ネクオロでした
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リリ勘。番外編。その一。
2010-01-24 Sun 23:19
リリ勘。番外編。狐さん登場。そして、仮面の戦士が舞い降りる。

サルベージしたものなので誤字がそのままになっている可能性があります。気付き次第、時間を見付けて修正していきたいと思っておりますので御了承くださいませ。
「パワーアップ?」
『はい。来るべき脅威に備えて一度BJを再構築しておこうと思いまして』
 一連の事件も無事に解決し、俺も一介のフリーターに戻って一週間ほど経ったある日。
 唐突にガルウイングがそんな恐ろしいことを言い出した。
 口を付けていた麦茶のペットボトルを机の上に置き、畳んだハンカチの上に乗っかっている灰色の宝玉を半眼で眺める。
「あのな、ここはアルハ……とかじゃなくて海鳴市だぞ? わけの分からん事象とはかけ離れた―――かけ離れた……」
 脳裏を過ぎる桃色の閃光と金色の雷光。
 ドラ○エから出てきたような人面樹に、ベ○ード様、願いを歪んで叶えるどこぞの聖杯っぽい青い石。
 そのどれもが俺の知る現実と真っ向から対峙するようなものばかりだった。
「……まあ、あれだ。使うようなことはないと思うが、一応準備だけはしといても罰は当たらないだろ」
『仰るとおりです。今まではマスターの技量で補ってなんとか乗り越えてきましたが、これからはそうはいかないでしょう。敵は以前よりも増して強大です。その為にBJの強化、ブースト魔法の改良は必要不可欠だと判断致しました』
「今、すごく嫌な単語を耳にした気がするなぁ。敵とか強大とか。つか、まだ終わっていなかったのかよ」
 ガックリと肩を落とし、重い息を吐く。
 何度も死ぬような思いをして、酷い時は本気で死に掛けて、やっとかっと手に入れた平穏は意外とあっさり壊れてしまうものらしい。
 いざとなったらなのはちゃん―――のご家族に頼るとしよう。
 つい最近知ったことだが、彼女の家は難しい名前の付いた武術の流れを汲んでいるのだとか。
 お父さんとお兄さん、あとなのはちゃんのお姉さんも武術家らしく相当に強い……と聞いた。
 確かに一度、なのはちゃんに連れられてお店の方に行った際、お父さんとお兄さんはやたら鋭い目付きで俺を睨んでいた。
 あれはきっと、俺のことを道場破りだと警戒していたからに違いない。
 なのはちゃんのお母さんになにか言われたあとは普通に接客してくれたし、俺の在らぬ疑いは晴れたのだろうが……正直なところ半端なく怖かった。
 生きた心地がしないというのは、正にあのような状況のことを言うんだろう。
『ですのでマスター、これをどうぞ』
「……なにこれ?」
 灰色の宝玉が光を放ったかと思えば、机の上には長方形の箱が一つ乗っかっていた。
 少し大きめのトランプを入れるようなそんな箱である。
 表面には見たことのある魔法陣が描かれ、側面にはボタンまで付いている。
 材質は少なくともプラスチックとかではないらしい。生暖かい金属とか……やめろよ。
『しばらくの間、私の本体は使用不可能になりますので、そちらでBJの展開及び魔法の使用を補助致します。旧型故に少々サイズは大きいですが、何卒ご容赦を』
「サイズ云々以前に、こんなのどうやって使うんだ? 取り扱い説明書とか付いてないの、これ?」
『使用法については、これを御覧になって頂ければ一目瞭然かと』
 もう一度宝玉が瞬く。
 虚空にウィンドウが開き、日曜の朝に放映していそうな―――いや、明らかに放映している映像が流れ始める。
「あー、そういうことか。そりゃあ、文字を読むよりも実際に見た方が覚えは早いだろうけどさ」
『BJのデザインはこの番組の一号を参考にしました。それから、これもどうぞ』
 ガルウイングがそう言い終えると同時に、箱の側面が開いて一枚のカードが飛び出してくる。
 さすがにデザインは例の番組とは違うようだ。
 裏面は銀一色。イラストどころか文字すら書かれていない。
 この歳で変身ヒーローっていうのもアレだからなぁ―――とか思いながらカードを引っくり返し、愕然とした。
 よりによってこの絵柄が出るとは……。
「一号……そういうわけか。なぁ、もちろん武器は銃だよな? 遠距離攻撃だよな!?」
