ネクオロでした
スポンサーサイト
-------- -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
別窓 | スポンサー広告
ネギ団子まとめ2
2009-12-08 Tue 21:46
ネギ団子まとめその二です。

一度に全ての話を載せると重くなり、色々と不具合の生じる可能性もありましたのでいくつかに分けることにしました。

サルベージしたものなので誤字や脱字がそのままになっている箇所があるかと思います。時間を見付けてちょこちょこと修正していくつもりです。

「にとーれんげきざんてつせーん!」
「―――っ!」
 し、死ぬ!? 死んでしまう!?
 何なの、この国は!? 初対面の人に仕掛けないといけない法律でもあんの!?
 可愛らしい格好をした女の子の手に握られているのは、二振りの刀。
 それはいい……いや、良くないけど、斬りかかってくるのならまだ分かる。
 だが―――。
「ざんくーせーん」
「……チッ」
 斬撃が飛ぶのは頂けない。つーか、在り得ない。
 この世界じゃ杖の代わりに、刀としての技術発動媒体が確立されているのだろうか。
 飛んで来た末恐ろしい空気の塊を、またもやデルフを盾に使って防ぐ。
 すまない、デルフ。お前を盾としか扱えないヘタレな担い手で。
「相棒、こいつぁ少しばかりまずいな。相手は小回りの利く二刀使いだ! 一撃の威力こそ低いものの、どうやら魔法とは違った力で体を強化しているらしい。後手に回ったら、少々厄介だぜ!」
「……だな」
 ンなこと見りゃ分かるって!
 馬鹿みたいな速度で振るわれる刀を、辛うじてデルフで捌いていく。
 デルフのサポートと体に染み付いた心許ない技量のおかげで命こそ繋いでいるものの、このまま行けば間違いなく俺は輪切りになるだろう。
 視界の端に光る物が入った。
 ―――そうだ。二刀には……二刀で相手だ!
 幹に刺さったナイフを引き抜き、構える。
 ただ、デルフの重量がある以上、片手に一本ずつ持つことは出来ないので、両手で挟むようにして二刀を辛うじて装備する。
 あれ、これってジリ貧じゃない……? 意味ないよね? 攻め込む隙を与えただけの気がするよ。
「あらー。おにーさん、付け焼刃って言葉、知ってます~?」
 え、ええ。知っていますよ―――今の俺のことでしょう?
 表に出ているかどうかは別として、顔が引き攣る。
「ええ加減に本気出したらどうですかー? じゃないと、おにーさん……」
 言葉を区切り、ほわっとした笑顔を浮かべる女の子―――月詠さんだっけ?
 笑うと可愛いよね、この子。ただ、どこか安心出来ない笑顔だ。
 何と言えば良いのか……“危ない笑み”だ。
 おにーさん、嫌な予感がひしひしとしてきたよ。
「―――死んじゃいますえ~」
 ―――こわっ!?
 笑顔でいう台詞じゃないって……!?
「相棒、右だ!」
 訳の分からん軌道で放たれた一撃を、デルフを使って何とか受け止める。
 正直、相棒の補佐がなければ、今の攻撃で俺は物理的に分身する羽目になっていただろう。
 華奢な見た目に反して、ものすごい力だ。
 このままじゃ確実に押し切られてしまう。
 し、仕方ない。痛いから嫌だったが、こうなれば奥の手を使うしかない!
 渾身の力で女の子の刀を押し返し、距離を取る。
 次の瞬間、俺は信じられない物を目にすることになる。
「いきますえ~。らいめーけーん!」
 ……剣が光っている。雷まで落ちている。
 いやぁ、これはさすがに……チートすぎるでしょう?
 バチバチと音を立て、少女の刀に紫電が奔る。
 思い出したのは、シシャクとの一戦で受けたあの一撃。
 火傷の痛みに日中夜苦しんだのは、今でも恐ろしい記憶として残っている。
 トラウマだ。あの細長い杖と一緒で、電気攻撃はトラウマなのである。
「……デルフ。喰い尽くせ!」
 必殺、投げっ放しジャーマン。
 発した言葉に深い意味などない。
 デルフなら……デルフならきっとやってくれる。何とかしてくれる。
 口は少々悪いが、こう見えて伝説の剣だ。
 ビームとか出して相殺してくれるに違いない。
 あの時も、なんだかんだ言って衝撃を和らげてくれたみたいだし、きっとなんとかなる。
「―――っ!? そうか! あの力も元は術者の精神力、完全にとは行かなくても和らげるくらいなら―――構えろ、相棒!」
「……ああ」
 流石は生きる伝説。対処法を見つけ出してくれたようだ。
 デルフの言葉に従い、大剣を盾にする。
 ビリビリを纏った女の子の剣とデルフが接触し、何故か爆発した。
 ……ルイズ? どっかにルイズが居るの―――って、そんなわけないよな。
 吹っ飛ばされ、その衝撃でデルフが何処かへすっ飛んでいく。
 このまま叩き付けられるのは勘弁だった。
 ―――“ハーミット・パープル”!
 右腕から顕現した茨が、眼前に在った“何か”に絡み付く。
 痛い。チクチクと痛い。トゲが刺さって地味にダメージを受ける。
 巻き付いた対象は無傷で、本体だけがダメージを受けるのは絶対におかしいと思う。
 いつつ……木かな? それとも石かな?
 ブレーキ代わりになってくれるのならば何でもいい。
「…………」
 ま、まあ―――この展開はかなり予想外だったが。
 俺の体重と女の子の体重。
 比べればどっちが重いかなんて一目瞭然だろう。
 当然、重い物体と軽い物体が引っ張り合えば、重い方に分があるわけで。
「はぅ―――っ!?」
「……コォォ」
 茨に巻き付かれ、こっちへ飛んで来た女の子のお腹に再び波紋疾走(オーバードライブ)。
 いかん。さっきのイザコザの流れで、引き寄せる→波紋拳のコンボが体に染み付いてしまったらしい。
 おまけに今度は性質が悪いことに、短刀を握った腕での一撃である。
 刃こそ向けていないものの、宝石のはまった柄尻が減り込むのは相当に痛いと思う。
「……すまない」
 よりによって、女の子に暴力を振るってしまうとは。
 そりゃあ、正当防衛という免罪符はあるが、さっきの狐の人と違ってこの子は人間……人間だよな?
 刀から電気は出すわ、斬撃は飛ぶわ、岩は真っ二つにするわ……おい、明らかに人間の所業じゃあないんだが。
 謝罪の言葉を口にした直後、どういう現象が働いたのか少女の体が後方に吹き飛んだ。
 俺の目の錯覚でなければ、ナイフの宝石に小さな皹が入っている。
 ……あー、そういや、王子様の説明の中に風石がどーのこーのという単語があったような、ないような。
 木の幹に叩き付けられ、糸が切れた人形のように動かなくなる月詠さん。
 今の技。風を操る波紋、名付けて―――。
「―――若草色の波紋疾走(リーフグリーン・オーバードライブ)」
 ……草? 
 風とか言っていたくせに、気付けば植物になっていたこの不思議。
 自分の英語力の無さに絶望した瞬間である。
 ―――と。こんなことをしている場合じゃない!
 あの子が無事かどうか確かめなければ。
 起き上がり様の反撃とか怖いので、そっと近付く。
 ……呼吸はしているようだが、動かない。
 もしや、頭の悪い位置を打ってしまったんじゃ……!?
 傷の具合を確かめようと手を伸ばしたところで、一際大きな爆発音が響いた。
 慌てて視線を向けると、光の柱が無くなり、代わりに巨大な鬼が咆哮などあげている。
 ビクリとする俺。ヘタレなところは相変わらずで、何故かそんな自分にホッとしてしまった。
「……まずいぞ、相棒! あの野郎、とんでもない魔力を蓄えてやがる! あんなのそこらの奴にどうこう出来る代物じゃねぇぞ!」
 じゃあ、俺には絶対無理ですね。分かります。
 龍宮さんなら行けるんじゃないの?
 銃持っているし、動き速いし。
 多分、俺よりも運が良いだろうし。
「……行くぞ、デルフ」
「応ともよ!」
 デルフを拾い上げ、走り出す。
 逃げようとか一瞬思ったが、すぐに考え直した。
 このパターンで逃げ出そうとして、今までろくな目に遭ったことがない。
 ―――死中に生を求める。
 生き残る為には時に危険な場所に赴かなければならない、という古人の言葉だ。
 今こそ、それを実践する時に違いない。
 ……震えるなハート。泣き疲れるほどヒート。
 震える足を叱咤し、茨で地図を描きながら先へと進む。
 あー、胃が痛い。
 あんな大きなバイオ鬼、いったいどうすりゃいいんだよ……。
「…………」
 とりあえず、スタンドをしまおう。
 出し入れが自由になったのは大きいな、良い意味で。
 相変わらず、腕から血が流れるという欠点はついて回っているけど。
「にしても相棒、お前さんまた妙な力を引き込んじまったもんだな」
 デルフがその口調に苦笑いを含ませて言った。
「……まあな」
 気付いたら腕から茨が生えていた。
 何を言っているのか分からないと思うが、俺にも―――ってな感じである。
 しかも使う度にトゲが刺さるとか。どんなM仕様だよ……。
最初に出た時から気になってはいたけど、これ、見ようによっては、腕を突き破って生えているように映るんじゃないの?
