ネクオロでした
スポンサーサイト
-------- -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
別窓 | スポンサー広告
リリ勘 第十六話 
2009-07-20 Mon 17:46
再会。

それは酸っぱい思い出と共に。

 第十六話―――決意の瞳が奇跡を呼ぶの? 最速の騎士とガルウイング


 現在進行形で落下中の……どうもです、俺です。大樹です。
 紐なしバンジーというのをやった事がないわけですが、たぶんこんな感じだと思います。
 無論、スリルはこちらの方が遥かに上です。
 なんたって、パラシュート一つないのですから。
 ―――って。冷静にコメントしている場合じゃないだろ!?
 とりあえず、手足をバタバタしてみるが、一向に落下速度が収まる気配はない。
 この場合、穴の底が見えないことを喜ぶべきか嘆くべきか。
 ただ一つ分かっていることがあるとするなら、このままで行くと俺は間違いなくミンチになるということだ。
 岩肌丸出しの地面に叩き付けられ、色んな物を公開露出している自分の姿を想像して真っ青になる。
「まずい!? まずい!? やばい!? 死ぬ!? 死ぬの? 馬鹿なの? 死ぬの!?」
 い―――や―――っ!
 悲鳴すら重力に引かれて間延びしている感覚に陥る。
 助けてくださいと視線をアリシアに送れば、どういうわけか真剣な表情でこちらを見詰めてくる彼女。
 釣られて、俺も自然と真顔になる。少し涙目の、だけど。
 ―――“呼んで。お兄ちゃんの友達を”
「と、ともだち!?」
 ど、どういうフリなんだ!? 無茶フリにも程があるでしょう!?
 小学校の頃の友人とは既に疎遠だし、中高も同様。
 大学なんて上等なものは出ていないし、バイト仲間はおばさんばかりでとてもじゃないが、友人という関係には程遠い。
 あれ……ひょっとして、俺は友達が居なくない?
 なんということでしょう。友は人生の宝と言うが、時には命の有無にまで左右してくるとは。
 もし、生まれ変わることが出来たのならば、今度は友達をたくさん作れるよう努力しよう。
 目指すは友達100人出来るかな、だ。
 ―――“お兄ちゃん、急いで! 間に合わなくなっちゃう!”
「い、いや、ごめんね。俺、実は友達が―――」
 ―――“大丈夫だよ。わたしを信じて! お兄ちゃんのデバイスを信じて!”
「―――って、そっちかよ!? 」
 時と場合も忘れて、思わず突っ込んでしまった。
 いったい何時の間に俺とガルウイングは友達などという上等な物になったのか。
 そもそも、アリシアとガルウイングのどちらを信用するかと訊かれたら、俺はまず前者を選ぶ。
 あいつは裏切りこそしないけど、間違った方向にブーストするからである。
 無自覚ほど性質の悪いものはないのだ。
 とまあ、言いたいこと聞きたいことはそれこそ山ほどあるが、生憎と今はそんな状況じゃない。
 溺れる者は藁をも掴む。下手な鉄砲数撃ちゃ中る。
 男は度胸。なんでもやってみるものさ。
 最初以外は間違っている気がしないでもないが、やるっきゃないっ!
「ガルウイング―――来いっ!」
 虚空を掴み取る感じで手を伸ばす。
 だけど、何も来ない。来る気配すらない。
 ……そうだよなぁ。あいつにそんな便利機能、あるわけないよなぁ。
 体は下に引っ張られ、涙は上へと流れて行く。
 分かっていた、分かっていたよ。こういう結果になることぐらい。
 全ては公園であいつを拾った所から始まったんだ……。
 あの日、あの場所でアレと出会いしなければ今頃俺は平凡な人生を―――ゴフゥ!?
