ネクオロでした
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リリ勘。第十八話
2009-09-06 Sun 00:20
今回は長いです。無駄に長いです。

なんというか前回からそうでしたけど、まったくもって勘違いしていないですね。
 第十八話―――『そして騎士は英雄(ヒーロー)へ……なの。 最速の騎士“竹中 大樹”』

「今の言葉、直接言わなきゃ意味ないと思いますよ、っと」
 巨大な穴に吸い込まれかけていたプレシアさんの手を掴み、空いたもう片方の腕でアリシアの遺体(?)を納めたカプセルを抱える。
 ぐぎぎ……お、重い。プレシアさんはまだなんとかなるが、アリシアが重い。正確には棺が重い。
 どういうわけか、この穴に近付いたら俺のチャージアップ(マフラー装備の事)が解けてしまった。
 強化形態の時なら、ブーストなしでもなんとかなると思ったが……甘かったようだ。
 かと言って、頼みの綱のブーストは使用不可能。
 理屈は分からないが、この穴の傍では一切の魔法行使が出来ないのだという。
 まあ、穴に入った後に教えられても、まったく意味ないわけだが。
「よし! ガルウイング、脱出するぞ!」
『了解っ! 駆動機関を魔導機関から電導機関へスイッチ―――完了。全出力、メインスラスターに集中。急速浮上っ!!』
 良かった。無理ですとか言われたら、どうしようと思った。
 轟々と音を立て、背中から青白い炎が噴き出した。
 いつもと違い、俺の魔力光である灰色が混じっていない綺麗な青い光。
 アルコールランプを連想させる―――って、喩えがしょぼい気がするな。
 兎に角、青い炎を吐きながら俺の体はゆっくりと上昇していく。
 こうなってしまえば、穴から抜け出す前にエネルギーが切れないことを祈るばかりだ。
 ……このヴァイザーに表示されている乾電池によく似たマーク。
 まさか、これがエネルギー残量を表しているとかないよなぁ……?
 これ見よがしに点滅しているんだが……×マーク付きで。
『……虚数空間からの離脱を確認。魔導機関へ切り替えます。―――危なかったですね、マスター。あと少し深く潜っていれば、帰還は叶わなかったでしょう』
「やっぱり、この電池マークかよ!?」
 随分と身近に感じるぞ、バイオハザード改めアルハザード。
 青白い炎は消え、いつもの汚い―――いや、地味な炎に切り替わる。
 あの穴のせいで重力が乱れているのか、いつも以上に飛び辛い。
 それでもなんとかフェイトちゃん+アルフの居る足場に着地すると、プレシアさんの体を慎重に下ろした。
 やけに顔色が悪いんだよな、この人。
 最初に会った時からもう唇が紫色だったから健康だとは思っていなかったが、今はあの時以上に具合が悪そうだ。
 ……胃潰瘍とかにでもなったのか、それとも食中毒にでも当たったのか。
 体の丈夫さが取り得の俺としては、どうにもその理由にまで頭が回らない。
 血とか吐かれると、流石にやばいとは思うが。
 ―――って、よく見たら口の端に血っぽい赤いのが付いてないか!? 大丈夫かよ、プレシアさん。
 フェイトちゃんにはツンツンで、俺にもツンツンしていたけど、怪我の治療をしてくれた実はツンデレな人なのだ。死んで欲しくない。
「どっこいしょっと」
 年寄り臭い掛け声で、抱えていたアリシアカプセルを床に置く。
 重かったとは、絶対に口にしない。
 まだ小さいとは言え、アリシアも女の子だ。
 重いなんて言われたら傷付いてしまうかもしれない。
 顎にはめ込んでいた例のパーツを引き抜き、BJを解除する。
 いつもは魔力不足で勝手に解除されるから、自分で解くのは結構珍しい。
 なのはちゃんたちはBJを解除する際、光のように消えて行った。カッコいいと思う。羨ましい。
 それなのに、何故か俺だけは解除と同時に煙が立ち昇る。煙たい。はた迷惑だ。
 ガルウイングに理由を訊けば、俺のBJは魔力だけで生成しているからではない、からだとか。
 専門的な単語が乱舞していたのでほとんど理解出来なかったが、なのはちゃんたちは魔力をBJに直接変換して使用しているらしい。
 ところが、俺の場合はそうでなく、まず特殊な合金のフレームを体にまとい、その上から肉付けするように魔力で編み込んだ鎧を身に着けている……みたいな。
 骨組みがある分、どうしてもBJはゴツクなってしまうし、重量も増してしまう。使用者のイメージもあまり反映されない。
 そういった欠点と引き換えに、馬鹿みたいなGにも耐え得る破格の防御力を獲得したのが俺のBJというわけだ。
 ちなみに、一度だけ登場した高機動モードは、フレームに貼り付ける魔力を少なくしただけの代物である。
 煙が出るのは、フレーム構造を第三者にバレないようにする為の隠蔽策らしいが……こんなの欲しい奴が居るのか甚だ疑問だ。
 あ、プレシアさんは喜んで持っていったな、そう言えば。物好きな人である。
「ひっく……母さん、良かった……良かったよぉ……」
 フェイトちゃんが、プレシアさんに抱き付いて泣いている。
 お母さんはピクリとも動かない……あ、動いた。瞼がピクピクしている。
 気を失っているだけのようだ。
 最悪の展開が頭を過ぎったが、どうやら外れてくれたらしい。ほっとしたよ。
 アリシアは幽霊だから母親に触ることが出来ないけど、それでも泣き笑顔を浮かべて喜んでいるようだ。
 色々あったが、二人の喜ぶ笑顔を見ることが出来た。俺はそれだけで満足である。
 だから―――だからもう帰りませんか?
