ネクオロでした
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シグナム編。その二。
2010-02-28 Sun 12:15
シグナム編。その二です。

 近所のスーパーで豆腐を買った帰り、シグナムはつい最近知り合った一人の青年と出会った。
 青年の名は竹中大樹。
 時空管理局に属するフリーランスの魔導士にして、ロストロギア“ガルウイング”の適応者。
 しかしそれはあくまで表の姿であり、その正体は数千の時を生きる魔導生命体である。
 その身に不老不死の呪いを宿し、白銀の鎧を纏って戦場を駆ける永劫の騎士。
 シグナムが大樹と剣を交えたのは一度だけだったが、あの時の光景は平和を取り戻した今でも脳裏に焼き付いている。
「竹中大樹か。奇遇だな」
「あ、どうもです。シグナムさん」
 声をかけると、青年は足を止めて軽く頭を下げた。
 その体が僅かに強張っているのに気付き、シグナムは胸中で苦笑する。
「竹中大樹、どうかしたか?」
「い、いえ、何でもありません!」
 畏まる青年に、シグナムは苦笑をより一層深いものにした。
 無理もない。
 今でこそ世間話をする仲だが、つい一月程前まで自分達と彼等は敵対関係にあったのだから。
 むしろ、以前からの知り合いのように接してくる高町なのはやフェイト・テスタロッサの方がおかしいのではないだろうか。
 あの少女達の人となりは先の事件でよく知っている。
 二人共心の優しい―――主はやての友人に相応しい子供達だ。
 だからこそ、シグナムは密かに心配していた。
 いつの日か、その“優しさ”を心無い者に利用されるのではないか、と。
「……フッ、変な奴だな」
 彼が隠そうとしていることをわざわざ指摘してやる必要はない。
 口元に緩やかな弧を描き、烈火の剣士は微笑んでみせた。
「よく言われます。そんなことよりシグナムさん、前も言いましたけど、いちいちフルネームで呼ばなくてもいいですって。好きなように呼んでくれとは言いましたけど、それはちょっと面倒じゃないですか?」
「シャマルにも以前同じことを言われたが、これはもう癖のようなものだな。不快に思っていたのなら謝罪する」
 湖の騎士曰く、貴女はもう少し肩の力を抜いた方がいい……との事。
 主を守ることが自分達の目的には違いないが、此度の主―――八神はやては自分達を“護衛”としてではなく“家族”として見てくれている。
 ヴィータやシャマル、ザフィーラもそれに応え、出来うる限りはやてを主としてでなく、一人の家族として接しようと水面下で努力していたのだった。
 そんな中、ただ一人依然の癖が抜けないシグナムははやてから度々注意を受けることがあった。
(肩の力を抜けとは言っても、いったいどうしろと言うんだ? これでも私は“普通”にやっているつもりなのだが……)
 僅かに肩を落とし、シグナムは深い溜め息を吐いた。
 かつて、これ程まで“普通”という言葉に思い悩む事があっただろうか?