 夢にまで見た遠距離攻撃。
 安全な位置から一方的に敵を狙撃して倒す。それこそが俺の本来の戦い方、の筈だ。
 ブレーキなしの特攻攻撃とか、あまりに非人道的すぎる。
『残念ながら、そこまで再現することは出来ませんでした。仮に出来たとしても、マスターの魔力では数発撃ったあたりで魔力切れを起こしてしまいますし。やはり、ここはマスターお得意の小細工一切なしの殴り合いで頑張って頂く他ありません』
「そーだろうと思ったよ!」
 吐き捨てるように言って、箱をジーンズのポケットに突っ込む。
 どうせなにかに巻き込まれるのだというなら、護身用グッズを持っていかぬわけにはいくまい。
 ケースの角が太ももに当たって地味に痛かった。
「そんじゃあ、バイトに行って来る」
『世を忍ぶのも大変ですね、マスター。それでは、お気を付けて』


 相変わらず誤解しているガルウイングをアパートに残したまま、角ばったポケットを擦りつつバイト先へと向かう。
 新型BJのプログラミングには少なくとも三日は掛かるのだとか。
 その間、このどこかで見たことがある代物を持って生活しなくてはいけないと思うと果てしなく憂鬱だ。
 このデバイス(?)はあくまで予備という扱いらしく、本体のように自由に口を利いたりは出来ない仕様らしかった。その点は実に素晴らしいと思う。
 いつものように公園を抜け、バイト先へ急ぐ。
 滑り台一つと砂場しかない小さなこの公園で、俺とアイツは出会った。
 その後、色々あって死にそうな目に遭って血を流して―――とまあ、普通の人が一生の内で遭遇するだろう苦難の倍以上を三ヶ月程でまとめて味わってしまったわけだが、なんだかんだ言ってこうして五体満足で帰って来れた俺は意外と運が良いのかもしれない。
「願うことなら、安穏とした余生を送りたいもんだ。うん、マジでそう思う」
 見上げた視界は鉛色一色。
 それはあたかもこの先の俺の末路を示しているようだった。
 ―――冗談じゃない。


 バイトが昼休憩に入ったので、お湯を注いだカップメンを手にあの公園へ向かう。
 遊具の数こそ少ないが、周りは木々に囲まれているので子供が遊ぶには申し分ない場所だろう。
 ただ、最近は外に出ない子供が増えているのか、少なくとも俺がここで子供の姿を目にしたのはたった数回。それもベンチに座って携帯ゲーム機に熱中する姿だけだった。
 それを寂しいと思うようになったのは、俺が歳を取ったからか。
 いつも購入しているカップラーメンは売り切れだった。
 仕方なく、代わりに新商品という触れ込みで大量に並べられていたカップ蕎麦を買ってみたが、果たして凶と出るか吉と出るか。
 五分待ってから蓋を開け、パック詰めされている油揚げを若干伸びてしまった麺に載せ―――ようとしたところで、茂みの置くから覗く一対の視線に気が付いた。
「…………」
 口の開いたパックを片手に硬直する俺。
 目の前の茂みは、小学校低学年の子供がしゃがんで隠れることがギリギリ出来るか否かといった大きさだ。
 子供が隠れている可能性は……まあほぼないだろう。
 となると、犬か猫か狐か狸か。
 ここ―――海鳴市は自然が豊かなことで有名な町。
 それを証明するように町の至るところに木々が茂っている。
 例の厄介な宝石が大木を素体に暴れることが多かったのも、それが原因かもしれない。
 その為、町を散歩しているだけでもそこそこの確率でこういった動物達と遭遇するのである。
 試しに油揚げパックを右へとずらせば、視線もついとそちらに動く。
 今度は油揚げを割り箸で摘み、口元へ運ぶ素振りを見せてみる。
 すると茂みがガソゴソと動き、「くぅん」と悲しそうな鳴き声が聞こえた。
 少しばかり分かり易すぎる気もするけど、これは……獣で確定だな。
 狐蕎麦にはお揚げが必要不可欠。
 とは言え、空腹に苦しむ小動物を放っておけるほど薄情な人間じゃない。
 実家で猫を飼っていたこともあって、こう見えて動物には優しいのである。
 未だにウチの猫は俺に懐いてくれていないけれど。
 箸で摘んだ揚げを放り投げようとして、思い留まる。
 いくら相手が野生動物と言っても、砂地に揚げをそのまま置くというのも如何だろうか、と。
 まだ蓋って残っていたっけ?