 あちこち崩れ始めているのだ。俺たちの居る足場が落ちないという保障は何処にもない。
 だからと言って、感動の再会を邪魔したくはないし……。
 胸中で悩んでいると、突然何者かに頬を抓られた。
「いひゃっ!? いひゃいって!?」
 抵抗も虚しく、そのまま伸ばしたり回転を加えたりと好き勝手にされる俺。
 しばらくジタバタしていると、ようやく実行犯は飽きたのか俺を解放してくれた。
 ……び、びろんびろんになったらどうするんだよ!?
 怒りと戸惑いを胸に、手の伸びて来た方向へ顔を向ける。
 そこには、狐につままれたような顔をしているオレンジ色の髪の毛の女性が居た。
 ……え、この人って誰だっけ?
 何処かで見たことがある。見たことはあるが……思い出すことは出来ない。
 困惑する俺に、その女性は震える声音で言った。
「あ、アンタ……もしかして、大樹かい?」
「ええ、そうですけど―――あ、その声は……」
 声を聞いて、やっと思い出すことが出来た。
 この女の人はアルフだ。フェイトちゃんの使い魔の、赤くて大きな犬である。
 そう言えば、最初に会った時―――というより襲われた時、この姿だった。
 ずっと犬の姿で居たから、いつの間にか忘れてしまっていたよ。
「もしかして……幽霊ってやつ?」
「失敬な。俺は本物。で、幽霊はあっち」
 フェイトちゃんの横に居るアリシアを指差す。
 体が透けているわ宙に浮いているわで、あれほど幽霊らしい幽霊も居ないだろうに。
 もっとも、アリシアの場合は憑かれたら困るというより、憑かれたい幽霊に分類されるのかもしれないが。
「……あ、あれってやっぱりさ。……アリシア、だよね? プレシアの娘のさ」
「そうそう。フェイトちゃんとそっくりで驚いただろ? 俺も最初見た時は、びっくりしたよ」
 しばらく気付かなかったのは内緒である。
 確かに容姿こそ似ているが、二人の性格は丸っきり正反対なのだ。それも無理はない。無理はないのだ。
 具体的に言うのなら、前者はいじめてオーラが体から出ていて、後者はいじめたいオーラが出ているわけだ。
 子犬と猫、と言えば伝わり易いかもしれない。猫は子猫じゃないのがポイントだ。
 ただ、似ている点もやっぱり多い。
 容姿は勿論の事、優しいところとか実は頑固なところとか、外せないのが、母親の事が大好きな点である。
 良い娘さんを持てて、プレシアさんは幸せ者だ。
「生きている……のかい? い、いや、それはおかしいよ!? だって、アリシアの体はあの中にあるし!」
「だから、幽霊なんだってば。それぐらい見れば、分かるだろ?」
 透けているし、浮いているし。
 何度も言うようで恐縮だが、これほど分かり易い幽霊は居まい。
『……デバイスコアに出所不明のデータを確認しました。なるほど、これならばマスターの不可解な魔力の上昇、BJの変質、そして……“彼女”が存在する理由も納得出来ます』
「ちょ、ちょっと待った!? わたしにも分かるように説明しちゃくれないかい? おかしいことの連続で、頭が変になりそうなんだよぉ」
 アルフの耳が力なく垂れ下がっている。
 俺にもあんな感じの耳があれば、同じようになっているだろう。
 ガルウイングの言っていることが分からないのは今に始まったことじゃないので、驚いたりはしないが。
 どうでもいいが、この状態のアルフは可愛い。犬の耳と尻尾が良い。犬属性の御主人様ともぴったりだ。怒ると怖いのは相変わらずだが。
 本質は犬だと分かっているのに、目が合うとやっぱり恥ずかしい。
 いいなぁ、女の子の使い魔。俺も欲しいなぁ―――って、目が合う……だと!?
 視線がかち合うということは、彼女は俺に説明を求めているということか?
 だとしたら、勘弁してほしい。俺だって何がなんだかさっぱり分からない。
「り、理由なんてどうでもいい。アリシアが居る。それだけでいいじゃないか」
 適当なことを言って、お茶を濁そう。俺に出来ることはこれぐらいしかない。
 アルフはしばしキョトンとしたあと、その顔に苦笑を浮かべた。
 怒ってはいない……よね?
 一度殴られたことがあるから、どうしてもびびってしまう。
 よ、良かった。どうやら怒ってはいないらしい。
 というか、びびりすぎだぞ俺よ。
「あー、そうだったね。アンタはそういう奴だった。正直、どうしてアンタみたいなのが魔導士やってんのか今でも分からないけどさ……」
 そこでいったんアルフは言葉を区切った。
 ……やっぱり怒ってらっしゃる?