 そうだとしたら、完全に危ない人じゃないか……いや、大剣背負っている時点で十二分に危ない人でしょうが。
「伝説の力が使えない分、その訳の分からん力に頼るしかないってことか。こっちとしちゃ、この機会にバンバンと俺を使って欲しいところだけどなー」
「……善処しよう」
 基本、盾としてだが。
 衛星パワーがないとまともにデルフを振るえない以上、この使い方でしばらく我慢して欲しい。
「おう。まっ、相棒は元々素手でやってたらしいからな。無理にとは言わねーよ。担い手あってこその剣。つまり、相棒あってこその俺ってわけだ。相棒に限ってンなこたぁないとは思うが、お前さんに何かあったら貴族の嬢ちゃんも悲しむからな」
 満足そうにカタカタと鍔を鳴らしたあと、鞘に収まるデルフ。
 流石は長い間生きている(?)剣、一つ一つの言葉に確かな重みを感じる。
 ルイズに心配をかけるわけにはいかないし、今まで以上に慎重に生きていこうと思う。
 ただ、一つだけ訂正したい。
 俺は素手派じゃない、どちらかと言えば“即行で土下座派”である。


「どうも~。月詠いいますー。神鳴流やってます~」
「……ダンケだ。使い魔をやっている……以上」
 言葉の応酬は唐突に終わりを迎えた。
 少女―――月詠は二刀を構え、青年は背の大剣に手をかける。
 一部始終を見ていたわけではないが、自分の隠行を見破る輩だ。
 相応の力を持っていると見て、間違いはないだろう。
 だが、雰囲気を読む限りでは、ダンケは彼女が前に戦った刹那には遠く及ばない。
 この男をさっさと倒し、一刻も早く“愛する先輩”と命のやり取りをしたかった月詠は、早々に切り札を使用した。
「にとーれんげきざんてつせーん!」
 ―――二刀連撃斬鉄閃。
 気を纏った刀の一撃は、その名の通り、鉄をも斬る刃と化す。
 普通の得物で受けた場合、武器ごと持ち手を切り裂く必殺剣だった。
 ―――だがしかし。
「―――っ!」
 青年の抜いた大剣によって、必殺の一撃は容易く受け止められた。
 かなりの衝撃が伝わった筈なのに、彼の顔に苦痛の色は一切浮かんでいない。
 ぶつかる直前、後方に体を傾けることで衝撃を逃がしたのだろう。
 表情を読ませないことと言い、今の技術と言い、生半可な使い手ではなさそうだ。
 そして、それは月詠にとって、喜ばしい誤算だった。
 彼女の幸福とは、強い者と命のやり取り―――決闘を行うこと。
 相手が強ければ強いほど、それを斬り捨てた時の幸福感は大きく、忘れ難いものとなる。
 胸中で歓喜の声をあげ、二刀を握る腕に力をこめる。
「ざんくーせーん」
「……チッ」
 飛ぶ斬撃すら、大剣に防がれた。
 見る限り、あの武器に特別な能力は秘められていない。
 どうやら口を利けるらしいが、戦闘にそれが直接関係してくるとは思えなかった。
 魔法や気で強化された得物ならば、神鳴流剣士たる月詠に見抜けぬわけがない。
 となると、彼は自身の体術のみで気で強化した自分と渡り合っていることになる。
 このままでは分が悪いと思ったのか、青年が木の幹に刺さっていた短刀を引き抜いた。
 大剣の柄を握る両手に挟み込むようにしてナイフを保持する、という、月詠が目にしたことのない特殊な構え方。
「あらー。おにーさん、付け焼刃って言葉、知ってます~?」
「…………」
「ええ加減に本気出したらどうですかー? じゃないと、おにーさん……」
 青年の目がスッと細められる。
 彼の口元に浮かんでいるのは―――冷笑だった。
 聞こえる筈のない声が月詠の耳に届く。
 付け焼刃かどうか、その身で……。
「―――死んじゃいますえ~」
 ―――試してみるか?
 今、二つの狂気が激突する!
「いきますえ~。らいめーけーん!」
 気を剣先に集中し、雷と成して敵を討ち滅ぼす奥義―――雷鳴剣。
 この技の最大の利点は、例え受け止められたとしても電気が敵の武器を伝うことでダメージを与えられる、という点にある。
 特殊な金属で作られていようが、金属には変わりない。
 受け止めてしまえば最後、雷の一撃によってその身を焼き尽くされることになるだろう。
「……デルフ。喰い尽くせ!」
 青年が大剣を構える。
 雷を纏った剣と大剣が接触し、火花が散った。
「―――っ!?」
 そこで初めて、月詠は違和感に気が付いた。
 剣先に集中した気が、青年の得物とぶつかった瞬間に一気に弱まったのだ。
 あたかも、吸収されてしまったかのように。
 このまま刃を交えているのは危険だ。
 そう咄嗟に判断した月詠は、強制的に気を爆発させた。
 この爆風を利用して一度距離を取り、青年の出方をうかがおう。
 その判断自体は間違いではなかった。
 ただ、“相手”が悪かっただけに過ぎない。
 爆風を穿つようにして、鮮やかな紫色をした茨が飛び出して来た。
 剣で切り払おうとするものの、それよりも早く数本の茨が月詠の体に絡み付く。
 気で体を強化して振り解こうとするが、茨に何か能力を付加してあるのか、うまく意識を集中することが出来ない。
 まずいと思った直後、体がものすごい力で引き寄せられた。
 眼前には、短刀を静かに構える青年の姿が迫って来ている。
 大剣は既にその手には握られていない。
 左手に茨を、右手に短刀を備えた青年が静かに息を吐き出す。
 空気の壁を穿つように突き出される右手。
 防御しようにも、茨に動きを制限されてそれは適わない。
 彼女に出来ることは、訪れるだろう痛みを堪える為、歯を食い縛ることだけだった。
「はぅ―――っ!?」
「……コォォ」
 無防備な胴体に、短刀の柄が深々と食い込んだ。
 月詠の耳に、青年の発する異様な呼気音が静かに響く。
 体内で気を練っているのか、それとも何か別の力を用いる為の前動作なのか。
「……すまない」
 淡々とした謝罪の言葉と共に、不可視の衝撃波によって月詠は吹き飛ばされた。
 木の幹に激しく打ち据えられ、視界がチカチカと明滅する。
 それは外部にではなく、内部にダメージを与える技だった。
 外傷こそほとんどないものの、今の彼女は呼吸をすることさえ侭ならない状態だ。
 二刀は一撃を受けた際に手放してしまった。
 今の自分に武器はなく、意識が朦朧としているこの状態では気を練ることも出来ない。
 俎上(そじょう)の魚とは、今の自分のような境遇を指すのだろう。
「―――リーフグリーン・オーバードライブ」
 落ちそうになる意識を懸命に支える彼女の耳に、青年の声が届いた。
 先の謎の衝撃波。その技名だろうか?
