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零の使い魔。~聖十字の騎士~ 第二十話
2010-01-05 Tue 00:02
今頃、日本じゃ紅白でも見ているのかな……。どっちが勝ったんだろうか?

                                           
                                               <ダンケ>

難しい顔をしてなにを考えているのかしら……?

                                               <ルイズ>
 
 
 オスマン学院長の前には、一冊の古ぼけた本が置かれていた。
 表紙は薄汚れ、中のページに至っては経過した歳月を物語るように茶色く変色してしまっている。
 その本を胡散臭げに見詰め、オスマンは本を手に取りパラパラと捲ってみた。
 三百ページ程ある本を捲り終えた彼は、疲れたように溜め息を零す。
「これがトリステイン王家に伝わる“始祖の祈祷書”か……。というかこれ、まがい物じゃろ。本ならせめて何か文字くらい書いてあるじゃろ普通は」
 どのページを見ても真っ白な“始祖の祈祷書”に手を置き、やれやれと首を振る。
 ―――今から六千年前。
 始祖ブリミルが神に祈りを捧げた際に読み上げた呪文が記されているというそれは、今は何も書いていないページを晒している。
 もう一度「まがい物じゃろ、これ」と呟き、オスマンは本を閉じた。
 現存する“自称・始祖の祈祷書”はこの一冊だけではない。
 それはハルケギニアの至るところに存在するとされ、その所有者は口を揃えて自分の所持しているものこそが本物だと主張している。
 本物か偽者か分からない祈祷書を集めただけで図書館が一軒埋まるとさえ言われているのだから、その数は相当なものなのだろう。
 オスマン自身、何度か“始祖の祈祷書”を目にする機会はあった。
 古代に使用されていたとされる文字で記されたものもあれば、何故か薄気味悪い絵によって構成されているものも見かけたことがある。
 そのどれもが胡散臭い、一見しただけで素人の手による贋作だと分かるようなものばかりだったのだが。
 その中でも、自分の手元にあるこれはワースト一位の座に相応しい出来だ。
 見た目こそ古めかしいが、中身は白紙でそもそも本として機能していないのだから。
 反逆罪に当たる危険があるので口に出したりはしないが、どうしてこんなものを王室は後生大事に保管していたのだろうとオスマンは本気で思っていた。
「これも形式というやつかのぅ」
 顎鬚を撫で、ふむと唸る。
 その時、部屋にノックの音が響いた。
 ミス・ヴァリエールを呼び出していたことを思い出し、扉の外に居る人物に声をかける。
 小声で、「早く新しい秘書を雇わんといかんの」とぼやいた。
「鍵はかかっておらんよ。入って来なさい」
 扉が開き、桃色がかったブロンドの髪と鳶色の瞳を持つ少女がおずおずと部屋に入って来る。
 黒衣の青年の主にして、トリステインとゲルマニアの同盟を影から支えた立役者・ルイズであった。
「わたくしをお呼びと聞いたものですから……」
「おお、よく来てくれたの。さあ、そこの椅子に座りなさい。まだ旅の疲れも残っているじゃろう」
 ルイズに着席するよう促し、にこりと笑顔を浮かべる。
 少女は恐縮しながらも、学院長と対面するように置かれた椅子に腰を下ろした。
「それで、どうかの。彼とはうまくやっているかね?」
 魔法の才能がゼロだと馬鹿にされていた少女の元に召喚された、伝説の使い魔“ガンダールヴ”。
 一部の職員からメイジ殺しと恐れられている彼は、伝説の肩書きに相応しい圧倒的な戦闘能力を有していた。
 “魔眼”とも称されるその眼光は時に物理的な圧力すら対峙者に感じさせ、幽鬼のように動きをまったく読ませない独特の歩調で相手との距離を詰め、トライアングルメイジであろうと赤子の手を捻るように殲滅する
 彼が召喚された当初はその扱いに頭を悩ませる日々を送っていたが、その身に纏った闇の気質とは裏腹に、黒衣の青年は比較的穏やかな気性を持っていた。
 攻撃されれば反撃はするものの、相手が生徒であるなら手心を加え決して命までは奪わない。
 そのことを知ってか知らずか、青銅のギーシュが青年に決闘で敗北した直後は、毎日のように彼に決闘を申し込む者が居た。