 それにしては少し頬が赤いような……そうでないような。
「でもまあ、アンタみたいのは嫌いじゃないよ」
「そいつは重畳」
 嬉しい……嬉しいが、どうしても苦手意識が出て来てしまう。
 なんというヘタレ、人生に一度あるかないかのシーンだったのに……。
「―――大樹っ!」
 ドスンと、まともに腹に入る何か。
 一瞬、息が出来なくなる。
 ただ、ガルウイングが鳩尾に特攻してきた時よりはマシだ。
 あれはガチで死ぬかと思った。絶対にワザとだよ……。
 涙目になりながら視線を下げれば、綺麗な金色の髪の毛が揺れている。
 くぐもった嗚咽が、断続的に耳朶を打つ。
 アルフに助けを求めようと視線を巡らせれば、犬耳娘はプレシアさんを介抱していた。
 回復魔法……使えたんだね。お兄さん、びっくりだ。しかも俺より上手いし。
 その顔が微妙にしかめっ面なのが謎だが、彼女なりに事情があるのだろう。
 それよりも今は、フェイトちゃんを先にどうにかしなければ。
 ……参ったなぁ。こういうのはキャラじゃないんだけど。
 こういうのはどこぞの金髪やら銀髪やら赤目やら青目やらに―――って、このネタは以前使った記憶がある。
 手の平に収まるかと錯覚してしまうほど小さな、フェイトちゃんの頭の上に手をのせる。
 髪がサラサラしていて、とても撫で心地のいい……いかん、これじゃあただの変態だ。
「……死んじゃったかと……思った……」
「死ねないさ。俺にはまだ……やり残したことがある」
 具体的な内容は後で考えるとして、だ。
 潤んだ瞳で俺を見上げるフェイトちゃん。
 これは―――男ならば一度は憧れるシチュエーションではないでしょうか!?
 惜しむらくは彼女がまだ子供という点だが、光源氏という実例があるわけだし……なんてな。
 生憎とまだ、小学生にトキメクほど飢えてはいないんだ。
 ……一年後は分からないがな。半年後も……分からないがな。
 ―――“お兄ちゃん……本当に、ありがとう。”
 ペコリと頭を下げるアリシア。
 目に涙を浮かべ、頬を赤く染めてはにかむ少女はとても愛らしい。
 ……三日後も分からなくなってきました。
 アリシアは微笑んだまま、妹を見詰めている。
 フェイトちゃんはと言うと……ありゃ、俺の後ろに隠れてしまったぞ!?
 そうか……。この子も俺と一緒でお化けがダメな子か。親近感が一気に湧いた。
 でも、大丈夫だよ。とおさ―――じゃなくて。
 この子は優しい幽霊だから、呪われたりしないって。
 そういう意味合いで、フェイトちゃんを前へと押し出そうとする。
 だが、敵も然るもの。
 俺の服を掴んで懸命に抵抗を試みる。
 ツインテールを左右に揺らしながら、フルフルと頭を振っている。
 ―――“……そうだよね。わたしのせいでたくさん嫌な思いしたんだもん。嫌われても仕方ないよね”
 そう言って、アリシアは寂しそうに笑う。
 え、そういう受け取り方すんの!? 
 そりゃあ……幽霊だとは言っても、フェイトちゃんのお姉さんなわけだし、妹に怖がられるのは寂しいだろうが。
 フェイトちゃんもアリシアも、泣き顔で「大丈夫」とか「」仕方ない」とか言うから困る。
 本人は隠しているつもりだろうけど、こっちから見れば辛いのバレバレである。
 隠すのならせめて、俺ぐらいポーカーフェイスじゃないと見ている方がきつい。
「フェイトちゃん。君はアリシアのことがこわ―――嫌いなのかな?」
 流石に正面から「怖い?」と訊くわけにはいくまいて。
 慌てて言い直したの、バレてないといいけど。
「ち、違うよ!? そうじゃないの……そうじゃないけど……」
「そっか……。そうだよなぁ、最初は誰だって戸惑うよな。受け入れられないよな」
 俺は見知らぬ女の子が幽霊だった、というだけだった。
 だけど、フェイトちゃんは違う。
 この子は死んだと思っていたお姉さんが、幽霊として復活したんだ。戸惑わない筈がない。
「俺も……そうだったよ」
「え……」
 ―――“お兄……ちゃん?”
「俺は一度逃げ出した。怖くて、直視出来なくて……。だけどフェイトちゃん、君は俺とは違う」
 二十歳過ぎにもなってお化けが怖いなんて情けない。
 だけど、フェイトちゃんはまだ十歳未満。しかも女の子だ。
 お化けが怖いと言っても、可愛いで済む。
 それが羨ましいとは思わないが、俺の場合はきもいの一択になるからなぁ。
「貴方も……わたしと同じ……?」
「ああ。なのはちゃんには内緒にしといてね」
 成り行きでフェイトちゃんにはバラしてしまったけど、それをなのはちゃんにまで知られるのは流石に恥ずかしい。
 あの子の性格からして笑ったりはしないだろうが、苦笑ぐらいはするだろうし。にゃはは、ってね。
 そのまましばらく待っていると、フェイトちゃんはずっと握っていた俺の服から手を離した。
 どうやら、決心が付いたらしい。ここが俺とは典型的に違うところだ。
「……アリシア、さん」
 ―――“さんは要らないよ。アリシアって呼んで。その代わり、わたしもフェイトって呼んで……いい?
 少し不安そうなアリシアの問いかけに、フェイトちゃんがコクンと頷く。
 パッと花が咲くように笑顔になるアリシア。
 二人の少女は向かい合ったまま、たどたどしくも言葉を交換していく。
「なんて言ったらいいのか、よく分からないけど……わたしは、アリシアさ―――アリシアのこと、嫌いじゃないです。だって……アリシアのおかげで、わたしはここにこうして居られる、から。母さんの娘の……“フェイト・テスタロッサ”として」
 ―――“フェイト……”
 まったく話についていけない俺を置き去りにして、姉妹は少し恥ずかしそうにはにかんでいる。
 感動する場面だというのはなんとなく分かるが……もしや、幽霊とか関係なかったりする?
