ネクオロでした
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リリ勘。番外編。その二。
2010-01-29 Fri 00:27
リリ勘。二個目。

今回の主役はあの子です。難しいです。

さあ、次がいよいよヴィータ嬢ですね。


「―――俺に構うな! 君は嶋さんを探せ!」
「にゃあ!? し、嶋さんっていったいどなたでしょうか!?」
『DROP』
『FIRE』
二枚のカードをバックルの中央に設けられたスリットに通す。
 虚空に現れたのはクジラ、蛍の姿が浮かび上がる半透明のカード。
 それらが仮面の戦士―――D(ダディ)大樹の胸部装甲に吸い込まれていく。
 迷いを断ち切った翠の瞳が眼前の敵を睨み付ける。
 ―――バーニングスマッシュ。
 D大樹の両足に炎の力が収束する。
 力強く大地を蹴って跳躍。
 体を180度捻り込み、敵目掛けて必殺の蹴りを叩き込んだ。
 仰向けに倒れ、敵の蛇に似た意匠の施されたバックルが縦に割れる。
 すかさず、D大樹は裏面に幾何学模様、表面に無数の鎖の刻まれたカードを投げ放つ。
 それが敵の体に触れた瞬間、カードが眩い光を発し、動けぬ敵の体を飲み込んだ。
 回転しながら戻って来たカードを右手の人差し指と中指で挟んで受け止め、自分のベルトを外す。
 クワガタの姿が浮かび上がるゲートを通過したD大樹は哀しそうに空を仰いだ。


