ネクオロでした
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明日勘。~第五話~
2010-10-02 Sat 21:02
スイッチ・オーン!
「私がやらなきゃ……!」
 霞む意識に鞭を打ち、なのはは立ち上がる。
 未知のデバイスを扱う魔導師に翻弄され、フェイト達は劣勢に立たされていた。
 頼みの綱の青年も先の一撃で気絶してしまったのか、空に上がって来る気配はない。
 なのはの見ている前で、フェイトが女剣士の斬撃を受け止めきれずにビル内へと落下していく。
 アルフもユーノも青い使い魔と赤服の少女の相手をするので手一杯のようだ。
 自分が何とかしないといけない。今自由に動ける人間は自分一人しか居ないのだ。
『Let's shoot it, Starlight Breaker. (撃ってください スターライトブレイカーを)』
「だ、ダメだよ!? そんな無理したらレイジングハートが壊れちゃう!」
『I can be shot. (撃てます)』
「で、でも……」
『I believe master. (私はあなたを信じています)』
 RHの力強い言葉になのはは黙り込む。
 結界を破壊する方法はいくつかあるが、今この場でなのはが出来る方法は一つだけだ。
『Trust me, my master. (だから、私を信じてください)』
「……判ったよ。レイジングハートが私を信じてくれるなら、私も信じるよ」
 上空で戦闘を行っているフェイト達に砲撃で結界を強引に破壊すると告げ、なのはがRHを構える。
 少女の魔力光であるピンクの光が周囲を照らし、シューティングモードに変形したRHから光の翼が発生した。
 音叉にも似たRHのヘッドを中心に幾何学上の魔法陣が展開、RHがカウントを開始する。
 それが3まで進んだ時、少女の体に異変が起こった。
「あ……あぁ……」
 ―――胸から生える一本の腕。
 後ろに誰も居ないというのに、なのはの胸を穿つように人の腕が生えていた。
 その華奢な掌の上には、桃色の光を纏ったビー玉のようなものが浮いている。
 それが自分のリンカーコアだと気付くよりも早く、少女の体を強烈な疲労感が包み込む。
 自分の胸から人の腕が生えているというこの状況が、なのはから冷静さを完全に奪っていた。
 目を見開き、恐怖の表情を浮かべたまま凍り付くなのは。
 彼女の異変に気付いた仲間達が助けに行こうとするも、それぞれの相手に邪魔されて動く事が出来ないでいた。
「や……やだ……。誰か、助けて―――助けて、大樹さん!」
 口から飛び出した名前は、一人の青年のものだった。
 それは―――不死という呪いを課せられ、それでも尚、誰かの為に戦う道を選んだ男の名。
 ジュエルシード事件の際、幾度となく少女を危機から救ってくれた男の名。
 この状況下で、咄嗟に彼の名が出て来た事は仕方が無いのかもしれない。
 だが、この時のなのはは知る由もなかった。
 それが青年の呪われた因子を呼び起こすきっかけとなってしまう事に。
 何の前触れもなく、ビルの一角が崩壊する。
 脳を揺さ振る轟音が、僅かにだが少女に冷静さを取り戻させた。
 そして、少女は“一匹の悪魔”と遭遇する。
「大樹……さん……?」
 見間違う筈がない。
 BJとしては異質の全身鎧。紅く発光する双眸。
 それは紛れもなく、彼女の仲間である竹中大樹―――の筈なのに。
 恐らくはブーストを使用したのだろう青年は、青い使い魔諸共ビルに激突したようだ。
 ブースト魔法による体当たりは彼がもっとも多用している戦法だ。今更驚くような事はない。
 ―――だけど。
 なのはの視界の先で、ガルウイングが変形を始めていた。
 双胴型の筒が更に二つに割れ、計四つの砲門が青年の両肩に装着される。
 その先に居るのは、激突のショックで意識をなくしているだろう青の使い魔。
 一切の躊躇いもなく、ガルウイングの先端に灰色の光が収束していく。
 相手が戦闘不能になっているのは相対している彼が一番よく判っている筈だ。