 モノローグを中断してしまうほど、強い衝撃が突如として俺の腹部に掛かった。
 込み上げてくる吐き気。溢れる涙。
 ……やばかった。何かが胃に残っていたなら、かなりの確率でリバースしていた。
 反射的に手で腹を押さえれば、ビー玉のようなものが掌に収まった。
 手で触るだけでも分かる。この玉はヒビだらけだということが。
『マスター、申し訳ありませんでした。ここまで自己修復するのに時間が掛かってしまったこと、お許しください』
「……人の鳩尾に体当たりを仕掛けてくるあたりに、作為的な何かを感じるのは俺だけか?」
『行きましょう、マスター。こうしている間にも、なのは達は魔術師と戦っています。敵は強大だ。マスタークラスの者でないと、まず太刀打ち出来ません。彼女は我等が倒すべきです』
 外見ボロボロの癖に、相変わらず喋りだけは饒舌なガルウイング。
 それにしても、あんだけ傷だらけのメチャメチャにされたって言うのに、よくもまあここまで持ち直すことが出来たものだ。
 その“バイオハザード”とかいう危なっかしい国の技術がそれだけ進んでいたことの表れだろう。
 というか、アリシアの前で気安く“敵”とか言うな。倒すとか嬉しそうに語るな。
 ほ、ほら、悲しそうな顔しているじゃないか。
「ガルウイング」
『はい』
「……“倒す”んじゃない。“止める”んだ。」
 はい、ここ重要だから。
 俺如きの力で勝てるわけがないでしょーに。
 本音を言わせてもらうならば、時間稼ぎ出来るかも怪しいところだが。
 ラウンドシールドで耐え切れる……わけないだろうし。
 ちょ……アリシアに笑われてしまった。あまりの情けなさに呆れているのか。
 俺の言葉をどう捉えたのか。ガルウイングはデバイスっぽくない声で苦笑を漏らしたあと。
『そうでした、貴方はそういう方でしたね』
 とだけ呟いた。
 今更だが、本当にこいつは機械か? 中に小さな人とか乗ってないか?
 思わずそう疑いたくなるほど、それは“人間”らしい声音だった。
 なんだか最後に会った時よりも、更に人間臭くなっている気さえする。
 しまいには、お腹が空きましたとか言うのではなかろうかと不安になるな。
 仮に言い出したとして、何をあげればいいのだろうか?
 電気か? それとも魔力か? まさか俺の命なんてことは無い……よなぁ?
『それでは、止めに行きましょう、マスター。我等なら、それも可能です』
「その自信はいったい何処から来るのか分からんが……行くぞ、ガルウイング! セタップ!!」
 懐かしい始動キーを唱える。
 次の瞬間には、俺の体は白銀の装甲に包まれて……はいなかった。
 ボロボロの衣服を身に着けた俺だけが、当然のように落下している。
 ……あ、床が見えて来た。随分と深いんだなぁ、この穴は。
「―――って、変身出来ない!?」
『言い忘れていましたが、敵魔術師に鹵獲された際、登録してあった始動キーがリセットされてしまいました。マスター、新たな始動キーの登録をお願いします。―――接地まで、残り120秒』
 ……リセット。
 ―――っ!? い、いかん。一瞬、頭が真っ白になってしまった。
 どうしてそういうことを早く言わないんだという言葉を飲み込み、今一番頭に残っている言葉と動作を再現する。
 頭の片隅で「やめろ」と連呼している俺が居るが……こっちは命が懸かっているんだよ!?
 まず、万歳するように両手を突き上げ、
「―――大!」
 次に伸ばした両手をVの字になるよう斜めにして、
「―――変!」
 最後に右手を腰にあて、左を胸と水平になるよう斜めに、勢い良く伸ばし切る。
 そして腹の底から、悪に対する憎しみを爆発させて叫ぶ。
「―――身っ!」
 どーん、と俺の背後で爆発音……がするといいな。
 無論、実際はそんな事が起こる筈もなく。
 ただただ、耳元で轟々と風の猛る音が鳴っているだけなのだが。
『音声ワード及び該当動作の登録完了。プログラム再起動まで3、2、1―――終了。マスター、再度始動キーを入力して下さい。―――接地まであと70秒』
「ま、またかよ!? ちくしょう―――こうなりゃヤケだ! 大……変……身……っ!」
 身振り手振りを交えて今一度、魂のワードを叫ぶ。
 常識外れの事が起こり過ぎて、もはやまともな思考回路はとっくの昔にショートしてしまっていた。
 少しは耐性が付いたと思っていた過去の自分を、殴り飛ばしてやりたい気分だ。
『―――set up』
 短いガルウイングの電子音声が入った。
 次の瞬間、俺の顔の右半分があの無骨なヴァイザーに覆われる。
 視界も半分だけ機械チックなものになっているので、酷く見辛い。
 視線を下方に落とせば、体は既にあの金属の光沢むき出しの装甲に守られているのが分かった。
 次いで、残った左半分にもヴァイザーが装着される。効果音はガツーンと言ったところか。
