ネクオロでした
スポンサーサイト
-------- -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
別窓 | スポンサー広告
零の使い魔。 ~聖十字の騎士~ 【最終話】
2009-03-21 Sat 14:24
よし、次こそはガイドマップを買ってから来る―――え、これで終わりなの?

                                                   <ダンケ>

み、見られた!? 見られてたの!?

                                                   <ルイズ>

……みーちゃったーみーちゃったー。

                                                   <タバサ>

キュルケの冒険とか出ないかしら……?

                                                  <キュルケ>
 
<闇>

―――ザンッ。
 通路の両端に並ぶ様にして立っていた甲冑、その一体が突如として動き出し、ワルド目がけて剣を振るう。
 咄嗟に杖でそれを受け止めるワルドだったが、大きく後方に弾き飛ばされた。
 しかし敵も然るもの。
 飛び退きながらも詠唱を完成させ、突風が甲冑の兜を弾き飛ばす。
 現れたのは闇を連想させる黒い髪。
 短くも長くもないそれは、静かに風の残滓に乗って揺れていた。
 その間から、刺す様な強い眼光が零れた。
「―――ガンダールヴ!」
「―――ダンケ!」
 二人の声が重なる。
 前者は恨みのこもった、後者は歓喜の声。
 肩越しにチラリと主の様子を窺うと、ダンケは小さく頷いた。
 再び顔を前に戻し、鞘に刺していたデルフリンガーを抜き放つ。
 今のダンケは二刀を構えていた。
 一つはインテリジェンスソードのデルフリンガー、もう一つは甲冑が元々備えていたロングソードだ。
 ワルドが忌々しげにダンケを睨みながら、吐き捨てる様に言った。
「くそっ、貴様の気配が完全に消えていたから油断していた。……そうだ、全ては貴様のせいだガンダールヴ。貴様さえいなければ、ルイズは僕のものになっていた。本当に貴様だけは、憎憎しい相手だよ」
「フラれた八つ当たりか……? 見苦しいな……子爵」
 ダンケの挑発に、ワルドの顔が怒りに歪むのが見て取れた。
 ルイズはそっと身を起こすと、青年の邪魔にならない位置に体を移動させる。
 彼の戦いに自分の存在は足手まとい以外の何者でもないことぐらい、少女にだって判る。
 それを悔しいと思うのも忘れ、ルイズはただ自分の胸に温かな気持ちで満たされているのを感じていた。
 ダンケは命令に背いてまで、ルイズのことを見守っていてくれたのだ。
 戦いを止めろと言えば自身がどれだけボロボロにされようが抵抗一つしないあの青年が、初めて命令に背いてまで自分を陰ながら見守っていてくれたのだ。
(ダンケ……)
 ルイズは甲冑姿の青年の背を見つめた。
 一度相対した際、彼はワルドに敗北を喫している。
 だと言うのに、ルイズの胸に不思議と不安は感じられなかった。
 あの時とは明らかに違う、なにか覇気の様なものが青年から感じられる気がした。
「いいだろう、ガンダールヴ。貴様に私の本気を見せてやろう」
 そう言って、ワルドが呪文を詠唱した。
 風の偏在魔法。
 呪文が完成した時、本体とは別に更に四体のワルドが存在していた。
 そう、これは己の分身を生み出す魔法だったのである。
 その内の一体が白い仮面を顔に付けた。
 それはまさしく、桟橋でダンケを襲った男の仮面だった。
 なんと、あの仮面の男の正体もワルドだったのである。
 計五体のワルドが一斉にダンケへと迫る。
 ウェールズの胸を貫いた魔法、エア・ニードルで青白く光る杖が、今度はダンケの命を奪わんと四方から突き出される。
 それを青年は二本の剣を己の腕の様に使い、辛うじて防いでいた。
 刺突をデルフの腹で受け止め、薙ぎ払う様に放たれた一撃を長剣の切っ先で逸らす。
 自身が優勢だと察しているのか、五体のワルドの顔には揃って愉悦の笑みが浮かんでいた。
