ネクオロでした
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ネギ団子。まとめ。
2009-08-14 Fri 00:09
ネギ団子。

とりあえず、これで現在web拍手にのっけてある部分まで繋がる筈です。

ただ、申し訳ないのですが、なにぶん日の目を見ないまま葬ろうとしていた作品なので誤字やら脱字やらが未修正のままだったりします。

拍手の方はしっかりと直しているのですが、こちらはゴミ箱に放り込んでいた奴をサルベージしたものなので、そこまで作業が追い付いていないという有様でして。

時間が有り余っている時などに読んでいただければな、と。ええ。

<11/30 内容を追加しました>
ネギ団子。 ネギとダンケのご都合主義物語の略です。

「……朝か」
 いつもと同じように目を覚まし、いつもと同じように伸びをする。
 背中が少し痛いのは、寝違えてしまったせいだろうか。
 ルイズを起こすのはもうちょい先だろうし、今日もシエスタに褒められた洗濯の腕を振るうとしよう。
 ―――そこまで思考して、妙な違和感に気が付いた。
 目を閉じていても光が差し込んで来るのは、てっきりカーテンを開けっ放しにしていたからだと思っていたが、それはどうやら気のせいだったようだ。
 いやぁ、道理で明る過ぎると思ったんだよ。なんか瞼の裏がチクチクする感じの明度だったし。
 まっ、家が目の前で轟々と燃えてちゃ、明るくもなるわなぁ。
 それも一軒や二軒じゃない。目に入るだけで十棟は軽く炎に包まれている。
 火事だ!? それも村一つが火事だ!? 山火事だ!?
 気付いたら別の場所に居た、という例は過去に一度体験済みなのでそれほど驚いたりはしない。
 いや、十二分にビビっていたが。
 ただ、いきなり火災現場の真っ只中に放置されるなんて酷過ぎる。
 俺がいったい何をしたというんだ……。
 哀れな男はここでひっそりと骨になれとでも言うのか。
 胸中で咽び泣いていると、足元から聞き慣れた声が響いた。
「よぉ、相棒。なんかまた面倒なことに巻き込まれちまったみてぇだな!」
「デルフ、か」
 ―――デルフだ! 俺の相棒! 自然現象を吸い込むという、ハイテク機構と最新鋭のAIを内蔵した素敵な大剣(元家族用の御土産)。
 小躍りしながら拾い上げ、安堵の息を吐く。
 ルイズが居てくれたなら万々歳だったのだが、文句ばかりは言っていられない。
 デルフが置いてあっただけマシ、と考えるべきだろう。一人は孤独なのだ。
「にしてもまぁ、随分と殺伐としたところに召還されちまったもんだ」
「召還?」
 ああ、ドイツで日常的に行われている拉致的なアレですね。分かります。
 要はワープなのだが、世界観を大事にする為に独国じゃ「儀式」と呼ばれているらしい。
 俺はそれで日本からルイズに呼ばれてドイツまでやって来たわけだ。
 で、色々あって使い魔になって、悪霊と戦ったり、地面から湧き出る銅像と戦ったりした、と。
 ……うん。自分で言っておいてなんだが、初対面の人物に話すと十中八九危ない人扱いされるな。
 嘘は吐いていないし、百パーセント現実で起こったことなのだが、誰も信じちゃくれまい。
 まさか、黄金拉致体験を二度も経験することになるとは。
「召還って言っても、かなりの力技だぜこりゃ。相棒を故意に呼び寄せたっつーより、偶然相棒を引き込んじまったって感じだな。いや、おでれーた。よくもまあ、五体満足で辿り着けたもんだ!」
「……どうやら、悪運だけは強いらしい。……これは?」
 な、なんということだ……!?
 デルフを握っているというのに、頼みの綱のる~んが光っていないだと!?
 となると―――ここはドイツじゃない。別の国というわけか!
 衛星通信も出来ないとなれば、よほどの辺境に飛ばされたということになる。
「あー、そりゃあそうなるわなぁ。契約こそ切れていないものの、ここは嬢ちゃんの居る世界とは別の世界。いくら伝説の力と言っても、主人が傍にいないことにゃただの飾りに成り下がるってわけだ」
「……参った」
「ハハ、全然参ったようにゃ聞こえやしねぇ。流石は相棒。こんなトラブルには慣れっこってわけかい」
 い、いや、ガチで参っているから!
 俺はル~ンの力があってこそ生きていられたのだ。
 アマゾンで言うと、ギギの腕輪的なポジションなのだ。
 知っているぞ、ダンケ。お前はる~んの力がなければ、ただのヘタレだ! みたいな感じである。
 力があろうとなかろうと、俺はヘタレには違いないのだが。
 兎に角、ここでジッとしていてもしょうがない。
 これだけ派手に燃えているんだ。消防隊がそう時間をかけずに来てくれるだろう。
 あとは消防隊の人達に事情を話して……話して、伝わるかなぁ。
 立ち上がり、デルフを持ったまま火の気ない少ない方へと歩いて行く。
 幸いにも風上に居た為か、煙に巻かれるようなことはなかったらしい。
 寝ている間に二酸化炭素中毒で死ぬ可能性もあったわけで、こればかりは自分の悪運に感謝した。
「ンで、これからどうするんだ? 見た感じ、この召還魔法は不完全のようだからな、じきに元居た世界に帰れるだろうぜ」
「……そいつは重畳」
 なるほど、放って置いてもドイツに帰れるわけか。
 これが日本だったら手放しで喜ぶことが出来たわけだが……まあ、ルイズに無断で帰るのも申し訳ないし。
 訳の分からない所に置き去りにされるよりは、少しは地理の分かる独国の方がありがたい。
 にしてもまあ、ここは元々彫刻家が多く住んでいた村のようだ。
 少し歩くだけで、精巧な人型の石像が幾つも並んでいる。
 どうも、創作のテーマは「絶望」とかそんなノリみたいだ。
 その証拠に、石像に浮かんでいる表情はそのどれもが例外なく辛そうである。
 折角、素晴らしい才能があるんだから、もっと見ているだけで気分が明るくなる物を彫って欲しいと思うのは俺だけじゃあるまいて。
 村は燃えているし、苦しそうな石像は沢山あるしで、俺の気分は急下降中だった。
「ったく、えげつい真似するねぇ。どこのどいつか知らないが、仕掛けた野郎は相当な根暗野郎に違いねぇや!」
「……まったくだな。センスを……疑う」
 山火事は自然現象だから仕方ないとしても、この石像はあんまりだ。
 もう、お願いだからピ○チュウとかピ○ピとか和み系の物を置いといてくれ。
 魔法使いっぽいおじいさんの石像とか見せられても、俺はちっとも嬉しくない。
 そのままトボトボと歩いていると、ようやく第一村人を発見した!
 村人は眼鏡をかけた子供である。ローブみたいなのを羽織っているが、見る限り外国人らしい。
 性別は不明。年齢は三歳? 四歳? 男の子かもしれないが、女の子かもしれない。中性的な顔立ちだった。
 無表情で不気味な俺からすれば、すごく羨ましい天性のスキルだ。
 彼(彼女?)の背後には、女の人が一人倒れていた。
 彼らと俺との距離は五メートルほどだろうか?
 子供は後ろの女性の体を引っ張り、どこかへ避難させようとしているようだ。
 い、いかん、煙でも巻かれたのか!?
 だとしたら、かなりまずい。二酸化炭素中毒の治療はかなり困難を極めるのだから。
 見て見ぬフリは流石に出来ない。
 ドイツで身に着けたちっぽけな勇気と共に、覚悟を決める。
 その刹那だった。
 子供の前に、山羊みたいな角を装備した中世の悪魔風な人達が出現したのは。
 反射的に、傍の岩に見を顰めるヘタレな俺。
 悪魔な人達は皆が一様に筋骨隆々とした体付きで、その口元には鋭い牙が光っている。
 見るからに、「悪魔」だ。それも古書とかに登場しそうな。
 迫る悪魔的な人達。逃げようとする子供。
 なんというシチュエーション。ここで正義のヒーローが登場すればカッコいいことこの上ないだろう。
 問題は、この場に居るのはる~んの力も使えないただの凡人以下ということだ。
「もてる男は憎いねぇってか! どうにも、世界が相棒を放って置かないみてぇだな。まっ、ここで巡り合ったのも何かの縁だ。サクッと蹴散らしちまおうぜ、相棒!」
 別の世界に来られたことが嬉しいのか、デルフのテンションはやたらと高い。
 そういや、6000年も剣やっているって言っていたっけ。
 見る物全てに飽きてしまった彼(?)にとっては、この体験はさぞや新鮮に映っているに違いない。
 俺としてはもう一刻も早く帰りたいのだが。
「…………」
 つーか、無理だろ。
 あのムキムキマッチョにチートなしの俺がどう勝てと?
 こういうのは赤目やら蒼目やら銀髪やら―――って、おぉっ!?
 背後で一際大きな爆発が起こり、凄まじい爆風が俺の背を煽った。
 よくは分からないが、火がガソリンやら灯油やらなにかそんな感じの物に燃え移ったらしい。
 熱い風に押されるようにして、俺は潜んでいた岩から飛び出した。
 普段何気なく振るっているデルフが異様に重い。
 トットット、とたたらを踏むような感じで前へと進み、大剣の重さに負けて振り回される。
 ―――グジュリ。
 そんな嫌な音が耳に入ったのは、どうやら気のせいではなかったようだ。
 恐る恐る焦点を合わせれば、デルフの刃が悪魔的な人のお腹に喰い込んでいる。
 痛そうですね、今すぐ抜きますね。
 変に冷静な思考でデルフを引っ張った途端、刃はすっぽりと抜け、悪魔な人は霞のように消えて行った。
 彼もまた、不思議な技術による産物だったということか。
 引っ張ったことによる反動で、俺の体は後ろへと吹っ飛ばされる。
 その直後、唐突に目の前に土煙が舞い、何が起こったのか分からなくなってしまった。
 お、落ち着け! こういう時は、体勢を立て直すのが何より大事なんだ!
 両腕の筋力をフルに使って、デルフを正眼に構える―――つもりが、重さに負けて刃先はだいぶ下がっていた。地面に着きそうなほどに。
 どこから襲って来るのか分からず、手の筋肉はもう悲鳴をあげ始めている。
 場慣れした人ならば、冷静に相手の動きを待つことが出来るであろう。
 だけど、忘れちゃならない。俺はチートがなければただのヘタレだということを。
 焦りと恐怖に負け、デルフで薄れ始めた土煙に渾身の突きを繰り出す。
 これが当たればカッコいいのだろうが、世の中はそれほど甘くはない。
 呆気なく外れた上に、こちらの位置まで教えてしまった馬鹿な男目掛けて、悪魔的な人が突っ込んで来た。
 ゴツゴツした拳は硬く握られている。
 あれを喰らってしまったら最後、俺はミンチになってしまう。
 一瞬、拳で迎撃しようかとも思ったが、それじゃあ何の解決策にもならないことは明白だ。
 せめて顔だけはガードしようと思い、デルフを手放して両腕を交差させる。
 カランと音を立てて転がる大剣。
 どうせ、こんな腕ガードくらい楽に貫かれるだろう。
 今までの思い出が走馬灯のように脳裏を過ぎる。
 突き刺さる拳。パーンとなる頭。とんだグロ画像である。
 まあ、弾け飛んだのは“俺を攻撃しようとしていた悪魔”の方なわけだが。
 何を血迷ったか、悪魔は横から飛び出して来たもう一体の悪魔に顔面を殴られた。
 速度に乗った一撃は、不意を突いたこともあって呆気なく一体の悪魔風な人を消滅させる。
 状況が分からないと言った様子で、仲間の血で黒く染まった拳を眺める悪魔風。
 まったく以って同じ気持ちな俺がここに居るわけだが……いったい何がどうなったんだ?
「相棒、今だ!」
「……ああ」
 チートの力を借りていたとは言え、体はそれなりに動きを覚えていたらしい。
 デルフの声に即座に反応した俺の体が落ちている大剣を掴み、無防備な悪魔の脇腹に刃先を突き立てる。
 しかし、敵も然る者。
 刃が刺さっているのにも関わらず、俺を殴ろうと片手を振り被る。
 デルフを抜こうにも、もう片方の手で刃を掴まれているのでそれすら適わない。
 ―――ひ、ひぃぃっ!?
 咄嗟に大剣の柄から手を離し、バックステップ。
 足元の小石に蹴躓き、俺の右脚が跳ね上がった。
 傍目から見れば、サマーソルトキック見えたかもしれない。
 足の甲に硬いものが当たったと感じた直後、無様に落下して頭を地面に強打する。
 痛みを堪えて立ち上がった俺の視界に映ったのは、脇腹から脇まで綺麗に裂けているグロ映像だった。
 こ、こいつはヘビーだぜ……。
 またしても煙のように消えて行った悪魔風を見送り、俺はようやく安堵の息を吐き出した。
 時間的には短いのだろうが、俺には今のやり取りが一年ほどに感じたよ。
 息を呑む気配に振り向けば、例の子供が震えながら俺を見つめていた。
 後ろの女の人を守ろうとしているのか、両手を広げて立っている。
「……偉いな」
「え……っ」
「よく……守り抜いた。偉いぞ」
 本当にそう思う。
 その歳で、あの悪魔風と対峙して尚、この子は誰かを守ろうとした。
 ……もう、すぐ無理とか考えた自分を殴りたい。グーで殴りたい。
 せめてもの償いに、この子の頭を優しく撫でておくとしよう。
 子供の目に大粒の涙が溜まって行く。
 ち、ちがっ!? この目付きのせいで悪人だと思われたのか!?
「ふぇ……」
「……?」
 ふ、笛?
 笛がどうかしたのか? 親の形見の笛を落としたから、探して来て欲しいとかそんなノリでしょうか?
 そうだとしたら嫌だ……い、いや、今誓ったばかりじゃないか。
 小さな子がこれだけ頑張っているんだ。笛の一つや二つ、簡単に見付けてみせる!
 笛を探す為に踵を返そうと思いきや、むんずと服の裾を掴まれてしまった。
 分かったことはただ一つ、笛云々は関係ないらしいということのみ。
「い、行っちゃダメ……!」
「……了解した」
 分かるよ、その気持ち痛いほど分かる。
 こんな気味の悪い場所に放置とかされた日には、精神がおかしくなっちゃうもんなぁ。
 子供の隣に腰を下ろし、抜き身のデルフを地面に置く。
 鞘がないとこういう時すごく不便である。
「……その女性は……大丈夫なのか?」
「…………」
 分からないとばかりに首を左右に振る子供。
 近くで観察して初めて分かったが、かなり顔色が悪いぞその人。
 足に至っては石化しているし、折れているしで―――って、ちょっ!?
 石化!? 脚、折れとる!?
 ドイツでもそんな馬鹿みたいな技術、目にしたことなかったぞ!?
 辺境の地だと思っていたが、それは俺の勘違いだったのか……?
 となると、俺が道中で見た石像も、元は人だった可能性が出て来るわけで。
 要はこういうことか?
 辺境のこの村で秘密裏に行われていた悪魔の研究“人体の石化”。
 この禁忌の最終実験兼口封じとして、村に住んでいた人達があのような末路を辿った、と。
 その最後の生き残りがこの子供なのだとしたら……こいつはまずい。
 まず間違いなく、この子は復讐者ルートに入ってしまう。
 村を滅ぼされた挙句、こんな怖い目に遭わされたのならばそれも已む無しとは思うが、やはり俺としては正義の道を進んで欲しい。
 そして、将来的には小市民な俺を守って欲しい。
 怖がらせないよう、細心の注意を払って子供と目を合わせる。
 うわ、ビクってした!? 違うよ、違うからね。俺は怖い人じゃないから!
「泣くな……大丈夫だ。君はきっと……強くなるだろう。だからその力……正義の為に使って欲しい」
 言えた! 不思議なくらい、言いたいことが言えた!
 どうにも上から目線で自分でも気に入らないが、それでも言いたいことははっきりと口に出来た。
「つ、強くなれる? おにーさんみたいに、なれ……ますか?」
 たどたどしい口調で訊いてくる子供。
 謙虚な子だ。だけど、目標がいくら何でも低過ぎるでしょう、それは。
「俺などより……ずっとだ」
 目一杯微笑んでいるつもりだが、何割伝わるか……怪しいものだなぁ
 この子には出来れば、ルイズのように黄金の精神を身に着けて貰いたい。
 弱者に優しく、常に誇りを持って前へと進む彼女のように。
「おっと、相棒。どうやら時間が来たようだぜ」
「……らしい、な」
 手の平を見つめる。
 うっすらと透けて見えるこれ(手)が、ドイツへ戻る予兆ということか。
 この地では剣が喋る技術は確立されていないのか、子供はデルフのことを、目を丸くして見ていた。
 あげたいけど一本しかないんだ、ゴメンね。
 大剣を掴み、立ち上がる。
 あ、と不安げな声をあげる子供。
 心が痛むが、こればかりは俺の意思ではどうしようもない。
 あと、背中も少しだけ痛い。地味に痛い。
「どっか……行っちゃうの?」
「ああ。俺にはまだ……守らなければいけないものがあるからな」
 主に自分の命っ!
 ここほどじゃないけど、ドイツ生活も命がけなのだ。
 トイレに行こうとしただけでリンチに遭うわ、巨人に潰されるわ、もう散々。
 ルイズが優しくなかったら、とっくの昔に投げ出していただろう。
「…………」
 こ、これは!?
 デルフを装備した左手―――その甲に刻まれたる~んが淡い光を放っている。
 俺の体が向こうへ戻りかけているから、衛星通信も復活したということか。
 もうちょい早かったら、俺はすごく嬉しかったな。ちくしょう。
「よっしゃ! 相棒、行き掛けの駄賃に一つ、ここらの掃除でもしていくとするか!」
 ……は?
 疑問符をあげるより早く、俺達を囲むようにして悪魔の人達が出現した。
 その数、ざっと三十体は居るだろうか。
 い、いや、汚いだろ、それは流石に。
 どいつもこいつも目が爛々と光って、有り得ない殺気を放っている。
 シシャク(悪霊)と対峙していた時に比べればまだマシだが、それでも怖いことに変わりない。
 うぅ……怖い、怖い、怖い、怖い……!
 属性があるのだとしたら間違いなく負に属すだろう力が、俺の体を駆け巡る。
「きたきたきた―――っ! いいぞ、相棒! 奴等の体は魔力で構成されている借り物だ! 遠慮なく、俺の錆びにしてやりな!!」
「ゴァァァァ―――っ!」
 デルフの叫びと山羊頭の咆哮はほぼ同時だった。
 不思議な力に突き動かされるように、飛び出した悪魔目掛けて大剣を振るう。
 さっきまで持ち上げることも侭ならなかった大剣が、やけに軽く感じる。
 そういや、る~んは人間の感情に反応するとか言っていたっけ。
 この「怖い」という気持ちが力になるのだとしたら、ヘタレだってそれなりに戦えるというわけだ。
 悪魔な人の拳をかわし、大剣を横薙ぎに振り抜く。
 スパーンと綺麗な弧を描いて飛んでいく山羊の頭。
 頭がなくなっても生きている生き物とか普通に居るから不安だったが、悪魔風は意外とデリケートな存在だったようだ。
 頭部を失った体が倒れたかと思いきや、瞬く間に消滅していく。
 ……この先はほとんど覚えていない。
 そんなこんなで、気付いたら立っているのは俺だけになっていた。
 ……一度使えなくなって初めて分かったよ。この力がいかにチートなのか、が。つくづく俺に相応しい。
「なんだよ、大したことねーなぁ。あんのいけ好かない貴族の方が100倍は強かったぜ?」
「……奴と一緒にするな」
「違いねぇ」
 カタカタとデルフは笑う。
 笑い事じゃないって、執念だけで分身するような悪霊だよ?
 悪魔風な人達と本物の悪霊を一緒にしてもしょうがないっしょ。
 意識がフワフワし始めたのは、もう帰還がそこまで近付いている為か。
 こちらを見つめている子供に手を振り、俺は笑いかけた。
 最後の最後くらい、顔の筋肉が頑張ってくれると信じて―――。