「……この現象にだいぶ慣れてきた自分が居ます」
「だ、大樹さん! 嶋さんっていったい誰なんですか!? さすがに顔も知らない人を探すのは難しいですよぉ!?」
「嶋さんは……君の心の中に居るよ」
 ワタワタしているなのはちゃんに色んな意味で泣きそうな笑顔でそう告げ、いざという時の為に待機していたユーノ君にカードを投げ渡す。
 正直、カードという存在自体にろくな思い出がない俺としては一秒でも早く手放したかった。
「は、はい! ご協力、ありがとうございました!」
 いたちモードでいながら、器用に前足を使ってカードを受け止めるユーノ君。
 ガルウイングは相変わらずメンテナンス中。
 なので、今日に限っては余計なことを言って誤解の輪を広げるようなことはない……と思いたい。
「そんじゃあ、俺はもう行くから。……あ、そだ。なのはちゃん」
「はい?」
 トコトコと寄って来るなのはちゃんにものすごく癒される。
 彼女の手にしている杖状のデバイス―――RHのコアが明滅すると、身にまとっていた白のBJが消失し、黄色のジャケットと青のスカートという普段着に戻った。
 この無駄のない一連の流れ、本当に羨ましいと思う。
 ガルウイングはやたらと煙が出るし、この謎のデバイスに至ってはなんか異様な気迫の感じる半透明の壁を潜らなければならないのだ。
 しかも後者はBJを装着していると意識がなくなるという素敵なおまけ付きである。
「そのカードに封印されていた魔導生命体ってのは今ので最後だったよね?」
 ジュエルシード事件が終結したあとも、なのはちゃんは魔法と関わる道を選択していた。
 とは言え、一介の小学生に過ぎない少女が扱うにはその力はあまりに大きい。
 そのことを考慮し、事件が終わったあともなのはちゃんは管理局の嘱託魔導士として身を置いていた。
 無論、彼女の責任者として名を連ねているのはリンディさんである。
 若くしてアース……例の白い戦艦の艦長にまで登り詰めている彼女は管理局の中でも結構な発言力を有しているらしい。
 その甲斐あってというかなんというか、俺も相変わらず管理局の協力者という扱いでアースラ班に名前が載っているようだ。
 ―――小さな親切、大きなお世話。
 最初はそう思っていたが、俺の存在が世間にバレてしまうと解剖される恐れもあると聞いた今となっては、ご先祖様と同系列でリンディさんを崇拝している。
 どうして俺が解剖されるかもしれないという理由は怖くて尋ねることが出来なかったので、未だに真相は闇の中だったが。
 恐らくはロストロギアに直接関わっていて、尚且つ、社会的にも能力的にも居ても居なくてもあまり影響がない人間だから……とかそんな非人道的な理由だろう。
「あ、ちょっと待ってくださいね。今確認するので」
 なのはちゃんがスカートのポケットからカードの束を取り出す。
 嘱託魔導士である彼女の元には―――いや、正確には彼女の側に居るだろう俺の元には、今のように月に何度か管理局からお仕事がやって来る。
 小学生の女の子に危ない仕事を押し付けない辺りは感心するが、だからと言って基本的に無力な一般市民を生贄に捧げるのはどうかと思う。
 迷い込む依頼は大抵が不法に破棄されたデバイスの回収だったり、質量兵器(要は鉄砲のことだ)を購入しようと企む輩の捜索だったりするわけだが、ごくまれに厄介な仕事が舞い込むわけだ。
 ―――凶悪な思考を植え付けられた魔導生命体の再封印とかね!
「そんなもん、ほいほいと逃がすなよなぁ。よそでやれ、よそで」
 狙ったかのようにこの町に奴等が解き離れたのは、もはや呪いとしか言いようがない。
 ユーノ君曰く、先の事件でこの世界のこの町と他の次元世界が繋がり易くなっているから……らしいけど、いや絶対に呪いだろ。
 一枚、二枚と数え始めた彼女を横目に、俺も箱型の予備デバイスから二枚のカードを引き抜いた。
 絵柄を見る限り、一枚は孔雀、もう一枚は蛇っぽいなにかのようだ。
 どうにもこのカードはトランプを基にしているらしく、孔雀にはJ、蛇っぽい方にはQと記されていた。
 どちらにせよ、気付いたらバックルの中に入っていた怪しげなカードだ。使わぬに越したことはない。
「ちゃんと十二枚あるから……今ので最後です。あとはこれをリンディさんに渡せば、今回のお仕事は終わりですね! お疲れ様でした!」
 十二枚か。これがトランプだったらもう一枚あるところだけど……まっ、さすがにそこまで鬼畜じゃないだろ。
「お疲れ~」
 手を振ってなのはちゃん達と別れ、家路に着く。
 相棒を拾うわ、ステルス野郎に襲われるわで嫌な思い出しかない公園をトボトボと歩く。
 だったら遠回りしろよとか陰口を叩かれそうで怖いが……これはもはや俺の習性に近い。
 もし今度酷い目に遭ったら二度と通るまい。そう決意したのは五日前だったか。
 その二日後、狐さんに出会ってしまったわけで。
 あ―――そうそう、狐さんの飼い主さんに会いました。可愛らしい女性でした。
 ただ一つ気になるのは、やたらとこちらを気遣うかのような発言をしていたことか。
 あとは……久遠がここまで人に懐くのは珍しいと言っていた。
 油揚げのおかげですと、真実を告げることが出来なかった俺は相当なチキンだ。
「ん?」
「……あ。こんばんは」
「こ、こんばんは」
 人など滅多に寄り付かない公園に、場違いな少女が一人ベンチに腰掛けていた。
 宵闇色の長い髪、同色の大きな瞳。
 身に着けている衣服と髪留めの白が、夜の帳に包まれつつあるこの場所で映えていた。
 それはそうと、この子とはどこかで会った気がするんだけど。
「えーっと、君はたしか……」
 谷崎―――。
「なのはちゃんの同級生の月村すずかです」
 ベンチから腰を上げ、ペコリと頭を下げる少女―――すずかちゃん。
 そう言えば、あの子用に翠屋にケーキを買いに行った時に一緒のテーブルで勉強していたような。
 合流するのが少し遅れたらしい金髪ツインテール少女の姿を遠目で確認出来た瞬間、即行で逃げ出してしまった俺は彼女の名を知ることもなかったわけだが、まさかこんな場所で出くわすとは。
「ど、どうも。竹内大樹です」
 慌てて頭を下げる二十歳過ぎの男がここに居た。
 むぅ、いきなり真面目に自己紹介されてしまった。
 見た目同様、礼儀正しく真面目な女の子なんだろう。
「あー……その、もう暗いし、こんなところに一人で居ると危ないよ? そろそろ家に帰った方がいいんじゃないかな?」
 現在の時刻は―――十九時半。
 昨今の小学生の門限など知る由もない俺だが、こんな人気の少ない場所に少女が一人で居るのはまずいことぐらい分かる。
 海鳴市の治安は決していいとは言えず、下手をすればそこらの大都市よりも厄介なものが徘徊していたりするのだ。
 グロ○ギとかア○ノウンとかア○デットとかがその代表格である。早く来てくれ仮面ライダー。
「……はい」
 えらく沈んだ表情で返されてしまったわけで。
 よく観察してみれば、ついさっきまで泣いていたのかその瞳は赤く充血している。
 なにか嫌なことがあったんだろうか?
 塾をサボったのがバレたとか、小遣いを多くしてほしいと頼んだら一蹴されたとか。
「あーっと……家まで送っていこうか?」
 会話が必要以上に続かない。
 仕方なく、最終手段を口にしたのだがすずかちゃんの反応は予想以上に悪かった。
 無言でふるふると首を横に振られてしまう。
「ま、まあ、長い人生色々あるからね。ただ、悪いことばっかり続くわけじゃないから……元気出してね」
 慰められることはあっても、慰める経験はあまりない俺。
 こういう時、動揺してしまう自分が非常に嫌になる。
 どうやら、すずかちゃんも同じことを思っているらしく、俯いたまま膝の上に置いた両手を握り締めている。
 やばい。これはどう見ても怒っている。
 俺は知らない間に地雷を踏んでしまったようだ。
「そ、そう言えば、俺もやることがあったんだっけ」
 わざとらしい嘘など口にしつつ、このまま公園を通り過ぎようとすずかちゃんに背を向ける。
 ―――居る筈のない“十三体目”と目が遭ったのは、その直後だった。


