ネクオロでした
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リリ勘 第十七話
2009-08-14 Fri 00:01

ご都合主義と笑わば笑え! だが見よ、この燃える展開を!

とはいうものの、今回のお話は主人公君がほとんど出ていなかったり。

そして、最初に言っておく。

おかしくて当然なのです。十にも満たない少女の心理描写を、無駄に二十年以上生きてきた男が出来るわけないでしょう? ええ、だからこれが精一杯。俺のポッケには少し大き過ぎらぁ。



 第十七話―――『揺れる心、そして繋がる想い……なの? 神速の騎士と金の姉妹』


「ディバイン―――バスタ―――っ!」
 桜色の砲撃が、無骨な鎧兵たちを薙ぎ払う。
 その小柄な体躯に、魔力ランクAAAという強大なスペックを有する少女は、並の魔導士ならば苦戦必至だろうクグツ兵を多数相手にして尚、未だ余裕があった。
 しかし、それはあくまで魔力的な意味での話だ。
 満足な休息を取ることもなく動き続けている少女の体は、着実に限界へと近付きつつある。
 もし間に合わなければ、世界が―――自分の家族や友人の住む世界が消滅してしまうかもしれないという、未だかつて経験したことのない危機感も、不可視の重圧となって少女に圧し掛かっていた。
 気持ちを落ち着かせるように大きく一度深呼吸をして、なのはは再び前進を開始する。
 その肩には、先ほど合流したフェレット状態のユーノが乗っていた。
 元々、彼はなのはやフェイトのような攻撃魔法の扱いは得意としていない。
 ユーノが習得しているのは回復魔法や探査魔法、捕縛魔法といった他者をサポートするものが大半なのはこの為である。
 多数のクグツ兵をバインドで捕縛することは出来てもそれを破壊する術を持たぬ彼は、必然的に共闘していたアルフよりも多くの魔力を使用することになる。
 それ故、クグツ兵との戦いで多くの魔力を喪失した彼は、なのはの足手纏いにはならぬよう、魔力が回復するまでこの形態を取っているのだった。
「なのは、そこを右に曲がって!」
「うん!」
 ユーノの指示に従い、なのはは目的地へと少しずつ近付いていた。
 彼らが向かっているのは、“時の庭園”の動力炉。
 プレシアはジュエルシードの魔力を使ってわざと次元震を起こし、ガルウイングに記録されている座標上にアルハザードへの門を繋ごうとしている。
 だが、彼女の予想に反して、ジュエルシードの大半はなのはの属する時空管理局に渡ってしまった。
 この不足を補う為に、プレシアは自身の住む“時の庭園”の動力炉を使用したのだ。
 アースラスタッフの情報によれば、この“時の庭園”の動力炉にも、ロストロギアの一種が搭載されているのだという。
 ジュエルシードと動力炉のロストロギア。
 この二つが生み出す膨大な魔力が、プレシアの最後の望みだというわけだ。
 障害を排しつつ、なのはは先を急ぐ。
 一刻も早く動力炉を止め、フェイトのところへ行かなくてはならない。
(もうちょっとだけ待ってて! フェイトちゃん)
 やっと“友達”になった少女の顔を思い浮かべ、なのははレイジングハートを握る手に力を込めた。


