ネクオロでした
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零の使い魔。~聖十字の騎士~ 第二十一話
2010-01-15 Fri 22:57
二十四時間戦えますか……?

                                              ダンケ

 どうしてこうなってしまったのか……?
 デルフを装備し、廃墟と化した寺院の側に立つ木に身を潜ませる。
 俺の隣にはキュルケの使い魔のオオトカゲ・サラマンダーが居た。
 誰がどう見ても最前線君である。
 戦闘はキュルケ達にお願いして、俺は後方で彼女達の無事を祈るというポジションだった筈なのに……。
 胸中で咽び泣きつつ、言われた通りに寺院の入り口を凝視する。
 あのボロボロの寺の中には、オーク鬼とかいうバイオ生物が隠れ住んで居るらしいのだ。
 朽ち錆びた鉄の柵、草の蔓が巻き付いた門柱、以前は手入れが行き届いていただろう庭には雑草が生い茂っている。
 ここは数十年前、人々が暮らしていた平和な村だったらしい。
 ところが、その村にオーク鬼という化け物が住み着いてしまった。
 村の住人達は地元の領主に助けを求めたが、領主は兵を出すのを渋ってシカトを決め、結局村は放棄されることになった。
 独国にはそんな悲しい歴史を持つ村がたくさんあるのだという。
 流石はバイオ生物が普通に闊歩する世界、被害のスケールが違う。
 未確認生命体やアンノウンとかも探せば居るんじゃないのか?
 オーク鬼という名前からして恐らくは1メートルくらいの子鬼だろうが、“鬼”の名を冠するだけに油断は出来ない。
 その時、寺院の門柱が唐突に爆発した。
 黒煙が立ち昇り、静かな廃村が一気に騒然となる。
 朽ち果てた寺院から奇妙な鳴き声と共に飛び出してきたのは……巨大な豚でした。
 全長は二メートルくらいあるだろうか。この時点で俺の予想から大きく外れてしまっていた。
 醜く太った体を獣から剥いだ皮で包み、手には巨大な棍棒を持っている。
 ブヒブヒと鼻を鳴らしているその姿は、どこからどう見ても二足歩行の豚だった。
 あれ、間違いなく未確認生命体だろ。第何号かは知らないが、この場に居るべきなのは俺じゃなくて五代君だと思う。
 寺から姿を見せたオーク鬼は十匹。そのどれもが分厚い脂肪を標準装備している。
 普通の人間じゃあ逆立ちしたって敵わないのは、手にしている武器の重量からして明らかだ。
 成人男性一人分の体重くらいは軽くありそうな棍棒を片手で振り回す豚さん
 やっぱり、ク○ガを呼ぶべきだと思います。デ○ケイドでもいいです。
 不意に陽炎が立ったかと思うと、青銅のゴーレムが七体出現した。
 ちょうど俺とオーク鬼の間に立つような立ち位置である。
 お、おかしいな。事前に立てた計画によると、タバサ達の魔法である程度数を減らした後、ギーシュのゴーレムで落とし穴地点にまで誘導する作戦だった筈だ。
 七体のゴーレムが手にした槍を構えて先頭のオーク鬼に突撃する。
 七本の短槍が豚さんの腹に減り込むが、見る限りほとんど効いていない。
 手にした棍棒を一振りするだけで、青銅のゴーレムは玩具のように吹き飛んだ。
 圧倒的じゃないか、敵軍は……!?
 あんな訳の分からない奴等が十体も居るなんて卑怯だ! チートだ!
 オーク鬼はゴーレムを踏み付け、鼻をひくつかせて周囲を探っている。
 何という役立たずなギーシュ。怖いのは分かるが、錯乱するのだけは勘弁してほしかった。
 視界にキラキラと陽光を反射するものが映る。
 それが氷だと気付いた直後、何十本もの氷の矢が一体のオーク鬼を四方から串刺しにした。
 一瞬で絶命する豚さんその一。
 ―――タバサの魔法(専攻技能)だ!
 追い討ちをかけるように、虚空に出現した火の玉がいきり立つ別のオーク鬼の頭を焼き尽くす。
 流石はキュルケ、頼りになるぜ!
 木の陰からその様子を見守り、心の中で喜びの舞を踊る。
 さあ、残る八体も宜しくお願いします!