「別に迷惑だとはちっとも。ただ、疲れないかなぁとか思っただけですから」
「その言葉、そっくりそのままお前に返そう」
「……え? 俺っすか?」
 本人も自覚しているのか、その体が一瞬ビクついたのをシグナムは見逃さなかった。
 彼のこの反応を見るに、やはり自分の推測は正しかったのだろう。
 ヴィータはさも得意気に大樹の本来の性質は明朗活発なのだと語っていたが、それはあくまで表に見える部分に過ぎなかったのだ。
 まだまだ精進が足りないな、とシグナムはこの場に居ない少女に苦笑してみせる。
「お前は本来、口数の少ない寡黙な男なんだろう? 確かに、私は人と言葉を交わすことが得意ではないが、四方山話の一つや二つくらいは私にだって出来る。そこまで気を回してもらう必要はないぞ?」
 この男はいつも周囲の流れに合わせて自分の行動を決めている。
 相手がヴィータのような積極的に口を開くタイプならば聞き手に徹し、逆に自分のように寡黙なタイプと接する時は場を盛り上げようと適度に話題を振って来る。
 しかし、それは青年の本質ではない。
 人の本質が如実に反映されるのは、やはり命を懸けた戦闘の時であろう。
 白銀の鎧に身を包み、流れ出る血を彷彿とさせる紅眼でこちらを睥睨してきたあの日の青年の姿を思い浮かべる。
 色鮮やかに蘇る記憶の中で、青年は恐ろしい程に寡黙だった。
 言葉を交わすことすら億劫だと言わんばかりに、名乗りを上げた直後に仕掛けてきたのだから間違いない。
 彼が戦場で言葉を用いるのは、精々、敵対した者に降伏を促す時ぐらいではなかろうか。
 本来の青年は口数の少ない―――明るさとは無縁の寡言な人物なのだ。
 だが、決して冷血というわけではない。その内に熱く滾る情熱と、主やあの少女達と同じ優しい心を秘めていることをシグナムは知っている。
 そもそも、真の武人とは例外なく言葉数の少ないものだ。
 何故なら彼等は言葉でなく、己が得物でしか語る術を持ち合わせていない不器用な人種なのだから。
 ピタリと会話の川の流れが止まる。
 先程まで休むことなく口を開いていた青年は、目を細めて静かに空を見詰めていた。
 これが彼の本当の性質なのだろう。
 騒がしい雰囲気を苦手とし、ゆったりと流れる時を沈黙と共に楽しむ。
 なのはやヴィータが燦然と輝く太陽ならば、青年は星空の中で淡く輝く月と云ったところか。
(とは言え、このままでは流石に気まずいな。竹中大樹は恐らく私が口火を切るのを待っているのだろうが……むぅ。困った。何を話せばいいのか、皆目検討が付かん)
 いざ面と向かって話そうとすると、話題が一向に浮かんで来ない。
 豆腐の入った袋片手に眉を顰めるその様は、どこからどう見ても夕食のメニュー選びに苦戦する普通の女性だった。
「……すまん。私は己が思っていた以上に、“たわいの無い話”をするのが苦手だったようだ。やはりヴィータ達のようにはいかないか」
 大言を吐いておいてこの様とは情けないにも程がある。
 肩を落とし、肩身狭そうに道を往く。
 紅の少女であったならば、水を得た魚のように真価を発揮したに違いない。
 或いは湖の騎士ならば、会話が途切れぬよう配慮しつつ巧みに相手から言葉を引き出していただろう。
 武道や戦闘に関する話題でいいのなら幾つかストックはあるのだが、日が沈み掛けていると言ってもそれを往来で口に出すのは躊躇われた。
「い、いや、お気になさらず。そもそも、世間話なんてそんな神経使うもんじゃないですし」
「しかし、それでは……」
 ヴォルケンリッターの将として立つ瀬が無いと告げるシグナムに、青年は言葉の節々に苦笑の色を滲ませながら言った。
「だ、誰だって慣れるまでは時間かかるもんなんですって! これから少しずつ練習していけばいいじゃないっすか」
 大樹の言葉に、シグナムはハッとした。
 この青年の本質は自分とよく似ている。
 それ故に、彼が今までどれだけ苦労してきたかが痛い程に理解することが出来た。
 自身を偽ることの辛さは生半可なものではない。それが誇り高い騎士であるならば尚更だろう。
 主の命を救う為とは言え、その主を欺かなければいけなかった自分達と目の前の青年が何故か重なって見えた。
「……そうか。そうだな。何事も日頃の鍛錬が物を言う。それは戦闘だけでなく、日常生活にも適用される。竹中大樹、お前はそう言いたかったのだな」