 だが、その全てが彼によって叩きのめされ、更にはあの怪盗“土くれのフーケ”を捕えたという噂が流れ始めた以後、青年と決闘をしようと考える愚か者は一人として居ない。
 そもそも、向き合って睨み付けられた時点で大半の者が戦意を喪失してしまうのだから、果たしてあれは決闘と呼べるのだろうか。
 強きを挫き、弱きを守る青年は学院で働く平民達の英雄としてこの学院に君臨していた。
 本人にその自覚はないのだろうが、コック長のマルトーらは彼に心酔していると言っても過言ではない。
 オスマンも常日頃から、貴族のぼんぼんが自分の地位を利用して平民に酷く当たる姿を目にしては、どうにかしなければいけないと思っていたのだ。
 魔法を使える者が貴族などではない。魔法を正しく使える高貴な精神を持つ者が貴族を名乗ることが出来るのである。
 親の教えがなっていないのか、最近の子供はそのことを忘れて力に溺れがちな傾向にあった。
 それをあの青年が真正面から叩き直してくれたのだ。
(むしろ、彼の方が真の“貴族”なのかもしれんの)
 胸中でそう呟き、顎鬚に手を添える。
 いつまで経っても口を開こうとしないルイズに何かあったのか尋ねようとして、オスマンは首を傾げた。
「あ、あああの別にまだそういう関係にはなっていないと申しますか、そ、そそそそもそもアイツはわたしの使い魔であってそういうのとはまた違うくもないのですが―――」
 わけの分からぬことを捲くし立て、ルイズは一人で勝手に盛り上がって自爆していた。
 魔法だけでなく、自分まで爆発させる術を身に着けてしまったらしい。
「あー、無理に話そうとしなくて結構じゃ。その反応を見る限り、仲良くやっていることに違いはないようじゃしのぅ」
 苦笑し、机の上に置いてあった本を魔法の力で浮かせてルイズの膝の上に落とす。
 その衝撃で我に返ったのか、少女はその本を手にとって小鳥のように首を傾げた。
「これは?」
「“始祖の祈祷書”じゃよ。来月にはゲルマニアで王女とゲルマニア皇帝との結婚式が執り行われることが正式に決定した。君達が頑張ってくれたおかげじゃ。辛い思いもたくさんしたじゃろう。だが……本当によくやってくれた。この国の未来は君達が守ったんじゃ」
「いえ……わたしは何も」
 先程とは一転してルイズの表情が曇る。
 アンリエッタ王女と皇帝の結婚は同盟を結ぶ為の政治的措置だ。
 国を戦火から守る為、少女は愛していない男のもとに嫁ぐことになる。
 それが王族の宿命だと言われればどうしようもないが、オスマンもこの件に関しては歯痒い想いを胸中に押し込めていた。
「話を戻すぞ? トリステイン王室の伝統で、王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女を用意せねばならんのじゃ。選ばれた巫女は、この“始祖の祈祷書”を手に式の詔を読み上げる慣わしになっておる。そしてここからが大事なんじゃが―――」
「は、はい」
 ルイズがゴクリと喉を鳴らした。
「姫はその巫女にミス・ヴァリエール、そなたを指名したんじゃ」
「わ、わたしをですか!? そ、そんな畏れ多い……」
 それは確かに異例の大抜擢と言えるだろう。
 普通、こういった役には相応の位と経験を身に着けた者があてられるのが常だ。
 いくらルイズが公爵家の娘とは言え、まだ歳若い少女を巫女に指名するのは長いトリステインの歴史においてもこれが初だろう。
「胸を張りなさい、ミス・ヴァリエール。姫はそなたのことを真の友人と思っておる。だからこそ、この大任にそなたを指名したんじゃろうて。言ってしまえば、その本は姫とそなたの友情の証。困惑するのも分かるがの、姫がどのような想いでそれを託したのかそなたには分かる筈じゃぞ?」
 オスマンの言葉に、ルイズはハッとしたような表情になった。
 アンリエッタが“始祖の祈祷書”に託した想いに気が付いたのだ。
 愛する人と一緒になれないのならば、せめてその門出を唯一無二の親友に祝福してもらいたい。
 姫はそう考え、この大役に少女を抜擢したのだろう。
「……分かりました。謹んで拝命致します」
 椅子から立ち上がると、ルイズは“始祖の祈祷書”を大事そうに抱えて深々と頭を下げた。
 その様子を、目尻を下げてオスマンは見詰めていた。
 アンリエッタ王女に救いがあるのだとすれば、それは彼女に真の親友が居たことだろう。
 友の為に死地に飛び込み、その痛みを自分のものとして受け止めることが出来るルイズの存在が、今のアンリエッタの心の支えとなっているのだ。