 そう思った矢先のことだった。
 サラマンダーに鼻先で背中を押され、木の幹から姿を現してしまう俺。
 平然と隣に並ぶオオトカゲが憎らしい。
 豚さんの鋭い目付きは俺達に集中していた。完全に見付かってしまったわけだ。ちくしょう。
 咆哮をあげ、オーク鬼達が突撃してくる―――って、早っ!? 太っているのに足が速いとかずるい!
 いつもと同じように恐怖が体を駆け抜けた途端、左手の甲のるーんが光を放つ。
 羽のように軽くなった体を動かし、叩き付けるように振り下ろされた棍棒を回避する。
 ドゲシャア! そんな音を立てて地面の表面が弾けた。
 あんなの当たったら痛いどころの話じゃない。即行でミンチになってしまう。
 滑り込むように豚さんの股の間を潜り抜け、片足をデルフで斬り付ける。
 本当はそのまま切り倒してやろうとも思ったが、チートが加算されているとは言っても俺の力じゃこれが限界だったらしい。
 堪らず膝を付くオーク鬼の顔目掛け、オオトカゲが炎の塊を吐き出した。
 地面に倒れ込み、しばしもがいたあとに動かなくなるオーク鬼。
 ……お前、すごく強いじゃん。俺を前面に押し出す必要皆無じゃん。
「相棒、来るぞ!」
「ああ」
 俺の正面には二体のオーク鬼。
 どちらもブヒブヒと鳴きながら、手にした棍棒を振り回している。
 いくらチートの力で強化されているとは言え、あの棍棒の一撃を真正面から受け止めるなんて真似は出来ない。
 当たったら即死。掠っても即死。
 肉体の強化―――不可。当たったら死ぬのは変わらない。
 だが、舐めるなよ未確認生命体。こちらにはチートの加護があるのだ。
 培った戦闘経験を活かし、振り下ろされる棍棒の動きを事前に見切る。
 このタイミングで体を右にずらせば―――おぉっ!?
 足首が変な音をあげたかと思いきや、視界が二十センチ程下がった。
 一瞥した足元には、一足早く天に召されたオーク鬼の棍棒が転がっている。
 どうして……どうして俺はいつもこうなんだ―――っ!?
 こんな致命的な隙を豚さんが見逃すわけがないじゃないか!?
 せめて挟み撃ちだけは避けようと、目の前の一体にデルフを突き刺す。
 チートパワーで強化されたその一撃は、紙を穿つようにオーク鬼の喉を貫いた。
 小刻みに痙攣したあと、豚さんが棍棒を持ったまま前のめりに倒れ始める。
 踏み潰されるのはゴメンだと、痛む足を堪えて後方に飛び退く俺。
 剣を引き抜く反動もあってか、何とかある程度の距離を確保することが出来た。
 直後、俺の居たところに別のオーク鬼が棍棒を振り下ろした。
 しかし、生憎と俺はそこにはいない。
 目標を見失ったオーク鬼は不思議そうに首を動かし―――仲間の亡骸に握られていた棍棒によって、その命を散らすことになった。
 倒れ込んだ味方の前―――それもちょうど棍棒が直撃する位置に頭を出すとか、運が悪いにも程があるだろ……。
 あと一歩間違えば俺がああなっていたわけだが、自分でも運が良いのか悪いのか分からなくなってきた。
 生きているだけで人生丸儲け。なるほど、確かに名言だ。
 俺が二匹をひーこら言って倒している間に、タバサ達が頑張ってくれたらしい。
 気付けば、残る豚さんは二体にまで減っていた。
 るーんの輝きが体を突き動かし、オオトカゲと力比べをしていた一体を背後から斬り捨てる。
 だけど、その分厚い脂肪が鎧代わりになったのか、トドメを刺すまでには至らない。
 まずっ!? こいつは薮蛇って言うんじゃ―――。
 戦慄が体を駆け巡る。
 どうにかして避けようと体を動かそうとするも、そろそろ体力は限界に来ていたらしい。
 このままじゃやられると覚悟を決めるか迷っていた時、突然オーク鬼は燃え盛る炎に包まれた。
 崩れ落ちる豚さん。その後ろでは、サラマンダーが火で構成された舌をチロチロさせている。
 ど、どうやら……彼に助けられたようだ。
 憎いとか言ってゴメンね、もうそんな酷いことは言わないから。
 ―――おぉっ!?
