ネクオロでした
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リリ勘 【第九話】
2009-03-28 Sat 23:18
誤解スパイラル。
修正しようのない過ちは更なる誤解を生み、それが彼に悲劇をもたらす。
遠ざかる平穏、急接近する危ない日常。
ただの“お人好し”の青年は、こうやって墓穴を掘っていく。
果たして、彼に明るい平和な日常は訪れるのか?
急転直下で御届けする、リリ勘第九話をお楽しみください。

第九話  ますます深まる誤解なの? 最速の騎士と時空管理局その③

 前回、お菓子を食べるか否かで真剣に悩みすぎた馬鹿(大樹)は、茶室の皮を被った独特の空間に一人、取り残されていた。
 重い空気。
 さすがの大樹もお菓子に意識を省いている場合じゃないと気づき、姿勢を改める。
 クロノはなのはとユーノを送り届けるために退艦しており、大樹は苦手な女性と二人きり。
 もう色んな意味で泣きそうだった。
「あなたは……」
 押し黙っていた女性が不意に口を開いた。
 びくりとする大樹。
「あなたはこれからどうするんですか?」
「……俺、ですか?」
「ええ。詳しい話は知りませんが、あなたはあの子に雇われたのだとか。なにを報酬として、どのような契約を結んだのかまではわかりません。だけど、あの子たちの話を聞く限り、彼女たちはあなたのことをとても信頼しているようだから……ね」
 二人っきりになったからか、多少その言葉遣いが身近なものに変化する。
 話の観点が時空管理局の仕事から大樹本人へと移行したのも、その一端を担っていた。
「まあ、大したことやっちゃいないんですけどね」
 苦笑気味な声を漏らす大樹。
 なのはの危機を何度か救ったのは事実。
 だが、そのほぼ全てが彼が気絶している間に終わってしまったことなので、いまいち実感がなかったりする。
 一番頑張ったのはフェイトと一緒にジュエルシードを封印したときなのだが、ここで威張るわけにはいかなかった。
 一応、あの子の配役はなのはのライバル兼管理局の敵なのだ。
 悲しいことに、ホントに評価して欲しいものほど、その機会が少ないのである。
「いいえ、私は直接見てないからなんとも言えないけど、彼女たちの反応を見ればわかります。あなたは魔導師として―――いえ、一人の大人として、立派にあの子たちを守ってくれた。同じ年頃の子供を持つ親として、あの子たちの両親に代わってお礼を言わせて」
 正座したまま頭を下げる女性。
 慌てて大樹も頭を下げ……重大な事実に気づいた。
「はぁ……って、ちょっ!? お子さんがいるんですか!? しかもなのはちゃんたちと同じ歳の!?」
 あまりにショッキングな出来事に、大樹はおもわず身を乗り出した。
 その拍子にお茶が零れそうになり、慌てて湯飲みを直す。
「ふふっ。そうよ。あの子―――クロノが私の子供なの。自慢の息子よ」
 大樹の驚くさまが面白かったらしく、女性が艶やかに微笑んだ。
 お茶菓子の羊羹を小さく切り分けてから口に含み、おいしいと呟く。
 クロノの母親とは思えないほどのマイペースぶりだ。
(あのムッツリ系の少年の親御さんがこの人……し、信じられん。どう見ても二十台前半にしか見えんぞ……!?)
 戦々恐々とする大樹をよそに、女性は話を続ける。
「話を戻すけど、これからあなたはどうするつもりなの? あの子たちが日常の生活に戻ってしまえば、当然ながらあなたとの契約はそこで打ち切りになるわ」
「……う、う~ん、そうっすねぇ」
 迷う大樹。
 とはいえ、答えは既に決まっている。
 帰るのだ、もとの穏やかな日常に。
(そうだ、俺は帰るんだ! もとのなにもない、平凡な毎日に! かえ……れるかなぁ?)
