ネクオロでした
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リリ勘。第十四話。
2009-06-28 Sun 22:57
勘違いは世代を超え、ついには生死すら越える!

そして、なのは様っぽいの登場。

 第十三話 それは彼が託した想いなの……。 最速の騎士の最後。

「―――っ!? いてっ!? やばっ、いてっ!? でも痛みを感じるってことはまだ大丈夫―――い、いや大丈夫じゃない、痛い! 本気で痛い! おうおぅっ!?」
 激痛に喘ぎながら体をビクビクと痙攣させる大樹。
 そのおかげで意識は回復したものの、視界に飛び込んできたのは薄暗い洞窟のような空間だった。
「あら、ようやくお目覚めかしら?」
 冷たい―――氷のように冷たい声音に、大樹は反射的に首を向ける。
 そこにいたのはアースラのディスプレイに映っていた女性―――プレシア・テスタロッサであった。
 ラスボス、いきなりの登場である。
 BJはいつの間にか解除されている。
 小声で呼びかけるが、ガルウイングの反応も返ってこない。
 まさに絶体絶命の状況である。
「ウフフ、貴方には感謝してるわ。まさかこんな良い物を持ってきてくれるなんてね」
 そう告げるプレシアの手には、待機状態のガルウイングが握られていた。
 その宝珠には無数の皹が刻まれ、点滅も弱々しい。
 主同様、先の魔法行使でその機体はかなり損傷していた。
「これがあれば……これがあればアルハザードへの道は開かれる。私はそこで取り戻すのよ、あの頃の日々を!」
「…………」
 大樹は地に倒れ伏したまま、この人は頭大丈夫だろうかと考えていた。
 初対面の相手にこんなテンション高く接するとは、なんてやり辛い人なのだろうと。
 それと同時にこんな親御さんを持っているフェイトには心底同情した。
 だからこんな言葉が知らず、口から飛び出していた。
「フェイトちゃんがかわいそうだ」
「フェイト……ふん、あの人形に同情でもした?」
「人形? いや何故そこで人形が出てくるのか俺にはさっぱり……」
 フェイトちゃんと同じ名前の人形なんてあっただろうかと、大樹は首を傾げる。
 少しでも痛みを忘れる為、別のことに意識を集中させる必要があった。
 それでも痛いものは痛いのだが。
 意識を失うことが出来れば、どれだけ楽なことか。
 痛みに過剰な耐性を持つこの身が憎々しい。
「いいわ、貴方にはコレを持ってきてくれた借りもあるから教えてあげる。あの子―――フェイトはね、私の実の娘・アリシアを元に生み出したクローンに過ぎないの。折角、大事なアリシアの記憶を継がせてあげたというのに、似ているのは外見だけ。貴方にも判るでしょう、この私の絶望と失望が」
「いや判らん」
 そもそも、俺はクローンなんて牛とか羊しか知らないし。
 後半は口の中でこっそりと呟く。
 魔導に欠片も詳しくない大樹は、クローンを作れば中身までまったく同じ存在出来るというプレシアの思考が小指の先ほども理解出来なかったのだ。
 辛うじて、それが違法だということがわかる程度のレベルなのである。
「……貴方、自分の立場を判ってるの?」
 大樹の無遠慮な言葉に、プレシアが目を細める。
 一瞬ビビッて言葉が詰まりそうになるが、弱気な心を痛みが駆け抜けることで少しだけ勇気が湧いてきた。
 まさに怪我の功名である。
「す、凄まれても判らんものは判らん。だいたい、クローンだかなんだか知らんがフェイトちゃんは人間だろ? それを人形と断じるのは人としてどう……でしょうかと私は思うんですよ?」
「あんな出来損ない、人形で沢山だわ」
「……さいで」
 吐き捨てるように告げるプレシアに、ビビった大樹はそれ以上言葉をかけることが出来なかった。
 ヘタレな大樹としてはよくもった方だろう。
 両腕と両足が動かないのは相変わらず、考えたくはないが確実に骨が折れている。
 原因は言わずもがな、〝グラビティ・ブースト〟だ。
 なにが起きたのかは知らないが、あの呪文が自分にここまでダメージを与えたに違いない。
 大樹は安易にガルウイングの呪文に頼った自分の迂闊さを今更ながら呪った。
 実はこの呪文、既存の魔法体系全てを塗り替えるもの凄い魔法のプロトタイプだったりするのだが、当然ながら大樹はそのことを知らない。知りたくもない。
「痛いぃ……死ぬぅ……」
 薄暗い部屋に大樹のか細い声が響く。
 プレシアはガルウイングを持ったままどこか別のところへ行ってしまっていた。
 トドメを刺されなかったのは嬉しいが、大怪我した人間をそのまま放って置くのもどうだろう。
 そのまま蓑虫のように転がっていると、不意に部屋が―――否、建物そのものが揺れ出した。
「じ、地震!? やめて、今の俺は動けないから! やめてください!」
 懇願したところで地震は収まらない。
 パラパラと落ちる破片、どういう仕組みかは知らないが、床にはいくつもの底無し穴まで開いている。
 呑み込まれたらどう足掻いても這い出てこれそうにない。
「お、おいおい、この家建てたのってア○ハじゃないだろうな!? 耐震偽造とかで済むレベルじゃねーぞ、これ!?」
 パニクる大樹。
