ネクオロでした
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零の使い魔。 聖十字の騎士 第二十二話
2010-08-22 Sun 17:32

思えば、たくましくなったもんだ。自分の意思とは裏腹に。

                                             ダンケ

零の使い魔。第二十二話。

「皆さーん、お食事が出来ましたよー!」
 焚き火にくべた鍋からシエスタがシチューをよそってくれた。
 皿の中を覗けば、牛蒡っぽい木の根っ子やキノコが浮かんでいる。
 立ち昇る湯気が懐かしい匂いを運び、俺の胃袋を刺激する。
 なんというか、日本を思い出すシチューだ。
いや、シチューというより、味噌汁に近い。肝心の味噌は入っていないが。
「おいしい! シエスタ、これおいしいわよ!」
「ありがとうございます、ミス・ヴァリエール。これはわたしの村に伝わるシチューで、ヨシェナヴェっていうんですよ」
 ルイズの掛け値なしの褒め言葉に、シエスタははにかんでいる。
 他の面々も彼女の作った料理に夢中のようだ。
 確かに、この“ヨシェナヴェ”はおいしかった。
 味付けといい具といい、日本で親しまれている味噌汁にそっくりだし。但し、味噌は入っていないが。
 要の味噌が入っていないというのに、この味を出せることが俺には奇跡に思えた。
 なんだ、この言いようのない感動は。
「この肉がまたうまいじゃないか! いったい何の肉を使っているんだい?」
「オーク鬼の肉ですわ」
 ブーッ。
 そんな擬音を立てて、ギーシュがシチューを噴き出す。
 ルイズやキュルケ、タバサはそんな下品な反応こそしなかったが、目を丸くしてシエスタを見詰めていた。
 オーク鬼の肉かぁ。見た目は豚っぽいけど、味は全然豚っぽくないな。むしろ鳥に近い。
 気にせず口を動かしていると、いつの間にか隣に移動していたルイズが脇腹を肘で突いてきた。
「……どうした?」
「あ、アンタ平気なの!? このシチューに使われているのってオーク鬼の肉なのよ! あの野蛮で下劣で人食いの!」
「そうか……」
 人食いの部分は勘弁願いたいが、それ以外はどうでも良かった。
 実際にオーク鬼が人を食べるところを見たわけでじゃないし、豚顔だったので食べることにそこまで抵抗はない。
 こういう時、自分は肝が据わっているなぁと思う。只単に食い意地が張っているだけかもしれないけど。
「そ、そうかって……ダンケ、もしかして何とも思わないの?」
「食べられる時に……食べておく。でなければ……イザという時、守れない」
 ―――自分の命を。
 切実なのだ、こっちは。魔法とか使えないし、結局は己の肉体を頼りに戦わなくちゃいけないからな。
 貧弱だった俺がよくもまあここまで成長したものだ。
 これも一重に己が命を守りたいという自衛精神の賜物だろう。なんともまあ……情けない理由だ。
 食糧事情はルイズとシエスタの慈悲の心によって良好だが、ここは食事が約束されている学院とは違う。
 食べられる時に食べておかないと、チートの力だってうまく発動出来ないのだから。
 俺-チート=死亡、である。
「ま、まあ、そういうことなら仕方ないわね! でも……オーク鬼の肉ってばい菌とか居そうだし、あんまり食べない方がいいと思うわ。食事なら学院に戻ったらたくさん食べさせてあげるから、今は我慢しなさいね? ……心配だもん」
 最後の言葉だけぼそりと呟き、ルイズは頬を染めて俯いている。
 そうだよね。見た目からしてひ弱そうだもんね、俺。
 わざわざ恥ずかしい台詞を口にさせて本当にごめん。反省します。
「……分かった」
 それにしても、ばい菌が居るのか。
 確かにお世辞にも整った環境で養殖されていたとは思えない。天然物だと言えば聞こえはいいが、ぶっちゃけ放し飼いしすぎて野生化してしまっている。
 流石にそいつはちょいと厳しいかな、熱処理されているからある程度は大丈夫だと思うけど。
 シエスタは村育ちということもあって耐性あるだろうが、こちとら腐っても胃腸の弱さに定評のある日本人だ。
 食中毒は怖いので大人しく皿を置こうとすると、慌ててその手をシエスタが押さえた。
「じょ、冗談ですから! 本当は野兎の肉なんです! 皆さんがオーク鬼を退治してくださっている間に、罠を仕掛けて捕まえたんです!」