 なし崩し的にとはいえ、魔導の世界にここまで関わってしまったのだ。
 強く否定しなかった自分も悪いのだろうが、いつの間にか傭兵なるものになっているのも頂けない。
(それに……)
 頭に浮かぶのは、九歳という年齢からかけ離れた高い精神年齢を持つ少女。
 大樹は彼女のことが心配だった―――こんな感じの意味で。
(な、なのはちゃん、ああ見えて意外と頑固だぞ……? あなたたちの仕事は今日でお終いですはいそうですか……なんてスムーズに納得するわけねぇよ!? 下手をすれば自分たちで独自に動こうとか考えるかもしれない。責任感強いからな、あの子もユーノ君も。そうなったら契約結んでいる俺は、やばくなる度に俺、参上ならぬ惨状。管理局からもそのせいで目をつけられて……ひぃぃっ!? 平穏な生活が! 何気ない日常が音速で遠ざかっていくぅっ!?)
 なのはのことが純粋に心配という気持ちが三割、残る七割は明らかに自分の心配だった。
 ……まあ、下手に偽善ぶるよりかは、こっちのほうがよほど彼らしいが。
「あなた―――っと、そう言えばまだあなたの名前を訊いてなかったわね、ごめんなさい。私は時空管理局提督のリンディ・ハラオウンです」
「あ、はい。俺は竹中大樹。フリー『の魔導師です。自分はマスターのデバイス、ガルウイング。お見知りおきを、提督殿』……というわけです、はい」
「そう……竹中大樹君ね。それにしても、随分とそのデバイスに好かれているのね。私もいままで多くの魔導師とデバイスを見てきたけど、あなたたちほど仲の良いパートナーは初めてよ」
「なっ!? 仲がいい『のではなく、信頼していると言って頂きたいものです』……お前絶好調だな。―――って、そうそう。なのはちゃんのことなんですけど」
「……ええ」
 ほわほわとした空気から一転して、指揮官特有の引き締まった雰囲気をまとう女性―――リンディ。
 こういう真面目な態度は、やはりクロノの母親なのだと納得させられるものがあった。
「多分、あの子は諦めないと思いますよ。ジュエルシード集めるの。可愛らしい見た目に反して、彼女はすごい頑張りやで、筋金入りの頑固者ですから」
『自分もマスターの意見に賛成です。彼女―――高町なのははとても聡明で、なおかつ責任感の強い少女だ。例えあなた方に止められようと、彼女はジュエルシード回収作業を続けるでしょう。ならば、目の届く範囲に置いておいたほうが彼女のためです』
 珍しく意見の合ったガルウイングの言葉に、「あの金髪の子も気になるみたいだしなぁ」と大樹が頷く。
「でも、それはとても危険なことなのよ。クロノも言っていたけど、もうこの一件は民間人が関わっていいレベルを大きく超えてしまっている。下手をしたら、あの子の命が危険に晒されてしまうほどに」
 言葉を紡ぐリンディは複雑な表情をしていた。
 やはり、同じ世代の子供を持つ親として、なのはやユーノが傷つくのは見てられないのだろう。
 少なくとも、大人の大樹は保護対象ではなく、保護に回る立場として見られているのは確かだった。
 未成年は十八歳未満までというのは、彼の住む世界だけの規律ではないらしい。
『お言葉を返すようですが、なのはの魔導の素質は一級品だ。荒削りの現時点でさえ、現役の武装局員以上の能力を有しています。そして敵対している黒衣の魔導師のランクは最低でもAAA。これに抗える魔導師となると、管理局の中でも限られているのでは?』
 Dランクの大樹は微妙に抗っているのだが……どうやら彼は特別扱いのようだ。
「そ、それは……。だけど、あの子たちはもともと無関係な民間人なのよ? 万が一のことがあったら、私は彼女たちの両親に顔向けが出来ません」