 再び目が覚めた時、俺はルイズの部屋で仁王立ちしていた。
 服は所々焦げているし、背中も妙に痛い。
 デルフは相変わらず抜き身のままだし……どうやら夢じゃなかったらしい。
「デルフ」
「ん、どうした相棒?」
「この件……主には内密に、な」
「あいよ。いやぁ、俺ぁ相棒が使い手で本当に良かった。こんな体験、普通は滅多に出来ないからな!」
「……そうだな」
 滅多にじゃなくて、絶対に、だと思いますが何か?
 苦笑し、デルフの言葉に頷く。
 仮にこのことを話したとしても信じてはくれまい―――いや、ルイズなら信じてくれるかも。
 ただ、どうやって説明すればいいかも分からないし、過ぎたことを話しても意味ないだろう。
 今の俺に出来ることは、あの場に残った子供が無事に助かることを祈ることぐらいだ。
 周囲の敵は一応一掃した筈だから、大丈夫だとは思うが……うーん、心配になってきた。
 考え始めるとキリがない。
 一度思考を打ち切り、洗濯籠をもってルイズの部屋からそっと抜け出す。
 襲われてもいいように、デルフは鞘に入れて肩から提げるのも忘れない。
 あの村に飛ばされてから一層、命の大切さを実感するようになりました。
 おや、シエスタが居るぞ。ここは貴族が住んでいる棟だから、彼女がここに居るのは珍しい。
 大方、ずぼらな貴族に洗濯を頼まれたのだろう。優しいからな、彼女は。
「あ、ダンケさん、おはようございます―――っ!? ど、どうしたんですか、その背中の傷!? ひどい火傷ですよ!?」
「……なに、掠り傷だ。シエスタ……気にしないでいい」
 そんなにひどい怪我じゃあないと思うけど。
 痛みだってそんなにないし……あれ? 痛みを感じない方がやばいんだっけ?
 そう考えると、途端に不安になってくるから困ったものだ。
 火傷って結構やばい怪我だった気が……い、いや、気のせいだって。気のせいに決まっているさ!
「そんなこと出来るわけないじゃないですか! と、兎に角、すぐに手当てしなくちゃ! 一緒に来てください!」
 ……訂正。
 気のせいとかじゃなく、それなりにやばいらしい。
 電撃を喰らった時に比べたら、痛みのレベルからしてだいぶマシだから舐めていた。
「……ああ」
 顔を青くしながら俺の手を引くシエスタ。
 半ば引き摺られるようにして彼女の背を追いながら、俺はあの村に残された子供に想いを馳せた。
 で、結局のところ、あの子は男の子? 女の子? どっちだったんだ?
 お得意の現実逃避ともいう。
 まあ、強さに憧れるってことは、男の子だよな! ……たぶん。


 千の魔法を操る男―――“サウザンドマスター”。
 その実子であるネギ・スプリングフィールドは、齢三歳にして父譲りの膨大な魔力を持っていた。
 幼いネギにとって父親の存在は憧れであり、将来の夢そのもの。
 ―――自分がピンチになると父親は助けに来てくれる。
 そう信じて、ネギは日々を精一杯生きていた。
 そんなネギに転機が訪れたのは、姉と慕う女性・ネカネが久しぶりに帰郷するその日のことだった。
 突如、大量の悪魔がネギの住む村を襲撃したのである。
 ネギの父を慕う者達によって成り立っていたその村には、並みの魔法使い以上の腕を持つ者が多く居を構えていた。
 だというのに、彼らは次々と召還された悪魔によって石像へと変えられてしまった。
 ネギも悪魔の襲撃を受けたが、それは老魔法使いスタンとネカネの体を張った行動により何とか撃退することが出来た。
 しかし、その代償としてスタンは石像と化し、またネカネも石化の魔法を受けて行動不能に陥ってしまう。
 残されたのは魔法の素質こそあれ、それを引き出すことの出来ないネギ一人。
 悪魔から逃れる為、何とかネカネを移動させようとするネギだったが、ついには悪魔達に見付かってしまった。
 姉を守ろうと、なけなしの勇気を振り絞って悪魔の前に立ちはだかるネギ。
 その勇気が、異世界から一人の英雄を呼び寄せる。