 そう考えカップ麺の入っていた袋を漁っていると、茂みから一際大きく葉の擦れる音が聞こえた。
 視線を戻せば、そこには一匹の子狐が茂みから顔を覗かせていた。
 太陽の光を反射してキラキラと光を放つ金色の毛並み、尖った耳の先端だけ黒く染められ、くりくりとした愛らしい瞳が一心に俺―――じゃなくて揚げに注がれている。
 恐らくは、揚げに気を取られてしまってついうっかり顔が出てしまったのだろう。
 自分の状況がいまいち理解出来ていないのか、引っ込もうともせずに油揚げを見詰め続ける子狐。
 これ以上蓋を探していてもこの狐をやきもきさせるだけなので、妥協案として俺の座っているベンチの一番端っこに揚げを置いてみる。
 野生の獣は人間の姿を見ただけで逃げ出してしまうものなのだが、どうやらこの子狐はある程度人に慣れているらしかった。
 おっかなびっくりしながらも、油揚げの魅力には抗えないのか見えないロープで引き摺られるようにしてじりじりと近寄って来る。
 そしてそのまま待つことしばし。
 五分程の時間をかけてベンチの脚に到達した子狐は、獣特有の軽快な動きで跳躍。
 少し離れた位置に座している俺を警戒しつつ、何度か鼻を鳴らして油揚げの匂いを確かめたあとかぶりついた。
 むしゃむしゃとおいしそうに食べるその姿に、バイトでささくれ立っていた俺の心が少しずつ癒されていく。
 まあ、俺の昼食が掛け蕎麦になった代わりに、この狐のお腹が膨れると思えば安いもんか。
 ウチの猫もせめてこの狐くらいの距離まで近寄ってくれたらなぁ。
「とりあえず、お前が野生の狐でないことだけは分かった」
「…………」
「あ……いや、ごめん。別にお食事の邪魔をしようと思ったわけじゃないです。ただの独り言なので、気にしないでください」
 何故か狐に見詰められて謝ってしまった。
 俺の中の何かがこの狐には逆らうなと叫んでいる。
 実際、野生の獣って追い詰められると何をするか分からないから怖い。
 ここは素直に本能に従っておくとしよう。
 だいぶ伸びてしまった蕎麦を急いですすり、重い腰をあげる。
 びくりとする狐の姿に苦笑しながら、ゴミを袋の中に突っ込んだ。
「まあ、もう会う事もないだろうけど元気でやれよ」
 本来、狐は警戒心の強い生き物だ。
 今日は空腹に耐えかねて姿を晒してしまったものの、一度餌を貰ったからと言って警戒を解くほど単純な思考はしていないだろう。
 だから、俺とこいつが面と向かって会うのはこれが最初で最後。
 少し寂しい気持ちを胸に抱きつつ、俺は出会いの公園をあとにした。
 それから三日ほど経って。
「お前、本当に狐か?」
「くぅん?」
「……やっぱり狐だよなぁ」
 いつもの公園でベンチに腰掛ける俺の隣には、例の子狐が丸まっている。
 単刀直入に言おう―――フラグが立った。
 なんという期待出来ないフラグ。
 相手が人間の女性ならば兎も角、狐さん相手に旗を立てていったい俺はなにをしたいのだろう?
 狐は警戒心の強い生き物だが、同時にとても賢い動物だったらしい。
 自分よりも弱そうで、且つおいしい餌を運んでくる子分を得たとでも思っているのかもしれない。
「昔から、狐には変化の力があると云われている。つまりだ。お前もその気になったら人間になれるんじゃないか? ほれ、試しに頭にこれ乗っけて頑張ってみろ」
「くーん」
 青々とした葉を子狐の頭に乗っけるも、すぐに振り落とされてしまった。
 迷惑そうな視線を注がれ、やはり反射的に「ごめん」と言ってしまう。
 というか、この狐も色々とおかしいが、俺はそれに輪をかけておかしいじゃないか。
 いくらなんでも狐が人間に変化するわけないだろ、ここはSFの世界じゃなくて現実の……現実の……。
 まあ―――アルフはアッチ(SF)側の人だから。俺のシマじゃアッチはノーカンだから。
「じゃあ、俺はバイトに戻るから。今度会う時までにしっかり変化出来るようになっておけよ」
「くぅん」
 普通に首を横に振られてしまった。
 こいつ、もしかしなくても人語を解していないか?