 魔力や気とも違う、新たな力を行使する謎の男。
 霞む視界の中、手に茨を巻き付けた青年がゆっくりと歩み寄って来る。
 長い前髪に隠された瞳が露になった途端、今まで味わったことのない感覚が月詠の体を駆け抜けた。
 暗い双眸には何も映ってなどいなかった。
 淡々と、何気ない作業でもするかのように、青年は月詠の首へと手を伸ばす。
 力むことも気負うこともなく、楽しむことも悲しむこともなく。
 青年は敵対した者その全てに、死という名の終わりを与えるのだ―――それが当たり前の如く。
 殺されそうになっているのにも関わらず、月詠は胸中で嗤っていた。
 ―――そうだ。自分が望んでいたのはこの感覚なのだ。
 刹那と剣を交えた時ですら味わえなかったこのスリル。本当の命のやり取り。
 負けた方は死に、勝った方が全てを手に入れる。
 これこそが……自分の望んでいた世界。
 そして、この青年こそがその世界に生きる者。
 体が喜びに打ち震える。
 しかし、青年の腕が月詠のか細い首を折ることはなかった。
 死神が少女を抱くその直前、膨大な魔力が暴風のように吹き荒れ、封じられし鬼神がその姿を現したのだ。
 青年は肩を竦めると、腕を引いた。
 やはり、その顔には何の表情も浮かんでいない。
 惜しむことも嘲笑うこともなく、青年は実に素っ気なく彼女に背を向けた。
 大剣を拾い上げ、歩き始める。
 その時になって、ようやく月詠は理解した。
 彼にとって、自分など端からどうでもいい―――木石のような存在だったのだろう、と。
 邪魔をするのなら殺せばいいし、そうでないのなら捨て置けばいい。
 羽虫を叩き落すことなど、やろうと思えばいつでも出来るのだから。
 その背をただ見送ることしか出来ず、月詠は心の底から残念そうに息を吐いた。
 ―――まあいい。
 生きている限り、また彼と命のやり取りをすることが出来る日が来るだろう。
 僅かに頬を染め、遠ざかる背を見つめる。
 あの青年と殺し合いをするのは……自分なのだ。こればかりは、他の誰にも譲るつもりはない。
「……ほんまに……罪な人やわぁ……」
 口元に愉悦の笑みを浮かべたまま、月詠の意識は闇へと落ちていった。
☆ この子、もう出したくないです。キャラは好きなのですが、く……口調が……。標準語で喋っておくれよ、バーニィ!


 でっかいなぁ。
 二十メートル……いや、三十メートルはあるだろうか。
 怖そうな顔が二つと、たくましい腕が四本付いた巨大なバイオ鬼が、よく分からないけど吼えている。
 フーケのゴーレム見ていなかったら、まず間違いなく卒倒していただろう。
 俺……踏まれた経験とかあるし。そういった方面には、無駄に経験豊富だったりする。
 木の陰からこっそりと観察していると、光の竜巻みたいな物体が鬼の胸(?)あたりに当たって弾けた。
 む、勇気ある誰かが鬼退治の真っ最中のようだ。
 下手に介入して邪魔するのも悪いし、ここは陰ながら見守ることにしよう。
 前回、死地に飛び込まなければ―――とか言っていたような気もするが、あれを見たら俺のちゃちな勇気など消し飛んでしまった。
 それにしても、大きい。すごく大きいです。
 動きがゆっくりなのは巨体の宿命なのか……というか、さっきから一歩も動いていない気がする。
 腰から下が何かに埋まっているのと、関係があるのかもしれない。
 バレないよう、こそこそと移動する。
 あれだけの巨体だ。鬼から見れば、俺など蟻のようなものだろう。
 気付かれる可能性は限りなく0に近い―――って、これフラグじゃない!?
 スタンドを出し、“退路”を脳裏に思い浮かべる。
 茨が勝手に動き出し、地面に地図を描き出した。
 えーっと、現在地はここだから、こっちをこう言ってカクンと曲がれば逃げることが出来る、と。
 色々と文句は言ったけど、使い方さえ分かれば結構使えるなぁ、この能力。
 忘れないよう地図をもう一度確認してから、再度移動を開始する。
 鬼退治は桃太郎に任せ、村人Aの俺はドイツに戻るまで安全な場所で待機という作戦だった。
 せこいのは重々承知。だが、あんなデカブツを前に剣や茨など何の意味もないわけで。
 フーケの時みたいにバズーカでもあれば……いや、効かないよなぁ絶対。
 的が大きいから外すことはないだろうけど、中てても蚊に刺された程度にしか感じないだろう。
 溜め息を一つ吐き出し、足を動かすことに専念する。
 段差を乗り越え、高い茂みを掻き分けると、一気に視界が広がった。
 夜なのを忘れるほど、周囲は不思議な光に満ちている。
 目が少しずつ順応し、先にある光景を映し出した。
 大きな湖の中央を走るようにして続く長い木の通路。
 その先にあるのは、祭りの時に巫女さんが踊るような舞台だった。
 更にその先には大きな岩が一つ在り。
 ―――グォォォォォォ。
 怒り狂ったように雄叫びを響かせる、巨大なバイオ鬼が居る、と。
 どうやら、出る世界と場面を間違えてしまったようだ。特に前者。
「あんだけ的がでかけりゃ、攻撃外すこともねーなぁ、相棒」
「……ああ」
 背負ったデルフがカタカタと鍔を鳴らす。
 逆に言えば、攻撃を避けることも難しいわけで。
「知ってるとは思うが、相棒の役目は“盾”だ。神の盾。ガンダールヴ。剣じゃねぇ」
「らしいな」
 体が剣で出来ているのは、あの英霊の人だけでいい。
 事態が異常すぎて、思考が変な方向に働き始めたらしい。
 炒り豆ぶつければ倒せるかなぁ、とかこの状況で考えていた自分が、我ながら恐ろしい。
「おまけに、貴族の嬢ちゃんも居ない以上、伝説の力もあてになんねぇと来たもんだ」
「ああ」
 見上げた先にはお月様が一つだけ浮かんでいる。
 ドイツの科学力も、国境の壁を越えることは出来なかったということか。
 まあ、仮に衛星の力があったところで、アレに勝てるとは小指の先ほども思わないけれども。
「……おし、俺も覚悟を決めたぜ。この世界に再び相棒が呼ばれたのは、きっと何か訳あってのことだ。こうなりゃ、例え地獄の底だろうが何だろうが付き合ってやろうじゃねぇか! 行くぜ、相棒―――世界を超えての鬼退治だ!」
「応!」
 反射的に相槌を打ってしまったが、これで良かったのだろうか?
 ノリとは怖いもので、足は勝手に動いて鬼との距離を詰めている。
 今から引き返せば助かるんじゃ……という考えは、次の瞬間、塵と化した。
 水しぶきを巻き上げて、俺の数メートル後ろの通路が吹き飛んだのである。
 爆風に煽られ、たたらを踏む俺。
 う、動いていて良かった……。あのまま立ち止まっていたら、細かな欠片になっていたのは俺の方だった。
 退路を断たれてしまった以上、進むしか道はない。
 願わくは、この先に俺を助けてくれるヒーローが居ますように……。

 闇の福音とも称される吸血鬼の真祖にして、最強の魔法使いエヴァンジェリン・A・Kマクダウェル―――略称・エヴァとの一戦から一夜経て。
 巨大学園都市・麻帆良学園の一角にある喫茶店のオープンテラスにて、新米魔法先生ネギ・スプリングフィールドとエヴァは偶然にも再会していた。
 ネギはいつも通り鼻眼鏡をかけ、長い髪をゴムバンドで一本にまとめ、教壇に立つ時と同じスーツを着用している。
 明日菜と茶々丸は麻帆良学園中等部の制服姿、エヴァは黒を基調としたワンピースに身を包んでいた。
「あ……」
「げっ!?」
 同行していた、ネギと仮契約(パクテイオー)を結んだ麻帆良学園中等部の生徒・神楽坂明日菜と、ネギの肩に乗っているオコジョ妖精のカモことアルベール・カモミールが顔を引き攣らせる。
 今でこそ学園に張り巡らせた結界によって魔力を抑え込まれているが、その実力は昨夜の事件で嫌というほど知っている。
 正直、こちらの勝利で幕を閉じたことが今でも信じられない。
「こんにちは、エヴァンジェリンさん」
「……フン。気安く挨拶を交わす仲になったつもりはないぞ」
 カップを手にしたエヴァが不機嫌そうに眉を顰めている。