「どうしたガンダールヴ。もっと私を楽しませてくれないか? これではあまりに張り合いがない」
「…………」
 ワルドの問いにダンケは答えない。
 二人の応酬を固唾を呑んで見守りながら、ルイズはダンケの様子がおかしいと感じ始めていた。
 いつもの様な動きのキレが感じられない、そんな気がするのだ。
 なにか動きが制限されている様な、見えない足枷をかけられている様な、そんな感じ。
 今になって思い返せば、二人が模擬戦をした時からそうだった。
(なにか……なにか理由があるの……?)
 ルイズは懸命にあの時の様子を思い出そうとする。
 そうしている間にも二人の死闘は続いていた。
 距離を取った二人のワルドが呪文の詠唱を開始する。
 それを防ごうにも、残る三人のワルドが邪魔をして青年は身動きが取れなかった。
 ―――ウィンド・ブレイク。
 完成した呪文がダンケを吹き飛ばさんと迫る。
 残る三体の相手をしていたダンケに、それを避ける余裕はなかった。
 ルイズがハッと息を呑む。
 その時、デルフが思い出した様に叫んだ。
「そうだった、そうだったよ相棒! ちくしょう、こうしちゃいられねぇっ!」
 デルフの刀身が光り出す。
 輝きが収まった時、錆びてボロボロだったはずの大剣は白銀に輝く刀身を持つ見事な剣へと変貌していた。
「うっしゃ、俺を構えな相棒!」
 大剣の言葉に小さく頷き、ダンケがデルフリンガーを構える。
 剣一つで風の魔法を防げるわけもない。
 勝利を確信したワルドたちがほくそ笑むが、しかしその笑みは次の瞬間に凍り付いた。
 ダンケを吹き飛ばすと思われた突風は全て、大剣によって吸収されていたからだ。
「スクウェアのメイジだろうがなんだろうが、てめぇのちゃちな魔法は俺様が全部吸い込んでやるぜ。このガンダールヴの左腕、デルフリンガー様がよ。さあ、相棒は心置きなくあいつをぶった切ってやんな!」
(心置きなく……?)
 デルフの言葉にルイズの中の何かが反応する。
 心置きなく、そう大剣は言った。
 そうだ思い出せ、ギーシュとの決闘の際、彼女の使い魔が実力を示す―――そう、心置きなく戦うのになにが必要だったかを。
(そうよ―――そうだわ)
 ルイズは思い出した。
 ワルドとの模擬戦の際、彼女はダンケにこう言っていた。
 ―――〝ダンケ、バカなことはやめなさい!〟。
 そうだ、確かに自分はそう言った。
 タバサに諭されて気が付いたはずなのに、いつの間にか忘れてしまっていた大事なこと。
 もし……もしもだ。
 あの時言った言葉を頑なに守り、それが今尚彼の足枷となっているのだとしたら……。
 そして今この時、その足枷を砕く自分の言葉を待っているのだとしたら。
 過去のあやまちを悔やむより嘆くより、ルイズには真っ先にすべきことがあった。
 身を隠していた長椅子の陰から立ち上がり、呪文を唱える。
 完成したファイアーボールは相変わらず爆発してしまったが、それでも油断していた偏在の一体を消滅させることが出来た。
 その事実に驚くことすら忘れ、ルイズは口を開く。
 それは……彼に力を発揮させる主の号令。
「―――ダンケっ! その……その裏切り者を、打ち倒しなさいっ!」
 悩むのは一瞬、ワルドが裏切り者なのは覆しようのない事実だ。
 確かに彼は憧れの人物だった。
 だがしかし大丈夫だ、自分には―――私にはまだ頼れる人がいる!
 そして次の瞬間。
 ルイズに狙いを定めた偏在の一体が、今までの苦戦が嘘の様にダンケによって切り伏せられた。
「な、なんだと……!?」
 驚きに目を見開くワルドらを尻目に、ダンケは―――楔を解き放たれた最強の使い魔は二刀を構える。
 交差した剣が十字を形作り、接触した鋼の刃が火花を散らした。
 その構えは奇しくもルイズが夢で見たものと同じもの。
 青年が始めて見せる、戦いの構え。
 そしてその顔には―――ハッキリと怒りの色が現われていた。
 鋭い眼光がワルドを威圧する。
 気付かぬうちに凄腕のメイジであるはずの彼らが、青年から距離を取っていた。
 違う、今まで相手にしていた男とは次元が違う。
 ドットだったメイジがいきなりスクウェアになった様な、そんな威圧感が伝説の力を借りただけの平民から発せられていた。
「―――AMEN」
 ダンケの口から零れたのは異国の言葉であった。