 ―――“時の庭園”。
 ここに住んでいたフェイトも知らない最奥に、プレシアとアリシアは居た。
 ……いや。
 アリシアは“ある”といった方が適切かもしれない。
 液体の満ちたカプセルの中、体を丸めるようにして裸の少女が一人浮かんでいる。
 その瞳は伏せられているが、髪の色、顔の造詣はフェイトと寸分違わず同一の少女。
 彼女こそがプレシアの一人娘であると同時に、フェイトの“オリジナル”なのであった。
「……母さん」
 フェイトがか細い声で呼びかける。
 自分が愛されていなかったのは、プレシア自身の発言で分かっている。
 それでも、それでももしかしたら……。
 そう考えてしまう少女を、誰が責められようか。
 だが、少女が母と信じていた女性は、その声に耳を貸そうとはしなかった。
 両者の関係を表すように、プレシアとアリシアの周囲は強力な結界が張られている。
 なのはとフェイトが初めて協力して倒したあの巨大なクグツ兵、あれが有していたフィールドとは比べ物にならないほど強靭な防御結界。
 それが強固な壁となって立ち塞がっていた。
「お願いだから……母さん、もうやめて! このままじゃ世界が―――世界が壊れちゃうんだよ!?」
 フェイトの力では、結界を破壊することは出来ない。
 少女に出来るのは、フィールドを力の限り叩き、声を張り上げて、母親に自分の言葉を伝えることだけ。
 一度大規模な次元振動が発生してしまえば、それを防ぐ手立てはない。
 この“時の庭園”を基点に、連なる全ての空間が虚無へと飲み込まれていくだろう。
 ―――それだけじゃない。
 次元振動によって発生した巨大な“波”は複数の空間に伝播し、新たな災害を呼び込む危険性だってある。
 そのことは、魔導の研究者だったプレシアが一番よく理解している筈だ。
 ―――だが。
「……それがどうかしたの?」
「え……」
 一瞬、フェイトは母親の言っていることがよく分からなかった。
 呆けたように立ち尽くす少女をつまらなそうに見詰め、プレシアは口を開いた。
「私はアリシアさえ戻ればそれでいいのよ。それで例えこの世界が消滅したとしても、ね。私の大切なあの子が戻って来るのなら、世界の一つや二つ、喜んで差し出すわ」
 カプセルの表面を愛おしそうに撫で、プレシアは口の端を歪ませる。
 彼女の足元に展開された巨大な魔方陣が、主の願いを叶えんとその輝きを増した。
 フェイトやなのはが使っているものと同じ、ミッドチルダ式の魔方陣。
 しかし、細かな部分で改変が行われているのか、その構成式はフェイトも初めて目にするものだ。
 紫の魔力光を吹き上げるその姿は、幻想的というよりも禍々しいと言った方がしっくり来る。
「母さん……」
「もうそう呼ぶのも止めてくれるかしら? 私を母と呼んでいいのは……そう、この子だけ。私はアリシアと一緒にアルハザードに旅立つの。貴女は目障りだから、さっさと消えなさい」
「…………」
 必ず母を止めると誓って、ここまで来た。
 大樹の果たせなかった願いを代わりに叶えると。この世界を守り通すと。
 強い決意を秘めて来た……筈だった。
 ならば、どうして「貴女を止める」と言えないのか?
 どうして、手にした杖を構えることが出来ないのか?
 優しい言葉を期待していたわけじゃない。
 ただ……信じたかった。いや、心の何処かで信じていたのだ。
 きっと自らの過ちに気付いてくれる、と。
「やっぱり、貴女はアリシアとは違うわね。あの子はいつも優しかった。良い子だった。私の言い付けだって、ちゃんと守ってくれた。本当に……使えない人形ね」
「…………」
 頬を涙の滴が落ちていく。
 意識が遠くなる。
 何も感じない。何も聞こえない。何も見えない。
 繕ったばかりの心に、ヒビが入っていく。
 自分は人形だから……。アリシアじゃなかったから、母親を歪めてしまった。苦しめてしまった。
 悪いのは自分だ。自分が―――“フェイト”という存在に生まれてしまったから。
 守ろうと決めた誓いが、決意が、薄れるようにして消えて行く。
(やっぱり、わたしが悪いんだ。わたしが偽者だから。お人形だから。こんなことなら、わたしなんて……わたしなんて生まれてこなければ―――)
 そう思いかけた瞬間、魔力が弾けた。
 今まで辛うじてだが安定を見せていた魔法陣が不規則に明滅し、漏れ出た膨大な魔力が嵐のように荒れ狂う。
 暗く沈み掛けていた少女の瞳に、微かに光が灯った。
 その先に映っていたのは―――灰色の宝珠。
 アルハザードで製造されたというロストロギア―――“ガルウイング”。
 それが、何かを訴えかけるように光輝いていた。
 灰色の宝珠が一際大きく光を放つ。
 硝子の砕けるような音が少女の耳に届いたのは、その直後だった。
 気付けば、ガルウイングの姿は消え、フェイトの前にはぽっかりと穴の開いた結界が広がっていた。
 あれだけ荒れ狂っていた魔力は幻のように霧散し、弱々しく明滅する魔法陣だけが残されている。
「あ……あぁ……」
 再び、フェイトの瞳から涙が零れた。
 だが、それは悲しみの涙などではない。
 それは喜びと―――深い感謝から来るもの。
 ガルウイングに何が起こったのか、フェイトには分からない。
 だがもし―――もしも。
 “彼”の遺志が、自分に何かを伝えようとしたのだとすれば……。
「……ありがとう」
 流れる涙を拭い、前を見据える。
 大樹は死して尚、自分を見守っていてくれた。
 自分の存在を否定しようとした少女を、叱り飛ばしてくれた。
 悩む暇があるのなら、泣いている暇があるのなら、前に進めと。
 なのはがしてくれたように、自分の気持ちを真っ向からぶつけろと。
 道を切り開き、背を押してくれたのだ。
(そうだ。わたしはまだ伝えていない。わたしの……本当の気持ちを。わたしの言葉で)
 相棒を握り締め、結界を越えていく。
 今も見ていてくれているだろう彼に、これ以上心配をかけるわけにはいかない。
 一歩一歩踏み締めるようにして、フェイトは進む。
 あれだけ遠いと感じた距離が、今はすぐ手が届きそうなくらい近く思えた。
 そして―――。
 本当の意味で、フェイトは母親と再会した。