 ただ、いつもと違って妙に口元がスカスカする。
 手で確かめてみると、装甲がここだけ妙に薄い。手で押しただけで凹むってどうよ。
 ベコベコと音を立てるその様は、金属というよりアルミ板だ。
 ヴァイザー内の画面には、丁度口の部分だけが赤く塗り潰された俺の全身像が映っていた。
 嫌な予感がする……。
『マスター、申し訳ありません。BJ生成システムの一部にエラーが発生した模様です。自己修復まで残り180秒』
「ひゃ、180秒っておい!? 明らかに時間オーバーしてるじゃないかよ!? どうにかならないのか!? もう体は何とかなっているみたいだし、このまま魔法を使っても……」
『……分かりました。マスター、そこまで覚悟を決めておられると言うのならば―――』
 答えるガルウイングの口調は、やたらと重かった。
 悲壮な覚悟が滲み出ている……そんな感じがする。
「ま、待った! やっぱなし。今のはなし! 他には!? 他になんか良い方法はないのか!?」
『検索―――ヒット。マスター、操作の一部を手動に切り替えさえすれば、なんとかなるかもしれません。宜しいでしょうか?』
「あ、ああ、頼む。頼むから早くしてくれ!」
 グングンと床が迫って来ている。
 俺が哀れなミンチになるか、挽肉になるかはこの数秒に掛かっていると言っても過言ではない。
 ―――って、両方デッドエンドじゃないか!?
『切り替え―――完了。マスター、エラーの発生している箇所のBJを構築しました。これを直接、顎部に装着して下さい』
 ガルウイングの言葉通り、いつの間にか俺の手の中には硬い感触が生まれていた。
 コイツの言葉を信じるのならば、これをスカスカの口に差し込むことで変身が完了するらしい。
 今まで大して役に立っていないと思っていたが……結構重要だったんだな、この部分。
 あれか……飛行機と同じでネジ一本の有無が重大な事故を引き起こすとかそんな感じなのか。
 ―――“お兄ちゃん!”
 ……分かっているよ、幽霊ちゃん。ごめんな、俺はまだ……逝けないよ(地獄的な意味で)。
 左手にBJの口の部分を持ち、強引にスカスカした部位に差し込む。
 気分は正にXラ○ダーである。
 駆け巡る魔力。何故か迸る金色の光。
 俺の魔力光は灰色の筈なので、金色が混じることは有り得ないと思うんだけど……まあ、深く考えたら負けだろう。
『BJ、セットアップ完了! 姿勢制御スラスター、出力最大っ!』
 BJの各所から出る灰色の炎。
 俺の僅かな魔力を総動員しているのにも関わらず、一向に落下速度が緩まる気配はない。
 というか、冷静に考えればこれは当然の結果だ。
 いくら元が魔力とかいう不確かな物だとしても、今はこうして鎧となって顕現している。
 流石に鉄製の鎧と同じだけの重量があるわけじゃないが、それでも相応の質量を有している。
 詰まる所、落下している最中に落下している物体が重くなれば、勢いが加速するのは当然なのだ。
 ―――そう思っていた時期が、私にもありました。
『空気抵抗の減少を確認。速度を追求したBJの形状が裏目に出たようです』
「あー、そっちね。うん」
 呆けたようにコクコクと首を縦に振る。
 アリシアはガルウイングの言葉がうまく理解出来ないらしく、首を捻っていた。
 そういや昔、落下速度と重量は関係ないって授業で習った気がする。
 まだ幼い幽霊のアリシアが分からないのは仕方ないけど、二十歳を越えた俺が本気で間違っていたというのは非常に恥ずかしい。
 冷静とか言っていた少し前の自分をぶん殴ってやりたい気分だ。
 と、兎に角、このままでは俺は白い金属片の混じった挽肉になってしまう。
 だが悲しいことに、俺の雀の涙程度の魔力ではどう足掻いたところで落下速度を殺すことは出来ない。
 だからこそ―――このスペルがあるわけで。いや、違うかもしれないが。何より、使いたくないが。
「カウンターブーストッ!」
『Ready―――Counter Burst!!』
 阿吽の呼吸という表現がしっくり来てしまうほど、ガルウイングの反応は早かった。
 いや、コイツのことだから予めこの呪文を使用出来るよう用意していたのかもしれない。
 変形は一瞬。
 両肩にずっしりとした重みを感じたかと思えば、次の瞬間にはそれが痛みへと悪化していた。
 灰色の炎を吐く二つに分かれたタービン。
 逆噴射によって一気に勢いを削がれた俺の体は、辛うじて床との抱擁を回避することが出来たのだった。
 姿勢制御スラスターを吹かし、ゆっくりと接地する。
 若葉マークの俺はカッコ良さよりも、安全を意識して運転しなければいけないのである。
『流石ですね、マスター。魔力の消耗を少なくする為に、限界点間近まで魔法を行使しないとは、畏れ入りました。これも日頃の訓練の賜物でしょう』
 そんなもん、いつしたよ。
 ―――“お兄ちゃん、大丈夫……?”
