ネクオロでした
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零の使い魔。~聖十字の騎士~ 第十六話
2009-09-13 Sun 22:54
ああ、次は銃槍(ガンランスだ)―――。

                                                 ダンケ
 

次の日になって。
 日課の素振りを終えた俺は、布切れを使って大釜を磨いていた。
 放って置くと水垢が溜まってヌルヌルするからな、こういうのはしっかりしておかないと。
そんな感じで、今夜こそタバサに日本の伝統である五右衛門風呂を堪能してもらおうと準備していると、白い布が落ちているのに気が付いた。
 拾い上げ、広げてみる。
 あれ……これって確か……。
「……カチューシャ」
 シエスタがメイド服を着ている時、いつも頭の上に乗っけているアレである。
 そう言えば、風呂から上がった彼女はカチューシャを付けていなかった気がする。
 昨日は精神的に参っていたようだから、忘れたことに気が付かなかったんだろう。
 風呂の掃除も一段落したし、彼女の様子も気になる。
 ここは一つ、忘れ物を届ける傍らシエスタを励ますことにしよう。
 え~っと、シエスタの部屋は確か……知らないな。そもそも、行った事すらない。
 悩んでいても仕方ないし、マルトーさんに聞きに行くとするか。
 あの人ならきっとシエスタの部屋が何処にあるのかも知っているだろう。
 ついでに、何か元気の出る料理を作ってもらおう。
 マルトーさんの料理は絶品だ。必ずや、塞ぎ込んだ彼女の心を温かく満たしてくれるに違いない。
 善は急げと厨房に向かう。
 料理長はすぐに見付かった。
 他のコックの人達は休憩しているのか、厨房に居るのはマルトーさん一人だった。
 朝食の準備は一段落付いたらしく、しかめっ面で窓の外を眺めている。
 大方、昼食のメニューに思いを馳せているのだろう。
「……チッ、どいつもこいつも貴族って奴ぁ」
 違った。
 普通に違ってしまった。
 どうやら、マルトーさんは貴族連中にお冠らしい。
 毎日100人以上の生徒に料理を作っているからか、その腕は丸太のように太くたくましい。
 良くも悪くも野生的な髭面は正直なところ恐ろしく、個人的にはそこらのひょろい貴族よりも彼の方が余程怖かったりする。
 だから、俺が声を掛けようか戸惑うのも仕方ないことなのだ。うん。
「ん? おお、“我等の剣”じゃないか! どうした、腹でも減っているのか? 待ってろ。今すぐ最高にうまい飯を用意してやっからな!」
 不機嫌そうな表情が一瞬で、いつもの豪気な笑顔に変わる。
 ギーシュを修正して以来、俺のここでの渾名は“我等の剣”となっていた。
 最初は“我等のナイフ”という単に切れ易い人みたいな呼び方だった。
 流石にそれは勘弁してくれと頼むと、1ランク上がって“我等の剣”になった。
 このままの流れで行くと、次は何になるんだろうか?
 我等の銃槍(ガンランス)とかだとカッコ良くて素敵だと思う。
 剣の次は……槍なのか? それとも斧なのか? 鞭とかは……流石にイメージが違うだろう。
「……いや、シエスタの件だ」
 朝食はルイズと一緒に食べるという決まりがある。
 俺自身も気付かなかったが、そういう決まりがあるらしいのだ。
 もっとも、そのことをルイズが教えてくれたのは昨日だったりするのだが。
 俺が少女の名を出すと、マルトーさんは再びしかめっ面になった。
 重い溜め息を一つ吐き出し、頭を振る。
「ひでぇ話さ。昨日の昼頃にモット伯の従者がやって来たと思えば、開口一番に『明日の早朝に出発出来るよう準備しておけ』だぜ? シエスタにだって都合ってモンがあるだろうによ」
 左手で拳を作り、右の掌にそれを叩き付ける。
 パンという渇いた音が厨房に響いた。
「貴族って奴ぁいつだってそうだ! 俺達平民のことなんかこれっぽちも考えやしねぇ。自分達の都合で人の一生狂わしたことにすら気付きやしない。あいつらは魔法が使える代わりに、人間として大事なモンをどっかに落としちまってんだろーよ!」
 怒鳴り声をあげ、腹立たしげに舌打ちをする。
 なるほど。ようやく全貌が見えて来たぞ。
 そのモット伯という輩がシエスタにちょっかいを出し、挙句の果てに「辞めろ」と言った。
 日頃の気苦労が蓄積していたところに、そのモットとかいう奴のダメ押しを喰らったわけだ。
 で、限界を超えてしまったシエスタは学院を去ってしまった、と。
 それがこの事件の顛末だったわけだ。
 一番悪いのはそのモルモットとかいう奴なんだな。
「シエスタは……何処に居るんだ?」
「そ、そりゃあ、今頃はモット伯の屋敷に向かっている頃だろうがよぉ」
 村に帰っているのであれば、ルイズに許可を取ってからじゃないと行くことが出来ない。
 まだ学院の近くに居るなら、馬でも借りてカチューシャを届けに行くことも出来るのだが―――って。
 何かおかしくないか? どうしてそこでモット伯の名前が出て来るんだ?
 シエスタの住む村はモット伯の治める領地内にあるということだろうか……きっと、そうなのだろう。
 どこまで意地汚いんだ、そのモルモットは。
 自分のところの領民にくらい、少し優しく接したって罰は当たるまい。
「場所を……教えてくれ。会いに……行って来る」
「我等の剣……」
 マルトーさんは目を丸くしていたかと思えば、唐突に掌で顔を覆った。
 そのまま上を向き、何かを堪えるように肩を震わせている。
「ちくしょう、お前さんは何処まで良い奴なんだ! 分かった、分かったぜ! 今すぐ地図を用意すっからちょっとばかし待っていてくれよ! そうだ、道すがら腹を空かしても困るだろう? とっておきの弁当も作ってやっからよぉ! あーちくしょう、涙で前が見えねぇ!」
 ドタドタと重い足音を響かせて、マルトーさんが厨房の奥にすっこんで行く。
 やはり、彼もシエスタのことを心配していたのだ。
 マルトーさんの作ってくれた弁当は、シエスタの村に着いたら彼女と一緒に食べるとしよう。