『それは絶対にあり得ません。何故なら―――』
 と、そこでわざわざ言葉を区切るガルウイング。
 大樹は無償に嫌な予感がした。
 次の言葉が予想出来ているのか、リンディが真摯な視線を彼に注いでいる。
 ガルウイングが二の句を継がないのは、マスターたる大樹に続きを促しているからだろう。
 だがしかし、ここで大見得を切ってしまえば、もはや退路は絶たれてしまったのも同然。
 日常生活は虚無へと消え去り、激動と波乱の毎日が彼を待っている―――って、それはいまも同じか。
 懊悩する大樹。
 でも悲しいことに彼は……強い意志を持つ女性に弱かった。
 なのは然り、フェイト然り、アルフ然り。
 大樹の宣言をまるで期待しているかのように、リンディが彼を見つめている。
 あくまで「ように」だ、大樹の目にそう映っているように過ぎない。
 ヘルメットで隠れている素顔のほうは、とうの昔に真っ赤っかだった。
 女性に長時間見つめられるという未だかつてあり得なかったシチュを前に、完全に頭が茹ってしまっている。
 さらにここに来て魔力不足が災いしたらしく、変な風にハイになってくる大樹。
 ランナーズ・ハイみたいなものかと頭の片隅のやけに冷静な部分が納得し、彼はついに自ら地雷原に突っ込んだ。
「俺がっ! この命に代えても彼女たちを守り抜きますからっ!」
 とまあ、そりゃもう盛大に。
 ついでに色んなものもぶちまけた。
「なのはちゃんたちだけじゃない。あの金髪の子だって守ってみせます! ああそうだ、あんないい子たちを誰一人だって不幸にしてやるもんか。行くぞ、俺。強いぞ、俺。例えどんな奴が相手だろうと、フルブーストで打ち抜いてやんよ! サーセンっ!」
 ゼェハェと息を乱しながらも、なんとか大樹は言い切った。
 ただ、後半は一部重いカオスが入っていたが。
 発する側から言葉が消えていってしまったので、またもや自分の発言を詳しく覚えていなかったりするのだが、そんなことは些細なことだ……いまは。
 とりあえず、〝フルブースト〟という技が実際に無くてよかったと大樹は色んなものが不足している頭で思った。
 そんなものがあったらこの部屋はとっくの昔に吹き飛んでいる、自分とリンディも一緒に。
(あー、リンディさんは防ぐか。偉い人だからな。じゃあ、吹っ飛ぶのは俺だけ。……なんだ、いつもどおりじゃん)
 この時点で既に、自分が大言壮語を吐いたことをこの男はすっかり忘却していた。
 辛うじて覚えているのは、なのはを守ると言ったところまでだ。
 その中にユーノが入っていないのは、きっとなにかの力が働いたせいに違いない。
 会話に―――というより宣言に夢中になって、いつの間にか立ってしまっていたようだ。
 倦怠感を全身に感じながら座り直す。
 さきの宣言で魔力を消費したのか知らないが、知らぬ間にBJまで解除されていた。
 もう色んなものが抜け出てしまったかのようだ……いや、魔力は実際に抜けたか。
 熱暴走しかけていた頭が急速に冷却され、自分が恥ずかしいことを叫んだことを否応なしに自覚させられる。
 唐突に死にたくなった。
 そんな主のことは露知らず、ガルウイングは『それでこそ自分のマスターです!』と子供のように喜んでいた。
(……はぁ、もういいや、この船が沈んでも)
 五月病の患者のようにそう思い、ずっと我慢していた羊羹に手を伸ば―――そうとして、目の前の女性にガッチリと手を握られた。
 羊羹はよほど彼に食べられるのが嫌らしい。
(……どうかしましたか?)