 昨晩の出来事は、彼女にとって忌むべき記憶の一つになっているらしい。
 サウザンドマスター譲りの膨大な魔力を引き継いでいるとは言え、600年の時を生きる吸血鬼が数えで十歳の少女に一杯食わされた上、トドメとばかりに素っ裸にされたのだから仕方ないのだが。
「こんにちは、ネギ先生。アスナさん」
 隣に控えている彼女の従者―――絡繰茶々丸が丁寧に頭を下げた。
 鮮やかな緑色の髪、人間ならば耳のある部位に生えているアンテナ。
 制服の間から覗く皮膚には切れ込みのようなものが走っている。
 後頭部には誰がどう見ても“ゼンマイ”としか言えない物体まで刺さっていた。
 見て分かる通り、彼女は人間ではない。ガイノイド―――分かり易くいうのなら、ロボットである。
 主とは対照的に、彼女は誰に対しても礼儀正しく接する出来た従者であった。
 エヴァの対応の悪さにカチンと来た明日菜が、いいことを思い付いたとばかりに笑みを浮かべる。
「な、何がおかしい神楽坂明日菜……!」
 吸血鬼の第六感が不穏な気配を察知したのか、エヴァはその西洋人形のような貌を引き攣らせた。
 少女とは対照的に、明日菜は口元をにんまりとさせている。
「いや~、べっつに~。たださアンタ……ネギのお父さんのこと好きだったんだってぇ?」
「ぶ―――っ!?」
 明日菜の口撃を受け、口に含んでいたコーヒーを吐き出してしまうエヴァ。
 ネギの父親―――ナギ・スプリングフィールドとエヴァはその昔、一時的に行動を共にしていた時期があった。
 正確には、ナギをエヴァが追い掛け回していたという方が正しいのだが。
 十歳の誕生日に吸血鬼にされて以来、彼女はずっと“化物”として恐れられてきた。
 人の生血を啜り、強大な魔力と不死の肉体を持つ彼女達の存在を、人は許容することが出来なかったのだ。
 そんな中、ナギだけは彼女を一人の“人間”として扱ってくれた。
 だからこそ、エヴァは彼だけには心を開いていたのである。
 その後、紆余曲折あって彼女はナギに“登校地獄”というおかしな呪いをかけられ、現在進行形で女子中学生をやっている―――いや、やらされている。
 そんな彼女の呪いを解く方法は二つ。
 一つは呪いをかけた者が解呪する方法。
 もう一つが呪いをかけた者―――もしくはその血縁の血を大量に摂取する方法だった。
 解呪に必要なネギの血を手に入れる為、エヴァは学園の生徒を襲って力を集め、彼女にかけられた魔力抑制の封印が弱まる停電時を狙って勝負を仕掛けた。
 最初こそエヴァの有利に事が進むものの、途中で明日菜がネギの正式な仮契約者となることで勝敗は逆転することになる。
 敗北した上に川に落ちそうになったところを救出されたエヴァは、已む無くネギを襲うことを諦めたのだった―――とまあ、かなり端折ってしまったが、要するに、ネギとエヴァは少なくとも現時点では敵対関係ではなくなった、という事である。
 もっとも、ネギは兎も角、エヴァはいつの日かあの屈辱を晴らしてやると機会を窺っていたりするのだが。
「き、貴様、やっぱり私の夢を覗き見したな!?」
「あ、いえ、あの、その……」
 しどろもどろになるネギに掴みかかるエヴァ。
 彼女が風邪で寝込んだ際、ネギは相手の夢を覗き見する魔法を用い、エヴァと自分の父親が決闘し、敗北した少女が“登校地獄”という呪いをかけられる場面を目撃していた。
 そのことをついうっかり、明日菜に話してしまっていたのである。
 顔を真っ赤にして怒る主の様子を、茶々丸は微笑ましげに見つめていた。
「真っ赤になって照れちゃってさ、可愛いとこあるじゃん」
「う、うるさい……!」
 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる明日菜に、エヴァは怒鳴り散らす。
 だが、不意に真顔に戻ると、テーブルに頬杖を突き、目の端に涙を湛えて呟いた。
「……だが、今となっては過去の話だ。奴はもう居ない。死んでしまったからな、十年前に……」
 公式上の記録では、ナギ・スプリングフィールドは十年前に他界したことになっている。
 千の魔法使いと呼ばれ、未だに魔法界で英雄として称えられている男は、永遠の少女の呪いを解くことなく逝ってしまったのだ。
 しかし、そんな彼女の言葉を否定する者が現れた。
「お父さんは生きていますよ、エヴァンジェリンさん」
 ほわほわとした笑顔を浮かべ、ネギははっきりとそう口にした。
「……何を言っているんだ、お前。この陽気で呆けでもしたか?」
 病院に行くべきじゃないか? とでも言いたげなエヴァの態度に、ネギが頬を膨らませる。
「ち、違います! わたしは本当にお父さんに―――」
「ネ、ネギ!? 口調! ……戻っちゃってるわよ」
 耳元でそう告げ、明日菜は周囲の反応を窺うべく視線を飛ばす。
 幸いにも、今のネギの発言を耳にした者は居なかったようだ。
 揃って安堵の息を零す二人を、エヴァは呆れるように眺めていた。
 顎を少しだけ上げ、話の先を促す。
「あ―――いえ、その……ゴホン、僕は確かに会ったんです。六年前のあの雪の夜に。その時にこの杖を貰いましたから」
 手にした杖を眺め、ネギははにかんで見せた。
 彼―――いや、“彼女”が肌身離さず身に着けている長い杖は、父親であるサウザンドマスターから譲り受けた物だった。
 この杖こそが彼女と父親を繋ぐ唯一の絆であり、父の生存を裏付ける何よりの証拠なのだ。
「だから、きっととお父さんは生きています。僕はお父さんを探し出す為に、お父さんと同じ立派な魔法使い(マギステル・マギ)になりたいんです」
 父の杖を握り締め、ネギは遠い過去に思いを馳せるように天を仰ぐ。
 立派な魔法使い―――マギステル・マギとは、世の為人の為に陰ながら魔法の力を使う者に与えられる称号であり、魔法界でもっとも尊敬される職業のことを指す。
 ネギの父親であるナギ・スプリングフィールドもまた“立派な魔法使い”の一人だった。
「そんな……奴が……サウザンドマスターが生きているだと?」
 目尻に涙を浮かべ、声を震わせるエヴァンジェリン。
 とうの昔に死んでしまったと思っていた相手が、実は生きているかもしれない。
 久しく感じなかった温かい気持ちが少女の心を満たす。
 あくまで噂にしか過ぎないのは分かっているが、それでも逸る気持ちを抑えることは出来なかった。
「フ、フフフ……アーハッハッハ!」
 突如として高笑いなどあげ始めたエヴァを、偶然その場に居合わせた第三者達は生暖かい目で見つめている。
 中身は兎も角、エヴァの外見は十歳の少女のものに他ならない。
 はっちゃけているその姿を見て、皆が一様に微笑を浮かべて去っていく。
 この場にクラスメートが居なかったことが、彼女にとっての数少ない幸運と言えた。
 一方、茶々丸は「幸せそうで何よりです、マスター」と、合っているようで合っていない感想を抱いていた。
「そーか! あの馬鹿は生きているか! まあ、殺しても死なない奴だとは思っていたが、そうかそうか! ハハハハハッ!」
 喫茶店の会計を済ませ、ネギ達+幼女ロボsが帰路を賑やかなムードを振り撒きながら歩いている。
 ……訂正。賑やかなのは一人だけだ。
 ナギの生存話で機嫌が一気に良くなったのか、本来ネギがおごる筈だった分を含め、全ての代金をエヴァが支払っていた。
「……本当にうれしそーね」
「ハイ」
 主の喜びは自分の喜び。そう言わんばかりに、茶々丸はロボットらしからぬ穏やかな表情を浮かべていた。
「……あれ?」
 そんな中、不意に明日菜が疑問の声を漏らした。
 何かを思い出そうとするように小首を傾げ、ポンと手を叩く。
「そう言えばさ。ネギ、アンタって確かお父さん以外にもう一人探している人が居る―――とか言ってなかった?」
「あ……はい」
「む、それは初耳だぞ?」
 この話題に興味を持ったのか、珍しくエヴァが話に乗ってきた。
 ネギが父親に強い憧れを抱いているのは知っていた。