 ルイズに当然ながらその意味は判らない。
 ただ、それを聞いた瞬間、背筋に刃を押し付けられている様な冷たい感覚が体を駆け巡った。
 ダンケが駆ける。
 それを迎撃しようと一体の偏在が迫るが、交差した瞬間に呆気なく切り裂かれて消滅した。
 強い―――圧倒的に強いっ!
 白銀の十字を押し出す様にしてダンケが再び疾走する。
 刹那、青年の体がグンと沈みこんだ。
一見すると足元の瓦礫に躓いてしまったかの様な―――そんな動き。
 思わずルイズが息を呑むが、すぐにその行動が必要不可欠だったことを知った。
 先ほどの偏在に隠れる様にして接近していた一体、それがエア・カッターを放ったのだ。
 ダンケがあのまま突撃していたならば、彼の首は風の刃によって宙を舞っていただろう。
 それを後退せずに避ける為に、青年はあのような行動を取ったのだった。
 起き上がり様にデルフを一閃、たったそれだけの動作で最後の偏在は盾にした杖ごと切り裂かれた。
「バ―――バカ……なっ!?」
 詠唱直後の無防備な瞬間を狙われた偏在の一体が、驚きに目を見開きながら消えていく。
 残るは最後の一体―――本体のみ。
 数メイルの距離を置き、両者が対峙する。
 キンッと金属音を響かせ、ダンケの交差した二本の剣が火花を散らした。
 ―――十字剣。
 それが素性判らぬ謎の使い魔・ダンケの構え。
 ワルドが頭を振る。
 その顔には自嘲的な笑みが浮かんでいた。
「クッ―――ハハハッ、……そうか、そうかっ! 俺はまんまと貴様の掌の上で踊らされていたわけかっ!! だがな、だがなガンダールヴ。全て貴様の思い通りになどさせんぞ。貴様だけは、貴様の首だけは俺がもらう!」
 ワルドの杖が青白く光る。
 全てを貫く殺意の刃が、命を奪わんとダンケに迫る。
 閃光の二つ名を持つだけあってワルドの動きは風の様に速かった。
 ―――だがしかし。
 その二段階ほど、ダンケの動きは速かった。
 金属がへし折れる音と共に、魔法衛士隊隊長の杖が虚空を舞う。
 半ばで絶たれたそれを、呆然とワルドは見つめた。
「いいぞ―――いいぞ、俺のガンダールヴ! そうさ、そうやって心を震わせて力を溜めるんだ! 怒り! 悲しみ! 愛! 喜び! なんだっていい! その想いを! このバカ野郎に叩き込んでやれ!!」
「うぉぉぉぉぉっ!」
 ダンケの口から獣の様な咆哮が飛び出した。
 勝負は一瞬。
 ルイズが瞬き一つする間に、ダンケはワルドと擦れ違い、その背後で片膝をついていた。
 ゆっくりと十字にしていた二本の剣を解き、教会の床に突き立てる。
 次の瞬間、斬られたことをようやく思い出した様に、ワルドの胸から鮮血が舞った。
 更に一拍遅れて、その左腕―――肘から下が床に転がる。
 しかし……しかしワルドは倒れなかった。
 口許から血を滲ませ、グリフォンの素晴らしい刺繍の施されたマントはところどころ切り裂かれ。
 胸と失った左腕から大量の血を流しながらもそれでもまだ、裏切りの子爵はそこに立っていた。
 彼を支えているのはもはや気力だけなのだろう、顔は青白くその足は小刻みに震えている。
「さ……さすがだな、ガンダールヴ。だがこの勝負、俺の勝ちだ……。聞こえるだろう? 馬の蹄、竜の羽音が! 愚かな主人共々、ここで灰になるがいいっ!」
「子爵……そろそろ帰ったらどうだ? もう気は済んだだろう?」
 勝敗は決した、お前にはもう何の興味もない。
 言外にそういう意味を内包した言葉。
「チッ……」
 忌々しげに舌打ちをし、ワルドは無事な右手を懐に突っ込んだ。
 取り出した小瓶を床に叩き付ける。
 煙が周囲を覆い、それが晴れる頃にはワルドの姿はどこにもなかった。
「ダンケ!」
 ルイズは急いでダンケに駆け寄った。
 走った勢いをそのままに、青年の胸に飛び込んでいく。
 もはや偽る必要のない、本心から出た行動だった。
 ルイズがダンケの足枷を外した時、同時に少女の心を縛り付けていた身分やプライドといった枷も弾け飛んだのだ。
「バカ! バカバカバカバカっ! いるならさっさと出て来なさいよ! 死ぬかと思ったじゃない。怖かったんだからっ!!」
 抱き付いたまま、ぽかぽかとダンケの胸を叩くルイズ。
 少女の使い魔はその様を苦笑しながら―――しかし安心した様に見つめていた。