 ―――“あ、あのね……出来れば、その……お姉ちゃんって呼んでほしいな”
 透けていてもハッキリと分かるほど、アリシアの顔は真っ赤になっている。
 恥ずかしいのか、照れているのか。いや、この場合は両方か。
 姉の可愛らしい要望に、優しい妹は恥ずかしそうに俯いて囁くように言った。
「アリシア……姉さん」
―――“―――っ! か、かわいい~~~っ!?”
 抱き付くアリシア。
 しかし、その体は霊体なので当然すり抜けてしまう。
 勢い余って床に半分ほどめり込み、悔しそうに呻く少女。
 お涙頂戴のシーンが台無しになった瞬間である。
 彼女らしいと言えば、らしいのだろうが……もしかしたら、わざと明るく振舞っているのかもしれない。
『マスター、次元振動は収束しつつありますが、依然として虚数空間の膨張は継続中です。急いで脱出した方が宜しいかと』
「たまにゃいいこと言うじゃないか、お前」
 ついつい本気で感心してしまう。
 英雄願望の強いこのデバイスが、撤退を進言するとは本当に珍しい。
『ええ、分かっておりますとも。殿は当然、我等なのでしょう? 不肖このガルウイング、最後までマスターに付き従う所存であります。例えそれが地獄の果てであったとしても』
「……褒めなきゃ良かった。だいたい、機械のお前は地獄に行けるわけないだろ。魂とかないし。行くのだとすれば、俺だけだ。一人寂しく閻魔様に裁かれるとか……絶対に勘弁だ」
 物にも魂は宿るらしいが……それが地獄に行けるかと訊かれれば、疑問が残る。
 九十九神というぐらいだし、それはどちらかと言えば「神様」に分類されるのではなかろうか?
 何を思ったのか、ガルウイングはしばし沈黙を保ったあと、声音に苦笑の響きを織り交ぜて言った。
『……いえ、私は最後までマスターと共にあります。地獄に到達する条件が魂の有無であるのならば、少なくとも私はクリアしておりますので』
「よく分からんが……まあ、その時は宜しく頼む。出来れば、天国がいいけどな―――というか、どうして死ぬことを前提に会話してんだ!?」
 地獄やら天国やら、物騒にもほどがある。
 生憎と、まだ生きることを諦めてはいないのだ。
「フェイトちゃん、アリシア、アルフ! 兎に角、ここからずらかるぞ―――おぉ!?」
 呼びかけた直後、天井を桃色の閃光が貫いた。
 こんなことが出来る人物を、俺は一人しか知らない。
 開けた穴から飛び出して来る、白いBJを身に着けた魔砲少女。
 これでようやく、全ての役者が揃ったわけだ。
「フェイトちゃん、大丈夫!?」
「なのは!」
 俺の知らない間に、二人は名前を呼び合う関係になっていたのか。
 置いてきぼりになった感じがしてちょこっとだけ寂しいが、素直に祝うとしよう。
 俺もあんな風に、信頼して名前を呼べる友達が欲しいなぁ。一人でもいいからさ。
 靴から小さな魔法の羽根を生やし、ゆっくりと降下するなのはちゃん。
 その肩にはフェレット―――ユーノが乗っている。
『……まずいですね』
「……訊きたくはないが、取り返しのつかないことになりそうな気がするので、一応訊いておく。で、なにがまずいんだ?」
『なのはが間もなく―――いえ、虚数空間の影響域に入りました』
「過去形かよ!?」
 慌てて視線を向ければ、なのはちゃんが傍目から見ても分かるほどアタフタしていた。
 虚数空間では一切の魔法行使は出来なくなる。
 それはつまり、彼女が展開している飛行魔法もキャンセルされるということに他ならない。
 魔法の羽が消失し、BJも強制的に解除されたなのはちゃんは成す術もなく落下していく。
 飛び出そうとするフェイトちゃんを“追い越し”、気付けば俺は宙を舞っていた。
 なのはちゃんの瞳が俺を捉える。大きく見開かれる目。
 下には脱出不可能とされる深淵の闇。光すら逃がさぬ迷宮。
 伸ばされたその細く白い腕を掴み、渾身の力で引き寄せる。
 世界の修正だかなんだか知らんが―――ハッピーエンドの邪魔だけはさせんっ!
 見せてやる! 一生に一度あるかないかの俺の本気を!
「大―――変―――身―――っ!」
 虚数空間内で魔法が使えない点は俺も変わらない。
 普通ならば例え始動キーを叫んだところでBJは生成されず、俺はなのはちゃんと一緒に穴へと真っ逆さまだろう。
 そう、“普通”ならば。
 だが舐めるなよ、世界の修正力とやら。
 生憎と俺が拾った“相棒”は―――
『―――set up』
 性能も構造も、ついでに性格も“普通”じゃないんだよ!