「うむ、何か困ったことがあったらすぐに言いなさい。ワシに出来ることなら協力を惜しまないつもりじゃ。おっと、言い忘れるところじゃった。巫女は式の前より、この“始祖の祈祷書”を肌身離さず持ち歩き、読み上げる詔を考えねばならん。うっかり落としたり、無くしたりしないようにの。そんなボロ―――ではなく、古い本でも一応は国の宝じゃからのぅ。まったく、これだから伝統というやつは……」
 ブツブツと愚痴を零すオスマン。
 その様子をルイズは苦笑しながら見詰めていた。

 それから数時間後。
 オスマンの元に飛び込んで来たルイズが、しばらく学校を休みたいから許可が欲しいと言ってくるわけだが、それはまた別の話である。

「俺が……貴族に?」
 その話を持ち掛けられたのは、昼飯を食べ過ぎてダウンしている昼下がりだった。
 広場に設置されたベンチに腰かけ、気だるそうに過ごしていたところに来客である。
 調子に乗ってクックベリーパイとかいうのをおかわりしたのが拙かった―――あ、いや美味しかったけど、まずかった。
 さて、話を戻そう。あまりに話の内容が突飛すぎて、軽く意識が飛んでしまった。
 キュルケ曰く、彼女の故郷・ゲルマニアではお金さえ納めれば貴族になれるらしい。
 この場に集まっているのはキュルケ、タバサ、ギーシュの三人。
 女の子二人は良いとして、どうしてこの場にギーシュが居るのかが少し疑問ではある。
「ええ、そうよ。ダーリンほどの男を平民にしとくのはもったいないじゃない?」
「興味……ないな。俺はルイズの使い魔……それで十分だ」
 お小遣いも時々もらえるし、衣食住も保証されている。
 家計は火の車だろうにそこまで俺にしてくれているのだ、ルイズは。
 おいそれと裏切るような真似、出来るわけがなかった。
 だいたい、そんなやたらと重い責任が付き纏う職業は勘弁だ。
 ルイズを見る限り、危険なことにも首を突っ込まないといけないようだし、これ以上自分の身を危険には晒したくない。
 ……ごめん。六割くらいこっちが本音です。
「もう、本当に欲がないんだから! どうせいつか死ぬんだから、それまでに少しでも人生を楽しまなきゃ損だと思わない?」
「俺は俺なりに……楽しんでいる。この日常が……なによりも尊い」
 遠い過去に思いを馳せ、苦笑を浮かべる。
 日本に居た頃は当たり前だと思っていた生活が、今じゃ手の届かない位高いところにある。
 何もない平和な日々がどれだけ素晴らしいものか、俺はようやくそれに気付くことが出来たのだ。
 具体的には、ネットのない生活がこれ程までに苦痛だとは思わなかった。
 今なら、もっと充実した生活を日本で送ることが出来るに違いない。大事なのは心の持ちようなのだ。
「タバサ、ほら貴方からも何か言って! ダーリンを何とかして説得するんだから!」
 発破をかけているつもりなのか、キュルケはその実りまくっている双丘でもってタバサの顔を挟み込んでいた。
 ギーシュは羨ましそうに凝視しているが、俺は恐れるように目の前の光景を見詰めていた。
 どこぞの国で、お姉さんに乳に首を挟まされた男が骨を折ったという話を思い出してしまったからである。勢い良く叩き付けて、空き缶を押し潰したりもしていた。マジで怖い。
「無理。彼の意思は硬い」
 流石はタバサ。俺の言いたいことをよく分かっている。
 ただ、胸に包囲されている状態なので若干その声はくぐもっていた。表情もいつもより辛そうだ。
「キュルケ、もう素直に言ったらどうだい? 宝探しをするから手伝って欲しいってさ」
 見かねて口を挟んだのはギーシュだった。
 相変わらず頬を染めつつも苦笑し、いつの間にか手にしていた小汚い紙の筒を広げてみせる。
 あとでこの男の恋人のモンモ―――いや、モンブランシだったか―――に告げ口しておこう。
 黄色く変色した紙には、どこぞの地形が描かれているようだ。
 ×印の描いてある地点が宝の在り処とかそんなノリだろう、きっと。
 ……なるほど。確かに宝の地図だ。胡散臭さ全開である。
「宝……探し?」
「……はぁ、分かったわよ。あのね、ダーリン。わたしがダーリンを貴族にしてあげたいってのは本当の話なのよ? ただ、それには結構な額のお金が要るの。で、その資金を得る為に街で買った宝の地図を頼りに、皆で宝探ししようと思ったわけ」
 溜め息を吐き、髪をかき上げながらそう説明するキュルケ。
 タバサはその隣でコクコクと頷いていた。
 おお―――冒険かっ!