 だからこそ、襲撃する前に父の話題を持ち出すことで彼女の気を引こうとしたのだ。
 その企みは見事に成功したわけだが……。
 視線で「詳しく話せ」と命令され、ネギはたどたどしいながらも口を開く。
「実は……もう一人、居るんです。僕の命の恩人で―――憧れている人が」
 瞳を閉じれば、今でも鮮明に思い出すことが出来る。
 絶望の闇に現れ、見知らぬ者の為に、たった一人で悪魔の群れと戦ったあの男の姿を。
 ―――“よく……守り抜いた。偉いぞ”
 ひどい傷を負っていながら、痛みをおくびにも出さずに他者を気遣うその優しい心。
 彼のあの言葉にどれだけ救われ、どれだけ支えられたことか。
「そいつも魔法使いなのか?」
「違う、と思います。あの人は剣と体術だけで戦っていましたから」
「フン、剣士か」
 鼻を鳴らし、興味を失ったようにエヴァがそっぽを向く。
 大方、依頼を受けたどこぞの傭兵だろう。
 エヴァからすれば偽善的な集団の魔法使い達ならまだしも、何の見返りも無しに命を賭ける馬鹿などそう居る訳がない。
「ネギからしてみれば、その人は王子様ってわけね」
「お、王子様……ですか?」
「だって、そうでしょ。詳しくは知らないけど、危ないところを助けてもらったっていうし」
「……べ、別にそんなんじゃないですよ!? わたしはただ―――」
「口調!」
「あ、ぼ、僕はただあの時のお礼を言いたいだけですから!」
 ワタワタと手を振るネギと、その様子をからかう明日菜。
 彼等は知る由もない。
 あの男との再会の時が間近に迫っていることを。
「それにしても……もう良いんじゃないのか、無理に一人称を変えなくても。だいたい、認識阻害魔法がかかっているんだろう?」
 そういうエヴァの口調には若干呆れの色が見て取れる。
 昨晩の決闘の際も、ネギは事あるごとに自分のことを「わたし」と言っては明日菜に訂正されていた。
 一人称が「わたし」の男が居ないわけでもないし、エヴァにとっては、ここまで無理に変える必要があるのか甚だ疑問だったのだ。
「そ、それはそうですけど」
 自覚があるのか、ネギが両手の人差し指を突っつかせる。
 彼女が髪をまとめるのに使用しているゴムバンドには、周囲に「ネギは男の子」と錯覚させる特別な魔法が施されている。
 このバンドをはめている限り、少なくとも一般人には彼女が「女の子」だとバレることはないのだ。
 もっとも、エヴァのように力ある魔法使いの前では認識阻害など無力なので、ネギ自身の演技力でカバーするしかなかったりする。
 その結果がこの有様なのだから、エヴァが呆れるのも当然だった。
「僕は一応、“サウザンドマスターの親戚の息子”ってことになっていますから。出来る限りのことはしておかないと」
 あの事件はナギ―――つまり、ネギの父親に恨みを持つ者の犯行とされていた。
 サウザンドマスターに実子が居ると公になれば、今度は子に何らかの災いが降り掛かる可能性がある。
 そのことを恐れた一部の力ある魔法使い達は、表向き、村の生き残りであるネギをネカネの実の弟とした。
 ネカネもまたサウザンドマスターの血縁には違いないが、実子と親戚の子供では大きな違いがある。
 血は魔法使いにとって重要な意味を持つ。
 エヴァがネギの血を狙ったように、親子の血の繋がりはとても強いとされているのだ。
「百歩譲って素性を偽るのは良しとしよう。だが、性別を偽るのは無理があると言わざるを得ん」
「あ、あはは。わた―――じゃなかった、僕もそうは思うんですけど、おじいちゃんが『男の子にしておいた方が余計な虫がつかなくていい』とか言いまして。半ばなし崩し的にこんな感じに」
 未だに慣れないんですけどね、と笑うネギ。
 慣れてしまっては、それはそれでまずいような気がする。
 これで良いのか魔法界。
「ここのジジイといい、お前のところのジジイといい、思考が極端すぎるだろうが!」
 かたや、良いと思った人物を見境なく孫娘の見合いに誘う祖父。
 かたや、十歳にも満たない女の子を男避けの為に、戸籍上男の子にした祖父。
 600年ほど吸血鬼やっている自分が言うのもおかしいが、こんな奴等ばかりで良いのかと割かし本気で未来が心配になってきた。
「まあいい。元より、私には何の関係もない話だからな」
「冷たいわねー。アンタ、無駄に長生きしてんでしょ? なんかいい情報とか持ってないの?」
 パシパシとエヴァの頭を叩く明日菜。
 呪いによって力が弱まっているとは言え、彼女は吸血鬼の真祖だ。
 常時展開している魔力障壁はかなりの強度を誇る……筈なのだが。
「……仮に持っていたとして、どうして私がそれをお前達に教えなければいけないんだ? それと、言動には気を付けろ、神楽坂明日菜。貴様くらいいつだって―――ひゃ、ひゃめろ!? ひょひょをふゅっぱるなぁ!」
「……やめろ。頬を引っ張るな―――だそうです。アスナさん、やめてください。このままでは、マスターの頬が伸びてしまいます」
「……むー。茶々丸さんがいうなら」
 茶々丸に咎められ、仕方なくといった様子でエヴァの頬から手を離す明日菜。
 赤くなった頬を手で押さえ、エヴァは涙目でぼやいた。
「し、真祖の魔力障壁をその場のノリで無視しおって」
「マスターに物理的ツッコミを入れられるのは、世界広しと言えど明日菜さんだけでしょう」
「魔力完全無効化能力でしたっけ。すごいですよねー」
 のほほんと会話する一人と一体に、エヴァは怒りを通り越して疲れてしまったようだ。
 小声で「どうして茶々丸の言うことは素直に聞くのだ……」とほんの少しだけ寂しげに呟く。
 幸いにも彼女のその言を耳にした者は、よく出来た従者只一人だった。
 溜め息を一つ吐き出すと、投げやり感全開でパタパタと手を振ってみせる。
「……京都だ。京都のどこかに一時期奴が住んでいた家がある筈だ。奴の死が嘘だと言うのなら、そこに何か手掛かりがあるかもしれん。―――いくぞ、茶々丸」
「はい」
 ネギ達に一礼する茶々丸を引き連れ、エヴァが去って行く。
 その背を見送ったあと、ネギは彼女の言葉を思い出していた。
「京都かぁ。でも、わ―――僕には先生の仕事もあるし、お金だって……」
 ネギが頭を抱えていると、その頭に手が置かれた。
 顔を上げれば、明日菜が笑みを浮かべて彼女を見つめている。
「ちょーど良かったじゃん。アンタ、運だけはいいわよねぇ」
「え、それってどういうことですか?」
 小鳥のように首を傾げるネギ。
 この少女、齢九歳にして大学卒業レベルの学力を持ち、三週間で日本語をマスターするだけの知能を有しながら妙なところが抜けているのである。
 明日菜は苦笑すると、彼女の髪が乱れないよう加減しながら頭を撫でた。
「……あのね、アンタは仮にもウチの担任なんだから修学旅行の行き先くらい確認しておきなさいよ?」


 眼前には蘇ってしまった古の悪鬼。
 攫われたクラスメート・近衛木乃香を救う為に駆け付けたネギだったが、一足遅かった。
 木乃香の宿した膨大な魔力によって制御可能となった“リョウメンスクナノカミ”は、封印の大岩から少しずつその身を現し始めている。
 あれが完全に蘇ってしまっては、誰の手にも止めることは出来ないだろう。
「こ、こんなの相手にどうしろってんだよ!?」
 口から泡を飛ばしながらカモが目を剥く。
 彼の立てた計画では、敵が悪鬼の封印を解く前に木乃香を救出し、その後すぐに離脱。
 増援の戻って来る夜明けまで関西呪術協会の総本山でもある木乃香の実家に立て篭もり、時間を稼ぐつもりだった。
 だが、現実は非情である。
 目の前では災厄の鬼がその威圧的な姿を晒し、木乃香は依然として敵の手に落ちたまま。
 この場に居る唯一の戦力たるネギは、足止めに召喚された鬼達との一戦で魔力を大幅に削られていた。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 来れ雷精、風の精!!」
