ネクオロでした
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リリ勘。第二十話
2009-10-11 Sun 14:37
打ち立てた死亡フラグを真っ向からへし折る男―――スパイダーマッ!

追記:誤字を修正しました。ご報告感謝です。byネクオロ

追記2;ランクを修正致しました。Eだと逆に現実味がなさすぎてDにしたことを忘れていました。申し訳ない。by ネクオロ(偽)
第二十話―――それが彼の戦う理由なの? 最速の騎士の正体。


 大樹が外に“飛び出した”後、最初に動き出したのは、なのはだった。
 レイジングハートを握り締め、自分も後を追おうと走り出す。
 だがしかし、その前進はリンディによって止められた。
「どうして止めるんですか!? このままじゃ大樹さんが!」
「落ち着きなさい、なのはちゃん。アースラは今、時空間を航行中なのよ。いくら貴女とRHが優秀でも、この外に飛び出すのは自殺行為です。私はこの艦の長として、なのはちゃんを預かっている身として、貴女を行かせるわけには行かないの」
「だ、だけど、大樹さんは……!」
 なのはが声を張り上げる。
 彼女の言う通り、なのはより―――いや、この中の誰よりランクの低い大樹は外に飛び出して尚、普通に活動している(ように傍目からは見える)。
 ならば、自分が行けぬ道理はないと、そう彼女は言いたいのだろう。
「彼にはガルウイングがあるわ。古の魔導都市“アルハザード”製のデバイスが。……それに、もしかしたら彼自身にも何か秘密があるのかもしれないけど」
「……あれだけの怪我だ。どれだけ腕利きの治癒術士でも、完治させるまでには最低でも十日はかかる。だけど、彼はそれを数時間で成し遂げてみせた。誰の助けも借りずに」
 リンディの言葉を継いだクロノが、複雑な表情を浮かべる。
 親子の見解は一致しているのか、揃って苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
『艦長、大樹さんはBJを時空間内にて展開。敵クグツ兵と相対しています』
「エイミィ、援護は出来そう?」
『……すみません。アースラはフィールドを維持するので精一杯です。あと……その、気になることが一つだけ』
 言うか否か悩んでいるらしく、エイミィにしては歯切れが悪い。
 しかし、リンディが真剣な顔で頷くのを見て決心が固まったのか、一言一句確かめるように口を開いた。
『無事で良かったと言った私に、大樹さんこう言ったんです。“そう簡単に死ねるカラダじゃないらしい”って。寂しそうに笑いながら……』
「―――っ!?」
 エイミィの言葉に、真っ先に反応したのはフェイトだった。
 バルディッシュを手が白くなるほど握り締め、下を向く。
 あまりに過敏過ぎる少女のその行動に、他の面々が疑問を抱くのは当然と言えた。
「フェイトさん、貴女……何か知っているのね?」
「…………」
 リンディの問いかけに、フェイトはブンブンと首を振ってみせる。
 懸命に隠そうとする少女だったが、その瞳がなにより如実に事実を語っていた。
「……フェイト、言った方がいいよ。それがきっと、アイツの為なんだ」
「アルフ……」
 信頼する己が使い魔の言葉を受け、少女の心が揺らぐ。
 青年から、黙っていてほしいと言われた事。
 自分とアリシアしか知らないだろう、彼の秘密。
 不意にバルディッシュを握る手に、別の手が重ねられた。
 ハッとして顔を上げる。
「なのは……」
「お願い、フェイトちゃん。わたしは、ここでただ見ているだけなんて、絶対にイヤなの! だから―――お願い!」
 真摯な想いのこもった言葉に、フェイトの中である決意が固まった。
 ただ見ているだけはイヤ。
 それはフェイトも同じ気持ちだ。
 彼には何度も助けられた、支えてもらった。
 その恩返しが出来ると言うのならば、自分は何だってする。
 心の中で約束を破ることを詫び、フェイトは“真実”を口にした。
「多分、大樹は……普通の“人間”じゃない」