 そうか、冒険か。いいなー、怖がりの俺だってこう見えて男の子だ。
 冒険という響きにときめかない筈がない。
 優しいキュルケはその冒険に俺を誘ってくれているわけだな。
 俺みたいのが居ても足手纏いなだけだろうに、それでも仲間に入れてくれると言っているわけだ。
「俺の……役割は?」
 俺が出来ることと言えば、せいぜいが洗濯と風呂沸かしぐらいだ。
 あとは……るーんさえ元気ならそれなりに剣を振ることが出来る。
 チートな力を持っているので、少なくとも山賊程度なら一対一で負けることはほとんどない。護身術を備えた素人くらいには役に立つ筈だ。
 俺の言葉に、キュルケは困ったように笑った。
 ……や、やはり素人レベルじゃ話にならんほど危ないところに行くのか。
「そうね、なら騎士様をお願いできるかしら」
 こんな時も男の立場を守る発言をするキュルケは、本当に素晴らしい女性だと思う。
 胸中で彼女の優しさに咽び泣きつつ、俺は首を縦に振る。
「……了解した」
 頑張って邪魔にならないようにします。
 洗濯ぐらいしか力になれない俺だけど、精一杯やりますので見捨てないでください。
「あ、あら!? 意外とあっさりオーケーが出たわね。わたしとしてはすごく嬉しいんだけど、なんだか拍子抜けしちゃうわ」
 彼女の中で俺はそこまでヘタレだと思われていたのか……。
 それが事実なだけに、何とも言えないのがまた情けない。
 悩んだよ、心の奥底でしっかりと。
 だけど、冒険という響きに男は弱いんだ。宝探しとか聞いただけで年甲斐もなくワクワクする。
 まあ、彼女達も自ら進んで危険なところには行かないだろうし、いざとなったらタバサのバイオドラゴンに尻尾で敵を叩いてもらおう。
 全長十メートルくらいあるシルフィード。その内の四割は尻尾の長さだ。
 まだ子供らしく力はあまり強くないとか言っていたが、あれだけの巨体から繰り出される一撃が弱い筈ない。
「心配?」
「ああ。……そうだな」
 この世界は野生化したバイオ生物がたくさん居るらしいし、すごく心配だ。無論、自分の身が。
 タバサやキュルケは魔法使いとして一流だし、ギーシュも地面から銅像を練成出来る。
 この面子の中じゃ、俺だけが何の特技も持っていないことになるわけだ。不安になるのも仕方ない。
「あらん、やっぱり優しいわね、ダーリン! 貴方のそういうところ、お世辞とか抜きで好きよ」
「優しい」
「……そうか」
 いったいどういうところが優しいというのか?