 ―――“夜の一族”。
 それは人の生血を啜り、人を遙かに凌駕する身体能力、回復力を持つ現代の“吸血鬼”。
 夜の一族の中でも名家と名高い月村家の長女・忍の妹であるすずかもまた、一族譲りの高い能力を受け継いでいた。
 しかし、人の血を啜るという行為はすずかにとってはなにより忌むべきものだ。
 それが例え自身の体調を崩す要因となろうとも、少女は頑なに吸血を拒んでいた。
 すずかが一人でこの公園で時間を潰しているのも、その件で忍と対立したからだ。
 姉が自分の体を案じてくれているのは痛いほど伝わっている。
 だが、どうしてもすずかは“血を飲む”という行為を受け入れることが出来なかった。
 それをしてしまえば、一度でも味わってしまえば、自分が本当の“化け物”になってしまうような気がしたから。
 すずかが自分に近付く人の気配に気付いたのは、彼女が公園を訪れて三時間程経った時だった。
 夜の一族と呼ばれるように、闇は彼女達にとってなんの障害にもならない。
 薄暗い公園も、すずかは昼と同じように見ることが出来る。
 その宵闇色の瞳が捉えたものは、一人の青年の姿だった。
 すずかはこの青年を知っている。
 直接の面識はないが、自分の親友の一人―――高町なのはの両親が経営する喫茶店で何度か目にしたことがあった。
 そして、あの青年のことを誇らしげに話す親友の姿も目にしている。
 すずかのもう一人の親友・アリサ・バニングスもあの青年のことを知っているらしい。
 真正面から彼のことを褒め称えるなのはに疑問を投げかけるような言葉を口にしてはいたものの、彼女と付き合いの長いすずかには分かっていた。
 態度では示さないものの、アリサもあの青年のことを評価していることに。
 思考の底に沈んでいる間に、青年はすずかの存在に気付いたようだ。
 目が遭ってしまい、咄嗟に挨拶の言葉を口にする。
 人気の乏しい公園に一人で居るすずかを不思議に思ったのか、青年は彼女に歩み寄ると声をかけてきた。
 直接顔を合わせるのはこれが初めてだ。
 案の定、青年はすずかの名を知らず、戸惑いを見せている。
「えーっと、君はたしか……」
「なのはちゃんの同級生の月村すずかです」
「ど、どうも。竹内大樹です」
 互いに自己紹介を済ませる。
 今は誰とも話したくないすずかとしては、自分のことは放って置いてほしかった。
 無言で俯いている少女を青年はどう思ったのか、家まで送っていこうと提案してくる。
 しかし、それにすずかは拒否の意を示した。
 家に戻ればまた姉と対立してしまうことになる。
 忍がすずかのことを大切に思っているのと同じように、すずかもまた忍のことが大好きだった。
 だからこそ、少女は家に帰りたくはなかったのだ。
 大好きな姉の怒りと悲しみが織り交ぜになった顔などもう見たくないから。
 青年は困ったように空を仰いだ。
 そして、苦笑しながら口を開いた。
 それがすずかにとっては、無慈悲な刃となることも知らずに。
「ま、まあ、長い人生色々あるからね。ただ、悪いことばっかり続くわけじゃないから……元気出してね」
「―――っ!」
 青年は慰めようと思ってこの言葉を口にしたのだろう。
 その言には悪意の欠片もなく……だからこそ、すずかの心を不安と焦燥で駆り立てる。
 ―――何も知らないくせに。
 ―――普通の“人”として生を受けたことがどれだけ幸せか、理解していないくせに!
 心の奥底から込み上げてくる黒い想いを、すずかは必死で抑え込む。
 掌に爪が喰い込むほど拳を握り締め、奥歯を噛み締める。
 このまま押し黙っていては、いくらなんでも怪しまれてしまう。
 あとで家の者が迎えに来るとでも行っておけば、この場をやり過ごすことが出来る筈だ。
 溢れ出そうになる気持ちを堪え、すずかは顔を上げる。
 開ける視界に映ったのは、青年の大きな背中だった。
 彼の手にはいつの間にか、名刺を収納するケースのようなものが握られている。