「和んでいるとこ悪いが、どうするね? あの貴族の言うことが本当なら、ここにもうじき敵が攻めてくるってこった。それも大量にな」
「…………」
「おいおい、親の仇でも見る様な目で睨むなって。かわいい顔が―――わ、悪かった、俺様が悪かったからその石を下ろしてくれ!」
 刀身を叩き折ろうと拳より少し大きな石を構えるルイズと、それを必死になって止めるデルフリンガー。
 ふと、散歩に行く様な足取りでダンケが教会の扉に向かって歩き出した。
 その手には彼が今着込んでいる鎧に付いていたロングソードが相変わらず握られている。
 それはワルドとの一戦でかなり磨耗したらしく、刃こぼれが目立ち始めていた。
「ダ、ダンケ、どこ行くの!? まさか一人で貴族派をやっつけようって言うんじゃ……」
「いや……単なる忘れ物だ」
 青年が呟いた途端、教会の扉が勢いよく開き、鎧に身を包んだ男が二人飛び込んできた。
 手にした剣にはベットリと血が付いている。
 王党派じゃない、貴族派が雇った傭兵だ!
 ルイズが呪文を詠唱しようと杖を構える。
 しかしそれよりも早く、ダンケが剣を振り抜いていた。
 糸が切れた様に傭兵の体が崩れ落ちる。
 役目を果たしたダンケの長剣がボキリと折れた。
 柄だけとなったそれを投げ捨て、青年が戻って来る。
 床に突き刺したままになっていたデルフリンガーを引き抜くと、微かな笑みを浮かべて言った。
「……驚いた」
 それは、ダンケなりの気遣いなのかもしれない。
 少女の不安を少しでも緩和させようと思ったのか。
 慣れぬことをしているのを自分でも自覚しているのか、ダンケはその顔に苦笑を浮かべていた。
 彼の不器用の優しさに、少女の胸がほんのりと温かくなる。
「そ、それは私の台詞よ! このバカっ!」
 照れを誤魔化すように、ルイズが頬を膨らませる。
 すぐそこまで敵が迫っているのは、今のを見ても明らかだった。
 だが少女の心に不安はない。
 今ならば例え五万の兵に囲まれようが、なんとかなりそうな気さえした。
 ダンケの強さに安心しているのではない。
 彼の人柄、その内に秘めた優しさが少女の不安を拭い去っていた。
 そして、そんな少女の勘は見事に的中することになる。
 ―――ぼこっ。
 ルイズとダンケの立っている地点のちょうど中間地点に、突如として大きな穴が開いたのだ。
 中から飛び出した黒い影は、迷うことなく少女の体を押し倒した。
「きゃあっ!?」
 ころんと床に転がるルイズ。
 彼女のはめた水のルビーに鼻を押し付けているのは、ギーシュの使い魔のヴェルダンデだった。
 そのあとから主のギーシュ、次いでキュルケが顔を出す。
 どうやら、水のルビーの匂いを覚えたヴェルダンデがここまで穴を掘ってきたらしい。
 アルビオンは雲の上にある。
 となれば、この穴の下にはタバサの使い魔シルフィードがいると見て間違いはないはずだ。
 これで脱出の手段は確保出来たことになる。
 まさか変態モグラに救われるなんて……と、くっついてくるヴェルダンデを押し退けながらルイズは思った。
「ヴェルダンデ、君はいったいどこまで―――って、ダンケ殿!?」
「あら、ダーリンじゃない」
 目を丸くする二人。
 ダンケはヴェルダンデの体を強引にルイズから引き剥がすと、そんな二人に淡々と言った。
「二人共……奇遇だな」
「ダンケ、のんびりしてる場合じゃないでしょ! ほら、さっさと脱出するわよ!」
 ぎゅっぎゅっとヴェルダンデを穴に押し込むルイズ。
 その下にいる二人が苦しそうな声をあげた。
 二人と一匹が行ったのを確認すると、ルイズは視線を礼拝堂に倒れているウェールズに向けた。
 胸に手をあて、目を瞑って黙祷する。
(殿下……)
 自分を助けようとしてくれたウェールズ殿下。
 恋人を失ってしまったアンリエッタ姫のこと考えると、ルイズは胸が締め付けられる様な思いに駆られた。
 おこがましい考えかもしれないが、ここで自分が死んでしまうとアンリエッタに更なる苦しみを与えてしまうことになるだろう。
 それを避ける為にも、無事に手紙を渡す為にも、なんとしても自分は生き残らなくてはいけない。
 瞳を開き、ダンケを促して穴に飛び込む。
「ダンケ、急いでっ!」
「……ああ」
 青年は殿下の亡骸に敬意を表す様に両手を合わせると、己が主に続いた。