 狐は賢い動物らしいから言葉の一つや二つ分かってもおかしくない……おかしくないの? 
「俺が思っている以上に、この町は未知の要素が多いのかもしれん」
「くぉん?」
「いや、そうやって首を傾げたりするから余計に困惑するんだって。まあ、お前が狐だろうがなんだろうが、俺に実害がないなら別にいいけどさ。俺に出来ることと言えば、こうやってお前に揚げをやることぐらいだし」
 狐用に買っておいた一枚50円の油揚げを袋から取り出す。
 それの封を開けようとしたところで、狐がその愛らしい瞳で俺の顔を凝視していることに気が付いた。
「…………」
「…………」
「……分かった。分かったから。匂いで分かるのか、それとも気配で分かるのか」
 一枚50円の揚げを袋に戻し、その代わりに一枚98円の揚げを取り出す。
 袋を破り、その上に中身を乗せてベンチの上に置くと、子狐は嬉しそうに食べ始めた。
 50円ので満足してくれれば家系的に助かるんだがなぁ。
「お前も少しくらい野生に目覚めたって―――どした?」
「…………」
 くわえていた油揚げから口を離し、狐がベンチから飛び降りる。
 そして、今まで見せたことのない俊敏な動きで俺の前に立つと、なにかと対峙するかのように俺に背を向けた。
 姿勢を低くし、威嚇の声をあげる子狐。
 俺も狐と同じ方向に目を向けてみるものの、そこには小さな砂場があるだけだった。
 ―――お化けでも居るのか?
 冗談混じりでそう言おうとして、耳朶を打った砂を踏み締める音に体を硬直させる。
 誰も居ない筈の砂場。
 その中央に足跡が刻まれていた。
 姿は見えないが、音が響く度に砂が跳ね上がり、新たな足跡が生み出されていく。
 それはゆっくりと、俺達の方へ近付いてきていた。
「ま、またか!? またジュエルシードなのか!?」
 普通の樹を人面樹に変異させるような代物―――ジュエルシード。
 願いを叶えるというそのインチキ臭い宝石は、魔法少女達の奮闘によって全て回収された筈だ。
 一個だけ残っていたか、もしくは別のなにかか?
 どっちにしろ厄介な代物が出て来たことに変わりはない。
 悪霊という可能性もゼロじゃあないけど……いやいや魔法だろ、ステルスとか普通にありそうで怖い。
 兎に角、まずは逃げよう。
 そこまで思考が至った時、子狐が俺の足に体当たりをかましてきた。
 体重は明らかにこちらの方が重いにも関わらず、何故か一メートルほど吹き飛んで尻餅をつく。
「な、なにをする」
 ―――んだ!?
 そう言おうとした直後、空気の弾けるような音が響いて唐突にベンチが爆ぜた。
 狐に体当たりされていなければ、バラバラになっていたのは間違いなく俺の方だっただろう。
 パラパラと元ベンチだった木片が降り注ぐ。
 わけが分からず呆然とする俺を尻目に、子狐は声を低くし唸り声を発していた。
「なに……今の」
 俺の知っている魔法攻撃には全てなんらかの色が付いていた。
 だからこそ、避ける―――ことは無理でも心構えくらいは出来たのだ。
 ところが、目の前に居るだろうこいつは透明なまま透明な攻撃を放ってきた。
「……チートすぎるって」
 よろよろと立ち上がり、ポケットに手を突っ込む。
 気配で敵の攻撃を避けるなんて芸当、俺に出来るわけがない。
 逃げようにも、背を向けた直後に先の攻撃を受けてしまえば一溜まりもない。
 ならば、今の俺に取れる行動はたった一つ。
 掴み取ったケースに、例の絵柄が描かれているカードを差し込む。
 今ほどあの番組を視ていて良かったと思ったことはない。
 もしかしたら、それを見越した上でガルウイングはこのアイテムを用意したのかもしれないが。
「狐、離れてろ!」
 俺の記憶通りならば、俺の正面に居る狐は巻き込まれる可能性があった。
 ステルス野郎は既に砂場を踏破し、砂地を悠然と歩いている。
 余裕の表れか、ただ走ることが出来ないだけか。
 出来ることなら後者だと非常にありがたい。
「―――って思った直後に走って来るなよ!?」
 目の細かい砂が跳ね上がり、足跡が増えていく。
 その速度は先よりも数段階ほど速かった。
 明らかに疾走です本当にありがとうございました。
「えっと、これをこうして……こうだっけ!? いや、こうだろ!?」
 あたふたしながら、カードを収めたケースを腹に押し当てる。
 直後、ケースの側面から帯が伸び、自動的に俺の腰に巻き付いて締め上げる。
 い、痛いって……。
 と、兎に角、これで準備は完了した筈だ。
 あとは、ケースに付いているこのレバーっぽいものを引けば―――
「変身!」
『―――Set up!』
 ケースの前面が回転し、俺が呪文を発動する際に浮かび上がる魔法陣の描かれた面が露になる。
 それと同時に、クワガタ“っぽい”イラストの描かれたゲートが数メートル前に出現。
 近付きつつあったステルス怪人を弾き飛ばす。
 目をきょとんとさせる狐の横を駆け抜け、俺はクワガタゲートを勢いよく潜る。
 自分ではよく分からないが、恐らくは仮面の戦士っぽい鎧が装着されているんだろうと思う。
 さあ、ここからが大変だぞー。
 そう考えていた矢先のことだった。
 ―――“オデノガラダハボドボドダ!”