「そ、そういう性質の悪い冗談はやめてくれないかね? 心臓が止まるかと思ったよ」
「でも実際、田舎の人間って何でも食べていそうなイメージあるわよね。これだって木の根でしょ?」
「あるある」
 苦笑しつつスプーンに木の根っ子を乗せるキュルケと、口を動かしながら頷くタバサ。
 ギーシュはマジでびびっていたらしく、片手で左胸を押さえていた。
 産まれ付き心臓が弱い―――と見せ掛けて、実は毛が生えているタイプだよな、この男は。
 じゃなければ、ここまで露骨に俺を目の仇にしたり地味に嫌がらせをしてきたり出来まい。
 気を付けろよ、俺の画鋲はいつでもお前を狙っているぞ。
「そ、そんなことはない……と思います」
「アンタが自信ないんじゃどうしようもないわね」
 ルイズが溜め息を吐く傍らでは、シエスタが恥ずかしそうに俯いている。
 メイド少女が何か言おうと口を開きかけるが、結局は押し黙ってしまった。
 否定したいけど、彼女達の指摘も半分くらいは当たっているからだろう。
 学園の食堂に根っ子が出て来た機会はなかった。
この“ヨシェナヴェ”という料理はシエスタの村だけに伝わる郷土料理だ。それに貴族の彼女等の知らない材料が使われていたとしてもなんら驚くことではない。
 うーむ、この木の根っ子、味が牛蒡に似ていて俺は好きだけどなぁ。庶民的なところに好感が持てる。
「だ、ダンケさん、お味はどうですか? おいしいですか? それとも……お気に召しませんでしたか?」
 尋ねるシエスタの黒い瞳は不安そうに揺れていた。
 このまま放って置けば、高確率で泣いてしまうだろう。
 慌てて縦に首を振る。別に嘘を吐いているわけではないので、心が痛むこともない。
「……いや。それに……似ている。俺の故郷の……味に」
 ホームシックになるような歳でもないけれど、やはり和食は素晴らしい。
 しばらく食していなかっただけに、この感動は相当なものだ。
 肉入りの味噌汁というと真っ先に豚汁が挙がるわけだが、彼女の口にした“ヨシェナヴェ”という語感はむしろ―――あっ。
「“寄せ鍋”か……。なるほど……似ているわけだ」
 シエスタの顔形は日本人のそれと似ている。
 ドイツに日本人が居ちゃいけないという法律はないだろう。だいたいそんなものがあったら俺はとっくの昔に国外追放されている。
 恐らくは彼女の血筋の中に、日本人の血が混じっているのだ。
 だからこそ、彼女の髪と目の色は俺と同じ黒色であり、会う度にどこか懐かしい気持ちになったんだ。
 ……最初に気付けよ、俺。
「ヨセナベ……? それにダンケさんの故郷って……」
「……すまない。いずれ……話す」
 首を振り、ここでこの話を打ち切っておく。
 日本のことを話すとなると、必然的に口数が多くなる。
 あらかじめ準備をしておかなければ、またタバサの時と同じようにグダグダになってしまう。
 とりあえず納得したのか、シエスタは柔らかく微笑んでくれた。
 いつの間にか空になっていた皿を彼女に手渡し、おかわりをよそってもらう。
 お嫁さんにするならシエスタのようなタイプがいいな……なんて。
「はい、どうぞ。この料理、父から作り方を教わったんです。父はおじいちゃんから習ったそうです。今ではわたしの村の名物なんですよ」
「そうか」
 寄せ鍋が名物になっているドイツの村か。
 日本にも○○村とかあったからそんなノリかな、やっぱり名前は日本村なんだろうか?
「タルブ村って言うんですよ。ラ・ロシェールの向こうにあるんです。広い草原があって、一応“秘宝”もあるんですよ。ふふ、名ばかりですけどね」
 くすりと笑い、シエスタが懐かしそうに目を細める。
 彼女の脳裏には、故郷の風景が鮮明に映し出されているのだろう。
 試しに俺もやってみたけど、近所のラーメン屋が真っ先に浮かんでしまった。
 何だろう、この言いようのない敗北感は。
「ねぇ、その名ばかりの秘宝って、もしかして“竜の羽衣”って名前じゃない?」
 今まで黙ってシチューを口に運んでいたキュルケが、一枚の地図を取り出した。
 皿をどけ、地面にそれを広げる。
 俺には何て書いてあるのか分からないけど、話の流れから推測するにシエスタの村が載っているんだろう。
 それを証明するように、地図を目にしたシエスタは口元に手をあてて驚きを露にしていた。
「そ、そうです! 確かにわたしの故郷には“竜の羽衣”という名前の名物がありますわ! すごいです、本当に宝の地図に載っているなんて!」