 しばらくアワアワしていると唐突に地震は収まった。
 その代わりに聞いたことのある(二度と聞きたくもない)雷鳴がいくつも鳴り響き始める。
 雷が落ちる度に誰かの悲鳴が轟くという、ホラーな空間に一人取り残された大樹は滝のような涙を流しながらただただ転がっていた。
 その時、見上げた視界の八割を占める大きさで虚空に映像が投影された。
 じょじょに鮮明になっていく画像、そこに映っていたのはアースラの面々だった。
 どういうわけかフェイトとアルフの姿まで映っている。
 とりあえず、これで助かると大樹は安心した表情を浮かべる。
 反面、映像の向こうの面々は皆一様に顔を青褪めさせていた。
「大樹さん、そんな……!?」
 なのはが言葉に詰まり、涙を流しながら手を口許にあてる。
 首から下の動かない大樹には判らなかったが、今の彼は傍目から判るほど重症であった。
 両腕と両足は変な方向に折れ曲がり、来ている服は当然ながらボロボロの上、どす黒い血の跡が染み込んでしまっている。
 その全てが自己犠牲魔法メガ―――もといグラビティ・ブースト発動の弊害によるものだったのだが、なのはたちは生憎とそう捉えなかったらしい。
 この部屋に強制転移される前は無骨なBJで体が覆われていた為、外傷があるかどうか判断が出来なかったのだ。
 故になのはたちは大樹の怪我をプレシアがやったものと思い込んだ。
 クローンとは言えプレシアの娘であるフェイトも、呆然とした表情で大樹のことを見つめていた。
 そしてタイミングが悪いことに、アースラのもう一つのディスプレイに映るプレシアの手には大樹のデバイス・ガルウイングが握られている。
 こうして彼らはこのような結論に辿り着いた。
 強制転移させられた大樹は満身創痍の体でプレシアに戦いを挑み敗北、そして命と同じくらい大切な相棒を奪われたのだ、と。
 彼の体が悲惨なまで傷付いているのは、最後の最後までデバイスを守ろうと抵抗したからだろうと。
 どういうわけか、なのはたちの頭の中では大樹とガルウイングはものすごい絆で結ばれているらしかった。
「ひ……ひどいよ、どうしてそんなひどいことが出来るの!?」
 なのはの悲痛な叫びが響く。
 その悲しみと怒りの混じった視線はプレシアに向けられていたのだが、大樹はそうは思わなかった。
 そう、あろうことか自分に向けられたと思ったのだ、この馬鹿は。
 ―――え、俺がなにかしたっけ!?
 考え、考え、一つの推測に辿り着く。
 自分がグラビティ・ブーストを放ち意識が飛んだ際、なのはたちを巻き込んだんじゃないかと。
「な、なのはちゃん……」
「―――っ!? 大樹さん、待ってて! 今すぐ助けに行くからっ!」
「君を傷付けて……ごめん……。あいつを……ガルウイングを―――ゴフッ!?」
 ―――いい加減どうにかしてくれ。
 悲痛な願いは最後まで発せられることなく口中に消えた。
 辛うじて持ち上がっていた首が力なく地に落ちる。
 なのはの位置からは見えないが、落ちてきた破片の一つが大樹の足に直撃したのだ。
 一気に押し寄せた痛みはいとも容易く彼の意識を刈り取った。
 大樹の顔を中心にして広がる赤い染み。
 気を失った直後に鼻を床に強打し、鼻血が流出したのである。
 よほど打ち所が悪かったのか、その出血量はやたらと多かった。
 側で見ていれば判るだろうが、彼は気を失っているだけなのでまだしっかりと生きている。
 BJを装備していたとは言え、次元跳躍魔法が直撃してなお生きていた男のタフネスさは並みじゃない。
 ―――ところが。
 アースラの面々はそうは思わなかった。
 大樹が重症を負っているのは事実、そしてあのタイミングでの謝罪。
 最後の瞬間に顔を見られて良かったという、安堵の表情。
 おまけに大樹の発した「君を傷付けて~」の件は、自分が死ぬことで心優しいなのはに深い悲しみを背負わせてしまうことを詫びたように聞こえないこともない。
 実際はなのはを魔法に巻き込んでしまった(巻き込んではいないが)ことに対する謝罪だったのだが。
 そう……アースラサイドでは、大樹は誰がどう見ても死んだようにしか見えなかった。
 未だかつてない沈黙がアースラを支配する。
 かつて夫を失った経験のあるリンディでさえ、物言わぬ骸(注意・生きてます)となった大樹を見つめたまま動くことが出来なかった。
 クロノが俯いたまま拳を握り締める。
 エイミィが「そんな……そんなことって……」と涙声で漏らす。
 ユーノとアルフは呆然として画面を見つめる。
「か、母さん……なんで……?」
 理解出来ないといった表情でフェイトが画面越しにプレシアを凝視する。
 少女はひどい扱いをされようが信じていたのだ、自分の母親は本当は優しいのだと。
 今でこそ厳しい言葉を浴びせるが、いつの日かきっと元の優しい母親に戻って来るはずだと。
 フェイトの声が届いたのか、画面の中のプレシアが笑みを浮かべた。
 しかしそれはかつて―――記憶の中の彼女が見せてくれた優しい笑みではなかった。
 冷たい―――愉悦の混じった嘲笑。
『たったこれだけのジュエルシードじゃ辿り着けるかどうか怪しかったけど……コレさえあれば確実に辿り着けるわ。アルハザードに』