 悪魔はその様子を嘲笑を響かせながら、楽しむように眺めていた。
 彼等からしてみれば、目の前の光景がさぞや滑稽なものに映ったであろう。
 目の前の人間を引き裂くことならばいつでも出来る。
 ならば、その顔が恐怖に歪む様を存分に楽しんだあとに殺すとしよう、と。
 その驕りが、彼等の命運を分けることになるとも知らずに。


 ネギが“彼”の姿を捉えることが出来たのは、正に偶然だった。
 炎の明かりに照らされ、浮かび上がる黒のシルエット。
 手にした大剣が煌き、ネギを襲おうとしていた一体の悪魔の腹に突き刺さる。
 これがネギと―――異世界の使い魔・ダンケの初めての出会いだった。
 重力を感じさせない動きで接近した影―――謎の青年が、大剣を引き抜く。
 引き抜いた反動で体勢が後ろに崩れた。
 そう思ったのは、どうやらネギの気のせいだったようだ。
 今しがた、青年が居た場所に悪魔の鋭い拳が打ち込まれる。
 あのまま追撃していたならば、間違いなく彼はあの一撃の餌食となっていただろう。
 相手の挙動を視認してから動くのではなく、相手の気配を先読みして動く。
 あまりに無駄のないその動きに、思わずネギは息を呑んだ。
 彼等―――闇の眷属の身体能力は人のそれを遙かに凌駕する。
 だからこそ、人は魔法や気といった力で己を高め、チームを組んで悪魔に立ち向かうのだ。
 だというのに、この青年は気を纏っていないにも関わらず、己の力のみで悪魔と戦っている。
 常人の動体視力では捕らえ切れぬ速度で放たれたその一撃を、いとも容易くかわしてみせた。
 土煙が両者の視界を遮る。
 風上に居るからか微かにだが、ネギの位置からは両者の姿を見ることが出来た。
 青年は大剣を地面に垂らし、何の気概もなくその場に立っている。
 それに対し、悪魔はその目は血走らせて煙の向こうに居る敵を睨み付けていた。
 それはまるで、青年の存在を恐れているかのように。
「…………」
 青年が大剣を静かに動かした。
 鋭い切っ先が土煙を穿つ。
 だが、その攻撃は悪魔には届かない。
 視界の利かないという条件は互いに同じ。
 この場合、先に動いた方が明らかに不利だった。
 青年は敵の位置を知ることが出来ず、悪魔は彼の位置を知ることが出来た。
 あとはその鋭い爪と牙で、テキを引き裂けばいいだけの話なのだから。
 聞くもおぞましい雄叫びをあげ、残る二体の内の一体が突っ込む。
 刹那、先の位置とは少しズレた場所から大剣が飛び出して来た。
 風上に居るネギには青年が大剣を放り投げたことが分かった。
 だが、煙に視界を妨げられている悪魔はそうはいかない。
 悪魔は青年がこちらの位置を掴み損ねたと判断した。
 唯一の武器たる大剣を手放し、今の彼はただの人間に成り下がっていると。
 だからこそ、何も考えずにその身を白煙の中に突撃させた。
 煙の中に映る影、それこそがあの人間に違いない、そう妄信したのだ。
 拳が影を捉え、頭蓋を砕く感触に悪魔が打ち震えた時。
 “殺しただろう”青年が大剣を突き立てた。
 罠にはめられたことに気付いた悪魔が、怒りの咆哮と共に拳を振り被る。
 瞬間、ネギの視界から青年の姿が掻き消えた。
 振るわれた拳が空を切り、代わりに下方から伸びた脚が大剣の柄を蹴り上げる。
 半ばで止まっていた白刃が振り上がり、悪魔の体に大きな裂傷が刻み込まれた。
 許容ダメージを超えた肉体は崩壊し、塵へと還って行く。
 その様子を暗い瞳で見つめ、青年は静かに息を吐いた。
 純粋な技量だけで三体もの悪魔を屠ったというのに、その表情には一切の感情が浮かんでいない。
 まるで、そうあることが当然なのだと、この結果こそが必然なのだと言わんばかりに。
「……っ」
 ゴクリとネギの喉が音を立てた。
 初めて目にした本物の殺し合いを前に、体が恐怖で震えている。
 青年と目が合った瞬間、ネギは時間が静止したような感覚に陥った。
 光を一切通さぬ虚無の双眸。
 敵意が向いていないのは分かっているが、震えが止まらない。
 ただ、後ろに居る姉だけは何としてでも守らなければいけない。
 その感情がネギの体を突き動かした。
 ネカネを守るように両手を広げ、立ちはだかる。
 それは、力のない自分に出来る精一杯の抵抗だった。
 幽鬼のように青年がネギとの距離を詰める。
 恐怖のあまり瞳を閉じたその耳に、彼の声が届いた。
「……偉いな」
「え……っ」
「よく……守り抜いた。偉いぞ」
 一瞬、何を言っているのか分からなかった。
 真綿に水が吸い込むように、ゆっくりとネギの頭に青年の言葉が浸透していく。
 頭に置かれる大きな手。
 青年はその暗い瞳に確かな“優しさ”の火を宿し、ネギを見つめていた。
 涙腺が一気に緩み、大粒の涙がポロポロと溢れ出す。
「ふぇ……」
 ずっと我慢していた感情が堰を切って溢れ出した。
 嗚咽を漏らすネギを、青年は困った風に見つめている。
 そんな中、不意に彼が身を翻した。
 自分でも意識しないまま伸ばされた手が、青年の服を掴む。
「……あっ」
 そこで初めて、ネギは彼の身に起きている事態を理解した。
 青年の身に着けている黒い衣服。
 その背にあたる部分一帯が焼け焦げていたのだ。
 露出した皮膚の一部が固まった血で黒く染まっている。
 彼は……これだけの傷を負いながら、それでも自分達を守る為に悪魔と戦い、打ち勝ったのだ。
「い、行っちゃダメ……!」
 子供のネギでさえ、青年の傷が決して浅くないものだと分かった。
 今すぐに治癒魔法を施さなければ、命に関わるほどの傷なのだと。
「……了解した」
 青年はしばらく悩んだあと、苦笑しながらネギの横に腰を下ろした。
 見る者に痛みを一切感じさせないのは、彼が特殊な訓練を受けているか。
 大剣を地面に置き、次いでその視線をその背後に向けた。
「……その女性は……大丈夫なのか?」
「…………」
 ネカネはネギを守る為に盾となり、強力な石化の呪文を受けてしまった。
 石化の始まった脚が折れたことで呪いの侵攻こそ遅くなっているものの、予断を許さぬ状況には変わりない。
 強力な石化の魔法は相手を直接“死”に導くものではないが、半永久的に動きを封じる―――言わば、時の呪いだった。
 ネギの不安を察したのか、青年は目線を合わせると穏やかな口調で語りかける。
「泣くな……大丈夫だ」
 何の根拠もない筈のその言葉。
 しかし、不思議とネギはその言を素直に受け入れることが出来た。
 姉は―――ネカネは必ず助かる。
 青年は静かに続ける。
「君はきっと……強くなるだろう。だからその力……正義の為に使って欲しい」
 その声音には、深い悲しみが宿っているようにネギには思えた。
 まだ幼かったネギには彼の言っていることが、うまく理解することは出来なかったのだ。
 ただ、青年が何かを自分に託そうとしているのだけは分かった。
「つ、強くなれる? おにーさんみたいに、なれ……ますか?」
「俺などより……ずっとだ」
 声に僅かな悲しみと、大きな優しさを内包して青年は言った。
 その言葉に偽りはない。
 彼が心の底からそう思っているのは、その声音から明らかだった。
「おっと、相棒。どうやら時間が来たようだぜ」
「……らしい、な」
 無造作に置かれていた剣が唐突に口を利いた。
 驚くネギを尻目に、青年は大剣を持って立ち上がる。
 ネギの目の錯覚なのか。
 青年の体の一部が、陽炎のように歪んでいた。
「どっか……行っちゃうの?」
「ああ。俺にはまだ……守らなければいけないものがあるからな」
 出会った時、虚無が宿っていたその瞳にはネギの姿が映っている。
 淡い光が視界に入り、ネギは目を瞬かせた。
 大剣を握る青年の左手―――その甲から光が零れている。
 魔力や気とは違う、今まで感じことのない力強い……それでいて優しい輝き。
「よっしゃ! 相棒、行き掛けの駄賃に一つ、ここらの掃除でもしていくとするか!」
 大剣がそう言った直後、ネギ達を囲むようにして悪魔が出現した。
 三十近い異形は、殺意を以って青年を睨み付けている。
 先ほど青年が倒した数のおよそ十倍。
 腕に覚えのある魔法使いですら、パーティを組んでやっと討伐出来るかというレベルの悪魔達。
 だが、青年は怯む様子もなく、喋る大剣を構えている。
「きたきたきた―――っ! いいぞ、相棒! 奴等の体は魔力で構成されている借り物だ! 遠慮なく、俺の錆びにしてやりな!!」
 大剣が喜びの叫びをあげた。
 青年の纏う雰囲気が変質する。
 黒髪に遮られた瞳が剣呑な光を放つ。
「ゴァァァァ―――っ!」
 尋常ならざる声を響かせ、悪魔が鋭い爪を伸ばして青年へと踊りかかる。
 確実に彼の首を捉えただろうその一撃は大剣の刃に遮られ、返す刀で振るわれた一撃がいとも容易く敵の首を刎ねた。
 同属を呆気なく屠られた悪魔達に、戦慄が奔る。
 魔法使いでもない人間にあるまじきその戦闘力、そして物理的域にまで昇華された殺気。
 決して油断してかかってはならぬ相手だと、彼等の本能が告げていた。
 音もなく、大剣の切っ先が上がる。
 一対一では分が悪いと考えたのか、一斉に悪魔達が青年へ襲い掛かる。
 彼等が塵と帰すまでに、それほど長い時間はかからなかった……。


 悪魔を剣一本で倒した青年の体が、陽炎のように揺らいでいる。
 ゆっくりと、彼が振り返った。
 既に殺気は霧散している。
 左手から零れる光は収まり、青年は静かに屹立していた。
 陽炎はその揺らぎを増し、彼の体を飲み込んでいく。
 ここで見送ってしまえば、もう青年とは会えなくなってしまうかもしれない。
 そんな想いに駆られ、思わず駆け寄ろうとした。
 だが、その歩みは他ならぬ青年に止められることになる。
 ―――こちらには来るな。
 そう言わんばかりに突き出された手が、別れを表すように数回左右に振られる。
 風が駆け抜け、青年の瞳が露になった。
 そこに宿った優しい光に、一瞬だが確かにネギは見惚れていた。
 微笑を浮かべ、青年は光の粒子となって消えて行く。
 傷の痛みをおくびにも出さず、最後の最後まで見知らぬ者の為に戦った男は、ネギの姿を焼き付けるように見つめ、この世界から完全に消失した。


