ネクオロでした
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零の使い魔。~聖十字の騎士~ 第五話
2008-11-16 Sun 00:09

大変な変態が出てきました。

                                                   <ダンケ>

……誓うわ。

                                                   <ルイズ>
 
 
 巨大なゴーレムの肩の上で、フーケは舌打ちした。
 炎に踊らされ、逃げ惑っているのは彼女が雇った傭兵たち。
 彼らは形勢が不利と見るや、一目散に逃げ出していく。
「ええいもう、役に立たない連中だね! せめて払った代金分は働けってんだ!」
 悪態をつき、フーケがゴーレムを操って酒場の入口にその大きな拳を叩き付ける。
 木屑が舞い、残っていたわずかな傭兵が武器を放り出して逃げ出した。
「まったく、こりゃついてく方を間違えたかもしれないね」
 あの得体の知れない使い魔がいない分、いくらか気は楽だが、それでも厄介なことに巻き込まれたには違いない。
 あの場で取れる選択肢はこれだけだったとは言え、仮面の男は相変わらず必要最低限のことしか伝えてはくれないし、態度も非協力だ。
 つくづくついてない、とフーケは自嘲気味に笑った。
「だがねぇ、こちとらにだって意地があるんだ。あたしをそこらの傭兵共と一緒にしてもらっちゃ堪ったもんじゃないからねぇ」
 睨み付けた先には、恐らくは囮として残っただろう魔法学園の生徒が三人。
 その内の二人の顔には見覚えがあった。
 あの日―――自分が例の使い魔に煮え湯を飲まされたあの日、彼と一緒にいた生徒たちだ。
「あら、誰かと思ったらあの時のおばさんじゃない。今日は前より化粧が濃いから気付かなかったわ」
 おほほほほと高笑いを響かせながら軽口を叩く赤髪の女―――キュルケの言に、フーケの顔が怒りに染まる。
 自分でも歳のことは気にしているのだ。
 それを若さ振り撒く女に言われた日には、青筋の一つや二つは簡単に浮かぶ。
 幸いにも、仮面の男には別れ際、好きにしろという命令を受けていた。
「あんまり調子に乗らないことだね、この生意気な小娘どもが!」
「おっほっほ、ごめんあそばせ。若いとね、ついついハメを外しちゃうのよ!」
「ふん。そんなこと言ってられるのも今のウチだよ! 今更命乞いしたって遅いから覚悟しな!」
 軽い舌戦の後、フーケのゴーレムが再び大きく腕を振り上げる。
 キュルケたちのいる宿屋ごと、巨兵を使って押し潰すつもりなのだ。
 それに気が付いた少女たちが魔法を唱えて応戦してくるが、硬い岩盤に守られたゴーレムはビクともしない。
 まとわりついてくる邪魔な小さなゴーレムたちを吹き飛ばし、フーケは今度こそ己の勝利を確信していた。
 ―――その時だった。
 風が舞い、彼女のゴーレムの体に無数の赤い花びらが張り付いたのは。
「ハッ、素敵なプレゼントをありがとよ! お返しにたっぷりとコイツを喰らっていきな!」
 それを意にも介さず、フーケがゴーレムに指示を出そうとする。