 頭の奥になにか得体の知れないものが押し寄せてきたかと思えば、俺の意識は実にあっさり流されていくのだった。


 久遠は妖狐である。
 その瞳は人の目では捉え切れない悪霊の姿をしかと見据えていた。
 最初の内こそ黒いもやのような姿だったそれは、今では二本の足に二本の腕、背に六枚の翼を生やした異形に変異しつつあった。
 更にまずいことに、生前によほど強い未練を残していたのか、悪霊はじょじょに現実世界に干渉しつつある。
 仮初とは言え、一度肉体を持ってしまえばその討伐は非常に困難になるのだ。
 久遠は妖狐としては破格の力を有している。
 彼女がその力の一端を解放するだけで、この悪霊など容易く消滅させることが出来るだろう。
 だが、それではダメなことを久遠は知っていた。
 目の前の霊は激しい憎悪だけでなく、深い哀しみも抱いている。
 自分と同じように、愛する者を失った哀しみを。
 力で強引に捻じ伏せるだけではなにも変わらない。
 この霊を呪縛から解き放ち、救ってやりたいと思ったからこそ久遠は迷っていた。
 彼女が人気の少ない公園にこの数日間居たのは、霊の様子を見守る為だ。
 そんな久遠にとって想定外だったのは、自分に油揚げをくれる人間が現れたことだった。
 出来ることならば、この公園に足を踏み入れてほしくはなかった。
 霊―――特に悪霊と呼ばれる存在は、生きている人間を妬み、恨む傾向にあるからだ。
 かといって、大切な人達に普通の狐として振舞うよう言われている久遠に出来ることは少ない。
 結局出た結論は、餌をくれる人間―――大樹の側に居ることであった。
 そして、大樹と共に昼食を食べるようになって四日後、ついに彼女の恐れていた出来事が起こってしまう。
 負の力を溜め込んだ悪霊が最悪のタイミングで実体化してしまったのだ。
 霊が大樹を攻撃しようとしていることに気付いた久遠は、小さな体に霊力をまとって体当たりすることで彼の危機をなんとか救うことに成功する。
 霊力を持っていない大樹の目には、突然ベンチが爆発したように映ったであろう。
 しかし実際は、極限にまで凝縮された霊力を弾丸のように飛ばして攻撃したのだ。
 ジリジリと迫る悪霊を前に、久遠は力を使って戦うことを決断する。
 この霊の未練を断ち切り、輪廻の輪に戻してやるには未練の元を突き止める必要があった。
 それが出来るのは退魔師と呼ばれる特殊な力を持った系統のみ。
 それ以外の手段でどうにかするとなれば力押しで強引に消滅させるか、もしくは霊と同じ苦しみを持つ者の手によって憎しみの連鎖から解き放ってやるしかない。
 心の中で本当の意味で助けてやれないことを詫び、力を雷へ変換させる。
 その時、予想していなかった大樹の声が久遠の耳に届いた。
「狐、離れてろ!」
 反射的に久遠は振り返る。
 視線の先で、大樹は叩き付けるようにして自分の腹にカードケースのような物体を押し付けていた。
 どういう原理かは知らないが、ケースからベルトが伸びて腰に巻き付く。
「変身!」
『―――Set up!』
 腰に巻いたベルト―――そのバックルが回転し、幾何学模様の描かれた面が露になる。
 次の瞬間、久遠の真横に半透明のゲートのようなものが浮かび上がっていた。
 実体化しつつあった悪霊がそれに突っ込むものの、呆気なく跳ね飛ばされる。
 驚きに目を丸くする彼女を尻目に、大樹がゲートを走り抜けた。
 赤いスーツの上に装着されていく白銀の装甲。
 頭部を覆う仮面にはクワガタを彷彿させる二本の角が生えており、鮮やかな翠色の複眼が眼前の敵を厳しく見据えている。
 ただの人間だと思っていた人物が奇怪な姿に変わったことに戸惑う久遠。
「うおおおおっ!」
 大樹―――いや、仮面の戦士は拳を握り締めると、猛然と悪霊に殴りかかった。
 実体化している今の霊にはある程度の物理攻撃も通用する。
 そのことを知っているのか、戦士は何度も拳を振るい、着実に悪霊を追い詰めていた。
 油揚げを久遠にあげていた時の彼とはまるで違うその姿。
 なにより彼女を困惑させていたのは、あの青年もまた深い哀しみをその身に宿していることだった。
 愛する人を喪った深い哀しみ。苦しみ。
 それが戦う姿を通してはっきりと伝わって来る。
 これほどまでの想いを内に宿して尚、大樹はあのような振る舞いを見せていたのだろうか?