 なにかと対峙するようにその場から一歩も動かない青年を不思議に思ったすずかが、僅かに視界をずらす。
「―――ひっ!?」
 そして、彼女は広がる世界に佇む異形に息を呑んだ。
 鈍い金の光を放つ屈強な体を持った“バケモノ”が、その濁った白い瞳で青年を見据えている。
 頭の両側面から角を生やし、手にした大剣を引き摺りながらゆっくりと近付いて来る異形。
 腰のバックルに施された金の装飾が、公園の街灯を反射してギラリと輝いた。
 生まれて初めて遭遇する“夜の一族”以外のバケモノの姿に、すずかの体が凍り付く。
 頭では逃げようと思っているのに、エラーを起こしてしまったかのように体だけが動かない。
 ぶつかり合う視線。異形の口元が歪な形に歪んでいる。
 すずかにはそれが「お前も俺と同じ存在だ」と告げているように思えてならなかった。
(私もいつかアレと同じように……)
 ゆっくりと―――絶望の闇が少女の心を覆っていく。
 その時、すずかの耳に青年の力強い声が届いた。
「そうなるとは限らない」
「え……っ」
「俺の友が……信じているからな」
 大樹がバックルから一枚のカードを取り出し、バックルの表面に差し入れる。
 時間が止まった世界で、異形と―――大樹だけが動いていた。
「変身!」
 青年の掛け声と同時に、彼の眼前に光のゲートが出現する。
 それを駆け抜けた時、青年は紅の戦士へとその身を一変させていた。
 赤いスーツに銀の装甲をまとい、翠の複眼を備えた異形の戦士へと。
『Absorb Queen』
『Fusion Jack』
 D大樹がバックルから二枚のカードを引き抜き、左腕に装着した機械のスリットへ挿入する。
 青年の体を黄金の光が包み込み、その姿を更なる高みへ引き上げる。
 背に六枚の翼を生やし、胸部に孔雀の意匠の施された新たな装甲を配した―――Jフォームへと。
 大樹の右手に光が収束し、それが黄金の刃を備えた銃の形を成して顕現した。
 背の翼を展開した青年が、空中で銃を連射しながら異形を強襲する。
 しかし、彼の放った銃弾はその全てが異形の眼前に発生したバリアに阻まれてしまう。
 このままでは勝てない。
 そう判断したのか、青年はバックルから新たなカードを取り出し、銃の側面に取り付けられたスリットに読み込ませる。
『Bullet』
『Rapid』
『Fire』
 ―――バーニングショット。
 炎の力で強化された弾丸が連続してバケモノを襲う。
 だが、届かない。
 敵の展開する障壁は依然として健在だった。
 カードの力を借りて尚、大樹の攻撃が敵の体を傷付けることは出来なかったのだ。
「ァァァアアアアアっ!」
 バケモノのあげた咆哮に、大気がビリビリと鳴動する。
 その強靭な脚が大地を蹴り、空中に留まっていた大樹の脚を掴んで地面に引き摺り落とした。
 よろよろと立ち上がる青年に向かってバケモノが大剣を振るう。
 刃と装甲が接触し、無数の火花が散った。
 背の翼がバケモノの一撃によって砕かれ、大樹の姿が最初の形態―――ノーマルフォームへ戻る。
 彼の受けたダメージを物語るように、美しい銀の装甲は至るところがひしゃげ、切り裂かれ、陥没していた。
 それでも―――青年は銃を手放そうとはしなかった。
 バチバチと火花を上げる装甲。翠の複眼には亀裂が奔り、裂かれたスーツから赤い血が流れている。
「―――っ!」
 大剣に薙ぎ払われ、大樹の体が木の葉のように吹き飛ぶ。
 木の幹に叩き付けられた青年は、力なくその身を投げ出していた。
 息を呑むすずかをよそに、バケモノは悠々と大樹に近付いていく。
 その様はまるで、弱った獲物を前に舌なめずりをするハイエナのようだ。
 大樹の前に立ったバケモノが、低い唸り声をあげながらその首に手を伸ばす。
 その手が青年の首に届く直前、大樹がおもむろに顔を上げた。
 伸ばされた凶腕を自身の左手でしっかりと掴む。
「この距離なら、バリアは張れないな!」
 銃口をバケモノの腹に押し当て、大樹は引き金を引き続ける。