 当時、敵として対峙していたフェイトを率先して救おうした青年が、動けぬ相手にトドメを刺そうとしている。
 それはなのはにとって、悪夢と云っても過言ではない光景だった。
「ダメ……。ダメだよ、大樹さん!?」
 少女の悲痛な叫びは彼には届かない。
 程なくして、収束した魔力が四つの砲門から一気に解き放たれ、青の使い魔ごとビルのフロアーを崩壊させた。
 呆然としたまま、なのはは噴煙の立ちこめるビルを見詰める。
 刹那、煙が弾け飛び、少女の居るビルを地震が襲った。
 いや、それは地震などではない。
 再度ブーストを使用した大樹が、なのはの居るビルに強引に着陸したのだ。
 着地の衝撃で削れた床の上に立つ青年。
 体の至るところから火花を散らし、ガルウイングから黒煙を立ち昇らせながら、大樹は半壊した頭部―――その奥で不気味に明滅する双眸を少女に向ける。
「判っているとは思うけど、動かないでくれ」
「……大樹、さん……?」
 聞こえてきた声音には、人としての感情がまるでこめられていなかった。
 そして、少女は目にしてしまう。
 ガルウイングから伸びた一本の灰色の鎖。それに胸を射抜かれ、倒れ伏している赤服の少女の姿を。
 流血こそしていないものの、頭でも打ったのか少女はぴくりとも動かない。
 その体を億劫そうにしながら引き摺り、青年は淡々と告げた。
「動くなって言ってるんだ。今の俺は色々と限界なんだ。自分でもどうなるか判らない」
 腕の持ち主を脅迫するように、赤服の少女を捕らえた鎖をジャラリと鳴らしてみせる。
 抵抗すれば、彼女の命を奪うと―――殺すと云っているのだろうか? あの心優しい青年が?
 暗い感情がじわじわとなのはの心を侵食していく。
 目の前に居るのは彼女のよく知る大樹とは違う、全く別の生物のように少女の目には映っていた。
 だからだろうか―――?
 助けに来てくれた筈の青年に、安堵ではなく恐怖を感じてしまったのは。
 唐突に―――予備動作もなく、大樹の体が沈み込む。
 直後、後方から飛び出して来た一つの人影があった。
 髪と同色のBJを纏い、手に片刃の長剣を握った女剣士が強襲を仕掛けてきたのだ。
 振るわれた刃が青年の頭部―――兜に備え付けられたブレードアンテナを斬り飛ばす。
 完全に決まると思っていたのか、女性が目を丸くして大樹の頭上を通過していく。
 それに対し、青年の対処は冷酷そのものだった。
 不意打ちを仕掛けてきた女性を攻撃するわけでもなく、おもむろに鎖を掴むとそれを引き寄せたのだ。
 その先には動けない少女が捕らわれている。
 彼は女性の行為を抵抗と見なし、宣告通り少女の命を―――。
「大樹さん、ダメ―――っ!」
 自分でも驚く程の声量がなのはの口から飛び出した。
 嫌だった。怖かった。
 こうしないと、自分の知っている優しい青年が二度と手の届かないところに行ってしまうような気がして。
 大樹は我に返るようにビクリと身を震わせ、頭を抱えるようにして動きを止める。
「―――っ!? な、なのはちゃん―――おあ―――っ!?」
 その隙を突くように女性が大樹の体を蹴り飛ばし、赤服の少女を抱えて飛び去った。
 魔力で強化された一撃だったのだろう。
 青年の体は屋上の床を削りながらバウンドし、隣のビルの壁面に減り込んだまま動かなくなった。
『―――Count zero.』
「―――っ!? う、うん」
 RHに促され、なのはは再び杖を天に向かって構える。
 いつの間にか、胸から生えていた腕は消えていた。
 だからと云って、失った魔力まで回復しているわけじゃない。
 まともに魔法を放つ事が出来るのはこれが最後になるだろう。
 嵐の海のように荒れ狂った心を懸命に繋ぎ止め、なのはは不可視の結界目掛けて必殺の一撃を放った。
 夜を切り裂く一条の光が世界を隔離する壁を砕き、天へと昇っていく。
 少女の手から役目を終えたRHが滑り落ちた。
 全ての力を使い果たしたなのははその場で両膝をつき―――
「大樹さん……どうして……?」
青年が埋まっているだろうビルを虚ろな瞳で見詰めたまま意識を失うのだった。