 うっとりと―――陶酔に近い眼差しの先には、弱々しい点滅をする灰色の宝珠。
 大樹から力づくで奪われた(実際は気を失っているところをあっさりとられた)ガルウイングだ。
「アルハザード!? そんなものは伝説上の、御伽噺の中の存在のはずだ!」
 プレシアの言い分を真っ向から否定するクロノに、しかし研究者であり大魔導師である女性は笑いながら答えた。
『そうね、実際に私もコレを手にするまでは半信半疑だったわ。でも、今は違う。貴方たちは気付かなかったかもしれないけど、これはただのデバイスじゃない。アルハザードで製造された時を越える機構を内蔵した―――ロストロギアよ』
「「―――っ!」」
 プレシアの勝ち誇ったような宣言に、アースラの面々は凍り付いた。
 妙なデバイスだとは思っていたが、まさかジュエルシードと同じロストロギアに該当するものだとは誰にも想像出来なかったのだ。
『どうやら時を越える機能は実現出来なかったみたいだけど……コレの中にはアルハザードへの道のりが記録されている。ジュエルシードとこのロストロギア、この二つがあればアルハザードに到達するのは十分に可能だわ』
 プレシアの言葉を受け、リンディたちは大樹があそこまでしてデバイスを守ろうとしたもう一つの理由に行き着いた。
 彼は知っていたのだ、ガルウイングをプレシアに渡してしまえば、更に多くの人間が不幸になることを。
 そして思い至った。
 大樹の遺した最後の言葉、その続きを―――。
 あいつを……ガルウイングを……〝悪用だけはさせてはいけない〟。
 彼はそう言いたかったのだと、勝手に決め付けた。
「―――そんなことの為に」
 不意に。
 感情を押し殺した、冷たい声がアースラ内に響いた。
 驚きの視線が声の主に集中する。
 そこにいたのは白の魔法少女。
 だがしかし、少女の瞳は底のない闇に呑み込まれかけていた。
「そんなことの為に、あなたは大樹さんを……殺したんですか?」
『そう、あの男は死んだの。まあいいわ、コレを手にした以上、彼はもう用済みだから……フェイト、貴女と同じでね』
「……え」
 フェイトの体が硬直する。
 少女は気付いた、気付いてしまった。
 プレシアの背後に浮かぶカプセル、その中に膝を抱えて浮いている自分と瓜二つの少女の存在に。
『ウンザリしていたのよ、この子に外見が似ているだけの人形を相手にするのは。でも、もうそれも終わり。……聞いていて? フェイト、貴女のことよ。貴女はしょせんアリシアの偽者。折角アリシアの記憶をあげたのに貴女じゃダメだった』
「やめろ! もう十分じゃないか、この子をこれ以上苦しめないで!」
 アルフが目に涙を浮かべて叫ぶが、プレシアは意に介さない。
 ふと思い出したように言った。
「そう言えば、あの男も似たようなこと言っていたわね。『フェイトは人間だ。人形なんかじゃない』って。馬鹿な男、自分のことを棚に上げて人形の心配だなんて。そんなのだから……死ぬのよ」
「わ、わたしのせいで……」
 糸の切れた人形のようにフェイトがその場に崩れ落ちる。
 アルフが慌てて少女の体を支えた。
 ―――バチリ。
 電気が弾けるような音が聞こえてきたのはまさにその時だった。
 膨大な魔力。
 それがなのはを中心に荒れ狂っている。
 俯いたその表情は読めない。
 悲しみ、怒り、絶望、そういった負の感情が少女の魔力を暴走させていた。
「な、なのは、ダメだ―――うわっ!?」
 なのはを押さえようとしたユーノが弾き飛ばされた。
 バチバチと荒れ狂う魔力は、既に少女の制御化を離れている。
 未だかつて見せたことない、深淵の色をたたえた瞳で誰よりも優しかったはずの少女はプレシアを睨み付けた。
「……許さない。あなただけは絶対に許さない……!」
 少女の怒りに反応して魔力が一層荒れ狂う。
 エイミィが短い悲鳴をあげ、身を守るように頭を抱えた。
「―――いけないっ!」
 リンディが咄嗟に編んだバインドがなのはの体を拘束した。
 どうして邪魔をするのかと目で問いかける少女に、百戦錬磨の艦長の背を冷たい汗が流れ落ちていく。
 なのはの瞳には既になんの感情も浮かんではいなかった。
 強引にバインドを打ち砕かんとする少女の背後に、クロノが回りこむ。
 対象を気絶させる〝スタン〟の効果を持った魔法。
 BJをまとっていない状態でそれを受けたなのはは、先のフェイト同様その場に崩れ落ちた。
 あと少し、あと少しクロノの対処が遅ければ、なのははバインドを魔力任せに引き千切っていただろう。
 倒れ伏したなのはの体をユーノが抱え上げる。
 なんとか事態を収拾することが出来たクロノが安堵の息を吐く。
 それに対して、リンディは厳しい視線をプレシアに向けていた。
「貴女のした行為が多くの人間を悲しませ、苦しませているのよ!? 貴女にはそれが判らないの!?」
 大切な家族を失った痛みは、それこそ自分のことのようにリンディには理解出来る。
 だけど―――いやだからこそ、悲しみと向き合わずに誰かを不幸にする道を、あまつさえ人の命を奪う道を選択したプレシアを許すわけにはいかない。
『……知ったことじゃないわ。私はアリシアさえ戻ればそれでいい。他のことはどうでもいいのよ』