 一瞬で体に装着される特殊合金製の基礎フレーム。
 本来ならばこの上に魔力の鎧が来るわけだが、キャンセラーの中に居るのでそれは出来ない。
 骨組みだけのBJは傍目から見るといささか不気味かも分からんが、背負ったタービンだけは変わらずその威圧的な外見を晒していた。
 いつもならば重いだけの代物が、今はなにより頼もしい。
「ガルウイング!」
『システムEXAM―――ドライブ・イグニッション!』
 本日二度目の急速浮上。
 こんな短時間で充電出来るか正直不安だったが、そこはアルハザードの不思議技術。
 表示された乾電池はギリギリ点滅していない。
 青白い炎を吐き出し、タービンが唸りをあげる。
 これで使用制限さえなければ、無駄に疲れる魔力よりこっち(電導)メインでいきたいくらいだ。
 虚数空間から抜け出し、ゆっくりと接地する。
 なのはちゃんは俺の腰にしがみついたまま、離れようとはしなかった。
 流石に、怖かったのだろう。俺なんか二度目なのに、ちびりそうだし。
 ユーノは……無事だ。てっきり変身魔法も解除されるのかと思ったが、未だにイタチのままである。
 そうか、彼はイタチが本体で、人型が仮の姿なわけだな。アルフと同じ使い魔だし。
 もしくはギリギリ彼だけが虚数空間の射程外だったかだが……まあ、前者だろう。間違いなく。
 体重が軽い分、なのはちゃんより落ちるのは遅いわけだし……あれ、関係ないんだっけ?
「夢……じゃないですよね? 消えちゃったりしないですよね?」
「悪いが、まだ幽霊にはなっちゃいないよ。足だってあるだろ?」
 コツコツと、フレームむき出しの足を指で叩いてみせる。
 フェイトちゃんだけでなく、なのはちゃんにまで死んだと思われていたのか、俺は。
 確かに、そこたら中に穴は開いているわ、鎧お化けは襲ってくるわで、自分でも生き残っているのが不思議なわけだが。
 虚数空間から抜け出したことで、魔法も使えるようになったらしい。
 俺のBJはいつの間にかいつもの白銀装甲に戻っていた。
 チャージアップ出来るのか試してみたい気もするが……やっぱりやめておこう。
 ただでさえ少ない魔力なんだ。無駄遣いは極力避けたい。
 BJを解除すれば良いのではないか、という意見も当然ながらあるだろう。
 だが、悪いがそれは出来ない。断固として断らせてもらう。
 二度あることは三度ある。
 また誰かが落下してきたとして、その時にさっきと同じ行動が取れるとは思わない。
 この俺が、ヘタレと名高い俺がいくらなのはちゃんの為だとは言え、自発的に身を投げ出すとは……自分自身が一番驚いている。
 ただ、ほんの少しだけ自分を誇らしく思うことが出来た。
 これで仮面の中で鼻水を垂らしていなかったら完璧だったな、俺的には。
「さて、さっさとこんな所からオサラバするとしようか。折角助かった命、こんなところで捨てるにゃもったいない」
 なのはちゃんの涙を、慎重に指で拭う。
 体もごついし、指も太くなっているから微妙に難しい。
 まったく、こういうのは蒼目やら―――っと。
 グラグラと揺れる地面。踏ん張って何とか耐えることは出来たが、さっきから嫌な予感が止まらない。
「あとで……あとで、ちゃんと説明してもらいますからね!」
 目に涙を浮かべて、それでも弾けんばかりの笑顔を見せてくれたなのはちゃん。
 説明しろの意味はよく分からないが、まあ、アリシアと出会ったことを端的に説明しておけばいいだろう。
 ……というか、彼女はアリシアに気付いているのか? 普通なら驚いて腰を―――
「にゃ―――っ!? ゆ、幽霊さん!?」
 ―――なるほど。今気付いたわけね。
 なのはちゃんが驚いた拍子に、肩に乗っていたユーノが盛大に転げ落ちているが……大丈夫か?
 フェレットも猫も似たようなものだろうし、ある程度高いところから落ちても平気だろうが。
 ワタワタするなのはちゃんと、釣られてオロオロするフェイトちゃん。
 そして、その様子を苦笑しつつ見守るアリシアの横をすり抜け、プレシアさんのところに向かう。
 ……顔色は相変わらずだけど、少なくとも今は安定している、と思う。思いたい。
「アルフはプレシアさんを頼むよ。俺は―――」
 首をゴキゴキと鳴らし、アリシアの棺をどっこいしょと持ち上げる。
 アルフは一瞬複雑な顔こそしたものの、素直に指示に従ってくれた。
 そんなに嫌なのか、プレシアさんのこと。
 ご飯抜きにでもされたか、散歩にあまり連れて行ってもらえなかったかのどっちかだな。
 ぐぅ……やはり重い。中身だけ持って行こうか……い、いや、流石に裸の女の子を抱えるわけには。
 ―――“お、お兄ちゃん、無理しないでいいよ! それは……置いていってもいいから”
 そう言って、アリシアはほんの少しだけ寂しそうに笑った。
 ……そんな言い方されると、意地でも持って行こうという気持ちが湧いて来る。
「アリシア、自分の体を“それ”なんて言っちゃダメだ。だいたい、こんなところに置いていって、もし万が一、危ない人の手に渡ったら色々とまずいことに……」
 ―――“……危ない人?”