<エピローグ>

 白の国が遠ざかって行く。
 シルフィードの背びれに体を預け、ルイズは徐々に小さくなるアルビオンを複雑な表情で見詰めていた。
 幼竜の口には、ギーシュの使い魔が咥えられている。
 その様子を、彼は気が気でない様子で見守っていた。喰われたりはしないというのに。多分。
 キュルケは折角の化粧が風で崩れてしまうと嘆き、タバサは黙々と本を読んでいた。
 結局、彼女は最後まで寝巻きのままだったのがすごい。
 大気が鳴動し、ルイズはびくりと身を縮こませた。
 美しい筈の浮遊大陸。その一部から黒煙がいくつも立ち昇っている。
 ある程度離れているのにも関わらず、ここまで砲撃の音が響いて来ていた。
 キュルケたちが来てくれなければ、彼女たちはあの地獄の真っ只中に取り残されていただろう。
 いくつもの偶然と、“彼”の守護あってこそ生き残ることが出来たのだ。
「…………」
 無言で視線を落とす。
 彼女の膝に頭を乗せ、ダンケは静かな寝息を立てていた。
 アルビオンを脱して、緊張の糸が切れてしまったのだろう。
 あのワルドと激戦を繰り広げたのだ、それも無理はない。
 既にプレートメイルは身に着けてはいなかった。
 シルフィードが重いだろうと気を回した彼が、鎧を放棄したからだ。
 きゅいきゅいと嬉しそうに鳴く幼竜と、軽く会釈するタバサが印象的だった。
 なにかと彼は青髪の少女に便宜を図っている気がするのは、自分だけだろうか?
 ほんの少しだけ黒くなった気に中てられて、ダンケが身動ぎする。
 ルイズは慌てて、佇まいを直した。頭を冷やすように、二、三度深呼吸する。
 本来ならば、使い魔が主に対してこのような行動を取ることは許されない。
 だが、ルイズは己が使い魔の休息を妨げるようなことはしなかった。
 起こさないよう細心の注意を払い、そっとダンケの手を取る。
 激戦を物語るように、その手には無数の傷が刻まれていた。
 掌には豆がいくつも出来、それが潰れて硬くなってしまっている。
 アルビオンでは色々なことがあった。
 フーケの襲撃、ウェールズの死……そして―――婚約者ワルドの変貌。
 幼い頃からずっと憧れていた彼の裏切りは、少女にとってはかつてないほどの衝撃だった。
 “ゼロ”と馬鹿にされる自分を認めてくれた数少ない存在。
 しかし、実際は違ったのだ。
 昔の優しかったワルドはもう居ない。
 彼の眼に、自分はとうの昔に映ってはいなかった。
 ワルドが欲していたのはルイズ自身ではなく、彼女の中にあるという“力”だけ。
 婚約の話も、全ては有りもしないその力を求めてのことだった。
 ―――だけど。
「…………」
 風に揺れ、普段は長い前髪に隠されているダンケの素顔が明らかになる。
 魔法衛士隊隊長のワルドと死闘を繰り広げた人物とは思えないくらい、その表情は穏やかだ。
 よほど疲労が溜まっていたのか、常に意識を張り巡らせている姿からは想像も出来ないほど、今の彼は無防備だった。
 ダンケの頬に手を当て、ルイズは穏やかに微笑んだ。
 どんな支離滅裂な命令だって、嫌な顔一つせずに応えてくれた黒衣の青年。
 そんな彼が初めて主の命に逆らった。
 そう―――少女を狂気の刃から救う為に。
 心無い言葉を浴びせたのにも関わらず、命をかけて守り抜いてくれた。
 憧れていた子爵に裏切られたというのに、ルイズの心は不思議と温かいもので満たされている。
 トリステインに帰国すれば、慌しい毎日が待っていることだろう。
 貴族派はアルビオンをその手中に収め、益々攻勢を強めている。
 彼らの次の狙いは間違いなく、自分たちの国トリステインだろう。
 大使として直接惨状を目にしたルイズたちが、今まで通り穏やかな日々を送れる保障はない。
 だからこそ、せめて今くらいは―――。
「……ダンケ、ありがとう」
 髪をかきあげ、そっと唇を合わせる。
 時間にして一秒あるかないかの短いキス。
 頬が熱くなるのを感じ、慌ててルイズは顔を離した。
 なんてことをしてしまったんだという気持ちと、一歩リードという気持ちが同居している。
 キュルケに見られはしなかったかと不安になったが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
 褐色肌の少女は吹き荒ぶ風に髪を乱され、不機嫌そうにしている。
 もしも目撃されていたら、からかわれることは火を見るより明らかだ。
 きっと、死ぬまでこのことをネタにされて馬鹿にされるに違いない。
 ルイズはほっと胸を撫で下ろした。
 己が使い魔の頭を撫でながら視線を上げる。
 そして次の瞬間、ルイズは硬直した。
 今まで本に視線を落としていたとある少女と、バッチリ目が合ってしまったからである。
「み……見た?」
「……(コクン)」
 無言のまま頷く青髪の少女。
 つーっとルイズの背を冷たい汗が流れ落ちていく。
 なにか良い言い訳はないものかと視線を左右させる桃髪の少女に、タバサはポツリと呟くように―――しかし何故かよく透る声音で、こう零した。
「……盗人」
「ち、ちが―――っ!?」
「……泥棒猫」
「だから違うって―――」
「……貧乳」
「それはアンタもでしょうが―――っ!」