「シエスタ、その“竜の羽衣”ってどんなアイテムなの?」
 宝の地図には半信半疑だったルイズも、物が実際にあると分かって興味を示し始めたようだ。
 さっきよりもその瞳が幾分か輝いて見える。
「は、はい。それをまとった者は、空を飛べるようになるそうです」
 ルイズの問いに答えたシエスタは苦笑しながら続ける。
「でも、インチキなんです。誰かが試しに飛んでみろって言ったそうなんですけど、ひいおじいちゃんは言い訳ばかりして結局飛ばなかったそうです。だけど、どれだけ否定されても、ひいおじいちゃんは“竜の羽衣”に乗って東の地から村にやって来たって言い張ったそうです。そのせいで、皆からは頭のおかしい人って思われていたみたいですけど」
「ひいおじいちゃんって、もしかして“竜の羽衣”は……」
「……ええ。“竜の羽衣”はわたしのひいおじいちゃんの持ち物なんです。一生懸命働いてお金を作って、貴族にお願いして“竜の羽衣”に“固定化”の呪文までかけてもらって大事に大事にしていたそうです。おかしいですよね、あんな金属の塊なんて絶対に飛ぶわけないのに」
 恥ずかしそうにそう言って、シエスタは誤魔化すように笑ってみせた。
 ―――“竜の羽衣”。
 RPGにありそうな名前ではある。炎の魔法を軽減するとかそんな効力付きで。
 只、実際は空を飛ぶ技術を搭載した代物なのだという。
 靴の裏に仕込む飛行装置があるぐらいだから、さぞや立派なものなんだろうとは思うが……シエスタの反応を見るに、あまり期待は出来ないみたいだ。
「はぁ……望みは薄そうね。まあ、折角ここまで来たんだし、見ておいて損はないかしら」
 詰まらなそうに溜め息を吐き、キュルケが地図を丸めて焚き火の中に放り投げる。
 場所がシエスタの故郷と分かった以上、もはやあの紙切れは必要ないということらしい。
 あの地図には大雑把な場所しか記されていなかった、ということか。
「えー、時間の無駄なんじゃないの?」
「無駄ではないかも。タルブ産のワインはそれなりに有名だから」
「そうなの?」
 ルイズが尋ねると、タバサがコクンと頷いた。
 次いで、その視線がシエスタに向けられる。
 彼女はその意図が分からず、首を傾げていた。
 あー、なるほど。そういうことね。
「シエスタ……そうなのか?」
 まさか、俺が助け舟を出す機会が回って来ようとは。
 ちょっとした感激を胸に、シエスタに説明してくれるよう遠回しにお願いする。
「え―――あ、は、はい! ミス・タバサの仰る通りですわ! タルブ村では良質の葡萄がたくさん取れるんです。その葡萄で作ったワインは貴族の方々にも好評で、魔法学院からも毎年たくさんの注文が入るんです!」
 そういや、マルトーの親父さんも似たようなことを言っていた気がする。
 下戸の俺には関係ないと思っていたけど、世の中は分からないものである。
「なら、決まりね。おいしいワインが飲めるのなら、“竜の羽衣”がハズレでも無駄足にはならないでしょうし。ルイズ、貴女もこれなら文句ないでしょ?」
「……分かったわよ」
 ワインに釣られたようで恥ずかしいのか、そっぽを向きながら応えるルイズ。
 兎に角、これで次の目的地はシエスタの故郷に決定したわけだな。
 出発は明日の朝らしい。
 食事も食べ終え、それじゃあ解散というところでシエスタに声をかけられた。
「あの……ダンケさん」
「……なんだ?」
 いつもながら、この無愛想っぷりはひどい。よくもまあ、シエスタはこんな俺に笑顔で声をかけてくれるもんだ。
 せめて態度で伝えようと、背筋を正す。
「村に着いたら、どうしても見せたい場所があるんです。もしご迷惑でなかったら……一緒に行ってもらえますか?」
 柔らかく微笑み、シエスタは俺の目をまっすぐ見詰めてそう言った。
 まさかこの俺が人と―――ましてや女の子と視線のやり取りをする日が来ようとは……。
「……当然だ」
 密かな感動を抱きつつ、しっかりと縦に頷いておく。
 満面の笑顔で頭を下げ、自分用のテントに小走りで帰って行く彼女の背を見送る。
 流石に彼女の村にオーク鬼は居ないだろうし、久しぶりにのんびり出来そうだ。
 それはそうと、この空鍋の片付けはいったい誰が……いや、無駄な問答はよそう。
 気付いた者が率先して行動する。これが修学旅行の常識だ。
 ブスブスと音を立てる焚き火に砂を被せ、鍋を手に側の小川へと向かう。
 まさかシエスタの村にアレが在ろうとは、この時の俺には予想すら出来なかった。