 後ろに目が付いているかの如く、体が勝手に反応して回転するように後ろへ刃を振るう。
 切断面からどす黒い血を噴き出しながら、棍棒を握ったままの手首が宙を舞った。
 あ、危ねぇ。チートがなかったら今のでお陀仏だった。これからは背中にも気を付けないと。
 なくなった手首を押さえ、オーク鬼が苦悶の声をあげる。
 その直後、がら空きの胴体目掛けて氷の矢が殺到した。
 ダメ押しとばかりに二メートルはある火球がオーク鬼の体を呑み込み、その場に火の柱を築き上げる。
 断末魔をあげることすら出来ないまま、最後のオーク鬼がこうして息絶えたのだった。
「……終わったか」
 安堵の息を吐き、デルフを鞘に仕舞おうとしたところで刀身が血でベトベトなことに気付く。
 ゲームで血の色を黒く変更して販売し直すことが度々あるけど、その大切さがようやく分かった。
 真っ赤に染まった大剣を見詰め、顔を目一杯顰める。
 吐き気を催さないのは成長した証か。とは言え、生き物を殺して良い気分なわけがない。
 まあ、やらなきゃやられていたわけだから、俺としては迷わず成仏してもらいたいところだ。
 豚さんには申し訳ないが、人様を斬り付けるよりかはまだ幾分か気持ちは楽だった。
 そう言えば、俺が拉致される少し前に話題になっていたとあるインフルエンザは、無事に収拾してくれただろうか?
 あれがある程度収まってくれていなければ、日本に戻っても空港に隔離される恐れがある。
 ―――なんて。パスポートも持っていない俺が心配するのは100日程早いだろうが。
 それにしても、タバサ達の邪魔になっていなかったかすごく心配だ。
 素人の俺は立ち位置とか考えている余裕ないし、バタバタと慌しく動き回っていた。
 射線に俺が何度も飛び込んで、彼女達はさぞかし嫌な思いをしたことだろう。
 出来ることなら、俺も飛び道具が欲しい。安全圏から一方的に攻撃出来る武器こそ、俺に相応しい得物だと真摯に思う。
 ―――“邪悪なる者あらばその技を無に帰し、流水の如く邪悪を薙ぎ払う戦士あり”。
 いや違う、これだと青い戦士の方じゃないか!? どっちにしろ接近戦を挑むことに変わりはない。
「やはり俺には……この道しかないのか」
 溜め息を吐いて、落ちていた葉っぱで剣に付着した血を拭い取る。
 咄嗟に頭に浮かんだ語句が“青の戦士”とは……俺はとことん接近戦に定評のあるヘタレのようだ。
 見上げた先には、ゆっくりと降下してくるシルフィードの姿がある。
 移動の要となるドラゴンは戦闘から除外されていたのだ。
 大きな図体とは裏腹に、翼が少し傷付くだけで飛べなくなるほどか弱い生物なんだとか。
 その背にはルイズとシエスタが乗っている。
 シエスタは料理役、ルイズはその護衛というわけだ。
 終始、俺のご主人様は自分の扱いに不満そうだったが、彼女の爆発は切札なのである。
 温存しておこうというキュルケ達の気持ちが分からないでもなかった。
 バックに太陽を従えているので、直接彼女達の姿を見るのはかなり目に堪える。
 目を細めてはいるが、あまり意味があるようには思えなかった。
「……眩しいな」
 日除けの為に翳していた手を下ろす。
 ぼそりと呟き、綺麗になったデルフを鞘に仕舞った。
 竜と美少女と太陽。
 それは一枚の絵にして飾って置きたいほど美しい光景だった。
 文化人を気取るわけじゃないけど、俺にだって芸術の素晴らしさくらい分かるぞ! ―――って、俺はいったい誰にアピールしているんだろう?