 小首を傾げるアリシア。
 分からないのか、それは良かった。
 伝わったらどうしようかと内心、戦々恐々でしたよ。
「あ、悪用されるかもしれないから……ね。うん。ホントに。そ、それにだ。やっぱり、アリシアだって眠るのなら綺麗な所がいいだろ? こんなわけの分からない場所に、君を置いて行くわけにゃいかないよ。例え、既に死ん―――魂の抜けた体だとしても」
 ……き、気を遣うなぁ。
 何分、境遇が境遇だけに迂闊な言動は出来ない。
 ―――“お兄ちゃん……エヘヘ、ありがとう”
「そ、その……ありがとうございます」
「いいって、いいって」
 揃って礼を述べる姉妹に手を振る―――ことは出来ないので、仕方なく首を振る。
 よくよく考えてみれば、俺はココに来てから何もしてないんだよな。
 そりゃあ、プレシアさんを引っ張りあげたりはしたけど、あとは鎧から逃げたり光弾から逃げたり、現実から逃げたりと、逃げることしかしていない気がする。
 見せ場と言えば、ついさっき見せたなのはちゃん救出劇があるにはあるが、それ以前に恥ずかしい場面をいくつも見られているからなぁ。鼻血垂らして気絶しているところとか、幽霊(アリシア)見て震えているところとか。
 せめてこのぐらいのことはしておかないと……大人の威厳とか、一応気にしているし。
 純粋にアリシア(本体)をこんな不気味なところに置いて行くのは、かなり気が引けるしなぁ。
 この棺さえなけりゃ、もっと簡単に運べる……いやいや、裸の女の子を担ぐのはアウトだろう。
 魔力をスラスターに回して、ゆっくりと離陸する。
 いつも以上に慎重な運転を心がけ、後方確認も忘れない。
 なのはちゃんとフェイトちゃん、アルフもついて来ているようだし、一安心だ。
 まあ、この面子の中で一番迷惑をかける確率の高いのは俺なわけだが。
 進路を妨害する障害物を(二人の魔法少女が)排除し、やっと広い場所に辿り着いた俺たち。
 そこに停泊していたのは、白い巨大な船だった。
 ……どうでもいいけど、白い船って大抵味方サイドの船なこと多いよね。
 ガ○ダムとかナデ○コとか、Jア○クとかな。
「……これって、もしかして“アースラ”?」
 前に乗船した時はワープで移動したから外観は見ていないけど、何となくそんな感じがする。
 というか、そうであって欲しい。
 ここまで来て敵の船でしたとか言われたら、俺は泣くぞ。本気で泣く。泣いてやる。で、突っ込む。
『―――はい。正確には、時空管理局・巡航L級8番艦。次元空間航行艦船“アースラ”ですね。調べたところ、現在マスターはこの艦所属の魔導士、となっているようです。これは私の推測ですが、恐らくはリンディ・ハラオウン提督の配慮によるものでしょう。マスターの潜伏していた世界は管理局の管理外世界ですから、本来、魔法の使用にはかなりの制限がかかります。それを合法的に緩和する為に―――』
「いい。もういいって。つか、潜伏とか言うなよ。まるで俺が隠れていたみたいじゃないか。うぅ、生まれ故郷なのに……ちくしょう」
 ガルウイングの説明好きは相変わらずだった。
 阿呆な俺に分かったのは、目の前に停まっている船が“アースラ”だということ。
 そして、リンディさんが俺の為に色々と手を回していたことぐらいか。
 使いたくて魔法を使っていたわけじゃないけど、下手すればそれで捕まっていたかもしれないわけで。本当に、リンディさんには頭が上がらない。
 今度、菓子折りの一つでも持って行こうと心に誓う。
「兎に角、通信を繋いでくれ。中に入れてもらわないと、脱出しようがない」
『了解―――接続完了。空間モニターに出します』
「お前、こういう仕事は早いよな、ホントに」
『通信機器及びレーダーは通常デバイスの十三倍ほど強化してありますので』
「あー、前にそんなこと言ってた気がするわ」
『……ゆ、幽霊?』
 虫の羽音にも似た音を引き連れて、俺の眼前に出現する小さな小窓。
 そこに多少ぼやけた状態で映っているのは、つむじから跳ね出たアホ毛が特徴のハムスター少女、アースラのNO3―――エイミィ、その人だった。
 尚、ハムスターというのは、俺の個人的な意見だから気にしないでほしい。
 そんでもって、どうして泣きそうな顔をしているんだアンタは。
「その質問ね、今日だけで三回目なの。分かる? 足あるでしょ、足」
『……ゾンビ?』
「……腐ってないでしょ? 口利いてるでしょ? 胃酸とか吐いてないでしょ!?」
『……ごめん。他にネタが見付からないや』
 てへへ、と舌を出すハムスター。
 一瞬でも可愛いと思った自分を、殴ってやりたい。
「余裕あるなー。この状況で」
 外は大地震で今にも崩れそうだというのに。
 やっぱ、中と外じゃこんなにも感覚が違うものなのか。
 工場で働く製造員と事務所の人間くらい労働環境に開きがあるから、仕方ないとも言えるが。
 只、どっちも疲れることに変わりはない。体をメインで使うか頭をメインで使うか、その程度の差だ。
『あはー、ごめんね。実は少し前に通信がある程度安定して、ずっとモニターしてたんだ。いやぁ、最初見た時はびっくりしたよー? 生きているし、怪我も治っているし。でも、本当に……無事で良かった』
 指で涙を拭い、エヘヘと笑うエイミィ。
 心の底から、俺が生きていることを喜んでくれているらしい。
 こういうの、なんかいいなぁ。すごい嬉しい。
「生憎と、そう簡単に死ねる体じゃないらしい」
 悪運だけは強いみたいだしなぁ。
 雷に打たれ、自滅魔法で骨折し、紐なしバンジーも敢行した。
 思い返すと、ついつい苦笑してしまう。
 昔から痛みに耐性があるとは思っていたけど、まさかこれほどとは。
 普通なら、両腕両足の骨が折れた時点でショック死とかするんじゃないの? 違うの?