 その言葉を最後に画面はブラックアウトした。
 ―――アリシア・テスタロッサ。
 それがプレシアの実の娘の名だった。
 かつての事故で最愛の娘を失ったプレシアは、死者蘇生の技術を求め、使い魔を越える使い魔、人造生命の生成に全てを注いだ。
 全ては最愛の娘を、あの幸せな時を取り戻すその為に。
 それによって生まれたのがフェイトだった。
 だが、アリシアと瓜二つの少女は決してアリシアにはなれなかった……。
「玉座の間、周辺に魔力反応多数。Aクラスです! そんな!? こんなにたくさん!?」
 エイミィの報告通り、アースラのレーダーには多数の魔力反応が観測されていた。
 魔導人形、それが魔力反応の正体だった。
 内包した魔力はAクラス。
 その数は既に五十を越えている。
 並みの魔導師では―――アースラに配備されている武装局員でも苦戦は必至だろう。
「出ます、なんとしてもプレシアの企みを阻止しないと」
「……そうね、私も出るわ。……彼女がやろうとしていることは間違っている。自身の願いを重んじるあまり、その他大勢を犠牲にするなんて絶対に許せないわ。武装局員たちにも出撃命令を出してください。事態は刻一刻を争います」
 クロノの言葉にリンディが頷き、立ち上がる。
 ジュエルシード発動によって生じた次元震は既に中規模にまで達している。
 このまま放っておけば、いくつもの次元世界を巻き込む災害にいつ発展してもおかしくはなかった。
「エイミィ、ディストーションフィールドの出力を最大にして。少しでも次元震を押さえ込みます。私たちはその間にプレシアとジュエルシード、そして……彼のデバイスを確保します。彼の……彼が命を懸けてまで守ろうとしたデバイスを悪用させるわけにはいかないわ」
「……了解しました。お気を付けて」
 エイミィにアースラを任せて、親子は転送装置に乗り込む。
 目指す先は時の庭園、その最下層。
 そこに全ての元凶―――悲しき魔導師はいるはずだ。


 アースラの医務室になのはとフェイトの二人は寝かされていた。
 ユーノとアルフが少女たちを不安そうな眼差しで見つめている。
 時の経つごとに振動は大きくなっているようだ。
「……ん」
 最初に目を覚ましたのはフェイトだった。
 光の宿っていない瞳で周囲を見渡す。
 主が無事に目を覚ましたことに安堵したアルフが少女に抱き付いた。
「よかった、本当に良かった……あたし、フェイトがこのまま目を覚まさないかと思ったよ……」
「……アルフ。……でも、その方が良かったのかもしれない。私は人形……母さんの娘じゃなかった。それに私のせいであの人まで……死なせてしまった」
 ギュッとフェイトが小さな拳を握り締める。
 涙が頬を伝い、真っ白なシーツに染みを作った。
「……フェイトのせいじゃない! フェイトのせいじゃないよ! ……あいつはそういうやつなんだ。自分より人のことが大事な馬鹿で……本当は強いくせに馬鹿みたいにお人好しなやつなんだ。……あたしね、プレシアに逆らって返り討ちに遭った時、最初あいつに保護されてたんだよ」
「え……」
「本当におっかしいやつでさ。管理局と手を組んでいるのに、あたしが管理局に通報しないでくれって頼んだらその通りにしてくれたんだ。自分も疲れているだろうに付きっ切りで看病してくれてさ。……だからなんとなくだけど判るんだ」
 そこで一端言葉を区切ると、アルフはフェイトの瞳を見つめた。
 優しい、穏やかな光がアルフの双眸には宿っている。
「あいつはフェイトにそんなこと言って欲しくて助けたんじゃない、プレシアと戦ったんじゃない。言ってたじゃないか、フェイトは人形なんかじゃない、人間だって。その言葉、本当はフェイトに向けて言いたかったんだよ、あいつは」
「あの人が……」
 フェイトに脳裏を過ぎるのは、暴走したジュエルシードを封印する際、敵だというのに手を貸してくれた大樹の姿。
 頑張れと、その一言に想いを託してくれた大樹の姿。
 彼が自分たちを庇い、プレシアの魔法を受けて海中に落下した時は頭が真っ白になった。
 生きていると判った時、涙が出るほど嬉しかった。
 彼が死んでしまった今となっては、もう二度と大樹の声を聞くことは出来ない。
 しかしそれでも、フェイトは思い出した。
 ……そう、この命は彼が文字通り命を賭けて守り抜いてくれたもの。
「そう……だよね。私の命はあの人が守ってくれた大事なもの。そんなこと言ったら……あの人が悲しんでしまう」
「うん……うん!」
 涙を流しながら頷くアルフに笑いかける。
 その瞳には生気が戻っていた。
 彼に―――誰よりも誇り高く生きた彼に笑われないよう、自分も前を見て生きなければ。
 隣に視線を向ける。
 なのはは依然として眠ったままだった。
 もしかしたら、起きるのを―――現実を知るのを心が拒否しているのかもしれない。
 だけど、大丈夫。
 フェイトは不思議となのはならしっかりと立ち直ってくれるという確信があった。
 自分以上に大樹と身近にいたのだ。
 彼の志が伝わっていないはずがないと。
「行こう、アルフ。バルディッシュ。母さんの為、なによりあの人の為に……母さんを止めよう」