 怖いのを我慢してついていく姿を優しいと……言わんだろ普通は。
 また誤解の輪が広がりつつあるのをひしひしと感じるぜ。
 キュルケとタバサに褒められ、年甲斐もなく照れてしまう。
 自分でいうのもおかしいけど、俺が照れるのは珍しい。
 そもそも、人に褒められること自体が破滅的に少ない人生を送って来たのだ。慣れていないのは当然と言えよう。
「ダンケ殿、ルイズはどうするんですか?」
「……主か」
 ついて来てくれると非常に心強いが、ご主人様を危険なところに連れて行くのは少し気が引ける。
 彼女は確かに強いし立派だけど、他の誰よりも貴族らしい貴族だからなぁ。
 野宿とか洞窟とか松明とか失われたアークとか、そういうの苦手そうなイメージがある。
 俺も得意とは言えないが、適応性はそれなりに高いからたぶん大丈夫だ。
 なんせ日本からドイツに拉致された挙句、使い魔生活を送っている身分である。
 そんじょそこらの奴より適応性は高い筈だ。でないと、とっくの昔に頭がおかしくなっている。
「問題はそこなのよねぇ。ダーリンが行くって言ったら絶対にルイズもついてくるだろうし。かと言って、内緒で行くなんて真似、貴方には出来ないでしょ?」
「使い魔……だからな」
 この歳で保護者同伴じゃないと外出もまともに出来ないとか……情けない。
「彼女も一緒に行くしかない」
 タバサの言葉に頷き、俺は一度ルイズの部屋に戻ることにした。
 休憩を挟んだおかげか少し楽になった腹と共に、女子寮の廊下を練り歩く。
 今はこの光景が当たり前のものとなってしまっているが、いい歳した男が女子寮を歩いている姿はやはりおかしい。
 もしも使い魔という立場じゃなかったら、即行で警察のお世話になっていたことだろう。
「ダンケさん!」
 そんなことを考えながら歩いていると、後ろから声をかけられた。
 振り向けば、シエスタがいつもと変わらぬ優しい笑顔を浮かべている。
 やっぱり彼女は清楚なここのメイド服がよく似合う。
 確かに前に着ていた色っぽいメイド服も悪くはなかったけど、こっちの方が彼女のイメージに合っている。
「シエスタか……どうした?」
「いえ。その……どうかなさったんですか?」
 シエスタが首を傾げる。
 いつもの俺はこの時間、洗濯物を取り込んだりしているからなぁ。時間が余っても、外でブラブラしていることが多い。
 なるべく、女子寮には必要以上に近付かないようにしているのだ。
そのことを知っている彼女が疑問に思うのも無理はない。
「キュルケ達と宝探しに……行くことになってな。主の許可を……取りに来た」
 いい年した大人が十代の少年少女達と宝探し……自分で言ってて間抜けにも程がある。
「宝探し、ですか?」
 大人の口から出たとは思えない発言に、きょとんするシエスタ。
 冒険は男の浪漫。分かってくれとは言わないよ。
「ああ。何でも貴族になるには……お金が居るらしい」
「だ、ダンケさん、貴族になっちゃうんですか!?」
 顔を青ざめさせ、その大きな瞳に涙を溜めるシエスタ。
 そ、そこまで恐ろしいのか、貴族について回る責任とやらは!?
 彼女が貴族を恐れているのは魔法が怖いからだと思っていたが、どうやらもっと複雑な理由があるらしい。
 誤解されては堪ったものじゃないので、慌てて首を横に振る。
「それは……ない。俺は誰かの上に立つような……人間じゃない」
 貴族になるということは、多い少ないの差はあっても領地を得て領民の生活を守らなければいけないわけだ。
 自分のことだけでも精一杯なのに、人様の生活を支えるなんて真似俺には到底出来そうにない。
 いったいどれだけの量の胃薬を飲む羽目になるのやら。
「そんな悲しいこと言わないでください。貴方はわたしの……その、騎士様なんですから」
 悲しそうな表情を浮かべたかと思えば、両手を頬に添え、シエスタははにかんでいる。
 改めて言うことでもないが、彼女はやっぱり可愛い。
 ルイズが温室で大切に育てられた花なら、シエスタは野に咲く健気な花といった感じだ。
 俺は……何だろう、三つ葉のクローバーとか?