 トリステインに戻ったら、今度は別の争いが勃発しそうである。
 傍目から見れば羨むべき状況なのかもしれないが、それに気付かなければまったく以って意味がない。
 いっぽう、知らない内にその渦中に居る哀れな男は、誰もが羨むだろう美少女の膝の上で、無数のワルドに追い掛けられるという悪夢を見てうなされていた。
「ア……アーメン」
 蚊の鳴くような呟きは、猛る風によってあっさり掻き消され。
 違う違うと連呼するルイズの膝の上は小刻みな振動が続き、最初と違って快適とは到底言えず。
 一番頑張ったであろう青年は、シルフィードがトリステインに到着するまでずっと、悪夢と謎の振動に悩まされ続けるのであった。
 彼と彼女たちの受難と苦悩の日々はまだまだ続く―――。
 その先に待ち受けているのは幸か不幸か。
 それを知る者は誰も居ない。
 ならばせめて祈るとしよう。
 彼らの行く末に、輝ける未来があらんことを。
 零の使い魔は今日も行く。
 本音は伝わらず、本質は理解されず。
 それでもめげずに彼は行く
 彼が、ここがドイツじゃないと気付く日は……まだまだ遠い。

別窓 | 零の使い魔。 ~聖十字の騎士~ | コメント:16 | トラックバック:0
<<リリ勘 【第九話】 | 後悔すべき毎日 | 零の使い魔。 ~聖十字の騎士~ 第十話>>
この記事のコメント
祝・完結
初めて感想を書きます。
第二章完結おめでとうございます。
ダンケと周囲の勘違いがとてもおもしろかったです。
第三章へぜひ続いてほしいですが
ネクオロさんの都合もあるでしょうから
無理せず頑張ってください。
こんなに面白いSSをありがとう!
2009-03-21 Sat 15:46 | URL | 九助 #JalddpaA[ 内容変更]
最終話の更新お疲れ様です。今回も楽しませて頂きました。次章も期待しています。
2009-03-21 Sat 17:15 | URL | 地球刑事ジバン #-[ 内容変更]
終わってしまいましたか。
しかし原作は続き、ダンケの物語も完結してはいない、と。
今後は国家レベルの勘違いが頻発しそうですね。