「……詳しく説明してもらえるかしら?」
 フェイトの口にした衝撃的な発言に、凍り付く一同。
 あらかじめ予想していたのか、リンディとクロノだけは顔を顰める以上の反応を見せはしなかった。
「……ご存知の通り、わたしはアリシアのクローンです。母さんがアリシアを蘇らせる為に作った器。だけど、わたしは失敗作だった。アリシアになれなかったわたしは、母さんにとって要らない子だった」
「それは……」
 クロノが口を挟もうとするが、言葉に詰まってしまう。
 フェイトがアリシアの細胞から生まれたクローンだということは、ここに居る全員が知っている。
 否定しようにも、それは覆しようのない事実なのだ。
 娘を蘇生させる為に生み出された少女は、しかしよく似た別人に過ぎなかった。
 故に、プレシアは更なる秘術を手に入れる為に、アルハザードへの道を開こうとしていた。
 例え、その過程でどれだけの犠牲を生もうとも。
「いいの。それでも、わたしは母さんの娘だから。そう思えるようになったのもきっと、大樹のおかげだと思う」
 どれだけ傷付こうと、前へと歩き続けた一人の男が居た。
 満身創痍の体で執念の魔女に挑み、世界を崩壊から救おうとした男が居た。
 そして、その男は今も尚、人々を救う為に単身で強大な敵と向かい合っている。
 心さえも凍り付きそうな闇の中、勇気の炎を灯して道を切り開こうとしている。
「アリシアと初めて会った時、わたしはどう接したらいいのか分からなかった。アリシアは、わたしのことを“妹”って言ってくれたのに……。わたしはクローンだから、偽者だから、一緒に居ちゃダメなんじゃないかって。わたしの存在が幸せを奪ってしまうんじゃないかって」
 本来、プレシアと一緒に居るべきなのはアリシアだと、フェイトは思っていた。
 実の娘である彼女が理由はどうあれこうして存在している以上、自分は要らないのではないか。邪魔になるのではないか。
 心の優しい少女はそう考えてしまっていたのだ。
 重い雰囲気の漂う中、誰も口を開こうとはしなかった―――否、出来なかった。
 ただ、リンディだけは他の面々と違い、その様子を穏やかな表情で見詰めている。
 子供を持つ彼女には分かっていたのだろう。
 少女がもう既に、その悩みを過去のものとしていることに。
「そんな時に、大樹が言ったんです。“そりゃ戸惑うよな。受け入れられないよな―――俺もそうだったよ”って」
 大樹がフェイトのようにクローンなのか、それともまた別の存在なのかは分からない。
 ただ、この言動から判断するに、“人間”でない故に辛い想いをいくつもしてきたのだろう。
 それを乗り越えてきたからこそ、今の優しい彼があるのだ。
 無骨なヴァイザーで悲しみをひた隠し、何処かの誰かの為に戦い続けた男。
 人間でないその男は、人間を守る為にその腕を振るい、魂を燃やし続ける。
 それは―――正しく“ヒーロー”の在り方だった。
「アイツ……ただのお人好しじゃなかったんだね」
 馬鹿なお人好しだと思っていた男が実は、ここに居る誰よりも重く辛い過去を背負っていたことに驚きを隠せないアルフ。
 彼がフェイトの為に尽くしてくれたのは、単なるお節介ではなかったのだ。
 同じ苦しみを持つからこそ、自分のようになってほしくない。
 その一心で、彼は少女を救おうとした―――いや、救ったのだ。
「うん。多分、わたしよりもたくさん辛い想いをしてきたんだと思う。それでも、大樹は優しい大樹のままだった。……わたしはその優しさに救われたんだ。……なのは、なのはは大樹のことが怖い? 人間じゃなくても……平気?」
 その声音に、ほんの少しの不安を乗せ、フェイトは問い掛ける。
 なのはは少女の瞳を見詰め、ゆっくり―――そしてなによりハッキリと首を横に振った。
 その目には一切の迷いが感じられない。
「ううん、関係ないよ。フェイトちゃんはフェイトちゃん。大樹さんは大樹さん。人間じゃないからとか、クローンだとか、難しい話はわたしには分からないけど、それでもこれだけは言えるの。わたしにとって、二人はとっても大事な“友達”だって!」