 もはや話す気力もないといった感じで、視線だけでそう問いかける大樹。
 彼自身は見えていないが、そのときの彼の目はなんとしても羊羹を得たいという、邪ながら強い決意を秘めた光を宿していた。
 そしてそれが……新たな誤解の火種となる。
 大樹の目を見たリンディは、目の前の男が「なんとしてもなのは達を守り抜く」という強い決意を抱いていると確信した。
 提督という人の上に立つ位を持つ彼女の鍛え上げられた観察眼が、この男(大樹)は自己の発言を死んでも反故にしないと結論づけ(てしまっ)たのだ。
 青臭いを通り越して「単に臭いだけ」の彼のさきの台詞も、ハイテンションから来る異様な気迫のせいで真言のように彼女の心を打った。
 話を終えると同時に、BJを解除することで誠意を見せつけるという潔さもプラス評価に働いた大きな要因の一つとなっている。
 そして大樹が手を伸ばしたのを、なのはの意思さえ決まれば管理局に協力するという意思表示だと(勝手に)受け取ったリンディはその手を取り……いまに至る。
 リンディさんは、まずその観察眼をオーバーホールに出すべきだったのだ。
「……わかりました。あなたが言うように彼女が自分の意思でこちらの世界に関わり続けると決めた場合、民間協力者として彼女―――高町なのはを一時的に管理局に迎え入れると約束します。もちろん、その際のバックアップは出来る限りするつもりよ。私だって、あの子みたいないい子が不幸な目に遭ってほしくはないですからね」
 そういって握っていた手を離し、茶目っ気たっぷりに片目をつぶるリンディ。
 なにがどういう流れで「わかりました」となったのかサッパリの大樹だったが、とりあえずなのはと自分が管理局に目をつけられたのだということだけは理解した。
 正確には、目をつけられる度合いが悪化した(民間人→民間協力者)というべきか。
 少し気が遠くなった。
「じゃあ、今日はこのあたりで解散としましょう。あなたにも色々と準備をする時間が必要でしょうしね」
 リンディが両手をポンと合わせ、にこやかな笑みを浮かべる。
 羊羹を和紙で包んで渡してくれる彼女の気配りに、大樹はジンと胸が熱くなった。
 これだけでもう、これからさき、やばい事態に関わらざるを得ないのもいまは良しという気分になっているから……馬鹿だ。
「帰り道はわかるかしら? なんなら案内するけど」
『いえ、既に艦内の構造は把握済みですので。転移装置さえ起動させてもらえれば結構です』
「そう、さすがといったところね。……あ、最後に一つだけ聞かせてもらえるかしら?」
 帰り際、思い出したかのようにリンディが声をかけてくる。
 羊羹をもらってホクホクの大樹は、機嫌よく「なんでも訊いてくださいな」と返した。
「それじゃお言葉に甘えて……。あなたが、なのはちゃんたちに求めた報酬はなんだったのですか? 金品の類じゃないということぐらいは、私にも察することが出来るんだけど」
 結構気になっていたらしく、リンディは少し照れ臭そうにしていた。
 その仕草は一児の母と知ったあとでも男心をくすぐるものだったが、生憎と大樹は手の中の羊羹に意識の七割を奪われているので気づかない。
 つくづく、こういうイベントの回収率が低い男だ。
「ん、ああ、それは確か……勇気と決意だった筈ですよ」
 そのときのことを思い出し、苦笑しつつ大樹が言う。
 鼻で笑われそうな理由だったが、それが事実なので仕方ない。
 羊羹をもらった手前、嘘を吐くのも心苦しく感じて正直に話したのである。
「勇気と……決意?」
「ええ。あの子たちは子供だけど、ジュエルシードを集めるために必死で戦ってましたから。その勇気と、自分たちでなんとしてでもジュエルシードの脅威からこの町を救おうという決意に胸を打たれ、それを報酬として俺たちは彼女と契約を結んだ……みたいな設定だったかと。まあ、その話を進めたのは俺じゃなくて―――」
「……よかった」
「ガルウイングが勝手に―――って……はい?」
「あの子が―――なのはちゃんが最初に出会った魔導師があなたで、本当によかったと私は思います。あの子が魔法という力を得てもその力を真っ直ぐ、自分が正しいと思ったことに使えるのは……もしかしたら、あなたのことを側でずっと見ていたからかもしれませんね」
 そういって、リンディは大樹に優しい微笑みを投げかける。
 心の底からそう思っているのは、その声質からも明らかだ。
「い、いや、そういうわけじゃ……」
 真正面から褒められ、思わず羞恥心から顔を逸らしてしまう自他称・最速の騎士。
 否定も尻切れトンボになってしまっている。