『―――yes sir』
 主の言葉にいつも通り淡々とした口調で、しかし確かに喜びを交えてバルディッシュは答えた。
 雷光が舞い、少女の体をBJが包んだ。
 金の魔法少女は新たな決意を秘め、最後の決戦に挑む。


 ―――その頃。
 死―――もとい昏倒している大樹の体に異変が生じていた。
 淡い―――フェイトの魔力光にも似た金色の光が彼の体を包んでいる。
 その光が明滅を繰り返す度、大樹の怪我はじょじょに修復されていた。
 ここにきて、この物語のもう一人の主要人物が動き出した。


 暗い闇の中。
 なのはは光一つ差し込まない道をひたすら歩き続けていた。
 入口もない出口もない、自分がどこから歩き始めたのかも判らない。
 心にぽっかり大きな穴が開いてしまったような―――そんな喪失感を抱えながら、少女はただ歩を進めていた。
 絶望に囚われた虚ろな瞳だけを宿して。
 その時、不意になのはの眼前で光が爆ぜた。
 散らばった光は再び一箇所に集まると、人型を形成する。
 少しずつハッキリする輪郭。
 人型がその姿を明確なものにすればするほど、虚ろだったなのはの瞳に光が戻っていく。
 そしてついに、人型がその真の姿を表した。
 そこにいたのは、少女が再会出来ることを切望していた人物。
 しかし、その願いが一生届かないところへ行ってしまった人物……のはずだった。
「大樹……さん?」
 確かめるように名を呼ぶなのはに、人型―――大樹は頷いた。
 少女には聞こえなかったが、リアルな夢だなぁとか間抜けなことを呟いている。
「大樹さん!」
 なのはは駆け出した。
 大樹の側まで走り寄ると、その体に抱き付く。
 ぽろぽろとその双眸からは大粒の涙が零れ落ちた。
「……ごめんなさい。ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめん……なさい」
 永遠と謝り続けるなのはに、大樹が困惑の表情を浮かべる。
 彼女に謝られる覚えがなに一つとしてない大樹は、ただその場に立っていることしか出来ない。
 リアル過ぎる夢は現実と変わらないのである。
 だが、このままこうしてずっとしているわけにもいかない。
 数分経ってやっとそのことに気付いた大樹は、壊れ物を扱うようにそっとなのはの体を自分から離した。
 しゃがみ、少女に目線を合わせる。
 なにを言おうかしばし迷い、一番無難な言葉を搾り出した。
「なのはちゃん、泣かないでくれ。君に泣かれると、俺は困る」
 対処の仕方が判らないから困る。
 そういった意味をこめた発言だった。
 いっぽう、なのははちょっと違ったニュアンスで大樹の言葉を捉えていた。
 つまり、自分が泣くと俺も悲しくなるから泣かないでほしい。俺は君の笑顔が好きなんだ、と。
 齢九歳にして、実に妄想力に恵まれた少女であった。
「で、でも……! 私たちを守る為に大樹さんは……大樹さんは……」
 震える声で「死んじゃった」と告げるなのは。
 その発言に一瞬固まった大樹だったが、すぐにこれが夢の中の出来事だということを思い出す。
 あぁそういうシーンなのかと呟き、しかしやはり死んだことにされるのは納得がいかず、安心させるように笑みを浮かべてなのはに語りかける。
「俺は死んでなんかいないよ。ちゃんと生きてる。というかやけにリアルな夢―――おぉ!?」
 言葉の途中で大樹は固まった。
 なのはの背後、そこにフェイトとそっくりな姿をした少女がいつの間にか立っていた。
 それだけならば別に驚く必要はなかったが(夢の中だし)、どういうわけか彼女の体は透けていた。
 これが大樹には致命的だった。
 この男、二十を越えているくせにお化けや幽霊が大嫌いなのだ。
 なのははフェイトっぽい幽霊に気付いていないのか、依然として真摯な視線を大樹に向けている。
 彼女に幽霊の存在を教えようと、大樹は震えながら指で指し示す。
 この時の彼には一つ失念していたことがあった。
「え……」
 なのはが指の先を視線で辿る。
 その先には自分の胸―――そこは〝心〟があるとされている場所。
 少女の視点で言えば、大樹はなのはの胸を指していたのである。
 ……そう。
 幽霊がいるのはなのはの後ろ、つまり、大樹が少女に霊の存在を伝えるには指で指し示すだけでは不足していたのだ。
 指で示し、言葉で「後ろ」と伝えて初めて意味を成すその行動。
 大樹はその片割れを恐怖のあまり完全に忘却していた。
 恐怖のあまり、舌がうまく回らなかったのも原因の一つだろう。
「こころ……心……」
 自分の胸を手で押さえながらなのはが何度も頷く。
 それは陳腐な―――使い古された表現なのかもしれない。
 しかし、なのはの胸には確かに息づいていた。
 決して長いとは言えなかった彼との時間、その僅かな時間の中で得た物が胸の中で輝きを放っている。
 悲しみの涙は、いつしか喜びの涙に変わっていた。
 この優しい青年は命を落としてなお、自分を悲しみと絶望の底から引き上げる為にやってきてくれたのだ。
 これ以上、彼に心配をかけるわけにはいかなかった。
 立ち止まっていては、もっと大事なものを失ってしまうから。