 そう元気良く答えるなのはの顔は、なにより輝いていた。
 ありがとう、と呟き、フェイトが微笑む。
 何度もぶつかり、何度も言葉を交わした二人は、なにより強い絆を手に入れたのだ。
「行こう! 一緒に大樹さんを助けに!」
「……うん!」
 駆け出そうとする二人。
 その肩をリンディがガッチリと掴んだ。
 苦笑を浮かべ、溜め息を吐く。
「だからダメだと言っているでしょ? 大樹君のことが心配なのは分かるけど、その為に貴女たちを危ない目に遭わせるわけにはいかないの。分かってちょうだい」
 ただでさえ、プレシアの起こした時空震のせいで不安定なのだ。
 二人の少女が生半可な魔導士でないことは、この一連の事件を通して理解している。
 だからと言って、なにが待っているか分からない場所にまだ幼い子供を送るわけにはいかなかった。
 それは時空管理局の提督としてではなく、一人の大人として、子供を持つ親としての気持ち。
「その代わり―――私が行きます」
「か、母さん―――い、いえ、艦長、それは危険すぎます!」
「……そうね。だけど、その危険な地で大樹君は一人で戦っているの。私は時空管理局の人間として、一人の人間として彼を見捨てることは出来ないわ」
 大樹は表向きこそ、時空管理局に雇われた傭兵となっているが、実際はなのはと同じ“協力者”に近い。
 彼の言を信じるのであれば、大樹は無償でなのはを守り、単身で大魔導士に挑み、そして今も深淵の底で鋼の番人と対峙している。
 リンディの知る“傭兵”は金にがめつく、旗色が悪くなれば契約を破棄して逃げ出す魔導士の風上にも置けない輩ばかりであった。
 だが、大樹は違う。
 少女の勇気に胸打たれたと、彼にとっては何の徳にもならない契約を結び、それを己が信念に従って守り通して来た。命を懸けてきた。
 彼女の所属する時空管理局は、司法機関―――詰まる所、法の番人だ。
 多くの世界を管轄する彼らには当然、“正義”と“真実”を追究する強い意志が求められる。
 しかし実際は、高給に惹かれて志望する者や地位を保持する為だけに在籍している者といった、己が欲望の為に身を置く者が多いのが現状だ。
 上の地位に居ると、否応なしにそういった組織の黒い部分を目にする事になる。
 高い給料が約束され、地位が確立している管理局でもそうなのだ。
 それが何の制約も制限もない傭兵という立場ならば、荒れて当然と言えるだろう。
 故に、フリーランスの魔導士が管理局から嫌われるのもまた、必然と言えよう。
 だからこそ、それ故に、リンディの目には大樹の存在が輝いて映っていた。
 彼のような人材こそ管理局に―――いや、この世界に必要なのだと。
「…………」
 母親の強い意志のこもった言葉に、クロノが黙り込む。
 彼女の頑固さは息子の彼が一番理解している。
 普段は柔軟発想の出来る優れた統率者だが、気に入った人物が現れると頑固なまでにお節介を焼こうとする―――それがリンディ・ハラオウンという女性なのだ。
 なのは然り、フェイト然り、大樹然り。
 彼にとって不幸だったのは、この管理外世界にリンディの好む人物が多過ぎたこと、ただその一点に尽きる。
「エイミィ、それじゃあハッチを開放してちょうだい。あとの指揮はクロノ、貴方に任せるわね」
『か、艦長! 通信が回復しました! え、これは―――つ、通信繋ぎます!』
 それはほぼ同時のタイミングだった。
 エイミィの慌てた声が途切れると同時に、一同の前に空間モニターが展開する。
 完全に通信が回復したわけではないのか、画像が出る気配はない。
 固唾を飲んで見守るなのはたち。
 しばらくノイズが続いた後、待ちに待ったその声がアースラ内に響いた。
『―――あんなデカブツなんて俺一人で余裕。楽勝。誰の助けも要らないぜ! お、楽しくなってき―――』
 ブツンという音と共に、通信が途絶える。
 それから言葉のない時間がしばらく続き。
「にゃはは……」