 この後、ネギは世間では死亡していたとされる父親と出会い、彼の杖を授けられることになる。
 そして、あの日の出会いから六年後―――。


 メルディアナ魔法学院を卒業したネギは、父と同じ“立派な魔法使い”になる修行の一環として、日本のとある学園都市に向かっていた。
 背に父親から貰った杖を背負い、小さな眼鏡を鼻の頭に乗せ、腰まである長い髪をゴムバンドでまとめている。
 学園都市麻帆良行きの電車に乗ったネギは、通り過ぎる景色を眺めながらある決意を固めていた。
(日本なら、きっとあの人のことが分かる筈……)
 あの夜から六年の歳月が流れた今となっても、彼の情報は一切手に入らなかった。
 幼馴染のアーニャや現場に居たネカネも、恐怖と困惑でネギが幻覚を見たのだと思っていた。
 信じられない気持ちも無理はない。
 何の魔法の補助もなく、大剣一つで多くの悪魔を葬った剣士。
 それだけの腕を持っているのならば、名が知れていないわけがないのだから。
 だというにも関わらず、黒髪黒目で大剣を扱う男の素性を知る者は誰もいなかった。
 彼の存在を未だに信じているのは、直接言葉を交わしたネギくらいのものだろう。
 だからこそ、修行先が日本と分かった時、ネギは密かに喜んだのだ。
 青年の外見的特徴は日本人と一致する。
 この国ならばもしかしたら、彼の情報が手に入るかもしれない、と。
 電車が麻帆良学園中央駅に到着した。
 アナウンスの終了と同時に扉が開き、生徒達が一斉に外へと飛び出していく。
「あ、あわわ……!?」
 人の波に押されるようにして、ネギも外へ押し出された。
 風の魔法を行使して体勢を立て直し、走り始める。
 頭上を仰げば、ネギの旅路を祝福するように抜けるように青い空が広がっていた。
 何故だろうか?
 ネギはこの地で再び“彼”と出会えるような気がしてならなかった。
 黒衣をまとった心優しきあの英雄と―――。
 柔らかな風がネギの髪をなびかせた。
 立ち止まり、視界に入った髪をかきあげる。
「わたし……絶対に諦めませんから」
 “千の魔法使い”を父に持つ少女は、そう呟いてから再び駆け出すのだった。