 至近距離で吐き出された銃弾が異形の体に傷を付けていく。
 だが、バケモノもただ黙って銃撃を受けていたわけではない。
 弾丸の雨を浴びせられながらも、手にした大剣を力任せに青年に叩き付けていた。
 仮面に刻まれた亀裂が広がっていく。
 無事な箇所を探す方が難しいほどに傷付いたその体で、大樹は孤独な戦いを続けていた。
 ついに限界を迎えた仮面が砕け、青年の顔が露出する。
 額と口から血を流しながらも、大樹の目には異形に対する恐怖など一切浮かんではいなかった。
 振り下ろされる凶刃を避けようともせずに、青年はひたすらトリガーを引く。
 それは美しさとは無縁の、泥臭い戦いだった。
 どちらかが倒れるまで、互いの全力をぶつけ合う原始的な戦闘方法。
 ―――だがしかし。
 何故か、この時のすずかは青年の戦いから目を背けることが出来なかった。
 彼が戦っているのは目の前のバケモノだ。それは間違いない。
 では、彼の目に映っているのもまたそうなのか―――?
「俺は全てを失った」
「―――っ」
 唐突に青年の発した呟きに、すずかの双眸が見開かれる。
 その言葉がいったい誰に向けて放たれたのか、考えるまでもなかった。
 火花が闇夜に幾つも咲き誇っては散っていく。
 その度に鎧の破片が地に落ち、スーツが裂けて鮮血が舞う。
 限界などとうの昔に超えている体で、青年は圧倒的強者と互角以上に渡り合っていた。
「信じるべき正義も、組織も、愛する者も。なにもかも―――」
「……愛する、者」
 それは恋人なのか、それとも家族なのか。
 すずかの脳裏に、大切な“家族”の笑顔が蘇る。
「だから最後に残ったものだけは失いたくない―――」
 振り下ろされた大剣を銃のグリップで受け止め、弾き返す。
 両者の距離が僅かに開いた。
 立ち上がった大樹が更にバケモノに銃撃を浴びせかける。
 その衝撃にたたらを踏み、後退する異形。
 大剣で銃弾を防ごうとするよりも早く、青年の放った弾丸がバケモノの手から得物を弾き飛ばした。
 三枚のカードを銃のスリットに通すと、大樹は血を吐きながら咆哮した。
「―――信じられる仲間だけは!」
 ―――BURNING DIVIDE。
 跳躍した大樹の体が分身し、炎をまとった両足がバケモノの体を同時に蹴り飛ばす。
 土煙を上げて大地を転がった異形はそのまましばらくもがいていたが、ベルトの意匠が縦に割れると同時にその動きを停止させた。
 大樹の手から一枚のカードが投げ放たれる。
 回転しながら飛んでいったそれは倒れ伏したバケモノの体に刺さり、その体を吸収―――封印したのだった。
「信じられる……仲間」
 思い浮かぶのは、二人の少女の顔。
 すずかの頬を涙の滴が伝って落ちていく。
 家族。そして仲間。
 自分は彼女達のことを、はたして信じていたのだろうか?
 正体がバレてしまえば嫌われると思った。だから言えなかったのだ、と。
 だが今なら分かる。それは……自分の勝手な思い込みなのだ。
 どうせ怖がられる、嫌われてしまうと心のどこかで決め付けていた自分が居た。
 家族のことだってそう。
 どうせ理解してもらえない。分かるわけがないと最初から決め付けていた。
 大樹は言った。
 最後に残ったものだけは失いたくはないと。
 彼は全てを失って尚、信じる者の為に戦う道を選択したのだ。
 自分のように端から結果を決め付けたりせず、前を向いて歩いていた。
「……そっか。分かってなかったのはあの人じゃない。わたしの方だったんだ」
 口元に笑みを浮かべてそう呟くすずか。
 そんな彼女の耳に、なにかが崩れ落ちるような音が届いたのはその直後だった。
 ハッとして視線を音の発生源に向ける。
 少女の視線の先で、鎧が消失し元の姿に戻った大樹が倒れ伏していた。
 その手には、あのバケモノが封印されているカードがしっかりと握られている。
「約束―――なの―――」
 ―――約束は守ったよ、なのはちゃん。
 青年の漏らした囁きが、冷たい夜風に流れて消えた。