「あの……大樹、体は大丈夫?」
「あー、なんとか。フェイトちゃんは大丈夫? け、怪我とかしてない?」
 ユーノ君の回復結界の中で後悔の念に苛まれていると、恐る恐ると云った様子でフェイトちゃんが話しかけてきた。
 ……うわぁ。あからさまに警戒されている。
 やっぱり、俺の体当たりが味方の誰かに当たってしまったとか、俺が撃墜されたせいであの人達に逃げられたとか、何かとてつもない迷惑をかけてしまったんじゃなかろうか。
「う、うん。私は大丈夫だよ」
「ほ、本当に!? 俺、何か変な事とかしてなかった?」
「……う、うん」
「…………」
 目を逸らされて云われても説得力がまるでない。
 俺はいったい何をしてしまったんだろう?
 不幸中の幸いなのか、味方に誤射―――ならぬ誤体当たりをしたわけではないようだ。
 だとしたら、俺が場を荒らしたせいであの謎の魔法使いの人達に逃げられてしまったという線が濃厚だろうか。
「……大樹も怒る時があるんだね」
「怒る、俺が? ―――ああ、あの時の事か」
 ポツリと零されたフェイトちゃんの呟きが耳に入り、俺は自然と眉を顰めていた。
 あの時の事。
 それは、あの女剣士の人と無謀にも鍔迫り合いを演じてしまった時の事を云っているんだろう。
 あの時は頭に血が上っていたというかやけくそになったというか、俺らしくない言動を取ってしまった。
 いや、実際のところ、不平不満を一方的に愚痴っていただけだからある意味いつも通りなのかもしれないが。
 ただ、普段は心の中で叫んでいるので、フェイトちゃんにとっては珍しい光景だったのかもしれない。
「い、いやあ、何だか変なスイッチが入っちゃったみたいでね。俺もどうにかしたいとは思っているんだけど、自制がきかなくてさァ……自分が嫌になる」
 重苦しい溜め息を吐く。
 よくよく考えれば、突撃しか出来ない俺が最前線に留まっている意味なんてないんだよな。
 多少のダメージは覚悟してブーストで逃げ切るべきだった。
 この決断力の甘さが俺のヘタレっぷりを如実に表していると云えよう。
「スイッチ……?」
「うん。暴走スイッチ」
 我ながら情けないネーミングセンスである。
 ヘタレスイッチの方が聞こえは良かったか?
 この時の会話がまさかあのような事態に発展するなんて、今の俺には想像も出来なかった。
「そ、そのスイッチが入ったから、大樹はあんな風になっちゃったの……?」
「ま、まあ、そういう事になるかな。フェイトちゃん、本当に大丈夫? なんか顔色が悪いように見えるんだけど」
 そうこう言っている間にも、フェイトちゃんの顔が見る見る青ざめていく。
 俺の顔を見詰め、一歩二歩と後ずさるようにしながら距離を開くその姿は、どう見ても変質者と出くわした小学生の反応だった。
 また気付かぬ間に地雷を踏んでしまったようだ。
 やはり、二十歳過ぎの大人が暴走スイッチとか訳の判らない事を云ったのが原因だろうか。
「ま、待って!? 暴走スイッチってのは言い間違いで、本当はただのやけくそ状態―――って、もう聞こえてないわな」
 慌てて訂正しようと口を開くものの、既に背を向けて走り去っていたフェイトちゃんにその声が届く事はなかったとさ。
 あとでアルフに頼んで誤解を解いてもらわなければ―――そう心に決めたあとで、不貞寝を決め込む。
 まだ体のあちこちが痛いし、今だけはここで休んでいても誰も文句は言うまい。
 結局、その日アルフを見付ける事は出来なかった。というか、俺が寝て起きた時点で色々と手遅れになっていた。