「……またか」
 やあ、またなんだすまない。
 気付いたら別の場所という経験も三回目となると、結構慣れて来る。
 それが例え、“よく分からない格好をした人達に囲まれている”という稀な状況だとしても、だ。
 身長が五メートル以上ある人や、頭に皿を乗せるという奇抜なファションをしている人も居る。
 角が生えていたり、鴉の人型版みたいな格好をした人も居たりと、正に仮装大会の真っ最中という有様である。
 不幸中の幸いは、以前と違ってこちらの装備もそれなりに整っていることか。
 背には鞘に収まったデルフ、腰には王子様に貰った臆病風のナイフ……以上。
 いかん、列挙して始めて気付いたけど、予想していたより大したことない装備だ。
 ナイフは戦闘ではほぼ役立たず、やはり相棒に頼るしかなさそうだ。
 ゴタゴタがなければ、ぼんやりしていたい綺麗な月夜なんだが。
「おうおう、今度はまた大層な御出迎えじゃねーか。まっ、量は兎も角、質は前回の方が断然上って感じだな。手当たり次第に召還するたぁ、こっちの世界の魔法使いってのは随分と気前いいじゃないか」
 鍔がカタカタと音をたて、デルフが威勢よく喋っている。
 良かったね、デルフ。二度目の異国旅行ですよ……俺はもう散々だが。
「……傍迷惑な」
 仮装パーティ中の人達を大量に拉致した輩が居るってことだな。
 俺がここに居るのも、きっとその無責任な魔法使い(技術者と同義。メカニックでも可)の仕業だろう。
 中には明らかに人間じゃない、独国で言うところのバイオ生物が混じっているようだが、彼等もまた被害者なのだ。
『おぉ、こりゃまた随分と活きのいい坊主が出て来たもんじゃ』
「まーな。だが、気ぃつけな。相棒を舐めてかかると、あっという間に送り返されることになるぜ―――こんな風になぁっ!」
「―――っ!」
 な、なんか飛び出して来た―――っ!?
 デルフを握ったる~んが光り、目の前に出て来た子鬼っぽい……子鬼を斬り捨てる。
 真っ二つにされた子鬼は煙を出して消えて行った。
 ……ある程度のダメージを受けると、元の国に還る仕組みらしい。
 ポ○モンで言うところの瀕死状態だろうか。戦闘では使えないけど、ポ○モンセンターに持って行けば治る的な。
『ほう、良い腕だな……。だが、某の速度について来れるか?』
「……む」
 少し離れたところに立っていた鴉仮面の人が居なくなっている。
 前の俺みたいに、時間制限で帰国出来たのかな?
 前回は三十分ほどだったけど、あの人達を見る限りでは今回は早く帰ることが出来そうだ。
 まあ、問題は……このやる気満々のバイオの成果さん達の存在だろうか。
 ある者は身の丈ほどある棍棒を抱え、ある者はやたらと長い槍を構え、ある者はトンファーを装備し―――と、実に贅沢なパーティだ。
 最後のトンファー両手装備は狐のお面を付けた女の子っぽい人(?)だった。
 やけに強そうな鬼のおっさんの肩の上に乗っているが……その座り方だと色々と見えるわけで。
 い、いやぁ、ヘタレだろうと男には変わりない。視線が向いてしまうのも、仕方ないと思う。
 鬼の人達は様子を見ているのかもう飽きたのか、やはり俺が弱いことに気付いて興味を失ったのか、こっちをニヤニヤと見ているだけだ。
 あ、いや、訂正。狐の人と鬼のおっさんだけは、やけに鋭い目で俺を睨んで来ている。
 ぉ……おぉ、怖い。狐の人は兎も角、おっさんがやたら怖い。
 視線が刺さるとは正にこのことか……い、胃が……。
 せめてもの抵抗にと、デルフでおっさん達の視線を遮ってみる。
 金属同士が激突して甲高い音を響かせたのは、その直後だった。
 大剣を持つ手に重い衝撃が奔る。手が痺れて、耳がキンキンと痛い。
 いつの間にか、目の前にはさっき帰った筈の鴉頭の人が居た。
 ……え? 瞬間移動という奴でしょうか……?
『なっ―――!? 人間が某の動きについて来れるとは……!』
 もしくは―――。
「……手品、だな」
 独国でさえもワープは実用化されていなかった。
 となると、残るは手品くらいしか思い付かない。
『貴様、あまり調子に乗るなよ……』
 ……どうして怒っているの? 馬鹿なの? 死ぬの(俺が)?
 何か気に障るようなことを言っただろうか―――って、あぶなっ!?
 る~んの力が発動しているから良いものの、素の俺だったら間違いなく今の一撃で二つになっていた。
 ……というか、俺の気のせいじゃなければ、少しずつあの不思議な力が弱まって行っている気がするんだが。
 そういや、前にこんな感じの場所に飛ばされた時も、る~んの力が一時的に使用不可になったなぁ。
 遠い場所に飛ばされると、さしもの衛星も電波が悪くなるらしいのだ。
『今度は先のようにはいかんぞ!』
 またもや、鴉の人が見えなくなった。
 お得意の手品をよほど披露したいみたいだが、悪いがそれに付き合っている暇はない。
 この一撃で決めさせてもらう!
 鴉の人が眼前に出現した。
 それにタイミングを合わせて、デルフを振り下ろす。
 しかし、確実に決まると思った一撃は呆気なく空を切った。
 し、質量のある残像だとぉ……っ!?
『これも運命、悪く思うな』
 声は聞こえど姿は見えず。
 兎に角、デルフをもう一度構え直そう―――そう思った時だった。
 左手の甲から熱が引き、今まで片手で振るえていた大剣がズンと重くなる。
 デルフの重さに負け、前のめりになる俺。
 ひゅん。
 耳音で羽音が聞こえたかと思えば、逞しい腕が視界に飛び込んできた。
 包丁を背後から刺そうと思ったが、運悪く足を滑らせたとかそんなところだろう。
 で、伸び切ってしまった腕が俺の視界に入っている、と。
 この好機を逃す術はない。持っている刃物を取り上げようと二の腕を両手で掴む―――が、すぐにすっぽ抜けた。
 この人の手、羽毛みたいなものがびっしりと生えていてすごく掴み辛いです。
『ヌッ!?』
「…………」
 あ。
 俺が無駄に干渉したせいで、バランスを崩してしまったのだろう。
 さっきの俺と同じように、前のめりになる鴉の人。
 ここで華麗に追撃出来ると最高なんだが、デルフは鴉を掴む際に手放してしまっている。
 こうなりゃダメ元でパンチを打ち込むしか……!
 右拳を固めて、思い切り鳥の人の背中目掛けてそれを振り下ろす。
 身に着けている衣装はどちらかと言えば忍びっぽいし、俺のしょぼい拳でもそれなりにダメージはある筈だ。
 おぉぉぉぉ……ラ○ダ―――っ! パ―――ンチッ!!
 スカッ。
 そんな感じの擬音が響いた気がした。
 これだけの至近距離、しかも相手が背を向けているというのに攻撃を外した俺は、逆の意味で凄いのかもしれない。
 拳を振り抜いた体勢のまま、体が左側に半回転する。
 そのまま足をもつれさせて倒れ込む俺の耳に、「ゴキャッ」という嫌な音が届いた。
『が―――ハッ!? ま、まさか……貴様、最初からそれを狙って―――グ、無念……!』
 慌てて立ち上がる俺を尻目に、何やら訳の分からんことを呟いて鴉の人が消えて行く。
 目の錯覚じゃなければ、首が有り得ない方向に向いていたような……。
 そして、あの嫌な音が聞こえたのとほぼ同時に、右肘に感じた何とも言えない感触―――止そう。これ以上は俺を苦しめるだけだ。
 大丈夫、大丈夫。バイオの人達は首がなくなろうが復活してくれる素敵な人達……だと嬉しい。
 デルフを拾い上げようと腰を落とし、誰かに見られている気がしてそちらに首を傾ける。
 当然、それは俺の完全な気のせいだったのだが……。
 うわぁ……この展開は流石に予想していなかったよ。
 ほっそりとした美しい生足が視界一杯に広がっている。
 我々の業界ではご褒美です、とかそんなノリでしょうか?
『チッ……やはり、瞬動は通じんか!』
「……悪いが、見えているぞ」
 スカート(?)の中が。
 む、この人の場合は着ているのが着物だから……い、いや、そもそもやけに丈の短い着物を……。
 って。また足振り上げとる!?
 だから見えているって! 人間じゃないから見えても良いとか、そういう理屈じゃないから!
 ―――パ○ツじゃないから恥ずかしくないもん。
 い、いや、今見えているのは間違いなくパ○ツだろ。
 俺の忠告も何のその、狐の人は一旦距離を開けると手にしたトンファーを構えた。
 見えなくなったことを喜ぶべきか、それとも剣呑な雰囲気になったことを悔やむべきか。
 デルフを拾いたい……拾いたいけど、その隙を狙って叩かれるのは嫌だ。
 何か―――何か他に武器はないのか!?
 出来ることなら、軽くて扱いやすくて適度に危なくない武器がいい。
 腰に伸ばした手にコツンと何かが当たった。
 引き抜き、とりあえず構えてみる。
 どういうわけかこのナイフ、やたらめったら切れ味が悪いのだ。
 食堂のパンをギリギリ切ることが出来るレベルと言えば、伝わるだろうか?
 頼みの綱はる~んだが、さっきからウンともスンとも言ってくれない。光ってくれない。
『実戦でそのなまくらを持ち出すか……』
 ―――バレとる!?
 動きのキレが半端ないからもしやとは思ったが、まさか一発で見破られるとは。
 宝石とか付いていて見た目だけなら、強そうに見えるんだけどなぁ。これ。
 RPGに登場する勇者の剣だって、大抵高そうな宝石が埋め込まれている。
 もしかしたら、時間稼ぎぐらい出来るかもと思った俺が馬鹿だった。
『……フン、どうやら先のはまぐれだったようだな。だが、一度相対した以上、情けをかけるつもりは微塵もない。抵抗しないことだ。そうすれば、楽に逝くことが出来る』
「…………」
 この狐の人、マジだよ……!? 
 どういう理屈でこの流れになったのかとかもうどうでもいい。
 兎に角、生き残ることだけを考えて行動するべきだ。
 謝る……のは無理っぽい。土下座すれば或いは……無理だろうなー。
 何だか思考が徐々に諦観の域に入って来ている気がする。
 せめてスタンドでも出せればなぁ、ちくしょー。
 主人公だったらアレだろ、ピンチに新たな力が目覚めたりするわけだろ。
 汚いなさすが主人公きたない。
 あぁ、神様。もしも居るのだとしたら、俺に何か力をください。便利な力、ください。
 ―――イテっ!?
 不意に右手に奔った痛みに、顔を顰める。
 視線を向ければ、気味悪い色をした茨が俺の手に絡み付いていた。
 ……隠者の紫(ハーミット・パープル)?
 ウネウネと動く不気味な紫色の茨。
 ―――キモっ!? 何これ、きもい!? うわ、完全に絡み付いてるぞこれ、離れろって!
 いったい何時の間にスタンド攻撃を受けていたのか知らないが、右腕を覆うようにして発生しているコレがきもいことには変わりない。
 振り解こうと右手を振るえば、鞭のように茨が伸びた―――伸びてしまった。狐の人へ。
 まさかこんなきもい物が飛んでくるとは思わなかったのだろう。
 狐の人は回避する間もなく、呆気なく茨に捕縛されてしまった。
 これが百歩譲って“俺の”能力だったとしよう。
 そして、あの漫画の“ハーミット・パープル”と同じ力を持つと仮定しよう。
 ならば、どうして茨の巻き付いた俺の右手から血が出ているんだ……?
 これ、スタンドじゃないの? 幽波紋じゃないの!? どうして俺が物理的に痛い思いしてんの!?
『そのような隠し手が存在していたとはな……。しかし、この程度の呪縛で我を捕らえたつもりか?』
 ブチブチと音を立てて引き千切られていく茨達。
 あの着物が特殊な素材で出来ているのか、その体には傷一つ付いていない。
 なんという役立たずな能力。時間稼ぎすらまともに出来ないという、実に俺らしいチカラだった。
 すごくジョ○フに申し訳ない気持ちで一杯である。
 茨を増やせばもっと頑丈な鎖になるかもしれないが、そんな技量俺にはないわけで。
 というか、どうやったら出せるのか、どうすればしまえるのかも分からないわけで。
 ただ、千切られていく茨を見つめることしか出来ない俺。
 あれが全て切れた時、俺の命も切れるわけだ。……うまいこと言ったな、最後に。
 今の内にデルフを拾おうとも考えた。が、体が動かない以上、どうしようもない。
 どうやら、スタンドを出している間は移動に制限がかかるらしい。
「……コォォ」
 狐の人から視線を外さないようにしつつ、深く息を吐き出していく。
 こうなりゃやけだ!
 スタンドが出せたのなら、もしかしたら、万が一、億が一、波紋を習得出来るかもしれない。
 相手を茨で捕獲して、直接波紋を流し込んで打倒する!
 逝くぞ―――コォォォォォ……。
 ……で、問題はこのあと、どうすればいいか、なんだよな。
 具体的に何をやれば波紋を習得出来るのか、それを俺は知らなかった。
 こんなことなら、もっとしっかり読んでおくんだった……ジ○ジョを。
 確か十分間息を吐き続けた後、十分間息を吸い続けることが出来れば―――って、無理だよ!
 その時点で人間じゃないよ!? 波紋を習得する以前に、絶対に何か別の才能があるってその人達!
 そこでふと思い出した。
 ルイズが前に言っていた魔法(技術)の発現イメージ、これが使えるかもしれない、と。
 確か頭の中で撃鉄を―――違う。これじゃない。―――心臓をナイフで刺されるイメージ―――コイツも違うって。
 体の中で何かが生まれ、それが回転して云々。
 そう言えば、茨の巻き付いている右腕がほんの少しだけ熱を帯びているような。
 この熱をそのまま敵に叩き付ける感じでいいのだろうか……?
 考えている間も、茨はブチブチと千切られている。
 華奢な見た目に反して、あの狐さんは相当な怪力をお持ちのようです。
 完全に千切られる前に、どうにかこの波紋をぶつけよう。
 痛いの覚悟で、茨が巻き付いている右腕を力一杯引っ張る。
 ―――が。
 引っ張られたのは何故か俺の方だった。
 体が宙に浮き、狐さんの方に向かって飛んでいく。
 あー、あの狐の人もバイオの産物だからね、人間一人くらい楽々と持ち上げちゃうよね。仕方ないね。
 疑問なのは、俺以上に狐さんが驚いていることか。
 何だろう? 俺のひ弱さに愕然とでもしているのだろうか?
『―――っ!』
「オォ―――っ!」
 引っ張られた勢いのまま、蔦の巻き付いた右腕を突き出す。
 別に殴ろうとか思ったわけじゃない。
 ただ、正面衝突を避けようとした結果、手が伸びただけである。
 その証拠というのも変だが、何の関係もない左手もナイフを持ったまま伸びていたりする。
 ぎぃーん。
 なんかそんな感じの擬音と一緒に、持っていた筈のナイフが何処かへとすっ飛んで行った。
 眼前には、目を見開く狐さんが居る。
 両手に装備していた筈のトンファーは何時の間にやら一本になっていた。
 もう一本には俺のハーミットが巻き付いているので、うまく振るうことは出来ないようだ。
 ……もしかしなくても、これってチャンスじゃない?
 ただ、武器がないから俺としてはもうどうしようもないわけで―――あ、波紋か。
 正直なところ、茨の巻き付いた腕で殴りかかるなんて正気の沙汰とは思えない
 だが生憎と、こっちは命がかかっているのだ。多少の怪我には目を瞑ろう。
 第一、痛い思いをするのには慣れている。自慢にはならないがな!
「コォォ……」
 波紋にもっとも大切なのは呼吸。
 裏覚えで恐縮だけど、波紋とは即ち生命のエネルギー。
 独特の呼吸法で蓄えた生命の活力を敵に打ち込み、闇に潜む眷族にものすげーダメージを与える人間独自のチート技……だったと思う。
 まあ、スタンドが出てからは一気に影が薄くなって、後々にはその設定すら出て来なくなるわけだが。
「……波紋、疾走……!」
 ルビを振るなら、“オーバー・ドライブ”。
 本来ならば、その前に“山吹色”やら“銀色”やら“緋色”が付く……はず。
 俺の場合は別名、自滅的パンチとでも名付けようか。
 手の先にグニュリという柔らかい感触。
 顔を顰めたくなるのを堪え、有りっ丈の“波紋”を流し込む。
 僕は君が泣くまで、“波紋”を使うのを止めないっ!
 つか、これ……本当に“波紋”なんだろうか。
 流し込むとか書いた気がするけど、どうやったら流し込めるか分からないわけで。
 ただ、不思議な“ぱわぁ”を使用している点だけは間違いない。
 その証拠に、やたらめったら体力がなくなっている。
 る~ん全開時に比べたらマシな方だが、日本に居た時の俺ならば気を失うのではなかろうか。
『……カ……ハッ……』
 短い悲鳴をあげて、膝を付く狐の人。
 その体が煙を出しながら消え始める。
 ……何だろう。この言いようのない罪悪感は。
 正当防衛なのだ。これは正当防衛……正当防衛……。
「……すまない」
 先に謝っておこう。
 お礼参りとかで寝込みを襲われたら嫌だし。せめて誠意だけ見せておこう。
 この人のお父さんとか絶対に怖い人だ。報告されたら、間違いなく半殺しにされる。
 トゲトゲの付いた棍棒とかで殴打されてしまう。
『……何を謝る必要がある。死力を尽くして戦った結果だ。後悔も未練もない』
 良かった……。
 胸中で安堵の息を吐く。
 どうやら、狐の人は怒っていないようだ。むしろ、どことなく嬉しそうである。
 もしかしたら、Mの人なのかもしれんな。
『楽しかったぞ、異界の侍よ。願うことなら、お前とはもう一度死合たいものだ。こんどは互いに加減抜きでな……』
 にっこりと笑う狐さん。
 訳の分からんことを言って、狐の人が元居た国へと還って行く。
 加減なぞした覚えはまったくないし、侍なんて日本じゃとうの昔に絶滅している。
 だけど、否定するのは申し訳ない気がしたので黙って見送った。
 ……終わったか。
 短く息を吐き、呼吸を整える。
 ありがとう、波紋。ありがとう、ジ○ジョ。
 ―――ウニョウニョ。
 で、このスタンドはいつになったら消えるんだ?
 相変わらず腕に食い込むわ、俺の血を吸った影響か濃い紫色になっているわで非常にきもい。
 念写とか絶対に使えないぞ、こいつ。
 見た目はバラっぽいが、実は吸血植物の一種に違いない。
 勢い良く振ったら離れないかなぁ。地味に痛いし、すげぇきもいし。主に後者が嫌だ。
 まずは鞭のようにしならせて―――っと。
 ―――バチンッ!
 ……ばちん?
 今、茨に何かが当たったような―――そうじゃないような。
 見れば、ハーミットの一部が抉られている。
 傷口から血とか零れていたら最悪だったのだが、流石にそれはなかったらしい。
 まったく―――。
「……まるで化物、だな」
 俺のスタンドが、な。
 どうやったら離れるんだろう、これ。一生このままとか、マジ冗談じゃないんですけど。
 やけくそに振るっていると、またもや変な音が闇夜に響いた。それも二回。
 半ばで断たれて、ボトリと地面に落ちる“ハーミット・パープル”。
 こうなると、無視するわけにはいかない……よなぁ。嫌だなぁ、まただよ。
「化物に化物呼ばわりされるとは、心外だな」
「……女?」
 あ、いや、失敬。
 女の人? と言ったつもりだったんですよ。胸中で言い訳してもしゃーないけどさ。
「悪いが、“女”などという名前じゃなくてね。まあ、名乗るつもりは毛頭ないが」
 木の上から声と共に降って来たのは、褐色の肌が印象的な女性だった。
 外見から判断するに、十代の後半もしくは二十台の前半と言ったところだろうか。
 腰まである長い黒髪が、夜の風に揺れている。
 その手に握られているのはライフルだ―――って、ライフォウ!?
 おかしいでしょ!? どうなってんの、この国は!? アメリカ!? ……あー、米国か。なら納得。
 独国の次は米国と来たか。距離的には日本に少しずつ近付いてきてはいるが。
 音もなく上がるライフル。銃口の先に居るのは……まあ、俺だよね。
 手から茨出している奴は怪しいよな、流石に。
 銃を持ち出したくなる気持ちも分かる。痛いほど分かる。
「……落ち着け。少なくともこちらに交戦の意思は……ない」
「なるほど。だが、仕事柄、はいそうですかと信じるわけにはいかないのさ」
 気さくな言葉とは裏腹に、女性の目付きは異様に鋭かった。
 きっと、胸中では「うわ、あの手の草っぽいのきもい。燃やしてー」とか思っているに違いない。
 俺だって消したいよ! きもいし痛いし最悪なんだよ! 助けて!
 そう叫んだところで、心の声が外に漏れることはないのだ。
 む、消すのが無理なら隠すというのはどうだ?
 試しに、透明になれと念じてみる……変化なし。
 だったら……そうだ! これも一応は植物(の見た目)なんだし、地面に潜ることなら或いは。
 女性に気付かれないようこっそりと茨を地面に潜ませる―――よし、成功。
 この茨、強く念じればある程度のコントロールは出来るようだ。
 少しずつ、少しずつ、悟られないようにスタンドを地中に潜り込ませていく。
 完全に埋め込むにはそれなりの時間が要るだろう。それまで間が持てばいいが。
「……だんまりか。無口なところは好感が持てるが、目的が分からない以上、見過ごすことは出来ないんだ。悪いね」
 引き金に指がかけられる。
 早速、ダメでした―――!?
 た、頼むって“ハーミット・パープル”! 
 お前が隠れないと、俺が危険人物だと思われるんだって!
「……隠者の紫」
「なに?」
 い、いかん。
 すごく怪しまれている!? 隠れろ~、隠れろ~。そして二度と出て来るな~。
 い、言うことを聞けって、お前は―――。
「……俺のスタンドだ」
 俺の言葉とほぼ同時に、地中から“ハーミット・パープル”が飛び出した。
 最悪なことに位置が最悪だ。
 女性の足元から茨が生えて来るとかね……もう。
 なにそれ、新手のスカートめくり?
 急いでスタンドを引き戻したはいいが、物騒な代物が絡み付いているし。
 くっ付いていたライフルを女性の足元に放り投げ、精一杯笑いかける。
「……これで分かっただろう?」
 武器を素直に返した=俺は敵じゃない。
 伝わるといいなぁ……確率は限りなく0に近いだろうけど。
「……今の僅かな殺気にまで反応するとは。化物じみているのは、やはり貴方の方だろう?」
「……否定はしない」
 この目付きと口下手のせいで化物扱いされることも度々あった。
 今更、人外扱いされようと驚いたりはしない。少しだけ胸が痛いけど。
「……で、あれはいったい?」
 いやぁ、さっきから気にはなっていたんだけどね。
 木々の隙間から、光の柱が昇っているのが見える。
 ―――ワ○ダと巨像?
 心なしか、光の中に人影っぽい何かが見えたりもしている。
 視線を女性に戻そうとして、いきなり視界が真っ暗になった。
 ……どうやら、零距離で銃口を突き付けられているらしい。
 ひでぇ。扱いがひでぇ。
 だけど、自覚があるので文句も言えない。
「……どうして迎撃しなかったんだ? 貴方ほどの技量があれば、この程度の隠行を見破るくらい造作もないだろうに」
「……買い被りすぎだ」
 事実、見えなかったから。というか、気付かなかった。
 もう足音立てないで接近とか、どこの忍者ですか。ガンナーじゃないの?
 女性はしばらく俺の顔を見つめた後、苦笑しながら銃を下ろしてくれた。
 おや、いつの間にかライフルから拳銃(×2)に装備が変更されている。
「詳しい話は知らないよ。直接行って見るのが一番じゃないか?」
 ……え、行けっていうの?
 じゃあ、いいや。あんな見るからに危なそうな場所、進んで行こうとは思わない。
 だいたい、夜の森―――なのかここは?―――を地図も持たずに散策するとか愚策にも程がある。
「へぇ、そんなことも出来るのか。便利な能力だな」
 女性が見ているのは、俺の足元だった。
 視線を落として見れば、茨が地面に地図を書いている。
 なるほど、ここを真っ直ぐ行って、大きな岩がある場所を右に行けば最短で辿り着けると。
 無駄に高性能ですね、嫌がらせですか?
「役目を終えたとは言え、途中で放り出すのも後味が悪いか。……それじゃあ、行くとしようか? なに、貴方が凄腕を仕留めてくれた分、余裕はある。足手纏いにはならないよ」
「……ああ」
 銃を持っている人に逆らおうとは思いません。
 胃がぎゅるぎゅると変な音を立て始めたのが分かった。
 機会があるなら、是非ともこの地で胃薬を入手しておきたいものだ。
「それはそうと大丈夫か? 腕から血が出ているが」
「……大したことはない。痛みには……慣れている」
 腕よりも胃の方がピンチです。
 イメージと違って、色々と怖いけど、心根は優しい人みたいだ。この女性は。
 いつの間にか茨も消えているし、万々歳だ。
 あとは、早く帰ることが出来れば言うことはない。
「そうか。貴方がそう言うのなら、これ以上私が口を出すのもおかしいな。……だいぶ遅れてしまったが、私の名は龍宮真名だ。短い付き合いになると思うけど、宜しく頼むよ」
「……ダンケだ。向こうでは、そう呼ばれていた」
 差し出された手を握り返す。
 女性らしい柔らかい手だなぁ。指にタコが出来ているのは、彼女がガンナーである証か。
 別の国で偽名を名乗るのもおかしいとは思う。
 だが、この名前でそれなりの年月を過ごして来た俺は、こっちの方がしっくり来るようになっていた。
 こいつはやばいです。地味にやばい。
 いずれ、自分の本当の名前が思い出せなくなるのではないかと少し心配である。
「偽名か」
「……ああ。すまん」
 ど、どうしよう……。
 やっぱり、今から本名を名乗るべきだろうか。
「いや、気にしないでくれ。私も人のことは言えんしな。それにしても、貴方は面白い人だ。偽名かと問われてその場で肯定する人間など、そうは居ないと思うぞ?」
 苦笑し、女性―――龍宮さんが肩を竦める。
 まあ、俺の場合は事情が事情だ。
 外見からして日本人な俺が「ダンケ」だよ? 誰だっておかしいと思うって。
 そもそも、この名前になった理由が「挨拶」だからね。もう救いようがない。
「おーい、相棒。大事なパートナーを忘れているぜー」
「……すまない」
 声を頼りにデルフを見付け、拾い上げる。
 背負った鞘にしまい、そこで初めてナイフを無くしたことに気が付いた。
 今は亡き王子様に貰った物なので、無碍な扱いはしたくない。
 ただ、今の状況でゆっくり探していられるとも思わない。
 ぐ……仕方ない。あとで探しに戻るとしよう。
 気は進まないが、光の柱目掛けて進軍を開始する俺達。
「しかし、口を利く剣とはまた珍しいものを持っているな。こちらの世界にはそれなりの時間居るが、そんな代物は初めて見た。マジックアイテムの類かい?」
 龍宮さんがデルフを見て、目を丸くしている。
 喋る剣は確かに珍しいが、さっき還って行った鬼っぽい人達の方が遙かに貴重だと思いますよ。
 ……意識して今まで視線から逸らしていたけど、まだ少数ながら残っていたりする鬼っぽいのが。
 うわぁーい。目が合っちゃったよ。
 とりあえず、出来る限りの笑顔を浮かべてみたが―――逃げられた。ひどい。
「……いや。“伝説の剣”だ」
 自分を慰める意味でも、ここらで洒落たジョークを一つ。
 だいぶ雰囲気は柔らかくなっているが、どうにもまだ警戒されている気がするからな。
 こういう面白いトークを口にすることで、見た目と違って実は愉快な生き物だと理解して貰いたいものだ。
「……伝説と来たか。貴方が言うと、それっぽく聞こえるから不思議だな」
「冗談じゃないけどなー」
 ま、まあ、それなりに良い流れになったとは思います。
 完全な笑い話にならなかったという点だけが心残りではあるが。
 あと、デルフは余計な時に口を挟むな。ややこしくなる。
「……急ごう」
 これ以上ノロノロしていると、また余計な誤解を招くことになる。
 気は進まないけど、先を急ぐとしよう。
 あー……すげー。
 少し目を離した隙に、すげー光の柱が野太くなっている。
 ドイツで鍛えた第六感が最大音量で警告を鳴らしていた。
「……面倒なことに……なりそうだ」
「ああ、全くだな。このツケは少々大きいぞ、刹那」
 刹那って誰だろう?
 この人の仕事仲間だろうか。
 胸中で首を傾げる俺の視界に、キラリと光る物が映った。
 ―――ナイフだ!
 王子様から貰った大事なナイフ。
 それが一本の木の幹に刺さっていた。
 まさか、こんなところにまで飛ばされていたとは……。
 取りに行く為、方向転換する。
「どうした? そっちに何かあるのか?」
「……ああ、忘れ物だ。先に行ってくれて……構わない」
 刺さったナイフを引っこ抜くだけだ。すぐに追い付くだろう。
 龍宮さんはしばし俺と木を交互に見つめたあと、フッとその表情を和らげた。
「了解した。私が言うのも変だが、加減ぐらいはしてやってくれ。後々、面倒なことになるからな」
 後ろ手に手を振り、龍宮さんが駆け出していく。
 その背を見送ったあと、俺は小首を傾げた。
 ……加減?
 出来るだけ木を傷付けないように引き抜いてくれ、ということだろうか?
 何という環境保護精神。俺も少しくらいは見習わなくては。
 エコ精神を掲げ、視線をナイフの元に引き戻す。
「どうも~。月詠いいますー。神鳴流やってます~」
「……ダンケだ。使い魔をやっている……以上」
 反射的に名乗り返したあとに気が付いた。
 ……え。どちら様?