「……君だけだよ。俺を理解してくれるのは」
 少しばかり長く居る相棒(他称)はちっとも俺の本質を理解せず、先ほど知り合ったばかりの少女(幽霊)に同情される俺はいったい……。
 ……止そう。自分が虚しくなるだけだ。
 兎にも角にも、なんとか一命を取り留めることは出来た。
 あとはこのまま帰るだけ―――だったら、楽だったんだけどなぁ。
 フワフワと浮かぶ幽霊ちゃんは、向こうを指差している。
 この“向こう”という表現をもっと分かり易く言うのならば、“地震の中心”となる。
 要するに一番危ない所。死ぬ確率が突出している所。地獄。
『マスター、この先になのは及びフェイトの魔力反応を確認しました。そして、とりわけ大きな反応が一つ。魔力波長の分析の結果、ジュエルシードのものと断定。プレシアはこれを用い、“アルハザード”への道を開く算段のようです』
「アルハザードねぇ……行けんの?」
 行きたいと言うのなら、別に無理に止める必要はないと思う。
 それが正しいかどうかは別にして、行きたいと願うのは個人の自由なのだから。
 というか、アルハザードっていったい何処にあるのだろう?
 東京の裏道にある、隠れ家的バーとかそんな感じの場所だろうか?
 それとも、ネバーランドみたいなメルヘンな所か?
 思い返せば、ガルウイングもそこ出身だとか言っていた。
 ……俺は絶対に行きたくないな。少なくとも、俺に優しい場所じゃなさそうだ。
『現段階での成功率は……0,000000000001%。これでもかなり高く見積もってあります。私のシステムと同期させれば、僅かながら数値は上昇しますが……』
 ガルウイングには珍しく、言葉を濁した。
 つまり、まず間違いなくプレシアさんの転移は失敗すると。こういうことだな。
 ジュエルシードという反則的な代物を使っても届かない場所にあるのか、そのアルハザードは。
 そんな所から、俺の町までよくもまあ無事に流れて来れたものだと感心してしまう。
 それも天文学的数値の奇跡だと思うなぁ、俺は。
「一応、参考までに訊いておきたいんだけど、失敗したらどうなるんだ? 流石に行けませんでしたで終了ってわけにゃいかんだろ」
 爆発でも起きるのか、はたまた地震か。
 いや、地震は現在進行形で起きているか。
 大地が割れ、そこから溶岩が噴出すとかだったらどうしよう……?
 ヴァイザーの中で恐れ戦く俺。
 だがしかし、返って来た答えは予想の更に斜め上を行っていた。
『良くて、この空間の消滅。最悪の場合、この空間に連なる全ての世界が時空震によって崩壊、消滅するでしょう。何度かシュミレーションしていますが、今の所、3:7の割合で後者が押しています』
「…………」
 スケールが違い過ぎて、言葉が出ない。
 爆発やら地震やらのレベルじゃなかった。消滅とか崩壊とか……物騒過ぎるだろ、それは!?
 ―――“お母さんを……止めて。お願い……!”
 見上げれば、涙を流しているアリシアが居た。
 俺は彼女の母親の真意を知らない。
 でも……アリシアは死んで尚、プレシアさんのことを大切に想っていることは痛いほど伝わって来た。
 そして、母親と同じくらいフェイトちゃんのことが好きだということも。
 これ以上、こんな可愛い子を泣かせるわけには……いかないよな。
 ……たった今、勇気を振り絞る理由が出来てしまったってわけだ。
 無骨な鉄仮面の内で苦笑する。
 涙? ふはは、俺をなめないでもらおうか。そんなもの、とうの昔に出尽くしたわ!