 四葉かと思ったら三つ葉かよ! そんなポジションだと思う。
「す、すみません! わたしったら変なことを言い出しちゃって。でも、ほっとしました」
「……そうか」
「あ、あの! もしご迷惑でなかったらわたしも連れて行ってくれませんか? ご迷惑になるようなことはしませんので―――お願いします!」
 シエスタが深々と頭を下げる。
 俺としては彼女がついて来ても問題はまったくないんだが、やっぱり危ない目に遭うかもしれないし……。
「危険な旅に……なるかもしれんぞ?」
「うぅ……の、望むところです!」
 両手を握り締め、シエスタははっきりとそう口にした。
 相変わらず涙目だったが、やはりこの少女は俺なんかより遙かにたくましい。
 小声で誰かに守ってもらうとか言っていたけど、当てでもあるんだろうか?
 まあ、ルイズ達ともそれなりに仲が良いみたいだし、あの子達は優しいから危なくなったら助けてくれるだろうけど。
「……分かった。キュルケ達には……俺から話しておこう」
 悩んだ末、シエスタにも一緒に来てもらうことにした。
 洗濯は出来るけど、料理に関して俺は素人だ。
 その分、シエスタが同行してくれるのなら、おいしい手料理に有り付ける。
 食事は生活に密接しているからな、彼女の存在は非常にありがたい。
「あ、ありがとうございます! それじゃあ、準備してきますね! マルトーさんにも一言断っておかなきゃ」
 ニコニコしながらシエスタは去って行った。
 宝探しを男は冒険と捉え、女は旅行と考える。
 そのあたりが両者を深く知る鍵なのかもしれない―――なんちゃって。
 それにしても、出発は今日なんだろうか?
 シエスタはそのつもりのようだけど、実を言えば俺も詳しいことは知らないんだよな。
 兎に角、今はルイズと会うことが先決だ。
 彼女の許可なしに、遠出をするわけにはいかないのだから。
 踵を返したところで、視界に桃色の髪が映った。
「ダンケ、そんなところで何してるの?」
「……主」
 こういう時、世間は狭いなぁって思う。


 ある日の午後、キュルケはタバサとギーシュを引き連れとある人物を探していた。
 少女二人が一緒に居るのは別に珍しいことじゃない。
 だが、そのメンバーの中に金髪の少年が加わっているのは大変珍しい光景だった。
 ギーシュは大抵、ルイズの使い魔である青年と行動を共にしているからだ。
 キュルケはよく知らないし興味もないが、どうやらこの少年はあの青年のことを尊敬しているらしかった。
 同じメイジの同級生は平民に付き従っている彼のことを以前は馬鹿にしていたのだが、青年の実力を知ると手の平を返したようにギーシュの行動を褒め称えていた。
 どうやら、彼の友人を装うことで黒衣の使い魔から自分の身を守ろうと考えたらしい。
「ほんっと馬鹿な連中ばっかりだわ、この国」
 小声で呟き、肩を竦める。
 弱い者には強気に振る舞い、自分よりも強い者にはペコペコと頭を下げる。
 それが処世術だと言われればどうしようもないが、どうにもトリステインの貴族はそれが顕著すぎる気がした。
 キュルケの故郷・ゲルマニアでは金さえあれば土地を買って貴族の姓を名乗ることが出来る。
 格調と形式に拘るトリステインではこうはいかないだろう。
 ―――メイジでなければ貴族にあらず。
 こんな古臭い体制を取っているから国力がどんどん弱まって行くのだ。
 その結果、一国でレコン・キスタの脅威を排除することが出来ず、日頃から野蛮だと揶揄しているゲルマニアに同盟の話を持ち掛ける羽目になったわけだ。
「まあ、だいたいの話は分かった。で、それがどうして宝探しに繋がるんだ?」