 しかし、それよりも早く、張り付いていたバラの花びらが突然にぬらっとした液体に変化した。
 風に乗って流れてくるのは、決して心地良いとは言えない―――だが嗅ぎ慣れた香り。
 それが油だと気付くのに、それほど長い時間はかからなかった。
(ま、まずい……!?)
 少女たちの作戦に気が付いたフーケはゴーレムから離れようとする。
 そんな彼女の耳に、キュルケの黄色い声が届いた。
「あ、ダーリン! 私たちを助けに戻って来てくれたのね!」
「う、嘘だろ!?」
 あの薄気味悪い使い魔が戻って来た!?
 反射的に立ち止まり、振り向いてしまうフーケ。
 だが彼女の見える範囲には、例の使い魔の姿はない。
 いや、そもそも黒衣の青年が戻って来られる筈がないのだ。
 何故なら、彼には現在のフーケの相棒たる仮面の男が仕掛ける手筈になっていたから。
 いくら使い魔が常識外れの強さをしていようが、こんな短時間で戻ってこられるわけがない。
 それはつまり何を意味しているのか。
「―――っ!」
 フーケが慌てて視線を戻す。
 彼女の目に飛び込んできたのは、大きな火の玉が油に塗れたゴーレムに着弾するというおぞましい光景だった。
 成す術もなく炎に包まれるゴーレム。
 その肩に乗っていたフーケは崩れ落ちるゴーレムに巻き込まれ、無残にも地面へと落下した。
 よろよろと立ち上がるものの、身に着けていたローブはところどころ破れ、美しい顔も煤で真っ黒という、ひどい有様であった。
「うふふ、随分と素敵な化粧ですこと。それだけ濃いお化粧してれば、歳だって誤魔化せるかもね。良かったじゃないの、おばさん」
 勝ち誇ったように告げるキュルケを見た瞬間、フーケの中の何かがプツリと切れた。
 般若の形相で彼女に向かって走り出す。
 余裕の表情を浮かべたまま、キュルケがフーケ目がけて杖を振るう。
 しかし、そこから飛び出したのは小さな火の玉一つだった。
 杖から少し離れたところで霧散したそれで、彼女の魔法は打ち止めだったらしい。
 もっとも、魔法が使えないのはフーケも同じだったが。
「黙って聞いてれば、さっきからおばさんおばさんうるさいねぇっ! 私はまだ二十三よ!!」
「私からすれば立派なおばさんじゃないの、よ!」
 フーケの拳とキュルケの拳がものの見事に交差する。
 両者のパンチは憎き相手の顔面に清々しいくらい炸裂していた。
 俗に言う、クロスカウンターというやつだ。
 ふらつきながらも拳を固める二人。
 一瞬の硬直のあと、再び拳を振り被って相手に向かっていくその姿勢は、メイジではなく、一流のファイターであった。
 キュルケ同様、精神力の尽きたタバサは我関せずといった様子で本を読んでいる。
 そしてギーシュは頬を僅かに染めて、女性と少女のガチバトルに見入っていた。
 別段、どちらが勝つかに神経を注いでいたわけじゃない。
 ただ単に、二人とも服が乱れていい感じだっただけだ。
 お~やら、うおっやら声を漏らしながら観戦するギーシュをチラリと横目で一瞥したタバサは、本に目線を戻して呟いた。
「バカ……ばっか」
 そんな彼女の言葉を否定できる者は、残念ながらこの場にはいないのであった。