 誰からともなく、苦笑が零れた。
 こっちがあれだけ心配していたのに、とうの本人は場違いなほど垢抜けていたのだから無理もない。
「まったくもう……。でも、もしかしたら、あれが本当の彼の姿なのかもしれないわね」
 大樹と初めて接触した時、彼はこちらを警戒してBJを解除しようとはしなかった。
 口調は硬く、一向に緊張を解こうとはしなかった大樹。
 デバイスにアースラの内部マップを記録させていたのも、有事の際になのはたちを連れてすぐに離脱する為だったのだろう。
 あの時は傭兵という職業柄、警戒心が強いだけかと思っていたが、フェイトの発言を聞いた今ならば分かる。
 彼は“組織”を疑っていたのだ、と。
 大樹が純粋な方法で誕生した人間でないと言うのならば、彼を何らかの方法で生み出した“機関”が存在する筈だ。
 命を弄ぶ研究など、生半可な知識と財力で行えるものではない。
 事実、フェイトを生み出す為に、プレシアはアリシアの事件で手にした賠償金だけでは足りず、使える手を全て使い、あらゆる方面から資金を工面した。
 当時、魔導の研究者として名を馳せていた彼女でさえそうだったのだ。
 こういう言い方はしたくないが、大樹のような高いポテンシャルを秘めた個体を創造するのにかかった金額と月日は並大抵のものではあるまい。
 ―――だからこそ。
 彼は“組織”を信用しない。
 プレシアのように、自身の娘を蘇生させようと禁忌に手を出す者は極少数だ。
 そういった負の遺産に固執する者の大半は、欲に塗れた人間に他ならず、そういった輩は生まれたモノを研究成果としか見ないのが常である。
 “出来たモノ”が不完全であったならば廃棄され、基準を満たしていたのならばデータを取る為だけに生かされ、動く限り利用され続ける。
 悲しいことにそれが現実であり、研究の対象が人でこそ無かったものの、魔導兵器として作り変えられ、命を歪められた生物をリンディはこれまでに何体も見てきた。
 大樹がかつて、そのような扱いを受けてきたのだとしたら……初対面の際の言動にも納得出来る。
 組織と聞いて、過剰なまでに警戒するのも当然と言えるだろう。
 彼はなのはやユーノが、自分と同じ目に遭うことをどうにかして避けようとしていたのだ。
 そう、リンディは結論付けた。
 大樹がこちらを信用してくれたからこそ、その本質を見せてくれたのだと。
『艦長~! クロノく~ん! 誰でもいいから、助けてよ~!? わたしだけじゃ手が足りないって!』
「……エイミィ。今は作戦行動中です。私語は慎みなさい」
『そ、そんなこと言われても―――じゃなかった言われましても―――うきゃっ!?』
 フィールドに何かが接触したのか、アースラが僅かに揺れる。
 溜め息を一つ吐き出し、リンディは全員を見渡して言った。
「本人が大丈夫だと言っているんだから、今は彼の発言を信じましょう。わたしたちはわたしたちに出来ることを、彼の帰って来る場所を守る為に出来ることをしたいと思います」
「で、でも、大樹さんのことだからわたしたちのことを心配して……」
「うん。助けを拒む為に、わざと言ったのかもしれない。大樹は……本当に優しいから」
「そうかもしれないわね。ただ、今の大樹君は以前の大樹君とは少し違う。わたしはそんな気がするの。もしかしたら、彼には何か秘策があるのかもしれないわ。この状況を打開する為の秘策が―――とは言え、そう簡単に納得は出来ないわよね?」
 苦笑を内包したリンディの言葉に、真剣な表情で頷く二人の魔法少女。
「分かりました。じゃあ、こうしましょう。直接助けに行くことは出来なくても、応援する方法はあります。これから全員でアースラのブリッジに行きましょう。そこで、二人には貴女たちのやり方で彼を勇気付けてあげてください」
「わたしたちの……」
「……やり方?」」
「ええ」
 小首を傾げる二人に、リンディは穏やかな表情で頷く。
 想いは言葉となり、言葉は力となる。
 この二人の心優しい少女たちの想いならば、必ずや青年の力となるだろう。