「ゲルマニアで貴族になるにはお金がいるでしょ? それを手っ取り早く稼ぐ為には、宝探しが一番! これって常識よ」
「……その結果がこの見るからに偽者っぽい地図なわけだが」
 呆れるように溜め息を吐いたギーシュの手には、古ぼけた紙の束がいくつか握られている。
 つい先程、タバサのシルフィードに乗って王都トリスタニアにある裏通り・チクトンネ街の露店で購入したものだ。
「十枚で3ドニエ。破格」
 1ドニエは銅貨一枚。
 トリステインで流行っている小説“バタフライ公爵夫人の優雅な一日”は一冊55スゥ。
 タバサの言うとおり、確かに十枚で銅貨三枚は破格だった。
「分かってないわね、タバサ。こういうのは安い物にほど価値があるのよ。一見すると只の嘘っぽい地図だけど、実は綿密な計算によって描かれていたりとかね」
「ああ、そうだろうね。炙り出しに違いないと言って、一枚灰にした君の言葉だ。実に説得力がある」
 ジト目で見詰めるギーシュ。
 キュルケはわざとらしく目を逸らし、大仰な仕草であたりを見渡した。
「あ、あら、ダーリンったらどこに居るのかしらねー?」
「……彼がそう簡単に協力してくれるとは思わないがね、僕は」
「そんなことないわよ。ダーリンだって今の窮屈な生活にはうんざりしているでしょうし。だいたい、彼を平民のまま燻らせておく方が間違ってるわ。トリステインがダーリンを評価しないのなら、ゲルマニアで評価してあげるってだけの話よ。そっちの方がお互いの為に良いでしょ」
「むむ……」
 キュルケの言葉に、ギーシュが黙り込む。
 トリステインでは生まれを何より大切にする風習がある。
 だからこそ、どれだけ手柄を立てようと平民のダンケが正当な評価を受けることはないのだ。
 彼がもし貴族であったならば、王室警護団の一員に名を連ねていてもおかしくはなかった。
「いた」
 タバサが杖で示す先には、ベンチに腰掛けている青年の姿があった。
 平民の間では人気者の彼だったが、貴族からは恐れ嫌われている。
 普段、この時間帯の広場にはボール遊びに興じる生徒達で賑わっているのが常なのだが、今日に限って人っ子一人この場には居なかった。
「兎に角、ダーリンと話してみましょ。まずはそれからよ」


「興味……ないな。俺はルイズの使い魔……それで十分だ」
 貴族になるつもりはないか―――?
 その問いに対する彼の返答がこれだった。
 悩むことなく即答したその姿に、タバサは小さく笑みを作る。
「もう、本当に欲がないんだから! どうせいつか死ぬんだから、それまでに少しでも人生を楽しまなきゃ損だと思わない?」
「俺は俺なりに……楽しんでいる。この日常が……なによりも尊い」
 キュルケが尚も彼を説得しようとするが、青年の意思は揺るがない。
 ニホンで戦い続けたダンケだからこそ、今の平穏がいかに大切なものなのか分かるのだろう。
 人はいつだってそうだ。失って初めて、自分にとって大切なものが何だったかに気が付く。
「タバサ、ほら貴方からも何か言って! ダーリンを何とかして説得するんだから!」
「無理。彼の意思は硬い」
 タバサは首を横に振った。
 彼の意思の強さはよく知っている。自分が何か言ったくらいで意思を曲げるとは思えなかった。
 なにより、青年は平穏を望んでいるのだ。
 いかに暮らしや待遇が今より良くなるとしても、争い事に巻き込まれたら意味がない。
「キュルケ、もう素直に言ったらどうだい? 宝探しをするから手伝って欲しいってさ」
 見かねたギーシュが助け舟を出した。
 ダンケを貴族にするという意気込みは本物だったが、それが断られた時点でこの計画はおじゃんになった。
 ならば、計画を変更して宝探しに勤しむのも有りだろう……有りなのか?