~光~

 うひょー、たっかいなぁ。大きいなぁ。こっわいなぁ。
 桟橋とか言うからてっきり海に行くのかと思ったら、まさか大きな木を上るハメになるとは思わなかった。
 唯一の救いは、木の中身がくり貫いてあって長い螺旋階段が作られていたことか。
 木登りが苦手な俺としては、これを上るとシシャクさんに言われた時は辞退しようか真剣に迷ったものだ。
 しかし、長い階段だなぁ。
 こっちに来てから少しは運動不足が解消されたとは言え、基礎体力が同年代の女の子以下の俺としてはこの長丁場はかなりきつい。
 顔色には出てないだろうが、もう正直ヘバっていた。
 自ずと足も遅くなる。
 る~んの力に頼ろうか? いやいや、あれは使ったあとの反動がきついからなぁ。
 それでも何とか上っていると、不意に前を進んでいたルイズが振り向いた。
「ねぇ、ダンケ。やっぱりキュルケたちが心配?」
「……まあ、な」
 そりゃそうだろう。
 歳若い少女たち(+α)を怖い傭兵部隊の皆さんの前に置いてきてしまったのだから。
 いくら彼女たちが強いとは言え、やっぱり心配だ。
 いや、まあ俺が今一番心配しなくちゃいけないのは、自分の体力だったりするわけだけど。
「大丈夫よ、キュルケたちは。口にするのはちょっと癪だけど、キュルケもタバサも立派なメイジだもん。だから絶対に大丈夫」
 ルイズは自分に言い聞かせるようにそう言った。
 ああ、そうか。
 ルイズにとっては二人とも大事な友達だもんな。
 不安になる気持ちは痛いほど判る。
 突然この話を振って来たのも、不安な気持ちを少しでも和らげたいと思ったからだろう。
 ……お。
 何だか今回はうまくルイズの気持ちを察することが出来た気がするぞ。
 いつもはどうも擦れ違いが多いような気もするけど、今回はバッチリだと思う。
 よし、俺も使い魔として、彼女の不安を解消できるような頼れる言葉を口にする……のは無理だとしても、せめて笑顔だけは見せよう。
 ―――こ、こうかっ!?
 普段使わない顔の筋肉を総動員して、なんとか笑顔っぽいものを作れるよう努力する。
 俺の努力が報われたのか、ルイズは若干寂しそうながらも笑みを見せてくれた。
 そのあとに呟いた「隠さなくてもいいのに」という言葉は意味不明だったが。
 ……俺、何か隠してたかなぁ?
 胸中で首を傾げながら階段を昇っていると、後ろから足音が追いかけてくるのに気が付いた。
 何事かと思って振り向けば、黒い影が俺の頭上を通り過ぎていく。
 影は俺を飛び越し、前にいたルイズの後ろに立った。
 えーっと、新婦の親戚の方でしょうか?
 顔に白いお面を付けているのは、やっぱり宗教とか関わっているからかなぁ。
 日本にもひょっとこの面とかあるし、そういったものと似たような扱いなのだろうが。
 まさか結婚式を仮面舞踏会と一緒にやるわけがないし……ワケが判らん。
 ついでに言わせてもらえば、俺の思考も何だかおかしい。
 いやおかしいのはいつもかもしれないが、今日は輪をかけて変だ。
 階段昇りすぎたせいで、頭に酸素がうまく回っていないからかもしれない。
 そう言えば、似た様な格好をした人をどこかで見た様な……いいや気のせいだな。
 いくら何でもあんな奇抜なファッションをした人を忘れるわけがない。
 仮にそんな人物がいるのだとすれば、どれだけ記憶力が悪いのだろうか。笑っちまうぜ。
 お面を付けた人は、ルイズの体を後ろからひょいと担ぎ上げた。
 きゃあと悲鳴をあげるルイズ。
 彼女は男の肩の上でバタバタと暴れている。
 そりゃあ、ビックリするわなぁ。
 ……で、一体この人は何をしたいんだろう?
 疲れたルイズを気遣って、上まで運んでくれようとしているのだろうか。
 だとしたら、是非とも俺も一緒に連れて行ってほしいものだ。
 ところが、そのまま上に連れて行ってあげるのかと思いきや、何故か俺の方に―――つまり階段を下りようとしている。
 ……なるほど、そういうわけか。