 “時の庭園”を襲う振動が大きくなっていく。
 ギリギリの所で均衡を保っていたバランスが、先の魔法陣の暴走で崩れてしまったのだ。
 少女の居るこの地も、今はまだ結界が稼動しているのでなんとかなっているが、じきに瓦礫の下敷きになってしまうだろう。
 綻び始めた結界の隙間から、細かな破片が雪のように降って来ている。
 そんな世界の中で、フェイトは母親と再会を果たした。
「……母さん」
 フェイトの表情が曇る。
 プレシアの体はもはや限界だった。
 不治の病に侵されたその体で、未だかつて類を見ない大規模な魔法の行使。
 更には、ロストロギアの内包する膨大な魔力のコントロールを一手に引き受けていたのだ。
 それで、五体満足で居られるわけがなかった。
 アリシアの眠るカプセルに体を預け、プレシアは辛うじて立っている。
 吐血したのか、その口の端からは血の滴が垂れていた。
「そう呼ぶなと……言った筈よ……ゴホッ」
 口元を押さえるプレシア。
 あてた指の隙間から血が零れた。
「―――っ!」
「来ないで……!」
 思わず駆け寄ろうとするフェイトを、プレシアは手にした杖で制した。
 この状況でなお諦めていないのか、その瞳には依然として黒い炎が灯っている。
「まだよ……まだ終わりじゃないわ。私にはもう時間がないのよ。これが最後のチャンスなんだから……ゴホッゴホゴホ」
 もはや口を利くことも辛いのだろう。
 立っていることも出来ず、そのまま座り込む。
 手にしていた杖が床に落ち、渇いた音を立てた。
 弾かれたようにフェイトが飛び出し、プレシアの体を支えようとする。
 それを遮ったのは、敵意のこもった執念の魔女の視線だった。
「来るなと……消えてと言ったでしょ。私はね、形だけあの子に似た貴女のことが前から―――大嫌いだったのよ……!」
 それはフェイトにとって死刑宣告にも等しい言葉だ。
 彼女は今まで、母親の言葉だけを信じて生きて来た。
 プレシアに愛されたいが為だけに頑張って来た。
 そう―――“今まで”は。
「それでも……いいよ」
「―――っ!?」
 フェイトの発した言葉に、プレシアは言葉を失った。
 驚きに目を見開き、器に過ぎなかった少女を凝視する。
 フェイトの顔は、春の木漏れ日のように穏やかだった。
 また泣くと思った。絶望に打ちひしがれると思った。
 それを狙って、この言葉を口にしたのだ。
 ところが現実はどうだろう?
 あろうことか、フェイトの顔には微笑みが浮かんでいる。
「別にお母さんが私のことを嫌いでもいい。恨んでいてもいい。憎んでいてもいい」
 “娘”であることを否定された少女が、ゆっくりとした足取りで歩み寄る。
 母親に敵視されても怯むことなく、確実にその距離を縮めていく。
 プレシアは動かない。いや、動けなかった。
 体の不調もあるだろう。だがそれだけではない。
 ずっと押さえ込んでいた気持ちの一部が―――否定していた気持ちが、心の奥底で騒いでいる。
 それが彼女の見えぬ足枷となり、体の自由を奪っていた。
「それでもね、それでもわたしは―――」
 いつしか、少女の瞳は大粒の涙を湛えていた。
 ニコリと微笑むと、その頬を水滴が伝って落ちていく。
 思えば、だいぶ遠回りをしてしまった気がする。
 言おうと思えばいつでも言えたのに、こんなに時間がかかってしまった。
 だけど、間に合った。
 ―――そして。
 フェイトはようやく本当の意味で母親の元に辿り着いた。
 しゃがみ込み、少女は母親と視線を合わせる。
 プレシアは―――強大な力を持っている筈の魔女は、怯えるように眼前の少女を見詰めていた。
 両者の視線が邂逅する。
 生まれて初めて、フェイトが母親と真っ向から対峙した瞬間。
 堪え切れぬ感情が溢れ出し、涙となって零れ落ちる。
 涙を拭い、一度小さく深呼吸をした後、フェイトは静かに口を開いた。
 それは―――“人形”だった少女が初めて口にする本心。彼女が“人間”である証。
「わたしは母さんのことが……大好きです」
 どれだけきつい言葉を浴びせられようと。
 どれだけひどい仕打ちを受けようと。
 頑張ることが出来たのは、その中心にこの気持ちがあったからだ。
 だからこそ、どうにかして彼女の夢を叶えてあげたいと思った。笑顔を取り戻したいと思った。
 何故なら、少女は母親のことが“大好き”だから。
「大好き……です。ずっとずっと……だから……」
 そのあとは言葉にならなかった。
 言いたいことはたくさんあった筈なのに、口がうまく動いてくれない。
 もっと母親の顔を近くで見たいのに、拭っても拭っても涙が止まらない。
「…………」
 嗚咽を漏らす少女を、プレシアは言葉もなく見詰めていた。
 自分にとって、“人形”に過ぎなかった少女。
 外見だけが娘に似ているだけの、出来損ないだった筈の少女が、彼女の目にはまるで別の存在のように映っていた。
 幾度となく辛辣な言葉を浴びせてきた。しつけと称し、体罰を加えたことも数え切れないほどある。
 自分は恨まれてもおかしくないことをしてきた筈だ。
 だというのに―――。
 フェイトに気付かれぬよう、首を振る。