「そうだよね……大樹さんは死んでなんかいない。私が―――私たちが忘れない限り、ずっと心の中にいるんだ」
「い、いや、ゆ、幽霊が……」
「ありがとう……大樹さん。私はもう大丈夫だから。大樹さんが守ってくれたこの命があるから、大樹さんから受け継いだこの意志あるから! わたしはもう絶望なんかに負けないっ!」
 強い決意の光がなのはの瞳に灯る。
 彼女の魔力光と同じ桜色の光が少女の体を包み込んだ。
 それに吹っ飛ばされる大樹。
 夢の中だというのに、相変わらずひどい目に遭う男だった。
 ゴロゴロと闇の中を大樹は転がる。
 彼がやっとの思いで視線を持ち上げた時、そこになのはの姿は無かった。


「なのは……」
 フェイトとアルフが医務室を飛び出した後も、ユーノはこの場に残ってなのはを見守っていた。
 怪我ならば回復魔法を施すことが出来る、自分の力が役に立つ。
 だが、今のなのはを蝕んでいるのは心の闇、絶望だ。
 こればかりはユーノと言えど、いやどれほどの腕を持つ魔導師であろうと治癒することは出来ない。
 知らず、ユーノは自分の不甲斐なさに拳を握り締めていた。
 なにも知らなかった少女を魔法の世界に巻き込んでしまったのは他ならぬ自分だ。
 最初こそ不安に感じていたが、なのはの天性の才能、そして途中で知り合うことの出来た傭兵・大樹と協力関係を結ぶことが出来た時点でいつの間にか彼は安堵していたのだ。
 ―――これでもう大丈夫だ、と。
 ところが実際はどうだ。
 ジュエルシードのいくつかは奪われ、なのはは傷付き、今もこうして眠っている。
 そして……大樹は死んでしまった。
 彼らをプレシアの魔法から守る為に無茶な魔法を行使し、敵の少女すら救おうと満身創痍の体で魔女に勝負を挑んだ。
 負けると―――死ぬと判っていながら、決して退けぬ信念だけを支えに絶望に飛び込んだのだ、あの騎士は。
 想いが口をついて出る。
「僕は……無力だ。結局、なにも出来なかった。こうやってなのはが苦しんでいるのに、なにも出来ない、ただ見ているだけなんて……! なんて無様なんだ僕は! あの人が、大樹さんが命を落としてまでなのはたちを守ろうとしたのに……僕は!」
 硬く握り締めた手が震える。
 頬を悔し涙が流れては落ちていく。
「そんなことないよ」
 不意に、その手に白い―――ほっそりとした手が重ねられた。
 驚くユーノに優しく微笑みかけ、少女は―――なのはは絶望を振り払ってここに覚醒した。
「な、なのは……?」
「ありがとう、心配してくれて。でも、もう大丈夫だよ。大樹さんは……託された想いはちゃんとここにあるから」
 目を閉じ、自分の胸に手を置いて、そこにあるなにかを確かめるようになのはが一つ頷く。
 瞳を開いた時、少女の胸には力強い輝きが宿っていた。
 復讐という暗い感情などではない、優しさと慈愛に満ちた穏やかな知性の光。
「行こう、ユーノ君。これ以上、誰も悲しまないように。あの人の―――フェイトちゃんのお母さんからガルウイングさんを返してもらいに行きに」
「う……うん。フェイトたちは先に行ったよ。僕たちも追い付かないと」
 いつもの調子を取り戻した―――いや、以前より確かに成長した少女の姿に、一瞬ユーノは見惚れていた。
 以前のようなどこか危うい感じは一切感じられない、自然体の少女がそこにいた。
「そうだね、遅れちゃった分もしっかりと頑張らないとね!」
 いくら彼女たちが強いと言ってもしょせんは二人だ。
 この時の庭園には、プレシアの手により既に多くのクグツ兵が配備させられている。
 その魔導ランクがAとは言え、物量で攻められればさすがにまずい。
 なのははユーノの言葉に頷くと、レイジングハートを起動させた。
 赤い宝石―――待機状態だったレイジングハートが杖状のデバイスに形態変化する。
 なのはの体を白いBJが包んだ。
「レイジングハート……また私と一緒に頑張ってくれる?」
『―――All right, my master!』
 心なしか嬉しそうに応答するレイジングハートになのはが顔を綻ばせる。
 そうだ、自分は一人なんかじゃない。
 背中を守ってくれる人が、共に戦ってくれる相棒が、そしてなにより、〝心〟を支えてくれる人がついていてくれる。
「うんっ! それじゃあ行こう。全部まとめて終わらせに!」


 母親を止める為、時の庭園に乗り込んだフェイトとアルフだったが、そこに配備されているクグツ兵に阻まれ、なかなか先に進めずにいた。
「……アルフ、大丈夫?」
「全然大したことないよ、こんな奴ら。ただ……数が多いね」
 睨み付けた先には大小三十を越えるクグツ兵が対峙していた。
 大きなものは十メートル以上、小さなものは三メートルほどか。
 その全てが斧や剣といった手になんらかの得物を持ち、侵入者を打ち砕かんと目を光らせている。
「撃ち抜け轟雷―――!」
『―――Thunder smasher!」』
 フェイトの放った攻撃魔法〝サンダースマッシャー〟がクグツ兵数体をまとめて打ち砕く。
 砲撃魔法の隙を突いて襲い来る敵は、獣形態のアルフによって噛み砕かれていた。
 しかし、それでもクグツ兵の数は一向に減るところを見せない。