 己が心に先の言葉を刻み込むように、シグナムは瞑目する。
 癖なのだから仕方ない等と発言した自分が、酷く滑稽に思えてならなかった。
 主の―――己が大切な者を守る為なら、自身を偽り、道化に堕ちることすら厭わない。
 この男はずっと独りでそれを演じ続けてきたというのだろうか。
「あー。そうです、そういう感じです。そ、それじゃあ俺はこれで! やらなきゃいけないことが出来たんで」
 手を挙げ、青年が唐突に別れの言葉を口にした。
 そのあまりに不自然な挙動に、シグナムの眉がピクリと吊り上がる。
 彼に気付かれぬよう探査の網を広げると、この道の先に微かな魔力反応があった。
 曖昧な記憶を探る。この先には確か廃れた公園があった筈だ。
(この感じは……生物なのか? シャマルが居ればもっと詳しく調べることが出来るのだが)
 だが一つだけ現時点で判っていることがある。
 この青年の事だ。また何か危ない事件に首を突っ込もうとしているに違いない。
 はやてからも命じられて―――いや、頼まれているのだ。
 何かと無茶しがちな彼のことを助けてやって欲しいと。
「待て」
「……はい」
 この場から足早に立ち去ろうとする青年に声を掛け、静止させる。
 見えない何かに怯えるように、彼の肩が僅かに震えた。
「お前はあの“公園”に行くのか?」
「ま、まあ、そうですけど」
 やはりか。
 はやての件がある。青年の歯切れが悪いのが気にはなるものの、このまま一人で行かせるわけにはいかない。
 彼の態度が妙におかしいのは生来の優しさから来るものだろうと推測し、釘を刺す意味も込め大仰に嘆息してみせる。
「……まったく、お前という男は相変わらずだな。勿論、私も同行させてもらうぞ?」
 あの魔力の反応が何なのかは知らないが、戦力は一人でも多いに越したことはない。
 それは戦闘慣れしている大樹もよく理解している筈だ。
 青年は逡巡するように暫し口を噤み、小さな声音で呟いた。
「……お願いします」
「…………」
 その顔に刻まれていた感情に気付き、シグナムは胸中で息を呑んだ。
 ―――“拒絶”。
 大樹は明らかにこちらの手助けを拒んでいたのだ。
 竹中大樹という男は相手を思いやることの出来る優しい青年だった。
 ああ見えて人見知りの激しいヴィータが懐いているのも、そんな彼の性質を好意的に捉えているからだ。
 だからこそ。それを知っているからこそ、シグナムは戸惑っていた。
 負の感情を抑え込む余裕が無いほど、青年は精神的に追い込まれているとでも云うのだろうか。
 ここで前言を撤回することは簡単だ。
 だが、シグナムは躊躇なくその選択肢を斬り捨てる。
 彼は断腸の思いで自分の同行を認めた。
 はっきりと断られればこちらが諦めるしかないことを知っていながら、敢えて青年は肯定したのだ。
 ならば―――自分にはその行く末を見届ける義務がある。
 何故だろうか?
 沈みつつある夕日が、シグナムには一粒の大きな涙に見えた。


別窓 | リリ勘 | コメント:3 | トラックバック:0
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この記事のコメント
シグナム編その1その2ありがとうございます!

シグナムさんの勘違いを、ニヤニヤしながら読ませていただきました。
ダンケの性格は可愛いけど、大樹の性格は地味にヒーローしてるんでやっぱカッコいいですね。
2010-03-01 Mon 06:51 | URL | ミッキー #OekWInOo[ 内容変更]
最近、勘違している方の人のを読むと口から血が出そうです。
人と人は分かり合えないのか……。
分かり合えなくても人は人を心から誰かを救うことができる。
大樹はそれを体言してくれているのです。
そんな、言葉が頭に浮かびました。
では、
2010-03-04 Thu 07:08 | URL | #-[ 内容変更]
No title
相変わらず、ネクオロさんの作品はおもしろいです。続きお待ちしております。
2010-03-23 Tue 00:13 | URL | 弐湖 #iy9F6/e6[ 内容変更]
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