「居る筈のない十三体目とかさ。いったいどこの劇場版だよ」
 なんだか意識が闇に落ちる前にも言ったような気がするけど、もはやお「約束」「なの」ね。この展開は。
「どうやら、大樹さんが封印した最後の一体は一番初めに製作された試作体だったようです。逃げ出したのも数年前らしいですし、まさかまだ実体化しているとは誰も思っていなかったんでしょうね」
 あのバケモノは膨大な魔力で実体化した―――人工幽霊みたいなものだったらしい。
 で、作った人達は魔力切れでカードに戻っているだろうと高を括っていたら実はピンピンしていましたと。……実に笑えない。
「……大樹さん、まだ痛みますか?」
「いんや。ユーノ君に魔法で治してもらったからもう大丈夫だよ。体の丈夫さに定評のある俺ですから」
 空元気でそう言ってみるも、なのはちゃん達の表情は複雑そうだった。
 まあ……そりゃそうか。
 全身に包帯を巻かれていれば、誰だって心配の一つや二つはするだろう。
 例のデバイスを手にした途端、意識がフェードアウトしたのしょうがない。
 ただ、意識を取り戻したのが病院のベッドの上とは俺にも想定外だった。
 目を開けたら涙目のなのはちゃんは居るわ、何故かすずかちゃんも涙目だわで大いに困惑したっけ。
 現場に居合わせたすずかちゃんに話を聞けば、俺は十三体目と戦って封印したあとにぶっ倒れたらしい。
 彼女が病院まで運んでくれなかったら、俺は死んでいたかもしれないな。
 今はもう帰ってしまって居ないけど、今度会った時はちゃんとお礼を言っておかないと。
 問題は……目が合った途端、病室を飛び出して行ってしまうほど嫌われているということか。
 それだけ嫌っていながら助けてくれたすずかちゃんは本当に優しい子だと思います。
「こいつも壊れちゃったし、いよいよ俺はお役御免かなぁ」
 思わず、口元がにやけてしまうのはご愛嬌。
 手にしたカードケースには無数の亀裂が奔っている。
 このまま力を入れれば、パキリと割れてしまいそうだ。
 デバイスというものは基本的に頑丈に出来ているらしいのだが……ユーノ君曰く、余程強い衝撃を受けないとこうはならないらしい。
 本当に……よく生きてたなぁ、俺。
 おぼろげな記憶を懸命に掘り起こせば、念願の銃を手に入れておきながら格闘戦に持ち込んだバカの影がちらつく。
「それでも、大樹さんは戦うのをやめないんですよね」
 にゃははと寂しそうになのはちゃんは笑う。
 戦う……か。いや違うな。正確には―――。
「抗うかな?」
「抗う?」
「抵抗するって意味だよ、なのは」
「むーっ! それぐらいわたしだって知ってるよぉ!」
 なのはちゃんが尋ね返したのを、ユーノ君は言葉の意味が分からなかったと解釈したらしい。
 助け舟を出したつもりが、実はそれが泥舟だったとかそんなオチである。
 頬を膨らませて怒るなのはちゃんに、ユーノ君はいたちモードのまま頭をへこへこ下げて謝っていた。
「……抗ってみせるさ、今度こそ」
 ガルウイングの強引な勧誘とか、ガルウイングの無理矢理な強化案やらを今度こそ跳ね除けてみせる。
 そう言えば、今頃になって思い出したわけだけど……デバイスをパワーアップするからってこの予備を渡されていたんだよなぁ。
 それって、もう抗える可能性残ってなくない?
 唯一の良心はあいつと一緒に居るだろう“彼女”の存在だが……。
 テレビを見始めた影響か、最近悪ノリすることが多くなったから心配だ。
 このデバイスのモデルが彼だったのも、あの子の影響だとしか思えないわけで。
「平穏はまだ遠い、か」
 とりあえず、無事に退院出来たら日課の筋トレを再開するとしよう。
 出来ることなら耐G訓練とかもやっておきたいけど、それほどの設備は我がボロアパートには備わっていない。
 ガルウイングに頼めばなんとかなるかもしれないが、それはそれで地獄である。
「まあ……やるだけやってみるさ。俺に出来ることなんてしょせん高が知れている」
 具体的には筋トレ。そのあとにストレッチを忘れてはいけない。地獄が待っているから。
「大樹さん、そんな悲しいこと言わないで」
「僕達も出来る限りお手伝いします。だから、一人で背負い込まないでください」
 ……え。なにこの雰囲気。
 この後、いつの間にか病室に満ちていた鉛色の空気を吹き飛ばすのに俺は多大な労力を使うわけだが、それはまた別の話。