『え、それってどういう―――』
 何か驚くことでもあったのか、エイミィが目を丸くしている。
 後ろに何か居るのか……何もないよな。
 訊き返そうと思った直後、今までで一番激しい揺れが一帯を襲った。
 アンカー(だと思う)で船体を固定している筈のアースラが揺さぶられるほど、大きな地震。
 こちとら棺を担いでいる身なのだ、正直自重してほしい。
 踏ん張って耐えていると、エイミィとは別の小窓が出現していた。
 あ、リンディさんだ。お久しぶりです。
『エイミィ、全員を収容した後、全速力で現座標域から離脱します! この空間は間もなく消滅するわ、急いで―――それと大樹君、貴方にはあとでたっぷりとお説教ですからね?』
「い、いや、どうしてそんな目に遭うのか―――」
『……分かりましたね?』
「……はい」
 やっぱり、この人は苦手だ。
 嫌いなのではなく、苦手。笑顔が一番怖いと、俺に教えてくれた人でもある。
 そして、地味に気になるのが、彼女の背中から生えている羽。
 リンディさんの容姿と相まって妖精のようにも見えなくはないが……彼女って子持ちなんだよな。しかもその子は十四歳だった筈。
 年齢を考えると、いささか無理があるような気もしないでもない。
『大樹君』
「はい?」
『何か言いたいことがありそうですね?』
「エイミィー、開けてください。入れてください」
 提督が読心術まで出来るのはズルイ。
 ハムスターは苦笑しながらも、アースラのハッチを開けてくれた。
 でも、当然リンディさんも乗るわけだよな……複雑だ。
「なにボサッとしてんのさ!? 大樹、さっさと行くよ!」
「大樹、急いで!」
「大樹さん!」
 ―――“お兄ちゃん、やっぱり邪魔なら―――”
「行きます、行きますって! あと、邪魔とか絶対にないから!」
 どうしてこの子はこう、自分の事になると消極的なのか。
 からかいモードと真面目モードの時の差が激し過ぎる気がするよ。
 生まれ―――というか、自分の立ち位置とか気にしているのかなぁ。
 妹が怖がるから成仏した方が良いのか、とか考えたりしていたらどうしよう?
 最悪、ウチに呼ぶしかないかもな。
 ここまで仲良くなった以上、涙の成仏ENDだけは避けたい。
 本人がそれを望むのなら、俺に止める権利はないけど……正直なところ寂しいです。
 ぶつからないよう注意しながら、棺と一緒にアースラに乗り込む。
 この船の人は優しいから、棺と一緒には居たくないとか言い出さないだろ、多分。
 ここまで来れば大丈夫だろうと、BJを解除する。
 あー、空気が美味しい。生きてて良かった。それだけで満足出来るから不思議なものだ。
 俺たちが中に入ると、頭から血を流したクロノ君が座っていた。
 見るからに痛そうだ。俺って、自分が怪我をするのは耐えられるけど、人の血を見るのはダメなんだよ。
「痛そうだね……大丈夫?」
 バカな質問をする俺が居た。
 恥ずかしい。泣きたくなる。
「それはこっちの台詞です。あれだけの怪我をしておきながら、この短時間で全快なんて……。理不尽にも程がある」
 顔を顰めながら、溜め息を吐くクロノ君。
 俺が寝ている間に相当頑張ったらしく、その顔には疲労の色が濃く残っていた。
「まあ、そういうのには慣れっこだから」
 痛い思いをするのはこれが初めてじゃないからさ。
 子供の頃にした大怪我の数が、両手足の指を使っても数えられないほど多い俺だもの。
 あと、怪我を治してくれたのはプレシアさんだ。俺の力じゃ擦り傷を治すので手一杯。
『全員の乗艦を確認! これよりアースラは最大船速で当該空間より離脱します!』
 おお、揺れる、揺れるぞ!?
 アースラが動いているのが、中に居てもハッキリと伝わって来る。
 ゲームとかだったら、大抵こういう場面で邪魔する敵とか出て来るものだけど……まあ、これはリアルだからな。
 神様だってそこまで鬼畜じゃないだろ―――と、思っていた時期が俺にもありました。
『―――っ!? ぜ、前方に魔導機関の反応を確認!? こ、これはクグツ兵です! 推定ランクは……う、嘘!? AAっ!?』
 まただよ。とでも言えばいいのか?
 予想はしていたが、まさかこの世界がここまで鬼畜だったとは夢にも思わなかった。
 まあ、こちらには優秀な戦力(俺以外)がたくさん居るので、AAだろうがAAAだろうがすぐにコテンパンにしてくれるだろうが。
 いつまでも棺を持っているのは疲れるので、床に下ろす。
 う~ん。このままここに置いておいたら、倒れちゃうかもしれないよなぁ。
 倒れた拍子にアリシアが飛び出したりすると、流石にまずいだろ。倫理的に。
 何かロープとかないものか、出来ればワイヤーとかの方がいいかも。丈夫だし。
 そんな俺の目に止まったのは、ホームセンターでよくある黄色のチェーン―――みたいなもの。
 アースラの備品なのか、誰かの私物なのかは知らないが、少しの間だけ貸してもらうとしよう。
 SFを絵に描いたような船の中で、こんなリアルな物が見付かるとは思わなかった。
 実は俺って結構運が良いのかもしれないな。
 問題はハッチの側にそれがあるということだが、まあ流石にいきなり開くことはないだろ。
 この船は宇宙船のようなものだし、気密はしっかりとしている筈だ。
 外のクグツ兵とやらは優秀な軍人さんに任せて、俺はあのチェーンを保守するとしようか。
 壁を頼りに、ヨロヨロと出口に近付く。
 あと少し、あと少し、あと少しだ。
 ―――“お、お兄ちゃん、何処に行くの!?”