 地面に開いた割れ目から際限なく湧き出てくる敵を前に、フェイトの端整な顔が僅かに歪む。
 こんなところで足止めされているわけにはいかないのだ。
 一刻も早く母親の元に辿り着き、彼女を説得しなくてはならないのだから。
 その時、壁をぶち破って一際巨大なクグツ兵が姿を見せた。
 その肩には巨大な砲門が二つ乗っかっている。
 無機質な瞳を光らせ、巨大クグツ兵がその砲身をフェイトに合わせた。
 ジジジという空気を焼く音と共に膨大な魔力が砲門に収束していく。
「まずいよ、フェイト!? そいつ、かなり硬いシールドもってる!」
「わかってる! でも、これをどうにかしないと先には進めない―――やるしかないんだ! やるよ、バルディッシュ! もう一度!」
『―――yes sir』
 フェイトの力強い叫びに呼応するようにして、バルディッシュのコアが輝いた。
 放つ魔法は先と同じ〝サンダースマッシャー〟。
 これより強力な呪文もあるにはあるが、敵がわざわざ詠唱を終えるまで待っていてくれる筈がない。
 バルディッシュを両手で握り締め、前へと突き出す。
 雷光をまとった魔法とクグツ兵の放った砲撃が真っ向から激突した。
 周囲に魔力の余波を撒き散らしながらぶつかり合う二色の閃光。
 ジリジリと押されているのは、フェイトの方だった。
 なのはと違い、彼女は高機動戦に主眼を置いた接近戦を得意とする魔導師だ。
 砲撃魔法も扱えることは扱えるが、白の魔導少女と比べるとどうしても劣ってしまう。
(このままじゃ……押し負ける!)
 歯を食いしばって耐えるフェイト。
 そんな少女を嘲笑うかのように、クグツ兵の放つ魔法は威力を増していく。
 そして、金の光が悪しき人形の力によって飲み込まれんとした時、それは舞い降りた。
「ディバイン―――」
『―――Buster!』
 桜色の閃光がクグツ兵の二つある砲門、その一つを吹き飛ばす。
 それによって押されていた金の光が盛り返し、敵の砲撃を飲み込んで残ったもう一つの砲門を撃ち貫いた。
 両肩を失ったクグツ兵はたまらず膝を着く。
 上空から飛来した白い影は、守るようにフェイトの前に降り立った。
「遅くなってごめんね、フェイトちゃん」
「なの……は」
「えへへ、やっと呼んでくれたね、私の名前」
 嬉しそうに笑うなのはに、フェイトの顔にも笑顔が戻る。
 少女の背後に肩から火花をあげるクグツ兵を確認したフェイトは、すぐに表情を引き締めた。
「まだ動いてる。仕留めるなら、今がチャンス……だから、一緒に……」
「あ……うん。うんうんっ!」
 少し恥ずかしそうに告げるフェイトになのはは満面の笑みで応じる。
 ずっとフェイトと友達になりたいと思っていた少女の夢が、ここにきてやっと叶ったのだ。
「じゃあまずは私からいくね!」
 靴から生えた光の羽を羽ばたかせ、少女が空を駆ける。
 構えた杖―――〝レイジングハート〟の先端に円形の魔法陣が展開、桜色の光が収束していく。
「全力全開! ディバイィィン・バスタァァァ!」
 なのはの持つ膨大な魔力。
 それが収束し、桜色の奔流となってクグツ兵を襲う。
 なのはの砲撃魔法とクグツ兵のシールドが接触し、バリバリと火花をあげた。
「サンダースマッシャ―――っ!」
 間髪いれず、フェイトの魔法がシールドに直撃する。
 なのはとの攻防で押されかけていたクグツ兵にもはや抗う術はなかった。
 一気に押し切られ、桜と金、二つの奔流が巨大な体を飲み込んでいく。
 クグツ兵を消滅させなお勢い有り余った二色の閃光は時の庭園、その強固な外壁を貫いた。
 それに込められた魔力が周囲のマナと反応を起こし、連鎖反応を起こすようにして爆発が広がっていく。
「やったぁっ!」
 なのはに両手を握られ、フェイトの頬に朱色が挿した。
「なのは、フェイト! ここは僕とアルフで何とかするから―――」
「あんた達はプレシアのところへ!」
 生き残ったクグツ兵をバインドで拘束しながら二人が言う。
 それに頷いた二人の少女は向かってくる敵を蹴散らしながら最奥へと進んでいく。
 途中、なのはの横顔をずっと窺っていたフェイトがおずおずと口を開いた。
「なのは……もう大丈夫なの?」
 なにが、とは言わない。
 ふぇ? とこちらを見る少女の顔には、アースラで見せた絶望の色は見て取れなかった。
 そのことからもう吹っ切っていることは明らかだ。
 なのはが立ち直ることを信じるとは言ったが、まさかここまで彼女が短期間で立ち直れるとは思っていなかったフェイトは、思うままに言葉を続けた。
「あの人を殺したのは……母さん、だから。やっぱり母さんのこと、憎い?」
「……ううん」
 しばし考えた後、なのはは首を横に振った。
 その瞳には迷いはない。
 見る者をほっとさせるような、穏やかな―――〝星〟のような光を宿している。
「私ね……大樹さんに会ったんだ」
「え……!?」
 今度はフェイトが驚く番だった。
 大樹は死んだ。
 これは間違いない事実だ。
 死人が生き返ることなど普通じゃ有り得ない。
 その普通を覆そうとプレシアは全てを賭け、このような事態を引き起こしたのだから。
 目を丸くするフェイトになのはは微笑み、ゆっくりと語り始める。