 心の汗なら現在進行形で垂れ流しているが。
 またしても、阿吽の呼吸で投影されるスペル。
 だが、この時ばかりはありがたい。ヘタレな俺は、コイツに後押しされてやっと行動出来るのだから。
 感覚的にはあれだ。某漫才トリオの「押すなよ!? 絶対に押すなよ!?」に近い。
 目の前に赤いボタンがあると、ついつい押したくなってしまう心理と同じだ。……違うか。
「空間の消滅やら世界の崩壊やらはよく分からんが……」
 俺の闘志を感じ取ったのか。
 鳴動するように、背のタービンが一際大きく唸りをあげた。
 BJを装着した時と同じように、体から金色の光が零れ始める。
 ―――“私も一緒に頑張るから……”
 アリシアの優しい声が聞こえる。
 光に包まれる俺のBJ。
 体の各所に金の線が走っていく。
 タービンの回転数は更に上がり、ヴァイザーが意志を宿したかのように一際強い輝きを放つ。
 首に収束した魔力は金色のマフラーとなり、余剰魔力の風の中で穏やかに揺れていた。
 ……これ、なんて仮面ラ○ダー?
「仕方ない。世界を……救うと―――」
 決め台詞を発しようとしたところで、理不尽な爆発に口上を遮られる。
 なんというか、俺らしいと言えば俺らしいのか……?
 カッコ良く決め付けるなんてお前のキャラじゃないんだよバーカ、的な修正が働いたということか。
 ……とりあえず、この胸に滾る勇気が消えない内に行くとしよう。
 絶対に後悔することになるとは思うが……ま、まあ、なんとかなるさ。なんとかなれば……いいな。
 早速揺らぎ始めた勇気と決意を抱えつつ、俺はスペルを唱えるのだった。
 魔法の威力に打ちのめされ、すぐに意識を失ったのは言うまでもない。
 これ、無駄に強力になっていないか!?


 窮地をなのはによって救われたフェイトは、彼女と別れ、単身でプレシアの元へ向かっていた。
 エイミィからの報告によると、プレシアは大樹から奪ったガルウイングを媒介にしてジュエルシードを強引に発動したらしい。
 かつて、一つの世界を崩壊に導いたとされる遺産は、一人の女性の歪んだ願いを叶えようと、その身に蓄えた膨大な魔力を解き放った。
 並の魔導士ならば到底御しきれない魔力を、プレシアはその類稀なる才、そして愛する娘を蘇生したいというその執念だけで支えている。
 しかし、それも長くは続かないだろう。
 事実、彼女の牙城たる“時の庭園”は崩壊が始まっている。
 天井が落ち、壁の至る所には亀裂が奔り、次元震の影響で発生した不気味な穴―――虚数空間が、全てを飲み込まんとその規模を広げている。
 彼女は、全てが虚無に帰す前にアルハザードへの門を開き、旅立とうとしているようだが……。
「急がないと……!」
 落下してくる破片を最小限の動きでかわしながら、フェイトは更に飛行速度を上げる。
 プレシアの所に辿り着いたとしても、自分は何も出来ないかもしれない。
 言葉が届かないかもしれない。見向きもされないかもしれない。
 自分は―――フェイト・テスタロッサは、プレシアの娘・アリシア・テスタロッサのクローンに過ぎない。
 それも記憶だけを中途半端に引き継いだ欠陥品。
 今までプレシアがフェイトに厳しく当たっていたのは、彼女を想ってのことではなかったのだ。
 母と思っていた女性は、自分のことを“人形”としか見てはいなかった。
 外観だけがよく似た、ただの失敗作としか……。
 昨日までは、優しかったプレシアの姿が記憶の中にあったからこそ頑張ってこられた。
 どれだけ傷付こうとも、どれだけひどい仕打ちを受けても、母親の夢を叶える為なら我慢出来た。
 だが……その全てが偽りに過ぎなかった。
 記憶の中にあるプレシアの優しい笑顔は、自分に向けられていたものではなかった。
 あの笑顔はアリシアに向けられたもの。
 自分は―――フェイトはそれを自身の思い出だと思い込んでいただけ。
 だから、その事実を知ってしまった時、少女の心は一度壊れてしまった。
 見たくない光景から目を背けるように、聞きたくない言葉から耳を塞ぐように。
 信じたくない事実に直面し、フェイトの心は時間を止めてしまったのだ。
(だけど……私は気付いた。私は……まだ一人じゃないって。あの子と―――そして“あの人”がそれを教えてくれた。思い出させてくれたから……!)