「ん? ああ、このままじゃちょいと不安だからね。それをどうにかしようと思ってさ。大丈夫、大丈夫。大したことじゃない」
『マスター、それでは行きましょうか』
「え? あ、ああ……」
 何だよ、いきなり口を挟むなよ。
 お前が口を出すと、ろくなことにならないんだから。
 うっし、あと少し。あと一メートルほどだ。
 この距離なら、手を伸ばすだけで十分だろ。
 そう思い、手を伸ばす。
 その瞬間、アースラの船体が右に大きく揺れた。
 何かを避けようとしたのか、何かに当たったのか。
 詳しくは分からないが、そんな俺でも分かることが一つだけある。
「……神様なんて嫌いだ」
『ロック―――解除。フッ、今更AAランク如きで我等を止めようなどとは片腹痛い。実力の差、見せ付けてやりましょう!』
「結局、そうなるってことかぁ―――っ!?」
 プシュッと音がして、いとも容易く開くハッチ。
 忘れていた、俺の相棒はこういうところが無駄に高性能なんだった。
 厳重にロックされているだろう扉を、こうも容易く開けるってどうよ。
 吸い出される俺。
 ハッチが閉まる直前、呆気に取られる皆の顔が見えた気がした。

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この記事のコメント
第十八話の感想と誤字報告。
無事プレシアの救出に成功した大樹、母親と幽霊状態の姉と死んだと思っていた大樹との再会に涙するフェイト……。感動のシーンもそこそこに離脱を始めた彼らに襲いかかるクグツ兵……。大樹は無事に生還出来るのだろうか、次回も楽しみですね。
後、誤字を見つけたので報告しておきますね。
“犬耳娘はプレセアさんを介抱していた”の部分は『犬耳娘はプレシアさんを介抱していた』、“なのはちゃんとフェイトちゃん、アルフもついて来ているだし、一安心だ”は『なのはちゃんとフェイトちゃん、アルフもついて来ているんだし、一安心だ』が正しい表記かと。時間の有る時に修正するのがよろしいかと。
実は、このリリ勘のヒロインってフェイトなんじゃないかと最近思う様になってきたベリウスでした。
2009-09-06 Sun 07:35 | URL | ベリウス #VSnRaRv6[ 内容変更]
No title
っ流石だwこれは見事というしかあるまい。
もはや、フラグが立ちすぎていろんな意味で生きていけないんじゃないのか?
・・・ガルウイングの魂の有無発言は伏線と捉えますw(フラグ的な意味で)
2009-09-06 Sun 15:07 | URL | レネス #qd0pqeIc[ 内容変更]
No title
アルハザード製の不死身の人造魔術師と認識されるんじゃないかこのながれはw
2009-09-06 Sun 21:09 | URL | AS #-[ 内容変更]
No title
中に小さな人が乗ってる可能性が高くなってまいりましたw
大樹にも改造人ゲフンゴフン、アルハザード製のナマモノ疑惑が
まあそれは調べても普通の地球人なので――擬態技術が疑われるんですね、解ります

最速に英雄この歌を捧げます
っアンパンマンのマーチ~悲壮な戦い~
2009-09-06 Sun 21:38 | URL | ケト #eShRZu1Q[ 内容変更]
No title
もう“竹中 大樹”がアルハザード製と言われても、納得できそうな
展開になってきたと思う。

…ガルウイングの魂の有無発言…これは、何の為の伏線だ?
何だか妙にワクワクしてきたヨ!?
2009-09-06 Sun 23:07 | URL | asakura #-[ 内容変更]
No title
 充分すぎるほど、勘違いしていると思いますよ。お笑いと同じく説明をしない方が高度なんだと思います。やっぱり、腕がある…。
2009-09-07 Mon 00:08 | URL | 凡士 #-[ 内容変更]
No title
いあいあ今回も面白かったッす。分量の割りにくどくないっちゅうか、読みやすいっちゅうか。
凡士氏のとおり、無駄に説明文あると萎えますからね。台詞の中にさらに〔〕とか。

あと二話くらいだなぁと思って、いざ蓋を開けたらまだまだ簡単には終わってやらないぜって感じで。
またまた、次の更新が待ち遠しいっス。
2009-09-07 Mon 00:47 | URL | kt #-[ 内容変更]
No title
大樹、お前はヒーローだよ!
勘違いとかそんなもんとかじゃね!
お前はもう立派なヒーローだよ!
最高のヒーローだよ!

……まあ、嬉しくないかもしれないけど。
ひどい目に100%に合うけど。
次回も楽しみにしています。では、
2009-09-09 Wed 09:57 | URL | : #-[ 内容変更]
No title
ここまで一気に読ませていただきました
面白いです。大樹の周囲からの勘違い具合がもう・・・
次話の更新を楽しみにしています
2009-09-14 Mon 22:49 | URL | 黒曜 #zVUZevt2[ 内容変更]
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