「でも、実際に会ったわけじゃなくて、夢の中で出会ったの。もしかしたら私が見たただの夢だったのかもしれない。……だけどね、夢の中で大樹さんは言ってくれたの。『俺はずっとなのはちゃんの胸の中で生きてるよ』って。優しい笑顔と一緒に、そう言ってくれた」
「胸の中で……生きてる」
「そうだよ。フェイトちゃんの胸の中にもきっといるはずだよ。……大樹さんは優しいから、だからプレシアさんにも立ち直ってほしいんじゃないかな。アリシアちゃんはプレシアさんの心の中でずっと生きてる、そう言いたかったんだよ大樹さんは」
 それは陳腐な言葉なのかもしれない。
 しかし、フェイトにはそれがたった一つの真実のように見えて仕方がなかった。
 この空っぽなはずの―――偽者のはずの心を満たす温かい気持ち。
 そっと右手で胸に触れる。
 そこには確かに息づいていた、彼が守ってくれた〝命〟の脈動が。
「だから私は誰も恨まない。そんなこと、大樹さんは望んでいないから。だから……一緒にプレシアさんを助けよう? 教えてあげよう? アリシアちゃんはずっとあなたの側にいるよって」
「……うんっ!」
 目に涙を溜め、フェイトは頷いた。
 この少女は大事な人を奪われてなお、自分の母親のことを救おうと言ってくれた。
 それがフェイトにはなによりも嬉しかった。


別窓 | リリ勘 | コメント:10 | トラックバック:0
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この記事のコメント
クライマックスまで後少し!?
大樹、一時的に表舞台から退場……。
それを死亡したと誤解したまま、なのはとフェイトはそれぞれの思いを胸にプレシアの元へ……。
にしても大樹となのはの夢にアリシアが出るとは、彼女は何を伝えたかったのか?
怒涛のシリアス展開の中、大樹は果たして……。
次回も非常に楽しみです。
あっ、それと誤字を見つけたので報告します。
“フェイトに脳裏を過ぎるのは”の部分は“フェイトの脳裏を過ぎるのは”、“大樹さんから受け継いだこの意思あるから!”の部分は“大樹さんから受け継いだこの意思があるから!”が正しい表現だと思いますのでお時間の有る時に修正を。
では、これにて。
2009-06-29 Mon 00:10 | URL | ベリウス #VSnRaRv6[ 内容変更]
No title
 笑いました。
>その全てが自己犠牲魔法メガ
や、勘違いによる大樹側との解離具合が…。

とにかく凄いとしか言いようが無いです。しかし、終わってしまうのか…。
2009-06-29 Mon 09:19 | URL | 凡士 #.eQIPYcs[ 内容変更]
No title
大樹かっけー、まじかっけー
どのくらいかっこいいかというとまじでかっこいい
2009-06-29 Mon 11:01 | URL | 777 #99DFA69w[ 内容変更]
No title
後に展開されるだろう奪われてしまったガルウイングと大樹の感動(?)の再開…楽しみだ!!
2009-06-29 Mon 16:01 | URL | asakura #-[ 内容変更]
No title
大樹はヘタレなりにカッコいいなあ

でも出て行き辛くね?
2009-06-29 Mon 21:05 | URL | コイピー #-[ 内容変更]
大樹のイメージソングは「戦士の告白」だなと思う。
大樹が死んだという誤解の場面で私は思わず初めてプレシアに同情しちゃったよ(笑)
死んでないのに死亡扱いはな……しかし、勘違い者の主人公は良くも悪くも実態を動かすな。

ガルウイング大ピンチ、アリシアの登場、その他色々のこの展開に目が離せません。
次回も楽しみにしています。
では、
2009-06-30 Tue 00:36 | URL | : #-[ 内容変更]
No title
これまさかこのまま主人公退場で最終回ってことはないですよね?よね?!
2009-06-30 Tue 03:04 | URL | 七誌 #d/CpiV46[ 内容変更]
No title
アリシアっぽい金色の光は雷属性ゲットフラグ?
魔力変換・雷を身に付けたら短時間跳躍ができるようになりそうな気がする、GS的にw

>>齢九歳にして、実に妄想力に恵まれた少女であった
クソワロタwww
2009-06-30 Tue 10:10 | URL | #eShRZu1Q[ 内容変更]
No title
女の子は齢九歳だろうが、乙女回路はすでに形成されていると思うので、
ロマンティックな考え方をするのはむしろ自然かもしれない!

いやぁ、なんだか可愛いですね(子供的な意味で)
2009-06-30 Tue 12:06 | URL | ゾンビ #-[ 内容変更]
No title
はてさてラストはハッピーエンドになるのかな?幽々白書の仙水(大樹)と樹(ガルウィング)みたいなエンドになる気もしますが。
2009-07-07 Tue 08:38 | URL | 猫 #SFo5/nok[ 内容変更]
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