 翌日。
「……わたしもいつか貴方のように強くなれますか?」
「い、いや。もう十分強いと思うよ? だって、君は(あのバケモノから)逃げなかったじゃないか」
「で、でも、わたしは(辛い現実から)逃げ出そうとしていました」
「本当に逃げちゃってたら、(気まずくて)ここには来れない。そうでしょ?」
「……わたしは」
「君は強いよ。俺なんかよりもずっと。そして、それ以上に優しい。だから、(俺を)嫌わないでやってほしい」
「(自分の血を)嫌わないで……ほしい?」
「うん。それが君の……(い、いかん。いい言葉が浮かばない。自分の語録の貧しさが憎い!)つ、強さだと思うから」
「―――っ。お返事は今すぐじゃなくても……いいですか? もう少し心に余裕が出来たら、必ずわたしの答えをお伝えしますから」
「う、うん。(そ、そんなに嫌われていたのか!?)気長に待ってるよ。普通の人以上に(フリーター的な意味で)時間だけはたっぷりあるから」
「(やっぱり、この人もわたしと同じ)……はい」
 とある病室でこんな会話があったとか。

別窓 | リリ勘 | コメント:7 | トラックバック:0
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この記事のコメント
No title
ひどすぎるな……。
仮面ライダーすぎるよな…どこまで行くんだろうか。
大樹は……。
2010-01-29 Fri 00:41 | URL | : #-[ 内容変更]
No title
相変わらず素晴らしい面白さですな。
ダンケとは違う魅力を感じます。