 休憩中の人達も進んで弁当作りに協力してくれた。
 シエスタがどれだけ好かれていたか分かる場面であった。
「……行って来る」
 馬に跨る。
 地図を持ち、弁当の包みを装備した俺はこれから彼女の住まう村へと赴くことになる。
 山賊に襲われたら怖いので、念の為にデルフとナイフを装備したパーフェクト・モードだった。
「俺達に出来ることはこのぐらいだ。すまねぇが、シエスタのことは頼んだぜ“我等の剣”!」
「……ああ」
 一つ頷き、馬を走らせる。
 地図を片手に乗馬は初体験だったが、この馬は気性が穏やかな為かまだ何とかなりそうだ。
 問題は―――。
「……読めん」
 地図に書いてある文字が全く以って理解出来ない、ということか。
 あの不思議な鏡っぽい何かを潜った時、ドイツ語を習得することが出来た。
 但し、それはあくまで“言葉”限定だったらしい。
 読み書きは別とか何という“別売り方式”。
 そりゃあ、喋ることさえ出来れば日常生活には事欠かないわけだが……ちとひどくない?
 絵を読み解く限りでは、多分こっちの方向で合っている……と思う。
 学院を出たのは昼前だったというのに、今や真夜中である。
 一度戻って出直そうとも考えたけど、何処からやって来たかも分からないので泣く泣く断念した。
 だいぶ元気のなくなった馬を引いて、トボトボと夜道を歩く。
 それから更に一時間程経ったところで、ようやく人工的な明かりが目に入った。
 ……や、やっと民家に辿り着いた。
 腰は痛いし、お腹は空くし、もう散々だ。
 今度からシエスタの村に遊びに行く時は、タバサにお願いしてシルフィードに乗っけてもらうことにしよう。
 兎に角、あの家で道を訊かなければ。
 もう、人見知りとか口下手とか言っている場合じゃない。
 馬を引いたまま、家―――いや、ここまで来るとお屋敷か―――に向かう。
 馬鹿でかい屋敷には当然、馬鹿でかい門があるわけで。
 いや、学院のそれに比べたら遙かに小さいが、それでも一般家庭の俺からすれば大きな門には違いない。
 馬を引いて行くのも……失礼か。
 近くの木に馬の手綱を引っ掛け、出来るだけ友好的な笑みを浮かべながら門番に近付く。
 敵だと勘違いされても困る為、デルフは馬と一緒に御留守番だ。
 護身用のナイフは相変わらずベルトに差してあるが。
 大丈夫、大丈夫、怖くなーい、怖くなーい。
「む、止まれ! ここがモットは―――ひぃっ!?」
「尋ねたいことが……ある」
 笑顔を浮かべながら、ゆっくりとした足取りで近付いて行く。
 門番は腰に刺した剣を抜こうとしていた。
 しかし、どうにも上手くいかないのか、いつまで経っても鞘から少し白刃が覗く程度で止まっている。
 い、いかん。いきなり選択肢を間違ったらしい。
 まだ笑顔が足りないのか!? こうか!? こうでいいのか!?
「く、来るな!? 来るな―――ァ!?」
 ……危ない薬でも使っているのか?
 やっとこさ抜いた剣をしっちゃかめっちゃかに振り回し、何やら泣き喚く門番の人。
 こ、この人、ガチで大丈夫か?
 近付こうにも刃物を振り回している。
 どうしようか迷っていると、門番の人は足を滑らせて門柱に頭を強打してしまった。
 げふぅ、とか声をあげて、門番が崩れ落ちる。
「……務め、ご苦労」
 気を失っている門番にそう声をかけ、門を開いて中へ侵入する。
 無論、すぐにこの決断に至ったわけじゃない。
 俺の計画としては門番の人に道を尋ね、そのままここを去るつもりだった。
 ところが、何をどう間違ったか門番は気を失ってしまっている。
 このまま彼を放って置くのも良心が咎める為、報告するついでに道を訊こうと思い至ったわけだ。
 正直、嫌な予感しかしないんだけど。
 それにしてもどうしてこう、大きな屋敷っていうのは門から家まで距離があるのだろう?
 来客者のことを考えていない造りだとしか思えない。
 そんなことを考えながら石畳を歩いていると、獣の唸り声が耳朶を打った。
 見渡して……ハタと動きが止まる。
 気付けば、凶暴そうな犬に囲まれていた。
 番犬だ。リアル番犬だ。初めて見た。
 ―――ウゥ~ッ!
 そんな感じの唸り声をあげる犬達。
 普通ならば、ここでワンコにびびってしまうところだろう。
 だが、生憎と俺は違う。
 ヘタレなのは否定しないが、動物を相手にするのはこう見えて得意だったりするのだ。
 犬を従えさせる時、こちらが上だと相手に理解させるのが一番手っ取り早いと何かで聞いたことがある。
 叩いたりして体で覚えさせるのも一つの方法だろう。
 しかし、俺がこの場でそれを実践するのは流石に無理がある。
 一歩踏み出したら最後、まとめて噛み付いて来るに違いない。
 ならば……心で訴え掛ければいい!
「……おすわり」
 犬を睨み付け、静かにそう命令する。
 次の瞬間、俺を囲んでいた犬達は大人しくお座りをして―――は居なかった。
「……想定外だ」
 人っ子―――ではなく、イヌっ子一匹居なくなった空間を見つめ、寂しく息を吐く。
 まさか、いきなり逃げ出されるとは夢にも思わなかった。
 襲われなかっただけマシとは思うが、自称・動物好きの俺としては妙にやるせない。
 広い屋敷だからこそ警備に穴があるのか、それから誰にも会うことなく俺は無事入り口に辿り着いた。
 ノックを二回するが……反応はない。
 恐る恐るドアを開け、中の様子を探り見る。
 うわぁ、何だか無駄に高そうな花瓶とか置いてあるし、無駄に豪華っぽい絵画とかあるし、最悪だ。
 とは言え、折角ここまで来たのだ。
 何の収穫もなしに帰るのは癪だった。門番の人のこともある。
「……邪魔する」
 お邪魔します。
 中に入り、静かに扉を閉める。
 これだけ広い屋敷だ。メイドさんの一人くらい居るだろう。
 その人に門番のことを伝え、ついでに道を聞く。
 門番を助ける。道を尋ねる。この二つを完璧にこなさなくちゃいけないのが、使い魔の辛いところだな。
「……覚悟はいいか?」
 ―――俺は出来てる。
「ほう、ネズミ風情が強気だな」
 ……アンタ誰?