 彼等が“彼”の存在に気付いたのは、正に偶然だった。
 体に気を纏っているわけでも、魔力を巡らしているわけでもない。
 気配を消そうともせず、彼はただそこに屹立していた。
 そのあまりの存在感の無さに、多くの妖怪は木石と同じような感覚で彼を捉えていたに違いない。
 闇夜に溶け込む黒の衣服を身に付け、背には人間が両手で持ってやっと扱えるかというレベルの大剣を背負っている。
 腰のベルトに刺した煌びやかなナイフだけが、その中で異彩を放っていた。
『おぉ、こりゃまた随分と活きのいい坊主が出て来たもんじゃ』
 召還された150体余り居る妖怪の中でも、もっとも強い力を持つだろう鬼が愉快そうに声をあげた。
 普通の精神を持つ人間ならば卒倒してもおかしくない状況に居て尚、青年は何の感情も見せずに彼等を見据えている。
 雰囲気だけで判断するならば、素人の一言で片付けられるだろう。
 だが―――。
 仮に、それが全て彼の“擬装”によるものだとしたら……相当厄介な敵となる。
「まーな。だが、気ぃつけな。相棒を舐めてかかると、あっという間に送り返されることになるぜ―――こんな風になぁっ!」
「―――っ!」
 自分を律することが出来ずに飛び出した一体の鬼が、煌く剣閃のもとに斬り捨てられた。
 恐らく、あの鬼は自身の身に起こったことが分からないまま、送還されていったのだろう。
 それだけ青年の一撃は早く、何より重かった。
 ―――ジリッ。
 妖怪達が怯えるように、彼から距離を取る。
 長い前髪から垣間見える瞳が、剣呑な光を帯びて輝いている。
 人に恐怖を与える筈の妖怪が、たった一人の人間に怯える姿は異常を通り越して滑稽と言えよう。
『ほう、良い腕だな……。だが、我等の速度について来れるか?』
 彼の存在に興味を覚えたのは、その背に黒い翼を生やした烏族と呼ばれる一族だった。
 妖怪の中でも武芸に秀でた一族である彼等は、強い者と戦うことに喜びを見出す。
 剣を握った瞬間、空気が素人のそれから達人の物へと変貌した彼ほど、烏族にとって興味深い者はない。
「……む」
 青年が僅かに顔を顰める。
 ―――瞬動。
 気を纏った脚で大地を力強く蹴ることにより、相手との距離を一気に詰める特殊歩行術。
 達人の域に入ったそれは気配を完全に断ち切り、相手の目にはその存在が掻き消えたようにさえ映るという。
 事実、多数居る妖怪の中でも烏族が瞬動を使用したことに気付いたのは、五体ほどだった。
 一切の予備動作もなしに、青年が手にした大剣を持ち上げる。
 一拍遅れて、彼の眼前に躍り出た烏族が刀を振るった。
 二つの刃が接触し、火花を散らす。
『なっ―――!? 人間が某の動きについて来れるとは……!』
 愕然とする烏族。
 瞬動を見切ることが不可能なのかと問われれば、必ずしもそうとは限らない。
 大抵は“入り”―――即ち、瞬動を開始した地点から予測を立て、“抜き”の位置を推測することが出来るからだ。
 瞬動は直線しか移動出来ないという特徴があり、“入り”さえ視認出来れば予測はそれほど難しくない。
 予測出来るのと、対処出来るのではまた違うのだが。
 だが、それは普通の“瞬動”の場合。
 烏族が用いたのは、“虚空瞬動”と呼ばれる“瞬動”の上位版。
 これは虚空を蹴ることによって瞬動の向きを途中で変更し、軌道を見切り難くする技巧だった。
 視認不可能な速度による虚空瞬動。
 それをあろうことか、一切の補助技能を行使することなく、青年は見切り、受け止めて見せた。
「……手品、だな」
 口元に笑みを浮かべ、青年がそう呟いた。
 自分の技術を“手品”呼ばわりされた烏族が激昂する。
 その全てが青年の策だと気付くのに、それほど長い時間は要らなかった。
 再び瞬動を使い、烏族の姿が虚空へと消える。
 神速を以って放たれた一撃を青年が大剣で受け止める。
 しかし、今のはフェイントに過ぎない。
 一時的に瞬動を解除し、彼から見えるような位置で姿を現す。
 そして、間を置かずに即座に瞬動。
 これによって烏族の姿は残像を生み、敵を惑わせる分身となる。
 青年が分身に大剣を振るう。
 だが、それは囮。
 剣を振るった彼の隙はあまりに大きい。
 “抜き”に入った烏族の口元が愉悦に歪む。
 背後に躍り出る烏族。手にした刃が青年の首を刎ねんと迫る。
 瞬間、彼の体が沈み込んだ。
 目標を見失った刃が空を斬る。
 烏族が胸中で青ざめる。
 青年の手が触れたかと思えば、烏族の体は前のめりに崩されていた。
 相手を投げ飛ばすのではなく、最小限の動きで体勢を崩す。
 過去、平安の世に生まれたとされる特殊技巧。
 とうの昔に使い手は廃れたと思っていたが、まさかこのようなところで会うことになろうとは。
 首に衝撃が奔り、意識が魔界へと引き戻されていく。
『が―――ハッ!? ま、まさか……貴様、最初からそれを狙って―――グ、無念……!』
 ―――首を折られたか。
 頑強な体を持つ自分達を屠るには、急所を狙うのが一番だ。
 それをこうも的確にやられてしまった以上、負けを認める他なかった。
 悔しさの中に強敵と会えた喜びを織り交ぜ、口元を歪ませる。
 自分が死合った中で最高の腕を持つ戦士を最後まで視界に収め―――烏族の体はこの世から消失した。