「―――通信、途切れました。……大樹さん、大丈夫かな……」
「大丈夫よ。彼には、可愛い天使が二人もついているんだから」
 リンディの視線の先。
 そこには食い入るようにモニターを見詰める二人の少女が居た。
 ブリッジのメインモニターには、AAランクのクグツ兵と対峙する白銀の騎士が映っている。
 大樹の魔力ランクはD。普通ならば到底、勝ち目のない戦い。
 だが、ここに居る全ての者が知っている。
 彼にとってランクの上下など、まったく意味を成さないことを。
「え……? 姉さん……」
 不意にフェイトが声を漏らした。
 モニターに映る大樹に重なるようにして、金の粒子が飛び交っている。
 変化はその直後に現れた。
「う、嘘……!? か、艦長! 大樹さんの魔力が急速に上昇しています! ランクCを突破―――ランクB―――そんな!? まだ上がってる!?」
「……これが彼の実力、ということかしら」
 リンディの呟きに、アースラクルーが黙り込む。
 魔法使いになって間もないなのはは、その様子をアワアワしながら見ていた。
「わ、わたしには何がなんだがサッパリなのですが……。ユーノ君、分かる?」
「う、うん。なんとか、ね」
 フェレット状態のまま、なのはの肩に乗っていたユーノが困惑しながら口を開いた。
「なのはは知らないかもしれないけれど、魔力の量っていうのはあまり変化しないものなんだ。確かに特訓することによって魔導士のランクは変動するよ。ただ、それは魔力の量が増えたからじゃない。特訓によって魔力の制御技術が向上しただけ」
 技術は鍛錬によって向上する。
 だが、魔力総量はもって生まれた才能に左右されるものだ。
 なのはが魔法に関して初心者なのにも関わらず、ここまで戦うことが出来たのはRHの補助と持ち前のセンス、そしてもって生まれた莫大な魔力のおかげだった。
 仮に、なのはのランクがBだったとすれば、ここまでうまく立ち回ることは出来なかっただろう。
 だからこそ、管理局はランクを重視するのだ。
 AランクとAAランク。
 字で表せばさして差がないようにも思えるが、実際は天と地ほどの開きがある。
 たった1ランクの差がこれだけ大きいのだ。
 それをあろうことか、大樹は一瞬で2ランクも引き上げてみせた。
 これを異常と言わずして、何を異常と言うのか。
「変わった……!」
 フェイトが目を輝かせる。
 モニターを焼く金色の光。
 それが晴れた時、最速の騎士は新たな力を宿していた。
 アースラのクルーが息を呑む。
 鋭角さを増したより攻撃的なフォルム。
 体を奔る金色のライン。