 何度拒絶しようと、声をかけ続けてくれた少女が居た。
 こんな自分に、少女は「友達になりたい」と言ってくれた。
 だからこそ、信じることが出来たのだ。
 自分と同じように心を壊してしまったあの少女が、立ち直ってくれることを。
 そして、フェイトが信じていた通り、少女は―――なのはは再び瞳に光を取り戻した。
 絶望の淵から、白い翼を広げて飛び立ったのだ。その胸に決意の明かりを灯して。
「サンダーレイジ―――っ!」
 一際大きな破片を魔法で粉砕し、フェイトはひたすら前へと進む。
 こうしている間にも、プレシアはこの世界と引き換えにしてでもアルハザードへと向かおうとしている。
 “あの人”が命を賭けてまで守ろうとしたデバイスを使って。
 なのはと同じように、彼もまた敵である筈の自分を幾度となく救ってくれた。
 彼ほどの実力の持ち主ならば、奪おうと思えばいつでもフェイトからジュエルシードを奪うことが出来た筈だ。
 だけど、彼は―――大樹は最後までそれを是とはしなかった。
 その真意を知る術は今となってはない。
 だが、彼が自分のことを信じ、守ろうとしていてくれたことは痛いほど理解出来る。
 ―――ジュエルシードを暴走させてしまった時、口では「大したことは出来ない」と言いながら、大多数のダメージを肩代わりしてくれた。
 ―――時空管理局の目があることを知りながら、嵐の中に誰よりも早く助けに来てくれた。
 ―――プレシアの放った空間跳躍魔法から、身を挺して守ってくれた。
 ―――傷付いたアルフを管理局に引き渡すこともせず、手厚く看護してくれた。
 ―――自分のことを“人形”と断じたプレシアの言を、真っ向から否定してくれた。
 ―――そして。
 ―――“命”を失って尚、なのはを絶望の淵から救い出してくれた。
 思い返して、改めて気付かされる。
 大樹の存在が、自分たちにとってどれほど大きかったのかが。
「だから―――今度はわたしの番なんだ!」
 彼が成し得なかった願いを、フェイトは自分の意思で叶えると決めた。
 誰に頼まれたわけでもない。そうすることが正しいと、そうしたいと思ったからこそ先を目指す。
 勝機のない戦いと知っていながら、負ければ命を落とすと知りながら。
 ガルウイングを―――この世界を守る為に、大樹は命が燃え尽きるまで戦ったのだ。
 彼が守ろうとしたこの世界を、今度は自分が守ってみせる!
 その瞳に新たな炎を宿し、金の少女は崩壊する庭園をひた走る。
 “母親”との再会の時は―――近い。


別窓 | 日記 | コメント:4 | トラックバック:0
<<零の使い魔。~聖十字の騎士~ 第十五話 | 後悔すべき毎日 | リリ勘。 第十五話>>
この記事のコメント
No title
主人公してますね~
やっぱりいつもの様に良い人な大樹君
2009-07-20 Mon 19:19 | URL | コイピー #-[ 内容変更]
0,000000000001%という壁!
つまり大樹とガルウイングの出会いは0,000000000001%ということでもあるのか。
というか、本当にガルウイングよく来たな。0,000000000001%で。
次回はプレシア対大樹か?
そしてろ、大樹が生きていたことを知ったフェイトは?
ますます、目が離せません!
では、
2009-07-21 Tue 01:17 | URL | : #-[ 内容変更]
次回、まさかの再会。
大樹の声に答えて跳んで来たガルウイング……。傍目から見れば主人に忠実なデバイスに見える。けどぶつかる所がマズイな……。
死んだと思っていた大樹と再会した時、なのは達アースラメンバーは……。
次回も楽しみしています。
2009-07-21 Tue 11:00 | URL | ベリウス #VSnRaRv6[ 内容変更]
No title
今回も楽しく読ませていただきました!
最近はここの更新をチェックするのがすごく楽しみです。
次回ついにフェイトと再開ですか!
次回も楽しみにしていますので、がんばってください!
2009-07-24 Fri 19:01 | URL | signalcat #L1x6umnE[ 内容変更]
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック
トラックバックURL

FC2ブログユーザー専用トラックバックURLはこちら


| 後悔すべき毎日 |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。