 駆け寄るなり抱き付いてきたキュルケの……にドギマギしつつ、拳を握り締める。
 邪気眼が疼いたわけではなく、ムラムラを抑え込む為の緊急措置だ。
 懸命に様々なものを堪えていると、その手に小さな掌が重ねられた。
「大丈夫?」
「……何とか、な」
 喉から声を絞り出す。
 まさに崖っぷちの状況だった。
 キュルケの直接的なアレもやばいが、手から伝わるタバサの温もりもやばい。
 俺はそっちの人ではない……と思うけど、この子は理性を突破して直接本能に訴え掛ける何かを持っている。
 キュルケもある意味、理性突破の兵器をいくつか所持しているが。今背中に押し当てられている物がまさにそれである。
 気分はカキ氷機に置かれた氷だ。じわじわガリガリと削られる心境だった。
 このままでは陥落してしまう。思考を何とか別のことに切り替える。
 キュルケ曰く、宝の地図に記されていた場所はこの寺院で間違いない……とのことだ。
 中にあるのは宝かゴミか、どっちにしろこれだけ苦労したんだから良い物であってほしい。
 出来ることならば、遠距離から安全に攻撃出来る武器がいいなぁ。
 あ、何度もしつこく言ってすみません。
 タバサが何か口にした気がしたけど、その声量が小さかった為に聞こえなかった。
 こういう時の常套手段として愛想笑いを浮かべておいたが、果たしてそれで良かったのだろうか?
 どうにも、彼女がさっきから思い詰めたような表情をしているのが気になる。
 何か重要な語句を聞き逃したとか……じゃないよね?
 もしかして告白―――は100%ないとして。
 となると、さっきの戦いのダメ出しかな。あまり動くな、邪魔だ。すっこんでろ、みたいな。
 タバサは優しいからきっと優しい言葉で諭してくれたのだろうが……それに愛想笑いで応えるって最悪じゃないか!? 馬鹿にする気満々じゃないか。
 き、嫌われたりしなかったかなぁ……。
 この子のことだから、自分の言い方が悪かったんじゃないかとか気にしていそうで不安だよ。
 そんな一抹の不安を胸に、俺達は宝のあるという寺院に突入するのだった。


 ―――その日の夜。
 一行は寺院の中庭で焚き火を取り囲み、戦果報告という名の反省会を開いていた。
 この場所以外にも数箇所巡ったが、結果は言わずもがな。
 徒労を表すように、誰もが疲れ切った表情を浮かべている。
 感情を表に出すのが珍しいタバサも、眠そうにうつらうつらとしていた。
 その中で唯一普段通りに過ごしているのが、黒衣の使い魔だった。
 彼だけは、タバサ達から少し離れた位置に腰を下ろしている。
 半ばで折れた短剣を手に取り、ためすがめつ眺めては時折納得するように頷いていた。
 刀身に赤い宝石がはめ込まれているそれは、元は名のある貴族の所有物だったのだろう。
 だが、折れている上に宝石にも無数の亀裂が奔っている時点で、短刀の価値は銅貨十数枚程度にまで下がっているに違いない。
「これってお宝かしら?」
「ガラクタ」
 手の中の物を弄ぶキュルケに、タバサは何の迷いもなくそう告げた。
 微熱の少女が手にしているのは、真鍮製の色褪せたネックレス。
 今日の昼間、命懸けでオーク鬼を退治し寺院の中を捜索した結果、唯一発見出来たのがこのネックレスなのであった。
「おかしいわねぇ、地図の通りだったら“ブリーシンガメル”がある筈なのに」
「まさかとは思うけど、この安物の首飾りがその“ブリーシンガメル”じゃあるまいね?」
 ジト目で見詰めるギーシュ。
 キュルケは持っていたネックレスを足元に放り投げると、気だるげに首を横に振った。
「地図に書いてあった注釈によれば、黄金で出来た首飾りらしいわね。なんでも“炎の黄金”で作られているんだとか。今更だけど、嘘くさいわねー」
「あんたが絶対にあるって言ったんでしょうが……。で、見付かったのは銅貨が数枚とボロボロの首輪、あとはダンケが持ってるその折れた剣だけ。骨折り損ってのはこういうことを言うのね、きっと」
 フンと鼻を鳴らし、ルイズは古びた銅貨を指の先で弾く。
 コロコロと転がった硬貨は、彼女の眼前に置かれていた空の器に当たり渇いた音を立てた。
 昼食を口にしてから既に六時間以上経っている。
 育ち盛りの少女が空腹のあまりイラつくのも仕方ないのだろう。
 かくいうタバサも表情にこそ出さないが相当に参っていた。