 やっと事情を把握した俺は、背からデルフを引き抜いた。
 結婚式前のドタバタはドラマで何度かお目にしたが、まさか実際に見ることになろうとは。
 要はこういうことだな。
 ルイズに片思いしていたこのお面男はどこかで彼女の結婚を知り、自分以外の男と一緒になるのは許せないと誘拐することに決めた、と。
 このあともドラマとかの展開と同じならば、報わぬ恋ならばせめて来世で一緒になろうとか言い出して、心中を強要するに違いない。
 先を行っているシシャクさんはまだ気付いていないらしいし、怖いけど俺が何とかするしかないだろう。
 なるべく穏便に済ませられるように、努めて冷静に声をかける。
「おとなしく……ルイズを離せ」
 うわぁ、相変わらず俺の言葉はなんて好戦的なんでしょう。
 本当は「ルイズを離して下さい」と言ったつもりなのに。
「…………」
 そして、お面男は無言のまま。
 男の肩の上でルイズは足をバタバタさせて暴れていた。
 ……まずい、俺の角度からじゃもろに見えてしまう。
 目を逸らそうか……いや、それじゃルイズを助けることが出来ないし。
 迷っていると、いつの間にかお面男が杖を握っていた。
 それをクルクルと回し、何やらモゴモゴと呟いている。
「……魔法か」
 ドイツ生活もだいぶ板についてきた俺だ、そのくらいは判る。
 だけど、一体どんな魔法という名の科学が飛び出すかがさっぱり判らない。
 痛いのは嫌だが……おそらく痛いのが飛んで来るに違いない。
 ならば先手必勝だと、俺は投げ付ける為に腰から短刀を引き抜いた。
 パンには敗北した一品だが、人間相手には強いぞこれは。
 ル~ンが輝く。
 この力が発動している今ならば、ルイズに当たらないように短刀を投げることくらい朝飯前なのだ。
 そんじゃいくぞ、せーの。
 ―――ギシッ。
 その時、俺の足元が嫌な音を立てた。
 何事かと下を向けば、明らかに頼りにならない木製の階段―――そのスキマから微かに、下の街の明かりが顔を覗かせている。
 背筋を冷たい何かが滑り落ちていった。
 ……お、俺、ダメなんだよ、こういうのは。
 高いとかはある程度大丈夫だけど、頼りない足場とかはダメだ。
 今まではガムシャラに上っていたから気付かなかったけど、こいつはダメだ!
 恐怖で手が震え、すっぽ抜けた短刀は虚しく俺とお面男の中間に刺さった。
 や、やばい、普通に足が震える。
 どうしよう、短刀を拾おうか……い、いやダメだ。足が竦んでうまく動けない!?
「相棒、構えろ!」
「……っ!」
 デルフの切羽詰った声に、反射的に剣を盾のようにしてかざす。
 身を守る動作に関してだけ言わせてもらえば、素人の域を脱しているだろう。
 空気がビリビリと震え、バチンという音がした。
 その直後、俺は後方に吹き飛んでいた。
 階段を転げ落ち、途中でデルフが運良く刺さってなんとか落下だけは免れる。
 いってぇぇぇぇ!? 特に腕が痛い、腕が!?
 未だかつて味わったことのない激痛。
 腕を丸ごと液体窒素の中に突っ込んだ様な……そんな形容し難い痛み。
 ふらつく足取りで立ち上がり、デルフを握っていた左腕を見つめる。
 ……ぎゃーっ!?
 思わずそんな声が胸中で零れた。
 左腕―――手から手首にかけて酷い火傷を負っている。
 もうヤカンのお湯をかぶったとかそんなレベルじゃない、明らかに病院に即行レベルの火傷だった……いてて。
 デルフを盾にしてこれかよ、直撃していたら死んでたかもしれない。
 そう考えると、さっきとは別の感情で―――あ、同じ〝怖い〟には違いないが、兎も角再び足が竦んでしまった。
 平和慣れしている日本生まれの俺だ、仕方ないと言えば仕方ないが。
「今のは確か、『ライトニング・クラウド』。風系統の強力な呪文だぜ。あいつ、どうやらかなりの使い手らしいな」
「……確かにな」
 結婚式前の新婦を攫うような輩には、まったく過ぎた力だ。