 父親から託された杖を構え、ネギが無謀にも詠唱を開始する。
 これは彼が現在覚えている中では最大の攻撃力を誇る呪文だった。
 魔法使いの少女を中心に発生した雷風が渦を巻く。
「雷を纏いて吹き荒べ―――南洋の嵐(アウストリーナ)!」
 放たれた竜巻は紫電を絡み付かせ、一直線にスクナへと伸びて行く。
 強大な魔力の奔流に、悪鬼の肩あたりで浮いていた木乃香の誘拐犯―――天ヶ崎千草が悲鳴をあげて目を閉じる。
 しかし、真祖の吸血鬼と撃ち合ったその呪文は呆気なくスクナの胸で弾け、霧散してしまった。
 役目を終えることなく消滅した魔力の残滓が、パチパチと静電気のような音を立てる。
「そ、そんな……」
 呆然と呟き、ネギはその場に座り込んだ。
 残量魔力はあと僅か。無理を通して放った一撃は、悪鬼に傷一つ付けられず消滅した。
 荒い息を吐き出し、眼前の敵を悔しげに睨み付ける。
 背後で硝子の割れるような音が響いた。
 カモがぎょっとして振り返る。
「さ、最悪の展開だぜ、こりゃあ!?」
 策をいくつも用いて何とか動きを封じた敵がまた一人、戦線に復帰した。
 白髪の少年は人形のように整った―――一切の感情を消した顔のまま、静かに満身創痍の少女へと歩み寄る。
 関西呪術協会総本山の結界を容易く突破し、かつてのサウザンドマスターの仲間であり、木乃香の父親である近衛詠春を石化の魔法で打ち破ったこの少年の復活は、ネギ達に絶望を抱かせるには十分だった。
「善戦だったことは認めよう、ネギ・スプリングフィールド。だけど、それもここまでだ」
「……っ」
 杖を掴み、何とか立ち上がろうとするネギ。
 だが、失った魔力はあまりに大きく、使い慣れていない肉体強化魔法の連続使用の反動もあってか体が思い通りに動かない。
「どうやら、体力も魔力も限界のようだね」
 ジワジワと距離を詰める少年。
 その時、ネギの肩に乗っていたカモが彼に向かって飛び掛かった。
 まさかこのような愚行に出るとは思っていなかったのか、一瞬少年の意識がネギから逸れる。
「やるんだ、姉貴!」
「召喚! ネギの従者―――“神楽坂明日菜”、“桜崎刹那”!」
 取り出した二枚のカードを虚空に掲げ、ネギが呪文を唱える。
 少女の眼前に出現した二つの魔法陣。
 光り輝くそれから姿を現したのは、彼女の担当するクラスの生徒だった。
 出席番号8番―――神楽坂明日菜。
 出席番号15番―――桜崎刹那。
 明日菜が構えているのは、一見すると只のハリセンである。
 だがしかし、これには反則級の効果が付加してあり、どれだけの耐久力を誇る式神だろうと一発叩かれれば問答無用で元居た世界に送還されてしまうのだ。
「……すみません。わたしは結局……」
「反省するのは後々! 今は木乃香を助けることだけに集中するわよ、ネギ!」
 頼もしい笑みを口元に浮かべ、明日菜が後方のネギに笑い掛ける。
 彼女の特徴とも言えるツインテールが風に揺れ、髪留めに付いている鈴がチリンと澄んだ音を鳴らした。
「さあ、ここからが本番―――って、なんじゃこりゃあぁぁぁ!?」
「……“リョウメンスクナノカミ”。1600年前に討ち倒された飛騨の大鬼神です!」
 愛刀・夕凪を構え、刹那が明日菜の疑問に答える。
 その顔には冷や汗がびっしりと浮かんでいた。
 木乃香の魔力は極東最高。
 その魔力を用いることでやっとスクナを操ることが出来るのだから、この悪鬼がいかに強大な力を有しているか分かるだろう。
「大きいってレベルじゃないでしょ、あれ!? あんなのどうやって倒せっていうのよ!?」
 明日菜は目尻に涙を溜めていた。
 ネギが麻帆良学院にやって来るまで、明日菜は魔法と無関係の生活を送っていた。
 魔法完全無効化能力という非常に珍しい体質こそ有しているものの、その思考は一般の女子中学生と大差ない(と自負している)。
 そんな彼女が、どういうわけか命の危険が付き纏うSFの世界に飛び込んでしまったわけだ。
 そりゃあ、悲鳴の一つや二つはあげたくもなる。
「……仲間を呼んだか。それで、今度は何をするつもり?」
 淡々と告げ、白髪の少年が冷たくネギ達を見つめる。
 表情がまったくないだけに、より一層冷徹な印象を周囲に振り撒いていた。
「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト。小さき王、八つ足の蜥蜴。邪眼の主よ―――」
 少年の詠唱に、最初に気付いたのはカモだった。
 急いで明日菜に彼を攻撃するよう告げるが、それよりも一足早く少年の呪文は完成していた。
「石の息吹―――ッ!」
 少年の翳した手から灰色の煙が噴き出した。
 爆ぜるように範囲を広げたそれは、ネギたち諸共周囲を鉛色に染め上げる。
 煙を目くらましに利用し、彼等は少年から距離を取っていた。
「ネギ、その手……!?」
 明日菜の視線はネギの右手に注がれている。
 ピシピシと音をたて、彼女の指先が石化していた。
 明日菜と刹那は少年の魔法を避けることが出来たが、体力が限界に達しているネギは掠ってしまったのだ。
 彼女の対魔力が低ければ今頃、石化は全身に及んでいたことだろう。
「……掠っただけですよ。大丈夫です。わたし、こう見えても体だけは結構頑丈ですから」
 えへへと笑い、ネギは呪いに犯されつつある腕を握り締める。
 辛くない筈はなかった。
 体力と魔力は底を尽く寸前で、少女は時折苦痛に歪めている。
 彼女がここまでするのは、教え子であり友達である木乃香を助ける為だ。
 その眼差しには9歳の子供のものとは思えない程、力強い輝きを宿している。
 それは明日菜も同じだった。
 感じる恐怖は彼女が一番大きい筈だ。
 だというのに、それをおくびにも出さず、捕らえられている親友を救わんと手にした武器を構えている。
 二人の気迫に、刹那はゴクリと生唾を飲み込んだ。
 逡巡は一瞬。
 悲壮なまでの決意を固め、口を開く。
「……お二人は今すぐ逃げてください。お嬢様はわたしが救い出します!」
 木乃香は千草と共に、鬼神の肩の上に居る。
 あの距離まで飛ぶことが出来るのは、魔法を使えるネギだけの筈……だった。
「でも、あんな高いところにどうやって―――」
 明日菜の言葉を遮ったものは、雪のように白く舞い散る数枚の羽だった。
 純白の羽は刹那の背中から生えている。
「これがわたしの正体です。奴等と同じ化け物なんです」
 自嘲気味の笑みを口元に貼り付け、刹那は言った。
 彼女の口にした「奴等」とは、道中に戦った鬼や烏族のことを指しているのだろう。
 確かに、羽の色こそ違うものの、烏族もまたその背に刹那と同じ翼を生やしていた。
「この姿を見られたらもう、お別れしなくてはなりません。だけどその前に、お嬢様だけは必ず救出します。これがわたしに出来る―――最後の御役目なんですから」
 刹那が目の端に涙を浮かべる。
 何を思ったか、明日菜は彼女の白い翼をペタペタと触り始めた。
 ネギも興味があったのだろう。
 その様子を、目を輝かせながら見つめている。
 翼にも感覚があるのか、刹那は疑問符を浮かべながら終始くすぐったそうにしていた。
「ひゃっ!? あ、あの……明日菜さん?」
「ほら。ネギ、アンタもそんなところで見ていないで触ってみれば? ふわふわしているし、もふもふだし、何かすっごくカッコいいわ!」
 明日菜がちょいちょいとネギに手招きする。
 何だかんだで好奇心に負けた少女はいそいそと純白の翼に手を伸ばした。
「えっと……失礼します」
「ちょ、ちょっと!? ネギ先生まで何しているんですか!? あ―――きゃう!?」
 そうやって、モフモフされることしばし。
 刹那の羽を触っていたネギが惚けたように呟いた。
「うわぁ、まるでお話に出て来る天使みたいです」
「て、天使……?」
 その発想はなかったらしい刹那が目を丸くする。
 背の翼は忌み嫌われる者の証。化け物だという証明。
 そう思い、今まで必死に隠し通して来た。