そして番外シリーズは大好きなブレイドネタ!
頭の中でカラミソシャウトがひびきますw

今後も楽しみにさせていただきます。
グッジョブでした。
2010-01-29 Fri 01:43 | URL | サンジュオウ #caNc8M12[ 内容変更]
No title
基本的に確変中なのが救いか
勘違い的な意味では致命傷でしょうが
2010-01-29 Fri 03:37 | URL | #JalddpaA[ 内容変更]
No title
意識のないときに自分の体が勝手に動くとか異常事態にも適応する大樹スゴイ

…慣れとは恐ろしい
2010-01-30 Sat 01:58 | URL | #-[ 内容変更]
No title
(本人の望む、望まないに関わらず)誰かを全力で守る。
(勘違いに勘違いを塗りたくった評価で)子供や女性に人気。
(子供から指揮官、淫獣からデバイスまで誤解している)人間としての強さ、持っている器用さ。
大樹が五代雄介に見えて仕方ないwww
2010-02-13 Sat 13:25 | URL | #-[ 内容変更]
読みました!

ダディの「この距離~」の場面はやっぱり格好良過ぎるのを再認識しましたww平成ライダーの中でも上位の名シーン!!

あとすずか……そういえばとらハ1のヒロインのさくら(夜の一族で忍の叔母、狼耳と尻尾の出し入れ可)も、主人公と会うまでは吸血行為をよく思ってなかったような気が……そう考えるとこの話のすずかの吸血行為の嫌悪感やらは納得ですね。

しかしスゲェ勘違いクオリティですねww本編も楽しみなんで頑張ってください。
2010-10-10 Sun 12:34 | URL | 三龍 #/.OuxNPQ[ 内容変更]
読みました!

ダディの「この距離~」の場面はやっぱり格好良過ぎるのを再認識しましたww平成ライダーの中でも上位の名シーン!!

あとすずか……そういえばとらハ1のヒロインのさくら(夜の一族で忍の叔母、狼耳と尻尾の出し入れ可)も、主人公と会うまでは吸血行為をよく思ってなかったような気が……そう考えるとこの話のすずかの吸血行為の嫌悪感やらは納得ですね。

しかしスゲェ勘違いクオリティですねww本編も楽しみなんで頑張ってください。
2010-10-10 Sun 13:00 | URL | 三龍 #/.OuxNPQ[ 内容変更]
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