 自分の娘は一人だけ。アリシアだけだ。
 目の前の存在は、似ているだけの別物に過ぎない。
 どうせこの感情も、魔力不足から来る一時の迷いに違いない。
 そう決め付け、突き放そうとしたところで―――。
 天井からパラパラと落ちて来る細かな破片に気が付いた。
 視線を持ち上げる。
 そこに在った光景を目にした途端、プレシアの体を電流のようなものが駆け抜けた。
 動かない筈の体を動かし、両手で力一杯フェイトを突き飛ばす。
 1メートルほどの距離を開け、ペタンと尻餅をつく金髪の少女。
 その直後だった。
 耐え切れなくなった天井が倒壊し、一際巨大な構造物が落下してきたのは。
 圧倒的な質量を以って結界を破壊したそれが、傷付いた魔法陣に突き刺さる。
 そこは―――数秒前まで、フェイトが居た場所。
 床に亀裂が奔り、長い月日をかけて構築されただろう魔術の結晶はただの瓦礫に変わっていく。
 重量に負け、一部の床が崩れ落ちた。
 その下には、魔法を無力化する深淵の闇が広がっている。
「―――っ!? 母さん!? 母さん!」
 少女の視線の先で、プレシアとアリシアは残された僅かな床の上で孤立していた。
 母親はもはや指一つ動かす力もないのか、ぐったりと愛娘の眠るカプセルに身を預けたまま動かない。
「……何をやっているのかしらね……私は……」
 蚊の鳴くような声で呟き、苦笑を浮かべる。
 深刻な魔力不足で意識が朦朧とする中、必死になってこちらに手を伸ばしているフェイトの姿を、プレシアは歪む視界の内側で見詰めていた。
 何故自分があのような行動を取ったのかは、まったく以って理解出来ない。
 理解出来ないが……不思議と、悪い気はしなかった。
 いや、むしろ、久しく感じたことのない穏やかな気持ちで満たされている。
 それは娘が―――アリシアが生きていた頃は、当然のようにこの胸の中にあった温かなもの。
 生きる希望を喪失したあの日、何処かへ行ってしまったもの。
 それが確かに、今この瞬間に息づいていた。
 ゆっくりとフェイトの姿が小さくなっていく。
 プレシアたちの居た足場の土台が崩れ、虚数空間に引きずり込まれ始めたのだ。
 一度崩壊が始まってしまえば、それを止める術はない。
 連鎖的に建物は瓦礫と化し、そう時間をかけずに虚無へ吸い込まれることだろう。
 出口のない、無限の迷宮へと。
「離して!? 母さんが!? 母さんが……!」
「嫌だ! 絶対に離すもんかっ!」
 大粒の涙を零し、手が届かないと分かっていても少女は身を乗り出すことを止めようとはしない。
 彼女の体をアルフが羽交い絞めにしていなければ、そのまま飛び込んでいただろう。
 その光景を眺め、プレシアは小さく嘆息した。
 彼女は気付いていなかっただろう。この時の自分が、微笑を浮かべていたことに。
 いつしかその瞳からは狂気の光は消え、フェイトが写真でしか見たことのない、優しく穏やかな明かりが灯っている。
 ここに来てようやく魔女は……人の心を取り戻したのだ。
 心から親を想い、慕った。娘の優しい心によって……。
「もう……最後の最後まで、言うことを聞かない子なんだから……」
 プレシアはフェイトに笑いかけ―――そして、有り得ない者を見た。
 閉じようとしていた視界が、一時的に見開かれる。
 そこでは、泣きながら手を伸ばす少女に重なるようにして、よく似たもう一人の少女が何かを伝えようと、目に涙を湛えながら懸命に口を動かしていた。
「アリ……シア……?」
 見間違えるわけがなかった。
 彼女を蘇らせる為に、今まで全てを費やしてきたのだから。
 少女は命を散らしたあの時の容姿のまま、そこに居る。
(……そう。貴女はずっとそこに居たのね。“妹”の傍に。……ごめんね、馬鹿な母さんで……)
 自嘲気味に口元を歪め、目を伏せる。
 閉じた瞳から、とうの昔に枯れ果てたと思っていた水の滴が零れた。
 虚数空間に飲み込まれてしまえば最後、生きて戻ることは不可能だ。
 死ぬのは怖くない。アリシアを失ったあの日、自分は一度死んだのだから。
 唯一、心残りがあるとすれば……残される少女のことだろう。
 今更、親面をしようとは思わない。どれだけ彼女に酷い扱いをしていたのか、自分は誰よりもよく知っている。
 だが……自分の罪を背負い、フェイトは生きていかねばならない。それだけが、心残りだった。
 最後の力を振り絞り、“二人”の娘に向かって右手を伸ばす。
 それは未練から来るものなのか、それとも別れを告げるものなのか。
「……ごめんなさい……フェイト……」
 渇いた唇から零れる謝罪の言葉。
 微かな呟きは誰の耳にも拾われることなく、霧散する運命にある。
 いや―――あった、と言うべきか。
 奇跡は神が起こすものではない。人が―――強い想いが呼び寄せるもの。
 ならば、二人の娘にこれほど強く想われている彼女に、それが起きぬ道理などない。
 闇へと消え行く筈の声は、しかと届き。
 虚空に伸ばされたその手を―――
「今の言葉、直接言わなきゃ意味ないと思いますよ、っと」
 ―――一人の男が確かに掴んだ!


