事が伝わったのか、ギーシュはその場に崩れ落ちた。
 そう―――アルビオンはその特異な立地条件から、地中を進む動物とは非常に相性が悪いのである。
 涙を流すギーシュに少しだけルイズが同情していた時、不意にヴェルダンデと目が合った。
 何故かジャイアントモールの視線はルイズのある一点に注がれたまま、微動だにしない。
「な、なによ……」
 無言の異様な迫力に、思わず後ずさるルイズ。
 それに反応したのか、ヴェルダンデが体勢を低くした。
 その姿勢は獲物に飛び掛る前の猫にどこか似ている。
 ルイズの頬を冷や汗が一滴、流れ落ちていく。
 飼い主のバカ(ギーシュ)は気付いていないのか、まだ地面に膝をついて泣いている。
 ジリジリと後ずさるルイズと、ジリジリと距離を詰めるヴェルダンデ。
 ついには小石につまずき、ルイズは尻餅をついてしまう。
 やられる、そう思った刹那、彼女と一匹の間を黒い影が横切った。
 ―――スコン。
 ヴェルダンデの鼻先に短刀が突き刺さる。
 見れば、柔らかい土壌にナイフの刃が半分ほど埋もれていた。
 本能的な恐怖を感じたらしいヴェルダンデが、ナイフの持ち主―――ダンケから距離をとる。
 ルイズの顔に笑顔の花が咲いた。
 そう、ルイズの危機を察知したダンケが短刀を投げ、ヴェルダンデの進路を封じたのである。
「も、申し訳ありませんでした、ダンケ殿! ヴェルダンデには私がよく言い聞かせておきますので、今回ばかりはお許し下さい……!」
 使い魔の不手際は主の不手際。
 やっとヴェルダンデの凶行(未遂)に気付いたギーシュがダンケに土下座している。
 本来ならば彼が謝らなければいけないのはルイズに、なのだが。
「……気にするな」
 ポンポンとギーシュの肩を叩き、ダンケが作業に戻る。
 一流の戦士は道具の手入れに普通の倍、時間をかけるという。
 ダンケもその例に漏れず、念入りに鞍の位置を調整していた。
 おそらくは、もっとも剣を抜き易い位置を探しているのだろう。
 それも全ては、主のルイズを守る為に。
 そう考えると、いつの間にかルイズの頬は赤く染まっていた。
「ヴェルダンデは宝石が大好物なんです。おそらく、ルイズの指輪に反応したんじゃないかと」
ルイズが右手の薬指にはめている指輪はアンリエッタ姫からもらった物だ。
 『水のルビー』と呼ばれるそれの中央には、確かに青い大きな宝石がはめ込まれていた。
「失礼な、モグラだわ。姫様から頂いた指輪を狙うなんて」
「そ、それは悪いと思っているよ」
 尊敬しているアンリエッタ姫の名を出され、ギーシュがしどろもどろになりながら謝罪する。
 その時、ダンケが突然背のデルフを抜いた。
 なにかあったのかとルイズが身を硬くする。
 隣に居るギーシュも、不安そうにバラの造化を握り締めていた。
 朝もやの中から人影が姿を見せたのは、その直後だった。
「待ってくれ。僕は敵じゃない。姫殿下より、君たちに同行する事を命じられた者だ」
 敵対する意思は無いという風に両手を挙げ、男がゆっくりと歩み寄ってくる。
 ルイズはその人物に見覚えがあった。
 昨日、アンリエッタ姫が学院に立ち寄った際、護衛についてきていた魔法使いの衛士。
 グリフォン隊の隊長にして……彼女の婚約者。
「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」
 羽付き帽子をかぶり、グリフォンの刺繍を施したマントを羽織った青年。
 その体つきはたくましく、同じメイジでもギーシュとは比べものにならないほどの貫禄が感じられた。
「ワルドさま……!」
 ルイズにとって、彼は幼少時の憧れの存在。
 そんな人物を前にして、彼女の胸はときめいた。
 自分が悲しんでいると、いつも優しく声をかけてくれた子爵。
 思い起こせば、先日見た夢の中にも彼が登場していた。
「久しぶりだな! ルイズ! 僕のルイズ!」
 ワルドがルイズに駆け寄り、その体を抱え上げる。
 少女の頬が朱色に染まった。
「相変わらず軽いな君は! まるで羽の様だね!」
「……お恥ずかしいですわ」
「彼らを、紹介してくれたまえ」
 ルイズを下ろしたワルドの視線がダンケとギーシュに向かう。
 憧れの人との再会で頭が真っ白だったルイズは、慌てて二人を紹介した。
「あ、あの……、ギーシュ・ド・グラモンと、使い魔のダンケです」
 ギーシュが深々と頭を下げた。
 全てのメイジにとって、魔法衛士隊の存在は尊敬の的だ。
 軍人家系のギーシュからして見れば、ワルドは理想像と言っても過言ではない。
 対するダンケはさして興味が無いのか、ギーシュから一拍遅れて軽い会釈をするに留まった。
「き、君がルイズの使い魔かい? まさか人とは思わなかったな。僕の婚約者がお世話になっているよ」
 ダンケの見えざる覇気に圧倒されているのか。
 ワルドの声は僅かに震えていた。
 おかしい、とルイズが首を傾げる。
 確かに彼女の使い魔は人を見る目がシビアだが、誰にでもケンカを売る様な真似はしなかった筈だ。
 彼がなにかしらのアクションに出たのはその全てがルイズやその周りの者に何らかの危害が加えられた、もしくは加えられそうになった時のみだった。
 少なくとも、ワルドが彼女等に危害を加えるとは到底考えられないのだが……。
「ああ……宜しく頼む……子爵」
 力量を推し量る様に、ダンケがワルドに厳しい視線を注ぐ。
 そして黒衣の青年はボソリと呟いた。
「俺の護衛も頼めると……嬉しいのだがな」
 有り得ない事を呟き、ダンケは身を翻す。
 この中でもっとも護衛の必要の無い男が発した意味深な一言。
「ぜ、善処しよう」
 ダンケの力量を見抜いたのか、答えるワルドの顔は引き攣っていた。
 その目には困惑の色が濃く見て取れる。
 使い魔の青年はただその場に立っているだけだった。
 相変わらずその視線は探る様にワルドに注がれてはいたが。
 気を取り直した子爵が口笛を吹く。
 朝もやの中から姿を見せたのは幻獣のグリフォンだった。
 鷲の頭に獅子の胴体を備えたこの獣は、その名の示す通りグリフォン隊のシンボルとなっている。
 グリフォンにひらりと跨り、ワルドがルイズを手招きする。
 少女は己が使い魔と憧れの貴族の間で視線を彷徨わせた。
「…………」
 ダンケが無言で頷く。
 行って良しという意味なのだろうが、ルイズの胸中は複雑だった。
 もしかしたら、心の奥では彼に難色を示して欲しかったのかもしれない。
 俗っぽい表現を使うのならば、ダンケが少しでも嫉妬するところを見たかったのかもしれなかった。
 ルイズにとってはワルドはよく知る人物だが、青年にとっては見知らぬ他人だ。
 彼がGOサインを出したという事はある程度ワルドを認めたという事。
 それはそれでルイズにとっては喜ばしい事なのだろうが……。
(……うーん)
 答えの出ない問いに胸中で呻りながら、ルイズはグリフォンに跨った。
 目指す先はアルビオン―――白き風の国。
 そこで彼女たちを待つのは果たしてどんな〝運命〟なのか。
 それは風だけが知っているのかもしれなかった……。