 元より燃費の良い体ではない。その上、昼間に連続で魔法を行使しているのも痛かった。
 焚き火の上には鍋が置かれ、それの中身をシエスタがおたまでかき混ぜている。
 彼女の言によれば、完成するにはもう少し時間が掛かるらしい。
 鍋から漂って来る良い香りに、無意識の内にゴクリと喉が鳴る。
「何もしていない貴女には言われたくないわ、ゼロのルイズ。ダンケにばっかり危ない仕事を押し付けて、自分は高みの見物だなんて結構な御身分ですこと!」
「……ぅーっ!」
 キュルケの言っていることは紛れもない事実なので、ルイズは言い返せないようだった。
 か細い唸り声をあげ、足元に視線を落として指で雑草を突いている。
 とは言え、タバサからすればルイズの下した判断は正しい。
 彼女の爆発は、威力だけ見れば確かに強力だ。
 しかし、それには致命的な欠点が存在していた。
 ルイズの意思で爆破地点をコントロールすることが難しいのである。
 だいたいの見当を付けることは出来るが、精密な射撃が出来ない為に混戦では使えない。
 仮に彼女が無理にあの場で魔法を発動させていれば、接近戦を挑んでいたダンケかキュルケの使い魔が高確率で巻き込まれていただろう。
 そのことを知っているのか、キュルケもそれ以上追求しようとはしなかった。
 ルイズはルイズで、自分の立ち位置というのを理解し始めているようだ。
 以前の彼女であれば、貴族の誇りを傷付けられたとキュルケに食って掛かっていても何らおかしくはないのだから。
「キュルケ、悪いことは言わない。もう学院に戻ろう。叩き売りされていた地図を信じた僕達が馬鹿だったんだ。だいたい、地図に注釈や宝の説明がある時点でおかしいじゃないか」
 疲れたようにそう言って、ギーシュは生い茂る草の上に横になった。
 最初に暴走して独断先行したことは、もう彼の中では過去のものになっているらしい。
 あの作戦はギーシュ本人が立案したもの。にも関わらず、とうの本人がそれを勝手に破棄したのだからこっちは堪ったもんじゃない。
 少しはフォローする方の身にもなってほしい。でなければ、命がいくつあっても足りはしない。
 ギーシュの偉そうな物言いに少しだけカチンと来たタバサは、手にした杖でギーシュの頭を軽く小突いた。
「いだ!? な、なにをするんだね!?」
「反省」
「そう言えば、貴方のせいで酷い目に遭ったのよね。ダーリンとフレイムが頑張ってくれたから良かったものの、そうでなかったら今頃おいしく焼かれていたのは私達の方だったかもしれないわ」
「オーク鬼って人間を焼いて食べる習性あったかしら? 私の記憶が正しければ、生で丸齧りだった気がするんだけど」
「……ルイズ、野暮な突っ込みはしないでくれる?」
 途端に賑やかになる反省会。
 既に、宝探しからギーシュの吊るし上げへと完全に話題は移行している。
 そんな喧騒から意識を外し、タバサは昼間の光景を思い出していた。


 ギーシュの暴走によって、彼女達は当初の計画を変更せざるを得なくなった。
 彼の使い魔・ヴェルダンデが作った落とし穴はもはや使えない。
 落とし穴にオーク鬼を呼び寄せ、敷き詰めた油に火を付けて一網打尽にするという作戦は立案者の手によって頓挫することになったのだ。
 寺院から姿を現したオーク鬼の数は十体。予想していた数値の二倍である。
 木の側に身を潜めていたタバサは冷静に使う呪文を検討する。
 敵の数は多く、こちらのメイジは四人―――戦力として通用するレベルにある者は、自分を含めて二人しか居ない。
 そっと様子を窺えば、ギーシュのゴーレムがオーク鬼の一体に総攻撃をかけているところだった。
 不機嫌そうに眉を顰め、いつでも呪文を詠唱出来るよう精神を集中させる。
 平民の傭兵が相手ならいざ知らず、相手は人の子供を取って喰らう化け物だ。
 あの精度のゴーレムでは、精々十数秒の足止めが限界に違いない。
 案の定、ワルキューレがオーク鬼に一斉に槍を突き刺すものの、そのどれもが分厚い脂肪に阻まれて内蔵に達しない。
 どうにかしようともがくワルキューレ達を人の体ほどもある棍棒が吹き飛ばす。
 ある物は衝撃によって上半身を粉砕され、またある物は寺院の壁に叩き付けられ、次々と動かなくなっていく。
(……気付かれる)
 容易くギーシュのゴーレムを排除したオーク鬼は、その醜悪な面を怒りの色に染め上げている。