 タービンを覆っていた装甲板は全て消滅し、露出したガルウイング。
 荒れ狂う魔力の波にたなびく、金のマフラー。
 そして―――ヴァイザーの奥で燦然と輝く、紅の瞳。
 時空さえも超越する、神速の騎士がここに爆誕した。
 タービンが唸りをあげ、収納されていたリボルバーが連続で回転する。
 騎士の双眸が一際強く輝いた時、彼の眼前に灰と金の織り交じった魔法陣が出現した。
 プレシアの時空跳躍魔法を、“魔法陣のみ”で防いだそれは、バチバチと放電しながら高速で回転し始める。
 刹那、クグツ兵の砲身から高密度の魔力砲が放たれた。
 エンジン出力の大部分を推進機関に回しているとは言え、戦艦のフィールドすら撃ち抜くだけの威力を持つ筈のそれが、呆気なく未知なる魔法陣に受け止められる。
 砲撃を止めた魔法陣が一層激しく明滅した。
 中心で捩れるようにして、魔力の塊と化した砲弾が吸い込まれていく。
 そして―――それは起こった。
「大樹さんの魔力ランク、更に上昇!? BからAへ! Aから―――す、推定ランクAAA!?」
「……まさか、取り込んだと言うの!?」
 リンディの呟きだけが、静かにブリッジに木霊する。
 相手に自身の魔力を与える魔法が存在する以上、相手の魔力を奪う魔法も存在する。
 だが、大樹が起こした現象はそのどちらにも該当しない。
 彼は既に発動した魔法を魔力に戻し、それを取り込んだのだ。
 ―――ヲォォォォォォォオオオオオオオオ。
 膨大な魔力を吸収したガルウイングが獣のような唸り声をあげる。
 次の瞬間、モニターに映る騎士の姿が僅かにブレた。
 食い入るように画面を見詰めていたなのはたちですら気が付かないほどの、ほんの些細な歪み。
 だがしかし。
 この瞬間、確かに勝敗は決していた。
 ガルウイングの本体から、関節から、胸部装甲から、魔力の残滓が蒸気のように吐き出される。
 タービンを固定していたボルトが弾け飛び、赤熱したそれが鈍い音を立てて外れた。
 深い亀裂の刻まれたヴァイザーから、真紅の瞳が露になっている。
 ―――“グラビティ・ブースト”。
 ガルウイングの本来の目的、“時を超越する魔法”を実現する為だけに編み出されたスペル。
 その第一段階こそ周囲の空間を歪め、時空振動を意図的に発生させるというものだった。
「―――っ!? あ、新たな時空振動が発生しました! 座標は……え、クグツ兵の中心……!?」
 アースラに匹敵するほど巨大なクグツ兵の胸部。
 そこにいつの間にか小さな穴が開いていた。
 仮に巨人が人間サイズであったならば、針で刺した程度の小さな傷。
 その小さな綻びが、巨人の命運を分かつことになる……。