春は忙しい時期ですが、お体を大切にしてください。
2009-03-21 Sat 20:16 | URL | ルミナス #-[ 内容変更]
三章が楽しみだぜ!!
待ってるからな!!!!
2009-03-21 Sat 23:32 | URL | ふぇせ #-[ 内容変更]
お疲れ様です!!
最後の一行で思い切り吹き出しました。
2009-03-22 Sun 00:14 | URL | Takashi #wbvlsWA2[ 内容変更]
これで終わりだなんて信じない!
タバサとルイズの争いに彼がどうかかわるか…すごい楽しみです、三章待ってます。
2009-03-22 Sun 08:32 | URL | #-[ 内容変更]
お疲れ様です。

タバサとルイズの争いが微笑ましいw

3章を予測しているだけでニヤニヤが…
2009-03-22 Sun 17:06 | URL | レネス #qd0pqeIc[ 内容変更]
第二章完結祝いと誤字発見。
第二章の完結、お疲れ様でした。ダンケ達が歩み未来に幸が有る事を自分も祈らせていただきます。
さて、第三章(気が早いですかね?)でのダンケの勘違いされっぷりはどれ程の規模にまでなるのやら……。
あっ、エピローグの部分の“なにかと彼は青髪の少女に便宜を図っている気がする”の「気」の部分が「木」になっていました。
後、“ダンケが身動ぎする”の部分は「身じろぎする」と読めば良いのでしょうか?
私的にはお時間が有る時にこの二つの点を修正されるのがよろしいかと思います。
では、今回はこれにて。
2009-03-22 Sun 17:08 | URL | ベリウス #VSnRaRv6[ 内容変更]
楽しく読ませていただきました。
このダンケが将来どうなるかも気になるところですが…
タバサの「…貧乳」の言葉にガクッとさせられましたね。

さて…戦争より貧乳コンビの争いのほうが怖いのは何故でしょうか……
2009-03-22 Sun 18:49 | URL | 妖怪 #XXKD/cqA[ 内容変更]
お疲れ様でした。
これまで本当に楽しい物語をありがとうございました。
まだまだ続いてほしい、というのが正直な心情ですが…作者様の意向がすべてですので。
とりあえず、お疲れ様でした。
これからも応援しておりますので、頑張ってください。
2009-03-22 Sun 21:09 | URL | 紫藤 #-[ 内容変更]
第二章完結、おめでとうございます
完結、お疲れ様でした。
気づいたときにはもう終わっていたので、びっくりしました。
これで終わりとは本当に惜しい、でも、ネクオロさんの意向が優先ですので無理は言いますまい。

最後に、面白すぎるSSをどうもありがとう。ダンケ最高!
2009-03-22 Sun 22:40 | URL | 夢幻の戦士 #LOLorWpQ[ 内容変更]
お疲れ様でした
くっウェールズが死んでしまったのは残念だけど
これはアンリエッタ⇒ダンケという布石か!と
思ってしまいました 
零魔は満足しました 三章はあれば良いですが
特に無理をせず、がんばってください
一番大事なのはあなたの健康と安全を確認できることですから
2009-03-23 Mon 12:45 | URL | DDD #pYrWfDco[ 内容変更]
じっくり、たっぷりと
イヤ~、実に堪能させて頂きました。
やはり貴方の作品は面白い!
初めて見た時はニヤニヤしながら身悶えてましたよ。

ダンケ、タバサ、ルイズのこれからの関係が気になる~!

それではお身体に気を付けて。

第三章はあるかなぁ。(ボソリ
2009-03-24 Tue 01:13 | URL | 粉砕者 #-[ 内容変更]
第二章完結お疲れさまでした。
最後までニヤニヤさせていただきましたw

第三章も期待してますw
2009-03-29 Sun 13:47 | URL | seeker #-[ 内容変更]
第1章から続けて拝見させて頂きました。
原作の殺伐とした描写がダンケの天然のおかげ
で最後まで面白い展開で良かったです。

第3章に続くことを切に願いつつ・・・
2009-04-14 Tue 17:55 | URL | asakura #ttNPzg6U[ 内容変更]
ア、アンデルセン・・・!
2012-03-07 Wed 23:16 | URL | 五番目 #-[ 内容変更]
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック
トラックバックURL

FC2ブログユーザー専用トラックバックURLはこちら


| 後悔すべき毎日 |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。