 奴等の嗅覚は人のそれを遙かに凌駕する。
 多少の距離など物ともせずに、オーク鬼はこちらの位置を特定するだろう。
 その前に奴等を確実に排除する必要がある。
 呪文を詠唱―――掛け合わせる属性は三つ。“水”が一つに“風”が二つ。
 タバサのもっとも得意とするトライアングルスペル、“ウィンディ・アイシクル”だ。
 空気中の水蒸気が凍結し、手負いのオーク鬼を囲むように数十本もの氷の楔が出現する。
 次の瞬間、それらが一斉に獲物目掛けて襲い掛かり、オーク鬼は一瞬で絶命した。
 間髪を容れず、キュルケの唱えた“フレイム・ボール”が別の敵を焼き尽くす。
 だが、彼女達の効果的な攻撃もここまでだった。
 強力な呪文は連発出来ない。ラインは兎も角、ドットの呪文では生命力の強いオーク鬼に致命傷を与えることは出来ないのだ。
 敵の数は十体。今は二体減って、八体のオーク鬼が周囲に視線をめぐらせている。
 その時、鼻をひくつかせる彼等の眼前に、二つの影が飛び出した。
 キュルケの使い魔・フレイムとルイズの使い魔・ダンケである。
 威嚇するように口から炎の息を吐き出すフレイムとは対照的に、黒衣の青年は無表情のまま異形の怪物を見詰めている。
 流れるような動きでオーク鬼を翻弄するダンケ。
 一切無駄のないその身のこなしは、彼が潜った場数を雄弁に物語っていた。
 敵の攻撃を紙一重で見切り、同士討ちに追い込むやり方は一歩間違えば自分の命を失う可能性を孕んでいる。
 思い返してみれば、ダンケの戦法はその全てが我が身を晒して成すものだった。
 自分の技量に余程の自信があるのか、もしくは……。
(仲間を失うのを恐れているか、のどちらか)
 彼は言った。
 魔王との戦いで多くの仲間を失った―――と。
 その経験が彼に暗い後悔の念を植え付けているのではないか、そうタバサは思った。
 我が身を囮にする戦い方も、これ以上辛い想いはしたくないという一心で身に着けたものなのかもしれない。
 目には映らぬ仮面を被り、その裏で青年は深い後悔と哀しみを抱えて声なき悲鳴をあげ続けているのかもしれない。
(ダメ。集中)
 所詮は推測だ。確証はない。
 今は目の前の出来事だけに意識を集中させるべきだ。
 思考を切り替え、狙いを定めて呪文を詠唱する。
 そうしている間にも、オーク鬼と使い魔達の戦闘は継続していた。
 フレイムと組み合っていた一体がダンケによって体勢を崩される。
 その隙にサラマンダーが炎を吐き掛け、ついに残るオーク鬼は一体になった。
 背後から青年に襲い掛かった一体はしかし、あっさりと彼の剣の餌食となる。
 あのオーク鬼は彼がわざと背を向けていたことに気付いてすら居ないだろう。
それは野生の獣ですら気付けないほど、青年が自身の殺気を覆い隠す術に長けているというなによりの証明だった。
 手首を失ったオーク鬼に、タバサとキュルケの詠唱した魔法が無慈悲に喰らい付いていく。
 最期の声をあげる猶予もなく絶命するオーク鬼。
 全ての敵が排除されたことを確認し、シルフィードが待機していた高空から降りて来る。
 その背にはルイズとメイドが乗っていた。
 シルフィードが戦闘から外れていたのは、彼女が傷付いてしまったら歩いて帰る羽目になる為。
 メイドは戦闘で役に立たない為。
 ルイズは失敗魔法の威力こそ強力だったが、命中率の低さから戦列から外されていた。
 驚くべきは、彼女がこちらの言い分に素直に従ったことか。
 最初こそ反発していたものの、キュルケが「ダーリンを爆発に巻き込まない自信はあって?」と問うたら呆気なく引き下がったのである。
 これにはキュルケだけでなく、タバサもびっくりした。但し、ダンケだけは納得するように頷いていたが。
 身を潜めていた木から離れ、ダンケ達の居る地点へ移動する。
 青年は大剣に付いたオーク鬼の血を眺め―――はっきりと顔を顰めていた。
 彼が感情を露にすること自体稀だというのに、あそこまで明確に嫌悪感を表に出すのはタバサの知る限りこれが初めてだった。
「やはり俺には……この道しかないのか」
 木の葉で剣に付着した血を拭い、淡々と青年が呟いた。
 どれだけ戦から、血から離れようともがいても結局はこの道に引き戻される。
 いっそのこと、感情がなくなってしまえばこんな苦しい思いをしなくても済むんじゃないか―――?