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この記事のコメント
No title
自らですら勘違いを KA☆SO☆KU させて止まない大樹!

そこにシビレる! あこがれないけどwwwww

うん、やはりなのはサイドの大樹の「カッコヨサ」は異常wwwww
2010-10-02 Sat 21:15 | URL | omoro #-[ 内容変更]
No title
未来の魔王さまでさえ悪魔と恐れる大樹さん
素晴らしくカッコイイですね
2010-10-02 Sat 22:01 | URL | 眼寝 #Cu4OU15A[ 内容変更]
No title
すごいですね
2010-10-02 Sat 22:09 | URL | buyme #RaJW5m0Q[ 内容変更]
もうここまで来た勘違いをどうやったら覆せるのか解らないwww
仮に大樹が本当にヘタレた行動を見せても、ただ戦いに疲れた彼が戦線から退こうとしてるだけに思えてきたwww

とりあえず、相変わらず他人視点からだと底知れ無さすぎるwww
2010-10-02 Sat 22:49 | URL | ミッキー #OekWInOo[ 内容変更]
No title
ピンチの少女の前に現れたのは鋼鉄の魔道師。
その力は圧倒的で、冷酷で、悪魔のようだった。

勘違いにさらに自らの発言で勘違いを上乗せしまくる男、大樹

「不死という呪いを課せられ、それでも尚、誰かの為に戦う道を選んだ男の名。」

という文を見て、素で「え?誰??」って呟いてしまったwww
2010-10-03 Sun 03:14 | URL | カケル #PTRa1D3I[ 内容変更]
感想~。
「暴走スイッチ」……。 この一言でどれだけの勘違いが広がっていくのか、今から楽しみで仕方ない。 拍手のアクセル話の続きも実に楽しみだ。
2010-10-03 Sun 12:55 | URL | ベリウス #VSnRaRv6[ 内容変更]
No title
なのはサイドでは不死にして歴戦の戦士・・・

でも実際は勘違い(ヒーロー補正)と勘違い(相棒と周囲)と某幻想殺しと同レベルなフラグ体質の芸術的なコラボレーション!
そこに痺れて憧れない!!
2010-10-03 Sun 21:59 | URL | 七誌 #C9/gA75Q[ 内容変更]
ヴォルケンサイドもきっと酷い勘違い
暴走スイッチに吹いたw
プッツンならまだ挽回できたろうに
本当にどうしてこうなった…
2010-10-04 Mon 08:13 | URL | MIst #/9hBKkrU[ 内容変更]
No title
さぁ次は主人公が寝てる間に、大樹さん会議だw
更新ありがとーござーまーす!そして相変わらずの引き。
週刊漫画並みの。いや週刊なら一週間我慢すればいいが……。むはぁ。

またしばらくリリ勘で頭が埋められる日々が始まります。
作者氏の「大丈夫じゃない、問題だ」、が「大丈夫じゃない、時間の問題だ」、に
ならぬようお祈りしております。急かしてるとかじゃ全然無いです。
時期的に寒くもなってきますし、体も財布も。どうぞご自愛ください。
更新お疲れ様でした。

珍しく修正点?
俺が寝て起きたら時点で色々と手遅れになっていた。
↑「ら」

2010-10-04 Mon 20:51 | URL | kt #-[ 内容変更]
No title
のwろwわwれwたwいwんwしw
何かザフィーラとヴィータが死に掛けてるけど
実際はカウンターブーストの噴射にもアンカーバインドぶっ刺しにも
ロクにダメージ無いんだよね
暴走しても実は無力化するための最低限のダメージしか与えない大樹さんはやっぱり凄いぜ!
2010-10-04 Mon 22:39 | URL | #-[ 内容変更]
思わず――

 ニヤニヤしてしまった。

 このギャップさが堪らない。


 “暴走スイッチ”に加え、寝るなんて……。

 それが大樹クオリティー?

 いやはや、どんな勘違いが待っているのやら、実に楽しみだ。

2010-10-09 Sat 21:48 | URL | 通りす蟹の人 #-[ 内容変更]
No title
なぜか『ピ●ゴラスイッチ』が思い浮かんだ…
2010-10-12 Tue 04:51 | URL | #-[ 内容変更]
No title
 この暴走スイッチ発言で、不死の歴戦の戦士がビミョウな行動をしても、体の調子が悪いんだという想像に突き進むんですね……。情報の小出しがうまいなあ。

 誤解のとける余地がないなあ。
2010-10-12 Tue 23:12 | URL | 凡士 #-[ 内容変更]
やっぱり
勘違い系はいいですね!

ギャップが凄まじくたまりません。
今後の期待がどんどん高まる自分がいます。

最近夜は急に寒くなってきたので、お体に気を付けてお書きください。

更新楽しみにしています。
2010-10-16 Sat 04:13 | URL | 蒼海 #-[ 内容変更]
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