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この記事のコメント
No title
何と言う孤高のヒーロー、何と言う仮面ライダー
大樹さんマジパネェw
変身とか第三者視点から見ると普通にカッコイイので、これは勘違いされても仕方ない
例えバイザーの奥で滝の様な涙を流していようが、内心がどれだけヘタレてようとも!


何故かグラビティ・ブーストで超々カンタムを幻視した……
2009-10-11 Sun 16:06 | URL | ケト #eShRZu1Q[ 内容変更]
裏側では・・・
>「……リンディ。今は作戦行動中です。私語は慎みなさい」
…ハムスター(エイミィ)さんですな。という報告をば

さて、いつも楽しく読ませてもらってます。アースラサイドからみるとこうなってたんですなあ。
…ものっすごい勘違い振りに爆笑させてもらいました。
「大樹にそんなつらい過去があったなんて(勘違い)……ポ」
というやつですね?
ガルウィングのはじけっぷりや大樹の偶然の英雄行動、周りの突き抜けた勘違いっぷりを楽しみにしてます。
2009-10-11 Sun 16:13 | URL | 中年戦士メタボマン #-[ 内容変更]
No title
誤植を……と思ったらもう報告されていた罠

これは酷い勘違いだ。いいぞ、もっとやれ
2009-10-11 Sun 19:40 | URL | ららら #-[ 内容変更]
No title
何故だろうか?
大樹を見ているとホロリと涙が流れるのはwww
大樹にいつか日常の幸せが訪れることを願っています(・・・もう、後戻りが出来そうにないので。)
2009-10-11 Sun 21:09 | URL | レネス #qd0pqeIc[ 内容変更]
No title
他人の視点からだとこれだけヒーローなのか!? 中の人は半分錯乱状態だというのにw
んー、しかし以前は確かC-ランクという記述があった覚えがあるのですがEランク。更に下がってる(爆笑
復活に根こそぎ魔力をアリシアに使われたのかもですが、仮にC-から3ランク+更にUPだとSオーバー?
そりゃ誰も心配はするけどこれだけやっちゃうと助けになんて来てくれないわな!

哀れすぎる |||orz

>バトロイド
イメージが宇宙刑事だったけれど、この表現で納得です。中の人が居るのにおかまいなしに無理やり変形・変形後の身体から赤い液体が漏れるおいたわしい雰囲気になるで非常に納得しました。
2009-10-12 Mon 03:34 | URL | トオリスガリノカメンライダッ #-[ 内容変更]
ピコーン
アースラクルーとユーノに大樹に対する(勘違いによる)信頼度が上がりました

なのは、フェイト、アルフ、アリシアに大樹に対する(勘違いによる)信頼度と好感度が上がりました

大樹に(勘違いによる)人造人間フラグが立ちました

アリシアとガルウイングによるBJの二次変身を習得しました

とゲーム風にしたらこんなところでしょうか(笑)
2009-10-12 Mon 13:25 | URL | ういっす #t50BOgd.[ 内容変更]
No title
もうね、大樹はこのままStrikerSまで行って勘違いされてると良いと思うんだ。(リンディさんあたりに
機動六課に雇われた傭兵として処理される、又はStrikerSドラマCDの海鳴で起きた事件にガルウイングに促されて参入する事になるとかで良さそう)
そして、フォワードメンバーからも“部隊長達が絶対の信頼を寄せる傭兵”とかと思われると良いと思うんだ。特にエリオは今回での勘違いによる人造生命フラグをフェイトから聞いて自分も彼の様な強くて優しい騎士になろうと思ったりすると思うんだ。 (ちなみに大樹の設定年齢は20歳なのでStrikerS時には30歳だが大丈夫だろう)もうこれは完結した後は短編でも良いからStrikerS編をやってもらいたいです。ところでネクオロさん、他の人のコメントにも有りますが大樹は第一話からずっとDランクだったはずですがいつの間にEランクに下がったんですか?
2009-10-12 Mon 16:00 | URL | ベリウス #-[ 内容変更]
No title
大樹さんパネェっす。
通信は前部分が聞こえたんですね。後ろかと思ってた。
2009-10-12 Mon 23:10 | URL | コイピー #-[ 内容変更]
No title
 まさか、暴走ですか…。魔力上昇の大部分はアリシアのおかげでしょうか? 
2009-10-14 Wed 15:59 | URL | 凡士 #-[ 内容変更]
No title
<何故かグラビティ・ブーストで超々カンタムを幻視した……
ケトさん。あなたもカンタムの最終回で泣きましたか?

ここまでくるとひどいすぎるなと言いたくなる程の勘違いぶっり、大樹が哀れや。
まあ、前からだけど……。
誰か誰か大樹のことを勘違いしないでくれる人いないかなと思ちゃっいました。
還ってきても頑張れ大樹!
2009-10-16 Fri 17:35 | URL | : #-[ 内容変更]
魂の定着化?
人工知能ではなく、魂を抽出してデバイスに定着化した禁忌の具現化。
新たな贄を取り込み、想定を越える性能を発揮しだした規格外品。
その忌まわしき魔都の遺産を振るうは、誰よりも人らしい心を持った魔人。異形の鎧を纏う力なき者の楯にして剣たる者。
みたいなダークヒーローとして認識されてしまったということですね(笑)
2009-10-19 Mon 01:44 | URL | shahil #GOb6M/sw[ 内容変更]
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