 いったいこの青年は、どれだけ分厚い仮面で心を覆っていたのだろう?
「……君との思い出は数えるほどしかないのに」
 悪霊の拳を胸部のプロテクターで受け止め、左右の拳でボディブローを叩き込む。
 その衝撃に悪霊は堪らずたたらを踏んだ。
 だが、戦士の攻撃は終わらない。
 一度でも手を止めてしまえば、心が折れてしまうのを知っているかのように。
「君を思い出させるものは……数え切れないほどある。そしてなにより……なにより―――君の笑顔が忘れられない」
 よろける悪霊の右腕を掴んだまま、その頭部目掛けて仮面の戦士は拳を何度も叩きつけて行く。
 傍から見れば、それはあまりに一方的な戦いだった。
 悪霊の攻撃はことごとく無効化され、それに対して仮面の戦士の鉄拳は着実に敵にダメージを与えている。
 だが、妖狐である久遠の耳にはしかと届いていた。
 血を吐くように紡がれる贖罪の言葉が。
 拳を振るう度に、蹴りを繰り出す度に戦士は哀しみの叫びをあげている。
「遅いかな……今頃になっていうのも。俺は……俺は―――」
 戦士は自嘲気味にそう呟く。
 一瞬の隙を突いて悪霊が掴まれていた右腕を振り解く。
今度は逆に掴みかかろうとするものの、再び顔面にパンチを受けて大きく体勢を崩してしまった。
 仮面の戦士は体を回転させて蹴りを放ち、悪霊を吹き飛ばす。
 その時に発した彼の言は、久遠に大きな衝撃を与えることになる。
「俺は―――君が好きだった! 君のことを大切に想っていた!」
「―――っ!」
 久遠が目を見開く。
 脳裏を過ぎるは、かつての自分の記憶。
 それはあまりに哀しい告白だった。
 ―――今から300年ほど前。
 売薬商の少年と恋に落ちた一匹の狐が居た。
 彼女は愛する者を殺され、その身を復讐に焦がす道を選んでしまう。
 今でこそ祟りから開放されているものの、愛する人を喪失する哀しみは今尚少女の心に残っている。
 だからこそ。
 久遠は大樹の姿を直視することが出来なかった。
 彼は今、自身の手で愛する者を殺そうとしているのだ。
 彼と悪霊になってしまった女性との間になにがあったかは分からない。
 ただ、大樹が心の底から女性のことを愛していたことだけはひしひしと伝わって来る。
 辛いだろう。苦しいだろう。悔しいだろう。
 既に死んでいるとは言え、自分の愛する者を手にかけなければいけないなんて……哀しすぎる。
 ―――アァァァアアア。
 悲鳴のようなものをあげ、悪霊が両膝をつく。
 その姿を一瞥し、戦士は―――大樹は虚空に手を伸ばした。
 引き抜かれた腕―――その指の間には三枚のカードが挟まっている。
 それを腰のバックルに一枚ずつ、彼女との思い出を噛み締めるように挿入していく。
『DROP』
『FIRE』
『GEMINI』
 バックルに収まった三枚のカードから力が溢れる。
 大樹の体に三つの魔法陣が吸収されると同時に、その両脚に紅蓮の炎が灯った。
 久遠の知る霊力とは違う、異質な力が収束していく。
『BURNING DIVIDE』
 人工音声が無情にも決別の時を告げる。
 掲げた右拳を握り締め、両足を揃えて大樹はその身を宙に躍らせる。
 体を空中で一回転させると、『GEMINI』の効果によって同じ動きをする分身が一体出現した。
 そして、戦士は自らの手で終止符を打つ―――最愛の人の名を叫びながら。
「小夜子―――っ!!」
 空中で体を180度捻り込み、分身と同時に蹴りを叩き込む。
 炎の力で強化されたその一撃は悪霊の体を木の葉のように吹き飛ばした。
 倒れ込み、光の粒子となって消えて行く悪霊……だった女性の霊。