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この記事のコメント
No title
いろんな勘違い小説を見てきたがやはり此処にあるのは完成度が頭一つ飛びぬけているな
2009-09-13 Sun 23:31 | URL | #-[ 内容変更]
やって来ましたモット伯邸。
笑みだけで門番と番犬を圧倒できるダンケ。知らない人物が見たら暗殺者の類にしか見えないだろうな……。モット伯は果たしてダンケをどんな人物と誤解するのか次回が楽しみです。
2009-09-14 Mon 08:46 | URL | ベリウス #VSnRaRv6[ 内容変更]
No title
眼力だけで犬を退けるとか、どんだけー(笑

うっかりネタに走ったら宣戦布告になってたでござる。
相変わらずやらかしてくれますね、この男は(苦笑
次がどんな展開になるか、今から楽しみです。
2009-09-14 Mon 10:03 | URL | bottomless #mQop/nM.[ 内容変更]
No title
ニヤニヤw

セリフだけ読むと熟練の戦士にしかみえないw
2009-09-14 Mon 20:31 | URL | レネス #qd0pqeIc[ 内容変更]
No title
犬にも効くんかいwwww
地下水とかは登場するんだろうか?タバサがくれたりとか。
2009-09-16 Wed 19:13 | URL | コイピー #-[ 内容変更]
No title
久しぶりに拝見したら更新分がだいぶたまっていました。
楽しみに拝見します。
ありがとうございます~~。
2009-09-24 Thu 14:28 | URL | あき #-[ 内容変更]
No title
犬にすら伝わる勘違いオーラ...さすがダンケ!!
今更ですが自分も変態仮面読みました!
彼も最初は正義感な好青年だったんですね...
更新楽しみにしてます
2009-09-30 Wed 23:02 | URL | ヤス #5q92NGew[ 内容変更]
ここでモット伯、ああ、あれがドイツの灯火か
初めまして。
最近ゼロの使い魔に染まってSSを探してたら流れ着きました。
とにかく面白い!
勘違いが絡み合って良い具合に上手くいくその様。
しかも言ってる事やっている事と思ってる事が全然違うのがまたイイ!
続きも楽しみにしております!
2009-10-09 Fri 10:03 | URL | YY #Qi8cNrCA[ 内容変更]
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