 もっとも、キュルケはまだ見ぬお宝に胸をときめかせているので、彼女からすればどちらでも良いのだろうが。
 目的と手段が逆になっている気がするが、あえてタバサは黙っておいた。
「宝……探し?」
「……はぁ、分かったわよ。あのね、ダーリン。わたしがダーリンを貴族にしてあげたいってのは本当の話なのよ? 只、それには結構な額のお金が要るの。で、その資金を得る為に街で買った宝の地図を頼りに、皆で宝探ししようと思ったわけ」
 視線でキュルケに「協力して」と訴え掛けられ、とりあえず首を縦に振っておく。
 宝の地図だと称されるものが偽者と、当然の如く青年は気付いているだろう。
 口にこそ出さないが、タバサは青年がこの話を断ると思っていた。
 彼女自身も、親友キュルケの頼みだからこそこの場に残っているのだ。
 偽者の地図と知っていながら存在しない財宝を探しに行くなど、時間の無駄以外の何者でもない。
 しかし、彼の発した言葉は予想の斜め上を行くものだった。
「俺の……役割は?」
「そうね、なら騎士様をお願いできるかしら」
 こうもあっさり喰い付いてくるとは思ってなかったらしく、キュルケは曖昧な笑みを浮かべながらそう言った。
「……了解した」
「あ、あら!? 意外とあっさりオーケーが出たわね。わたしとしてはすごく嬉しいんだけど、なんだか拍子抜けしちゃうわ」
 タバサもキュルケと同じ感想を抱いていた。
 彼が自ら腰を上げる時は限られている。
 主のルイズに危害が及ぶか、主の命を受けるか、もしくは彼の周りに居る人物が危険に晒されるか。
 タバサの知る限り、このどれかの条件に該当しなければ青年が行動を起こすことはなかった。
 今の場合、この場に居ないルイズは関係ないだろう。
 そうなると、必然的に三番目の理由が浮上する。
「心配?」
「ああ。……そうだな」
 試しに尋ねてみると、青年は大きく首を縦に振った。
 あの地図に記された場所に心当たりでもあるのか、彼はこの宝探しが危険な旅になることを知っているようだ。
 鍛え抜かれた戦士の勘が未来の危険を訴え掛けているのかもしれない。
「あらん、やっぱり優しいわね、ダーリン! 貴方のそういうところ、お世辞とか抜きで好きよ」
「優しい」
 ―――哀しい程に。
 出かけた言葉を呑み込み、タバサは静かに瞳を伏せる。
「……そうか」
 青年の言葉には妙な含みがあった。
 瞳は長い前髪で遮られている。
 僅かに垣間見えたその双眸が、寂しげに揺れていた。
 かつての大戦で多くの仲間を失ったダンケ。
 一時は一国の王の座にも就いた彼だったが、その深い哀しみが癒えることはなかった。
 魔王との戦いで、命をすり減らした青年の辿り着いた地がこのハルケギニアだったならば、それは何と残酷なことなのだろう。
 いっそのこと争いのない世界に辿り着いて居れば、彼はどれだけ幸せだったろう。
 戦い疲れた青年を迎えた世界は、混迷の真っ只中にある世界だった。
 彼がこの地で与えられた役目は少女の使い魔。
 剣を振るい、拳を握り、誰かの命を絶つことでしか必要とされなかった青年はこの地でも戦いに身を投じている。
 キュルケと言葉を交わしている青年をそっと見詰める。
 願わくは、彼がこの地で真の安らぎを得られることを―――。
 それは無理な願いなのかもしれないが、タバサはそう願わざるを得なかった。


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<<零の使い魔。~聖十字の騎士~ 第二十一話 | 後悔すべき毎日 | リリ勘。最終話。>>
この記事のコメント
今年もよろしくお願いします。 
だいぶ言うのが遅れましたがネクオロさん、新年明けましておめでとうございます。 今年もどうかよろしくお願いします。 今年もネクオロさんの小説を楽しく読めるのを嬉しく思います。 さて、2010年の零の使い魔はどの様な展開になっていくのか今から楽しみです。
なお、誤字と思える物を見つけたので報告しておきますね。
“始祖ブリミルが神に祈りを捧げた際に読み上げた呪文が記されているとそれは、今は何も書いていないページを晒している。”は「始祖ブリミルが神に祈りを捧げた際に読み上げた呪文が記されているというそれは、今は何も書いていないページを晒している。」、
“更にはあの怪盗“土くれのフーケ”と捕えたという噂が流れ始めた以後、青年と決闘をしようと考える愚か者は一人として居ない。”は「更にはあの怪盗“土くれのフーケ”を捕えたという噂が流れ始めた以後、青年と決闘をしようと考える愚か者は一人として居ない。」が正しい表記かと。細かい部分の違いですがお時間の有る時に修正を……。
2010-01-05 Tue 21:16 | URL | ベリウス #VSnRaRv6[ 内容変更]
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