『チッ……やはり、瞬動は通じんか!』
 遠距離から瞬動で接近し、蹴りを叩き込んだ―――つもり、だった。
 しかし、現実は呆気なくかわされ、無防備な姿を晒している。
「……悪いが、見えているぞ」
 冷たい―――無機質な声が木霊した。
 妖物である彼女―――狐面の女の背に、氷を押し当てたような感覚が奔る。
 慌てて距離を取った。幸いにも追撃はない。
 両手に装着したトンファーを構えて、狐面は青年の一挙手一投足を注視する。
 大剣を手放した彼が次に手にしたのは、腰から提げたナイフだった。
 柄に嵌められた緑色の宝石が印象的な、儀式用の短刀。
『実戦でそのなまくらを持ち出すか……』
 挑発のつもりで口にしたが、案の定、青年の表情に変化はない。
 彼がこの場で抜いたのだ。
 あの短刀には何か特殊な用途があると見て、間違いはないだろう。
 事実、微かにだがあのナイフからは不思議な力を感じる。
『……フン、どうやら先のはまぐれだったようだな。だが、一度相対した以上、情けをかけるつもりは微塵もない。抵抗しないことだ。そうすれば、楽に逝くことが出来る』
「…………」
 言葉と殺気で更なる挑発をかけるも、青年は手馴れた様子で殺気だけを受け流した。
 ―――やり辛い。
 狐面の女の顔に焦りの色が浮かぶ。
 瞬動が見切られた以上、あの青年に速さによる撹乱は意味がないと思った方がいい。
「―――っ!?」
 狐面の女が息を呑む。
 今まで感じなかった異質な力が、青年の右手に集中していた。
 皮膚を食い破るようにして現出したのは―――茨だ。
 右腕に絡み付く形で発現した茨は、敵を求めるように蠢いている。
 その異質な力を前に、一瞬だが狐面は動きを止めてしまった。
 間隙を縫うように放たれた茨が、彼女の体を拘束する。
 一本一本が鉛筆ほどの太さしかない茨だったが、その強度はかなり高い。
 事実、妖怪である彼女が全力を出して尚、その全てが千切れることはなかった。
 性質の悪いことに、こちらの力を微量ずつ吸収する効果まであるらしい。
『そのような隠し手が存在していたとはな……。しかし、この程度の呪縛で我を捕らえたつもりか?』
 口調とは裏腹に、狐面の女は焦っていた。
 力の吸収速度こそ遅いものの、この能力はかなりの脅威だ。
 召還されたこの身は、召還主の魔力によって成り立っている。
 言わば、命を吸われていると言っても過言ではない。
 だが、これだけの力、何の制限もなく発現出来るだろうか―――?
 そこまで思考が至った時、彼女は青年の身に起きているある異常に気が付いた。
 茨が発現している右腕を中心に、彼の服の袖が赤く染まっていた。
 血の滴が一滴、また一滴と大地に吸い込まれていく。
(……自らの命を削って発現する“力”か。よもや、この平穏の世に、そのような術を使う者がまだ残っているとはな)
 彼女がかつて留まっていた時代には、彼のような者が多く存在していた。
 後の世で“陰陽師”と呼ばれることになる者達。
 ―――人と妖。
 その差はあまりに大きく、それを埋める為に人は己の命を代償に彼等と同等に戦えるだけの“力”を手にしていたのだ。
 だからこそ、彼女を始めとした妖怪も自身の全霊を以って彼等と対峙したのである。
 短い命を磨り減らして戦う人間に、彼等なりの敬意を払って。
 時代が移り変わり、魔法や気を扱うことが出来るようになった人間は、最低限の代償で強大な力を振るうことが可能となる。
 それからだったか。
 命のやり取りとは程遠い、鍛錬の一環として召還され行われる“し合い”が続いたのは。
 今回の召還も軽い気持ちで応じたものだった。ものだったが―――。
「……コォォ」
(―――っ! 呼吸が変わった!?)
 深く息を吐き出し、体を沈み込ませる青年。
 茨は確かに脅威だったが、トドメを刺すまでは至らない。
 力を奪う速度はかなり遅く、青年の使い方を見る限りでは、相手に直接蔦を触れさせないと効果は発動しないようだ。
 となれば、相手を確実に葬る為の“奥の手”を持っていると考えるのが普通だろう。
 不意に、絡み付いている茨に動きがあった。
 グイと体が引かれ、反射的に引き返す。
 それが彼の策略だと気付いた時、既に目の前には“敵”が迫っていた。
 腕力で敵わなければ、その力を逆に利用してやればいいだけの事。
 それは幾多もの戦場を駆け抜けた者だけに宿った、勝つ為の知恵と言えよう。
「……波紋、疾走……!」
 青年の右拳が鈍い光を放つ。
 彼がまとう力―――それは狐面の女の物と同質のもの。
(あの茨、奪った力をまとうことが出来るのか―――!?)
 この距離で避けることは不可能。
 そう瞬時に判断し、辛うじて動く片腕―――トンファーを振るう。
 動きが制限されているとは言え、狐面の女の怪力は健在だ。
 一撃が入った時点で勝負が決まるのは、最初から変わらない。
 しかし、首に入る筈の一撃は彼の手にしたナイフによって防がれた。
 本来ならば、押し負けるのは力に劣る青年の方。
 が、狐面の女の目はハッキリと捉えていた。
 激突の瞬間、ナイフの柄にはめ込まれていた宝石から風が生じ、こちらの得物を弾き飛ばすのを。
 やはり、裏があったか―――と、狐面の女が顔を顰める。
 茨に気を取られ、短刀の存在を失念してしまっていた。
 ……いや。
 最初から仕組まれていたと判断するべきだろう。
 茨を纏った拳が彼女の腹に減り込む。
 威力自体はそう大したことない一撃。
 純粋な破壊力ならば、彼より前に対峙していた神鳴流剣士の方が圧倒的に上だった。
 だが―――。
『……カ……ハッ……』
 膝を付き、荒い息を吐き出す。
 例え少量の力であっても、それが内部に直接打ち込まれたとなれば話は別だ。
 茨が彼女の体の自由を奪い、衝撃を外に逃がすのを妨害していた。
 術者の一部である血を内包した茨はそれ自体が強力な戒めとなる。
 血の結界による能力の低下、奪った妖力による攻撃力の強化、そして―――培った技巧。
 この三つが一つに合わさることで初めて、身体能力に劣る人が妖物を倒すだけの力となる。
(懐かしいな……この感覚)
 遠い昔、平安の世に彼女を討伐した者達もまた、彼のように様々な策を練っていた。
 苦笑し、消え行く体を眺める。
「……すまない」
 唐突に青年の口にした謝罪の言葉。
 その真意を考え、一つの結論に思い至る。
 自然と口元が綻んだ。
『……何を謝る必要がある。死力を尽くして戦った結果だ。後悔も未練もない』
 彼は恐らく、力を吸収するという戦法を使ったことに対して詫びたのだ。
 今の彼女は召還によって仮初の肉体を得ている身。
 体の源たる魔力を奪い取っての攻撃が、青年には恥ずべきことのように映っていたのだろう。
『楽しかったぞ、異界の侍よ。願うことなら、お前とはもう一度死合たいものだ。こんどは互いに加減抜きでな……』
 笑みを浮かべ、異界へと還って行く。
 ―――人の世もそれほど悪くないのかもしれんな。