 バレたら終わりだと、見られたら嫌われると盲目的に信じていた。
 ところが―――実際はどうだ。
 嫌うどころか、ネギと明日菜は少女の翼に心の底から見惚れているではないか。
「すごいじゃん! まるで、ウ○ングガ○ダムゼロカスタムみたいだわ!」
「い、いえ、その例えはちょっと……」
 横文字は苦手だ。そもそも、名前の響きからして可愛くないのは明らかだった。
 明日菜が褒めてくれているのは分かるのだが、どうにも「カスタム」とかが頂けない。
 一方、反対されたツインテール少女は不満そうに口を尖らしている。
「分からないかなー、カスタムの魅力。あ、あと、最後とか勝手に決め付けるのもなしだからね? アンタは木乃香の幼なじみで、そのあとニ年間も見守って来たんでしょ。だったら、責任もってこれからも守り通しなさいよ。護衛役としてじゃなく、あいつの友達としてね!」
「し、しかし、この姿では……」
 渋る刹那に、明日菜は呆れるように溜め息を吐き出した。
 一途というか頑固というか。
 彼女達の擦れ違いは、互いに想い合っている証拠なのだ。
 それを理解し始めているだろうに、頑なに刹那を自分の心を認めようとはしない。
「あのねぇ……。木乃香がこの位で誰かのことを嫌いになると思う? 絶対に、わたしと似たような感想抱く筈よ。何だったら、食堂の食券を賭けてもいいわ」
「似たような感想って―――カスタムですか!?」
「違うわよ!」
 怒鳴り返し、明日菜は苦笑した。
 刹那もまた同じような表情を浮かべている。
 ようやく、自分の心を受け入れる決心が付いたらしい。
「ほら、早くしないとあの生意気なガキに気付かれるわよ? ここはわたしとネギで何とかするから―――行って、刹那さん!」
「―――はいっ!」
 笑顔で頷き、刹那がその翼を広げる。
 闇夜に映える純白のそれは、曇天に差し込む一条の光明を思わせた。
「ネギ先生」
「はい?」
「このちゃんの為に頑張ってくれてありがとうございます」
 ネギの知る限り、刹那は木乃香のことを「お嬢様」と呼んでいた。
 彼女は知る由もないが、刹那の口にした呼称は幼い頃、木乃香と刹那が共に仲良く遊んでいた時期に呼び合っていたものだ。
 それが意味することは……果たして何なのか。
「当たり前ですよ。わたしは木乃香さんの先生で、お友達ですから」
 笑って応えるネギに一つ頷き、刹那が力強く足場を蹴る。
 翼が羽ばたき、フワリとその小柄な体が空へと舞い上がった。
「……させないよ」
 灰煙の中から姿を現した少年が、その手を虚空の少女へ向ける。
 しかし、彼から魔法が放たれることはなかった。
 銃声が鳴り響き、少年の魔法障壁と弾丸が接触して火花を散らす。
「た、龍宮!」
「さっさと行って来たらどうだ? この借りはいつか二倍で返してもらうことにするよ」
 口元に微笑を浮かべてそう言い、構えたライフルに次弾を装填する。
 あの少年の魔法障壁は生半可なものではない。
 少なくとも手持ちの武器では、ろくなダメージを与えることが出来ないだろう。
 龍宮に出来ることは只一つ、刹那が木乃香を助け出すまでの間、何としてでも彼を足止めすることのみ。
「……すまん」
 律儀に頭を下げてから高度を上げる仕事仲間の少女に苦笑し、視線を眼前の敵に向け直す。
 こちらを見つめる少年の目には、一切の感情の色が映っていなかった。
 その得体の知れない佇まいは何処か、あの黒衣の青年と通じるものがある。
 もっとも、少し前にもっと恐ろしい者と対峙している彼女が、その程度のことで怖気付くわけがない。
「邪魔をしないでもらえるかな?」
「それはこちらの台詞だ。今月は少しばかり苦しくてね、この仕事の収入が入らないときついんだ」
 言葉終わりと同時に、ライフルの引き金を引く。
 放たれた銃弾は真っ直ぐに少年の眉間を狙い、呆気なく不可視の壁に防がれる。
 足場を踏み砕き、一気に白髪の少年が龍宮との距離を詰める。
 舌打ちをし、ライフルを投げ捨てホルスターから二丁の拳銃を引き抜く龍宮。
 己の射程に敵を捉えた少年が、魔力の込められた拳を握る。
足場に振り下ろされたそれは大穴を開け、水飛沫を舞い上げた。
 しかし、そこに龍宮の姿はない。
 拳を下ろしている少年の肩に足をかけ、銃を連射しながらその身を一回転させる。
 着地と同時に、空になったマガジンを排出。
 流れるような動きで新しい弾倉と入れ替える。
 この間、時間にして三秒あるかないかの早業だった。
 振り返り、相手が無傷なことを確認すると大仰に肩を竦める。
 風に乗って、微かな声が龍宮の耳に届いた。
 足場を蹴り、前―――明日菜達が居る地点へ体を回転させる。
 受身を取って立ち上がれば、今しがた彼女が立っていた地点に石の槍が突き立っていた。
 一拍遅れて、爆風と閃光が穴の開いた足場を粉々に吹き飛ばす。
 回避行動を取るのとほぼ同時に、後方へ投げていた手榴弾が爆発したのだ。
 この程度で相手をどうにか出来るとは思っていない。
 油断なく爆心地を見据え、手にした二丁を構える。
 その背後では、ネギと明日菜が口を開けて龍宮の背を見つめていた。
「龍宮さんってすごいんですねー」
「い、いや、そこは爆弾に突っ込むところじゃないの?」
「ああ、さっきのは只の強力な爆竹のような―――そんな感じの爆弾みたいなものだよ」
「やっぱ爆弾じゃん!?」
 しれっとのたまう龍宮に、珍しく明日菜が突っ込みに回る。
 普段から刀を常備している刹那も十分にあれだが、実銃以上の自称“エアガン”を懐に忍ばせる彼女もまた……あれだった。
「で、でも、どうして龍宮さんがここに? くーふぇさんも一緒じゃないんですか?」
 ネギが小首を傾げる。
 彼女が明日菜から聞いた話では、龍宮はクラスメートであり中国拳法の達人・古菲と共に援護に駆け付けたのだという。
 千草の召喚した鬼達の相手は彼女等に任せ、その間に明日菜と刹那がネギに合流すべく包囲網を脱したのだ。
 彼女がここに居るのなら、古菲も一緒に来ていると考えるのが妥当だろう。
「いや」
 しかし、龍宮はあっさりと首を横に振ってみせた。
「古ならまだあそこで鬼達と戦っている筈だよ」
 龍宮が軽く顎先で示した先は、今しがたまで明日菜達が居た地点だ。
 あの場所で千草は木乃香の魔力を使っていたずらに鬼達を召喚し、足止めを命じたのである。
「だ、大丈夫なの、くーふぇ!? 強いのは分かっているけど、流石に一人であの数を相手にするのはきついんじゃない!? 烏頭の強そうな人とかまだ残って居た気がするし!」
 明日菜は先程、烏族にボコボコにされた経験がある。
 ネギの魔力供給によって防御力が飛躍的に上昇していた為、目立った外傷はないものの、運動神経だけは自信のあった自分が手も足も出なかったのだ。
 彼女が不安に思うのも当然と言えよう。
「心配はないさ。楓も向かっているだろうし、古も少々抜けたところはあるけどかなりの腕利きだ。それに―――」
 そこで龍宮は一度言葉を区切った。
 言おうか言うまいかしばし悩む素振りを見せたあと、苦笑しながら二の句を発する。
「今回の件には得体の知れないイレギュラーが一人、紛れ込んでいるんだ。その人物が強敵をあらかた倒してくれた」
「……そ、その人、結構強かったりするの?」
 恐る恐る尋ねる明日菜に、龍宮は首を大きく縦に振った。
「神楽坂のいう“烏頭の人”はその人物に一撃で倒されたし、それ以上に厄介だっただろう狐の妖も結局は彼に一発すら入れることなく送還されたよ。今はあの神鳴流の剣客と刃を交えているのだろうが、果たして彼相手に何分持つやら」
 わたしは彼が相手を殺さないかだけが心配だ、と漏らす龍宮に、明日菜の顔色が一気に悪くなる。
 神鳴流の剣客というのはまず間違いなく、“月詠”のことだろう。
 彼女の強さ、そして何より勝負に対する執念は短い付き合いながらも理解している。
 そんな月詠を相手に、龍宮をして「何分持つか」とまで言わしめる人物とはいったい何者なのだろうか?