 高い技術はより良い世界を築く為だけに使ってくれという話だ。
 よりにもよって新婦を誘拐しようとした挙句、民間人に危害を加えるとは許し難い悪行である。
 特に民間人の~件が許せん。
「奴さん、焦って術がまだ不安定なのに発動させやがった。相棒の怪我がその程度で済んだのはそのおかげだろーよ……ん? ちょっと待て。今なにかこう閃くようなものがあった気が……いや、気のせいだな。気にすんな相棒」
 ……マジかよ、あれでまだ不完全とか。
 痛みを我慢して階段を再び上り、ルイズのところまで戻る。
 生来の痛み耐性が無ければショック死していたかもしれない。
 あのお面男に攫われていないかと心配だったが、どうやら杞憂で終わってくれたらしい。
 男の姿は消え、代わりにシシャクさんがルイズの肩を抱いて安心させるように声をかけていた。
「良かった、君も無事だったか」
「……ああ、何とか……な」
 無事じゃないが、俺だって男の子だ。
 これくらい意地を張りたい時だってある。
 ……いやもう、すごい痛いけどさ。
 シシャクさんが火傷を負った俺の腕を確かめている。
「しかし腕だけで済んで良かった。……ほう、この剣が魔法の威力を和らげたらしいな。よくわからんが、金属ではないのか?」
「知らん。忘れた」
「インテリジェンスソードか。珍しい代物だな。……だが、いくらその剣が和らげたにしても、雷撃の呪文を受けたにしては傷が浅過ぎる気もするが……」
 なにやらシシャクさんが考え込んでいる。
 考えるのは自由だけど、さっさと俺の手を離してほしい。
 手袋が傷に触ってやたらと痛いんだ。
 胸中でそう訴えかけていると、ルイズが変な形の金属の塊を持って来た。
 えっ……なにそれ? 俺のじゃないよ?
「ダンケ、これ……貴方の剣じゃない?」
「…………」
 ……あ。
 よく見れば、確かに柄が俺の持っていた短刀と同じだ。
 つまりこれは、俺が投げるのに失敗したあの短刀ということになる。
 だけど、どうしてこれがドロドロになっているんだろうか?
 局所的な酸性雨―――なわけがないし。
「……なるほど。これを避雷針代わりにして雷撃の直撃を防いだわけか。……君に対する評価を改めねばならないな。平民にしておくのが勿体無いくらいの戦術眼だよ」
 と、金属の塊を手にしてシシャクさん。
 俺の手を離してくれたのはありがたいが、言っていることは相変わらず妙におかしい。
 一体なにさ、その戦術眼って。
 だが剣がドロドロになった理由は判った。
 恐らくは、この剣が雷の威力を軽減させてくれたらしいってことが。
「ただの……偶然だ」
「はっは、その謙虚な心構えも気に入った。この任務が成功した暁には、是非とも君とはサシで語り合いたいものだな!」
 シシャクさんに背をバシバシ叩かれる。
 この人は怪我人に対する慈悲の心とか持ち合わせてはいないのか。
 悪い人じゃないとは思うが、少しは空気を読んでほしいと切に願う。
 それにしても、折角タバサに買ってもらった剣なのに悪いことしてしまったなぁ。
 いや、むしろ感謝するべきか。
 これが無かったら俺は下手したら死んでたわけだし。
 タバサに会ったら、礼と感謝の言葉を述べておくことにしよう。
 ルイズから受け取った金属の塊をベルトに挟む。
「ダンケ、大丈夫なの……?」
 目に涙を一杯に浮かべながら尋ねてくるルイズ。
 ……うぐぐ、ホントはものすごく痛いが、それを言ってしまえばルイズが気にしてしまうに違いない。
 大事な結婚式を間近に控えた子に、心労を負わせるわけにはいかない。
「なに……ただの掠り傷だ。放っておけばじきに……治る」
「ホント? ホントにホントなの?」
「ああ……気にするな」
 ルイズの頭を無事な右手で撫で、先を急ごうと言う。
 正直なところ、ジッとしていると痛みをモロに感じてしまって我慢ならないのである。
 デルフを鞘に戻すと、俺達は再び階段を上り始めた。
 本当にもう、ドイツの結婚式は命がけだ。