 久遠は見た。
 完全に消える直前、女性がその顔に優しい笑みを浮かべていたのを。
 女性は愛する者の手によって未練から解き放たれ、無事に輪廻の輪に戻ることが出来たのだ。
 光の残滓が舞う中、仮面の戦士は一人で立ち尽くしていた。
「……小夜子」
 両拳を硬く握り締め、天を仰ぎ見る。
 無骨な仮面で隠れていて表情は窺えないが、その背中が彼の心中を如実に語っていた。
 バックルを取り外す。光のゲートを潜った大樹は元の姿に戻り、人気のない公園は再びいつもと同じ静けさを取り戻した。
 この場所にもう二度と彼女が現れることはない。
 一人の青年の哀しい戦いは、こうして終わりを告げるのであった。


 意識を取り戻した俺は、カードケースを手に公園で立ち尽くしていた。
 どうやら、あのステルス野郎はどこかへ行ってしまったようだ。
 まあ、この町には恐ろしい人達がゴロゴロ居るから、あとはその人達に任せておけば大丈夫だろう。
 カードケースをポケットに仕舞い、溜め息を吐く。
 なんだか知らないが、やたらと喉が痛い。体の節々も痛い。
 首を上げれば、公園に設置されている時計が残酷な現実を告げていた。
「普通に昼休憩が終わっている件について」
 まさかSF的な生物に絡まれていましたとは言えないし、俺に残された道は謝り倒すという一択のみである。
 沈み切ったテンションのまま公園を立ち去ろうとした時、足になにかが擦り寄って来た。
 ステルスが戻って来たのかと身を硬くすれば、あの子狐が鼻を鳴らして俺を見上げている。
 どういう心境の変化か、やたらと体を擦り付けてくる狐。
 こいつの顔を見て、俺は思い出したことがあった。
 そうだ。俺ってこの狐に命を救われたんだった。
 こいつが体当たりしてくれていなければ、あの時の俺はバラバラになっていた筈だ。
 なにかお礼はないものかと視線を巡らせ、落ちているスーパーの袋に気が付く。
 足にまとわりつく狐を踏まないように注意しつつ袋に近寄り、拾い上げる。
 高い方のお揚げはベンチと一緒に吹き飛んでしまったが、こちらはまだ無事なようだ。
 50円の揚げの封を開け、俺は苦笑しながら子狐にそれを差し出した。
「悪いな。今はこれで我慢してくれ。それと、助けてくれてありがとう」
 狐の頭を軽く撫でて立ち上がり、背を向ける。
 それじゃあバイトに戻ろうか―――。
 そう考え、足を一歩踏み出したその時だった。
「―――ん?」
 人の気配を感じて振り返る俺の目に映ったのは、紅白の巫女装束をまとった少女の姿だった。
 金の光沢を放つ長い髪を後頭部で一本にまとめ、その首には大きな鈴がぶら下がっている。
 その容姿の愛らしさもさることながら、一際目を引くのは少女の頭から突き出た獣の耳とチラリと見えるふさふさとした稲穂色の尻尾。
 その透き通った青い瞳で俺を見詰め、少女はにこりと微笑んだ。
「……ありがとう」
「……どういたしまして」
 呆気に取られるのも一瞬、そう言葉を返して歩き出す。
 まさか本当に変化出来るとは思わなかったけど、まあ……だからこそこの世界は面白いのかもしれない。
 幽霊やベ○ード様だって居るんだ。今更狐が人間になったからといってどうだと言うのだ。
 色々ありすぎて、異常なことを異常と思わなくなり始めた自分が居る。
「名前……。お前の名前はなんていうんだ?」
 背を向けたまま尋ねれば、たどたどしい言葉で「くおん」という答えが戻って来た。
 なるほど。くおん……久遠か。
 意味は確か“久しく遠いこと”だったっけ。
 で、久しく遠いってどういう意味なんだろう?