(また厄介なことになったな……)
 潜んだ木の上で眉を顰める龍宮真名。
 彼女の視線の先に居るのは、黒衣を纏った一人の青年だった。
 外見だけで判断するならば、年齢は二十台の前半だろうか。
 背には身の丈程の大剣を背負い、腰に短刀を一本ぶら下げている。
 発している気配は素人そのものだった。
 仮に彼が街頭に居たとしても、真名は気付かずに通り過ぎるだろう。
 彼女が気付いたのは一重に、青年の居た場所が特殊だったからに過ぎない。
 周囲を妖怪に囲まれているというのに、彼は汗一つかくことなくそこに居た。
 逃げることも悲鳴をあげることもなく、屹立する黒衣の青年。
 次の瞬間、真名はその双眸を見開くことになる。
 彼女の目を以ってしても、その剣閃を完全に捉えることは出来なかった。
 背の大剣に手をかけたかと思えば、一息で抜刀。
 眼前に出現した鬼を一太刀で斬り捨てたのだ。
 だが、彼女が真に驚くのはこの後の展開だった。
 妖怪の中でも最速を誇る烏族との一戦。
 そして、真名の腕を以ってしても討伐の難しいだろう妖怪狐との一戦。
 腕から出した謎の茨の存在も脅威だったが、それ以上に厄介なのは彼の類稀なる暗殺技巧、気配探知の能力だった。
 瞬動を見切り、相手の呼吸から次の動きを予測し、必要最低限の動きで回避行動へと移行する。
 接近戦を挑めば、ほぼ100%の確率でこちらが地を這う羽目になるだろう。
 今のところ、彼が相手にしたのは仕掛けて来た相手のみ。
 このまま無視すれば良いのかもしれないが……。
(放置するには少しばかり、危険過ぎるか。少しの間、眠っていてもらうよ)
 ライフルに麻酔弾を装填し、狙いを付ける。
 この距離ならば気付かれることなく、彼を射抜くことが出来るだろう。
 これだけの仕事がタダ働きだと思うと、少し気が重くもなるが。
(―――もらった!)
 照準の中の青年はこちらに背を向けている。
 右腕に絡み付いた茨の存在が気掛かりだったが、これだけの距離から放つ一撃だ。
 彼が殺気を感知するより早く、弾丸は目標に到達する。
 その見通しの甘さこそが、彼女の最初にして最大のミスだった。
 引き金が引かれ、黒光りする銃口から弾丸が放たれる。
 彼女の手にしているライフルは実銃ではない―――空気銃(エアガン)だ。
 しかし、極限にまで強化されたそれは実銃を遙かに上回るだけの威力を持つ。
 発射音は風の音に掻き消され、青年は自分の身に起きた出来事を理解する前に眠りの世界へ旅立つ―――筈だった。
 青年が茨を振るう。
 後方に大きくしなったそれは、彼を撃ち抜く予定だった弾と接触し、明後日の方向に弾き飛ばした。
(……―――かわされた!?)
 目を丸くする真名の耳に、風に乗って青年の呟きが流れて来る。
「……まるで化物、だな」
 ある程度の距離があるというのに、何故かその声は何の妨害も受けずに彼女に届いた。
 驚きを通り越して、呆れてしまう。
 今の狙撃をピンポイントで防ぐ輩に、化物呼ばわりされるとは思わなかった。
 続けて二回銃弾を放ったが、やはり彼には届かなかった。
「化物に化物呼ばわりされるとは、心外だな」
 どうせこちらの位置はバレているのだ。
 ならば、身動きの取れない場所にいつまでも潜んでいる意味はない。
「……女?」
 意外だったのか、青年が僅かに眉を顰めてみせる。
「悪いが、“女”などという名前じゃなくてね。まあ、名乗るつもりは毛頭ないが」
 軽口を叩きつつ、手にしたライフルを構える。
 青年と真名の距離は十メートルあるかないか。
 先の戦闘から予測するに、彼の茨の射程距離はせいぜい五メートルと言ったところだろう。
 ある程度距離を取っていれば、少なくともあの茨には捕まらない。
「……落ち着け。少なくともこちらに交戦の意思は……ない」
 彼の言葉に偽りはないのだろう。
 でなければ、こんなにも穏やかな気質をまとっている筈がない。
「なるほど。だが、仕事柄、はいそうですかと信じるわけにはいかないのさ」
 引き金にかけた指に力を込める。
 正体が分からぬ以上、気を許すわけにはいかなかった。
 妖怪を仕留めた際に使用した彼の技は、明らかに“暗殺”に特化したものだ。
 更には、気配を遮断するのではなく、気配を周囲に溶け込ませるあの術。
 これだけの技術を持つ男、いかなる裏技を持っていても不思議はない。
 青年は無言で、真名のことを見つめていた。
 虚無の瞳を前にして、彼女の頬を冷たい汗が流れていく。
「……だんまりか。無口なところは好感が持てるが、目的が分からない以上、見過ごすことは出来ないんだ。悪いね」
 引き金を力強く押し込む。
 しかし、放たれた銃弾が青年を貫くことはなかった。
 麻酔弾は彼の右上を通過し、木の枝を一本折るに留めた。
「……茨か!」
 地面から突き出た茨が、ライフルに絡み付いていた。
 見れば、青年の右腕は真っ直ぐ地面に伸びている。
 その先に繋がった不気味な茨が地中を伝い、彼女の銃撃を妨害したのだ。
 茨がしなり、ライフルを真名の腕から奪い取っていく。
 青年から意識が外れる一瞬の隙、“引き金を引く”瞬間を正確に突いて仕掛けてくるとは……。
 彼は最初から真名の存在に気付いていた、と考えるべきなのだろう。
 あれだけの強敵を相手にしながら、後々のことを頭に入れてわざと茨の射程を短く抑えて使用していたのだ。
「……これで分かっただろう?」
 双方の実力差が、という意味なのだろう。
 足元に放られたライフルに視線を一度落とし、青年に気付かれぬよう肩を竦める。
「……今の僅かな殺気にまで反応するとは。化物じみているのは、やはり貴方の方だろう?」
「……否定はしない」
 自覚しているのか、青年がやれやれと首を振った。
「……で、あれはいったい?」
 青年の視線が真名から逸れた。
 彼は光の柱―――“リョウメンスクナノカミ”の封印された大岩を厳しい瞳で見つめている。
 今まで感じたことのない、圧倒的な敵意を内包した鋭い眼光。
 自分から視線が外れたその瞬間、真名は一気に青年との距離を詰めた。
 ベルトに通したホルスターから拳銃を二丁引き抜く。
 接近戦は得意とは言い難いが、彼女には一つ確かめたいことがあった。
「……どうして迎撃しなかったんだ? 貴方ほどの技量があれば、この程度の隠行を見破るくらい造作もないだろうに」
 二つの銃口を青年の頭と心臓に突き付け、真名は尋ねた。
 彼の気配察知能力は野生の獣すら凌駕する域にある。
 自分程度の技量では、見破られない筈はないのだ。
「……買い被りすぎだ」
 命を握られているというのに、青年は淡々とした口調でそう返すだけだった。
 武器の茨を使おうともせず、自然体のままそこに立っている。
(……殺気がなければ、反撃はしない、か。こういうタイプが一番苦手なんだが……やれやれ)
 胸中で苦笑を浮かべ、
「詳しい話は知らないよ。直接行って見るのが一番じゃないか?」
 突き付けていた銃を下ろす。
 彼なりに何か行動理念のようなものがあるのか、一度として真名に直接攻撃を仕掛けてくることはなかった。
 強い意志を内包した行動は、時に言葉以上に自身を物語る。
 これだけ殺気を向けようとも、敵意を向けようとも、銃撃されようとも反撃しないところを見る限り、 少なくとも、この青年には真名をどうこうするつもりはないようだ。
 彼の敵意は先程からずっと封印の大岩に向けられている。
 ホルスターに銃を戻し、息を吐き出す。
 気付かぬ内に、手の平にベットリと汗をかいていた。
(まったく……標的として出会わなかったことに、ひたすら感謝だな)
 遠距離からの狙撃に対応するなんて卑怯じみた輩、いったいどうやって戦えと言うのだろうか?
 金を詰まれれば大抵の仕事はするが、かなり面倒な仕事になるだろう。
「へぇ、そんなことも出来るのか。便利な能力だな」
 青年の腕から伸びた茨が大地に何か描き出していく。
 それが地図だと分かるのに、それほど長い時間はかからなかった。
 かなり精密に描かれた地図は、今彼女等が居る場所から封印の大岩までの最短ルートを指し示している。
 この茨にはこのような力まであるのか、と真名は胸中で肩を竦めた。
 青年が迂闊に能力を開放するとは思えない。
 ならば、この力は飽くまで初歩―――茨に秘められし力の一端に過ぎないのだろう。
 その真価は別のところにあると見て、まず間違いない。
「役目を終えたとは言え、途中で放り出すのも後味が悪いか。……それじゃあ、行くとしようか? なに、貴方が凄腕を仕留めてくれた分、余裕はある。足手纏いにはならないよ」
 微笑を浮かべ、先を促す。
 持って来た弾丸にはまだ多少の余裕があった。
 もし、彼女が彼の相手していた妖怪と対峙していたなら、残弾はとっくの昔に尽きていただろう。
 彼に他意はなかったのだろうが、結果的に青年が彼女の仕事をアシストしてくれたことには変わりない。
「……ああ」
 心なしか嘆息するように、青年が静かに息を吐き出した。
 真名の目が、彼の右腕に止まった。
 茨が依然として主の腕に寄生している。
 蔦から生えたトゲが青年の腕に深々と刺さり、その袖がどす黒く変色していた。
 思わず、真名が顔を顰める。
「それはそうと大丈夫か? 腕から血が出ているが」
「……大したことはない。痛みには……慣れている」
 淡々としたその口調。
 言っていること自体に嘘はないのか、その顔は依然として無表情のままである。
(……術者の命を削って発動する“呪い”か。そこまでして力を探求する理由は……訊いたところで話してくれはしないだろうな)
 肩を竦め、記憶した地図通りに歩を進める。
「そうか。貴方がそう言うのなら、これ以上私が口を出すのもおかしいな。……だいぶ遅れてしまったが、私の名は龍宮真名だ。短い付き合いになると思うけど、宜しく頼むよ」
 立ち止まり、真名は手を差し出す。
 握手を交わし、青年は口を開いた。
「……ダンケだ。向こうでは、そう呼ばれていた」
 それは明らかに偽名だった。
 そのことを指摘すると、青年―――ダンケはその場で認め、素直に謝罪した。
 偽名を名乗るにはそれなりの理由がある。
 そのことは真名自身が一番良く理解していた。
「いや、気にしないでくれ。私も人のことは言えんしな。それにしても、貴方は面白い人だ。偽名かと問われてその場で肯定する人間など、そうは居ないと思うぞ?」
 そうなのか? と言わんばかりに首を傾げる青年の姿に、思わず苦笑が零れる。
 戦闘の際に見せた姿とはまるで別人だ。
「おーい、相棒。大事なパートナーを忘れているぜー」
「……すまない」
 喋る大剣を拾い上げ、鞘に収めるダンケ。
 華美な装飾の施されていない、無骨な大剣。
 しかし、鏡の如く磨き上げられた白刃には、不思議と引き込まれる美しさがあった。
「しかし、口を利く剣とはまた珍しいものを持っているな。こちらの世界にはそれなりの時間居るが、そんな代物は初めて見た。マジックアイテムの類かい?」
 こちらの世界というのは“魔法に関わる世界”を指している。
 剣に話す機能を付けたところで何か役に立つとは思えないが、彼が所持している以上特別な意味合いがあるのだろう。
「……いや。“伝説の剣”だ」
 それが当然といった口調でダンケは言った。
「……伝説と来たか。貴方が言うと、それっぽく聞こえるから不思議だな」
「冗談じゃないけどなー」
 剣の言葉に胸中で相槌を打つ。
 彼が詰まらない冗談をいう人間には見えなかった。
 青年ほどの腕を持つ者が装備している剣だ。
 何か特殊な効果があると見て、まず間違いないだろう。
「……急ごう」
 光の柱を眺め、青年が僅かに目を細めた。
 その声音には、重い響きが内包されている。
 一刻の猶予もない状況だと、その態度が告げていた。
「……面倒なことに……なりそうだ」
「ああ、全くだな。このツケは少々大きいぞ、刹那」
 言葉を返しながら、真名は密かに嘆息を吐いた。
 あれだけの膨大な魔力が溢れ返っている状況を目にして、「面倒なこと」の一言で片付けるのか、この男は。
 進む道すがら、不意に青年がその足を止めた。
 彼の視線はある一本の木に注がれている。
「どうした? そっちに何かあるのか?」
「……ああ、忘れ物だ。先に行ってくれて……構わない」
 青年の言葉に違和感を覚え、真名は意識を周囲に張り巡らせる。
 絡み合った糸を解くように、慎重に気配を探っていく。
 探知の目が青年の正面にある木に辿り着いた時、真名は奇妙な感覚に気が付いた。
 四方八方に伸びた枝の一本に、不自然な気配の空白があったのだ。
 黒く染められた紙に、黒に限りなく近い灰色を一滴垂らした程度の僅かな違和感。
 青年の言葉がなければ、きっと気付くことはなかっただろう。
 既に意識を戦闘に切り替えているのか、青年の視線は何者かが潜む木にのみ向けられている。
 その背が「この場は任せろ」と告げていた。
「了解した。私が言うのも変だが、加減ぐらいはしてやってくれ。後々、面倒なことになるからな」
 殺してしまったとなれば、いくら正当防衛だろうと厄介なことになる。
 そのことは、彼も重々承知してはいるだろうが。
 肩越しに手を振り、封印の大岩へと駆け出す。
 最後に振り返った時、真名の目に映ったのは、青年と対峙するゴスロリ風の衣装を纏った二刀流の剣士の姿だった。
 少女の目は狂気に囚われているかの如く、怪しい光を帯びている。
 青年の体から吹き上がる、圧倒的な闘気。
(戦闘狂―――バトルマニア―――か。ただ、相手が悪かったな)
 眼前の少女を完全なる敵として認識したのか、ダンケが背の大剣に手をかける。
 ああなってしまった以上、自分には止める術もなければ、そんな義理もなかった。
(頼むから、殺さないでくれよ)
 真名からしてみれば、ただそれだけが気掛かりだった。


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これは……良い物だ。
やった、ネクオロさんがネギ団子のまとめを作ってくれた。
これで勝てる!!(何に?)
2009-08-14 Fri 09:04 | URL | ベリウス #VSnRaRv6[ 内容変更]
No title
この話は本当に秀逸ですなあ
脳内再生するとたまらんね
2011-01-05 Wed 08:00 | URL | #vuwfd9TI[ 内容変更]
No title
私も思った。これで勝つるっ とw
わーい。ネギ団子ーっ
2011-01-05 Wed 19:36 | URL | クレイ #aYDccP8M[ 内容変更]
No title
うp主様の零の使い魔大好き!
って思ってたら、まさかこんな外伝があったとは!
ごちそうさまです。
2011-03-18 Fri 14:57 | URL | 通りすがり #-[ 内容変更]
痒いところに手が届く作品です。
「これを捨てるなんてとんでもない」の一語です。

ダンケって詳細が明かにされていないんだよね。本名含めて。
なので、特殊能力が突然覚醒しても不思議じゃない…のかな?

ていうか、ピンチに新たな力が覚醒するのって、RPG初心者が、詰んだ状況で初めて説明書を開く状況に似てる気がする。
自動的に処理されず放置されていたパラメータボーナスやスキルポイント等を振り分けたり消費したりしてピンチを切り抜けるわけですが、彼の場合、悪運だけが限界突破傾向に……w

それはさておき、武装したメイドロボや勇者ロボって武器や兵器にカテゴライズされるんでしょうか?
2011-03-24 Thu 21:08 | URL | なるかみ #-[ 内容変更]
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