 ~闇~

 キュルケたちを別れ、ルイズは桟橋へと向かっていた。
 級友らのことは気掛かりだったが、彼女たちの実力はよく知っている。
 例え相手が土くれだとしてもそうそう遅れを取ることは無いだろう。
 そう、ルイズは自分に言い聞かせた。
 色々なことがあって―――バルコニーでダンケに告げられた言葉も影響し、彼女は混乱していた。
 しかし状況は少女に猶予を与えてはくれない。
 悩む時間もなく、ルイズは一心不乱に足を動かした。
 長い階段を上ると丘の上に出た。
 巨大な樹が四方八方に枝を伸ばしている。
 その枝に樹の実の様にぶら下がっているのは船であった。
 枯れた大樹の中を穿ち、造られた巨大な螺旋階段。
 そこを、ワルドを先頭にしてルイズたちは上っていく。
「…………」
 後方に視線を投げかけるルイズ。
 そこでは黙々と階段を上る使い魔の姿があった。
 いつもと同じ―――いやいつも以上にその表情は硬い。
 それをキュルケたちの身を案じているのだろうと捉えたルイズは、気付けば尋ねていた。
「ねぇ、ダンケ。やっぱりキュルケたちが心配?」
「……まあ、な」
「大丈夫よ、キュルケたちは。口にするのはちょっと癪だけど、キュルケもタバサも立派なメイジだもん。だから絶対に大丈夫」
 ルイズの言葉に同意する様にダンケが頷く。
 しかし、彼と毎日顔を合わせている少女は気が付いていた。
 ダンケ自身もそれが判っているのか、安心させる様に笑みを浮かべてみせる。
 そのぎこちない笑みに、ルイズは胸中で苦笑した。
 こちらを不安がらせない様にそうしたのだろうが、やはりルイズからすればバレバレだ。
(そうよね、アンタだって心配だよね……。もぅ、心配なのは私も同じなんだから、そんなに無理して隠さなくてもいいのに)
 何だかんだ言いつつキュルケたちとは長い付き合いだ。
 普段はいがみ合っているが、今回は自分たちの囮になって危険な地に残ってくれた。
 もはやアンリエッタ姫の為だけではない、協力してくれた彼女たちの為にも何としてもこの任務だけは成功させなくては。
 ルイズが一人、決意を固めていると、唐突に背後に人の気配を感じた。
 ダンケかと思い振り返る。
 だが、そこに居たのは彼では無かった。
「―――っ!?」
 声のない悲鳴を漏らすルイズ。
 そこにいたのは闇夜に浮かぶ白い仮面。
 それが人だと気付くのに、ルイズはしばしの時間を要した。
 これが誰なのだとか、どうして自分の後ろにいるのだとかいう疑問が抱く前に、ひょいと体を担ぎ上げられる。
 ルイズはそこで初めて、思い出した様に悲鳴をあげた。
 樽か何かの様に抱えられ、ルイズが足をバタバタさせながら叫ぶ。
「ちょ、バカ! アンタどこ触ってんのよ!? 離しなさいってば!」
「おとなしく……ルイズを離せ」
「…………」
 デルフを引き抜いたダンケが静かに―――冷たい声音で告げる。
 対する男は無言のまま杖を引き抜いた。
 対峙する両者。
 男の肩に乗せられているルイズの耳には、男が低く呪文を詠唱している声が届いていた。
 ダンケに警告しようとし、それよりも早く黒衣の青年は呟いた。
「……魔法か」
 呟き、腰から短刀を抜く青年。
 そうこうしている間にも、男の呪文は完成へと近付いていた。
 突如、カクンとダンケの体が沈む。
 仮面の男の体が緊張する様に震えたのが、ルイズには判った。
 男の心の揺らぎに反映されたのか、安定していた力に波が生じる。
 その時なにを思ったのか、ダンケが短刀を地面に向かって投擲した。
 直後、発動する仮面の男の呪文―――『ライトニング・クラウド』。
 風系統の強力なその呪文は、デルフを構えたダンケの体をいとも容易く弾き飛ばした。
「ダンケ―――っ!?」
 ゴロゴロと階段を転げ落ちる己が使い魔を見て、ルイズが悲鳴をあげる。
 沈黙を保ったまま、杖をしまう仮面の男。
 ―――ゴオッ。
 刹那、風の塊が男の体を吹き飛ばした。
 中空に投げ出されたルイズの体を、たくましい腕が抱き止める。
 先頭を行っていたワルドが異変に気付き、戻ってきたのだ。
「ワルド……!」
「すまない、ルイズ。気付くのが遅れてしまった」
 二発目のエア・ハンマーを受けた仮面の男が、螺旋階段の中央から落下していく。
「ダンケ!? ワルド、ダンケが……ダンケが……っ!」
 青年の名を呼ぶルイズの顔は涙でくしゃくしゃだった。