 ちなみに、リンディは完全に(とまでは言えないものの)誤解しているが、なのはが力の使い方を誤らなかったのは、ただもともと彼女が強い心と優しい心を併せ持っていたからだ。
 そりゃあ確かに大樹の影響もないことはないだろうが、やはり彼女が育った環境が要因だろう。
 むしろ彼がなのはに植えつけたのは、もっと別の感情だったりする。
「そんなに謙遜しなくてもいいですよ。あなたはとても立派な魔導師です。胸を張ってください」
「は、はぁ……その、ありがとうございます。……じゃあ、俺はこれで」
 褒められるのは嬉しい、だけどその理由が微妙に間違っている気がする。
 一頻り首を傾げたあと、大樹はリンディに頭を下げて部屋を出た。
 まったくもって道がわからないが、ガルウイングが知っていると言っていたので問題はないだろうと結論づける。
 扉が閉まる間際、
「これからよろしくね、大樹君」
 と、にこやかに手を振られ、ドキッとしてしまったのは彼だけの秘密。
 なお、アパートに戻ったあと彼女の言葉の意味を再考した彼は、顔を青一色に染めることとなる。
「ま、待てよ……。これからよろしくってことは、例えなのはちゃんが魔法を捨てたとしても、俺は時空管理局とやらに関わって……ジュエルシードに関わるってことじゃねーか!? え? えぇ!? いったい全体どういう流れでそうなったんだ、おい!?」
 なのはは魔法を捨てないし、ジュエルシードにも関わり続けると自分で断言したことも忘れ、悲痛な叫びをあげる大樹。
 周囲の面々が着々と彼に誤解を抱いているのと同様に、彼もまた誤解し易い体質なのだった。
 丁度その頃、なのはと話し合いを終えたユーノがレイジングハートを通してリンディに、ジュエルシード集めに協力するとの意思を表明していたりするのだが、そのことを当然ながら大樹は知らない。
 ガルウイングはデバイスのくせに睡眠をとっているらしく、彼女にその情けない叫びが届くことはなく。
 大樹の本音シャウトは、隣の部屋から「うるさい、黙れ!」と怒鳴られるまで続くのだった。
 自他称・最速の騎士の苦難の日々は、この日を境にさらに加速することになる。


 都心に建設された高層ビル。
 その中の一室に、金髪の魔導師フェイトとその使い魔アルフの姿があった。
 ソファに力なく横たわった少女は、時折その整った顔を歪め、荒い息を吐き出している。
 アルフはそんな彼女の額に、水に濡らしたタオルをそっと乗せた。
 不意にフェイトの手がソファから滑り落ちる。
 その手には包帯が巻かれ、それはうっすらと朱色に染まっていた。
 時空管理局の執務官クロノとの短い攻防。
 そのときに負った傷が、静かに少女の体を蝕んでいたのだ。
 あのまま戦っていたら、間違いなくフェイトとアルフは捕らえられていただろう。
 彼女たちがいまこうしていられるのは一重に、己が身を省みずに隙を作ってくれた大樹のおかげだった。
 ……誤射で魔法を放つのは素人の魔導師くらい。
 彼女らの中の大樹像は傭兵であり、実戦の最中に誤射を行うなど到底考えられないことだ。
 しかも大樹はその前にフェイトを助けると公言しており、彼女たちは大樹が自分たちを助けてくれたと信じて疑わなかった。
アルフはその小さな手を握りながら、瞳に涙を浮かべて泣き叫ぶように言う。
「もうダメだよ、フェイト。時空管理局まで出て来たんじゃ、もうどうにもならないよ! 今日だってあいつが助けてくれなきゃ、捕まってたよ!?」
 月光に淡く照らされるアルフの頬を、涙が零れ落ちていく。
「……逃げようよ。二人でどっかにさぁ。もうこんなことは全部忘れて―――」
「それは……ダメだよ……」
 アルフの声を遮るように、フェイトの静かな呟きが響く。
 声量自体は風が吹けば消えてしまうような小さなもの。
 だが、その中に宿った強い決意の光に、アルフは思わず言葉を飲み込んだ。
「母さんが必要としてるから……集めないと。そうしたら絶対に、あの頃の優しい母さんに戻ってくれるから……」
 アルフ―――いや、自分に言い聞かせるようにしてフェイトが呟く。
 まだ幼いこの少女は、母親に命を受けてジュエルシードを集めていた。
 その胸中に宿る想いはただ一つ。
 頑張ってジュエルシードを集め、自分がいまよりもっと小さかった頃の、優しかった母に戻ってほしい、という純粋すぎる想い。
「あのオニ―――あんたの母さんだってわけわかんないこと言うし、フェイトにひどいことばっかするし!」
 両手で顔を覆い、アルフはさめざめと泣いた。