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この記事のコメント
『零の~』が更新されてる!
こんにちは、bloomです。
更新、お疲れ様です。
『零の~』が更新されていたのを見て、思わず「よっしゃ!」と声を出して喜んでしまいました。

とうとう、アルビオンへ出発。
目付きが鋭い只の平民と見るアンリエッタ(正解)に、メイジ戦に特化した伝説のルーンを持つ謎の青年と見るオスマン(誤解)。
恐らく、アンリエッタも彼らのように勘違いしていくんだろうなぁ。
それに、ダンケがワルドに向けたあの一言がどう受け止められたのか。
道中、ダンケはどんな活躍?を見せてくれるのか。
今後の展開が楽しみです。


まだまだ、暑い日が続いてます。
体調にお気を付けて。
次回の更新、楽しみにしております。


追伸
あ、そうか。
ダンケ、まだここが地球のドイツだと思ってたのか。
読むうちにこの設定忘れてました。
2008-08-17 Sun 16:03 | URL | bloom #-[ 内容変更]
これは、ワルドの方にも~闇~編がほしいところですねw

更新お待ちしてます。
2008-08-17 Sun 20:29 | URL | ナット #JalddpaA[ 内容変更]
面白いナリ・・・・・。
こやつ、未だドイツと思っておるとは・・・。
そして子爵・・・・こいつは死亡フラグを立てすぎた・・・。
もはや仲間〔奴隷〕ルートは有り得まい・・・・。
最後にルイズ・・・相変わらず妄想万歳ナリ・・・・。
2008-08-17 Sun 20:36 | URL | 危機 #EBUSheBA[ 内容変更]
ナット氏に賛成
2008-08-19 Tue 08:57 | URL | 0 #SFo5/nok[ 内容変更]
はてさて、どうなる事やら…
どうも、ベリウスです。遂にワルドが登場、果たしてダンケはワルドによって正体を暴かれるのか、それともワルドをも完全に騙すペテン師張りの偶然を起こすのか……今後の展開が非常に楽しみです。既にアンリエッタからはその正体を疑われていますが、きっとダンケ本人は無自覚なまま勘違いされていくのでしょうね。
2008-08-21 Thu 13:29 | URL | ベリウス #VSnRaRv6[ 内容変更]
ダンケ、ついにアルビオンへ。
どういった勘違いの嵐と活躍を見せてくれるのか、非常に楽しみです。
あと私もワルドの闇編が読みたいです。
2008-08-22 Fri 22:01 | URL | 夢幻の戦士 #LOLorWpQ[ 内容変更]
未だにドイツと思い込んでるダンケに乾杯。

次回後進を楽しみにしています。
2008-08-23 Sat 02:43 | URL | 五月病 #d/CpiV46[ 内容変更]
初めまして:と申します。
偶然、このサイトを見つけ読み明かした零の使い魔
……非常におもしろく夜更かししてしまいました。
これからどうなるか楽しみです。では、
2008-08-25 Mon 20:45 | URL | : #-[ 内容変更]
今度の方もおもしろく見ました.
久しぶりに入って来て見たら零の使い魔の後続作が連載されましたよ.
本当に嬉しかったです.
今後ともダンケの活躍, 期待します.
力を出してください.
2008-08-28 Thu 09:40 | URL | lonely hunter #6GgKOieI[ 内容変更]
面白すぎるんだよ(#゚Д゚)ゴルァ!!
2008-08-31 Sun 07:06 | URL | (´;ω;`)ウッ… #-[ 内容変更]
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