 ここまで取り乱した少女の姿を見た事がないワルドは、思わず呆気に取られてしまう。
 その時、階下から靴音が響いた。
 フラフラとした足取りながらもダンケが自分の足で階段を上ってきたのだ。
「良かった、君も無事だったか」
「……ああ、何とか……な」
 答えるダンケは満身創痍といった有様だった。
 階段から落ちた際に打ったのか、頭からは血が流れている。
 なにより酷いのは魔法を受けた左腕だ。
 火傷を負ったそこは、皮膚が赤く腫れあがってしまっている。
「しかし腕だけで済んで良かった。……ほう、この剣が魔法の威力を和らげたらしいな。よくわからんが、金属ではないのか?」
「知らん。忘れた」
「インテリジェンスソードか。珍しい代物だな。……だが、いくらその剣が和らげたにしても、雷撃の呪文を受けたにしては傷が浅過ぎる気もするが……」
 なにかを考え込む様に、顎に手をあてるワルド。
 いつまでも泣いてる場合じゃない、自分は大切な任務の途中なのだ。
 手の甲で涙を拭うと、ルイズは足元に落ちていた物体に気付き、拾い上げた。
 黒こげになり、ほとんど原形を留めていないがこれは……。
「ダンケ、これ……あなたの剣じゃない?」
「…………」
 差し出すと、いつもの無表情で頷いてダンケはそれをベルトにねじ込んだ。
 鉄の塊である刀がドロドロになるほどの一撃。
 それをいくらデルフ越しとは言え、生身で受けたのだ。
 ダンケのダメージは相当なものだろう。
 だが、ルイズの使い魔は決してそれを表に出そうとはしない。
 出せば、少女が心配し傷付くのがわかっているからだ。
 どれだけ辛かろうと苦しかろうと、この心優しい使い魔は自分の胸一つに収めようとする。
 それが……ルイズにはたまらなく悲しかった。
 想ってくれるのは嬉しい。
 だけど、それでダンケが傷付くのは嫌……。
 ルイズの頬を、涙が再び流れて行く。
「……なるほど。これを避雷針代わりにして雷撃の直撃を防いだわけか。……君に対する評価を改めねばならないな。平民にしておくのが勿体無いくらいの戦術眼だよ」
 ワルドが感心した様になにか言っているが、それがルイズの耳に届くことはない。
 少女はただ、守られるしかない自分の弱さを嘆いていた。
(もっと私が強かったら……。ううん、強くなくてもいい。せめて自分の身くらい守れたら、魔法が使えたら……! こんなにダンケが痛い想いをしなくても良かったかもしれないのに……)
 そう思うと、ルイズは自分自身がとても歯痒く感じた。
「ダンケ、大丈夫なの……?」
 大丈夫なわけがない。
 だけど、そう尋ねてしまう。
 〝ゼロ〟の自分に出来ることはそれしかないのだから。
「なに……ただの掠り傷だ。放っておけばじきに……治る」
 嘘だ、とルイズは胸中で叫んだ。
 そんな嘘、今時子供だって吐かない。
 彼の負った傷は素人目から見ても重傷なのだ。
 地面を転げ回って痛みを訴えてもおかしくない、それだけ深い傷なのだ。
 この青年は、一体どれだけ強い心を持っているのだろう。
「ホント? ホントにホントなの?」
「ああ……気にするな」
 安心させる様に、ダンケがルイズの頭を撫でる。
 大きくて温かいその手の平に撫でられていると、一時とは言えルイズは自分の悩みが氷の様に溶けていく気さえした。
 それが悔しくて、苦しくてルイズは瞳を硬く閉じた。
 その拍子に堪え切れなかった涙の粒が頬を伝って流れ落ちていく。
 嫌だわ、子供みたいに泣いてばかり、心の片隅で冷静な自分がそう呟いた。
 手を離し、先に行こうとダンケは言う。
 一刻も早く治療を受けた方がいいというのに、この使い魔はルイズの受けた任務を優先すると言ったのだ。
 どこまで、どこまで主想いの使い魔なのだろうか。
 どこまで、どこまで強い意思を持った青年なのだろうか。
 少女の迷いを振り切る様に先導するダンケの背を見つめながら、ルイズは小さな両手をギュッと握った。
 涙が零れる。
 それを服の袖で乱暴に拭うと、ルイズはキッと前を見据えた。
 ―――強くなろう。
 もう魔法が使えなくたってもいい、バカにされてもいい。
 それでもせめて心だけは―――心だけは、前を行くこの使い魔に釣り合う様に、誇れる様に強くあろう。
 ―――共に居られるのが例え、あと僅かな期間だけだったとしても。
 そうルイズは心に誓うのだった。