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この記事のコメント
お待ちしてました!
お待ちしてました、ネクオロさん!

久しぶりに読めた事に感無量です。

相変わらずのダンケ、そこが良い。

2010-08-22 Sun 19:24 | URL | 通りす蟹の人 #-[ 内容変更]
No title
うおお!アンテナチェックしてよかった。2get!
ずっと待っていたっていう!
2010-08-23 Mon 06:47 | URL | #vuwfd9TI[ 内容変更]
No title
更新お疲れ様です。
久々なんでイロイロ読み返させていただきました。やはりいい物ですね、ここのSSは。

お嫁さんにするならシエスタのようなタイプがいいな……なんて。
なぜそこを口に出さない…! まだあわてるような時間じゃない。というコトか……。
あと、キュルケが好きなので出番が有るのは嬉しい。あまり出番が無いほうがオイシイとは思う。
ぶっちゃけ、ヒロインポジじゃない方が生きるキャラであるし。でもコルベールうらやましす。

ゼロ魔はボチボチ原作が呼んだこと無い領域に差し掛かってきてます。
ので、気の利いた感想も残せそうも無い。いつもどうりですね。

お忙しいようですが、のんびりやってってください。
リアルが充実する事で、ネクオロ氏はSSの価値を高める。そう思います。
再度になりますが、更新お疲れ様でした。。
2010-08-23 Mon 08:05 | URL | kt #-[ 内容変更]
No title
待ってました!
こいつはうれしいぜ!!
2010-08-24 Tue 10:04 | URL | たたかつ #o2tQtWMo[ 内容変更]
No title
約七ヶ月ぶり、待ってたかいがあった
2010-08-24 Tue 18:18 | URL | #-[ 内容変更]
お久しぶりです!

相変わらずのダンケの無愛想っぷりと内面に吹きながら読ませていただきました!
しかし、故郷の思い出がラーメン屋とかどんだけ活動範囲狭いんだwww
2010-08-24 Tue 20:02 | URL | ミッキー #OekWInOo[ 内容変更]
遂に更新キター
2010-08-25 Wed 16:43 | URL | #-[ 内容変更]
No title
はやく続きが見たいです。
2010-08-26 Thu 21:49 | URL | #-[ 内容変更]
待ってました!!!
いつの間にか更新されていた…クッ…出遅れたorz

2010-08-31 Tue 12:59 | URL | asakura #-[ 内容変更]
No title
おお!更新されてる!待ってましたー!!
2010-08-31 Tue 15:02 | URL | ror #-[ 内容変更]
Danke
待ってましたよ、ネクオロさん。

久しぶりダンケに感無量。

更新Danke。
2010-08-31 Tue 21:34 | URL | 骨竜 #-[ 内容変更]
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