「こっちの味方だよね? そうだよね!? お願いだから龍宮さん、そうだと言って!」
「さあ?」
 現実は非情である。
 知らねー、とばかりに首を振る龍宮。
 明日菜はがっくし肩を落とすと、さめざめと涙を流した。
「鬼にお尻は見られるわ、あの烏の人を蹴散らす得体の知れない人はいるわ……どうなってんのよぉ。何だか間違っているんじゃないの。ここ、本当に日本? 本当に京都?」
「げ、元気を出してください、明日菜さん! ここは日本で、ここは京都です! 合っていますよ!」
「そーいう意味じゃないってば……」
「ふむ、安心しろとまでは言えないが、少なくとも余程のことをしない限り、彼がこちらに害を加えることはないと思うよ。そうでなかったら、とっくの昔にわたしは再起不能になっている」
 視線は依然として前に向けたまま肩を竦め、溜め息を吐く。
 ネギと明日菜は龍宮の言葉の真意が理解出来ず、しきりに首を傾げていた。
 彼女等には関係のないことだ。一から十まで教える必要もないだろう。
 そう判断し、思考を切り替える。
「それじゃあ、もう一働きだけするとしようか。刹那が近衛を助ける時間くらい、稼いでやらんとな」
「そ、そうよね! まずは目の前の敵に集中しないと! ネギ、アンタはあんまり無茶するんじゃないわよ?」
 心配そうに告げる明日菜の視線の先には、右腕の肘まで石化しているネギの姿があった。
 なけなしの魔力を防御に費やしているのか、その額には汗がびっしりと浮かんでいる。
 それでも尚、こちらに心配をかけまいと普段通りに振舞おうとする姿勢は、少女を年齢以上に大人びて見せていた。
 ネギは知っているのだ。
 人には生涯に数度、どんな無理を推しても頑張らなければいけない時があることを。
 重傷を負いながらも悪魔の前に立ちはだかったあの青年がそうだったように、自分にとっての“その時”が今なのだ。
「分かりました。無理はしません。わたしは只、ギリギリまで頑張るだけですから」
 真顔でそんなことを言うネギに、明日菜はやれやれと首を振った。
 たった三ヶ月で日本語を習熟するくらい頭は良いのに、時折妙な子供らしさを見せるのだ、この少女は。
 ネギは長い杖を石化の及んでいない左手で持ち、埃を払うように服を手で擦りながら悠々と歩いて来る少年を見据える。
 やはりというべきか、物理的な爆発ですら彼には通じなかった。
 ネギと同等、もしくはそれ以上に強力な魔力障壁を常時展開しているのだろう。
「まったく、アンタって子は……」
「となると、わたし達はネギ先生を頑張らせない為に頑張る必要があるのか……。この仕事は少しばかり骨が折れそうだ」
 明日菜と龍宮が苦笑を交わし合う。
 後門の鬼神、前門の魔法使い。
 満身創痍のこの身だが、不思議と闘志だけは満ちていた。
「あまりしつこいのも考えものだと思うよ。これ以上邪魔立てするというのなら、手加減はしない」
 少年が主に用いるのは高等魔法の石化呪文。
 それをあれだけ使いこなしているのを見る限り、魔法使いとしての技量はネギよりも十数段階は上だろう。
 彼女が少年を一時的に抑えることが出来たのは、相手の油断を利用して不意を突いた為だ。
 同じ手は二度と通じず、こちらの手の内はほぼ読まれてしまっている。
「……どうする姉貴。持ち札は全部使っちまったし、姉貴だって抵抗(レジスト)するので手一杯だろ。龍宮の姐さんが来てくれたのは嬉しい誤算だったが、それでも分が悪いことに変わりないぜ」
 ネギの肩に掴まったカモが苦々しく笑っている。
 龍宮が拳銃を連射しているが、もはや彼の歩みを遅くすることすら叶わなかった。
「わたしの―――」
「最強魔法で吹き飛ばすって案なら却下だぜ? 今の姉貴じゃ撃った後にぶっ倒れちまうからな。第一、あいつがすんなり当たってくれるとは思わねぇ。どっちにしろ、姉貴の魔法は残った唯一の切り札なんだからよ、慎重にいかねぇとな」
「う、うん」
 カモの言葉に、ネギが黙り込む。
 聡明な少女だったが、魔法で実戦を行ったのはエヴァ戦が初めてだ。
 僅かニ戦で少年が驚く程成長を遂げてはいるが、やはり女の子なだけあって殴り合いは出来るだけ避けようとするらしい。
 安全な場所から高火力の砲撃魔法で目標を殲滅する―――。
 どこぞの魔法少女と同じ戦法を、ネギは天性のセンスで身に着けていたのだ。
 それは確かに魔力量が桁外れに多く、展開する魔力障壁の強度も半端ない彼女には打って付けと言えるだろう。
 だが、その戦法で勝利するにはどうしても大きな魔力が必要となる。
 今のように疲弊した状態でそれを強行しても、確実に中てることが出来なければ、逆に相手が有利になるだけだ。
「こうなりゃ、龍宮の姐さんが姉貴と仮契約して―――」
「悪いが、それは却下だ。こう見えて身持ちは固い方でね。ついでに、そっちの趣味もない」
 にべもなく断られ、カモがガックリとその小さな肩を落とす。
 一方、ネギは龍宮の出した答えに、密かに安堵していた。
 仮契約するということは、相手をこちらの―――魔法の世界に関わらせるということだ。
 龍宮は依然から魔法のことを知っていたみたいだが、明日菜はネギに会うまで普通の女子中学生だった。
 彼女が今こうしてこの場に居るのは、自分が巻き込んでしまったからに他ならない。
 こちらに背を見せる明日菜の体には、小さいながらも無数の傷が出来ていた。
 頬からは薄い線が一本走り、血が流れている。
 その後姿があの日の青年と重なって見えた。
 歳月が流れ、いくつかの魔法を習得した今も尚、自分は誰かの背に守られている。庇われている。
 その事実がネギの心を不可視の鎖で締め上げていく。
 不意に―――俯く少女の頬が何者かによって引っ張られた。
 びよーんと間抜けな擬音と一緒に伸びる頬。
 実行犯である明日菜はもう一度ネギの頬を引っ張った後、勢い良く摘んでいた指を離した。
「アンタ、またしょーもないこと考えてたでしょ?」
「わ、わたしは別に何も……」
「知らないかもしれないけど、嘘を吐いている時って左の耳たぶがぴくぴく動くのよ、アンタ」
「えっ!?」
 慌てて自分の左耳に手をあてるネギ。
 動作に移った後でやっと、自分が初歩的な誘導に引っ掛かったことに気付いた。
「ず、ずるいですよ、騙すなんて……。むー、次に明日菜さんは『引っ掛かったアンタが悪い』という」
「何よ、そもそも引っ掛かったアンタが悪い―――ハッ!?」
 口元に手をあて、よろめく明日菜。
 その様子を見て、ネギはくすりと笑みを零した。
 明日菜が自分を励まそうとしてくれたことに気付いたのだ。
 この疑問はとりあえず胸の奥に仕舞っておこう。
 今はまず、木乃香を助け出すことだけに意識を向けるべきなのだから。
「……少しくらい手伝ってくれても罰は当たらないと思うが?」
「あ―――ご、ごめんね、龍宮さん!?」
「す、すみません!」
 少年の相手をしているので後ろを振り返ってはいないが、その声色から龍宮が不満を抱いているのは明らかだった。
 もっとも、彼女がお冠なのは戦闘中だというのに会話を弾ませていた点ではなく、現在進行形で出費が嵩み続けているからである。
 ネギがその胸中に悩みを抱えていたことは薄々気付いていたし、明日菜が彼女を励まそうとしていたことも知っている。
 魔法使いの少女がこれで悩みを吹っ切ることが出来たのなら、龍宮としては何も言うつもりはなかった。
 戦場で悩みを持つ者は高確率で死神に魅入られる。
 それが例えその場凌ぎに過ぎないとしても、明日菜の取った行動は決して無意味ではない。
 ―――その時だった。
 ネギの脳裏に、聞き覚えのある声が響き渡ったのは。
『フフフ、僅かだが貴様の戦い、覗かせてもらったぞ』
「あ、あなたは……!?」
『ハッハッハ、次に貴様は「最強の悪の魔法使いエヴァンジェリン様!」という』
「―――どちら様でしょうか?」
『…………』
 無音。
 いや、ネギが疑問の声をあげた直後、「ゴンッ!」という鈍い音が聞こえた。
 どうやら、念話の相手は派手に転倒したらしい。
「だ、大丈夫ですか?」
『よ、良くも悪くも、よくもまあここまでわたしの予想を裏切ることが出来るな、貴様は……。というか、どちら様とか言うな! ちゃんと名乗ったじゃないか。少しだけ……寂しいとか思っちゃったじゃないか。それとも……ま、まさかあの前振りすらスルーしたのか!?』
「あの……前振りって何ですか?」
『……もういい。貴様と話していると、胃が痛くなる。兎に角、姑息な技とか使っても別に構わんからあと一分半だけ何とか持ち応えてみせろ。そうすれば、わたしが全てを終わらせてやる。以上』
 一方的にそう告げ、念話が途切れる。
 言葉の節々から、ものすごい疲労感が滲み出ていた。
 今頃、出来た従者から胃薬を貰っているに違いない。
 ネギは本気で念話の相手のことを心配していた。
 やはり、サウザンドマスターの血縁はすごかった。
 何がすごいって、まだ念話の相手が誰なのか気付いていないのがすごい。
 もっとも、体力と魔力が底を尽き掛けていて、普段以上に頭がボーッとしているからなのだが。
「ど、どうしたの!? 何か一人でブツブツ言っていた気がしたんだけど」
「えっと、よく分からないけど、あと一分半持ち応えたら何とかしてくれるそうです」
「誰が?」
「……さあ?」
「…………」
 少年の放った魔法の矢を拳銃で撃ち落としながら、龍宮は胸中で溜め息を吐き出した。
 ―――つく側を間違えたかもしれない。
 沸々と湧き上がる思いに蓋をし、足元に薬莢の山を築いていく。
(刹那、しばらくの間、慎ましい生活を送ってもらうことになるが……悪く思うな)
 龍宮が使用している弾丸は全て、霊体に銃撃が通じるよう術の施された特殊なものだ。
 それをこれだけぶっ放しているのだ。
 弾薬の費用だけで相当なものになるだろう。
 無論、ある程度の値引きはするつもりだったが、どちらにせよ刹那がひいきにしている店の和菓子は当分の間、買うことが出来まい。
「でも、何処かで聞いたことがあるんですよね、さっきの声」
「だから! それを思い出せって言ってんのよわたしは!」
「……ハァ」
 関西呪術協会にも領収書を送っておこう。
 龍宮は割かし本気でそう思った。
別窓 | ネギ団子 | コメント:0 | トラックバック:0
<<ネギ団子まとめ3 | 後悔すべき毎日 | リリ勘。第二十二話。>>
この記事のコメント
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック
トラックバックURL

FC2ブログユーザー専用トラックバックURLはこちら


| 後悔すべき毎日 |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。