 それは、タバサが幾度となく抱いた疑問であった。
 降下するシルフィード―――その背に乗っている二人の少女を見詰めているのだろう。
 青年は寂しげに目を細め、自嘲気味に零した。
「……眩しいな」
 かざした掌には、彼にだけしか見えない血がこびり付いているとでも言うのか。
 誰かの血で汚れてしまった手を持つ自分とは違う。
 一切の汚れを知らない少女らと自分を見比べ、搾り出した言葉がそれだったんだろう。
 皆が彼の強さに憧れる一方で、彼もまた光に生きる皆のことを羨ましく思っているのかもしれない。
「哀しい人」
 呟き視線の先では、キュルケに抱き付かれた青年が拳を握り締めている。
 人と触れ合う度に、その距離が近付く度に、彼は失うことに対する恐怖と戦い続けているのだろう。
 一切の関わりを断ってしまえば楽なのだろうが、優しい青年の心根がそれを良しとはしないのだ。
 今まで青年の強さにだけ目を向けて来た。
 その圧倒的な戦闘技術に目が眩み、過程にまで目が行かなかった自分に腹が立つ。
 最初から強い人間などこの世には居ない。そのことを自分自身が誰よりも理解している筈だった。
 魔法を始めとする先天技能を有していないのならば尚更だ。血の滲むような鍛錬の果てに、辿り着いた彼だけの境地。
 微かに震えるその拳に、タバサは二周りほど小さい自分の掌をそっと重ねた。
「大丈夫?」
 口にして、なんて馬鹿なことを聞いてしまったんだろうとタバサは後悔した。
 平気なわけがない。辛くない筈がない。
 自分が感情を内に押し込め、表情を凍て付かせているように、彼もまた……。
 青年は彼女の問い掛けに力なく頷いた。
「……何とか、な」
 搾り出した声音はあまりにか細いものだった。
 戦う度に、剣を振るう度にダンケの心は悲鳴をあげている。
 折れそうな心を強靭な精神力で繋ぎ止め、彼は主と新たな仲間を守る為に血に塗れた剣を振るう。
 恐らくは青年の主も気付いていないだろう、彼の心の闇。
 それに少女が勘付くことが出来たのは、ひとえに自分も心に闇を飼っているからに他ならない。
 自分と彼との大きな違いはその闇を受け入れて尚、前を向いて歩いているか否かだろう。
 茨の道を素足で進むように、ダンケは傷だらけになりながらも仲間を守る為に“未来”を信じて歩いている。
 復讐を思い描き、過去を―――後ろを振り返りながら歩く自分とは対極の生き方。
 なるほど……強い筈だ。この青年のような生き方、自分には到底出来そうにはない。
 ―――それでも。
 彼は言った。使い魔としてではなく、ダンケとしてタバサの力になると。
 ならば、それはこちらにも言えること。
 出来得る限り、この優し過ぎる青年の力になりたい。
 手を重ね合わせたまま、タバサは小さく誓いの言葉を口にした。
「わたしが守るから」
 その声に青年は一瞬きょとんとし、ほんの少しだけ寂しそうに微笑むのだった。


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この記事のコメント
感想で~す。
タバサからの誤解されっぷりが相変わらず凄い……。 「茨の道を素足で進むように、ダンケは傷だらけになりながらも仲間を守る為に“未来”を信じて歩いている。 復讐を思い描き、過去を―――後ろを振り返りながら歩く自分とは対極の生き方」というタバサとダンケの心境のギャップが面白い。 次回も期待しています。
2010-01-16 Sat 11:15 | URL | ベリウス #VSnRaRv6[ 内容変更]
周囲から見るダンケは本当にカッコイイな~
「自分とは対極の生き方」……か…、確かに「対極」だな。

次回も楽しみにしています。
2010-01-16 Sat 13:05 | URL | asakura #-[ 内容変更]
No title
相変わらず、タバサ視点のダンケは無闇やたら格好良いですね(笑)
このまま「悲しい過去を背負いながらも仲間の為に足掻き続ける英雄」路線を突っ走って欲しいですが、公平を期するためにも他のヒロイン達と意見交換して貰いたいかと。
2010-01-18 Mon 01:59 | URL | shahil #GOb6M/sw[ 内容変更]
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