 ジュエルシードという危険な代物相手に、実際フェイトはよく健闘している。
 一つとられたのは確かに失敗だったが、その相手からは既に十分すぎるほどの施しを受けていた。
 あの時点で三つ、いまはさらに二つ加えて五つのジュエルシードを確保している。
 だというのに、フェイトの母親はそれを讃えるどころか叱りつけた。
 バインドで彼女の四肢を拘束し、幾度となく鞭で叩いた。
 アルフは扉一枚向こうから聞こえる主の押し殺したような悲鳴に、自分の耳を塞いで震えることしか出来なかった。
 あのとき初めて、彼女は自分がフェイトの使い魔だということを憎んだ。
 使い魔でさえないのなら、フェイトの言葉に従うという制約さえないのなら、すぐにでも部屋に飛び込んで彼女を助けることが出来たのに……と。
 それなのに―――。
「母さんのこと……悪く言わないで」
 フェイトは未だに母親を信じている。
 どれだけ鞭で叩かれようと、どれだけ心無い言葉を吐かれようと。
 ジュエルシードさえ集めれば、母がそれで満足してくれれば、優しい母に戻ってくれると信じ続けている。
「言うよ! 私はフェイトが心配なんだ。フェイトが悲しんでると、私の胸も千切れそうに痛いんだ。フェイトが泣いてると、私も目と鼻の奥がツンとして、どうしようもなくなるんだ。フェイトが泣くのも悲しむのも、私嫌なんだよぉ……っ!」
 感情が溢れ出し、それが涙となってボロボロと零れていく。
 一度溢れるともうダメだった。
 わんわんと子供のように泣き始めたアルフの頭に、フェイトはそっと手を置いた。
 困ったような―――それでいて優しい微笑を浮かべながら。
「私とアルフは……少しだけど精神リンクしてるからね。……ごめんね、アルフが痛いのなら、私もう悲しまないし泣かないよ」
「……違う、違うよぉ……。私、ただフェイトに笑っていてほしいだけなんだ。幸せになってほしいだけなんだ……。なんで、なんでわかってくれないんだよぉ……」
「……ありがとう、アルフ。でもね私、母さんの願いを叶えてあげたいの。母さんのためじゃない……きっと自分のために。だからあともう少し、最後までもう少しだから……私と一緒に頑張ってくれる?」
 フェイトが優しい眼差しでアルフを見つめる。
 アルフは涙を拭うと、不安な表情を浮かべたまま口を開いた。
「約束してくれる……? あの人の言いなりじゃなくて、フェイトはフェイトのために、自分のためだけに頑張るって……約束してくれる? そしたら、私は絶対にフェイトのことを守るから」
「……うん。約束するよ」

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この記事のコメント
またもや更新されていますね~ここまで来るとちょっと怖いかも…
今日のは前とは少し違って勘違いが少し多く入っていたように感じます。
また次も楽しみに待っています!!
2009-03-29 Sun 02:40 | URL | かみかみ #5kcZP7pM[ 内容変更]
リリカル4期がコミックででるらしいよ!
大勘違いに(ニヤニヤ)

やっぱ、ガルウイング好きだわ。
大樹とガルウイングって名コンビですよね(笑)

最終話を書いているそうでガルウイングの秘密も
明かされる日が近いと思うと、ちょっとドキドキです♪

では、次回も楽しみにしています。では、
2009-03-30 Mon 18:25 | URL | #-[ 内容変更]
大樹に立ちふさがるのは不幸か、それとも……。
大樹自身の誤解によって生じる幾多の誤解……。
自他称・最速の騎士が歩む道は決してあらがえないイバラの道か……。
そして大樹がなのはに植えつけた“信頼”とは別の感情とは?
多くの誤解が渦巻く物語は彼らをどんな結末へといざなうのか、非常に楽しみです。
2009-04-01 Wed 15:06 | URL | ベリウス #VSnRaRv6[ 内容変更]
誤字報告です。
今回も誤字を発見したので報告しますね。
“目の前に女性にガッチリと手を握られた。”の部分は「目の前の女性にガッチリと手を握られた。」が正しいかと。
これからも誤字を発見したらちょくちょく報告しますが、機嫌を悪くされないでくださいね……。
自分はこういった事でしかネクオロさんのお手伝い(になっているか不安ですが)が出来ませんから……。
2009-04-01 Wed 15:15 | URL | ベリウス #VSnRaRv6[ 内容変更]
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