別窓 | 零の使い魔。 ~聖十字の騎士~ | コメント:9 | トラックバック:0
<<リリ勘。その七。 | 後悔すべき毎日 | リリカル勘違い。略してリリ勘。>>
この記事のコメント
次回も期待してますよw^^w
ファイトです!
2008-11-16 Sun 01:38 | URL | w #-[ 内容変更]
久しぶりに来てみたら…

何かスンゴイ進んでる~~!!(@_@)
相変わらずの勘違いっぷりも健在ですか~
これからも楽しみにしてますね~
2008-11-16 Sun 01:50 | URL | かみかみ #5kcZP7pM[ 内容変更]
あぁ~泣ける~勘違いは続くよ。どこまでも~
<一瞬の硬直のあと、再び拳を振り被って相手に向かっていくその姿勢は、メイジではなく、一流のファイターであった。

これがハルケギニア最初の『キャットファイト』が誕生した瞬間だった。

<ギーシュは頬を僅かに染めて、女性と少女のガチバトルに見入っていた。

『ギーシュ・ド・グラモン』
このことでなにかに目覚め、後の世にキャットファイト、チラリズム、ロリコンなどの用語を創り上げた。トリステインをハルケギニア一のオタク国にした名将として長く歴史にその名を残した。

……ってな感じに妄想しちゃいました(笑)

しかし、相変わらずお互い勘違いしているな。だが、それがダンケの良さでありアホさである。
こんなダンケがウェールズに会ったらどうなるのか、今から気になってます。
次回も楽しみにしています。では、
2008-11-16 Sun 01:54 | URL | #-[ 内容変更]
最初の誓うわで、いきなり結婚式かと思いました。
それにしても、ルイズが可愛いぜ!

勘違いは難しいですね。
自分の話に取り入れようかと思いましたが、いい台詞が出てこない。
よく喋る設定のキャラは向きませんわ、やっぱり。

それでは、お体に気をつけて。
2008-11-16 Sun 12:10 | URL | ルミナス #-[ 内容変更]
ダンケはどんだけ強運なのやら…。
どうも、ベリウスです。ダンケ、偶然ナイフを落とすことで何とか命びろい…。ワルドさえ勘違いする程の運の良さには毎回驚かされますね。そしてフーケ対キュルケ、女の戦いが勃発。この話題での女の人同士の戦いは本当に怖いです…。ギーシュ、この場にモンモランシーが居なくて良かったな。あの反応を聞かれてたら間違いなくボコボコにされてただろうな。ルイズはダンケの為に成長する決意を固めてるし、ダンケはルイズの心境変化に大きく貢献してますね。こりゃ次回の更新も楽しみですね。
2008-11-18 Tue 23:35 | URL | ベリウス #VSnRaRv6[ 内容変更]
なるほど避雷針か・・・・その発想はなかった。
2008-11-19 Wed 07:26 | URL | mu? #-[ 内容変更]
ダンケが可愛く見えてきた私は末期でしょうか?
楽しく読ませて貰いました。
う~ん、相変わらずダンケは良い味出してますね。
でも笑顔一つであんな苦労するダンケに涙が(笑。
もしこれをワルドに向けたら狂った微笑みに映るのでしょうか? ……簡単に想像できるな(笑。

次回も期待しています。
2008-11-22 Sat 19:25 | URL | 夢幻の戦士 #LOLorWpQ[ 内容変更]
面白いです本当に。
続きが早くみたいです。
2008-12-08 Mon 16:33 | URL | #OARS9n6I[ 内容変更]
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2012-09-15 Sat 19:16 | | #[ 内容変更]
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