別窓 | リリ勘 | コメント:7 | トラックバック:0
<<ネギ団子。まとめ。 | 後悔すべき毎日 | 零の使い魔。~聖十字の騎士~ 第十五話>>
この記事のコメント
No title
なんというヒーローは遅れてやってくるの法則……。
下手をすれば勘違いでプレシアフラグが立ちかねない。
2009-08-14 Fri 00:34 | URL | ニーニー #5vjrBZrc[ 内容変更]
……なんだ、この格好良さは。
2009-08-14 Fri 01:41 | URL | #-[ 内容変更]
No title
下手をすれば勘違いでプレシアフラグが>な、何を言ってるんだ。ニーニーさん。どうにかなっちまいそうだぜ…。

というか、なんだこの更新の嵐は! どこに感想を書けばいいんだ! …とりあえずお疲れ様です。
2009-08-14 Fri 03:57 | URL | kt #-[ 内容変更]
奇跡は起きた……。
フェイトの気持ちを真っ向から受けてようやく本来の自分に気付くプレシア。だがそれに気付くのが遅すぎたが為に暗い闇に落ちかけた時、自分の手を掴み言葉をかけた人物は……。
大樹、君はおいしい所を持っていくな。
こりゃプレシアに“フェイトの事を頼む”とかお願いされそう……。
ご都合主義? 大好物ですが、それが何か?
次回の物語が楽しみです。
2009-08-14 Fri 08:49 | URL | ベリウス #VSnRaRv6[ 内容変更]
No title
大樹がかっこいいっすね…でも、それよりも……ニーニーのを見て……思いました。
プレシアフラグ……幼女よりおば、熟女だろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
と言う訳でプレシアフラグをお願いします。
熟女と騎士のラブロマンス!これは売れる!
次回も楽しみにしています。
では、
2009-08-14 Fri 17:59 | URL | : #-[ 内容変更]
No title
お初です。
なんという終わり方www
続きが読みたくて仕方ないです
大樹&ガルウィング無双を期待してます。w
2009-08-16 Sun 01:04 | URL | ヌラン #-[ 内容変更]
No title
お初です。零勘を見にきてこちらも拝見しました、非常にハマりました!
そして!な、何という終わり方!

気になる気になりますぞ!!!
2009-09-10 Thu 16:39 | URL | SODE #-[ 内容変更]
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