「ま、まあいい名前じゃないか。なんか響きがカッコいいしな」
「ん。……あなたは?」
「竹中大樹。通りすがりの―――魔法使いだよ」
 妙に馴れ馴れしい狐の態度に首を傾げつつ、再び背を向ける。
 このままここに居たら、なんだかまた厄介なことに巻き込まれそうな気がしてならなかった。
 さっきのステルス野郎の行方も地味に気になる。
 バイトは……まあ、なんとかなるさ。うん。なるといいな。
「おもいは……つうじたから。だから……それいじょう、くるしまないで」
「…………」
 ―――え?
 唐突になにを言っているんだ、この狐っ娘は。
 驚いて振り向けば、胸の前で手を組んで狐―――久遠は寂しそうに俺を見詰めていた。
 このパターン、魔法と関わっている時に嫌というほど体験した記憶がある。
 下手な言動は誤解を招くだけ。
 こういう時は淡々と言葉を返してこの場を立ち去るに限る。
 忘れちゃいけないのが、可もなく不可もなくといった曖昧な表情を浮かべることだ。
 要するに、お茶を濁したままにしておく、と。
「ああ。そうだな……」
 相槌を打ち、今度こそ本当に公園をあとにする。
 結局、あの狐はいったい誰の使い魔だったんだろう?
 そして、得体の知れないこの体の痛みはなんなのだろう?
 答えの見付からない問いを抱え、俺は怒られる為にバイト先へ戻るのだった。


『申し訳ありませんでした。マスターに渡していた予備デバイスなのですが、あれには致命的な欠陥があったのです』
 帰宅早々、ガルウイングの発した第一声がそれだった。
 こっちは心身共にボロボロだっていうのに、コイツは無駄に元気で困る。
「……うわぁ、聞きたくねぇ」
『どうやら、あのデバイスを使用するとBJのデザインを基にした人物の意識が自動的に使用者にダウンロードされるようです。それ自体は一時的なものなのですが……マスター、なにか体に異常はありませんか?』
「異常ない日がないから分からん。つか、そんな危ないもん渡すなって」
 実を言うと、今日の昼間―――狐と過ごしていた時間の記憶が曖昧だったりするのだが……黙っておこう。
 精密検査とかほざいて、怪しげな機械の中に入れ的なことを言い出しそうで怖い。
『異常がないとは流石ですね、マスター。普通ならば、骨の一本や二本折れていてもおかしくないだけの負荷がかかっていた筈なのですが。私、あらためて感服致しました!』
「……いいから話聞けよ」
 これは装甲を更に削り―――とか恐ろしいことを口走り始めた相棒に溜め息を一つ零す。
 ポケットを弄り、例のカードケースを取り出した。
 側面を開いて中のカードを確認。
 ―――なんか地味に増えているんですが!?
 最初は変身に必要なカード一枚だった筈だ。
 それがどういうわけか、今は計四枚になっている。
 俺が朦朧としている間にいったい何があったんだ?
 あと、中の絵柄が時折動いてものすごく不気味なんだけど。
『BJの再構成には今しばらくの時間が必要です。申し訳ないのですが、それまではその簡易デバイスとマスターの技量で凌いでください。私にも理解不能なバグがあったりするデバイスですが、管理局で量産されているデバイスよりははるかに強力な筈ですので』
「どうしてお前は安全よりも威力を優先するんだよ……」
 俺の受難はまだまだ続きそうだ。
 こんなものに頼ったから、俺は俺の―――俺の体はもうボロボロだ!



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コメント
ナイス勘違いと言わざるを得ない。
2010-01-27 Wed 02:05 | URL | 皐月 #aAuxo48E[ 内容変更]
No title
初書き込みさせていただきます。
完結したと思ったら番外ということでまた彼の雄姿を見れて嬉しく思います。
しかし、こうしてまた本人の知らないところで勘違いが加速してゆくw
2010-01-29 Fri 00:12 | URL | B-B #eAb5nx9M[ 内容変更]
久遠とダディ好きな俺には得過ぎる話でしたww
2010-09-30 Thu 17:00 | URL | 三龍 #/.OuxNPQ[ 内容変更]
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